ヅダですが?   作:のり

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サイド7ですが?

 宇宙世紀0079年 5月末に発動された三矢作戦によって、連邦の目は地球では北京及びハワイという太平洋側へ、宇宙ではルナツーに迫るジオン軍艦隊に集中することとなった。

 特に宇宙における連邦の拠点はルナツーのみになっていたため、少数の偵察衛星を除けばジオンの艦隊行動を探る事は不可能に近い状態になってしまっていた。

 そんな中、ソロモンとグラナダからそれぞれ一隻のムサイが出立した。

 シャア・アズナブルが隊長を務めるファルメルが向かうのはサイド7。サイクロプス隊のハーディ・シュタイナー率いるストーカーはサイド6へ。

 両方共任務は同じで、連邦軍のモビルスーツ開発の情報もしくはその実物を手に入れる事だった。

 ドズル・ザビはソロモンの司令室に呼び出したシャアとシュタイナーにこう告げていた。

 

「俺達が戦っている連邦も馬鹿ではない。ルナツー以外、俺達が積極的に攻めようと思わん場所に奴らの研究施設があるはずだ。そこで、貴様らには2つの中立コロニーに潜入してもらう。いいか、これ以上スペースノイドに対して不信感を作る事は許さん。俺が許すまでコロニーに被害の出るやり方は絶対に許さんぞ」

 

 こんな話がブリティッシュ作戦とルウム戦役を指揮したドズルの口から出るとはシャアは夢にも思わなかったが、彼とてソロモンでの様々な話に詳しい方の人間だったので、これが誰の影響によるものなのかは薄っすらと感づいていた。

 いやシャアだけではない。最近のドズルの言動にガルマの影響が垣間見えるのは、シン・マツナガをはじめとするドズル・ザビ配下の者達は気づいていた。

 それがいい変化であるということも。

 

 

 

≪≫

 

 

 

「サイド7……サイド3から最も遠いコロニーだな」

 

 元々はドズル・ザビ専用のものであったファルメル。その艦橋にて拡大投影されたコロニーを眺めたシャアは、道中の様子を思いだしていた。

 連邦の残された最後の宇宙拠点であるルナツー。それに最も近く、更にジオンの本拠地に最も遠いコロニーであるサイド7の周囲には、デブリに偽装されたパッシブソナーの分厚い層が幾重にも張り巡らされていた。

 ミノフスキー粒子散布には無力であったがために発見こそ避けられたが、一瞬だとしてもセンサーに不調があった事実は残る。ルナツー側が防衛に手いっぱいであれば大丈夫だろうが、少しばかりの不安材料ではある。

 とはいえ、それだけの警戒網があるということは期待も高まるというものだ。

 

「ドレン、偵察には私も出るぞ」

 

「少佐自ら偵察ですか?」

 

「部下にも手柄を持たしてやりたいところだが、私個人としても“灰の凶星”には負けていられんのだよ」

 

 そう言ってヅダのある格納庫へと向かうシャアを見送ったドレンは、ひとつ溜息を吐く。

 ルウム戦役からの縁であるドレンは、そこそこ以上にシャアについては理解しているつもりだったが、少しばかり自分の中での評価を変えざるを得ないと思ったのだ。

 同期が地上で活躍しているのをジッと見ていられないぐらいには、彼は純粋で負けず嫌いな青年のような人なのだと。

 

 格納庫に向かったシャアは、そこにいる赤いヅダF型を見やる。

 “蒼い幻影”ジャン・リュック・デュバル。

 “灰の凶星”グラン・リース。

 ヅダを駆って戦果を挙げ続け、連邦軍にとっての恐怖の象徴とも言える2人のエースパイロット。自分はそれに追いつくことができるのかと。

 もっと何か自分にはできることがあるんじゃないか。そう感じた。

 恐らくガルマ・ザビはこの戦争の在り方そのものを覆そうとしているようにも感じるし、それを受けてドズル・ザビもまた自らを変えようとしている。

 また、グランもコロニー落としをしたジオンそのものに忠誠を尽くしているわけではなく、戦争の早期決着を望んで戦っているように感じる。

 

 自分はどうだ。とシャアは自らに問う。

 この戦争を自分はザビ家への復讐の舞台としてしか考えていないのではないか?

 この戦争自体が変わろうとしている中、自分はそれを果たすことができるのか?

 友であるガルマを、戦争の終わり方を模索するガルマを討てるのか?

 もし彼を殺した後何が残っているのか。

 答えはない。

 

「認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを」

 

 この段階になって、初めてシャアは自分を動かしていた原動力であるはずの『ザビ家への復讐』というものが『父親を殺したザビ家への復讐』ではなく、『自分を不幸にした、自分に仇なすザビ家への復讐』なのだと自覚した。

 世界はそのあり方が変わる転換点にいるというのに、自らの為の復讐にだけのめり込んでしまっていいのか。そう思ってしまった。

 いくら考えても答えを自分で出すことができなかったシャアは、赤いヅダへと乗り込んでサイド7へと向かう以外にすべき事を見つけられなかった。

 

 

 

 

 

 

「ジーン、コロニーの隔壁ハッチを開けろ」

 

 シャアが乗るヅダが通信と共にコロニーの外壁にある、作業用ポッド用ハッチを開けさせる。

 民間の操縦者でも簡単に出入りできるよう設計されているコロニーのハッチは、モビルスーツの全高でも通過が容易であることはブリティッシュ作戦時には既にジオン軍内に知れ渡っており、シャアもそれを利用したに過ぎなかった。

 

「デニム、スレンダーを連れて連邦軍関係の設備を探せ。戦闘車両の出入が分かると後々楽だ。ジーンは私とドッキングベイに向かうぞ」

 

