北京、ハワイへの強襲作戦は成功に終わった。
だが同時に連邦のモビルスーツ開発が想像以上に進んでいる事も分かった。
ザクの技術が流れているというのは、ガルマがドズル中将と連絡した結果明らかになったことだが、これが想像以上に厄介な事になっている。
北京にて確認されたモビルスーツの機数は1個連隊規模ともされており、それだけの数を量産し、こんな極東に配置できるだけの余裕があることを意味していた。
今のところ性能面でヅダは優位を維持しているが、その優位を数で覆される時期が近い事を俺はよく分かっていた。
マ・クベ大佐は東南アジアに撤退した敵モビルスーツ部隊の追撃戦を行う事を決定した。
連隊規模であったモビルスーツ部隊は、先の北京戦で相当数を削っている。フレズベルグ隊だけでも28機──つまり1個大隊以上に相当する量を撃破できているため、戦線を押し上げるなら今だと思ったのだ。
マ・クベ大佐にはこの追撃戦後、戦線が安定次第北京攻略に用いた潜水艦隊と東南アジアで合流、そしてキリマンジャロの部隊と共にマドラスを攻略するルートを提案。これは東南アジア戦線の状況次第ではあるとされたものの、想像以上に好意的な評価を貰えた。
そしてこの追撃戦において、我がフレズベルグ隊は独立行動を許された。
というのも、実はこの重力戦線における俺以下3名の上司はガルマ・ザビ大佐となっており、マ・クベ大佐の指揮下への編入届けがされていなかったのがある。
ついでにガルマからも遅れて連絡がされたらしく、俺達が出発した2時間後には正式な辞令として『フレズベルグ隊は独自の行動を以て連邦軍モビルスーツ部隊の追撃を行われたし』というものが下った。
「独立行動と言えば聞こえはいいが……」
『囮にされている気がする、ですか?』
「分かるか?」
『言わんとしている事は』
俺達が運用している陸戦型ヅダは、北京攻略戦での戦果とデータによって量産が決定し、ヅダF型からの改修パッケージも生産が開始されたと聞くが、まあ数日でどうこうできるものでもなく、よって追撃戦に参加したモビルスーツではフレズベルグ隊の3機のみであった。
これがどういう意味をもたらすかと言うと、普通のヅダの2倍近い速度で進軍ができる陸戦型ヅダは必然的に突出してしまうという事になる。
『でも隊長がいればなんとかなるんじゃないですか?』
「おだてても、こんな戦場じゃ何もやれないぞシュッツ」
『やれやれ……北京で20機以上撃破したのにこの調子だからな』
シュッツはそう言うが、俺はこの追撃戦に嫌な気配も感じ取っていた。
東南アジアの密林と言えばあの地域である。
史実においてもコジマ大隊とジオン軍が衝突した地域であり、そして相手のモビルスーツ部隊で唯一俺達にかち合わず、戦線を突破して脱出したのがコジマ大隊という噂を捕虜の連邦兵から耳にしている。
おそらくだが殿も彼らが務めているはず。
「もう30分経つな……少し休もう。今後のルートを選定するぞ」
陸戦型ヅダは機動力こそ高いが、増加した脚部スラスターの連続運用にはまだ欠点を抱えた機体だ。
木星エンジンを改良した土星エンジンを流用したものを使っていて、暴走からの爆発はしないという話だが、冷却装置がまだ未完成のため、ホバーモードは30分動かしたら同じ分だけ休ませる必要があった。
密林の湿気と気温にやられないといいが、なんて思いつつ、連邦兵から入手した地図を開く。
まだ出会っていないが、ここいら一帯には民間人がゲリラ化した村落が多く存在しているはずだ。
ゲリラは連邦にもジオンにも属していないとはいえ、ここ東南アジアはコロニー落としによる2次災害を受けた場所でもある。あまり刺激はしたくはない。
「したくはない……が場所が分からなきゃなあ」
『どうしました?』
「ここらにはゲリラがいるらしいんだ」
『反ジオンのですか』
「いや……見境はないらしい。いいか、手を出すなよ」
『分かってます。ゲリラの厄介さは心得ているつもりです』
結局のところ、ゲリラのいる村落の位置なんて地図に書いているはずもなく、ルートが決まりきらないうちに冷却時間が経ってしまった。
悩んでも仕方がないと思い、再び進み始めてから数分後に事は動く。
ホバーしていた俺のヅダの足に何かが引っかかったのだ。
「なんだ!?」
驚くのも束の間、俺の機体の周辺が爆発し始めた。
『隊長!付近に歩兵複数確認!』
「トラップか!民間人か連邦兵か確認するまで撃つな!」
『こっちは攻撃されてるんですよ!?』
「いいから確認しろ!」
アイゼンとシュッツに周辺の状況を確認させている間に、俺は急いでモビルスーツの被害状況を確認する。
