星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

14 / 56
クラスの真実

 [クラスの真実]

 俺達が初めての全体練習を終えて,講堂から教室に戻って来ると出迎えたのは園田と道具組だった。

 まだ授業の終わりを告げる鐘はなっていないが,元々初めての全体練習だったので気持ち早めに解散する事になったのだ。

 

「おーお帰り」

「ただいま」

「わ,結構決まってるね」

 

 俺のあずかり知らぬところで,どうやら小道具や衣装の係が決まっていたらしく神田さんが声をあげた。

 ただ,役割が大体決まったというのに園田の声は喜びにあふれている訳でもなく,寧ろ少し沈んでしまっていた。

 

「そうなんだけど,なんかこう…もっと盛り上がる事出来ねえかなって」

 

 俺は彼等の会話を聴きながら自分の机に行き,台本を置いて水分補給する。

 視覚的な事を話している以上,俺がどうこう言える話ではないだろうという元だった。

 話し合いに混ざりたくないとかそんなものではない。

 

「これのままじゃ他の演劇と大して差がないし…必要なセットも多くなっちまうんだよな」

 

 確かに…高校生の演劇って基本的に段ボールとかで作ったセットが限界だし,プロの劇団みたいに鉄で組み立てたセットの本格的なものに比べたら寂しく感じてしまうのも無理はない。

 それに,だからと言ってセットの数を多くしても時間がかかってしまう。

 文化祭の出し物の頂点を決めるグランプリをやるからには目指したいという園田は,このままではどうやっても他のクラスとの差別化が出来ないと思っているんだ。

 …まあ,普通に屋台とかやる生徒もいるけどな。

 

 そこで他クラスと違うという所でふと思い出したことがあり,俺は彼等の元へ歩みながら聞いた。

 

「俺の記憶が正しければ,確か入学式の時に講堂でプロジェクター使ってなかったか?」

 

 もちろん,俺が直接プロジェクターの存在を見た訳じゃない。

 だけど入学式の時に確か,前を向いてくださいって類のことを言われた気がする。

 入学式で前を向くのはある意味当然だから,その前には何かが映っていたと考えるべきだ。

 で,ここが私立って事も考えるとあると思うのはプロジェクターしかない。

 

「あ,確かに使ってた!」

「そっか,プロジェクター使えば他のクラスとの差別化も出来るね!」

 

 枳殻さんや神田さんがどこか喜色に満ちた声をあげ,俺も自分の提案ながら的を射得たことを言えてよかったと安堵していると…園田が首を振るのを感じた。

 

「確かにプロジェクターを使えば差別化は出来るけど…そのプロジェクターに映す映像は誰が描くんだ?」

 

 …それは考えていなかった。

 俺の小3のときの記憶だが,プロジェクター自体は確かにいつもと違う特別感があるものだ。

 だけどそれは普段とは違う事をしているからというある種の特別感があるおかげ,イラストとかが平凡であればその特別感も軽減されてしまうかもしれない。

 因みに俺は絵を全く描けない。理由は言わずもがな。

 

「枳殻さん出来る?」

「うっ,組み立てるのは出来るけどイラストは…」

 

 下手なイラストであれば,そして役者の次に見られる事が多いであろうイラストは舞台の出来を左右してしまう一端を担う。

 そのプレッシャーの中で舞台で使う背景のイラストを描くともなれば描きたい人間がどれだけいるのか。

 それも台本を見る限り必要な背景イラストはざっと5種類から7種類。割とある。

 

 園田自身もプロジェクターを使うこと自体は反対ではない,けれどアナログな小道具と違ってデジタル部分は高校1年の段階で出来る人間は相当限られる。

 ましてや…このクラスに果たしているのか

 

 手詰まり感が出てしまい,諦めて無難に段ボールを使ったセット作りをしてしまおうかと諦めの雰囲気が漂ってしまった時——

 

 

「ぼ,僕描けるよ!」

 

 

 役者組じゃない,ましてや実行委員である園田や神田さん,学級委員長の北村さんでもない第三者の声が聴こえて来た。

 俺もほぼ初めて聴いたどこか気弱そうな男子生徒の声,相当勇気を振り絞ったのか声は掠れているけど確かな決意を感じさせる力強い言葉だった。

 待て待て,名前は確か…

 

「本当か深川!」

 

 俺が考えるよりも先に,園田が詰め寄りながら喜びを全身で感じるように迫ったのが感じ取れた。

 そうだ,彼の名前は深川聡…俺も余り話したことがない男子生徒の1人で少し暗い感じを受けてしまう青年だ。…いや俺もそっち側の人間だけどね?

