今日は2話連続であります。というか,1話を2話に分けた感じです。
ではではGO!
まだ,俺は何となく現実が掴めないでいた。
夕方に始まった二次試験最終戦,相手は奨励会の各支部の中でもかなりの実力者だった。
けれど…不思議と怖くはなく,ワクワクして…聞こえた気がした…カードの声が
『猩々童子で,ガーンデーヴァにアタック!!』
勝負が決した瞬間,俺の身体の中に流れるアドレナリンとかの興奮物質が一斉にぶわっと俺の中を駆け巡って悦楽に俺は浸った。
分身と共にする高揚感,格上に対してやった一か八かの賭け…園田や枳殻さんには俺が余裕で受かると思われていたみたいだけど,実際そんな簡単ではなかった。
デッキのテーマ的にも,相性的にも…明確のスペックが上のデッキは確かに存在した。
俺が決勝で戦った人は確たるものだろう。
あの人は,”強いデッキを使って勝つ”っていう…カードゲーマーなら当たり前の思考の究極系みたいな人だった。
けど…俺達は勝った。
それが俺には嬉しかったのだろう。
「これで…次はあいつと同じ舞台だ」
いつもの帰り道,最低限道に注意し,白杖を鳴らしながら帰りながら俺は来月にあるプロ試験最終試験を思い浮かべる。
そして…一足先にその最終試験へコマを進めた,かつてのともだちを。
『お前とはプロを目指せない』
そう感情が読めない声色で言って,ファイトして…負けて俺はあいつが遠ざかる足音を聞くしかなかった。
まだ…あれから2年位しか経っていない…いや,もう2年も経ったというべきか。
それ位しか経っていないけれど…あの時の言葉を,ファイトを…俺は1ターンも忘れたことがない。
「…どーくん?」
その時,真正面から声が聴こえた。
星のようにキラキラした声…俺が今地球上で一番愛おしいと思える人の声だった。
そんな人,俺の中には1人しかいない。
「香澄…さん?」
「うん!どーくんの配信ポピパの皆で見たよ!二次試験,突破おめでとう!!」
そう言われて,俺は少し身構えてしまった。
…いや,大概こういう誰かを祝う時の香澄さんは直ぐに抱きついてくることが多いし俺が高校受かった時やなんかおめでたい日には抱きつかれる事が多かったからだ。
俺の場合いきなりの衝撃には普通に一緒に倒れてしまうから倒れないように身構えたのだが…
「…?どーくんどうしたの?」
「え…ああいや,なんでもないです。ありがとうございます,見てくれたんですね…顔しかめている所も見られたって事なんですがそれは」
うーわめっちゃ恥ずかしい,そうだよな,よくよく考えたら女子高校生がしょっちゅう人に抱きついてるのが可笑しいんだよな。
今までの香澄さんの行動から勝手にそうされると期待した俺ってば滅茶苦茶滑稽じゃねえか,うーわ死にたい消えたいとか思ったせいで意味不明な返しをしてしまった。
因みに顔をしかめた所ってのは相手にダブルクリティカルトリガーを出されて一気に5点までダメージをされた時の事。あの後なんとか挽回出来たのは普通に褒めて欲しい…じゃなくて今は香澄さんの反応だ。
「あはは!あの時は有咲も顔を青くしてどーくんの事すっごく心配してたよ」
「なんかありありとイメージ出来ますね。そっか…まあ,おかげさまでちゃんと進めました」
「うん!…どーくん,良かったら少しおしゃべりしない?」
時間はもう20時,俺はもう試験会場近くのお店で晩御飯は食べたが香澄さんは――
「えへへ,実はどーくんが帰るの遅くなるって連絡した時にはどーくんの分の晩御飯用意しててね?ご馳走してもらったから晩御飯の心配はいらないよ」
「…ナチュラルに心読まれた。」
「それはもう,どーくんの考えている事なら分かるよ」
俺の目の前で,きっとドヤ顔している香澄さんについ意地悪な事を聞こうと思ったが…普通にこんなやり方は良くないし,そもそも彼女がそれに答えてくれるとは思えなかった。
寧ろ,今ある関係が壊れてしまう事の方が俺には怖くて…結局口を閉じた。
——俺が貴方の事をどう思っているのか
なんて,最低な文句だろう。
眼が視えない俺が,誰かを幸せに出来るなんて――とんでもない思いあがりなんだから。
「どーくん?」
闇しか視界にないせいか,思考まで闇に行ってしまいそうになり香澄さんの声で現実に戻って来た。
「いえ,大丈夫です。…香澄さんが良いなら」
「わーい!じゃあ,ちょっと公園まで行こっか」
「了解です…って引っ張らなくても」
