星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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招待状の行先は?

 [招待状の行先は?]

 

 市ヶ谷導志という人間が1‐Aにとってどのような存在か?と問われたら,凡そ全ての生徒が”異質”と言わざるを得ないだろう。

 代表的な事柄と言えばやはり眼が視えない視覚障害を持っている事が一番に挙げられる。

 彼,彼女達にとって眼が視える健常者がいる事の方が日常過ぎて彼と同じクラスになるまで,そのような人間を見ることなど…ましてや同じクラスになるなど普通に考えて考えられなかっただろう。

 いくら中学時代に道徳や眼が視えない人の講演があったとしても,所詮は一時的なものなのだから忘れてしまうのが人の性。

 

 彼らにとって市ヶ谷導志は,初めて眼が視えない身近な人となった訳だ。

 そして自然そんな人間がいれば好奇心から眼で追ってしまうのは自明の理,彼が何度も机や椅子に激突してしまう姿を何度も見た。

 危なげなかった,心配になる…悪性を持たない人間にはそう思ってしまう位市ヶ谷導志は脆い人間のように見える。

 

 園田に助けられる度,枳殻にサポートしてもらう度,彼は周りに人がいる事は分かっているのだろうがどうしようもなく悔しそうな顔をする。

 その癖自分が誰かの助けになれる時があれば,喜んでその身を差し出すお人よしでもある。

 眼が視えない事を言い訳もせず彼は学校生活を送っていて…ある日,園田がある配信をグループLINEへ投下した。

 もちろん導志も入っているグループLINEではあるが,彼は殆ど見ない。本当に必要なことであれば担任の津島から直接彼に連絡がいくようになっているからだ。

 

 その配信はほぼクラスメイトの全員が視たと言っても良い,どこかの広々とした会場の中心に立つ2人の人間。

 片方は見知らぬ誰かであるが,もう片方はクラスメイト達にとって馴染みある,しかしあまり関わった事のない人間。

 彼は教室にいる時の,常に自分の現状に歯ぎしりを起こしているような…辛そうな顔ではなく高揚と悦楽をごちゃ混ぜにしたような,とにかくクラスの中では見せたことがない表情を見せていた。

 

 [志すは頂の導,天下無双の刃で我が行く道を切り拓け!]

 

 それは,彼が言っていたヴァンガードのプロ試験の配信。

 その決勝で導志が,卓越した記憶力と戦略を持って相手を下し1次試験を突破した姿。

 誰もが見たことが無かった導志の本当の姿だった。

 

 その配信をきっかけに,彼を目で追いかける人が増えた。

 ヴァンガードはただのカードゲーム,それに熱くなる人間は人によって馬鹿馬鹿しいと思うかもしれない。

 例えプロという世界があったとしても,そんな一握りしかいない世界に挑もうとしているのなら尚更だ。

 実際何人かはそう思っていた。

 

 けれど…彼らはあの主役をかけたヴァンガードファイトの日,導志が抱えている苦しみを知った。

 自分達に想像出来ない世界があるのだと知った。

 眼が視えない事に誰よりも引け目に感じて,誰よりも他者を想いながらも決して自分の幸せを認めない矛盾した導志の姿を園田が引き出した。

 園田や神田のエゴがあったにせよ,彼らは間違いなく今まで知らなかった導志をクラスメイトに見せたのだ。

 

 そうやって彼,彼女達は導志が努力家であることを知った。

 

『あ,そっちは…!』

 

 彼が園田に根負けして主役を引き受けてから初めての学校,彼はヒロイン役にして現役演劇部員である枳殻燈火を先生としてまだ準備期間も始まっていない時期から練習を始めていたのだ。

 枳殻の鬼気迫った声は間に合わず,机や壁に激突する導志を冷や冷やしながらクラスメイト達は見ていた。

 本人は気がついていないだけで痣も出来ていて,それでもトライアンドエラーで練習をし続ける導志。

 

 自尊感情が低いからか,俺なんかって台詞をよく言いそうになるがグッと飲み込んで…クラスメイト達が恥をかかないように全力で演技に取り組む姿は本人は意識していないのだろうが,沢山の人間を惹きつける。

