星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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プロローグ
星のカリスマと先導者


 世界は色に溢れてる…誰かがそんな事を言っていた。

 なるほど,言い得て妙だと納得する。見ようとしない限り,人はその目の前に広がる世界を,自分の視覚を通して認識し情報として脳に取り込む。

 ではその世界は,色付いているのは当然だろう。ああ,もちろん色が視えるというのは眼の構造上色が()()()()()()()だけっていうのは分かってる。

 俺が言うのは詩的な表現に過ぎない。本当はもっと別の色をしているのかもしれないし,そもそも全てがモノクロの世界かもしれない。

 人間は思い込みの中で生きている,自分が視えているものが世界の全てだと傲慢にも思っている自己中心的な存在が人間だ。

 

 様々な人間達が俺を見ている今も,その人間達には俺がどう見えているのだろうとライドデッキ最後の1枚のカードに触れながらふと考えた。

 この()()()()()()という在る意味稀有な存在である俺を,周りはどう思っているのだろうか。

 文字通りの色眼鏡で,普通とは違う俺を憐れんでいるのか,馬鹿にしているのか,俺には分からないが――どうでも良いと考え直した。

 ラストカード,俺の切り札を胸に抱えた。

 

 

「行くぞ!志すは頂の導,天下無双の刃で我が行く道を切り拓け!ライド・The・ヴァンガード!粋の極致 忍鬼 猩々童子!」

 

 

 関係ない,この目の前のファイトにはなにも…俺の眼が視えない事なんて大した問題じゃない。眼が視えていなくても,同じ場所にいる,その事実は変わらない。

 俺の分身,猩々童子…お前と戦っているという事実も変わりはしない。

 例え俺の世界がモノクロなんだとしても,色を塗るのは他の誰でもない,この俺自身だ。

 

 目の前の対戦相手が,息を飲むように強張ったのを俺は()()()

 息遣いが,緊張によるものでかすかに乱れている。

 そして,この俺自身の心臓の音も明瞭に聞こえる。プロになる為の1次試験で,最後だと思えば緊張も分かってもらえる事だろう。

 けれど緊張しているのは,誰よりも今に向き合っているからだと自分を鼓舞する事にした。

 

 「ふぅ…行くぞ」

 

 改めて,対戦相手に言い放った俺はファイトを続けて――無事にプロテスト1次試験を通過した。

 

 

 ☆

 

 

 俺——市ヶ谷導志(どうし)の眼の光が失われたのは,小学3年生の時。

 国からの委託を受けた宇宙開発の研究機関,その研究施設のツアーイベントに俺と姉ちゃんが当選した時の事だった。

 物珍しい施設,建物,人に夢を感じる研究成果の数々。

 ぶっちゃけ成果の半分も分かっていなかったが…うそ9割位分かっていなかったけれど未知のものが沢山あるだけでわくわくしたんだ。

 俺も男だったからね,しょうがないね。

 

 けど,餓鬼だった俺にとっての未知の大冒険は一筋の閃光によって終わりを告げた

 

『どうし…どうし!』

 

 訳も分からない閃光が煌めいたら,俺は殆ど無意識に近くにいた姉ちゃんと…名前も知らない女の子を自分の身体を盾にする事で衝撃から守った。

 俺の視界は光に染まり,身体の浮遊感と自分の何かが身体から抜けるのを感じながら俺は意識を失った。

 ガラスの破片や,何かの機械の残骸が身体を打ったけど姉ちゃんはちゃんと守る事が出来て嬉しかった。

 最後に俺の眼に光がある内に見たのは,埃や砂で傷ついた顔をしながらも俺を泣きながら名前を呼んでいた姉ちゃんの姿。

 彼女が無事だったことに心底安心した俺は眠るように暗闇の世界へと誘われた。

 

「導志,飯出来たぞー!」

 

 時は未来に行って現代,あの日から何だか俺に過保護になった姉上が部屋を開けたのを聴いて,目の前で触れていたカードを片付けながら答えた。

 

「うん,今行く」

「あ,一枚落ちたぞ」

 

 姉…市ヶ谷有咲はそう言って俺に近づいてきて落としたであろうカードを拾って俺の手に握らせてきた。

 俺はカードに着けているスリーブ,そこに貼っているシールの形からそれが猩々童子だと気がついて…昨日のファイトを思い出し知らず知らずに口元が緩んだ。

 

「…次は二次試験だな」

 

