ヅダですが?   作:のり

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ルウムですが?

 サイド5ルウム。悲劇にも次なる戦地に設定されたコロニー群への侵攻は、表向きには『再度のコロニー落とし』に向けた前段作戦と喧伝されていた。

 これはオーストラリアの都市シドニーをシドニー湾に変貌させたあの悪夢を繰り返すまいと連邦に思わせるための策略であり、ブリティッシュ作戦で多数の艦隊を失った連邦がルナツーに引きこもるのを阻止するための作戦でもあった。

 ギレン・ザビから各部隊に通達された電文は以下の通り。

 

≪人類史上 決戦ノ舞台 宇宙ノ試シ無シ. マシテ艦隊決戦ノ試シ無シ. 諸君歴史ヲ生ムベシ.≫

 

 これはこの戦争の到達点が、一貫して地球連邦軍の宇宙での影響力を粉砕することにあると宣言したも同然であった。

 ブリティッシュ作戦の失敗は戦争の長期化にあらず。先のコロニー落としによって刻まれた恐怖こそ、連邦を破滅の舞台へと誘い込む罠となるというのだ。

 

「さて、この中にルウムの出身の者はいるか?」

 

 俺は階級が上がった事でムサイに搭載されたMS一個小隊を預かる身に変わっていた。

 ジオン側がわざと連邦にルウムを攻撃すると流した事を逆手にとった俺は、ムサイのクルーを急いで集めるとその意図を説明してやった。

 

「これから3日後。俺達はサイド5ルウムに侵攻することになる。ドズル中将はコロニー落としが目的ではないと言ってはいるが……どうなるかは分からん。家族がいる者は迷わず連絡を取れ。そして可能なら逃がせ」

 

「グラン中尉、機密違反だぞ」

 

 案の定、艦に搭乗している政治将校の特務中尉(少佐相当)が嚙みついてくる。

 しかし既に電文も出回っているし、何より連邦にすらこれは筒抜けにしているのだ。何も怯える必要はない。

 

「特務中尉。既に作戦の内容は連邦にも知れ渡っています。なら、民間に流れたところで何も変わらんでしょう。それに将兵に不安の種を残さないでやることも上司の仕事なのです」

 

「念のため報告はさせてもらうぞ」

 

「ご勝手に」

 

 憤りながら退室していった政治将校を後目に、部下への質問を俺は続けた。もしさっきみたいなのが怖いなら、俺が手回しまでしてやるとも告げた。

 ジオンがやろうとしているのはスペースノイドの独立運動だ。そのためにスペースノイドを犠牲にするなんて間違っている事だと思う。これでは勝ってもジオンは歓迎されない。

 この戦争でジオンがやらなくてはいけないのは、勝った後にジオンが勝ってよかったとスペースノイド全体に思われるような雰囲気作りだ。既にコロニー落としをしているから無理難題のようにも感じられるが、それなら猶更ここから挽回しなければならない。

 別に俺はいつだってヅダから降りて軍を退く気でいるのだから、今更昇進など気にもしてないし、それなら部下のため人のためにこの権力を使ってやろうという心であった。

 

 

 

 

≪≫

 

 

 

 

 宇宙世紀0079 1月15日

 ルウムに向けドズル中将指揮下の艦隊が進軍していく中、我々モビルスーツ部隊をたっぷりと載せた別働隊はまったく異なるルートを辿っていた。

 このルウム戦役の鍵を握るのは間違いなくモビルスーツである。が、しかしモビルスーツも万能の兵器ではありえない。結局のところ、宇宙戦での戦術上は手と足のある戦闘機のようなものでしかない。

 つまりは射程外から弾幕を張り続けられれば近づけない代物で、その効力を十二分に発揮するためには相手の意識外からの初撃が必要であった。

 そして、このルウムではその相手の意識を削ぐ目的を主力艦隊で担おうとしていた。

 

「しかし中尉、さすがに対艦ライフルだけというのは……」

 

「いいんだって。さっさと撃って帰ってくりゃいいんだから。さ、マシンガンの分増加弾倉を持たせてくれよな」

 

