ヅダですが?   作:のり

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7話における一部文章を修正しました


待ち伏せですが?

 5月9日。ヒルドルブの投下は予定通りに行われる事となり、セモベンテ隊との決戦の地はやはり第67物資集積所になる予想であった。

 フレズベルグ隊はアイゼンの機体の修理があったことから、セモベンテ隊よりも遅く67に向かうことになるだろうと想定し、直接67に布陣することはせず、東に20キロばかり進んだ場所にある窪地に陣取る事にした。

 事前に128から67に通信で襲撃の通報と警戒の強化を伝えると、どうもガルマ経由で増援が送られていたようで、これなら俺達の到着までに持ち堪えてくれるはずだ。

 

「問題は、実際に来てくれるかどうかだが」

 

『来ない方がいいんじゃないんですか?』

 

 シュッツの当然の疑問に答える。

 俺とシュッツで2機、アイゼンが1機を撃破している以上、既に連邦の支配圏まで下がっていてもおかしくはない。

 むしろ当然とも言える。

 まあそれはそれで結果オーライと言えばそうなのだが、問題は奴らが握ってしまったモビルスーツを用いた実戦経験とその運用データだ。

 映像作品を見る限り、フェデリコはかなり練度の高い指揮官である。

 ヒルドルブによる砲撃を瞬時に判断し、そのポイントと距離を推定する能力、そして冷静な判断と交戦指示。元々優秀な戦車乗りだったのだろうことも伺える。

 そんなヤツが運用したモビルスーツ部隊のデータが連邦に齎されたら?この時期が時期だ。下手をすればアムロのガンダム運用データ並みかそれ以上の効果を連邦に与えることになりかねない。

 

「だからこれは賭けなんだシュッツ。相手の指揮官が強欲なら俺の勝ち。相手が既に帰っているのなら俺の負けだ」

 

『分が悪いじゃないですか』

 

「そうだ。既に俺達は先手を取られてる。俺達は“負け”の中で最良の“負け”をどうにかして掴まなきゃいけない」

 

『隊長、奴らです!』

 

 アイゼンからの通信に、モノアイの描写倍率を上げる。

 間違いない。ザクだ。だが、数が多い。

 

『何機いやがるんだ?』

 

「分からん。だが」

 

 モノアイを左に向ければ、集積所のヅダと接触するザクとは別に、稜線から顔を出そうとする61式戦車が見える。

 そう、セモベンテ隊というのは単なる後方攪乱を行うモビルスーツ部隊という訳ではない。戦車との混成部隊であり、明らかに連邦のモビルスーツドクトリン模索を目的としている部隊だ。

 

「想定以上の大部隊であることは確かだ」

 

 見えるだけでもザクは12機、戦車が8輌。1個中隊規模だ。

 

『これを俺達6機で相手にするんですか!?』

 

「だがやるしかあるまい……アイゼン、シュッツ、機先を制する!3キロ進出した後に一斉跳躍、そしてバズーカを3連射。先に狙うのは戦車だ」

 

『戦車ですか⁉』

 

 シュッツの疑問を聞きながらも飛び出す。2人は疑問を持ちながらでも行動を共にしてくれた。

 2人にこの付近の地形データを画像で送り説明をする。

 

「この付近は砂漠とはいえ遮蔽が多い。戦車としては背が高い61を隠すほどのな。モビルスーツと比べて再発見が困難な上、一撃に関しては61の方が痛手になる」

 

『だから先に後顧の憂いを断っておこうという訳ですな』

 

「そういう訳だ。よし目標ポイント、全機跳躍!」

 

 前回の戦闘でヅダのスラスターが少なくとも有効ではあることは分かった。そして飛行とはいかないまでも、多少の滞空が可能なレベルにその推進能力が優れているのも分かった。

 なら活かさぬ術はない。

 

「丸見えの戦車を焼くぞ!ポイントマーク、全機斉射!」

 

 ヅダバズーカを全機で3連射、その弾倉内の弾薬を全て撃ち尽くす。

 それと同時に集積所にいるヅダ3機に中距離通信を飛ばし、警告を与える。

 

「交戦開始だ!芝居は終わりだ。各機、射撃に移れ!」

 

『待ってました!』

 

 ザクと接触していたヅダはシールドごと体当たりを敢行し、フェデリコ機と思われる角付きを弾き飛ばす。

 そこでようやく罠に嵌められていたと気づいた彼らは、射撃を開始しようとするも、直後に俺達が放った弾が飛来。散開による回避行動を余儀なくされた。

 機敏な反応ができたザクは兎も角、急発進をしきれなかった戦車は焼けた。小高い砂丘を一つ丸ごと潰しただけはあり、半数以上の戦車は破壊できたように見える。

 

 6機のヅダと12機のザク。奇しくも元はジオン製モビルスーツの両機は、正式採用試験で行われた摸擬戦以来の戦闘を再び行う事になってしまった。しかも今度は実戦で、連邦とジオンに分かれて。

 何がどうなってこんな史実と異なる結果を生んだのかは分からない。

 今はそれを明らかにするためにも生きなければいけない。

 

