俺とシュッツが第128物資集積所に着く頃には、既に戦闘は終結していた。
擱座していたのは、集積所に駐留していた初期型ヅダと連邦が運用していたザクが一機ずつであった。
「アイゼン、無事だったか」
『はい、なんとか……しかし、連邦のモビルスーツを逃がしてしまいました』
「いや、君も集積所も無事だ。これ以上を望むのは高望みというものだ。それに、収穫がなかった訳じゃない」
倒れているザクを見た俺は、幸いにもそのモビルスーツのコックピットが無事であることを確認した。
どうして連邦がザクを運用していたのか。そもそもロールアウトすらしてないはずの兵器がどうして存在しているのか。
それを知る必要が出てきてしまった。
「という訳なんですガルマ大佐」
『何?では、鹵獲以外のルートで我が軍のモビルスーツが連邦の手に渡っている可能性があるというのか』
「おそらく」
そういう訳で駐留部隊内のメカニックにコックピット内の解析を頼み、捕虜にした連邦兵も捕縛して尋問している間に、俺はガルマへと通信を繋いでいた。
ガルマは北米戦線の司令官だ。それに、モビルスーツ開発を主導していたドズルには可愛がられていたから、これについて本国に聞くのには適任のはず。
「敵は少なくとも4機のザクを運用していました。小規模な補給基地を最低限の人数で襲撃している。手口がどうも手慣れすぎてるのが気がかりです」
『連邦内にモビルスーツの教導を行っている部隊があるか、我が軍と内通している者がいるか』
「もしくはその両方でしょう。スパイなんて戦争では常套手段ですから」
史実ですら6機いるザク。それらが全て鹵獲で流れたものとするなら、今回のセモベンテ隊はそれ以上の数である可能性すらある。
そして肝心の入手ルートだが……多い。余りにも心当たりのあるルートが多すぎる。
ジオニックが直接流した可能性は勿論、俺が知らないだけで史実のヅダのような形で実戦投入されていた可能性も無きにしも非ずだし、なんならギレンやキシリアがわざと流した可能性も……いやいや、なんならアナハイムだって関与の疑いはある。なにせグラナダはジオンの支配下だし。
悩んでも仕方ないが、こう考えるとジオンは後ろに敵が多すぎる。
『分かった。ドズル兄さ……中将にこの件は話しておく。君たちは敵部隊の動向を追ってくれ』
ガルマはドズルにこの件を相談することを約束してくれた。ドズルはああ見えて前線を気遣う精神はかなりのものだ。この一件をかなり重く見てくれるだろう。
「頼みます。……それと一つ聞きたい事が」
『なんだ?』
「このアリゾナ砂漠に近々到達する補給物資などはありませんか?」
『補給……ではないが、5月頭に第603技術試験隊が第67物資集積所に来る予定だ』
「その予定を通達している部隊は?」
『降下がコムサイと聞いていたから、降下ルートが逸れた時に備えて付近の集積所には伝えてある』
「よし、分かりました。自分は部隊を率いて第67物資集積所へ向かいます。ガルマ大佐はドズル中将への取り計らいと、各物資集積所への警戒態勢の徹底をお願いします」
決まりだ。
ヒルドルブは史実通りか、少し早い程度の時期に来る。これ以降、第67物資集積所以外に襲撃を受ける場所があるかどうかは分からないし、敵の正確な数すら不明になった今、部隊を分けるのは不可能だろう。
幸いなのはこの集積所にF型に使えるパーツが届いていて、それを扱えるメカニックも同時に存在していたことだな。
「次の予定が決まったぞ。アイゼンの機体が修理でき次第出発だ」
「隊長、敵は」
「なぜヤツらがザクを持っていたのかは不明だ。だが、他の集積所で奴らが情報を漁ったのであれば、第67物資集積所に行くのは間違いない」
メカニックの見積もりでは、最速で2日ばかり修理に時間を要するらしい。
それまでここに駐留していれば、この集積所に追加の護衛ヅダが到着するはずだ。
最大の問題は、対モビルスーツ戦のデータが取れたであろうセモベンテ隊が帰還せず、ヒルドルブの到着するであろう集積所に姿を現すかどうかだが、ここばかりは歴史の修正力というものに期待を寄せるしかないだろう。
どうか強欲であってくれと、そう願うしかない。
≪≫
連邦軍中佐、フェデリコ・ツァリアーノは焦りを覚えていた。
2,3個の物資集積所を襲って手口に慣れてきていたのは事実であったし、それを下地に部隊を3つに分けて同時襲撃を行ったところまではよかった。だが、不幸にも自分の隊を含む2個小隊が敵に看破された。
これまでかなり念入りに殲滅はしてきた。
どこで足がついた?どうにも情報の巡りが早くなかったか?
