4月も末に向かう頃、俺達はアリゾナ砂漠をヅダで歩き回っていた。
ガルマの計らいで防塵処理を施してもらったヅダは、進路を第128物資集積所に向けていた。
この集積所は史実において、4月29日にセモベンテ隊によって壊滅している。そして逆にメディア作品では、この集積所よりも前に集積所が襲撃されたという情報は載っていない。いや、ガルマからの情報が既にある以上襲撃自体はあるのだろうが、それがどこなのかを知る術が俺は持ち合わせていなかった。
唯一、ガルマから渡された資料に第18物資集積所の被害報告は載っていたのだが、アリゾナ砂漠の東端のこの集積所に向かうより、先に中央に位置する128集積所に向かう方が早そうであった。
「しかし隊長、こんな砂漠のど真ん中になんで物資集積所があるんですかね」
「さあな。だがニューヤークの兵士は物資投下の軌道を間違えてしまったために、砂漠のど真ん中に物資集積所ができたなんて噂をしてたな」
「んなことあるんですかね……お、あれじゃないですか?あのHLV」
そうこうしている間に到着したのが第128物資集積所。
だが見た目は完全に投下コンテナがポツンと立っているだけで、最初からそういう見た目をしていると資料で知っている俺達は別だが、そうでない者が物資集積所だと気づくだろうか。
信じたくはないが、本当に物資投下の軌道読みミスでできた集積所なんじゃないかと思えてしまう。
歩哨はいるにはいるが、こちらに気づいていないな。恐らく接近警戒用のセンサー設備は故障しているか切ってるかしてるのだろう。
まあこんな砂漠のど真ん中で襲撃をされると考えろというのも酷か。
近づいて歩哨を行っている兵士に対し、拡声スピーカーを用いて声をかける。
「こちらは独立機動打撃部隊、フレズベルグ隊のグラン・リース大尉だ。第128物資集積所、聞こえるか?」
「は、はっ、こちらは第128物資集積所!敵影見えず、服務中異常無しであります!」
こちらに気づいて畏まった敬礼をしてきた歩哨に、こちらもモビルスーツの右腕で返礼する。
「そこまで畏まらなくてもいい」
「いえ、フレズベルグ隊と言えば我々降下組にとっては英雄ですので!」
「そう言ってもらえるのはありがたいな。ちなみに、我々がここに来た要件は聞いているか?」
「すみませんが、存じ上げません」
俺は歩哨にこの集積所に来た理由を説明した。
曰く、ここいらに連邦の部隊がうろついているということ。
曰く、その部隊は我が軍のモビルスーツを使用している可能性があるということ。
「そういうことでしたか……今のところ、そういった報告も敵影も見えていませんが」
「そうか。数日ばかりここに居てもいいか?」
「もちろんです!フレズベルグ隊が泊まるとなればこの集積所の皆も喜びます!」
歩哨は張り切って集積所内に通達を入れに行ったが、俺には確信があった。ここに必ずヤツは来ると。
4月29日。それが史実においてこの集積所が襲撃された日だ。
もしも俺がいる事で世界の巡りが変わっていて、襲撃日に変更がかかっているにせよ、必ずヤツらセモベンテ隊はこっちに来るはずだ。
西から東に向けて進軍してくるはず。それは変わらないと信じる。
仮にここでない集積所が先に襲われるとしても、ここに一度留まって動向を探る方が入れ違いになる危険性を考えても良い筈だ。
そして案の定、奴らは現れた。
次の日の早朝に事態の変化を告げたのは、どこからか鳴った砲声だ。
「今のは⁉」
コンテナを再利用した宿舎で寝かせて貰っていた俺は、飛び起きて集積所の歩哨に尋ねた。
集積所側に昨日、任務について知らせていたからか、史実とは異なり初期型ヅダの歩哨に変えてくれていたようだ。
「分かりません。結構な距離があるのは確かです」
「今の砲声、西の方から聞こえたよな?ここから一番近い集積所はどこだ?」
「西の方なら第37物資集積所です。ここから南西におおよそ70㎞ほど」
西ではある。それに、第18物資集積所の位置から考えても現実的な位置だ。
決めたぞ。俺は準備してあったヅダに乗り込んで物資集積所からもらい受けた装備の確認をしながら2人に命令を下達する。
「シュッツ、俺についてこい。アイゼン、お前はここに残れ。敵の別動隊を警戒する。交戦を開始したら一報しろ。ミノフスキー粒子の影響も加味しろよ。事後は別命なく撃っていいが、友軍かどうかの確認は怠るな」
『了解』
アイゼンを残したのは念のための部分が大きい。
俺の気のせいであればいいのだが、第128物資集積所を襲っていたのはフェデリコとその僚機の2機であったと記憶していた。もちろん、映像に映ってないだけで同時に襲撃していた可能性はあるが、最悪を見据えるなら自己判断が効くアイゼンを残すのが最善だろう。
