星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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~Morfonica編~倉田ましろ,二葉つくしの場合

 Morfonica――倉田ましろ,二葉つくしの場合

 

 

 CiRCLEの休憩時間は日によっても変わるが,今日は朝から晩までの8時間勤務。

 その為労働基準法に則ってきっちり1時間貰っている。

 瀬田先輩と会話したのが休憩を初めて5分位経ってからだからまだそんなに時間は経っていない。

 適当にお祖母ちゃんが作ってくれたおむすびを食べながら,俺はイヤホンでプロ試験の事について流し読みならぬ流し聞きをしていた。

 

 最終試験は,プロが産まれるのと同時に奨励会にとっても世界に新人プロが出る事を知らせるためのもの。

 だからかしらないが,最終試験はトーナメント方式で8都道府県の上位1名になるまでファイト優勝を決める。

 そのトーナメントの決勝は,どこか会場を借りてお客さん入れるというどこかエンターテインメントの側面もある。

 たった1戦,それもプロの卵たちの戦いにどれだけの人がくるのかは正直想像できないが例年通りだとまあ会場は埋まる位らしいから案外皆暇なのかもしれない。

 

 そして――組み合わせがたった今発表された

 

「…これも運命なんかね」

 

 その発表を聴いて,俺はそう思わずにはいられなかった。

 だけど…待ち望んだことと同時に戸惑いもあった。

 

 俺がプロになりたいと思ったのは,俺の先導者たる彼と面を合わせてもう一度ファイトしたかったから。

 だからその為にプロになろうと思った。あいつもプロを目指して,その為に俺と袂を割ったのだから必ずプロになると思っていたからだ。

 だからこそ,同じ舞台で戦い語る為に俺もプロを目指した。

 

 けれど…

 

「いや,やめだやめ。あいつと当たるとしても,決勝戦だ。俺かあいつが負けたらそもそも考える必要のない事だろ」

 

 その先の言葉を口にするのが怖くなって,俺は無理に声を出してその思考を投げだした。

 俺が運命と比喩した事,それは…宿命の相手と当たるのは決勝戦でしかありえないと組み合わせの時点で分かったからだ。

 これで1回戦とかにあたるとかだったらまだ気持ち的にマシだったのかもしれないな。

 

 ——俺のプロになる理由が,なくなることなんて

 

「その前に,文化祭を無事に終わらせるか」

 

 園田はグランプリを狙える!と言っているが,俺は正直そこら辺の事はよく分からないので放っておいてる。

 単純に目の前の事で精一杯ともいう。

 だけど,グランプリにせよそうじゃないにせよ…今出来る事しか今の俺には出来ないのだから。

 

「あ,あの…」

 

 そこで,俺の思考が終わるのを待っていたかのようなタイミングでおずおずとかけられる声。

 その今まで姉ちゃんや香澄さんの周りにはあまりいなかったタイプの声も勿論俺の中にインプットされていた。

 彼女の場合,香澄さんと同じボーカルだから覚えやすいというのはあるが。

 

「こんにちは,倉田さんかな?」

「は,はい。やっぱり分かるんですね…すごい」

 

 本当にそう思っているのか,心底感心するような声色で納得する彼女は倉田ましろ。

 黎明学園は緩いながらも充実した設備と授業体型で進学校に分類されている。偏差値はそれなりに高いが,彼女の通う学校である月の森女子学園は黎明以上の偏差値で…ついでに言うなら偉いとこの子女が通う超お嬢様学校だ。

 彼女はそこの1年生で,月の森で初めて結成されたバンド”Morfonica”のボーカル。

 言うまでもないが,俺と同い年だ。

 

「あ,ましろちゃんいた!あ…導志君,こんにちは」

 

 そんな倉田さんを追ってきたように,少し幼さも感じる声で話しかけてきたのは倉田さんと同じバンドの…

 

「こんにちは,二葉さん。」

 

 二葉つくし,Morfonicaのドラマー兼リーダー。

 2人とも…ていうかMorfonica略してモニカは今年の4月からバンドとして開始し,紆余曲折あったみたいだが今ではこのCiRCLEでもライブをしているし,香澄さん達と一緒にライブもしているくらい成長したバンドだ。

 俺はスタッフとして,それなりに彼女達を聴き続けたが良いバンドだと思う。

 

