星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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という事で物語のヒロインです。
GOGO!


~Poppin`Party!編~戸山香澄の場合

 ――Poppin'Party編 戸山香澄の場合

 

 俺は自分の部屋で電気をつける事は,小学4年の時にはほぼなくなった。

 普通の人にしてみれば奇行なのだろうが,俺にとっては普通の事だ。

 そもそも弱視とかじゃなくて,普通に角膜やら脳をぶつけた時の影響やらで光の1つも分からないのだから自分の部屋にいる時位は電気を付けなくても良い事に当時気がついた。

 視えないのに電気付けた所で電気代もったいねえだろって結論に至っただけだが。

 

「あのテーマが相手なら,このカード入れてみるか?ただその場合あれがやりにくくなる。そうしたら今度は攻撃力が――」

 

 現在時刻は21時頃,文化祭まで残り1週間と少しというタイミングで俺は文化祭前最後のバイトを終えた夜。

 舞台でのイメージトレーニング,および台詞の確認を終わらせて俺は次の対戦についてデッキをどうするかを思考していた。

 プロ試験最終試験はトーナメント方式,幸運なことに対戦の日程は別れていて1回戦,2回戦,そして決勝はそれぞれ別日に行われる。

 すなわちそれは対戦相手のデッキに応じた戦略を練ることが出来るという事。

 

 俺のデッキは上から圧倒するパワーデッキでも,防御重視で相手の攻勢を削ぐようなデッキでもない。

 きわめてテクニカルなデッキだ。

 俺みたいに盤面を自分の頭だけで把握しなければならい人なら,ゴリ押しのパワーデッキの方がまだ戦えるが…そんな事は分かっていても俺はこのデッキで…猩々童子が率いるこのデッキで勝ちたかった。

 だから,テクニカルな動きが出来るのなら相手の戦略を崩すゲームの方が向いている。

 

「…これ入れてみるか?パワーラインがいきなり変われば相手は対応を変えざるおえない。でもなあ…役に立たない事の方が多いよなこれ」

 

 一枚のカードを手に取り,それを入れるかどうか悩み続ける。偶に事故的にそんな盤面になる事はあるが…流石にガード値にもならないこれを入れるか…… ?

 今度の対戦相手が使ったデッキと,プレイングを奨励会の配信で流し聞きしながら俺は次の対戦に向けて戦略を練っていた。

 

「…香澄さん?」

 

 夜の時間をそんな感じで過ごしてきた所,奨励会の配信を垂れ流しにしていたスマホから別の音楽が聴こえた。

 その着信音は,ポピパの楽曲であるキズナミュージック。

 俺はガールズバンドパーティーの人達の着信音を,その人が所属するバンドのその人をイメージしやすい楽曲に設定して誰から来たのか聴き分けている。

 この着信音の楽曲は,多分だけど俺が一番聴いたポピパの楽曲だ。

 

 カードに触る手を止めて,スマホを手に取りイヤホンでそのまま電話にでた。

 …ちょっと心臓ドキドキして手が震えたのは内緒。

 

「香澄さん,どうしました?」

『どーくん,今大丈夫?』

 

 香澄さんってこっちの都合を考えるタイプだっただろうか…とか言う意味不明な疑問が脳裏によぎりながら俺は大丈夫だと伝える。

 実際,今日の勉強も練習もデッキ作りももうほぼ終わっている。

 あとはもう寝るだけだったのだから…今日の締めくくりが香澄さんとの電話ならそれだけで最高の1日に値する。

 

『そっか,良かった。えへへ。』

 

 照れたようにそんな言葉を零す香澄さん,かわ…言ったらただの変態になるからなんとか堪えた。

 香澄さんの声は,いつ聴いても綺麗というか…星の瞬きのように千差万別にころころと変わる。

 ポップも切なさも,情熱も出せる彼女の声はこの1年半の練習と修羅場の成果。

 凄いなって…純粋にそう思える。

 

「それで,なにか用事でしたか?」

 

 それはそれとして,彼女の用事が何だか俺には見当もつかなかった。

 ライブは終わったばっかだし,直近で彼女達のライブはない筈だ。だからライブハウスのスタッフとして承る事は何もない…筈。

 だから要件を聞いたんだが…

 

『用事がないと電話しちゃダメ?』

 

 そんな事を,か細い声で言われるものだからその華凛さに俺は勝手に心臓がドクンっと震えて…身体が熱くなったのを自覚しながら誰も視ていないのに頭を振る。

 

「い,いえ。」

『良かった。どーくんの声,聴きたくなっちゃって』

 

 そう言われて,俺は思いっきり机に頭突きした。

 ゴン!って凄まじい音を鳴らし,頭が色んな意味でぐちゃぐちゃになりそうだったのを何とか堪えて頭に物理的な衝撃を与えて正気を取り戻した。

 何を言っているのか自分でもわからん。

 

『え?!どーくん大丈夫?!凄い音したよ?』

「導志大丈夫か?!」

 

 ほぼ同じタイミングで俺の部屋のドアが開けられ,姉ちゃんがドタバタと駆け込んできて”ああ,隣の部屋にも聞こえたんだ”とか現実逃避をした。

 ここで今香澄さんと電話しているって言えば面倒なことしかならないから誤魔化す事にした。

 

「大丈夫,少しこけただけ。」

 

 幸い,デッキはもうデッキケースに戻していたから散らばるものは何もない。

 

「そ,そうか?」

 