来る連邦のモビルスーツ量産を前に、モビルスーツによる戦闘のマニュアル化を目指した部隊がこのセモベンテ隊だ。
そのために上層部はジオン産のモビルスーツをわざわざ用意したのだ。
「隊長、今後はどうしましょうか」
部下の震える声にフェデリコはハッとした。これではいかんと。
セモベンテ隊の任務とは別に、フェデリコには任があった。未来のモビルスーツ部隊の部隊長になるような人物を先んじて育てるという、若き士官達がこのジオン産モビルスーツのザクには搭乗している。
彼らに士官としての、上に立つ者としての姿勢を見せるのもまた自分の役目だと。
「落ち着け。この作戦はいずれ看破されるものだったんだ。それが少しばかり早まっただけだ」
フェデリコは自分の感情を押し殺した。不安や恐怖といった感情は伝播しやすい。特に上から下へは異様な速さで。
自分が今持っている情報。
セモベンテ隊の現状戦力と物資。
彼我の戦力差と次の目標に据えるべきもの。
それらをメモに書き出しながら策を練る。できる限りこの戦争を有利に進めるべく、連邦軍佐官としてあるべき姿を示す。
「最後に第2小隊からの報告があった時点では、第37物資集積所にいた敵モビルスーツは2機。俺とペンターの機体が出会ったのが2機。そのうち1機は旧型だった。ここから導き出される答えは分かるか?」
「37の方は不明ですが、128に居たのは片方が駐留部隊のもの。もう1機が偶然その場にいた機体という事でしょうか」
及第点といった答えにフェデリコは満足気に頷いた。
彼の生徒は実戦でしっかりと成長している。
「予測ではあるが、37の2機と128にいた新型は同じ指揮系統で動いている機体だ。部隊を分けて行動している事を考えれば、128を拠点に俺達を捜索している部隊と考えるのが自然だろう」
「一度撤退しますか?」
「いや、37は破壊自体は終わっている。128にいたのも旧型は大破、新型も小破させてある。修理が完了し、追加の護衛機が到着するまで時間はかかるはず。その間にこちらも移動する」
これまでセモベンテ隊は西側から侵攻し、一貫して東へと向かっていた。
その進路を敢えて無視し、ここから北西に向かう。
「目的地は67物資集積所。ここにジオンの新型機が試験運用をしにくるらしい。これのデータの集積、あるいは破壊をした後に撤退だ。128からは100キロはある。モビルスーツの足でも1時間近くかかる。戦闘をした後で逃げても充分だ」
ペンターが庇ってくれた為にフェデリコのザクは無傷に近い状態で撤退ができていた。これで危険地帯からさっさと移動して待ち伏せを仕掛ける事ができるわけだ。
死んでしまったペンターに報いる為にも、新型兵器を撃破して帰る。そうフェデリコは決意していた。
≪≫
「どういうことですか兄さん」
一方ニューヤークでは、画面越しにドズルに叫ぶガルマの姿があった。
珍しい弟の姿にドズルはたじたじであった。
『しかしなぁ、俺の手元にはそういった資料は届いておらんし、ザクが実戦で運用されたという話は聞いたこともない』
「なら、どうして我が軍の兵器が、採用されなかった兵器なんかが連邦の手に渡っているのですか!」
『ガルマ、この件は俺が調べる。どうも臭いルートの目星はあるんだが、まだ確証は持てん』
ガルマにそう告げたドズルの脳裏には、複数の影があった。
ザクの開発を行っていたジオニック社は元々議会連中の天下り先にもなっていた企業だ。それ故に政治的に強い側面があり、事実モビルスーツの実証実験のためにモビルワーカーを作っていた頃はジオニック社が主導を握っていた。
しかし、ヅダとザクの主力機競争の途中に起きた事故が原因で、ジオンの主力モビルスーツの座はツィマッド社のヅダに決まった。
ジオニック社はジオン国内にそれ以外の販売物品を持っているとはいえ、大きな痛手になったであろうことは間違いない。
それに何者かがつけこんだとしたら?いや、それはほぼ間違いないだろうが、問題は
せっかくルウムで捕らえたレビルが脱走したのも、表向きは連邦の特殊部隊によるものとされているが、事実がどうなのかはまだハッキリしていない。
ドズルはギレンとキシリアが日に日に険悪になっているのを察していた。
そして同時に、彼ら2人に対する疑心の念も増していたのだった。
たくさんの評価、感想ありがとうございます
そしてアリゾナ編、もうちょっとだけ続くんじゃ