『ごめん導志君!Galaxyまでお使いに行ってくれない?』
学校から文化祭前最後のバイトに来るなりまりなさんにお使いを頼まれた。
あるバンドのフライヤーが少し足りないらしく,Galaxyってライブハウスに過剰にあるみたいなので一部貰ってきて欲しいとの事だった。
Galaxyなら俺も偶に行っているし,問題ないと考えたのだろう。
実際問題ないし,丁度良かった用事もあるので俺はその頼みを快諾しタイムカードだけ切って制服のままCiRCLEを出てスマホの音声案内に従ってGalaxyを目指す。
途中何の問題も無く,無事にGalaxyに到着した。珍しく地下にあるライブハウスで収容人数は100人位。
商店街にあることから組合絡みのイベントも,ライブハウスを股にかけたイベントもやっている場所だ。
俺は慎重に白杖で階段を確認しながら降り,ラウンジへ降りるとせっせと頑張ってフロアを掃除している音が聴こえた。
「すいません」
取り合えず,掃除の音しかなくて誰がいるのかまでは判断つかなかったから声をあげると,その掃除をしていたであろう人がこちらに向いたのが分かった。
「は,はい!…あ,導志君!」
「こんにちは,朝日さん。」
現れた声で誰がいるのか分かった俺は,そう声をかける。
彼女は元気よく挨拶を返してくれた。
彼女の名前は朝日六花,このGalaxyでバイトしてるアルバイトさん。
そして…
「あ,導志君」
「…和奏さんか,ビックリした。ここにいるの珍しいな」
朝日さんの後ろからどこか意外な声色で話しかけてきたのは和奏レイ,色んなバンドでサポートをしているベーシストにして…RAISE A SUIREN略してRASってバンドのベースボーカル。
そして朝日さんはRASのギタリストでもある。以前話したチュチュのバンドだ。
…ついでに言うなら,俺とは少し腐れ縁がある。
「うん,ロックと次のライブの話してたんだ」
「他にお客さんもいないですし」
それはそれでライブハウスとして良いのだろうか,いやまあ地域密着型のライブハウスだから良いのか知らんけど。
「取り合えず,まりなさんにフライヤー余ったの貰ってきてッて」
「あ,はい!少しお待ちください!」
そう言って朝日さんはカウンターがある方へ向かって行って,残ったのは和奏さんと俺。
予めまりなさんから連絡が行っていたのか,割と速やかだった。
「導志君,今度演劇するんだって?」
「ああ,やれ言われた時は正気かこいつらって思った」
朝日さんを待っている間,なんとなしに和奏さんが会話を始めた。
やっぱりというか,香澄さんがガールズバンドパーティー内で俺の演劇の事を広めたらしく和奏さんも知っていた。
彼女にとってはそれが意外でもあったのだろう…いや他の人から見ても意外だと思うが。
「ふふっ,だけど今の導志君は楽しそうに見えるよ?」
「…そうか?」
「うん,ミュージックスクールにいた時の導志君に近いかな」
和奏レイとの腐れ縁,それは同じミュージックスクールで,同じボーカルクラスに所属していたものだ。
当時は俺と彼女がボーカルクラスの中で星のシールを取り合う大決闘(歌唱)を何度も繰り広げたものだ。
もっとも,彼女自身は余りミュージックスクールが楽しそうではなかった。
多分だけど,彼女の歌は今も当時も大人びすぎていて子供が歌っているようには感じられなかったからだろう。
”子供っぽくない”って言われる心境は俺にも分かる。
彼女と覇権を争っている時点で俺も子供の歌からは外れていたからな。なんなら,彼女は姉ちゃん以外ではガルパのメンバーで唯一顔を知っている。
確かに余り子供っぽいとは言い難い大人っぽい雰囲気もあった。
けど,それを”知るか”と割り切った俺と割り切れなかった程度の違いしかない。
けど,彼女の言葉はすとんと落ちた。