 

「う,うん。か…描けると思う」

 

 しかし,言うだけならば誰でも出来る。

 だから園田は彼の書いたイラスト,出来るのなら背景を中心としたイラストを見たいと提案し深川君は園田や他数名の生徒に自分のイラストを見せたようだ。

 俺はそれを遠い所から聴く。

 

 すると,感嘆としたように息を吸い込む小さな音が聴こえた。

 

「うっま」

 

 ただ茫然とそんな事を言っている時点で,どれだけ彼のイラストが優れているのかが伝わって来る。

 それを視る事が出来ない事は残念ではあるが,この瞬間からクラスの何かが変わり始めているのを俺は明瞭に感じ取っていた。

 それはこれまでクラスに余り関わって来なかった深川君が声をあげたのが大きかったように俺は思う。

 

 もちろん,深川君がこの瞬間におそらく誰も知らなかったであろう特技を披露したことは彼の勇気だったと思う。

 だけどそれを引き出して見せたのは――

 

「じ,実はこんなのも作ってみたんだ」

 

 おずおずと,でもこれまで日の目を浴びてこなかった彼は掛け値なしの賞賛に理性が少し蒸発したのか,まだ隠している何かがあったようで何かを園田達に見せたようで…って,待て。

 この背後に流れている音楽は…俺が劇中で歌う曲の候補の1つだった。

 そして…流れてくるのは俺の歌声。猛烈に羞恥が溢れて背中が滅茶苦茶むず痒くなってしまった。

 

 別に自分の歌自体は,大衆の面前でやっても胸を張れると今の俺は言い切れる。

 一度手放した歌を,香澄さんがもう一度拾わせてくれたから過去の自分よりもずっとずっと上手いと言える。

 けれどそれをこう,そう言う舞台でもないのに流されてくるのは恥ずかしいことこの上ない。

 俺はそっと近くにいるであろう――これは香水の匂いで分かった――枳殻さんに聞いた。

 

「深川君ってカラオケいなかったよな?」

 

 背景に聴こえてくる音楽はどう聴いても生ではなく機械仕掛け,つまりカラオケなのだがなぜその時に歌った俺の声が聴こえるのかが分からなかった。

 

「あ,そうか。導志君基本LINE見ないもんね。導志君が歌っている所,実はクラスのグループLINEに載ってるんだ」

「えぇ…マジか」

 

 つまりあれか,あの時の映像から俺の声を取ってカラオケに改めて当てはめた何かって事か?

 …っていうか,俺は果たしてプライバシーを侵害されたことを怒ればいいのだろうかとか意味もない事を考えていたら…どうやら俺の歌唱が終わった。

 それは1番しかない短いものだったけれど,しばし沈黙が続いた。

 俺は深川君が何を見せたのか分からないからただ周りの反応を待つばかりだったけれど,やがて主に男子が合唱するように

 

「「す,すげー!!」」

 

 と叫んだ。

 そこにはインドアもアウトドアの垣根も無く,ただ純粋に1人が成し遂げた何かに賛辞を贈る最高の文句だった。

 俺にグループLINEの真実を教えてくれた枳殻さんでさえ,口が開かないと言った様子で次第に北村さんからも賞賛が飛び出した。

 

「深川君,あなた動画編集も出来るの?それに…凄いレベル高いミュージックビデオだった。」

 

 俺はそこでようやく彼が何をみんなに見せたのかを知って…なぜ彼らが唖然としたのかがよく分かる衝撃を遅れながら受けた。

 ミュージックビデオ,よくMVとも言われるアーティストの音楽の世界観をビデオとして編集し,その曲の魅力を引き出す映像の事だ。

 最近だと,ポピパもMVを撮影していたし俺も香澄さんに強引に映された訳だが…その手間とコストは作業を担当していた姉ちゃんと牛込さんの様子を見れば一目瞭然だった。

 

「う,うん。その…昔はYouTuberになりたくて勉強して…あ,でもやっぱり僕には難しくてそれは諦めたんだけど…でも自分で見る用に動画編集はずっとしてて」

 