 最も味方機に近いザクに対し牽制の120㎜を撃つと、それに気が付いた集積所の3機は距離を取る為にバックブーストを吹かす。

 彼らとて重力戦線で俺達より早く勤務しているモビルスーツ乗りだ。腕前は信用できる。

 

『グラン大尉、こちらの事は気にせず!』

 

「助かる!だが、あまり早まるな。時間は俺達に必ず味方をする」

 

 集積所のヅダ小隊長から声がかかり、俺は迷わず了承をした。

 この状況、別の初めて組む小隊まで気にかけていられる程余裕はなかった。気遣ってくれた相手の小隊長には感謝してもしきれない。

 この戦闘の方針だが、俺は決して不利ではないと踏んでいる。

 一つ、この戦場にはヒルドルブという援軍が早期に来る事が分かっている。

 一つ、集積所は史実と異なり無事であり、その部隊員達が敵戦力の通報と援軍の要請を行っている事は明白。

 そして最後、この件は既にガルマにまで広まっており、決して軽んじられる事態ではないこと。

 この場さえ十数分凌げれば、チャンスはある。

 

「アイゼン、シュッツ、最初のバズーカは景気よく撃ったが、あんまり無駄弾使うなよ!」

 

『何か策をお持ちですね!』

 

強力な砲兵(ヒルドルブ)が来るまで耐えれば勝ちだ」

 

 

 

≪≫

 

 

 

「コムサイ、いいから俺とヒルドルブを降ろせ!」

 

 試験場となるはずだった第67物資集積所は、戦場と化していた。

 我が軍のヅダがジオン製モビルスーツらしき何かと交戦をしているのだ。相手がなんであれ、戦力差はほぼ2倍。増援を待つような姿勢を取っているが、その遅れ次第では食い破られてしまいかねない。

 

『無謀だ!許可できない』

 

「言ったろ?会敵もミッションのうちだって。それに、あの友軍を見捨てる訳にはいかんだろう」

 

『大尉、ソンネン少佐の言う通りです』

 

『了解した……』

 

 投下高度になるだろう700フィートまで、あと40秒と少しといったところか。

 機体の最終チェック、地形データの読み込み、味方機に対するタグ付け。事前にやれそうな事はそれくらいか。

 

『投下高度!』

 

 コムサイのコンテナが開かれ、滑るようにしてヒルドルブが降ろされる。

 パラシュートで降りた先、アリゾナ砂漠は想像よりも起伏の激しい砂地といった感じだが、ヒルドルブの車高は寧ろそれを上手く扱える。

 陣地に最適な地点をコンピュータと自身の経験から選出し、ショベルアームを用いて掩体を構築。

 

「いい感じに膠着状態にしてくれてるな……止まってる奴からやる。APFSDSを装填、次弾も同じ」

 

 

 

≪≫

 

 

 

「来たな」

 

 衝撃波と共にやってきた飛翔物は、遮蔽から顔を出して撃っていたザクの上半身を吹き飛ばした。

 続き2発目もザクに命中、僅かに出ていた右腕を破壊する。

 

『これは!?』

 

『例の試作兵器か』

 

 ヒルドルブが到着してくれた。

 弾着から砲声の到達まで20秒程度……史実よりも近距離からの砲撃だ。

 俺達モビルスーツという前線が構築されているため、砲兵として支援できるラインが前になっている。

 今の攻撃を受け、フェデリコは部隊の足を止めないように機動戦に移行するだろう。なら、俺達がするべきはこの遅滞戦術ではなくなる。

 相手は今まで擦り減らす事を目的の戦闘にしていたが、それを止め、飲み込むような形に変化するからだ。

 

「各機、後ろに援軍が来ている!相手はこれから機動戦に移行してくる!飲み込まれないように注意しつつラインを下げていくぞ」

 

『砲兵の射線に引きずり出すってことですか』

 

「そういうことだ。来るぞ、全機、バックジャンプ!」

 

 敵ザクが装備していた3連装ミサイルの弾道が空高く上がる。俺達のいる遮蔽を通り越し、ミサイルは遥か後方へと飛んでいく。

 これは俺達への攻撃ではない。後方にいるヒルドルブに対して行われた牽制射だ。

 最初のザクがやられてからたったの12秒でこの判断。すぐに奴らは詰めてくる。

 だがヅダの利点はザクよりも速い点にある。

 

「ミサイルを落とせれば!」

 

 弾道予測ルートに120㎜砲弾を置き撃ちする。全弾とはいかないが多少は迎撃に成功し、ミサイルはその数を減らす。

 いい、これでいい。俺達がすべき事はヒルドルブを如何にフリーで撃たせるか。そしてヒルドルブの射線に如何にして引きずり出すか。それだけで勝てる。

 そう思っていた矢先、思いがけない音を聞く。2発の着弾音。命中こそしなかったが、これはヒルドルブの曲射HE弾だ。

 しかし、俺達がヒルドルブに向けて後退してるとしても、いくらなんでも砲声が聞こえるのが早すぎる。

 

『灰色のヅダのパイロット、よく引っ張りだしてくれた!』

 

