ルウム戦役での戦果、マゼラン級2とサラミス級4撃沈は俺の階級を更に一つ上に押し上げるのに一役買った。おかげで大尉にまで昇進してしまった。
同時に、ヨルムンガンドを運用していた603試験隊からの上申もあったようで、フレズベルグ隊に所属している2名、アイゼンとシュッツもまたそれぞれ1階級昇進することとなった。
正直俺の昇進はどうでもいいものだが、部下が喜ぶ姿は中々うれしいものである。
だがこれは今回得たものの中ではどうでもいい部類である。
最も重要なのは今ヨーツンヘイムから受領している3機のモビルスーツと、この部隊の存在意義の変化だ。
「MS-04F 通称ヅダF型。テスト時のものをほぼそのまま踏襲していた初期型ヅダですが、これにルウム戦役までの運用データと現場からの要望を取り入れて改修した機体です」
「ヅダFねぇ……」
搬入中のモビルスーツを見上げながらオリヴァー・マイ技術中尉の説明を聞くが、見れば見るほどこのヅダF型という代物は「よく知るヅダ」であった。
細部が異なっていた初期型と比べるとよく分かるが、所々の違和感と呼べる部分が綺麗さっぱりなくなっている。
「肩部にレール構造を取り入れたのが一番の特徴で、懸架されているシールドを自在に可動させる事ができます」
「確かに固定タイプは使いづらかったから助かるな」
整備兵によってシールドの可動テストが行われているが、前方・側方・後方の3種類に動かせる上、向きも変えられるとなれば自由度は跳ね上がるだろう。
更にはウェポンラックも機体各所に追加されている為、継戦能力の向上も凄まじい。
ん?こう考えるとヅダって中々悪くない機体なのではないか?
ザクと違ってシールドも使いやすいし、シールド内蔵ピックを使う方が明らかにショルダースパイクを使うより簡単そうだ。
「なあ中尉、なんでこの新型がデュバル少佐じゃなくて俺に来たんだ?」
それでも疑ってしまう自分がどこか嫌だった。が、まあ仕方ないだろう。事故を起こしたといっても映像作品では流れていない初期型と、映像作品で明確に2機自壊しているF型。明らかにヤバそうなのは後者だ。
というか、そもそも論ヅダに精通してるやつに渡した方がいいだろ。
「それは違いますよ大尉」
「どうしてだ」
「デュバル少佐はヅダを知りすぎてるんです」
「それの何がいけないっていうんだ?知っているなら十全に性能を引き出せるだろうに」
「それが問題なんですよ。リミッターすら解除された状態で採られたデータは、多くの兵士が運用する量産機には不向きなんです」
「そこで、リミッターを完全にかけた状態で一定の戦果を挙げている俺に先行配備というわけか」
「そういうことです」
なるほど、確かにそれは的を射ている話だった。
デュバル少佐は完全にリミッターを解除しているのは有名だし、シャアは2段階目まで外しているのを自白していた。それだけじゃない。ルウムで戦果を挙げたエース達は、その殆どがリミッターの一部解除を行っているという噂も広まっていた。
正直俺からすれば正気とは思えない沙汰だが、しかしエースが機体に更なる機動力を求めがちというのは、まあ分からなくもない話だ。
ところが一般兵にそんなものはいらない。俺にもいらない。
前から言っているがヅダはそもそも出力過剰な機体だ。なにせリミッターを3段階もかけて尚ザクを凌駕した性能を発揮できるのだから。
そんな機体、本来ならエースでもないパイロットは持て余す訳で、リミッターがあるからこそこのヅダは量産機たりえているとも言えるのだ。
量産機としては破綻しているようにも思えるが、ある意味でエースと強い量産機が生まれないと国力差を覆せないジオンの現状は、このヅダの設計に悲しいまでにマッチしていた。
「大尉は我々603にとっても、ヨルムンガンドにとっても恩人です。ご武運を」
「我々一同も同じ想いだ。オリヴァー・マイ技術中尉」
灰色のヅダF型の前で握手した姿はヨーツンヘイムのスタッフに撮影され、その後本国のプロパガンダ誌に載る事になるのだが、それは俺にとってはどうでも良い話であった。
≪≫
宇宙世紀0079年 2月10日
フレズベルグ隊に新たに通達された命令文は以下の通り。
『地球軌道上の制宙権を確保すべく
つまりは、命令を一々出さないから適当にやれという事だった。
だがやるべきことは多い。
既に軍部には噂立っているが、次の目標は宇宙ではなく地球。スペースノイドが地上を侵略する番だというのだ。
まあ、ある程度ガンダムに触れたガノタなら知っているだろう。3月から始まる地球降下作戦だ。
ルウム戦役にて撃破した連邦艦は、参加した艦隊のおおよそ8割。上層部、いやギレンはここまで叩けばこれ以上表立った干渉は避けてくるだろうと踏んだのだろう。ルナツーは無視して地球を攻めるようだ。
と、史実ではなっている訳だが、正直こう思った者も多いんじゃないか?ルナツーを攻めてしまえばいいのにと。
実際、俺もこの世界に転生してジオン軍に入隊するまではそう思っていたさ。
だがそう簡単に事が進むなら、ギレンはさっさとすましているだろう。
ルナツーはデカい。全幅180㎞は伊達ではなく、比較対象としてソロモンやアクシズを出すとその6倍の大きさとなる。
これは冗談ではない大きさだ。
オデッサを攻め落とし、アムロinガンダムが敵エースをなぎ倒した後のイケイケの状態な連邦でさえ、ソーラーシステムを使わなければソロモンを落とせなかったのだ。
であれば、ブリティッシュ作戦とルウム戦役でボロボロになったジオン艦隊にそれ以上の規模の要塞を攻め落とすだけの余力はあるだろうか?