 少し前まで子供のなりたい職業ランキングに入っていたYouTuber,流石に高校生にもなるとその壁が高いものだと知って違う夢を持つのが普通でなりたいと願うだけの子供が多い中,深川君はやりたい事がYouTuberではなく,動画を作る事だと気がついた人間なのだろう。

 その言葉の中には,そんな昔を恥じたような羞恥の混じった声と,その過去あってこその今の賛辞を照れくささそうに受ける心境が見受けられた。

 ——のだが

 

「市ヶ谷君が…市ヶ谷君が眼が視えないのに必死に頑張ってるの見て…何かしたくなって」

「…俺?!」

 

 なぜかあらぬ方から飛び出て来た俺の名前,全く想定していなかったので驚愕してしまうのは許して欲しい。ていうか,彼の一言によって皆の視線が俺に向いたのを感じてむず痒さが倍増してしまった。

 そして彼はどこか興奮したかのように,声を上ずらせながら言った。

 

「僕には想像できない世界で君は生きて,夢を持ってる君に…僕はあ,憧れてるんだ!」

 

 想定外の上に想定外を重ねれば何が起こるのか?

 それはすなわち想定外だ…そんな意味不明な事が浮かんでしまうことくらい,深川君の突然の告白は俺を困惑させるのと同時に周知させるには十分な言葉の力を持っていた。

 今まで,俺が憧れた人間はいれど俺に憧れる人間はいなかった。

 なんなら,眼が視えないという意味では普通の人間とは違う。だからこそ

 

「いや,俺は憧れるような人間じゃ…」

「導志君♪」

 

 俺は条件反射的に彼の言葉を否定しようとした所,隣からもうゾクッとしてしまう位低い枳殻さんの声が”ネガティブ禁止♪”と訴えて来て思わず口を閉じてしまう。

 …いやでも,この場合どうすりゃいいんだよって普通に思うだろ?

 取り合えず俺は…

 

「ありがとう」

 

 この後に逆説の”けど”から続く自分の否定の言葉を猛烈に紡ぎたくなってしまったのは,俺のこれまでの自信喪失の日々があるからだろう。

 何度自分を信じてもそれが鍍金のように剥がれて行くのも自覚がある。その剥がれる速度は鍍金を塗りなおすごとに遅くなっているが,根本的な自己否定的な所があり続ける限り俺は一生このままなのだろうと他人事のような自虐がある。

 

 けど,隣から感じる”ネガティブ禁止”オーラ―が凄まじく,俺は何とかその後の言葉を紡がないですんだ。

 なんだか俺がそうしてしまったせいで滅茶苦茶微妙な雰囲気になってしまったが,園田が気を取り直すように明るく深川君に問いかけた。

 

「深川,このMVはどのくらいの時間で作ったんだ?ああ,それから背景イラストもどれくらいかかったんだ?」

「え,あ…イラストはイラストによって時間は変わるけど大体1,2日あれば…このMVはその,昨日作ったんだ」

「…マジか」

 

 牛込さんと姉ちゃんがポピパのミュージックビデオを作った時はほぼ一日,交代しながらやったものだった。

 俺はその出来を見ることは出来ないが,既にあるものを使ってミュージックビデオを作っていた姉ちゃん達と違って0から作ってたったの1日。

 動画編集が趣味って言っていたが,にしてもまだ15歳で出来る技量じゃないのは園田達の反応から察する事が出来ていた。

 

 ここまで実力を証明されて,それを利用しないという手は園田にはなかったようだ。

 

「よし…深川,プロジェクターで映す舞台背景とか導志の歌唱場面のMVを作ってくれ!」

 

 流石というか,文化祭実行委員長になった園田の勢いはとどまる事を知らないようで凄い勢いで深川君に詰め寄っているんだろうなとありありとイメージできる。

 だけど,深川君は元もと余り目立ちたがらない人だ。

 普通なら断ってしまうのかもしれない…けれど

 

「ぼ,僕が?」

「そうだ,お前がだ!」

 

 リーダーシップには二種類あると言われている。

 1つ目,部下が自ら成長するように背中を押し上げるリーダー。

 2つ目,園田は間違いなくこっちのタイプだと言い切れるが…言葉と行動力で部下を引っ張るタイプのリーダーだ。

 …いや,俺に主役をやらせたいと躍起になってファイトを挑んできたときはどちらかというと前者に近いか?

