ヅダですが?   作:のり

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コロニーですが?

 宇宙世紀0079 1月3日

 とうとうジオン公国が地球連邦軍に対して宣戦布告を行った。

 知っていた身からすると「へー」ですむ話で、ギレンの演説やっぱいいじゃん程度の反応だった訳だ。

 

 ところがそうも言ってられない事態がやってくる。

 1月4日。ジオンはこの宇宙世紀の長い歴史の中で何度も行われる非人道的な作戦、コロニー落としを初めて決行したとんでもない軍隊になるのだ。

 悲しい事に、俺はその作戦に無関係でいられなかった。というのも、このブリティッシュ作戦に対して連邦軍が多大な兵力と兵器を用いた抵抗をしてくるのは、考えずとも分かる事だった。

 マルコシアス隊をはじめ、そこそこ有名どころの部隊がコロニーの護衛部隊として参加しているのは良く知られた話ではあるのだが、俺もその仲間入りというわけだった。

 

 ムサイの艦内は興奮半分、恐怖半分といった形であった。

 連邦に対しての負の感情が強い者、ギレンに心酔しているような者は窓に張り付いてコロニーを見ながら前祝いをするなどしていたが、まともな感情を持つ者は暗い表情を浮かべていた。

 俺達はジオン軍人である前にスペースノイドなのだ。

 ジオンの開戦目的はスペースノイドの解放を背景にした独立戦争だ。それなのにも拘らず、今俺達の目の前にあるスペースノイドの住まい──コロニーは地球への落下ルートをずんずんと進んでいく。

 一ガノタであった頃は「ジオンやべー」で済んでいた出来事は唾棄すべき現実に変わっており、未だにこの世界を甘く見ていた俺の脳は鈍器で殴られたような気分であった。

 

 数時間後、アイランド・イフィッシュに設置された核パルスエンジンが再点火し、地球への落下コースの再調整が行われた頃、連邦の大艦隊が先遣隊によって確認された。

 すぐさま俺達には出撃要請が発令され、小隊長殿の小綺麗な演説の後にモビルスーツへと乗り込んだ。

 最終チェックと武装の再確認をしてくる整備クルーに、俺は諦めながら聞いた。

 

「なあ、今からでもザクにしないか?」

 

「あなたの搭乗機はヅダ。それだけですよ」

 

「だって、このモビルスーツテスト時に事故起こしてるだろ?」

 

「それこそザクの話じゃないですか」

 

 整備クルーの話に俺は耳を疑った。ちょっと詳しく聞いたところ、驚くべき事実が発覚した。

 飛行試験中、分解事故は確かに発生した。だがそれはヅダにではなく、ザクの方に。

 平行飛行をしている最中、ヅダのパイロットがザクのパイロットを挑発した。そして速度比べをしている最中にザクのエンジンはオーバーロードを起こし、そのまま爆発四散したというのだ。

 史実での事故が逆転した形をこの世界は辿っていたのだ。

 結果、ザクよりもコストは高いが速く、強いヅダが主力機として選ばれたということだ。

 

「さあ疑問が解消されたんですからコックピットに引っ込んでくださいな。もう出すんですから」

 

 呆然としていた俺の事を押し込んだ整備クルーは、俺が要求した通りにヅダに対艦ライフルとマシンガンを用意した。

 ザクマシンガンと命名されるはずだったであろう120㎜マシンガンは、ご丁寧にヅダマシンガンと表記されていた。

 

 そうして乗り気にならないまま発進した俺はモノアイ越しに見た光景に震えた。

 地球に向けて降下するコロニー。それを迎え撃つ為、死すら恐れず軌道上に並ぶ連邦の大艦隊。核ミサイルとメガ粒子砲によって生み出された光がコロニーにいくつも直撃するが、そよ風が当たった程度にしか思っていないだろうコロニーは止まる気配を見せない。

 今世ではコロニーで生まれ育った俺はスペースノイドだが、あんなものを地球に落としていい道理があるはずがない。そう思わずにはいられない。もちろん前世を地球で過ごした身としてもだ。

 

 このコロニー落としはガンダムの歴史の中でかなり大きな意味を持っている。

 例えば、この騒動で生まれた孤児達は色々あってニュータイプ研究所などに回収されて非人道的な実験に利用されたりするわけだ。

 ただ、悪い事だと分かっていてもそれを阻止できないのが宮使えの悲しき性である。

 全体的に旧歴史のドイツのような雰囲気を持っているジオンだが、艦艇には政治将校が必ず配置されているなど、妙にソ連チックな部分も持ち合わせている。敵前逃亡をしようものなら命はない。

