シャアがサイド7に到達するよりも一週間ほど前。とある一隻の民間船がサイド6のリボー・コロニーに到着した。
税関職員はイズマ・コロニーの増築工事に参加するための業者だろうなと見当をつけた。ここのところ月の企業であるアナハイムだったり、ジオンだけに味方をしている訳じゃなく、スペースノイド全体に寄与する気ですよと言わんばかりにMIP社などの軍需企業も、様々なコロニーの修復・改修事業に踏み出しており、またそれらの作業員を買って出る中小企業もかなり多くサイド6には見えている。
サイド6は今や数少ない中立地域の一つであり、ジオンといえど下手に軍事力で手を出せばスペースノイド全体の信頼を失いかねないのである。
「いやー、間に合った」
そう言って出てきたのは40代半ば頃のノーマルスーツを着た男。
慣れた様子でクリアファイルを職員に手渡すと、流れるように世間話を始める。
「丁度2日後ぐらいにイズマ・コロニーの増築工事、始まるでしょう? それの手続きをしようと思ったら、ジオニックの奴ら一度月の支社に来て指定の機材を取りに来いと言うもんだから、大変だったよ。あ、おい! 貨物の搬出準備、やっとけよ」
一緒に乗ってきた社員だろう若手2人に声をかけると、奥から中年の男が出てきて手はずを整え始める。
人数分のパスポートに、貨物船の入港許可書を見ればサイド1から来ていることが分かる。あっちの方もジオンと連邦との戦闘で13バンチなどが破壊されたというのに、遥々来てくれたようである。
「ハーディ・スチュワートさん、ルビコン建設……ね。積載物証明書は……作業用のプチモビ? 最新の機械をよく持ってらっしゃるようだ」
「これもコロニー復興を後押ししてくれてる企業さんのおかげですよ」
その後、ものの数分足らずで税関職員は許可証をスチュワート……ジオン公国軍特殊作戦部隊、サイクロプス隊の隊長であるハーディ・シュタイナーに渡して去っていった。
作業用のプチモビではなく、その積荷がいざという時の為のモビルスーツであることに気付かずに。
≪≫
「大尉、ビンゴですぜこりゃ」
バンダナを付けたガルシア軍曹が廃工場の中の一室で写真を広げる。そのいずれもが連邦軍関係の資材を捉えたものだった。
このリーア・コロニーは中立を謳っているが、それは軍事力を有していないという事とイコールではない。軍警という特殊警察を持っており、武力を行使して防衛戦を行うことができる立場だ。
その物資はどこから購入する? ジオニックやMIP、ツィマッドといった主要な軍需企業は、戦力化できる物資をジオン以外に卸さない契約を結んでいる。であるから、基本的にサイド1やサイド2なんかのコロニー警察は月のアナハイム社から装備を購入している。
アナハイム社は軍事品に関してジオンや連邦ほどの技術力を有しておらず、モビルスーツ産業については遅れているの一言に尽きるが、個人装備品であれば連邦の課した法に則った上で優秀なものも多く、近年ではプチモビ事業に踏み出しているが民需品の枠を出ない。それでもスペースノイドが連邦の手を借りずに武器を購入するならここを頼るしかないし、もし連邦の手を借りようものならジオンが怖くなるので連邦軍品は買えない訳だ。
「アサルトライフル程度なら、まだ分からんかったんだがな」
元々サイド6リーアは軍事力ではなく、その政治力と経済力、工業力を武器に中立を勝ち取った珍しいコロニーだ。ジオニックやツィマッド社の重鎮の家族だったり、地球が戦争になったためにここに引っ越してきた連邦閣僚の家族なども多い。
だから中立の立場を使って連邦からの物品をルナツー経由で購入し、今までなかった軍事力を強化する。それなら分からない話でもない。
ここはルナツーからほど近いし、中立を保つための軍事力を持つから軍が採用しているものを持つ。理屈は分かる。だが……
「だがこれはやりすぎだろう」
写真にあったのは連邦のモビルスーツもどき。かつて、サイド3の暴徒鎮圧に出ていたモビルタンクだ。
払下げ品の一種だろうが、現行の地上戦力である61式戦車まで写真に収められているとなれば連邦軍の関与は疑いようがない。
「へっ、手間が省けていいじゃねぇか」
「落ち着けミーシャ。これらを扱っているのがリーア軍であることも確認できる。まだ実際に連邦軍がこのコロニーにいると決まったわけじゃない」
そう、まだリーア軍兵士が運用する姿しか見せてない以上、本当に連邦軍がこの中立コロニーにいるとは限らない。
まだ決めつけるのは早い。
「だがこれで可能性は限りなく高まったと言える。コロニー公社の作業服も仕入れることができた。明日からは二手に分かれて捜索を開始するぞ」
≪≫
「アンディ見てみろ、ガルシアが発見した通りだ」
双眼鏡片手に、車の窓から外を見ていたシュタイナーは指を指して操縦席に座るアンディ・ストロース少尉に示した。その先にあるのは連邦開発のジープで移動するリーア兵士である。