 そんな事を考えていると,やっぱり深田君は懐柔されたようで

 

「わ,分かった。やってみる!」

 

 段々と…段々とこのクラスが1つの目的に向かって結束しているのが肌で伝わって来る。

 たった1人のリーダーが,ロケットスタートで俺を取り込んでから驚異的と言ってもいいくらいの輪が出来上がっている。

 初めから燻っていたクラスメイト達の何かが,園田を起点として爆ぜているのが伝わって来る。

 …これが文化祭準備期間初日だと思うとどれだけ凄い事か分かってもらえるだろうか?

 

 そして,深川君が自分の隠していたスキルを見せたことによりクラスの中で何かの枷が外れたのを感じた。

 

「あ,園田君。私も導志君の衣装をデザインしてきたんだけど…」

「俺も導志が演技する時の目印になる音を考えたんだけどこっち来てもらえるか?」

「お,お前らどうしたんだよ?!まだ準備期間始まったばっかりだぞ?しかもどっちもレベルたけー?!」

 

 園田が目を丸くしたのが手に取るように分かるが,彼の言い分は俺も同意だった。

 俺に関しては身体的ハンデがあるから先に準備を始めていたが,彼,彼女達は中間考査が終わったばかりで準備期間が始まったばかりのこの段階で何故か動き出して形にしているのは一般常識から見ても戸惑うのは無理がない。

 …あとなぜ俺に関する事が早めなんだってツッコミは置いておこう。

 

「その,私は深川君と同じで…」

「お,俺も…導志が頑張ってるの見てたら何かやらなきゃって」

「…ってまた俺?!」

 

 思わぬところで不意打ちに出た俺の名に,思わず声をあげまた反射的に”いや”から続く言葉を吐きそうになってしまったら隣から圧が飛ばされた。

 そして,まるで小さな赤ん坊をなだめるように彼女(枳殻さん)は言ってきた。

 

「誰だって自分よりも不利な条件で頑張ってる人を見たら頑張ろうって思えるものなんだよ,導志君?」

「…背中むず痒いんだけど」

「ちゃんと受け入れて?あなたが頑張るから皆も頑張ろうって思えるの。それを…導志君は知るべきだよ」

 

 有無を言わさずに切り返されて俺の否定論法をあっさりと覆される。

 俺には永遠に縁がないと思っていた誰かが頑張ろうと思える原動力を,他ならない俺が持っているのだと枳殻さんは言ってくれた。

 それは恥ずかしくもあり…誇らしくもある感情だと俺は気がついた。

 俺が何も言えなくなっていると,北村さんが愉快そうに

 

「あはは,燈火ちゃん最近導志君の手綱の握り方分かって来たね」

「俺は馬か?!」

 

 こちとらそんな真っすぐに色々言ってくれる人間が香澄さんや他のガルパの皆さん以外いなくて羞恥心MAXなのに,それを助長させるような事を言うんじゃあない。

 あ,ほら周りの奴も何が可笑しくて笑っているし…あーあ,もうしーらね。

 

 

 だけど…俺にとって憧れだったあいつのように,俺が誰かの動く力になれたのだと知ってどうしようもなく俺はそれが尊いものだと思えた。

 

 

 俺達1-A の文化祭準備期間は,準備期間が始まる前から何故か準備していた生徒が多数いるおかげで他クラスを突き放す圧倒的なスタートダッシュを切った。

 

 …でも1つだけどうしてもツッコみたいのが,衣装係の子が何故か専門的な知識を持っていたり,背景・小道具デザイン係になって火付け役にもなってくれた深川君がその方面には凄まじい積極性を発揮したり,なぜか特徴的な周波数の音を…それも普通の人間であれば聞き取ることが先ずできないであろう音を作った変人だったり…なぜかこのクラス,真っ当な方向にも変な方向にも才能がある連中が多かったのはどこかのなろう系小説の設定かと思ってしまった。

 

 




お疲れさまでした!

導志が知らない間に周囲に与えていた影響のお話,自分達よりも不利な条件でも夢を掴み取る為の努力を目の前でしている導志を見たら皆やる気が出たのです。

新キャラ
深川颯馬:美術方面・機械方面に突き抜けている生徒。導志に触発されMVを1人で作ってしまうとか言う才能の塊。

では次!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。