ヅダですが?   作:のり

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モルモット隊ですが?

 ビームサーベルを抜いたザニーと、ヒートソードを抜いたヅダが見つめ合う。

 張り詰めた空気が互いの間に漂う中、先に動いたのは俺の方だった。

 歩行モードに切り替えたヅダを走らせて、両手で持ったヒートソードを下段で構えながら敵機へと向かう。

 迎え撃つが如くビームサーベルを敵は構え、そして俺は下段から更に勢いをつけるために腕を引き、そしてそのヒートソードを振る事はしなかった。

 

「反応が良いのは分かった!」

 

 ヅダのオートバランサーを手動で一瞬だけオフにし、わざと体勢を崩した俺は背面スラスターと脚部ホバーを入れて疑似的なスライディングをしてみせる。

 トリッキーな動きなら対応できまいと思っての事だったが、意外にも反応した敵機は小ジャンプを行う事で俺の狙っていた右手首をヒートソードから遠ざけた。

 

「やるな……だが!」

 

 咄嗟に横振りから突きへと攻撃動作を変更し、俺は相手の左腰を狙う。

 陸上戦においてジャンプという動作は無防備な瞬間でもあるのだ。俺の動作の変更に意図を読み取ったのか、相手は辛うじてスラスターを吹かす量を調整してクリーンヒットを避けるが、しかし目的は達成した。

 左腰部を狙ったのは脚部の破損を狙った訳ではなく、もう片方のビームサーベルを封じるためだ。

 あのザニーのビームサーベルは、ペイルライダーよろしく腰に装備されていたのだ。

 しかし相手も黙ってはいなかった。相手がジャンプという隙を晒したように、俺のヅダもまたスライディングの体勢から立て直す隙があった。

 そこを見逃す相手ではなく、背面スラスターで上半身を起き上がらせている間に、空中からバーニアを吹かした敵機が突っ込んでくる。

 

「見え透いたフェイントを!」

 

 突き動作を行っているが、それはフェイント。相手が狙っているのはこちらがマウントしている射撃武装だ。

 落ち着いてホバリングで後方へと下がり、左右に揺さぶりをかけた後にホバーを切る。そして地面を蹴り上げ、同時にスラスターを使ったジャンプで相手の機体を跳び越す。

 

「バルカン!見落としたか」

 

 だが俺は失念していた。相手の機体はあくまで連邦製のモビルスーツであり、その代名詞とも呼べる兵装の存在を。

 ジャンプで跳び越そうとした俺の機体に、頭部に配置された60mmバルカンの雨が襲い掛かる。

 左腕を急いで動かし、頭部モノアイを保護する。陸戦型ヅダの装甲はベース機のF型と比較して多少増加されているが、それでもメインカメラの保護装甲は増強されていない。

 正面装甲は60mm弾を受け止め、幸いにも貫通を許すことはなかった。同一箇所への被弾がなかったのが大きかったか。

 やられっぱなしではいられないとばかりにヅダの腕を振り、胴体への逆袈裟を狙う。

 

「レスポンス差がありすぎるか!」

 

 しかし身体を反らされ切っ先が命中するのみであり、胸部装甲に傷をつけるに留まる。コックピットを切り裂きたかったが、上手いこと避けられた。

 動力パイプがある以上、同じ流体パルス駆動のはずなのにこうも反応速度に差が出るとは。

 こいつはガワはザニーのようなヤツだが、性能だけで見ればガンダムタイプに匹敵しかねない。

 プロトタイプガンダムの原作ロールアウト時期が近い以上、陸戦型ガンダムの配備時期もこの近辺であるはずで、見た目が違っても中身がガンダム同様の可能性はゼロではない。

 

「それにこいつは……」

 

 モルモット隊で有名な部隊はいくつかあるし、同様の任務を課された部隊もいくつか知っているが、ここまでの手馴れとなるとその選択肢は限られてくる。

 俺の予想では、このザニーの中身はヤツだろう。

 外伝作品にてシミュレーターとはいえアムロを撃墜したとされる、一年戦争のオールドタイプでも屈指の強さを誇るパイロット。

 

 

 

 «»

 

 

 