 ただ,今日予定に彼女達の練習もライブも無かった。

 だからここに来た考えられる理由は…

 

「ポピパのライブまでまだ結構時間あるけど2人とも早いな」

 

 特に倉田さんがポピパ,その中でも香澄さんの熱狂的なファンだ。

 今日ライブの予定があるならここに来る可能性はそれなりに高いと思っていた。

 ただ,思っていたよりも早い時間でビックリした。まだポピパすら来ていないのに,見に来る観客の方が早いとはこれ如何に。

 俺の不思議そうな声で何か緊線に触れたのか,二葉さんはドヤ顔してるんだろうなって位声を上ずらせた。

 

「ポピパさんの前のバンドのライブもチェックしておこうって思って」

「ああ,なるほど。勉強熱心だな。」

「えへへ。あ…導志さんはどうしてここに…?」

 

 ごめん倉田さん,一瞬ダジャレに聴こえた。

 

「…俺は休憩中。この休憩が終わったら姉ちゃん達のPAする予定」

 

 すると,倉田さんと二葉さんは急に申し訳なさそうに多分頭を下げた。

 それももう電光石火,立ち上がるまでほぼラグが無かった。

 

「あ,休憩中に話しかけちゃってごめんなさい!」

「いやそれは全然かまわないんだが,丁度良かったし。」

 

 俺は慌てて身振り振って全く迷惑かけていないと伝える。

 もともと,俺はまりさんと休憩する事が多いが今日は1人での休憩。

 普通の人ならスマホ視るとかネットニュース見るとか暇つぶしの手段が沢山あるんだろうが,生憎それを俺は甘受出来ない。

 だから誰か話す人がいてくれる方が俺にとっては有難かったりする。

 

 それに,今日彼女達が来ることも予想はしていたので渡すものもあった。

 俺はいつも通りショルダーバッグから彼女達モニカ用の封筒…蝶々のシールが貼ってる封筒をだして渡した。

 

「はい,桐ケ谷さんから5枚頼まれたから5枚。うちの文化祭の招待状。」

「…」

「…透子ちゃん?!」

 

 あー察したわ,偶々道端で会ったモニカのギター,桐ケ谷透子さんに文化祭の招待状の枚数聞いて後で連絡来た時に5枚って言われたからそうしたんだが,もしかすると。

 

「まあ,最悪全然捨てても良いからな。桐ケ谷さんには渡しておいたら」

 

 まさか桐ケ谷さんがメンバーの日程聞いていないとは思わないんだ。

 ただ,桐ケ谷さんが欲したことだけは確かなのでそう付け加えると,招待状を受け取った二葉さんは慌てて多分首を振った。

 

「い,いえ!せっかく頂いたので,皆に聞いてみます。私はこの日大丈夫なので行けますし…」

「わ,私もこの日なら…」

「ああ,うん。別にあまり落ち込んでいないから時間と相談してな」

 

 逆に俺が桐ケ谷さんの情報当てにした事に罪悪感があるからね?

 それによく考えたらヴァイオリンの八潮さんに関しては他校の文化祭に行く事がそれなりに疑問だったから,桐ケ谷さんの独断プレイともなれば納得も出来てしまった。

 

「あの…導志さん」

「ん,どうした倉田さん」

 

 変な納得をしていたら,倉田さんの方から珍しく続きがあった。

 

「その,今度の私達のCiRCLEのライブでPAしてくれませんか?」

 

 そして,それは割と意外な言葉だった。いや偶に指名があると以前言ったよ?

 本来このCiRCLEにそんなシステムないんだが,まりなさんに言えばある程度融通が利く。

 だからガールズバンドパーティーの人達は偶に指名してくる。今日のポピパも俺にやって欲しいって事で俺になったのだから。

 けど,今までモニカはそう言った事をしてこなかったし彼女達のPAも担当したことがない。

 だから意外に思う事は許しておくれ。

 

「それは…日程とまりなさんの相談次第で出来るけど何でだ?」

 

 二葉さんの方も倉田さんがこんな事を言うのが意外だったのか,沈黙して俺達の会話を見守っていた。

 倉田さんは,多分女子高に行っている関係で男に頼みごとをするのに慣れていないのか…羞恥を混ぜたような弱々しい声で理由を語った。

 

