マドラス攻略作戦が終わった後、フレズベルグ隊はオデッサ基地で世話になっていた。
当然だがオデッサはジオンの地球における最重要拠点の一つであり、その設備はニューヤークと比較しても相当に充実していた。
俺達がここに寄ったのは、フレズベルグ隊の陸戦型ヅダの損傷が北京からの連戦によって積もりに積もっている中で、先のマドラスで相当の被弾をしていたのが一点。
そしてもう一つは、モルモット隊と交戦した際に回収した連邦の新兵器。つまりはビームサーベルの研究分析を任せるためであった。
「どうだ、陸戦型ヅダの調子は?」
「新しい機体を受領した方が早いですよ」
整備兵はそう言うが、そんなにポンポン新しい機体が生えてくるならジオンは勝ってるはずだ。いやまて。ある意味では新型が1年でありえんぐらい出てるからな。可能性は一応あるか?
そんな事を言ってはいるが、ようやくヅダに代わる次期主力モビルスーツが開発終了したようで、我がフレズベルグ隊は最優先で新型を3機も受領することができた。
とはいえ、今日新しい機体を受領するのは俺達ではない。
格納庫にて、新型モビルスーツのドムを見上げるケン・ビーダーシュタット少尉を発見した俺は、近寄って肩を叩く。
「どうだ、新型は?」
「本当に我々が受け取ってしまって良かったんですか?これはフレズベルグ隊のグラン少佐らに渡されるはずだったのでは……」
「なに言ってんだ。君達も既にフレズベルグ隊だし、君達を初期型ヅダに乗せとくメリットなんてないからな。新型にいち早く慣れてくれたまえ」
彼らMS特務遊撃隊──通称外人部隊は、世界中の激戦区を転々としながら作戦行動を行うという特性上非常に損耗が激しく、今回のマドラス攻略戦で敵の新型と鉢合わせた結果、とうとうケンのレッドチーム以外が壊滅するという結果になってしまった。
その際に助けた事に加え、彼らの損耗率の高さ、そしてそろそろ3人では厳しくなってきたことを俺達の直属の上司であるガルマに伝えると、どうやら特務遊撃隊の司令を務めているダグラス・ローデン大佐と話をつけたらしく、ケン・ビーダーシュタット率いるレッドチームを含めた残存人員をフレズベルグ隊に編入するという決定が為された。
こうして2個小隊となったフレズベルグ隊は、変則的な規模の中隊とされるようになり、ダグラス大佐には中隊長としての任を押しつ……任せることにした。
「なにこのヅダ!こんなにスラスターと関節に負荷がかかってるモビルスーツ、初めて見た!」
これまでのフレズベルグ隊にはなかった黄色い声。驚きと共にワクワクとした雰囲気を隠しきれていない声に、俺とケン少尉は思わず顔をそちらに向ける。
声の主はメイ・カーウィン。外人部隊で整備を担当しており、現在ツィマッドにモビルスーツ開発で後れを取っているジオニック社が、戦地でのモビルスーツ運用データ取得のために送り出した子だ。
ジオニック社の所属でジオン軍の部隊に入ってはいるが、14歳と若く、更には正式には軍人ですらない民間人だ。
いくら原作に出てる天才エンジニアとはいえ、正直民間人の少女を激戦区に連れてくのは気が引けたので隊から離れるように言ったのだが、ツィマッドの新型モビルスーツであるドムが入って来るや否や、俺からのその要請を「軍人じゃないから」という理由で拒否して居座ってしまった。
「おい、メイ!それは少佐の機体だぞ!」
「あ、じゃあこれが『灰の凶星』の機体なんだ!確かに灰色だもんね!」
俺の機体だと確認を取ったメイは、コックピットを開けて潜りこむとタブレット端末を繋いで色々といじり始めてしまった。
まあ無理もない。ジオニックはザクだけでなくグフまで主力機の枠から降ろされてしまっているのだから、どこかで実戦データの取得を行ってコンペで良い成績を収めたいに違いない。こんな少女だろうが、天才エンジニアを使わない訳にはいかないのだろう。
「すみません少佐……」
「いや、いい。ジオニックが実戦データを欲しがってるのは事実だろうからな」
「はあ……」
とまあそんな感じに俺は、ザクの開発にも携わった天才美少女エンジニアであるメイ・カーウィンに自分の機体を任せてしまった。
オデッサに来るにあたってマ・クベ大佐に呼び出されているのもあったし、今後の方針についてガルマとダグラス大佐と、これからオペレーターとして活躍してくれるであろうユウキ・ナカサト伍長との4人で話し合わないといけないのもあって、忙しくなるのが確実だったのもある。
