ソンネン少佐のヒルドルブ隊によって切り開かれた血路を3機のヅダが駆ける。
灰色のヅダを先頭にした3機は、邪魔をするように点在するトーチカや戦車部隊を蹴散らしながら主力部隊がいる戦場に向かうべく、陸戦型ヅダの長所でもあるホバーを惜しげもなく使って移動を行う。
『やっぱ隊長にはそのライフルが似合いますね』
「そうか?」
俺達のヅダは、ドズル中将直々に監修したという対モビルスーツ戦用の新兵装を装備していた。
まず俺が持っている95mm狙撃ライフルは、宇宙で運用されていた135mm対艦ライフルを小口径高弾速化したもので、小口径化の恩恵で装弾数などの増加も嬉しい代物だ。
アイゼンの機体が持っているのはMMP-80マシンガン。史実では統合整備計画で開発されたはずのものが、この世界では対モビルスーツ戦を見越して早めに生産されたようだ。
こちらも小口径化が為されており、高弾速・高貫通・高発射レートへの改善が施されている。まあヅダマシンガンは対艦用のものでモビルスーツには効果が微妙だったから妥当な采配だろう。
最後にシュッツの機体には360mmジャイアント・バズが装備された。まあご存知の通り、現在研究がされているだろうドム用の武装だが、運用的には陸戦型ヅダも装甲以外に大差がないものになったので問題はないだろう。
ジャイアント・バズを除けば、全体的にモビルスーツ戦を見越して高弾速化が為されているのが大きな特徴だろう。
特にマシンガンは力不足を感じて来ていたのでかなりありがたかった。
『隊長!モビルスーツが見えました!』
「よし、主力に近づいてきたな……食い荒らすぞ!」
『へへ……待ってました!』
ライフルを構えて連邦の量産型モビルスーツ、ザニーを照準に捉える。
宇宙空間と比べ、陸上は起伏などが照準のブレに繋がりやすいがホバーはそれすらも軽減してくれる。
あとはタイミングよく引き金を引くだけだ。
「今!」
95mm徹甲弾がヅダの身の丈程もあるライフルから射出され、正面にいたザニーのコックピットを貫く。
完全に射程外から撃たれた事に動揺したのか、それとも今のが指揮官機で統率を失ったのか、周囲のザニー達は防御掩体から離れる者、そのまま残る者など様々な反応だ。
『なんだ?連邦のやつらどうしたんだ』
「遠慮してやる必要はない。潰すぞ」
『了解』
逃げていくモビルスーツをライフルで撃ち、防御掩体に残ったままのものはその地形ごとシュッツがジャイアント・バズで粉砕する。
アイゼンはマシンガンを車両群に撃って蹴散らしつつ、シュッツだけでは撃破できない分の掩体に接近戦で乗り込んでザニーを撃破していく。
どういう訳だか知らんが、マドラスの防衛線にしてはどうも脆すぎる。
『妙ですな』
「やはりそう思うか」
『主力部隊の方に戦力を割いてるんでしょうか』
「どうだろうな」
ホバースラスターの冷却を待ちつつ戦況の確認をしていた俺達の下へ、主力部隊の一つから通信が入る。高出力の無差別広域通信。敵にも丸聞こえな為、相当切羽詰まっていなければ使わない事が軍規で決まっている通信方法だ。
『こちらMS特務遊撃隊!連邦の新型モビルスーツと交戦中!至急救援を願う!』
「シュッツ、今の通信はどこからだ!」
『本隊から少し外れた位置……ここから高速移動モードなら15分圏内!』
「それぐらいならいけるか。よし、全機脚部スラスターを入れろ!」
MS特務遊撃隊。この名称だとパッとしないかもしれないが、通称を聞けば「ああ、あれか」と分かる者も多いだろう。外人部隊。そう、あのケン・ビーダーシュタットのいる部隊だ。
国がないスペースノイドで外人部隊ってなんだよって思われるかもしれないが、実際のところ国家というものが形骸化しているだけで、サイドというのはそれぞれがある種の国のようなものになっている。
特にサイド3はギレン・ザビの選民思想の影響もあって「他のサイドはサイド3とは別の存在である」という意識が強く、別のサイド出身の人間が巻き込まれる形でジオン軍に入った場合、外人部隊に入れられる事も多いと聞く。
シュッツのように別のサイドに住んでいたが、戦争前にサイド3に引っ越して市民権を得ていたり、シャアのように職業軍人になるために別のサイドから来た者は別だったりと何とも言えない線引きではあるが、とにかく外人部隊はそんな背景から扱いが悪い。
『見えてきた!』
『初期型のヅダか』
「あれは……」
外人部隊の初期型のヅダ3機が相対していたのは、この世界では見た事のない機体。だが、俺はその外見的特徴に見覚えがあった。
この世界でのザクを連邦仕様に改修したザニーではなく、史実で登場した本来のザニー。それに近いナニカが6機もそこにはいた。