俺が返事した瞬間,香澄さんは早速と俺に近寄って白杖を持っている手を取った。
「えへへ,だってどーくんとおしゃべりするの何だか久しぶりな気がするもん」
本当に嬉しいのか,香澄さんの声はどこまでも弾んでいた。
…そんな事言われたら嬉しくならないはずなく,俺はそのまま手を引かれて公園に連れて行かれた。
流石に秋に入っているだけあって,肌寒くなるが俺は元々姉ちゃんに厚着させられていたから寒いのは顔だけだった。
「はっくちゅ!」
近くの公園…1年前,香澄さんと話をした所で何だかもう懐かしく感じる場所でもあった。
香澄さんは俺を近くのベンチに手を引くと,隣り合って座ったら香澄さんが思い出したかのように可愛いくしゃみをした。
「大丈夫ですか?」
「うん,大丈夫大丈夫。」
…って言っているけど,まだ握られたままの手は少し震えていた。
それに,上着を取り出す様子もないから上着を既に着ているか,もって来ていないのだろう。
俺はただ夢中に少し手を離してもらい,今着ている上着を脱いで隣にいるであろう香澄さんへかけた
「だめだよ,どーくんが」
当然…なのかは知らんが,香澄さんは俺の手を抑えてそれを阻止しようとしてきた。
けど強引に俺は香澄さんに上着をかけた。香澄さん意外に頑固だからこの位しないと普通に風邪引く。…いや,この人が風邪引くのかは甚だ疑問だが。
「俺はもう1着持ってるので着といてください。風邪ひかれる方が姉ちゃんに後で何を言われるか分かったものじゃない」
嘘だ,俺が香澄さんに風邪を引いてほしくないだけだ。
それにもう1着上着を持っているのは本当だ。姉ちゃんに上着を無くしたようにもう1着持って行けって言われて鞄の中に眠っている。
まあ…白杖は持っている人が盲目だと知らせる性質上,悪い人は普通に盗もうとしてくるからな。実際小学生の時されたことある。
だから姉ちゃんが予備で持たせることも普通にある。…あと,多分だけど俺の鞄にGPS仕込んでる。
「そう…?えへへ,じゃあありがたく。」
納得してくれたのか,香澄さんはいそいそと布擦れの音を出しながら俺の着ていた上着を着た。
俺も鞄の中に入ってた上着の予備を出して着こんだ。
…香澄さんが俺の上着を着ていると思うだけで,なんだか緊張してしまうのは意識から離そう。
「最近はどう?演技の練習してるんだよね?」
「はい…と言っても,やっぱり難しい事の方が多いですけどね。もう2週間でなんどこけたり机や壁に激突したか数えきれない」
実際,昨日のお昼ご飯食べた後も1人で演技する所は滑らかに演技をしようと思ったらこけて,足元を確かめながらしようと思ったらぎこちなくなって演技どころじゃなかった。
台詞はほぼ完璧なお墨付きをもらっているが,どうやっても肉体動作が足枷になってしまっていた。
「そっかー,千聖先輩や薫先輩に相談してみる?」
香澄さんが言った2人の名は,もちろん俺も考えた事があった。
白鷺千聖先輩は俺の2つ上の先輩で,Pastel*Palettって事務所所属のアイドルバンドのベース担当。そして小学生の頃から子役として色々なドラマや舞台に立って来た女優でもある。
瀬田薫先輩も俺の2つ上で,彼は羽丘女子学園高等部演劇部のエースでファンを楽しませるための努力を惜しまない姿と演技力は随一のものだ。
2人とも,姉ちゃんや香澄さんのバンド仲間でCiRCLEのイベントに貢献してくれたガールズバンドパーティーの一員だから俺も関わりはそれなりにある。
というか,最近ではPAが主な仕事になり始めた俺に音に関する相談も偶にされる。主に千聖さんから。
薫さんは大体儚いで選んでるから余りないが,千聖さんは割とそういうのある。
彼女の場合,後輩思いだからか,ハンディキャップがあるからかは分からんけど俺には割と甘い傾向がある。
だから特別相談しにくいという事はない。
ないのだが…
「いきなり眼が視えない人が演じる場合の事を聞いた所で困るだけじゃないですか?」
これが”盲目の人を演じる”とかなら,有用なアドバイスは貰えるのかもしれない。偶にそう言う設定もあったかもしれないから。
けど俺が欲しているのは”盲目の人が演じる”方だ。
そもそも眼が視えない人が演劇すること自体が珍しいのだから,いくらあの2人でもそんな人と共演したことがあるとは思えない。
…あと,純粋にはたしてクラスの出し物に他校の人を巻き込んで良いのか?