言い訳がましいが、たった数日でこんな事になるなんて誰が想像できただろうか。
「な、なんだこれは……」
俺は格納庫に存在するはずの灰色のヅダの様子を見に来ていた。設備が豊富なオデッサのスタッフとて、あの損傷具合のヅダを修理するのは相当に骨が折れるだろうし、これで修復が上手くいかないのなら新しい機体を要求しようと思ったのだ。
だが俺を出迎えたのは、ここ1ヶ月ほど乗っていたあの灰色の陸戦型ヅダではなかった。
驚く俺の背中を誰かが叩いたので、それに応じて振り返ってみれば、そこにいたのはメイ・カーウィンであった。
「どう?新しくなったヅダは」
「いや、あの……これ本当に俺のヅダか?」
「もちろん少佐のヅダだけど?」
ぱっと見ただけでも、十数か所は違いが指摘できそうな程に様変わりしたヅダは、もはや陸戦型ヅダという名を用いる事自体がこの機体への侮辱なのではないかと思うほどである。
「私が持っているジオニックの研究開発データと、オデッサにあるツィマッドの出した新型のデータ。それにあなたが蓄積した戦闘データとマドラスや北京で回収された連邦のモビルスーツのパーツをふんだんに用いて改造してあげたんだよ!」
「嬉しいんだが……これを俺は扱えるか?」
メイが渡してきた端末を確認すると、そこには数十程の相違点が挙げられた機体データが載っていた。もはや本当に別の機体である。
少し見ただけで分かる、ヒートロッドと腕部速射砲など固定兵装の充実から、一目見ただけでは分からないような、脚部のスラスター性能の改善やFCSの設定チューンアップやジェネレーターの出力調整までその項目は様々だ。
一番の驚きは、マドラスで回収したビームサーベルが制限付きで使えるようになっている点だろう。
「灰の凶星が使えなかったら、誰が使えるのよ」
「勿体ないぐらいだってことさ」
俺にこれが使いこなせるのかはなんとも言えないが、メイの厚意で改良してもらった機体だ。
戦闘データと比較して改造していただけあって、連邦の新型モビルスーツとも渡り合える性能をしているとのことだからかなり期待ができるのは確かだ。
「で、次はどこに行くの?」
「ガルマ大佐から命じられたのは、ヨーロッパ戦線での戦闘データ収集だ。連邦の新型モビルスーツの情報がもっと欲しいらしい」
ここ数か月で連邦は新型のモビルスーツを幾つも出してきている。そして、ジオンの地上における最大の拠点であるオデッサにほど近いベルファストには、まず間違いなく新型のモビルスーツが配備されるはずである。
俺達はそれと戦い、戦闘データを得ること。あわよくばそれを撃破・鹵獲することが次なる任務。
つまりは今まで通りであるわけだが、ひと月以上早く陸戦型ガンダム相当の機体が出てきている今、何が起きてどんなモビルスーツが発生するのかは俺もかなり気になるところである。
「再三言うが、民間人の君はついてくる必要はないぞ」
「もちろんついていくわ。
誇らしげにそう答えたメイに俺は何も言えることはなかった。
敢えて言えば、彼女を庇ってユウキ伍長が死なないようにと祈るばかりであるが、まあ地上がそんな危ない時期になったとしたら、俺は一目散に北米へと向かうつもりである。
ホワイトベース隊がどうでるかはなんとも言えないのが現状だが、俺はガルマを死なせるつもりはないし、おそらくガルマは死なないだろうという言い表せない自信があったのだ。
そんな訳でヨーロッパに向かうことになった俺達フレズベルグ隊だが、まさかヨーロッパの地であの人物と出会う事になろうとは、俺もこの時は予想すらしていなかった。
外人部隊の加入は、彼らのキャラ設定上初期から決まっていました
主人公の機体は普通にドムにするかヅダにするかで数日悩み、無事ヅダになりました
MS-05G[GR] グラン・リース専用陸戦型ヅダ
積み重なった損傷と負荷でボロボロだったグランの陸戦型ヅダをメイ・カーウィンが修復・改造した機体
グフの研究データとオデッサの格納庫で頂戴したドムのパーツ、そして連邦のモビルスーツのパーツを用いて魔改造された
グフとドムのデータを基にされており、史実におけるイフリートに相当する機体
Q:それは果たしてヅダなのか?
A:ヅダですが?