 姉ちゃんの懐疑的な声がやけに耳に残る。

 大事に思ってくれているからこそだと分かっているから少し心苦しいが,今は香澄さんと話していたかったので大丈夫だと顔面でも伝えてみる。

 ここで今香澄さんと電話中だなんて言ったら何を言われるか分かったものじゃない。

 だって普通に姉の友達とこそこそ電話しているように見える状況恥ずかしすぎだろ。

 そうして,俺の意思が伝わったのか姉ちゃんは”気を付けろよな”と言ってドアを閉じて自室に戻って行った。

 電気を付けていない事が幸いした。

 遠ざかる足音が聴こえなくなってから,俺は改めて香澄さんに声をかけた。

 

「大丈夫です,問題ありません。」

『ほ,ほんとに?』

「はい」

 

 本当は少し痣出来ているかもしれないけど,姉ちゃんは電気を消しているこの部屋の中で痣を見つけるには難しいだろうから気がつかれなかっただろう。

 凄まじい速度で繰り返す心臓の音を落ち着かせ,俺はベッドに身体を預ける事にした。

 仰向けに寝転んで,スマホを耳に当てる。

 

『今日のライブ,どうだった?』

「…良かったですよ,またギターの腕上げましたね」

 

 彼女のギターソロのパート,以前聴いた時よりも難解で複雑なフレーズを多少ムラはあったがやり切ったのを聴いた時は本気で感心した。

 ギターは才能のあるにせよないにせよ,触った時間がものを言う。

 その点で言えば,彼女はすさまじい努力量だろう。元がギターの才能としては凡人な香澄さんだけど,彼女の真価は技術じゃない。

 けれど技術があればいいのは確かなことだ。

 

『ほんと?!どーくんに褒められた』

 

 本当に嬉しそうに,言葉を綻ばせる香澄さん。

 

「What' the POPIPA?の2番のあそこ,少しアレンジしましたよね」

『流石どーくん!あそこはね――』

 

 そうして,香澄さんと俺は今日のライブについて演者と聴き手として感想会をした。

 耳の良さだけが俺の取り柄,彼女達の楽曲の特定部分だけ引っ張ってこのアレンジはどうとか聞いて,それを香澄さんが答えるって形だった。

 香澄さんは心底楽しそうに,練習中の事,ライブ中の事について話してくれる。

 俺をPAに引きずり出したあの日から,香澄さんはよくこういう話をしてくるようになったんだ。

 

『どーくん』

 

 そして…ライブ最後の演奏についての話が終わると,香澄さんはどことなく甘えるような声を出してきてまもなく脳が破壊されかけた。

 耳と肌の感覚情報だけで生きている俺にとっては,物理的な衝撃と同じ位音での情報でグラつくことがままある。

 それを多分無意識に狙った香澄さんの猫撫で声,平常心でいる方が無理だった。寧ろ平常心に戻った事を褒めて欲しい。

 なんかこう,子猫がすり寄って来たのをイメージしたら分かりやすい。

 

「な,なんですか?」

『えっとね,明日って放課後時間あるかな?』

 

 そう言われて,俺は反射的に明日の予定を頭に繰り広げた。

 文化祭も近づいてきていて準備も大詰めだが,そもそも俺のクラスは津島先生の計らいで…もしかしたら俺がいるからか他のクラスよりもずっと早く準備を始めていた。

 なんなら,恥ずかしいが俺や園田に触発された生徒達が準備のスタートダッシュを決めていたので一日放課後位なら時間は多分作れる。

 

「時間は作れますけど,どうしたんですか?」

 

 流石に次回ライブの話ならCiRCLEですれば良いし,それ以外なら明日香澄さんが姉ちゃんを起こしに来た時でも良いんじゃないかと思ったが…

 

『ほんと?!えっとね,2人でお出かけしようよ!』

 

 …一瞬,何を言われたのかが少し分からなかった。

 いや別に一緒に出掛けること自体は偶にあった。

 けど,大概が姉ちゃんや他のポピパの人達も一緒だったり,他のガールズバンドパーティーの人達が一緒だったりして香澄さんと2人ってのは初めてだった。

 

 っていうか,これって…で,デートの誘いなのでは。

 嫌でもそんな訳…

 

「それは…良いですけど」

 

 持ち直した脳細胞が再び瓦解して,自分でもよく分からないままに口を滑らせて彼女の誘いを受諾した。

 例えでデートじゃなくても…こんな俺が彼女と一緒にいられる時間があると思うだけで,生きる活力が湧いてくる。

 その時間が俺にとっては嬉しくて…本当は自分から誘うべきなのなんて分かっているのに俺は彼女に甘えて少し自己嫌悪もあった。

 そんな俺の不安なんて機微にも感じず,香澄さんは本当に嬉しそうに声を弾ませた。

 

『わーい!じゃ明日の16時,CiRCLEで待ち合わせね!』

 

 俺はこの時自分の事で精一杯だったが,遠い未来で振り返った時,いつも通りの元気溌剌だと思っていた香澄さんの声が…不安で少し震えていたのに気がついた。




お疲れさまでした!

次回,お待ちかね(?)のデート回です!
ポピパに招待状渡さないの?ってなるかもしれませんが,既に他の6バンドに渡す前に家で渡しているというね。
拠点が有咲の蔵なんで一番早くに渡せるという訳です。

明日の奴は書くときめっちゃ楽しかったお話です!
では!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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