 だからしょうがなくとも命令には従う必要があった。

 

「なんだかなあ」

 

 戦火の中に身を投じる直前だというのに、憧れだったモビルスーツを使った初めての実戦だというのに、俺はどうにも気が沈んでいた。

 コロニー落としを目の前にしたショックなのか、それとも乗っている機体がヅダだからなのか。

 少なくとも俺は前者であってほしいと思っていた。

 ザクが事故を起こしていたという話を聞けたとはいえ、それはヅダが分解事故を今起こさないという証明には一切なっていないからだ。

 

『フレズベルグ隊各機、敵はアイランド・イフィッシュに夢中だ!我々に目を向けない阿呆共にモビルスーツとジオンの力を見せてやれ!』

 

 部隊長の発破に乗ったパイロット達は、ヅダを加速させて我先にと艦隊へと突っ込んでいく。

 一方の俺は分隊員2機を連れて迂回進路をとっていた。

 

『分隊長殿、我々も向かわないので?』

 

「あんな正面から向かってどうするんだ。コロニーを優先してるにしても護衛機も流れ弾だってあるんだ」

 

『しかし、小隊長機からあんなに離れていいものでしょうか』

 

「あくまで戦闘間は分隊長計画だからな」

 

 どうも指揮・作戦立案能力に欠ける小隊長に対して、ここばかりは感謝していた。ある程度自由に動けるからだ。

 そんなこんなで迂回していくうちに戦場は混迷を極めたというしかない状態に変貌していた。

 こと戦艦と核ミサイルの数だけならルウムよりも多いこの戦場は、コロニーを少しでも破砕すべくミサイルと艦砲を撃ち続ける艦艇、それを落とすためにマシンガンとバズーカを撃つヅダ、それを迎撃するためにいくつも飛び回るセイバーフィッシュの群れといった状態だった。

 

「いいか?細かいのは無視しとけよ。戦艦をいくつか仕留めれば航宙機をいくらかしばくよりずっと良い戦果になるんだからな」

 

 現在のヅダは、史実でのザクがそうだったように対核装備に増加推進剤、大気圏付近での作戦用に外付けの冷却タンクまで増加装備されている。

 そんな状態であの乱戦に初っ端から突っ込むほど、俺は命知らずでも度胸があるやつでもなかった。

 戦争は少し臆病なぐらいがいい。カイ・シデンの名台詞は的を射ていた。

 

「さあ、横から叩くぞ」

 

 スロットルを上げ、17mを超えるヅダの全長近くの長砲身を誇る135㎜対艦ライフルを正面に向ける。

 特殊な徹甲榴弾を採用したこの対艦ライフルなら、地球の重力が弾道に影響を及ぼすこの軌道上でもある程度の長距離射撃ができるはずだ。

 

「まずは一番手前から叩く」

 

 照準を合わせ、引き金を引く。何度もシミュレーターで訓練した通りの軽さで引かれた引き金は予想よりもレスポンスが速く、押した瞬間にヅダが構えるライフルから弾が射出された。

 弾は手前のサラミス級の胴体に直撃し、側面から火柱を上げさせることに成功したが、しかし狙いの艦橋真下、バイタルブロックからは少しばかり右下に逸れていた。

 

「やはりシミュレーターと現実じゃ修正量が違うか」

 

 次弾の装填完了表示がサイドモニターに表示され、同時に機械音が耳にも同様に通達する。

 若干左上に照準し射撃を行えば、今度は狙い通りに直撃。中破していたサラミスは今度こそ爆散する。

 撃破したサラミス級に何人の人間がいた?そんな思考を数瞬ばかりするも、迷っていては死ぬ事は明らか。熱源反応を知らせるセンサーの音に慌てて操作を再開する。

 腰にマウントしていたヅダマシンガンを取り出し、飛来した迎撃ミサイルに向かって射撃を行う。

 明確に直撃コースに入っているミサイルのみを撃ち落とし、他は合間を縫うことで回避する。

 

「未だに何を迷っているんだ俺は……!」

 

 ミサイルを飛ばしてきたマゼラン級を視界に捉え、右手に保持したままの対艦ライフルを放つ。

 丁度よく斜めに貫通した弾は弾薬庫を直撃したようで、マゼラン級は瞬く間にデブリへと変貌した。

 

