星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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てなわけで,オリキャラ回です。
今更ですが,文化祭編がぶっちぎりで長いです。文化祭以外の事もするので仕方がないですね!

ではGO!



謎の人物X

 

 翌日,俺は電車を乗り継ぎ商店街近くの公園へ向かった。

 もちろん遊ぶためではなく,演技の練習の為だ。ここ最近で一番不安だったプロ試験2次試験を終えた今,直近で立ちふさがるのは文化祭だからな。

 普通なら家でそのまま練習すればいいじゃんとか思われるかもしれないが,今日はお祖母ちゃんの知り合いが家に来るらしく部屋でやるのも緊張感が無くて出て来た。

 瀬田先輩もよく公園で練習しているらしいし,俺もそれに見習う形になった。

 

 公園に到着した俺は,一度台本を取り出してから冒頭部分からやる事にした。俺は丸めた台本をとっくり代わりにして物語を始めた。

 

「ふぅ…今日も良い酒だ。この一杯があるからこそ,忍の頭ってのはやりがいがあるもんさな。ここ最近は,親父も俺にお見合いをしろって言わなくなったしようやく羽が伸ばせるってもんよ」

 

 俺の役…忍の頭の名前は普通に猩々童子になったのは前心で思った通り。その方が俺はやりやすいだろと園田に言われたからだが,改めて分身の役をやれって恥ずかしい事この上ない。

 だけど,不思議と不快感は余りなく俺はこの役に没頭する事は出来たのだから園田の策略には嵌ってしまっているんだよな。

 実際俺は,自分自身だと思っている猩々童子の台詞を言う度,身体を動かすごとに身体に力が入るのを感じていた。

 …いや,でも高校の演劇で酒豪キャラってどうよとは思う。

 

「…っ」

 

 少し気を抜いてしまったら,俺はバランスが崩れて倒れかけたのを感じた。

 咄嗟に重心を後ろへ踏みしめる事で何とか身体のバランスを元に戻す。

 今はアクションシーンを練習していたが,やっぱり一番の難所だ。ゆっくり歩くとかではなく,手足を同時に動かすこのシーンはこの舞台の山場だ。

 ここもきっちり決めないと盛り上がりに欠けてしまう。

 俺の歌も盛り上がる所だろうが,あくまでも主役は演技だろう。…演技だよな?

 

「やっぱどうやっても躓く,もういっそ躓くことを前提としたアクションにするか。いやでも…」

 

 そんな事で俺は悩みつつ,公園でやっているのも相まって”何やってんのあの人”という痛い奴を見る視線を感じながらも淡々と練習を続けて…またこけてしまいそうになった。

 

「やばっ」

 

 完全に浮遊感が俺の身体を支配したのを感じた瞬間,頭が警報を鳴らしまくってどうにかしようとするが到底間に合わず,咄嗟に受け身を取ろうとしたが間に合わないと心のどこかで思ったら――

 

「よっと!」

 

 俺の腹を抱える形で誰かがコケるのを阻止してくれた。思いっきり腹を抱えられたせいで腹の中にあった空気が吐き出される形になったが,俺は何とか無事に外傷も無く怪我を逃れた。

 俺を助けてくれた誰かは,どことなく爽やかでありながらも,何故かアニメのヴィラン役にいそうと思われるくらいの中性的な声を出した。

 

「危なかったね,大丈夫かい?」

「だ,大丈夫です。助けてくれて,ありがとうございます」

 

 言いながら俺は無事に足が地面に付き,しっかりと重力を噛みしめて声がした方へお礼を伝える。

 恐らく男性は気にするなと言うように首を振ったのだろうか,努めて平然とした声で言われた。

 

「いや,先程から見ていたが演技の練習かい?少し休憩したらどう?」

「…?すいません,今何時ですか?」

 

 今の俺は白杖を手首にかけて使ってはいない。だから見ようによっては普通の人に視えるかもしれないが生憎眼が視えないのは変わっていない。

 俺が時間を尋ねたことで,多分向こうにも俺は眼が視えない事は伝わっていると思うが…まあ今更そんな事を気にするような事もあるまい。

 

「今は15時に入った所だな」

「…2時間続けてたか」

 

 朝は香澄さんが家にいたから彼女とおしゃべりをしていたりしたが,香澄さんも暇な訳ではない。ガールズバンドパーティーの人達と約束があるようで姉ちゃんと一緒に出掛けて行った。

 俺が昼に来たのは,姉ちゃん達が出ていくまでのインターバルもあったって訳。

 で,公園に来たのが大体13時位だから2時間練習していた事になる。

 

