ソロモンへと帰った俺を待っていたのは、勲章・徽章の群れと昇任儀式だった。
原作通りにここまで進んでいるが、ジオンの兵がいなくなっていくのもまた原作通りであった。
結局ザクよりも運動性・機動性に優れたヅダといえど、原作の一週間戦争通りに対核装備と増加推進剤に冷却タンクを載せれば致命的なレベルの機動力低下は免れないわけだ。
一週間戦争で教導団を含む精鋭が数多くいなくなったという記述をどこかで見た事がある。
つまり俺の昇任はそういった穴を埋めるためでもあるわけだ。
「グランか。久しいな」
溜息ばかりをついていた俺の背後から声をかけてきたのは、仮面の男シャアだった。
士官学校ではサングラスだったシャアは、いつの間にやらけったいな仮面を着けるようになっていたが、どちらかといえば見慣れているのはこちらの顔だ。
「聞いたぞ。先のブリティッシュ作戦では大戦果を挙げての昇任だったそうじゃないか」
「戦時昇任だよ。それに、あの戦場は
俺はブリティッシュ作戦でサラミス級巡洋艦3隻、マゼラン級戦艦3隻、コロンブス級輸送艦1隻を撃破していた。おかげで中尉に昇任したし、パーソナルカラーの使用権限まで貰えたのだが、どうにも喜べなかった。
「どうした?えらく謙遜するじゃないか」
「シャアは、あの光景を見たかい?」
俺の網膜には、あの光景が染みついてしまっていた。
「空が墜ちてくる」とまで言わしめた悲劇。
「……コロニー落としか」
「ああ。あれは、あれは人がすることじゃあない」
ザビ家の批判とも取りかねない事を口にした俺をシャアは慌てて制した。
ここはソロモン。ブリティッシュ作戦の実行指揮を行ったドズル中将がいる場なのだ。現場とは違ってザビ派に傾倒した人間も多い。迂闊だった。
「気持ちは分かるが滅多な事は言うもんじゃない。あのランバ・ラル大尉ですら意見をして左遷されかけたと聞く」
「そうだな、気を付けるよ……そういえば、ルウムには君も出るんだろう?」
「ああ。ようやくまともな実戦というわけだ」
シャアは史実通りであれば、このルウムで戦果を挙げて昇進。その後V作戦をキャッチするわけだ。
しかし、今回はそうはいかないかもしれない。俺は少しばかり踏み込んでみることにした。
「なあ、シャア。お前ヅダになんかチューニングしてないか?」
「よくわかったな。メーカー側が3段階に渡って設定してあるエンジン出力のリミッターがあってな。整備兵を説得して2段階目まで外して貰っている」
そういう事だったのか……。実はヅダの機体剛性自体はガノタに言われているほど酷くはないという説もある。これの根拠はイグルー本編でジムと同じ機動をした際、ジムの方が早く空中分解を起こしているところにある。
つまり、実は当時のモビルスーツがヅダのエンジンを積んで同様の機動をすれば、ヅダでなくとも空中分解はするし、なんならヅダよりもよっぽど早く分解するのではないか、という説だ。
事実、外伝では機体外装を補強した上でリミッターまでかけたヅダが活躍している作品もある。
この世界のツィマッドは木星エンジンの出力過剰さと暴走を起こしてしまう欠陥をしっかり把握した上で、なんと3段階ものリミッターをかけてテストと採用試験を行ったわけだ。
3段階もリミッターをかけているのにザクを凌駕する速度を出せるのはさすがというか、驚くしかないというかといった感じだが。
それはそれとして
「お前、正気か?」
「テスト飛行は無事だったぞ」
リミッターがない状態を史実の不採用ヅダとして、それを3段階にも厳重にリミッターをかけているメーカー側の考えを汲み取れよ!このアホ。死ぬ気か?
ヅダのリミッターはトランザムじゃねぇんだぞ。ツィマッドはツィマッドでそんな簡単に付け外しできるようにしとくなよ!リミッターを付けたとこまでは感心したし、信用できるななんて思ってしまった。
「なんだ。グランはリミッターをかけているのか」
「外してるわけないだろ。お前は人類皆スピード狂とでも思ってるのか?」
「ははは。でなければここまで機動力の高い機体は作れないだろう?それに、君と同様にブリティッシュ作戦で戦果を挙げたデュバル少佐はリミッターを一切つけてないと聞く」
何考えてんだあのオッサン!!!
いや、確かに一人でも多くの将兵が欲しかったジオンが、最もヅダに精通していると言っても過言ではない男をテストパイロットの座から下ろして戦地に送るのは理解できる。
だがリミッターがかかった量産機のリミッターを外すのを簡単に許可しすぎじゃないか?ふざけてるの?兵士を殺す気なの?
英雄に憧れた新兵が真似するとか考えなかったのか軍部は。
「んなことしなくてもヅダは過剰なほど高機動だよ」
「しかし、リミッターを外したヅダは快適だぞ?なにせ通常の倍は制動力がある」
「いや死ぬわそんなん」
トールギスでも目指してるのか?
生憎、この一年戦争ではモビルドールなんて出ないし、俺は
凡人は凡人らしく慎ましい機体性能で戦うのが一番だ。
「さて、私も部下との顔合わせが控えているからここらで同期会は終わりとしよう」
「同期か……ガルマとまた会えるのはいつになるかね」
「さあな。ガルマは同期とはいえザビ家の人間だ。我々とは全く別のルートで戦場に出るはずだ」
俺、シャア、ガルマは同期間でも結構仲が良かった方だと思う。
優秀なシャア。シャアをライバル視して奮闘するガルマ。それを見物人感覚で間近で見てるうちに好成績を取れた俺。
周りがザビ家の子ということで遠ざけてたガルマに話してただけなのだが、意外にもそれだけで仲良くなることができたし、2人とも優秀だったからおこぼれにも恵まれたって感じだな。
テレビの中で動いてたキャラでも、実際に会って同じ釜の飯を食えば仲間意識が芽生えるものだ。
俺が懐かしい光景を思い出していると、シャアが通路の壁を蹴って俺の進行方向とは逆の方へと身体を流しながら爆弾発言をしでかした。
「ルウムでは撃墜数勝負とでもいかないか?ブリティッシュ作戦で活躍した『灰の凶星』グラン・リース中尉」
「おい、ちょっと待て。今のはなんだ」
驚く俺を見て笑いながらシャアは去っていったが、俺は嫌な予感がして急ぎ艦に戻って更に唖然とした。緑カラーだった俺のヅダが灰色に塗り替えられていたのだ。
機付き長ははしゃぎながら塗装とチューニングの話をしてきたが全く耳に入らなかった。一応、リミッターは絶対に外すなと厳命だけはしておいた。
全く困った事になった。早く戦果を挙げるだけ挙げて、さっさとヅダから乗り換えるなり後方勤務に変えてもらうなりしたかったというのに、こんなプロパガンダに使われちゃそれも夢のまた夢だ。
なにせ二つ名を持った上でルウムに突入だ。軍は俺を休ませる気はないらしい。
ちなみにデュバル少佐は「蒼き幻影」という二つ名を手に入れました。