 慌ただしくモビルスーツの発進準備が進められる艦内で、俺は機付き長に次の出撃の武装の変更を申し出ていた。

 俺はヅダマシンガンを捨て、ヒートホークも持たず、対艦ライフル一本でやっていくことにした。

 結局のところ対艦用に120mmの弾丸を用いるヅダマシンガンは弾速が遅く、セイバーフィッシュなどを迎撃するには不向きだ。なのにも関わらず、戦艦に対してはある程度命中させ続けなければならないので、ヅダの高機動力を活かしきるのが難しい。

 ルウムは艦隊を相手にするのだ。ならば対艦ライフルさえあれば十分だ。

 

「はいはい……それと、中尉の要望通りにチューニングとかは一切しませんでしたから」

 

「そう!それでいいんだよそれで」

 

「普通逆だと思うんだけどな……」

 

 俺がシャアと話してから整備クルーに徹底させたことがある。

 変なチューニングとリミッター解除を行わない事。

 軍内部ではデュバル少佐の活躍もあって裏技的存在のリミッター解除が噂になっており、整備兵にそれを打診するパイロットが出てきているらしい。

 メーカーであるツィマッド社は異例の事態に対応し「リミッターの1段階目までは解除しても直ちに影響は出ない」との声明も出してはいるが、念には念をということだ。

 それに、以前から言っている通りヅダの機動性は今の状態でもザクを凌駕している。

 これ以上はオーバーだ。

 俺は先んじて部下に「普通の速度で戦果を挙げてから」と徹底教育を行い、同時に整備兵側にもリミッターはいじらないことを要求した。

 

『MS射出地点まであと1分!繰り返す。MS射出地点まであと1分で到達する!』

 

「よーし、中尉の1番機から出すぞ!1番機出撃!」

 

 艦内放送と共に最終調整を終えた整備兵達がMSデッキから退散していく。残ったのは発進の為に誘導を行うクルーのみだ。

 ムサイの後方が開放され俺のヅダが射出。その後続けて残りの搭載機が発進する。

 しばらく航行し、ミノフスキー粒子の影響でムサイとの通信が切れると、近距離通信で3番機から呼び出しがかかる。何事かと開いてみれば、シュッツが泣きそうになりながら報告してきた。

 

『グラン中尉。ありがとうございます』

 

「どうしたシュッツ」

 

『俺の兄夫婦はルウムに住んでたんです。中尉の話のお陰でサイド6に移れたみたいです』

 

「そうか。サイド6は中立を宣言していたんだったな。なら一安心だ」

 

 政治将校に睨まれながら話した甲斐があった。

 ニヤリと笑いながら機体を進めていくと、先の方で光が見えた。ルウムだ。

 周囲をよく見れば点々とヅダのスラスターの光が見える。広範囲に数隻ずつ配置されたムサイやパプアからそれぞれ発艦してきた機体だろう。

 

『中尉、見慣れない艦と……何かデカいのが見えます』

 

「ん?」

 

『戦場から少し離れた……11時方向のアレです』

 

 2番機(アイゼン)が発見したアレは、間違いない。ヨーツンヘイム(603技術試験隊)とヨルムンガンドだ。

 恐らく原作同様に観測データが送られずに困っているのだろうか。いや、待て。撃った……まあ観測データ無しに原作でも撃ってたか。と思ったのもつかの間、すぐさま2射目が放たれる。

 おかしい。何が起きている?

 発砲先を見る。爆炎。

 放たれた2射のプラズマビームは見事なまでに連邦艦隊に命中。1射目でマゼラン級を撃沈せしめただけでなく、2射目に至ってはサラミス級を貫通し、その後方に控えていたもう1隻のサラミス級まで撃破した。

 

『すげぇ……あれも新兵器なのか』

 

 思わずシュッツが感激の声を漏らすが、これはもしや観測データが正しく送られている世界線だとでもいうのか?