「大丈夫だよ!2人とも優しいからきっとどーくんの力になってくれるよ?」
「まあ,それは否定しませんけど…もう少し自分の力でやってみます」
「そっか,分かったよ。」
一瞬寂しそうな雰囲気を感じたのも束の間,香澄さんと俺は他愛のない話をし続けて,姉ちゃんが迎えに来るまで星空の下で過ごした。
彼女の温かさは,どの季節でも健在で普段はあまり喋るのが得意じゃない俺でもコミュ力上がったんじゃね?とか思ってしまう位,楽しい時間だった。
…のだが,俺の平温はこの一言で急上昇した
「どーくんって女の子にモテそうだよね」
「…なんですか藪から棒に。それはないんじゃないですか?」
俺は眼が視えない,普通の人間と付き合いたい傾向がある人間の割合が多い中でわざわざ俺を好くモノ好きなひとはそれ程いないだろう。
いやこの年で彼女とか考えるのも大分自意識強めなのは分かっているんだが…好きな人が出来たら考えてしまうのも人の性という奴だろう。
それがその人に受け入れられるかは別として。
「ううん,そんな事ないよ。どーくん優しいし,夢に向かってる姿だって私はカッコいいと思う!」
「…俺は優しいって,俺の場合迷惑をかけてるからその裏返しの意味が強いんですが」
「それでもだよ。私はどーくんの優しさに救われたもん。去年のここで」
俺としては,去年香澄さんにこの場所で言ったことを普通に忘れてつい最近まで反抗期みたいなことになっていたので少し気まずいのだが,彼女はそんな事を気にする事も無く,声を弾ませていた。
「それだって,姉ちゃん達が香澄さんを必要としたからであって俺がどうした訳でも…」
「そんな事ない,私はどーくんに言われた事ちゃんと覚えてるよ?」
「それはそれで恥ずかしい」
「ふふっ,ねえ実際どう?誰かに告白されたりした?」
「ないです」
即答した。
最近では周りからは枳殻さんといる事が多いからと勘繰られる事があるが,別に彼女からそう言う事を言われた訳でもないし俺もクラスの仲間としての意識が強かった。
2人きりで過ごす時間もあるが,週明けからは他のクラスの面子も文化祭準備に加わる関係で2人での練習も少なくなる事だろう。
即答した俺の言葉に,香澄さんは一瞬息を吸ったようにして…やがて安堵するように息を吐いた
「そっか…良かった」
「ん?」
「ううん,なんでもないよ。文化祭絶対に行くね!ガールズバンドパーティーの子たちも誘って,あ,モニカの皆やRASの皆も呼ぼうよ!」
「人数増えたな…チュチュとか来ない気もしますが」
「そうかな?きっと来るよ!」
チュチュってのはRASのプロデューサー兼DJで,あまりお祭り騒ぎには来ない印象があった。
ただ,この前CiRCLEでライブしてくれた時にたまたまPAしていたんだがなんか不器用なりに褒めてくれて嬉しかったのは覚えてる。
「…まあ,皆は無理だろうけど,来てくれるの楽しみにしているよ」
「うん!」
そこで静かな公園に近づいて来る足音が聴こえて来た。
香澄さんには聴こえていないみたいだが,俺には聴こえて…その足音に聞き覚えがあった。
足音っていうか靴音?
「どうやら,迎えが来たみたいですね」
「へ?」
「あ,いた!導志!」
「あ,有咲?!」
言うまでも無く姉ちゃんだ。
多分本人は黙ってるけど,俺の鞄にはGPSが付いているというか付けられているからそれをスマホアプリから見て探しに来たんだろう。
過保護の姉ちゃんならやりかねないと思っているし,実際やっているんだろうが別に困る事ではないので放っておいている。
実際GPSのおかげで俺が死んでしまう所を助かった事があるから文句なんて言えるはずもないし。
「香澄!導志が遅いと思ったらお前か!」
「えへへ,帰る時にどーくんに会ったらお喋りしたくなっちゃって」
全く悪びれる事もない香澄さんだが,お喋りを望んだのは俺の意思でもあったから仲裁しようと思ったら…
「はぁ,まあ良い。夜も遅いし,もう泊って行けば?明日どうせ休日だし」
「ほんと?!わーい!有咲ありがとーっ!」
「ちょ抱きつくなぁ!!」
やっぱり香澄さんの抱き着き癖が治った訳じゃないみたいだ。
じゃあ俺にされなかったのって?
…いやいや普通女子高校生が彼氏でもない男子高校生に抱きつくのが可笑しかったんだ。
そうだ,今のこれが平常運転だ。そうだきっとそう。
——抱きつかれなくて寂しかったとか言えるわけないだろう
お疲れさまでした!
という訳で物語上重要な所じゃないのでプロ試験は飛ばします。大事なのは最終戦なので(あと全部のファイト展開を考えられないというのもある)。
香澄,初めて導志と出会った頃は普通に抱きついていたせいか,最近抱きつかれなくなってしょんぼりしている導志。
実体は香澄が意識して恥ずかしくなってしなくなっただけという。最初はじゅんじゅんの時と同じテンションだったのだ。
多分ここだけ(大言壮語)の奥手な香澄をお楽しみください。
では次!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話