「えっと,この前香澄さんと導志さんのPAの話になって…その」

 

 私達のもやって欲しくなった…って続く言葉を,恥ずかしくて多分言えなくなった倉田さんはぷしゅーと音が出そうな程言葉に詰まっていた。

 ステージでは堂々としてきた倉田さんも,まだ日常生活ではステージのようにはいかないらしい。

 俺は二葉さんの方に向いた。

 

「倉田さんはこういってるけど,リーダーとしては良いのか二葉さん。自分で言うのもなんだけど,PAを始めてからまだ2カ月位しか経っていないぞ」

「私はましろちゃんと同じでやって欲しいです!香澄先輩だけじゃなくて,他の先輩方も導志君のPAは凄くやりやすいって言われてますから!」

 

 なんか敬語とため口が混ざって変な事になってるぞ,と内心でツッコミしながら彼女達の頼みを快諾する事にした。

 

「まあ,そこまで言うなら分かったよ。次のモニカは再来週だったっけ?丁度文化祭の振り替え休日だから多分入れる」

「は,はい!」

 

 CiRCLEって場所自体はガールズバンドを支えるって言うコンセプトがあるからお客さんはほぼ9割女性だ。

 だから本来俺に限って言えば割と異例なんだが,来る人達最近では俺の眼が視えない事を知っているから余り男だからと邪険にされない。

 それに機材のセッティングとかには眼が視えなくても男手が必要だから,割と俺はあちこち引っ張られる。…ただの便利屋とか言わない。

 

 ただ,そう言う訳で学生の人が多く放課後の時間帯から忙しくなることが多い。だから午前中はスタッフが少なめだったりするが,スタッフも午前中は別の仕事をしている人とかもいる訳なんで意外にシフト入れるかもしれない。

 まあ,もしかしたら別の仕事の日を休みにさせられるかもしれないけどお客さんの要望であればまりなさんも邪険にはしないだろう。

 

「セトリ決まったら教えてくれ,出来るならボイスメッセージも付けて教えてもらえると助かる」

 

 もっと言うなら点字で教えてくれたらもっと楽だが,流石にそこまで手間かかる事をお客さんにしてもらう訳にはいかない。

 まあ,スクリーンリーダーでもセトリを読み上げる事は出来るがあのどうも機械じみた音が苦手だからセトリを教えてもらう際俺は基本ボイスメッセージにしてもらってる。

 

「分かりました!」

「ありがとうございます!」

「まあ,期待には応えられるようにするよ」

 

 心底安心したのか,気の抜けた2人の声がやけに印象に残った。

 

 …少し,香澄さん達が俺のPAについてどんな評価しているのかが気になったがそれをこの2人に聞くのはナルシストを感じさせてしまうかもしれないから黙っておこう。

 めちゃ気になるけどね?

 湊先輩とかどんな事言ってんだろ,音楽ガチ勢だから割と不安。

 それを視られないから無駄な不安とも付き合う事になる…から今は忘れておこう。

 

 そんな事を考えていたら…軽快でポップな足音と,その足音を追うような足音が真っすぐこっちに向かってきたのを聞いた。

 距離にすれば15m位か?

 俺は恐らくターゲットになっているであろう少女に注意を促した。

 

「倉田さん,踏ん張る準備した方が良い」

「え…?は,はい?」

「ましろちゃーん!!」

 

 その声に倉田さんの足音が忙しなく動き,多分振り返ったと同時に彼女に迫っていたのは

 

「か,香澄さん?!」

「ぎゅー!!」

 

 やっぱりというか,香澄さんだった。

 香澄さんにとっては俺以外で初めての後輩の1人である倉田さん。今年初めて会った時から何だかんだ気にかけていることから倉田さんも抱きつき対象に選ばれている。

 俺が先に促しておいたのが功を奏したのか,倉田さんは香澄さんの抱擁を受け止めて体勢が崩れることを阻止したようだ。

 

「香澄!いきなり走んな!!」

「あ,有咲先輩!」

 

 そして,その香澄さんを追うように走って来たのは姉ちゃん。

 この2人の足音は死ぬほどほぼ毎日聞いているから距離が離れていても割と識別できる。

 