 ならばやることは一つ。原作でヨルムンガンドに向けて突撃を仕掛けてくるマゼラン級を消し飛ばしてやる。

 

「アイゼン、シュッツ、あれは試験部隊が運用している艦隊決戦砲ヨルムンガンドだ。アレに近い艦艇から掃除していくぞ」

 

『了解!』

 

 そうと決まれば速度を上げる。

 もたもたしてはいられない。歴史を変えるチャンスなんだ。

 IGLOOの話は悲惨だ。どの話の人物だって生き残ったところでその兵器は採用される見込みはないし、その人物が生き残ったという結果だけが残り大勢に影響は出ない。

 だが、それでも何かが変わる事を俺は期待していた。

 ブリティッシュ作戦では忌避していたヅダのギアを上げ、猛スピードで前進する。

 

「アイゼン、シュッツ、ヨルムンガンドを援護する!セイバーフィッシュとミサイルの迎撃を優先!」

 

『任せてください隊長!』

 

「俺は艦を叩く。無理してついてきて戦艦の対空砲火の中に突っ込むなよ」

 

『身の丈に合った戦い方は心得てますよ』

 

「よし、それでいい。生き残るんだ」

 

 まずは奇襲。今の位置から最も近い位置のマゼラン級を狙う。艦橋の下。動力炉や弾薬庫に繋がるバイタルに撃ちこむ。

 1発、2発。続けざまに放った2射でマゼラン級は沈黙した。こうなってしまえば容易い。

 続けて狙ったのもマゼラン級。もし仮に歴史の修正力があるのなら、マゼラン級がどこかのタイミングでヨルムンガンドに突っ込んでいく可能性がある。

 なら、ここら一帯のマゼラン級を根絶やしにすればいい。

 サラミス級数隻が輪形陣を組んで防衛するマゼラン級に接近し、有効射程を確保した上でライフルを放つ。対空砲火の隙間を縫うようにして接近した甲斐があり、一撃で爆散した元戦艦の破片は付近のサラミス級に飛散し、不幸な一隻は艦橋にデブリと化した破片が当たって沈黙する。

 

 残りの片づけとしてサラミス級を屠っていると、俺の真下にいたサラミス級が艦砲を上げ、つまりは俺の方へと向けてきた。もちろん避けるのは容易だが、どうにもそれが()()()()と直感した俺は無視して前方のサラミス級に発砲を続けた。

 するとどうだ。強力なプラズマ波でレーダーに砂嵐が入ったかと思えば、下のサラミス級が吹き飛んでいった。

 

「ヨルムンガンドからの砲撃か!?」

 

 だが一体どうやってそんなピンポイントで撃ったんだ?

 モビルスーツ隊が出たタイミングでジオン艦隊は一度艦隊の陣形を立て直すために距離をとった。観測できるやつはいないはずだし、モビルスーツ隊の中でそれをしているものなどいまい。

 俺はモノアイを左右に動かし、原因を発見した。

 観測艇だ!原作でオリヴァー・マイとヒデト・ワシヤが搭乗し、シャアと対面したあの観測艇が戦場を駆けていた。

 

「そうか、そういうことか!」

 

 俺は理解した。

 これはヨルムンガンドに観測データが艦隊から送られていた世界ではない。

 オリヴァー・マイの決断が原作よりも早く、ザクと出会う前に戦場に観測データを取りに行った世界だったのだ。

 

「アイゼン、シュッツ、少し頼むぞ」

 

『隊長?』

 

 観測艇に接近した俺は近距離通信をオープンした。

 

『灰色のMS-04(ゼロヨン)!?』

 

「こちらはフレズベルグ隊のグラン・リース中尉だ。ヨルムンガンドの砲術士と観測班の援護感謝する。しかし、その観測艇でこれ以上のデータ取得は危険だ」

 

『その指摘はごもっともです。しかし……』

 

「だから俺の機体が目の代わりになってやる。さあ、観測データを送るためのコードを教えてくれ」

 

 俺はヨルムンガンドにも希望があると踏んでいた。

 原作であのような結果に終わったのは、結局のところ運用が合っていなかったからだと思っていたのだ。

 ヨルムンガンドの真骨頂はその火力にあらず。真価は観測データがないとまともに運用ができないレベルの長射程にある。

 エンディングでオリヴァー・マイが振り返っていたように、もしMSと同様の信頼を勝ち得ており、艦隊からの正確な観測データが継続して送られていれば結果は変わっていた可能性も高い。

 そして、このミノフスキー環境下でその役目を十全に果たせるのはMSに他ならない。

 

「俺の機体がこれから敵陣に切り込む。それで得たデータを送信するから援護砲撃を頼みたい」

 

『そういうことなら、お願いします!』

 

「よし……では()()を頼むぞ」

 