 園田は導志の時は強引に行っていたが,本来彼は背中を押して人を導くタイプの人間だ。

 だが,導志は逆だ。

 数限りない努力の姿を,自らの身体的不利を誰よりも理解していながら現実に抗う姿を見せることで魂に灯を点ける。

 

 そして契機となったのはプロ試験2次試験,今度はクラスメイト達は中間考査が終わった息抜きとして見た。

 やっぱり,普段の導志とファイトしている導志は雰囲気が違う。

 ファイトにだけは逃げないという導志の強い意志がひしひしと伝わって,何度か危ない所はあったがそれすらも切り抜けて…彼はプロへの階段を着実に上っていた。

 

 馬鹿馬鹿しいと思っていた夢へ,彼はクラスメイトの誰よりも手をかけていたのだ。

 そもそも夢を持つこと自体が難しいのに,彼は叶える為の王手にかけている。

 自分達よりもハンデがあるのに,彼は邁進し続ける。

 だからこう思うのだ

 

 ——自分も何かをしなければ,何かをやりたい

 

 導志には周りをそうさせる気はないのかもしれない,しかし何事も受け取る側がそう思えばそうなのだ。

 そんな訳で,このクラスでは間違いなく導志の存在がクラスメイト達の士気を高めていた。それが準備期間初日のスタートダッシュ

 

 ここまで長々とクラスメイト達から見た導志を語った訳だが,彼の交流関係は狭いものだろうというのはクラスメイト達の共通認識だった。

 彼はお世辞にも普段コミュニケーションが得意なわけではない。笑顔は見せるがどこか無理をしている感じでもあるし,基本的に自尊心が低いため人によっては苛立ちさえも覚えてしまうかもしれない。

 その自尊心の低さは,彼の境遇を思えば仕方がない事なのかもしれないがそれを知らない人間には関係がない事だ。

 

 だからせめて自分達だけでも彼の友達になろうと思うクラスメイト達にとって…それはある意味裏切りだった。

 

 ある日のホームルームの教室,背景デザイン組は深川を中心とした少人数チーム(そもそもデジタルデザインに触れる人間が少なかったともいう)で到底高校生レベルではない背景イラスト,およびMVの作成に勤しんでいる中役者組は読み合わせや動ける人間は演技を行ったりしている。

 導志も普段は演技の練習側なのだが,今日は珍しくそちらではなく椅子に座って家から持って来たアコースティックギターの調整をしていた。

 

「導志君,本当に大丈夫?」

 

 軽音楽にも触れた事があるという事で調整を手伝っていた神田は,淡々と,でも迷いも無く調整する導志を不安気に見つめている。

 他の生徒もそんな珍しいものを持ってきて,それも今から演奏するという彼を物珍しそうに見ている。

 ”ギター出来るのかな?”とか,”眼が視えないこと以外ハイスペック過ぎない?”とか”何歌うんだろ?”,はたまた動画を撮る人間(枳殻)までもが出てくる始末。

 もちろん,眼の光と引き換えに得た超人的な聴覚でそれらを捉えてはいるが準備を進める導志は調整を手伝ってくれた神田にお礼を言いながら

 

「まあ,偶に弾いてるし下手ではない。それに演奏するのは俺だけだからバンドと違って気楽な物よ」

「それはそうかもしれないけど…」

 

 導志がアコースティックギターを持ってきた理由は単純で,舞台ではカラオケ音源を使った物だけじゃなく生でも演奏したいという要望を叶える為だ。

 元々時代の設定的には近代と,古的な時代がミックスしたような時代。だから竜もいるし,忍だっているしノーマルな人間だっている。

 だから導志がアコースティックギターを演奏する事も,設定的には無理がない。ないのだが…

 

「まあ,取り合えず作業BGMと思って聴いてくれ」

 

 眼が視えない中でギターをするのは大変なのではないかと思う神田の心配はもっともなものだ。

 いや導志が積極的に何かを始めてくれようとしてくれるのは喜ばしいものだが,それとこれは別である。

 不安気な神田や,他のクラスメイト達や津島先生までもが手を止めて見守る中…彼はまるで緊張とは無縁のようにあっさりと第一弦を切った。

 

 結論から言うと,舞台上で披露しても全く問題がなかった。

 

「…綺麗」

 

