ヅダですが?   作:のり

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野生の覚醒ですが?

 ガンダムが起動したサイド7のドッキングベイ内は混乱の真っ只中にあった。

 シャアの乗ったガンダムに向けてアサルトライフルやらハンドガンやらを乱射する者。

 急いで出港準備を進めるダイアゴナルへ乗船すべく走る者。

 コロニーの市街地など安全地帯を求めて逃げる者。

 呆然とその場に立ち尽くす者。

 

「まだその機体は調整中なんだぞ! まだ動かすのは無茶だ!」

 

「なにぃ? 大人しくやられてろってか!?」

 

 そして、その脅威に立ち向かう者。

 ダイアゴナルの中に入っていたコンテナの中身、連邦製モビルスーツに乗り込む影が一つあった。

 乗り込んだのはルナツーで選抜されていたモビルスーツパイロット候補生。その中でも一際動きの良かった異才の持ち主。

 ヤザン・ゲーブル中尉その人である。

 

「ザニーストライカー、出すぞ!」

 

 ガンダムと異なり、正規の方法で上面が開放されたコンテナの中から立ち上がるモビルスーツ。それは、地球のマドラス基地で後に目撃されるザニーBと言われる機体に酷似しつつも、細部の異なるもの。

 起動されたそれが隣のコンテナに腕を突っ込んで取り出したのは、長いロッドの先端にビームサーベルが二つ搭載された装備。ツインビームスピアと呼ばれる格闘兵装。

 

『まだ起動できる機体があったのか?』

 

 それを見たシャアは別の装備を探す。

 

『対モビルスーツ戦ができる装備は……ビームサーベル、これだけか!』

 

 ダイアゴナルから自立歩行して出てきたザニーストライカーが手に持つ装備、ツインビームスピアに装備されたサーベルからビームを発振させ、ドッキングベイの床を焦がす。

 それに対応するようにシャアの乗るガンダムも、背中のバックパックからビームサーベルを引き抜いて起動する。

 

「折角のシミュレーターじゃないモビルスーツ戦なんだ、楽しませろよネズミ!」

 

『このパイロット、自軍の物資の損傷を恐れていないのか!』

 

 コンテナをなぎ倒しながら脚部スラスターを用いてのホバー移動を行ってくる敵に対し、シャアは若干の恐れと驚きを抱きつつバルカンを牽制に放つ。が、ダーレやザニーの装甲材であったチタン合金であれば貫通もしくは有効打となり得ただろうに、このザニーストライカーはガンダムと同じルナ・チタニウム合金製。

 自分が乗るはずだった機体と、その摸擬戦相手として選ばれていたモビルスーツの性能諸元を把握していたヤザンはバルカンの弾の中へ突っ込んでいく。

 

『ええい! バルカンは効かんか!』

 

 ビビる素振りすらしないザニーに対してバルカン砲を撃つのをやめてビームサーベルを構えるシャアのガンダムに対し、ヤザンはスピアを横なぎに振る。

 バックステップで避けるが、その隙を突かぬヤザンではない。今度は突きの姿勢のままホバー機動で接近していく。

 

「そう簡単に逃がすかよ!」

 

 スピアとサーベルのリーチ差、そしてガンダムにはないホバー機動の2つの要素は、まともな機種転換訓練もマニュアルも読んでいないシャアを一歩、また一歩と追い詰めていくのに十分な要素を持っていた。

 しかし、モビルスーツの動きを機敏に感じ取る事ができたシャアだからこそ、徐々に後退をしながらの閉所戦闘ができてもいた。

 

『あの2本角がシャア少佐だ! 槍持ちを撃つぞ!』

 

『デニムか!』

 

 シャアが後退していった先にいたのはデニム、スレンダー、ジーンのヅダ。シャアが後退命令を出したジーンはデニムと合流したが、シャアの合流が遅いということで纏まって様子を見に行く判断をデニムがしたからこその援軍であった。

 3機によるヅダ・マシンガンの斉射がなされ、シャアに向かって突進をしていたヤザンのザニーストライカーに120mm砲弾の雨が殺到する。

 

「ええい、ちょこざいな!」

 

 しかし致命傷にはなり得ない。

 ルナ・チタニウム合金製の装甲は、60mmバルカンはおろか120mmのヅダ・マシンガンの通常砲弾すら無効化するほどの強度を誇っていたのだ。

 

「こんなへなちょこ弾で怖気づいてちゃ減棒モノなんだよ!」

 