連邦製のジープ、連邦製のライフル、連邦製のグレネード……軍服以外の全てが連邦兵士そっくりであった。
「あそこまで統一していると見分けがつきませんね」
「妙だな……」
「と、いうと?」
「リーア軍の過去の装備を洗ったが、あんな重装備じゃあなかった。中立コロニーならではって訳じゃないが、市民への威圧感を減らすためだろう」
特にグレネードを表立って装備する兵士が目立ってきたのは直近の話だ。それも、開戦から数か月経ってからのことで、まだ数週間経つかどうかといったところ。
移動するように指示を出し、ガルシアがマークした別の地域を見に行く。
そこでアンディは気が付いた。
「大尉、あのジープの兵士は随分と軽装備じゃないですか?」
ジープは変わらず連邦製だ。だがライフルはリーア軍が以前使っていたものだし、グレネードも装備していない。ベルト類の装備品は連邦製には見えない。
思うところがあったシュタイナーは、追加でいくつかのエリアを回るように指示する。
「やはり、ごく一部の地域だけが重装備になっています。ここと、ここと……ここです」
日が暮れた頃、廃工場の一室に戻ったサイクロプス隊の面々はリボー・コロニーの地図を広げた机を囲んでおり、その地図にアンディが3つの印をつけた。
「いずれもリーア軍の基地として元からあったものですが、これらの基地の周辺のみ重装備、それも連邦の装備で固めた兵士が高頻度での巡回を行っています」
「他の地域は4時間に一度、この地域は1時間に一度……えらくここの兵士だけ勤勉ですな」
「確固たる証拠はまだありませんが、私はこの兵士はリーア軍の服装をしている連邦兵である可能性が高いと思います」
アンディは強い口調と共に、重装備の兵士が映る写真をそれぞれの撮影現場に近い基地の印の上に置いた。
続いてもう一枚の地図を出す。こちらは開戦前からこのリボー・コロニーに住むスパイからもたらされたもので、コロニー公社から拝借したコロニー設計段階のメンテナンス通路のものだ。
「該当の施設へはコロニー公社のメンテナンス通路から入れるはずです。ここリーアが建造された時期を考えると、まだ改装工事は行われていないと考えられます」
「メンテナンス通路へのアクセスはどうする?」
「それは施設から見て対岸の……ここの河川敷にあるハッチから入れます。コロニー公社の作業員に扮して入れば怪しまれることはないでしょう」
「決まりだな。まずはカメラなどを用いての偵察から行う。情報が纏まり次第ソロモンに連絡して隠密での情報もしくは機体本体の奪取を行うか、破壊活動を行うかの指示を仰ぐ」
シュタイナーが今後の予定を伝えると、なんの合図もなしに作業に取り掛かる。
サイクロプス隊は万全の状態であった。
≪≫
分担して担当地区を偵察することにしたサイクロプス隊の面々は、4方向に分かれて通路を歩いていた。
最初に新情報に当たったのはガルシアだ。
「隊長、新品のゲートが設置されてます。他のと違って開閉スイッチが外側に用意されてません」
ガルシアの眼前には赤く真新しい扉があった。今まで通ってきたゲートとは違って入れるような作りになっておらず、それでいて周りの壁とは違う色がポツンとあるのであまりにも浮いていた。
続けて同施設を偵察しに行ったミーシャも別方角から接近していたが、やはり同じゲートに阻まれた。
もう片方の施設を見に行ったアンディとシュタイナーも同様のものを発見した。
「やはり、ここに
「隊長、コロニー外壁を伝えるかもしれません」
そう言ってアンディが見つけたのは外壁修繕などを行う業者用ハッチだ。おあつらえ向きに作業用ノーマルスーツまで入っている。
装着して外に出てみるが外壁を伝う道具は持ち合わせておらず、そのままでは向かう事ができなさそうであった。
「アンディ、確信が掴めて侵入の糸口が見つかっただけで収穫は十分だ。一度報告に戻るぞ」
シュタイナーは部下が早まらないように諫め、4人全員が合流して拠点とする廃工場に戻った。
写真でゲートは捉えており、これまでの状況証拠も併せて連邦軍の秘密基地が存在するであろうとする報告レポートを作成すると、ソロモンへと送った。
それがソロモンへ届く頃、サイド7にてシャア・アズナブルは連邦のドッキングベイを強襲してモビルスーツを奪取することとなる。
サイド7 → まだ6月頃なのでペガサス級はない。コロンブスでコロニー内にガンダムなど搬入する最中
ダイアゴナル → ティアンム艦隊の輸送艦。史実のソロモン戦にて不死身の第四小隊の母艦となっているが、ティアンムが既に戦死している為に役割が変わっている
サイクロプス隊 → 北極基地強襲が無いのでアンディは死んでいない。バーニィも補充兵として配属されていないので、アルとの邂逅がない