ヅダですが?   作:のり

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地球降下ですが?

 宇宙世紀0079年 4月18日

 

 3月初頭から開始された第三次までになる地球降下作戦は滞りなく進行し、オデッサ、キリマンジャロ、ニューヤークとキャリフォルニアベースを中心とした重力戦線が構築されていた。

 俺達フレズベルグ隊はその間、独自行動による軌道上制宙権の確保に努めてきたが、本日付で別の指令が下される事になった。

 

「『フレズベルグ隊は宇宙突撃軍から地球侵攻軍へと配置転換し、北米戦線に合流されたし』⁉今更になって地球に降ろされるのか」

 

 大規模な降下作戦を行わなくなったジオンは、既に確保してある制宙権の維持に俺達が必要ないと判断したらしい。

 なるほど確かに納得のいく答えではあるが。

 

「北米か……ガルマの部隊だな」

 

 地球降下作戦によって得た地域の中で、最もジャブローに近い北米はマ・クベなどの主要将校ではなく、ザビ家の末っ子であるガルマ・ザビ自ら指揮を執っての侵攻であった。

 だからどうしたというわけではないのだが、士官学校以来会っていない友人と会える可能性があるのが戦場とは。戦争中の軍の軍人同士仕方がない面もあるが、苦笑せざるを得なかった。

 さて、地球に降下は5日後。ここのクルーとは別れてアイゼンとシュッツ、そして俺のヅダを詰め込んだHLVを用いて降下。現地のギャロップと合流して再編成という流れらしい。結局、北米に行ってもやることは変わらず、フレズベルグ隊は独立機動打撃部隊として扱われるらしい。

 

「大尉の下でなら、地上だろうが水中だろうが行って見せますよ」

 

 アイゼンとシュッツは心強い言葉をかけてはくれるが、正直俺は心配だった。

 

「2人はオデッサの作戦報告を読んだか?」

 

「いえ」

 

 まあ士官でもなければ、わざわざ読もうとは思わないか。

 第一次降下作戦で攻略したオデッサ。たった数日で制圧したと言えば聞こえはいいが、降下奇襲による電撃戦を仕掛けたにも関わらず予想以上の苦戦を強いられた記録が残っている。

 主力として用いられた初期型ヅダは、耐核装備の残った機体なだけあり重い。それはもう重い。

 史実の機体からしてザクより重く、重い機体を強力なエンジンで飛ばすという設計思想は宇宙では問題なかった。

 しかし、全備重量80トンを超えるその巨体は重力戦線においては致命的な欠点となってしまった。

 重さで土に沈む足、不幸にもこの時期に珍しい降水で地盤が緩んでいたなどで苦労も多かったらしい。

 更には平坦な平野の多い地形では17mもの巨体はかなり悪目立ちしてしまい、思わぬ場で砲火を浴びる事も多い他、空中からの爆撃にも苦しめられたらしい。

 

「宇宙じゃMSは有利に働いたが地上は3次元的な機動は難しいし、何より地の利のある連邦の部隊相手に苦戦を強いられているらしい」

 

「でも、3回に及ぶ降下作戦は成功してるんでしょう?」

 

「ああ、だがそこまででしかない。ギレン総帥もここまですれば連邦の心が折れると思ってたんだろうが、思いのほか相手は冷静だったようだ」

 

 連邦上層部は時間が自分たちの味方であることを分かっている。

 3度の降下作戦で拠点は喪失したものの、戦線自体はなんとか維持していた。

 物量にものを言わせた抵抗は、兵も物資も足りないジオンを苦しめていたし、地理的に不利なジオン軍相手にゲリラ作戦は有効に働いていた。

 今なら分かる。ジオンは負けるべくして負けたのだと。

 地球に降りた時点で、ジオンの敵は連邦だけではなくなっている。地球の環境そのものがジオンの敵となっているのだ。

 

「欧州戦線と比べれば北米はまだ安定してる方だ。まだマシといったレベルではあるが」

 

 南米ジャブローに最も近い最前線。しかし抵抗の最も強い欧州と比べれば相当良い状況なのもまたこの北米であった。

 その一因を築いているのはガルマ・ザビというのを俺は知っている。

 アースノイドに強い不満と劣等感を抱くスペースノイドが多い中、唯一現地住民と融和政策を行ったザビ家の末っ子。

 メディアによってはドズル・ザビを従える程の政治的手腕を持っているとすら評価される彼は、重力戦線という悪魔の鍋をデギンが見捨てないようにするため、一種の人質のような形で送り込まれていた。

