ヅダですが?   作:のり

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海路ですが?

 ゲリラ村での交渉から早2週間。つまりはバレストとの約束の時期な訳だが、その長期間を待たずして約束は果たされていた。

 あの後本隊へと戻った俺達はそこの現場指揮官に一度部隊の進軍を止めるよう進言し、通信設備を借りる事でガルマへ報告することができたのだが、報告を聞いたガルマはハワイと北京経由で陸海両面から物資の配達を約束し、早いものだと数日で届く事になった。

 そういう訳でジオンは現地民との一定の信頼を築くことができ、連邦の知らないルートを通る事で一気に戦線を押し上げた。

 

「それで戦線が安定したと見るやマドラス攻略か」

 

「でも隊長が進言したんでしょ?」

 

「もっと時間がかかると思ってたんだよ」

 

 俺達は北京攻略時の功績と今回の件を併せ、ガルマから昇進を受けていた。

 とうとう俺は佐官入りを果たし、アイゼンも少尉になった。シュッツが若輩ながら曹長になったのも、俺の前世の世界では中々珍しい事ではあったが、尉官入りしたアイゼンの幹部教育が「戦時中かつ最前線のため時間の余裕なし」とされすっ飛ばされたのは、中々に衝撃的だった。

 正直、だったら一度後方に下げて教育すべきではないかとも思ったが、それでもアイゼンは自分がこの階級になれるとは夢にも思わなかったと泣いて喜んでいた。

 

「全くもって、ジオンに兵なしっていうのもあながち間違いじゃないかもな」

 

「隊長よくないですよ」

 

「俺はアイゼンを一度後方に下げてやりたかったんだ。あいつ、嫁さんだっているんだぞ」

 

 戦線が安定しているうちに一度サイド3に下げてあげたかったが、どうも宇宙の上層部がそれを許さないらしく、ガルマにも謝らせてしまった。

 どうも政治的情勢が良くないらしい。

 

「それにしても、陸戦型ヅダ増えましたね」

 

 シュッツの言葉に周りを見れば、なるほど確かにヅダF型の大半が陸戦型ヅダのパッケージに換装されている。

 脚部スラスターの増設パーツなどは順次生産されているという話ではあったが、たった2週間でこれだけ作業が進むとは。パイロットと上の者はメカニックに頭が上がらないなこりゃ。

 

「これだけ揃ったからマドラスへ進軍しようって訳なのかもな」

 

「電撃戦ってことですか」

 

「既に降下作戦の時点でそうだがな。なんにしても、機体は揃ってもパイロットの疲労をどうするつもりなんだか」

 

 そんな俺の不安を知ってか知らずか、北米のガルマからの物資の中には新兵装も入っていた。

 モビルスーツ戦が主流になると踏んだドズル中将は、従来の対艦用に開発されたものから兵装の一新を決意していたらしい。

 決して少なくはない戦力だ。だが、マドラスは連邦の対オデッサ戦略に重要な拠点なのも確かだ。

 オデッサ、北京、キリマンジャロの3地点から来るジオン軍相手に、少ない戦力しか持っていないなんてことはない筈である。

 6月も下旬に差し掛かろうという頃、俺は表現のしにくい不安感をこのマドラス攻略戦に抱いていた。

 

 

 

≪≫

 

 

 

「まさか、こんなところでお会いするとは」

 

「海岸線まで護衛する部隊ってのはあんたらだったのか。驚いたな」

 

 俺達をハワイ基地から東南アジアまで遠路はるばる迎えにきた輸送艦に乗っていたのは、なんとあのソンネン少佐だった。

 どういうわけだか、タンカーを改造されたこの輸送艦の甲板には、合計4機のヒルドルブが載っていたのでまさかとは思っていたのだが、本当にこんなところで出会うとは思っていなかった。

 いや、まて。ヒルドルブが量産化されているのもそうだし、なんでそれが輸送艦の甲板に載っているんだ?