 マシンガンの弾を無視し、ガンダムに最接近したヤザンに向けてシャアはビームサーベルを振り下ろすが、それを上段に構えたスピアの刀身で受け止めるや否や左脚でガンダムのコックピットブロックを蹴とばす。

 モビルスーツ同士でも蹴られれば相当なダメージとなり、酷い衝撃がコックピットのシャアを襲う。

 それを横目にヅダ3機に照準を絞ったヤザンは、勢いよくスラスターを吹かして飛び込む。

 デニムは経験則から動きを予測してバックステップを行ったが、それができなかったスレンダー機に張り付いたヤザンは、スピアを振り下ろすようにしてヅダの両腕を瞬く間に焼き切った。

 

「モビルスーツ戦に慣れてないんじゃないかぁ!?」

 

『よせ、ジーン!』

 

 振り下ろした隙を突いたつもりであったジーンのヅダは右手をスピアから離し、何かを腰から装備したザニーストライカーの攻撃を避けることができなかった。

 ヒートホークを手にしていた左腕に向けて射出されたそれは、見ればオレンジ色の先端部から出るワイヤーが完全にヅダの腕を捉えている。

 

「怯えてやがるな……このモビルスーツは!」

 

 ヤザンが操縦桿に付いているトリガーの一つを押した瞬間、ワイヤーから高圧電流が流れてヅダのシステムを直撃。メイン回路がショートしたジーンのヅダが沈黙する。

 

『よくも、よくもジーンを!』

 

「セオリー通りの動きではなあ!」

 

 激昂したデニムが吶喊するも運動性の差は歴然であり、横なぎのヒートホークをスウェーの要領で回避すると、ザニーは機体の上半身を戻す反動でスピアの石突部分で一突きしてヅダを仰け反らせる。

 たたらを踏んで無防備になったデニムのヅダに割って入ったのが、ビームサーベルを展開したシャアだった。

 

「自軍のモビルスーツをやりたくはなかったが、邪魔をするなら貴様からやらせてもらう!」

 

『冗談ではない!』

 

 スピアのビームをサーベルで切り結ぶと、ガンダムの足でビームスピアの柄を蹴り上げる。

 人間の脚の力が腕の力より強いように、モビルスーツの蹴りによるパワーで弾かれたスピアを保持することはできなかった。

 一瞬にして攻撃の手段を失ったザニーストライカーに対し追撃を仕掛けようとするも、ヤザンは形勢が悪くなると見て潔く退いていった。さしもの彼も、地に落ちたスピアをガンダムと交戦しながら回収するのは不可能だったからだ。

 

「ええい……ガンダム……」

 

 自らが乗る予定だったモビルスーツを恨めしそうに睨みながら、ヤザンはダイアゴナルに正規の装備を補給してもらうべく撤退する。

 シャアはその隙に3機のヅダに通信を飛ばした。

 

『デニム、スレンダー、生きてるな? ジーンのヅダを回収して脱出するぞ。そっちでドレンに連絡を入れろ』

 

『少佐のヅダは』

 

『そんなものはいい。早く行くぞ』

 

 ザニーストライカーからの電撃攻撃を受けたジーンのヅダは制御系統が死んだままのようで、コックピットからの応答がないのが怖いところだが、死んでいない事を祈りつつ来た道を戻ることにする。

 途中、腕を両方とも失ったスレンダーがシャアのヅダに乗り換えるなどの事はあったが、無事になんとかファルメルへの帰還は成功することとなる。

 一方で問題だったのがダイアゴナル側である。

 

「なに? ルナツーからの援軍が期待できないだと?」

 

 命令違反の出撃となったヤザンであったが、ダイアゴナルとその他多くの人命と物資がジオンに奪われることなく済んだ結果を基に、ダイアゴナル艦長のパオロ中佐は無罪を言い渡した。

 そればかりか奪われたガンダムと互角以上に戦ったヤザンをザニーストライカーの正規パイロットに任命すると、どうにかこのサイド7からルナツーへの脱出を計画することとなったのだが、ここで問題だったのが散発的なジオン軍のルナツーへの侵攻である。

 地上側でジオンの動きが活発になるのに連動し、ルナツーに対して要塞砲クラスの砲撃が加えられる事になったのだ。

 これによってルナツーから地球衛星軌道上やら、ソロモン方面やらに向けて出撃する偵察艦隊などの艦船は軒並み撃破されることとなり、またワッケイン少将が厳に命じた事によって、ダイアゴナルのような特務艦以外の出撃が禁じられていた。