幸いにも爆発の大部分は装甲の分厚い箇所で防げたようで、移動能力自体には大きな影響はない。
まだ未完成のホバー装置に直撃しなかったのが奇跡だ。
体勢を立て直し、周囲に散らばる人間を見やる。とはいえ、俺はある程度の見当はついていた。
『軍服を着ていない?……隊長、こいつら軍人じゃなさそうだ』
「だろうな。連邦が仕掛けたブービートラップだったらこうも無事じゃ済まないだろう」
アイゼンの言う通りだ。こいつらは武装しているが、軍人じゃあない。
ここいらのゲリラは連邦にも属していないことを考えれば、取引次第ではなんとかなるかもしれないと考えた俺は、外部スピーカーを起動して話しかける。
「こちらはジオン軍のフレズベルグ隊だ。民間人に危害を加えるつもりはない!武器を下ろしてくれ」
「なんだぁ!?連邦の奴らじゃないのかよ!」
「ほら、こっちも攻撃の意思はない」
俺はヅダ・マシンガンを腰のマウントに仕舞い、アイゼンとシュッツの二人にも同様にするように伝える。
『隊長、正気ですか?ゲリラと交渉だなんて!』
「『連邦の奴ら』なんて言うからには、何か知ってるはずだ」
この密林の状況がよく分からない以上、俺達に必要なのは現地民から得られる地理情報だ。
つまり、ガルマの真似事をしてみようってわけだ。
「現地民の君達に協力を仰ぎたい。もちろん謝礼もする。どうだ?」
≪≫
肩や手の平にゲリラを乗せたヅダ3機が密林の中を進む。
完全に道なき道ではあるが、解放したコックピットで進むべき方向を教えてくれている少女の案内もあり、迷うことなく進軍ができている。
「あんたら、よく武器を降ろす気になったね」
「こっちが降ろさなきゃ話す気にもなれないだろ?」
この少女の顔と名前を俺は一方的に知っていた。
オレンジ色の髪に緑のバンダナ。この少女は間違いない、キキだ。
08小隊のシロー・アマダが接触した現地ゲリラの一人である彼女は、東南アジアにいるのは知っていたが、そういう意味では
もちろんそれが良い意味か悪い意味か、それはまだ分からない。
「ほら、あそこが村だ」
見えてきたのはアニメで見たのと同じ、貧しそうな山中の農村。いや、少しばかり賑やかに見えるし、住んでいる人も瘦せぎってないようにも思える。もしやと思い、コックピットから乗り出して肩に乗ったゲリラの男を見るが、やはり知っている顔だったが頬が細くないように見えた。
ここいらがまだ戦場じゃないから、そこまで困窮していないということだろう。
「なんだってあんなとこに罠を?」
「数日前に連邦の奴らが、ひとつ目のでっかいのに乗ってやってきたのさ」
見れば村の畑や道のところどころにモビルスーツの足跡らしきものが見える。
状況から察するに、撤退中に本隊から逸れて飢えたヤツがモビルスーツを使って恐喝でもしたと見るのが正しいだろうか。
「なるほどな……アイゼンとシュッツはここに残れ。村に入って荒らすのも良くない」
『しかし、護衛も無しでは』
「ミノフスキー粒子もほぼないここなら無線でも通じるさ」
交戦の意思も敵対する意思もない事を示すため、モビルスーツを村の手前で止め、コックピットから降りて1人で向かう事にした。
ここまで下手にでる必要があるのかと言われそうだが、これは単に俺達が通れればいいだけの話ではない。
もし原作でシローがやったように協力を取り付けられれば、そしてそれをジオン軍単位で通行を認めてもらえれば、それはここら一帯の村に繋がり、連邦に通ることができない抜け道を作る事ができる。
「さ、入りな」
「ああ……お邪魔します……でいい、のか?」
藁葺き屋根が多い中、一際立派な作りの家に入る。まあこの見た目も知っているわけだが、ここはキキ・ロジータの父バレストの家だ。
つまり、ここら一帯の現地民ゲリラ達の重鎮と言える人物の家というわけだ。
「君が噂の『灰の凶星』か」
「!……驚きました。まさかご存知だとは」
「君の話は連邦兵共の無線から嫌というほど聞いてるさ。それに、あの灰色のモビルスーツを見れば一目瞭然だ」
確か、バレストは元軍属だったが脚の負傷がきっかけで村に戻り、現地民の教導をしたという設定があったはずだ。
まあ地球に住む人間の軍属なんて、どう考えても連邦関連でしかないのだから、連邦の無線を聞くなんて簡単といったところだろうか。
「そちらの領域に踏み入ってしまったことはお詫びします。ですが、我々はあなたがた現地民と事を構えるつもりは毛頭ありません」
「そうだと嬉しいがね。だが我々としてはここらで戦争をおっぱじめられるだけでも迷惑なのだよ」
「それですが交渉したい部分があります」
俺は連邦兵から入手した地図を広げると、その地図上にない村落の位置を教えてもらうように願い出た。