シュッツを連れて走り出す俺は、その判断が正しかった事をすぐに理解した。
モビルスーツの走破性能は、こと平野であれば偉大の一言に尽きた。
単純に走るだけでも時速100キロを超える速度を出せる。つまり、第37物資集積所まで1時間とかからずに到着できるわけだ。
それなら物資を略奪している間に到着できると踏んだわけだが。
「見えた!……おい、嘘だろ……」
『あれは、ヅダじゃないぞ!連邦のモビルスーツか⁉』
その狙いはビンゴだった。だが、俺が見たのは予想外の光景だった。
俺はここに至るまで、てっきりセモベンテ隊はヅダを用いてると思っていた。なにせ史実で鹵獲ザクを使っていたのだから、ここで使われるのも鹵獲されたヅダだろうと踏んでいたのだ。
しかし現実は違った。
「違う。あれは、あれはザクだ!」
『ザク⁉』
集積所にいたのは、MS-05としてジオン軍に採用されるはずだった機体。つまりは旧ザクだった。肩部や頭部の鼻部分をヅダに偽装してはいるが、間違いなくこれはザクの系譜だ。
なんでこんなところにザクがいるのかは意味が分からない。だがやるべきことは変わらない。
俺は機体に搭載してもらった映像記録装置を起動させ、2機のザクに拡声スピーカーで呼びかける。
「こちらはジオン軍地球方面軍、独立機動打撃部隊フレズベルグ隊だ。貴官らの所属を明らかにしろ。連邦か、それともジオンの脱走兵か?」
『隊長、こいつらは味方の基地を襲撃してるんですよ!』
早まりそうになるシュッツをハンドサインで制し、相手の応答を待つもそれの答えは120㎜マシンガンの砲口であった。
やはり、答えはしないか。
「シュッツ、ここからが実力行使だ。記録には残っているんだ!遠慮はするな!」
『そうこなくっちゃ!』
放たれるマシンガンに対して左右にばらける形で避けた俺達は、初のモビルスーツ戦に戸惑いながらもマシンガンの応酬を続けた。
稜線に逃げ込むにしろなんにせよ、俺達にはヅダの瞬発力というアドバンテージがあった。
『こなくそっ!機動性はヅダの方が上のはずなのに!』
「シュッツ、慌てるな!相手の方が地形を知り尽くしてるんだ」
ザク2機はどちらも地形を把握しきっており、こちらとの交戦が始まると見るや片方がマシンガンを撃っている間にもう片方は後方の稜線までバックジャンプしていた。
当たり前だ。向こうはこっちが攻める前から地上勤務をしていた部隊だし、アリゾナ砂漠に限ってもこちらが来るより前から活動してるんだ。
「3カウント後、3連装ミサイルを指定ポイントに斉射。ジャンプで突っ込むぞ」
『了解!』
「相手も遭遇戦で逃走ルートを確立しきってないはずだ。今畳みかけるしかない!」
動きは速いが、判断はそこまで速くない。恐らくはフェデリコはこっちにはいないと見た。
恐らく相手の本隊は第128物資集積所の方に既に向かっているんだ。こっちを早く片づけないといけない。
「3,2,1……撃て!」
ミサイルを射出し、ヅダ特有の大出力スラスターで一気に跳躍する。
稜線を無視して飛び出した俺達に120㎜の砲口が向くが、反応が遅い。相手も対モビルスーツ戦は慣れていない。
「これで沈んどけ!」
シールドに装備した2つのシュツルムファウストを連射し、手前に陣取っていたザクに命中させると、その後始末を置いてもう一機の方へと向かう。
マシンガンの弾が飛んでくるのを左半身を前にして防ぎつつ着地。こちらもマシンガンで牽制射を浴びせる。
「シュッツ!」
手前のを俺の攻撃だけで済ませたのも、俺が2機目に牽制だけをしていたのもシュッツの存在があるからだ。
敵は地形を使うのには慣れているようだが、騙し討ちがメインだったようでモビルスーツの扱いと戦闘に慣れきっていない。
『うおおぉおお!』
スラスターを全力で吹かしたシュッツ機がザクへと突っ込む。シールドピックを展開した突撃は、無事にザクの装甲を食い破り、沈黙させる。
俺が周囲に敵がいない事をセンサーで確認し、座標をマークしているところで無線が入る。
アイゼンからだ。
『隊長、出やがった!モビルスーツが2機、撃ってきた!』
「クソッ!アイゼン、応戦しろ!」
やはりセモベンテ隊は複数に分かれて同時襲撃をかけていた。嫌な予想が当たってしまった。
俺はシュッツを率いて来た道を急いで引き返し始める。
来るときは短く感じた70㎞が今度は果てしなく長く感じた。
対艦ライフルは地上で使うにはデカすぎるのでお留守番です
※冒頭の文章について
コックピットの空調周りは再度色々調べましたが公式設定はなさそうでしたが、某赤いヤツの事などを鑑みて文章から削除しました。