 ある生徒が知らず知らずの内に呟いた。

 男性に向かって言う言葉としてはいささか問題があるような気もするが,その生徒がそう思うのは無理もなかった。

 

 導志が歌う姿自体は,クラスのLINEでも見ることが出来る。

 その時の導志は真正面からガンッと思いの丈をぶつけるかのような,燻る炎を点火させるが如き歌声を披露していた。何時燃え尽きても構わない,そんな気概さえも感じられるものだったのは園田の言葉だ。

 

 しかし,アコースティックギターを演奏し歌う導志の姿は…上手くは言えない神々しさも感じる程に繊細で優しい歌声をしていたのだ。

 もちろんアコースティックギターの性質的にロックが合わないというのもあるだろう,だけどそれを差し引いても尚彼の歌の引き出しの多彩さというのが伝わって来る。

 当然のように彼は演奏も上手かった。

 弦の場所など彼は意識をしていないかのように鳴らし,現役の軽音楽部のクラスメイトでさえ息を飲むようなテクニックをさらりと披露し,まるでその身体自体が楽器かと思う位卓越していた。

 本人は”下手ではない”と言っていたが,とんでもない。

 高レベルという外ない技術の塊だった。

 

 唖然と他の生徒の作業を歌と演奏で止めてしまっている事に気がつかず,導志はメドレーの形で何曲か歌う。

 その時の導志の表情は…彼の想い人とそっくりなことに気がつく人間は当然ながら誰一人いなかった。

 誰もが無言で,多彩な表情で彼を見ていたからだ。

 例えば園田はまた知らなかった導志の一面を見て少し唖然として,神田は自分の言葉さえも裏切った技巧を披露する彼に目を丸くし,枳殻はスマホを彼に向けながらもどこか色を帯びた表情で,深川は憧れている発言からすっかり彼のファンであることを隠さなくなったのかキラキラとした眼で見ていた。

 

「歪んだ世界曲がった願い,崩れ去ってゆく理想と明日」

 

 そして,彼はそんなフレーズを言いながらラスサビまで情緒をたっぷりに演奏をやり切り,ゆっくりと弦を止めて緊張の糸が解けたかのように息を吐いた。

 …そして,ようやく教室が静かであることに気がついて首を傾げ――やがて教室が優しい拍手に包まれた。

 

「…作業BGMなんだが」

 

 その拍手に恥ずかしそうにしながら導志はそんな事を言うが,教卓で聴いていた園田がいつの間にか近くにまで来て導志の謙遜に呆れたように答えた。

 

「いや…生であれだけレベル高かったら無理だろ」

「うん,集中できなかった」

「「そーだそーだ!!」」

「えぇ…んんっ!取り合えず,夜にお嬢様の部屋に行くシーンなら無理も無く出来ると思うんだが,どうだろうか?」

 

 このままでは分が悪いと悟った導志は咳払いして話題をずらした。

 無論ずらされた事は他のメンバーも分かっているが,気にする事も無く絶賛しながら首を縦に振った。

 

「いや寧ろやってくださいって思うが?これはやらないと勿体ないだろ」

「はっ!今天啓が下りた,早速MV作るから立川さんこのイラスト頼める?!」

「え,あ,うん」

 

 なんか深川君のキャラ変に戸惑う声も偶にあるが,本人楽しそうだから放っておこう。

 俺はセトリにアコースティックでの演奏も加えることが決まったので,早速園田とどの曲が良いだろうかと相談していた所,どうやらもう直ぐホームルームが終わるらしく津島先生が机を元の場所に戻して席に座るように言ったのだ。

 ただ,”え~”という不満げな声があがり,どうやらまだやり足りないという生徒の意見を汲みそのままの態勢で終礼が始まる。

 

 前から導志は感じていたが,津島先生は何というかセオリーに囚われない授業形態,時間の使い方をするからか評判が良い先生ランキングに堂々とランクインしているらしい。

 初めて聞いた時導志はなんだそのランキングとも思ったが,津島先生のクラスになれたことは一種のステータスにすらなっているという。

 

(…いやマジでなんで?)