「確かに。あんときは和奏さんはそうじゃないかもしれないけど,君というライバルがいたから楽しかったよ」
運命の日,何度目かの対決(歌)で彼女よりも良い評価を貰いピアノコースの姉ちゃんとダブルスターゲットするって偉業を遂げた時も…俺の評価に迫っていたのは彼女だけだった。
勝った側が言うのもなんだが,当時は負けられないと和奏さんを意識して歌っていた。
あの日々は純粋に歌に打ち込んで…楽しかったな。
「私もだよ。」
そう言って,和奏さんは少し気分を沈めたように息を吐く。
彼女が考える事が,何となく分かる。
その時を最後にして,俺は彼女のライバルにはなれなかった。
身体をズタボロにされ,眼の光を失い消えない傷を負い…精神的に歌えなくなった俺はかつてのクラスの面々の中にも姿を現さずスクールを退会した。
その後,割と直ぐ和奏さんも名古屋へ引っ越して…俺達はそのまま出会う事なく成長していった。
「なんで和奏さんが落ち込む」
「え?そんなつもりはなかったんだけど」
「俺にはそう聴こえたがな」
流石に,当時自分が星のシールを取れていれば俺はこうならなかったかもしれないって愚かなことを考えた訳ではあるまい。
けど,高校生になって再び出会った時…彼女からは本当に驚かれたのは記憶に新しい。
姉ちゃん以外では唯一幼少期の俺と繋がりがあったから,当時とは違う醜態を見せた俺もその再会はやけに印象的だった。
「あの時の事は別に後悔はしてない,歌う事を辞めたのも…当時は間違っていなかったと俺は思う。まあ,今では流石に和奏さんに敵わないと思うが」
ミュージックスクールを辞めて,香澄さんに出会うまで歌を捨てた俺と歌い続けた和奏さんではレベルが違うのは当たり前だ。
練習をしているかなんて関係ない,彼女には才能があって俺にはそれが無かった。
「そんなこと…」
「ああ,余り感違いはすんな。別にその事を自虐的に思ってる訳じゃない。ただの事実だ。…けど,最近そう言う訳にもいかない事情が出来た」
「事情?」
「お待たせしました!」
不思議そうな声を出した和奏さんの声に重なるように,朝日さんの声と足音がやって来た。
「こちらがフライヤーです,鞄に入れますね」
「ありがとう,朝日さん」
前に鞄を差し出すと,ゴソゴソと音がしてチャックが閉められる。
お使いはこれにて終了,後はCiRCLEに戻っていつも通りの業務をしたら終わりだがここに来たのは個人的な用事もあった。
俺は制服のブレザーに入れていたヘッドホンのシールが付いた封筒を取り出し,彼女達どっちかに渡した。
「これなんですか?」
「RASの分の,文化祭の招待状。チュチュは分からないから一応入れておいた。…和奏さん」
「…?」
「昔と今,どっちの俺の歌が凄いか見に来てくれ」
香澄さんとか以外にはあくまでも本人達の自主性に任せて招待状を渡していたけど,和奏さんには勝手なエゴで来てほしかった。
歌を諦めた過去の俺,それを再び拾い始めた俺の歌を…姉ちゃん以外で知っている彼女にはその感想を尋ねてみたかったんだ。
カラオケボックスとかじゃない,舞台かステージの違いでしかない大勢の舞台で歌う俺の今の実力を見てほしかった。
あの時諦めた選択が,正しいのかを知りたい。
「…うん,楽しみにしてる」
どことなく,和奏さんは嬉しそうに俺の頼みを快諾した。
お疲れさまでした!
レイと導志は同期です。レイが引っ越しする前に眼が視えなくなったので,レイは気にしていた感じです。
再会した時導志は彼女に滅茶苦茶後ろめたくなったのですが,それはおいおい。
因みにおたえと導志はそんなに接点ないです。
では,ラストは招待状のお話ではないですが香澄編です!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話