 二手に分かれて捜索を開始すると、そう時間が経たないうちにシャアはあるものを見つける。

 

「見ろ、あの貨物エリアに置いてあるコンテナは連邦の部品が詰まったものだ」

 

 サイド7はルナツーの近郊にあるだけあり中立ではない。

 幾つもあるコロニーバンチの内、現在では唯一の連邦軍が管理するコロニーであり、現在でもたった一つのコロニーしかないサイドでもある。

 連邦軍の拠点として知られてはおらず、またここに連邦の軍事拠点があるというのはジオンはもちろん民間コロニーにも発表されてはいないが、それが軍関係のものがない証明にはならない。

 モノアイの機能の一つであるカメラ機能を使ってドズルへ送るための写真を撮り続ける。

 

『シャア少佐、連邦軍製高機動車の通行が確認できました。コロニーの拡張工事地区です』

 

 どうやらデニムも連邦軍が動いている証拠を押さえたようで、連邦軍車の写真が転送される。

 シャアは待機と引き続きの観測を命じる。

 

『この場で押さえないのですか?』

 

 珍しく引き腰なシャアの様子に、隣のジーンが抑えきれないといった様子で聞いてくる。彼はまだ新兵で手柄が欲しいのもあるのだろう。

 この場で墜としてしまうのも手だが、ドズルの言う通り今のジオンはアースノイドだけでなくスペースノイドすら敵に回している状況で、このままでは終戦後の戦後処理すら覚束なくなる程である。

 

「ドズル中将の命令もある。功を焦って失うよりも、確実な方を選ぶのもまた軍人として正しい姿だ」

 

『はっ、失礼しました』

 

「だが私も欲張りなものでね……ジーン、私はヅダから降りて少し探索する。見張っておけ」

 

 収納スペースのノーマルスーツに着替えると、ライフルを片手にコックピットから降りて港湾ブロックの奥へと向かう。

 シャアの見立てが正しければ、連邦のモビルスーツか艦船を格納しているドックがどこかにあるはず。そしてこのコンテナを見る限りではそれはこの近辺のはず。

 

「ドズル中将は“コロニーへ被害を与える事”を禁じたが、連邦への被害は禁じてはいない。この程度は閣下も想定内だろう」

 

 ライフルのセーフティを切り替えたシャアはコンテナ外殻に書かれている品名などを撮影し、更に奥にある貨物船を探る。

 やはりというべきか、そこには連邦の輸送艦であるコロンブスが停泊しており、今まさに追加のコンテナを中から降ろしている最中であった。

 

「であれば、我々が追うものもまたそこにあると考えるのが妥当だな」

 

 ライフルを構えて床を蹴って走り込む。

 搬入作業中の大型コンテナ。その全貌は見えないが、周りにいる作業員とのサイズ差から容易にモビルスーツが格納されていると分かるそれに向かい、迷わず引き金を引く。

 コンテナの周りにいる連邦軍人と一目で分かる者から撃っていき、距離を詰める。

 

「なんだ!?」

 

「ジオンの工作員だよ! ダイアゴナルのコントロールセンターに早く伝えろ!」

 

「連邦軍の技術部門は前線を知らんと見える」

 

 銃弾が飛んでくる中でもシャアは冷静であった。それは、連邦でもトップシークレットの内容を取り扱っているにしては練度の低い兵士が多いばかりか、戦闘訓練を多く積んだ兵士ではなく、前線から遠い生活を続けていたであろう高官職に就いていそうな者ばかりがここにいたからである。

 事実、撃ち返してくるのは佐官クラスが携帯していた拳銃であった。

 その程度だったので、待機させているジーンに連絡を取る余裕すらあった。

 

「ジーン、私の機体を出口付近まで運べるか?」

 

『少佐はどうなさるおつもりで?』

 

「連邦のモビルスーツを奪取する。進入路を逆走し、デニムとスレンダーに合流するよう伝えろ」

 

 ライフルの射撃を頼りにコンテナ上面に取りつくと、コンテナの中央付近にハッチを見つける。おそらくパイロットをコックピットに乗せるためのものなのだろうが、ここまで好都合に事が進むと怖くなるものである。

 

「自分の直感がここまで当たると恐ろしいな」

 

 そう独り言ちながらコックピットを開けて乗り込むと、既にシステム起動の準備が出来上がっていることに気付く。

 OSを立ち上げていくとこの機体の型番と名前が画面に出てくる。

 

「RX……78-1……GUNDAM(ガンダム)……連邦らしい名前だな」

 

 メインカメラが起動してコンテナ内の様子が映されると同時に、パワーゲインの表示に驚く。

 

「ヅダの5倍以上のパワーだと!? 連邦の技術はここまであるというのか。だが、これなら」

 

 連邦のモビルスーツが起動し、コンテナの上面を手でこじ開ける。

 上体を起こし周囲を見てみれば、シャアが乗り込んだことを察した、増援の連邦兵士達がアサルトライフルをこちらに向けて乱射していた。

 

『モビルスーツが起動したぞ! ジオンの工作員が乗り込んでんだよ! 躊躇ってる場合か!』

 

『撃て! とにかくなんでもいいから持ってこい!』

 

『コントロールセンターに連絡してさっさとドッキングベイから出すんだよ! これ以上取られたらどうする』

 

「武器は……頭部にバルカン砲が仕込まれているのか」

 

 連邦のコックピットは分かりにくいとばかり思っていたが、どうも設計段階からヅダを手本にしているらしくシャアが直感的に動かしてもなんとかなる作りのようで、すぐに機体内蔵の兵装を見つけ出した。

 カメラで捉えた兵士達をバルカン砲の掃射で一掃して立ち上がる。

 

「他の機体もあるようなことを言っていたな?」

 

 その視線の先にはサイド7から脱出を図る輸送船の姿があった。

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