 そんなことを考えていると、ソンネン少佐は自慢げに甲板上のヒルドルブを指さした。

 

「見てくれ、このヒルドルブ隊を」

 

「ヒルドルブ量産されたんですか」

 

「まだ少数だがな。ハワイ攻略戦にあたって、30サンチ砲を持ったこいつらが艦載砲の代わりをしてたってわけだ」

 

「元々宇宙戦艦の主砲を流用してるからこそ、ですか」

 

「そうだ。今回もお前らを沿岸部まで護衛するまでは同様だ。で、陸地まできたら俺達も降りて戦うんだとさ」

 

 あのアリゾナ砂漠での戦闘後、更にヒルドルブは北米戦線にて追加試験を行い、その上で中南米における戦闘で一定の戦果を挙げたとして正式採用が決まったようだ。

 ソンネン少佐が乗るヒルドルブはオリジナルのものだが、残り3機は量産タイプのものでだいぶ仕様が変わったらしい。

 

「お前らこっちに来い!『灰の凶星』に会うチャンスだぞ!」

 

 そう言ってソンネン少佐が呼び出したのは、量産型ヒルドルブの整備を行っていた9人の軍人。シュッツのような若い伍長もいれば、アイゼンのような叩き上げの曹長、少尉など様々だ。

 彼らは規則正しく整列して俺に敬礼をして、それから握手を求めてきた。

 

「こいつらがヒルドルブの搭乗員達だ」

 

「ヒルドルブの乗員にしちゃ多くないですか?」

 

「ヒルドルブは3人乗りに変更になった。ま、先祖返りってやつだな」

 

 そう言われると納得がいく気がしてきた。

 呼び出された彼らは3人1組でこちらにやってきていたし、それぞれの階級や立場も3組分ある気がした。

 なんというか、由緒正しき戦車兵って感じだ。

 

「これからニューヤークを中心に少しずつ配備が進んでいくらしい。これは先行量産型ってやつさ」

 

「少佐が鍛えた戦車兵なんでしょう?」

 

 慣れない握手とサインに応じながら俺がそう聞けば、ソンネン少佐は誇らしげに、しかし照れた表情で答えた。

 

「こいつらはサイド3にいた頃、俺が教官をしてやった奴らさ。皆、俺と同じようにモビルスーツの適性に落ちて、北米じゃマゼラアタックに乗ってたやつだ」

 

「なら安心しました。少佐の射撃と指導者としての腕は信用してますから」

 

「……へっ、おだてても何も出ねぇぞ!」

 

 少佐は背中を向けると、自分のヒルドルブの方へと歩いていく。

 一通り彼の部下への対応を終えた俺は、彼の去っていく姿と乗機を見やる。

 暫くして、足を止めたソンネン少佐。彼は中身が精神安定剤ではなく本物の飴になったドロップケースを片手で上に挙げると、背を向けたまま告げた。

 

「あんたらの部隊は俺が、俺達が沿岸部まで届けてやるさ」

 

 再び歩き出した少佐の足取りは、俺が映像で知っているそれよりもしっかりとしていた。

 甲板上に4機並べられた陸の王者。フレズベルグ隊がマドラスに到着する為の要であるそれらは、そのどれもがどことなくソンネン少佐と同様に誇らしげな、頼もしい表情をしているように見えた。

 

 

 

≪≫

 

 

 

 東南アジアとインドの丁度中間に位置するベンガル湾。

 ヒルドルブとフレズベルグ隊を乗せた輸送艦は、そこを突っ切るようにして今まさに戦闘が行われている連邦マドラス基地へ向かって進軍をしていた。

 しかし、既に先の北京とハワイでの戦闘で洋上からの侵入による挟撃を喰らっていた連邦は、その目を海上にも向けていた。

 ベンガル湾では巨大な砲声が響き渡っていた。

 

「HE装填、次弾も同じ!目標1時、敵駆逐艦!HE、撃てぇ!」

 