 灰色のヅダと対峙する連邦のモビルスーツパイロット、ユウ・カジマは冷や汗がノーマルスーツ内の背中を伝っていくのを感じていた。

 マドラス防衛に際して遊撃隊としての任を受けたユウの部隊は、別のモルモット隊であるマット隊と合流し、敵主力から外れた位置にいる別働隊を叩くことになっていた。

 相手は初期型とはいえヅダが10を超える機数であったが、先行配備という形で入ってきた新型モビルスーツ、ザニーBはヅダを圧倒した。

 より速く、より強く、そして新兵器であるビームサーベルを装備したザニーB 6機の編成は、倍の数のヅダを殆ど一瞬で壊滅まで追いやったのだ。

 あと3機というタイミングで、ユウのザニーBはセンサーで敵の増援を察知した。

 そして、その察知した相手こそ……

 

「灰の凶星……やはりレベルが違う……!」

 

 かつてユウが戦闘機パイロットだった頃、ルウムにて見かけた灰色のヅダ。

 ブリティッシュ作戦においては、ティアンム提督の乗艦タイタンを撃沈せしめたジオンのエースにして、連邦にとっての悪夢。

 北京でも目撃された彼の映像データは見ていたが、更に動きが洗練されているとユウは肌で感じている。

 

『ユウ、こいつらかなりやるぜ……そこらのとは経験値が違うみてぇだ』

 

『これが噂の灰の凶星の部隊!』

 

 同僚のフィリップもサマナも、灰の凶星が従えるヅダに手こずっている様で、どうも持ちこたえていればどうにかなる訳でもないらしい。

 機体の状況はビームサーベル1本の喪失と、胸部装甲へのダメージ。バルカンは弾切れ寸前。

 対する相手はバルカンによるダメージはあれどほぼ万全で、弾切れになってマシンガンを捨てたこちらと違い、まだ腰部マウントに射撃兵装も残っている。

 

 状況は4対6……いや、3対7で不利といったところ。

 

 相手の機体はホバーと歩行を器用にスイッチして奇想天外な動きをしてはいるが、単純なパワー勝負ならこのザニーBが勝るのは先ほどのシールドアタックを受け止めた際に分かった。

 なら、こちらが行うべき選択肢は突撃による押しつけだ。

 ペダルを踏みこみ加速。これまで受け身からのカウンターを行っていたこちらの行動に驚いたようだが、すぐさま後方へのバックステップで距離を取ってくる。やはり向こうも単純なパワーでは勝てないと分かっているのだろう。

 しかしその程度の距離の取り方でザニーBから離れられるとは思わない事だ。

3()()()()だったペダルを更に踏めば、脚部スラスターだけでなくバックパックのメインバーニアの火が入り加速する。

 

「ここだ!」

 

 なけなしのバルカンを撃ちながら加速した状態で突撃、斬りこむ。

 バルカン砲を防ぐ為に防御態勢を取ってしまったヅダは、ビームサーベルをヒートソードで受け止める。いや、受け止めるしかない。

 ビームの刃と赤熱化した高熱の刃がぶつかり合う。プラズマと火花が辺りに飛び散り、2機のモビルスーツのカメラアイはそれぞれのコックピット内に激しい光を映す。

 予想通り、マシンパワーが強いザニーが徐々にその均衡を破るべくサーベルを押していき、相手を崩して切り伏せる。

 そのはずだった。

 

「なっ……」

 

 ユウ・カジマは、この戦場でグラン・リースと渡り合うだけの腕があり、そして足りない部分を補うだけの性能を持ったマシンスペックのモビルスーツに乗っていた。更には戦闘機パイロットとしてグラン・リースの実力もルウムで見ていた。

 ただ一つミスを犯したとすれば、それは陸戦型ヅダの推力の強さを見誤った事だ。

 急激に押し返されるザニー。先ほどまで劣勢だったヅダが押し返し始めたのは、全スラスターを前進する為に使用したためだ。

 陸戦型ヅダは背面メインスラスターこそなくなってはいるが、それと同等クラスの推力を持つものが脚部に搭載されている。つまり、単純に同推力のスラスターが2つに増えているのだ。

 無重力で使えない分、推進剤の搭載量を多くはできなかったが、フルスピードを出した際の速度だけで言えばF型をも上回る。

 

「っ!押し切られる!」

 

 対するザニーはジェネレーター出力をビームサーベルに使っている以上、推力に全てのエネルギーを回すなんて芸当は不可能だ。

 ビームサーベルと比べるとジェネレーターへの負担が少ないヒートソードを使用していたからこそできた技であった。

 ヅダの加速に負けたザニーは腕を弾かれ、その隙を逃すはずがない灰色のヅダによって手首から下を失ってしまう。

 切断された手首はビームサーベルを持ったまま宙を舞い、地面に落ちた時に丁度エネルギーが切れたのか、ビームの刃がその輝きを失って消失する。

 