「もう俺は、この大量殺人に加担してるんだ。迷う必要なんてないだろうが!」

 

 空になった弾倉をパージし、対艦ライフルに次の弾倉を装填する。これを含めて2つある。ならあと何隻かはやれる筈だ。

 ふと横を見れば、僚機の2機はマシンガンでセイバーフィッシュを叩き落とすのに忙しそうである。

 

「アイゼン、シュッツお前らもやれてるか?」

 

『分隊長のようにはいきませんよ!』

 

『セイバーフィッシュはこっちでやりますから、大物狙ってください分隊長殿!』

 

「助かる」

 

 手柄を譲るなんてしなくてもいいのになと思いつつも、あの二人がモビルスーツ課程を終えたばかりだというのを思いだす。

 俺みたいな士官はともかく、下士官はモビルスーツという決戦兵器を知らされたのがそこそこ遅かったため、機種転換訓練が難航していたという話は割と有名である。

 なるほど確かにそれならこの密度の対空砲は怖いだろう。俺だってそれがあるから対艦ライフルという、近づかなくてもいい手段を選んだのだから。

 交換した弾倉の中身を手ごろな位置にいるサラミス級とマゼラン級に放ちながら、少しでも被弾率の低そうな場所を見繕いながら進んでいく。2人もなんとかついて来てはいるが、結構ギリギリのようだ。

 その行為に感謝しながら、俺はまた一発、一発とモノアイが捉えた敵戦艦に135㎜弾をプレゼントしてやった。

 

「……!アイゼン、シュッツ!離脱だ!」

 

 瞬間、何か閃いた俺はすぐさま2人を連れ、大急ぎでこの混迷を極めた戦地を離れた。

 数秒後、俺達がいた宙域は黒い影に閉ざされた。コロニーだ。アイランド・イフィッシュのミラー部分の一部が破壊され、分断されたのだ。

 ミラーは回避行動が間に合わなかった連邦艦と、それの護衛機らが必死に離脱させまいとしたモビルスーツ部隊を一瞬で飲み込み、綺麗さっぱり消し去ってしまった。

 離れて見てみれば、アイランド・イフィッシュの降下段階は既に最終フェイズにまで到達していた。

 必死の抵抗によってコロニーは、脆くなった部分を起点として摩擦熱で半壊した。が、それはコースを逸らしただけにすぎず、コロニーは先端部、後端部、その他破片といった具合にばらけ、地球へと降下していった。

 連邦軍は多大な戦力を使ったにも関わらず、コロニーの落下を阻止する事はできなかった。

 同時にジオンはこれだけの人間を殺しておきながら、目的のジャブローへと落とすことは叶わなくなった。

 

「本当に……落ちている……」

 

 散々テレビの中で見たあの光景が正に今、本当に起きていた。

 宙域から離れながらサブセンサーで見ているその光景は、異様な程に気分を害する光景だった。

 前世でも常々、スペースノイドの独立のためにスペースノイドを殺し、地球にコロニーまで落として見せたジオンはおかしいと思っていたが、それでも心のどこかで「まあアニメだしな」という気分でいた。

 だが考えてみれば、前世でもヒトラーやスターリン、ポルポトなど、信じられない虐殺を行った人物なんて幾らでもいるのだ。

 転生なんて嘘で、ただの妄想か夢だと思いたかったこの光景は、余りにも真実だった。

 アドレナリンが落ち着いてきたのか、今の戦闘で何人殺したのかなどを冷静に考え始めてしまい、余りに気持ち悪くて吐きそうだった。

 本当に、何人死んだ?連邦も、ジオンも、そしてそのどちらでもない民間人も。

 

『グラン少尉。少しいいですか?』

 

 吐き気を抑えながら戦線を離脱していた俺に、母艦から通信が入った。

 先ほどの戦闘で俺の分隊以外は壊滅したらしい。つまり、小隊長含む俺より上級者がいなくなったわけだ。

 臨時でムサイに搭載された一個小隊の生き残りを帰還まで預かる事になった俺は、原作での次の展開を思い出していた。

 

 次はルウム。

 まだ一年戦争は始まったばかりだった。




毎回コロニー落としとルウムで不思議に思うのは、結局モビルスーツを初投入したのはどっちなんじゃい!ってとこ
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