 ソンネンの怒鳴り声と共に、甲板上のヒルドルブ4機が一斉に30サンチ砲を放つ。

 戦艦の主砲に匹敵する火力のそれから放たれた榴弾は、見事に駆逐艦を直撃して撃沈にまで追い込むが、しかし連邦艦も最後の意地とばかりに魚雷を放つ。

 

「魚雷対処!サブアーム起動、マシンガン、放て!」

 

 海中を進むそれをサブアームで保持したヅダ・マシンガンで迎撃しつつ、超信地旋回でヒルドルブを回頭させたソンネンは次なる目標を各車に指示する。

 

「次、10時方向沿岸部要塞砲!撃て!」

 

 号令と共に再び砲撃が始まり、今度は陸上から輸送艦を轟沈せしめようとする砲台の破壊が始まった。

 輸送艦の艦長からの連絡によれば、モビルスーツが安全に陸へと到着できる地点まで後15分といったところらしい。

 洋上の敵艦も大多数を撃破した。要塞砲さえこのまま潰していければ、水陸両用モビルスーツが参加していない分ハワイ戦と比べればハードだがなんとかなる。ソンネンがそう思った直後だった。

 

「っ!なんだ!」

 

『少佐!今の揺れは水中からの攻撃によるものです!』

 

「なんだと!?」

 

 輸送艦が激しく揺れ、それの正体が輸送艦に装備されたソナーによって明かされるのにそう長い時間は必要なかった。

 フィッシュアイ。大西洋方面で最近確認された連邦の水中用モビルポッド。オデッサ、ニューヤーク間の輸送路において、キャリフォルニアベース付近を通る際に見かけることが増えたと聞くが、その行動範囲から航続距離は短いと言われていたはず。

 

「撃破した艦のどれかから出てきたか?クソッ……」

 

『隊長、ヒルドルブとこの艦に対水中用の兵装は装備されていません』

 

 次第に激しくなる揺れに、このままモビルポッドの群れを放置したまま沿岸まで辿り着くことはできないと考えたソンネンは、輸送艦に配置された大型クレーンを見ると驚きの行動に出た。

 

「あのクレーン、ヒルドルブを甲板に載せるのに使ったよな?」

 

『な……隊長無茶です!ヒルドルブで水中戦をやる気ですか!?』

 

『自殺行為です!』

 

「うるせぇ!どのみちこのままじゃお陀仏だ!俺は、俺はアイツに無事に届けてやるって言ったんだ」

 

 ソンネンの覚悟を決めた発言に、輸送艦のクルー達は急いで2台のクレーンとヒルドルブを繋ぐ。

 その作業を見た量産型ヒルドルブの乗員達は、要塞砲への砲撃を続けながらもその機体を少しずつソンネンのヒルドルブへ寄せていく。

 

『隊長、俺達も命綱に使ってください』

 

「お前ら……」

 

 積載していた中で最も頑丈なワイヤーを即席でいくつも束ねた簡易的な命綱を、クレーンと3機のヒルドルブに繋げたソンネンの機体は、モビルポッドからの砲撃で揺れる艦上から、少しずつ海へと降りていく。

 

「ヒルドルブ……恩を返す時だ」




量産型ヒルドルブについて

ガンタンクがガンタンクⅡになる際に戦闘車両へと先祖返りしたのと同様に、その趣旨を弩級戦車へと戻した機体。
見た目は通常形態のヒルドルブそのもの。
操縦を担当する操縦手。攻撃全般を担う砲手。索敵と車両指揮、攻撃補助を行う車長の3人乗り。
変形機構は廃止され、主砲部分を限定的に旋回させる方式になり、ショベルアームは近接防御用の射撃兵装(ヅダマシンガンなど)を運用するサブアームへと変更された。

変形機構の廃止などで整備性とコスト周りは多少改善されたが、それでも1機作るのにかなりのコストがかかる上、乗員も3人必要とまだまだ改善の余地はある。
操作感なども戦車に近くなったことで、MS転科適性試験に落ちた戦車兵などを中心に北米では乗員志願者が殺到した。ソンネン少佐は滅茶苦茶喜んだ。
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