 バルカン……残弾無し。

 ビームサーベル……全て消失。

 マシンガン……残弾無しにより投棄。

 

 持てる全ての装備を用いても勝てなかった、幾人もの連邦兵を討ち取ってきた灰色の死神が眼の前にいた。

 死ぬ。

 そうユウが思った時、空に大きな光が打ちあがった。

 

「撤退信号……!」

 

 それは、マドラス基地本部が現在の防衛線が持たないと判断した結果だった。

 事実上の敗北宣言に等しかったが、同時にマドラス基地まで戻り、再度この基地最後の決戦の準備をせよという命令でもあった。

 しかし、ここでこの死神がそれを許すだろうか。そう思っていたのだが。

 

『連邦のモビルスーツパイロット、ここまでにしよう』

 

 若い男の声。戦場に響き渡ったその声は、ユウを含む連邦側の兵士にとって意外なモビルスーツから発せられていた。

 音源は灰色のヅダ。『灰の凶星』グラン・リースがモビルスーツに搭載されている拡声スピーカーを使って発していたのである。

 

『君達は撤退信号が出た。俺の前のモビルスーツは既に無力化した。……どうだ?コイツとそこのヅダ3機を交換としよう』

 

 ヒートソードが示したのはユウの乗るザニーと、そしてマット隊が交戦していた初期型ヅダ3機。そのどちらもが傷だらけであり、双方共に今すぐとどめを刺されてもおかしい状況ではなかった。

 応じたのはマット隊の隊長、マット・ヒーリィだった。

 

『灰の凶星とお見受けする……こちらとしても無駄な死は望まないし、味方を見捨てるつもりはない。そちらが良いのであれば、交換に応じよう』

 

 マット・ヒーリィは、小隊員にすら言われる程に『死を望まない者』として知られている人物だ。

 ある意味でグラン・リースと取引をする立場が彼だったのは奇跡と言えた。

 

『よし、そこのモビルスーツのパイロット。()はまだ生きてるな?仲間と共に撤退しろ』

 

 その言葉を受け、マット・ヒーリィは礼を言った後に俺達の小隊を挟むように、守るようにしながら撤退を指揮した。

『灰の凶星』

 連邦では死神のように扱われるエースパイロット。事実、戦闘機からモビルスーツパイロットへ転換する際の教育でトップクラスの成績であったユウ・カジマをして、ここまで完敗だと感じた戦闘は初めてであった。

 モビルスーツの性能を引き出す。いや、限界性能以上の事を成し遂げた彼に、ユウはパイロットとして尊敬の念を抱き、同時に畏怖し、そして彼が残酷な性格でなかった事に感謝すると共に驚きを隠せなかった。

 

 

 数十分後、マドラス基地へと帰投したモルモット隊は、スペアパーツによってモビルスーツを修復された後に、すぐさま次なる命令を受ける事になった。

 次なる命令はトリントン基地への移動。

 マドラス基地が既に虫の息だと判断したマドラス基地司令は、モビルスーツ隊をミデアに詰め込めるだけ詰めて逃がす事に決め、東南アジア戦線で制空権がなんとか確保できている事を希望として送り出す事にしたのであった。

 

 

 宇宙世紀0079年6月24日

 ユーラシア大陸の主要連邦基地を全て失った連邦軍は、一大反攻作戦の時まで耐え忍ぶ事を強制されることとなる。

 連邦の反攻作戦発動は、あと3ヶ月もの時間を要する事となる。




 ザニーB
 BはビームのB
 史実機と比較した性能 陸戦型ジム < 陸戦型ガンダム = ザニーB
「V作戦」の研究成果と、これまでのエリオット・レムによる「ツポレフ計画」で得られたデータを用いてガンダムの仕事がひと段落したテム・レイがザニーを再設計し、エリオット・レムがテストしたモビルスーツ。
 部分的にガンダムの余剰パーツも使用されており、コックピット周りはルナ・チタニウム合金を使用、その他も今後の主力装甲材であるチタン合金が使われている。
 駆動方式も流体パルス・システムとフィールドモーター・システムを混合採用しており、ジオン系と連邦系の良いとこ取りをした機体に仕上がっている。
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