 …いや,全然成長した気にならないんだが?こけかけまくるんだけど。

 

「いえ,まだもう少しやります。支えてくれてありがとうございます」

「うーん,練習を続けても精細を欠くだけだよ。それに,喉も少しカラカラなんじゃないかい?」

「うぐっ」

 

 言われてみれば,これまでずっと喋っていて水分補給も普通に忘れていたから思い出したかのように喉が渇き始めるのを感じてしまった。

 俺はため息をつき,大人しく休憩する事にした。

 

「良かったら隣良いかい?」

 

 俺がベンチを白杖で探り当てると,追随するように彼も聞いて来た。

 特に断る理由も…そもそも市民公園のベンチなのだから誰が座ろうと本来問題ないとかいう野暮な理由は置いといて,俺はどうぞと促す。

 

「1時間くらい見ていたけど,眼が視えなくてあそこまで演技出来るのは素直に脱帽するよ。」

「1時間もなんで俺を見てるんですか,絶対他の事に時間を使った方が良いですよ」

 

 俺は彼の第一声に思わずツッコミを入れてしまった。

 いやだって,いきなり隣に座ったと思ったら1時間も観察してましたとか恥ずかしいことこの上ない。別に良いとは言ったけどさ?

 ガチで俺みたいな大根をずっと見てたとか言われたらえ?ってなるだろそりゃ。

 

「たまの休日の時間の使い方は私自身が決めるよ。そう言う意味では,君が演技を練習する姿は実に有意義だった。故に助けたくなったのさ」

「…って言われても,俺自身はそんなに納得が言っている訳ではないですよ。動きは確かめながらだからぎこちないし,アクションだって動きをなぞってるだけ,それもこけないようにするのが精一杯。精々マシなのは台詞を間違えないことくらいで,他は大根も良い所ですし」

「ふむ」

 

 謎の男Xは考え込むように押し黙る。

 俺はその間,お茶を飲んでただボーっとして空気を感じていた。

 砂,汗,誰かの匂いと言った眼には見えない物質をただただ体の中に取り込み周囲の状況をイメージし作り出す。

 それが正しいか状況なのかには全く意味がない。そもそも視えないのだから想像でしか補えないのだ,俺の場合は。

 だからこれは一種の暇を弄ぶ遊戯に過ぎない…のだが,隣から意外な声がかかった。

 

「君が良ければ,アドバイスをいくつかさせて貰えるかい?」

「…俺は貴方と初めて会う筈ですが,どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 

 俺としては,こけた俺を助けてくれた事は普通らしい人間扱いしてくれた事は喜ぶべきなんだろうが…どうして今ここで会っただけの俺にそんな面倒なことをしてくれるのかが俺には分からなかった。

 だから聞いた。聞いたら

 

「確かに,君と会うのは初めてだ。だけど私は知っているのだよ,君が市ヶ谷導志君って事はね」

「なんで…」

「ああ,勘違いしないで欲しい。君をストーカーしていたとかではない。神に誓って初めて会ったのは今だと言おう。しかし…昨日の戦いは実に見事だったよ。」

「…奨励会,配信か」

 

 年齢不詳のXさんだから俺の高校の生徒という事も考えたが,会ったのが初めてなら何かで見たと思うのが普通だ。

 そこに昨日の戦いと言われれば,昨日のプロテスト第二次試験の配信しか思い浮かばなかった。

 指をパッチンと鳴らしながら彼は答えた。

 

「エクセレント,そう言う事だよ。私は若輩者で表の顔は俳優をやらせてもらっていているが,裏の顔は君と同じヴァンガードファイターさ」

 

 …俳優兼ヴァンガードファイター,その言葉をどこかで聞いたような気もすると俺の胸のどこかでつっかえたが,それでどうして彼が俺を知っていたのか,アドバイスしようと思ってくれたのかが分かった。

 分かったのだが…

 

「ん?どうしたんだい,そんな不思議そうな顔をして」

「…そんな顔してました?」

 

 俺は自分がどんな表情をしているのかが既に過去の残影となって消え失せてしまった為,こうして他人に聞かないと自分がどんな表情を形作っているのかが分からない。

 …因みに,クラスメイト達曰くファイトしている時の俺は牙をむき出し,野生本能むき出しの狂戦士みたいな表情してるって言われた。

 ——絶対うそだろ…嘘だよな?