バイザー型のカメラアイ。胴体部は北京で遭遇した新型同様に陸戦型ガンダムに近いものになっており、肩部や脚部もかなり連邦製モビルスーツのそれに近くなっている。唯一ザクの面影が残っているのは、未だ脚部や胴体部、首元で露出している動力パイプぐらいだ。
『あれが新型……』
「各機、あの新型を撃破するぞ。呼称は……ザニーⅡでいいだろ」
『隊長のネーミングセンスはほんと安直だよなぁ』
外人部隊とて、たった3機でマドラス攻略戦にきた訳ではないはずだ。事実、奴らの横には初期型ヅダの骸が複数機分既に転がっている。
今生き残っているのは、ケン・ビーダーシュタットの采配が良かっただけだろう。
見た目はアレだが、この時期に初期型とはいえヅダが相手にならないとなれば、それなり以上の性能に上がってきたということだろう。気は抜けない相手なのは確かだ。
「この距離で気づかれた!?」
6機いるうちの1機がこちらを視界に捉えたのか、ザニーⅡは3機ずつ散開し、二手に分かれた。
マズい。こちらが3機を相手している間にも、向こうが性能差で押し切られれば今度は数で押し切られてしまう。
先手を打たなければ。少しばかり焦った俺はライフルでの射撃を行うが、中央にいた機体に軽々と避けられてしまった。
「反応が早い!」
『シュッツ!俺達も1機ずつ相手取るぞ!』
『分かってます。コイツら慣れてやがる』
シュッツの言葉通りだ。こいつらは今まで戦ってきた連邦のモビルスーツ乗りとは違い、対モビルスーツ戦の場数を相当量積んでいる。下手をすればそこらのジオン兵よりも。
該当しそうな連邦のパイロット……
こういう相手にはライフルは無意味だ。得物としては大きすぎてデッドウェイトになってしまう。
「マシンガンだって持っている!」
ライフルを捨てた俺は腰部マウントからMMP-80マシンガンを取り出し、牽制射を行う。それと同時に相手機も100mmマシンガンを連射し、双方の小口径弾が飛び交う。
俺は屈み、相手はシールドでそれぞれクリーンヒットを避け、そして惹かれあうようにして機体間の距離がみるみるうちに小さくなっていく。
お互い理解しているのだ。射撃戦でこいつを仕留めることはできないと。
「ここだ!」
わざと戦闘に入った時に切っていたホバー移動の機能を急に入れた俺のヅダは急加速し、マシンガンで再度の牽制射を行おうとしていた敵の意表を突く。更に、ここまでシールドを使わずに機体制御で避けていたのを強引に盾で突破する。
相手も場数が多いとはいえ、俺達フレズベルグ隊ほどモビルスーツに慣れた人間だってそうはいない。
「シールドはこう使う!」
シールドピックを展開した状態で突撃した俺を敵はシールドで待ち構えた。だがドムと同じホバーの瞬間加速を舐めてもらっては困る。
モビルスーツそのものが質量弾のようになってぶつかった結果、ピックによる格闘攻撃は成功した。と思っていたのだが。
「止められた!?どんなショックアブソーバーを積んでやがる!」
敵機は耐え抜いた。足を地面にめり込ませながら耐え抜いた結果、俺のヅダのシールドピックは相手のショートシールドを突き刺した状態で、コックピットにあと数十センチといったところで食い止められた。
「マズい!」
相手がマシンガンを落として腰へと右手を動かしたのを感知した俺は、シールドを肩からパージ。ショートシールドをぶん投げつつ、その勢いで右手を思いきり振った敵機からすぐさま離れる。
そしてその選択は正解だった。
あの機体が手に持ったのはそれだけのものだったのだ。
「ビーム、サーベル」
連邦軍モビルスーツの代表的な格闘装備であるそれは、この時点では間違いなく最強格の近接兵装だ。いくら分厚い装甲でも容易に両断し、下手をすればガウやダブデすらバターのように斬りかねないそれは、命中イコール死を意味していた。
まだ6月下旬だぞ、と思ったが、史実でもガンダムのロールアウトは7月のどこかだ。ザクの流出があったにしてはまあ誤差程度のものかと思い直す。
「しかし、こうなると接近戦か……厄介だな」
自信があった接近戦がこうも思いっきり不安要素でしかなくなるのは、ある意味作品を知っていて、ビームサーベルの威力がどれだけのものか知っているからだ。
知っているという事はこれまで有利に働くものだと思っていたが、思わぬところで落とし穴があるものだ。
俺はマシンガンを再度腰部マウントにしまい、腰のヒートソードを取り出す。
どういう原理かは知らないが、ヒートホークやヒートソードでもビームサーベルと鍔迫り合いをして防ぐ事ができるのは原作が証明しているんだ。
落とし穴があろうがなかろうが、今生き残る為にはやれることをやるしかない。
「来いよ……モビルスーツ戦を教えてやる」
ザニーⅡは胴体が陸ガンのに変わった史実ザニーって感じの見た目です
ただし性能は完全に別モノです