 

「落ち着いてくださいヤザン中尉」

 

「落ち着いてられるか! 聞けばガンダムを強奪したのは、あの赤い彗星っていうじゃねぇか。どうやってヒヨッコパイロット共を抱えてルナツーまで行けってんだ」

 

「でも中尉はやってのけたじゃないですか!」

 

 呑気なことを言っている整備兵を見て、ヤザンは髪の毛を掻くのみで答える事ができなかった。

 あの時は緊急時で相手も分からず応戦したが、その相手が赤い彗星となれば話は別だ。

 このダイアゴナルはコロンブス級輸送艦であり戦闘艦ではないわけで、少なくともムサイ級は持ってきているだろうシャアの部隊からモビルスーツの相手をしつつ、輸送艦が敵の戦闘艦に撃沈されないよう守るのは不可能と言っていいからだ。

 

「ケッ、どうも緊張感に欠けた奴らだ。戦闘の恐ろしさを理解できていないのか?」

 

 一人そう呟きながら整備中のザニーストライカーを見上げるヤザンの下へ、二人の男がやってくる。

 ナンパそうな金髪の男と、真面目そうな見た目の黒髪の男。両方共にノーマルスーツにモビルスーツパイロット徽章が付いている。つまりヤザンと同じモビルスーツパイロット候補生として乗っていた者だ。

 

「なんだ? お前ら」

 

「はっ、ダンケル・クーパー少尉と」

「ラムサス・ハサ少尉であります。パオロ艦長の命により、これより我々はヤザン隊に編入されました」

 

「ヤザン隊、だと?」

 

 聞きなれない部隊名が金髪の男、ラムサスの口から飛び出てきたものだからヤザンは素っ頓狂な顔で聞き返した。

 

「はい。現在このサイド7周辺宙域で待機している、赤い彗星の部隊を打破しルナツーまで突破する為、ダイアゴナルに積んでいる試作モビルスーツで臨時小隊を組むとのことです」

 

 そこまで聞いてヤザンは、ラムサスとダンケルの顔を交互に見る。

 彼らの顔は見たことがない。ヤザンは元々連邦の宇宙軍に所属していたが、モビルスーツパイロット候補生は陸地から上がってきた者もいるし、ダイアゴナル内では殆どの者と顔も合わせずにマニュアルに噛り付いていたからだ。

 よく見れば彼らは顔こそ凛々しかったが、手は震えているしどことなく不安そうだ。

 だからヤザンは努めて柔らかな声色で話しかけた。

 

「お前ら、宇宙は初めてか?」

 

「は、はい! 我々は地上のベルファストから来ましたので」

 

「そうか。無重力には早めに慣れとけよ」

 

 そこまで言って二人の目の前まで進むと、両手でそれぞれの玉袋をむんずと掴んだ。

 思わず両名とも叫びながらヤザンの方を恨めしそうに睨む。それを見て破顔したヤザンは続けてアドバイスを口に出す。

 

「縮んどるぞ! これからが大一番なんだ! しっかりせい!」

 

 そう言って去っていくヤザンを見て、自分達を鼓舞したのだと気づいた二人は大きく返事をしてから自分の担当するモビルスーツのもとへと進んだ。

 両名ともに、この隊長は“当たり”だと思いながら。




RX-78-1 ガンダム
いわゆるプロトタイプガンダム
宇宙空間での摸擬戦等の実験を行うためにサイド7に運び込まれた「V作戦」の集大成
ルナ・チタニウム合金製の装甲とビーム兵器を使用可能なエネルギーCAP技術と強力なジェネレーターを有しており、ジオンのヅダF型どころか最新鋭機ドムの性能を完全に上回る
シャアに強奪された

RRf-06FP ザニーストライカー
エリオット・レム主導によるザクのリバースエンジニアリング計画「ツポレフ計画」の集大成
汎用量産機の開発を目指したのがV作戦なら、ツポレフ計画は局地戦・MS戦特化機を目指したもので、至近距離での運動性に限ればガンダムをも凌ぐ性能を見せる
サイド7でガンダムの摸擬戦相手として運び込まれ、調整段階だったが無理やり運用された
ダーレ・ストライカーで発見された整備性の問題を解決すべくウミヘビが手持ちタイプに変更されている
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