 連絡コードを受け取った俺は、再び連邦艦隊の中へと突っ込んだ。そして座標を取得した後に確信した。

 やはり、と。

 俺が更に移動しながら艦艇に発砲をしていくと、俺が撃ち漏らしたサラミス級やマゼラン級に対し、正確無比な砲撃が加えられていった。

 このヅダは指揮官機だ。史実のザクがそうであったように、ブレードアンテナを始めとする通信強化装備が施されている。ミノフスキー粒子下であろうと中距離通信ぐらいなら可能な程の強力な装備だ。

 そこらの観測艇よりも通信環境は良い。

 

『隊長!ヨルムンガンドの方に!』

 

「サラミスか?マゼランか!?」

 

『いえ、セイバーフィッシュです!』

 

「何?クソッ!ついてこい!」

 

 

 

≪≫

 

 

 

「ヨルムンガンド!ヨルムンガンド!迎撃のセイバーフィッシュがそちらに向かっている!」

 

 オリヴァー・マイの叫びは無事にヨルムンガンドとヨーツンヘイムに届けられた。

 しかし、相手は足の遅い艦ではなく戦闘機。自走機能が皆無に等しいヨルムンガンドは勿論、旅客船を改造したヨーツンヘイムもまたそれから逃げる術も、そして迎撃する手段も持ち合わせていなかった。

 

「直ちに退避してくれ!」

 

 叶うはずもない願いを叫んだオリヴァー・マイとヒデト・ワシヤの乗る観測艇を無視し、セイバーフィッシュ5機編隊が宙を駆ける。2人の母艦と大蛇を狙って。

 そして時は来た。セイバーフィッシュの翼下から大型対艦ミサイルが放たれ、一直線にヨルムンガンドへと向かっていく。あの巨体だ。無線誘導も有線誘導すらもいらない。

 もう間に合わない。そう思った直後、ミサイルが何かによって貫かれた。

 

「なんだ!?」

 

 ヒデト・ワシヤの疑問も最もだ。信管距離の設定ミス?いや、そんなわけがない。

 続けて爆発したのはヨルムンガンドでもヨーツンヘイムでもなく、セイバーフィッシュだった。

 閃光と共にセイバーフィッシュを貫いたのは、明らかにヨーツンヘイムに無理やり増設された対空砲のものよりも重く、そして速い弾。

 

「接近警報!?」

 

『間に合ったか』

 

 観測艇を次に追い越したのは、セイバーフィッシュではなく人型の兵器。

 灰色の機体が1機、緑の機体が2機。

 長砲身の対艦ライフルを持った機体が先行して更に撃破すると、続く2機はマシンガンを用いて残りのセイバーフィッシュを片付けた。

 

「灰色のヅダ……灰の凶星……」

 

『ヨルムンガンド、聞こえるか?そちらの援護のお陰で助かった。これはその礼としておいてくれ』

 

 それだけ言うと再びヅダ3機は戦線へと向かって駆けていった。宙域に残されたセイバーフィッシュの残骸と、彼が投棄した135㎜弾倉のみがこの状況を現実だと教えていた。

 それから連邦の艦隊から後退信号が上がるまで、そう長くはかからなかった。

 

 

 

 

 

 

≪試作艦隊決戦砲──ヨルムンガンド──技術試験報告書≫

 

 ルウムにおける艦隊決戦に際し、ヨルムンガンドは配当された全ての弾薬を使用した。

 最初の2発は直接照準射によるものだったが命中せず。

 その後観測艇による間接射撃指示によりマゼラン級1隻とサラミス級3隻を轟沈せしむ。その威力抜群なり。

 更にその後、友軍のMS-04(ヅダ)による観測データリンクによって得た情報で多数の砲撃を行い、艦艇や観測機では不可能な距離における正確な有効間接射に成功。

 最終戦果はマゼラン級4隻、サラミス級6隻であった。

 しかし艦隊戦の最中、敵航宙機に発見され危機に陥った際は防衛手段がなく、友軍のMS-04(ヅダ)が駆けつけなければ撃破されていた事は明白である。

 

 この事から、艦隊戦よりも要塞の防衛兵器などとして活用し、他の機動兵器による偵察で観測データを得ての砲撃が最も有効な運用法だと考察する。

 

 宇宙世紀0079年1月17日 オリヴァー・マイ技術中尉




絶対ヨルムンガンドの活用法は艦隊決戦砲以外にあると思います
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