 それを見た姉が,次のプロ試験について言及する。

 1次試験,2次試験,そして最終試験にある程度の成績で入賞すればプロになれる。

 世界の色を見失って,沈んだ俺に色を付けてくれたヴァンガード…そして,猩々童子。

 勝った時も…負けてしまった時も一緒にいたこのカードはまさに一蓮托生,俺自身が胸を張って分身だと言えるユニットだ。

 

「うん。…行こ,姉ちゃん」

 

 すぐに感傷に浸るのを止めて,俺は姉上に手を引かれてリビングへと降りて行った。

 俺の眼が普通だった時の記憶によればこの家は和のお家であり,バリアフリーな設計には全くないため姉ちゃんと一緒に家を移動する時は姉ちゃんが凄い無意識なのかは知らないが手か,身体のどこかを掴んで案内してくれることが多い。

 

 そうして姉ちゃんに案内されて,俺はリビングにやってくると――ふわりと姉ちゃんやこの家から感じる匂いとは別の香りが俺の鼻を刺激してきた。

 良くも悪くも,和室の匂いが多くを占めるこの家の中に溶け込む華やかな香り,そしてお祖母ちゃんと仲良さげに会話をする声の主の存在を認知して…少し心臓がざわついた。

 

「あ,有咲,どーくん!」

「悪い香澄,椅子を引いて」

「いやその位出来るけども…」

「はーい!」

 

 俺のささやかな抵抗なんて聞かれなかったように椅子が引かれたような音がした。

 そのまま俺の手が引っ張られたかと思うと,姉ちゃんが椅子に座らせてくれた。一応,この程度の日常の動作なら助けも無しにもう出来るんだが姉ちゃんは過保護というか…まあ,近くにいる時はよく助けてくれる。

 

 隣で姉ちゃんも座った音を聞くと,俺の向かい側でもダイニングの床を滑る椅子の音がして小さな吐息が漏れ出たのを感じる。

 そして…いつ聴いても綺麗な声だと思う俺の主観での美声で一言

 

「どーくん,おはよう」

「おはよう,香澄…さん」

 

 戸山香澄さん…俺の1つ年上で,姉ちゃんと同じ花咲川女子学園2年生,そして…姉ちゃんが所属するガールズバンド,Poopin'Partyのギターボーカル兼リーダー。

 一応今朝の筈なんだが,どうして割と離れているこの家に彼女がいるのかというとまあ習慣みたいなものだな既に。

 

「いただきます」

 

 さて,それはそうと俺は目の前から感じるお味噌汁の匂いにつられて手を合わせる。姉ちゃんも,香澄さんも,そしてお祖母ちゃんも手を合わせて合掌する。

 献立は…お味噌汁,白米,あと多分鮭に…何となく甘い匂いがする…玉子焼きかな?

 

「導志,12時の方向に玉子焼きがあるぞ」

 

 あ,ドンピシャだぜ。

 流石にもう眼が視えなくなって6年近く経つと,匂いだけで献立を充てるゲームの的中率もそれなりに高くなって来た。今では6,7割位は大体当てられる。

 

「ん,ありがと」

 

 姉ちゃんにお礼を言いつつ,姉ちゃんが言うように12時の方向…俺の正面奥へと箸を伸ばすと,何か柔らかい長方体らしきものを掴むことに成功し,そのまま口の中に放り込むとだしの効いた卵の優しい味がふわりと口から鼻へと駆け巡る。

 姉ちゃんがお祖母ちゃんの料理の中で特に好きなのがこの玉子焼きで,大体出てくるときは真っ先に玉子焼きの場所を教えてくれる。

 

 よくPoppin'Partyの中でも自慢しているらしく,偶にメンバーの人が食べに来るほどで絶品だ。姉ちゃんが自慢したくなる気持ちも分かる。

 そんな事を思っていた時,まるで微笑ましいものを見るかのような声色で香澄さんが

 

「ふふっ」

「な,なんだよ香澄」

 

 いきなりそんな声で笑った香澄さんに,何か嫌な予感でも感じたかのように姉ちゃんの少し棘が混ざった声が響く。

 

「有咲は良いお姉ちゃんだね」

「は,はぁ?!こんなん当たり前だろ?!」

 

 ま…まあ,姉ちゃんの場合は何というか…過保護でもあるが,その根底にある事情は香澄さんも当然知っている。

 それが姉ちゃんがバンドを入るのを嫌がった根底の理由でもあるのだから,これはじゃれ合いのようなものだ。

 ただ,子猫同士でグルーミングをしあうようなあんな感じの会話に過ぎない。

 