それが分かれば、後方の味方部隊にゲリラ村の位置を教える事ができるので、その領域に最低限ジオンは踏み入る事がなくなる。
そして更に後方のマ・クベ大佐などにもこの情報を伝えることで、前線の位置を村落の位置よりも前にし、それによって戦場にはしないようにできる。というわけだ。
「もちろん、前線基地を作る上で村落の位置から少し前の方は騒がしくなってしまうかもしれませんが、少なくともここらが戦場になる事は防げます」
「戦場にならないのは
「ええ。ここらの村への物資援助と復興支援を行います」
「お前みたいな一軍人ができることか?俺も元は軍人だ。できる事はたかが知れてるのは分かるぞ」
「普通なら、ですね。知っての通り、ある程度私は名が通る。それに私のバックにはガルマ・ザビがいるのでね」
「なに?」
北米じゃない以上確実とは言えないが、それでもガルマの力は大きい。本人はザビ家の立場を使いまくることに抵抗があるようだが、それでも御曹司なのは間違いない。
同期ということもあるし、手を借りられるうちには幾らでも借りてしまおうと思う。
「実は北米から出向でね。直属の上司はガルマ・ザビだ。北米では融和政策も行っているし、現地民との協力の話を持ち掛ければ……まあ間違いなく許可は出るだろうな」
俺がガルマの名を出した事もあって、バレストは唸るようにして悩んだ後に、横にいた髭面の大男にハンドサインを出す。
その意味を知らない俺は身構えてしまうも、その必要はなかった。
大男はペンを片手に地図の前に出ると、バツ印と線で村落の位置とそれぞれの村が担当している警戒域を示した。
「……2週間だ。2週間後までに各地の村に一度でもいいから物資の援助を送れ。それができなければこの話は白紙にする」
それは事実上の合意であった。
2週間もあれば、一度本隊の位置まで戻って事情を伝え、マ・クベ大佐とガルマに話を付けた上で十分な物資を持っていけるだろう。
「ありがとうございます」
「もちろん、白紙になればまた見境なく襲うだろうよ」
「約束は守りますとも」
地図を纏めた俺は、再びキキと共にヅダへと戻っていく。
アイゼンとシュッツは指示通りにおとなしくしていたようで、なんなら村の子供にヅダのコックピットを見学させていた。
「アイゼン!シュッツ!本隊へ戻るぞ!」
『ご破算ですかい?』
「逆だ!さっさと戻って、ガルマ大佐に話をつけるぞ!」
≪≫
村から去っていくヅダをバレストら村人は家の窓から、村のどこかから、そして森のどこかから全員が見つめていた。
「良かったのですか?」
髭の大男はバレストに聞く。
そもそもこのゲリラ運動はジオンが来たから始めたものではない。
慎ましく、自由に大自然の下で暮らしていたこの地に、連邦が拠点を作るという話が上がった時に地域ぐるみで興した反対運動が大元にある。
既に十数年は前の事である。バレストが軍属を離れ、この村に来たのはその反対運動が起こっている最中であった。
連邦にいた過去から初めは村八分のような状態だったが、軍属であったことを活かして村人達を教導すること数年。気づけば反対運動の指導者の一人になり、連邦とジオンの戦争によって起こされたコロニー落としの余波が来た時も、その復興を指導してきた。
連邦に対してここらの村人は懐疑的で、しかもこの前の敗残兵の一部が村の食料を調達しに来たのも相まって一気に排斥ムードになってしまった。
バレストとて今じゃ連邦は好きになれないし、ジオンも気に入らない。
だが軍属だったからこそ、あの男はどこか面白いと思っていた。
「あれは連邦だのジオンだので収まる器じゃあないさ」
「え?」
「年を取ると面白い若者を応援したくなるって話だよ」
数日後、村には大きなジオン国旗を掲げたモビルスーツが再び現れる。
そのモビルスーツは灰色ではなかったが、しかし『灰の凶星』が約束した沢山の物資と、そして村の復興を助ける工兵部隊を連れていた。
その日から、東南アジアにおける最前線は一気に押し上げられる事となる。
史実とここが違うポイント
・ティアンム死亡
一個前の話でサラッと出てますがブリティッシュ作戦にて戦死してます
2話でグランが墜としていたマゼラン級のどれかです
・エリオット・レムの亡命
ザク開発に大きく関わるこの人も亡命しました
ちなみにですが、連邦に渡ったザクは全てこの人とジオニック内のシンパ経由です
あの怪しい人はほぼノータッチです
高機動型ザクが全部潰れましたが……ジオニックの明日はどうなる?
・サイクロプス隊について
史実より早めに結成されてサイド6に直接送られました
当たり前ですがアンディは生きてるしバーニィはいません