ない。残存連邦艦隊だけならまだしも、要塞そのものを攻めるだけの戦力がない。
モビルスーツを生産し降下部隊を編成する方が、戦艦を増産して艦隊を組みなおすよりも遥かに手間暇はかからないのであった。
これは賭けだったのだ。
南極条約の締結時、逃げ出したレビルが「ジオンに兵なし」演説をしたために続行することになったこの戦争を、どうにかして早期に終結させるための分の悪い賭けだ。
そのためにはルナツーを攻める戦力が整うまで悠長に事を構えている暇がなかった。
それが俺が知った地球降下作戦の真実だった。
『グラン大尉、敵パトロール艦の反応をキャッチしました』
「やはり地球軌道は大事と見えるな……この宙域には第105降下師団が30分後に到着する。急いで片付けるぞ!ヅダの用意急げ!」
パイロットスーツに着替え、急いで灰色のヅダF型のコックピットに飛び込む。
「慌ただしくなっちまってすまないな」
『これが仕事ですからね。大尉、ご武運を』
アイゼンとシュッツの機体はムサイの直衛に残し、俺の機体だけを前に出す。
スラスターを吹かし、先手を打つ。
「う、おおお」
これまでのヅダとは全く違うGを感じる速さ。加速が余りにも違いすぎる。
カタログスペック上、エンジン回りの数値は変わっていなかったはずだ。となれば、この加速は重量の変化だけで齎されていることになる。
史実でのザクC型と同様に、初期型ヅダは耐核装備を施されていた。これを取り除いたF型は、結果的に10トン近くの減量に成功はしているのだ。
確かにザクもF型になってから機動力の向上が見られ、被弾率が大きく減少したと書かれることはあるが、なるほどこれは逆にじゃじゃ馬化している。
ヅダが思いのほか癖のない機体だと感じたのは、本来よりも10トン以上重い耐核装備であったことと、リミッターが厳重にかけられていたからに過ぎなかったのだ。
「だが、慣れれば!」
機動のクセを掴めば、じゃじゃ馬も癖があるだけの早馬に過ぎない。
ペダルの踏む量、操縦ハンドルの傾け方、元のヅダから少しばかり変えてやれば素直なものだ。
『敵はサラミス級2、護衛機は無し』
「威力偵察がてら補給艦でも狙いに来たか?舐めたことを」
メガ粒子砲の一斉射が来る。AMBACとサブスラスターによって最小限の動きで回避する。
良い。このレスポンスは慣れれば前よりもずっといい。
135㎜の射程圏内まであと5000。いや、この場合は違うな。
対艦ライフルを構えたまま、更にスロットルを上げて接近を行う。たった2隻の巡洋艦。砲火の密度もルウムやブリティッシュ作戦の時とは比べるまでもなく低い。
「なら接近できるか」
放たれたミサイルを躱し更に接近する俺のヅダに怯えたのか、サラミス級は今更になって怖気づいたのか回頭を始める。
接近してくるのがヅダ1機であればどうにかなるとでも思ったのか?
今生きているのはルウムの生き残りなのはそうだろうが、だとしても甘く見られたものだ。
「今更逃げようなどと」
135㎜の行進速射。2発の弾は回頭し側面を晒したサラミス級の推進部を的確に貫いた。
火を上げて敵艦は速度を落とすが、それで撤退を許すほど優しくはない。
シールド裏に追加された武装マウント。そこに搭載して持ってきていたシュツルムファウストを手前のサラミスを追い越しながら、それの艦橋部へと2発放つ。
当然避けることすらさせなかった至近距離からの射撃はサラミス級のブリッジクルーを焼き殺し、大きな爆炎を戦場に生んだ。
「これで終わりだっ!」
シールドピックを可動させ、2隻目のサラミスの側面に突き立てる。そして推力にまかせて機体を動かすと、サラミス級に大きな亀裂が生まれ、そこを起点に爆発していく。
巡洋艦クラスの装甲を食い破る程の火力があるのなら、間違いなく今後現れるであろうジムの装甲は容易に貫通できる。
小規模なこの遭遇戦は、俺にヅダへの信頼度を多少上げるだけの効力を持っていた。
本作でのヅダの扱い
初期型ヅダ → 漫画版IGLOOの巻末資料に記載のYMS-04の方のヅダ。
ヅダF型 → IGLOO本編で登場したヅダ。ただし土星エンジンは完成しておらず木星エンジンのまま
ヅダF → 名称がややこしいが外伝で出てきた方。まだない。