「先回りしていたのか……伊達に教官をやってた訳じゃないか」

 

 先の2発のHE弾の砲声はそれぞれ違う方角から鳴っていた。

 つまり、既にヒルドルブは移動を開始していた。俺達が後退をしている事を見越して、このポイントで十字砲火を組めるようにしていたという訳だ。

 俺はヅダの足を止め、マシンガンで角付きの足を撃ちまくる。

 走っている最中に喰らった角付きはそのまま前に倒れ、それを庇うように周りのザクも一瞬足を止める。

 指示を受けたのかすぐにザクは走りだすが、その一瞬が命取りだ。

 次に飛来したのはHE弾ではなく、ザクどころか陸上戦艦ですら破壊せしめるAPFSDS弾。最も角付きに近かったザクは上半身ごと吹き飛ぶ。

 着弾音と砲声の誤差が少ない。既にヒルドルブはその砲からすれば近距離と言える場所まで来ている。

 なら、ここが決め時か。

 

「全機反転!攻勢に出る!」

 

『待ってました!』

 

 地を蹴り前にヅダを進め、右手のマシンガンのトリガーを引く。

 120㎜ヅダマシンガンは本来対艦用に設計されており、初速は遅くモビルスーツ戦に適したものとは言えない。とはいえこの至近距離で撃たれればモビルスーツの装甲とて無事ではすまない。

 だがザクとヅダとの間では、意外かもしれないが防御面でヅダが劣る事はない。

 俺はヅダのショルダーシールドをレールを使って前面に展開し、前を向きながら敵方からのマシンガンを弾きながら突撃を敢行。マシンガンを連射してザク1機のコックピットを滅多打ちにする。

 途中俺に砲口を向けてくるザクがいたが、アイゼンとシュッツのヅダ、それからヒルドルブの支援砲撃により、射撃をするために足を緩めたザクが撃破されていく。

 最後のザクを撃破し、俺は角付きのザクに近寄った。

 

「連邦のパイロット、貴様が隊長だろう。投降しろ」

 

『クソ、ジオンめ……』

 

「悪い様にはしない。南極条約に則った待遇を約束する」

 

『灰色のヅダ……灰の凶星か。案外甘いんだな、ジオンのエースは』

 

 不審な言動に俺が慌てて地に伏したザクに砲口を向けるが、ザクが動く気配はない。

 動く気配こそなかったものの、しかし俺の思っていた解決はしなかった。

 

『ペンター……ポロゴロフ……お前ら、すまん!』

 

「マズい……各機、ザクから離れろ!」

 

 俺が命令を出すのとほぼ同時に、撃破していたザクと目の前の角付きザクが次々と爆発し始めた。

 連邦が用意したザクによる後方襲撃部隊。露見すれば政治的にも危ぶまれる部隊だったが為の処置であるのは、誰の目から見ても明らかだった。

 

『モビルスーツ部隊、無事か?』

 

 ザクによる爆発を見たのだろう。轟音を立てながら砂漠を巨大な戦車であるヒルドルブが走ってきた。

 

「なんとかな。こちらはフレズベルグ隊のグラン・リースだ。貴官の砲撃は見事だった」

 

『ヘッ、あの灰の凶星に褒めてもらえるとは光栄だ。デメジエール・ソンネン少佐、ヒルドルブと共に到着した』

 

「603の人員と共にコムサイで来たのだろう?再打ち上げも必要だろうし、もし任務に支障が無ければニューヤークまで来てくれないか?今回の件の証人にもなってもらいたい」

 

『こちらとしても願ったり叶ったりだ。なにせ試験項目を幾つもすっ飛ばして実戦を終えちまったからな』

 

 

 

 

 

≪試作モビルタンク──ヒルドルブ──技術試験報告書≫

 

 我が603技術試験隊は、さる5月9日、ヒルドルブの実地試験を実施せり。

 しかれども試験予定地点において、友軍のヅダが敵コマンドと戦闘を行っており、これの援護の為ヒルドルブは対モビルスーツ戦闘へと介入せり。

 この戦闘において試験パイロット、デメジエール・ソンネン少佐は友軍ヅダへの支援砲撃による火力投射を実施、複数のYMS-05(ザク)を撃破し、試験任務を全うす。

 

 戦闘は友軍ヅダ6機との協同により、YMS-05(ザク) 12機の撃破に成功。

 中・遠距離からの強力な砲兵火力はモビルスーツ戦闘においても充分に有効であり、本機がマゼラアタックでは実現不可能な機動力と火力を持っている事は、過去の不採用評価を覆すものであると判断する。

 しかし、開発当時に採用したMS-04(ヅダ)の上半身部などは、この多機能戦車であるヒルドルブの操作性の低さに繋がっており、デメジエール・ソンネン少佐のような性能を引き出せる人物を育成するのは非常に困難である。

 従来の戦車と同様の複座機へと改修し、複数名による分業を行う事によって操作性を改善すれば、ヒルドルブは現在のジオン地上軍に不足している砲兵火力を補い、十分に前線を支える兵器になると評価する。

 

 宇宙世紀0079年5月11日 オリヴァー・マイ技術中尉




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