 

 俺の嘆きを無視する形で彼は肯定した。

 

「うんしてたね,ついでに言うならやっぱり不審者ではないか?と思っていそうということもね」

「否定はしませんよ。どうも,最近は”信じる”事をしようと努力しても…ふとした瞬間に立ち止まる事が多い。」

「それでいいのではないか」

「え?」

 

 まさか肯定されると思っていなかった俺は,鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしたと思う。

 普通の人であれば,信じる者は救われるって言葉があるように”信じる”って事は善とするものが多い。その行動も含めてだ。

 例え本心では違うと思っていても,人間は良いように見せたいと思うのが当然だと思う。

 

 それを否定する俺の言葉に,さらっと是と言ってくれるのは姉ちゃんやガールズバンドパーティーの人達以外には珍しかった。

 因みに園田は多分普通に俺の言葉を否定すると思う。

 じゃないと,”信じてくれ”なんて真っすぐ言ってこない。

 

「私自身は,信じたからと言って全てが救えるとは思っていない。信じるのは誰もが出来る事であるけれど,不信もまた誰もが出来る事だ。しかし,故に人間は人間たりえる。全ての人間が争わず,信じあう世界がもしもあるのだとすれば,それは素晴らしいと同時に――気持ちが悪い」

 

 瞬間,何かゾクッとしたものが俺の背中を駆け巡った。

 彼の言葉は演技で身に付いたものじゃない,人生の中で身に付いた教訓なのかは知らないが…彼の言葉には,虚像じゃないマジを感じた。

 けれど,だからこそ不思議と説得力もあったのだ。

 

「人生の先輩としてアドバイスだ,不信は不敬ではあるかもしれない。しかし,不信は根底に”信じたいから”起こり得る現象だ。それを悩む事はあれど,自分に罰を与えようとは思わない事だ。盲目の君が役を貰えたのも,君なら出来ると思っているからこそであり,その信頼について考える事は義務なのだよ。」

「…答える,ではなくてですか?」

 

 信頼を受けたのならば,考えるまでも無く答えるのが普通じゃないのだろうかという俺の疑問はやんわりと訂正された。

 

「答えるのは考えるの後だよ。信頼に応えても良いのか,自分は都合の良いように使われているから応えないという選択もありだろう。何でもかんでも人の頼みを,期待を,予想に応え続けていたら…それは人形と一緒だよ。そして,酷使され続けた人形は壊れてしまう。芸能界でも同じさ。よく聞くだろ?芸能人やアイドルが唐突に活動を休止するとか。」

 

 初対面の筈なんだが,何故か相当重い話をしている事だけは分かった。

 だけど,彼は俺に何かを教えようとしてくれている。それだけは理解した。

 

「まあ,確かに…そうなのかもしれませんね。」

「うむ,その義務を放り出すのは…ただのチキンか,興味がないだけさ」

「…それは確かに言えてる」

 

 そして,少しだけ気が楽になったのを感じた。

 もちろん俺はこの鬼の役を,最後まで責任をもってやることは決めている。

 それは園田が全力のファイトで俺に伝えてくれた信頼の証で,俺はちゃんと考えてそれに応えると決めたのだから。

 だけど,少しでもあの時の選択を信じる事が出来なかったら…その選択を選んでしまったら?

 …そんなIFを描いた俺を,この人は否定しなかった。

 

 だから

 

「貴方が本当に俳優だというのなら,少しだけアドバイスをくれますか?」

 

 俺はこの人がどういう人間なのかを考え,彼の提案を飲む事にしたのだった。

 

「ああ,喜んで。君の信頼に応えることを誓おう」

「…さっきから思ってた事1つ聞いても良いですか?」

「なんだい?」

「キャラ作ってます?」

 

 数秒,沈黙が続いたのだった

 




お疲れさまでした。

導志の演技強化話でした。
謎の人物Xはオリキャラです。この世界の中での俳優+ヴァンガードファイターです。
奨励会の配信で導志が出てるから,初めて会う人でも知っていても可笑しくはないが…。

で,謎のXさんの言葉の要約「信頼の全てに応える必要はない」という持論です。広い意味で言えばプレッシャーですね。パスパレのイベストでもありましたけど,期待や予想に応え続けることは重荷になってしまいます。彼は信じることが苦手な導志に,それに応える事はちゃんと考えるべきだとを促したわけです。

導志の今はクラスメイト達がバックアップで自分を変えようとしてくれてるのを,自分も彼らに応えないとって少しなっていたので,それを見抜いたXのシーンです。
因みにこの考えは現実の作者の考えでもあります。

では,また明日の夜です!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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