 香澄さんが無邪気に”良いお姉ちゃん”と言って,姉ちゃんがブチ切れた事が1年前にあったんだが,同じ会話でも年月が経つにつれお互いの考え方が変わってじゃれあいに昇華させたのは…今更だけどすげえなと思った。

 

「あ,導志4時の方向お味噌汁だから気を付けろよな」

「うん,ありがと」

 

 照れ隠しのようにみそ汁の場所を教えてくれた姉ちゃんを,俺はそれ以上弄る事も無く素直にお礼を言ってみそ汁に手を付ける。

 ほんとはというと,姉ちゃんに言われる前から湯気が立ち上る熱の場所から大体察していたんだが,それを言うのは野暮というものだろう。

 

 いつもならこの朝食の時に会話をするのは香澄さんと姉ちゃんだから,俺は黙々と箸を勧めていたんだが…どうやら香澄さんの中で今日の主役は俺だったようだ。

 

「そう言えば,どーくん1次試験通ったんだよね!」

「…あれ,誰から聞いたんですか?」

 

 この場合の1次試験は間違いなくプロ試験の事なんだろうが,俺は昨日の合否を姉ちゃんとお祖母ちゃんにしか言っていない。だからこの場にいる2人の内どちらかなんだが…

 

「有咲がすっごく嬉しそうに報告してくれたよ?」

「わぁー!わぁー!香澄ィ!!」

 

 あぁ…なるほど,姉ちゃんがポピパのグループか香澄さん単騎かは知らないがつい報告してしまったという所か…やっぱり,姉ちゃんってブラコン気質なんだよな。

 …その優しさを甘受している俺が言うのもなんだが。

 

「えー,有咲だって嬉しいでしょ?」

「いや嬉しいけどわざわざ導志の前で言うな!」

 

 喜んでいる所に水を差したくないから黙っているんだが,1次試験を通った所でまだプロになるのが確定した訳ではない。

 なんならまだうじゃうじゃいる猛者たちを相手に戦い抜かなければならない。

 …いつかは,あいつとも相まみえなければならないだろう。

 

「ねえねえどーくん,次の試験っていつなの?」

 

 一しきり姉ちゃんをからかった香澄さんが身を乗り出すようにしたのを聴きながら,俺は肩をすくめて返した

 

「来月です。その間にも成績が落ちたら普通に合格結果はく奪もあり得るから…まあ,やることはそんなに変わらないですね」

 

 ヴァンガードのプロファイター…最近で言えばeスポーツのようにヴァンガードのプロ資格を持つ人間の事だ。

 ヴァンガード普及協会って所が公認する大会であるオープン大会と,プロ資格をもつ者だけが参加できる大会がある。ヴァンガードのプロとして稼ごうと思うのなら,プロ資格は必須でその条件としてのプロ試験。

 そして,そのプロになる為の機関が”奨励会”と呼ばれる普及協会が行っているヴァンガード育成プログラム。

 入会試験自体はある程度の能力があれば誰でも入れるが,そこからは対戦に次ぐ対戦に勝ち続けなければ強制退会というまあまあ厳しい現実が待っている。

 

 プロ試験は希望者の総当たり戦で,一定の勝ち数を得たら試験を突破って事になっている。

 俺はそこで全勝して,1次試験を突破した。

 

「そっか,頑張ってね。応援する!」

「…ありがとう,ございます。」

 

 俺の眼は見えない筈なのに,不思議と香澄さんがいる所からキラキラとした…星のような輝きを感じて何となく後ろめたくなって語尾が小さくなる。

 ただ,俺の変化に香澄さんは気がつくことがなく――本当は気がついているかもしれないが気にも留めず,俺達は箸を勧めたのだった。

 

 これが,俺達の日常で…ずっと続けば良いなと思う日常だった

 

 




はい!
という訳で,実質第0話です!

導志が使うカードは,猩々童子が率いる忍デッキです!
名前の韻を合わせたというのと,作者がタマユラとの設定を聞いた時からずっと好きだったという理由で推しているカードです。
今更ですがライド口上をしてもいたくない世界です。
プロになるシステムはアニメの設定とは若干違うかもしれませんが,本作品ではこれで行きます。

そして,導志の眼が視えなくなった経緯も軽くさらいました。
眼が視えないからこそ,香澄の存在が導志にとっては星なのです。

では,1話目も直ぐです!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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