 香澄さんは倉田さんを撫でまわし,抱きつくし,倉田さんの”はわわ!”みたいな羞恥に悶える声が響くこと数十秒。

 ようやく離してあげたのか,それとも別の事に気がついたのか香澄さんは俺の方に言ってきた。

 

「あ,どーくん!休憩中?」

 

 俺は腕時計の針に触れ今の時間を確認すると,もう直ぐ休憩が終わる時間だと確認した。

 

「そうですけど,そろそろ戻る時間です。姉ちゃん達の調整は次のバンドが終わってからする。」

「うん!大丈夫,私達もライブが楽しみ過ぎて早く来ちゃった。えへへ。」

 

 そんな言葉を聴きながら,俺はショルダーバッグを手に立ち上がるとモニカの2人に言った。

 

「じゃ,モニカの2人,PAの事はまりなさんに相談しとく。多分OK貰えるから決まったら連絡するよ。」

「は,はい。よろしくお願いします!」

 

 二葉さんの大げさな言葉に苦笑いして,姉ちゃんと香澄さんの方に顔を向けた。

 

「姉ちゃんに香澄さんはまた後で」

「うん!」

「おう,あまり無理はするなよな」

 

 俺がバイトする際,最初は反対しまくっていた訳だが流石に半年もやっていると今更そんな事を言わない。言われても困るだけだが,3月にバイトするって言った時のキレ具合半端なかったからな。

 まりなさんや香澄さんと色々あってようやく認めてくれたくらいには頑固だった。

 

 そんな過去があったからこそ,こうして送り出してくれることに不思議な感慨がありながら香澄さんの方にも顔を向ける。

 本当は何か言いたい事があったのかもしれないと,俺の胸のどこかで考えたが結局何も浮かばず俺は黙礼してスタッフルームの方に戻った。

 

「…そう言えば,香澄さんって先輩なんだよな」

 

 基本的に,俺は学年が上の人達は先輩呼びしている。同じ学校だろうが他校だろうがだ。

 いや,本当は全員さんづけでも良かったんだが…去年の俺はどうしてか香澄さんだけはずっとさん付けにしてた。

 今思えば,香澄さんだけの”特別感”を俺は出したかったのかもしれないって思う。

 同年代を呼ぶときのさん付けと,本来先輩である香澄さんのさん付けは俺の中で関係が違う。

 

 …あくまでも,対等な立場として俺を見てほしかった

 

 後輩じゃなくて,純粋にバンドメンバーの弟として。

 今はもうなんでそう思うのか,自覚はしてる。

 迷う筈も無く,その気持ちが”好き”だからっていうのは…高校に入学するころには分かっていた。

 けど,別に告白しようとか言う気は全然起きなくて…ただ近くで彼女の在り方を見ていれば俺にはそれでよかった。

 

 もとより,どんだけ周りが良くしてくれても俺は眼が視えない。

 その事実はこれからも多分変わらない。技術の進化とかでどうにか視えるようになるのかもしれないけどそんなのは所詮IF。

 そんな俺から好きだって伝えても…迷惑なだけだ。

 きっと姉ちゃんとの関係も変なものになってしまうかもしれない。

 

 俺の身勝手な感情で,ポピパを可笑しくして良いわけない。

 だから俺はポピパに不干渉を決めていたのだから。

 その癖して俺を1人の男として見て欲しいからさん付けして後輩って立場を捨てたんだが…

 

「まあ,香澄さん節全開って感じだったな」

 

 倉田さんと香澄さんはバンドの後輩先輩って関係で,倉田さんも香澄さんの事を慕って憧れている。

 そして香澄さんも,倉田さんの事を可愛がっているのを見ていたら…ただ後輩でも,俺は彼女の在り方を視られたんじゃないかって…思う事がある。

 香澄さんは面倒見が良いし,理想の先輩ではあるのだろう。

 

 今更そんな関係に慣れないけれど…少し,告白もせずただ近くにいられればそれでいいと思う俺は――とんでもない卑怯者だなと思ったんだ

 




何気なくクラスメイト以外との同年代との初絡み,導志の方がましろたちよりも先輩風を感じるようにしました。
ましろたちからしたら導志は同年代というより,スタッフとしてのイメージが強いせいもありますが。

それから,導志が内心で香澄の”後輩”じゃない事に思う事があるという。
ヘタレに入るのだろうかと,書いている途中で思ってた。

次はRASです!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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