 そんな一見すると一般兵からすれば関係のない話も、ガルマ・ザビのいる戦線だからと補給が手厚いのは有名な話でもあった。

 欧州戦線が苦しいという時にわざわざ北米に俺達を送るというのは、上層部の「宇宙に置いておくには勿体ないが地上に送って殺されても困る」という、政治的な面が見え隠れしていた。

 

 

 

≪≫

 

 

 

 地球に降りた俺達を待っていたのは、意外にも歓迎の嵐であった。

 というのも、地球降下作戦の際に軌道上の制宙権確保任務を請け負っていたフレズベルグ隊は降下部隊の中では有名人扱いで、降下の前に俺達を見かければ連邦のパトロール艦に墜とされる事は無いとしてラッキーの証になっていたらしい。

 

「にしても、ここまで戦場の復興が進んでいるとは思わなんだ」

 

 俺達の降下は何のアクシデントもなく行われ、無事ジオンの支配下にあるニューヤークに降下した。

 しかし、このニューヤークの復興具合はどうだ?まるで一か月前に戦闘があった都市とは思えない復興具合だ。

 勿論郊外の方はまだそこまで進んでいないのが現実ではあるが、だとしてもこれは凄い。ガルマ・ザビ様様だなと思わざるを得ない。

 

「しかも俺が来たことを聞きつけるのが早いときた」

 

「友人が地球に降りたんだ。当然だろう?」

 

 ニューヤークに俺が来る事を既に知っていたらしいガルマは、電報で今日の夜には晩餐でもどうだと連絡をしてきた。

 半年後の自分の運命を知ったらこの男はどう思うのだろうか。そんな事を思いつつ、出されたワインを飲む。

 

「それに、今や君はジオンを代表するエースの一人なんだ。そんな人物を軽んじたともなれば、兵が納得しないだろう」

 

 正直実感こそないのだが、なんだかんだでブリティッシュ作戦とルウムでマゼラン級5隻にサラミス級7隻を沈めている俺は、既にエースと呼ばれている。おかげで部下にも新しいモビルスーツを渡してもらえてるので苦労はしないが、シャアやランバ・ラルのような本来のエース達と比べるとどうも自分には勿体ない称号に思えてしまう。

 

「もっとその名が相応しい奴がいますよ」

 

「ふふ、そう謙遜するな。実は君にやってもらいたい任務があってな」

 

「やってもらいたい任務?」

 

 酒のツマミとして用意されていたアヒージョを食っていた俺に苦笑しながら、ガルマは一枚の作戦報告書を渡してきた。

 それに書いてあったのは、どこか聞き覚えのある文言であった。

 

「連邦軍による騙し討ち部隊?」

 

「ああ。キャリフォルニアベースから東にあるアリゾナ砂漠。何もない土地というのもあってHLVの降下地点に適した土地だ。降下したHLVから降ろした物資を仮集積しておく分屯地が点々と存在している」

 

「それを襲う部隊があると?」

 

「ああ。だがどうも普通の部隊ではないようでね。モビルスーツを用いているという情報があるんだ」

 

 俺はこの部隊を知っている。

 IGLOO2話、ヒルドルブの話に登場する部隊だ。実際彼らは鹵獲したザクを使用しており、かなりの手慣れ部隊として高い連携力を見せつけている。

 コイツらを撃破するのはジオン軍の被害を減らすだけではなく、鹵獲ザク部隊の存在を公表する事に繋がらないだろうか。

 ぶっちゃけコロニー落としをした時点でどの口がという話なのだが、友軍を装って敵軍の基地を強襲するなど戦争犯罪も良いところだ。

 なんとかして、この北米地域でのジオンの信頼を早く勝ち取らなくてはならない。そのために使えそうなものは何でも使ってしまいたいのが本音のところだ。

 

「そういうことなら。しかし、守って欲しい約束があるのです」

 

「なんだ?できることなら約束しよう」

 

「ガルマ大佐にはこの融和政策を続けて欲しいのです。ジオンが勝つにしろ、負けるにしろ、これは必要な事なんです」

 

 ガルマは鍵だ。

 ガルマが生きていれば一年戦争の結果が変わったという説は、そこそこ以上に有名な説だ。

 俺はその先を知りたいと思っていた。

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