 

 と導志は首を傾げるが,そんな彼の今更な疑問を置いて津島は連絡事項を話し,次に封筒を取り出した。

 

「で最後に,文化祭の招待状が届いた。それぞれに名前を印字しているから取りに来い。枳殻,悪いが市ヶ谷のを持って行ってやってくれ」

「はい!」

 

 津島先生の一言によって我よ我よとクラスメイト達が教卓に近づき並べられた招待状が入っているという封筒を取っていく。

 園田や神田も少し待ってから,枳殻と一緒に来たのだが…3人は異変に気がついた。

 パッと見ることにはなんら変哲もない封筒たちだ。園田もある人を呼ぶために招待状を頼んだのから当然あるし,だが…その最後に残った封筒の膨らみ具合が尋常ではなかったのだ。

 まるで紙の束でも入っているかのよう膨らみ,それ即ち招待状が何十という単位で入っている事の証明…枳殻は自分の招待状と一緒にその封筒も手に取って厚みに少し唖然としてしまった。

 

「あ…導志君,はい…これ」

 

 その厚みが意味するところをしっかりと枳殻は理解しながらも,自分の役割を全うし彼へ封筒を渡したのだが…どうしても好奇心が抑えられなかった。

 故にお礼をしながら受け取った彼に問いかけた。

 

「ど,導志君。招待状何枚頼んだの?」

 

 するとシーンと静まり返る教室,津島は封筒を並べたら職員会議があるらしくさっさと教室を出て行って残ったのはクラスメイト達のみ。

 なぜ枳殻がそんな事を問いかけたのかは見ればわかる,異常とも言える程膨らんでいる封筒にある招待状の枚数の数だ。

 このクラスの平均招待状数は約8枚前後,家族+他校の友達の分だ。平均なのだからもっと少ない人もいるし,多い人もいる。

 だが,導志のそれは優にそれを超えていた。

 

 導志は枳殻の問を不思議そうな顔をして,思い出すかのように少し天を仰ぎ…さらっと答えた

 

「30枚と少しくらいだな」

 

「「はぁあああ?!」」

 

 いきなり大声を出され,耳が敏感な導志はビクッとする可愛い姿があったが,そんな事よりも凄まじいまでの友好関係の広さに驚愕したのだ。

 少なくとも,来るにせよ来ないにせよ彼にはそれだけの数を渡せる人脈があるという事に他ならないからだ。

 

「そ,そんなに?!」

「え,うん。家族と…あとは知り合いに」

「友達って言わないの?!」

「え…?うーん,友達と言えるのか?ああ,いや言えるっちゃいえるのか?」

 

 友達の定義から考え出してそうな導志を目を丸くして見つめるクラスメイト達一行。

 

「因みにどんな関係の人が来るんだ?」

「どんな関係って…うーん,姉ちゃんのバンド仲間で俺のバイト先の常連だな。」

 

 先ずは姉である市ヶ谷有咲が所属するPoppin’Partyの5人,そこのリーダーである香澄から話が広まり何故かAfterglow,Pastel*Pallet,Roselia,ハロー,ハッピーワールドの20人,そして最近目まぐるしい成長を果たしている月の森女子学園のガールズバンドであるMorfonicaやRASE A SUIRENの一部の人達も来ると返事をもらっている。

 ガールズバンドなのだから言うまでも無く,全員が女性である。

 

 つまり,自分達以外新興が余りないと思っていたクラスメイト…中でも男子勢は別に導志が何かをやった訳でもないのに…妬ましかった。

 女性30人近くと招待状を渡すほどの新興がある…それも彼らの眼から見てもそのバンドの面々の顔面偏差値は高い。傍から見れば同氏のハーレムにしか見えなかった。

 なので…

 

「「リア充爆発しろ―ッ!!」」

「はぁああ?!」

 

 凄まじく理不尽なことを言われた導志は,どうして彼らにそんな事を言われないといけないのかと考える羽目になった。




お疲れさまでした!

招待状のお話です。ガールズバンドパーティー(時系列的にマイゴとかはまだです)の分の招待状を受け取った導志のお話でした。
オリキャラものあるあるのハーレムっぽい展開に,割と孤独だと思っていたクラスメイト達がなんか裏切られたような気持になってしまう回でした笑。
導志からしたら香澄一筋なのにと思ってしまいますが。

次回は6バンドの人達にそれぞれ招待状を渡す話です!回ごとに分けるので,6話連続投稿です。
その後,導志と香澄のデート回であります。

では!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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