3話連続投稿です。
例の如く1話を3話に分けた感じです。
レッツラゴー!
俺が中学1年生の頃,季節は秋。
深すぎる文化祭の傷を抉られながら俺は学校生活を送っていた。
当時は高田の戦力外通告のせいで,正直学校にすら行きたくなかったけれど姉ちゃんやお祖母ちゃんに心配をかけたくなかったから引きずってでも登校していた。
けれど…
「あれが…?」
「眼見えないとか気持ちわる」
俺の通っていた中学は公立だったから,人が良い奴ばかりじゃない。
俺の元クラスメイトの中にも,失敗ばかりする俺に苛立ちがあったのかは知らないけれどこの頃には陰口が増えていた。
眼が視えないって一点の影響を,碌に想像する事も出来ない有象無象だと思っても…結局,園田が言ったように自分の眼の事を一番に意識していたのは俺だったんだろう。
だからそんな陰口に対するアンサーを,イメージの中で繰り返して無力さを感じる。
だって失敗したのは本当の事だ。
教え方が悪かった,それもあるだろう。
そもそも難しかった,それもあるだろう。
けれど失敗したのは紛れもない事実。
眼が視えていたらそんな失敗しなかったかもしれない,簡単な作業でも手伝えたかもしれない。
それすらも出来なくて,結局演劇のクラスの順位は最下位。
最下位だったけれど,クラスは団結していた。少なくとも俺以外の声は活気に溢れていて,和気あいあいとしていて楽しそうだった。
それなのに最下位,その反動はなにも出来なかった俺に集まるのは必然だったのかもしれない。
都合よく眼が視えない”異常者”として,最下位である鬱憤を晴らすのに丁度良かったんだろう。
教科書は隠されるわ陰口は言われるわ
「市ヶ谷ちゃんと前見ろよ」
きっと俺にわざとぶつかって来たのに,俺が眼見えない事を知っていたのに,そんな事俺が一番やりたい。
ちゃんと普通の人と同じように前を向いて生きたかった,ただそれが出来ないだけなのに腫物扱い。
別に,俺自身は文化祭の作業に殆ど関わらなかった,否…関わらせてもらえなかったのに都合の良い時だけサンドバック。
俺が隠されたものを探して教室を這いまわっているのを,ゴミを見るようにケラケラ嗤う同級生達。
俺が壁とかに激突するたびに,”普通”なら起こらないような事をする度に晒上げにされて――大分荒んでいたと思う。
むしろなんで学校休まなかったんだろうな。
心なんてとっくにぶち壊れていて,自分すらもいらねえだろって当時は思っていた。
思わされていた
そんなある日,冬休みまであと1カ月位の時だった。
「導志服見に行くぞー」
唐突だった。
なんの前触れも無いある日の休日,適当にラジオ音楽チャンネルを開いてボーっとしていた俺を姉ちゃんが引っ張りしたんだ。
理由は服,基本的に平日は制服で過ごして休日は姉ちゃんがベッドの所に置いておくって感じでこの時は過ごしていた。
当たり前だけど,どんな服が俺にあるのか知らなかったし…見られないのに服に興味なんて持てるはずも無く服に関しては姉ちゃんに丸投げだった。
だからその事を言われると俺は姉ちゃんには弱く,真意はどうであれ俺は姉ちゃんに連れ出された。
それが全ての始まりだった
結論から言うと,姉ちゃんとはショッピングモールではぐれました。
姉ちゃんが俺の服の会計に行ってくれた間,出入り口で待っていたら――どっかの部活かなんかの集団の波に飲まれてしまった。
流石にショッピングモールの中も,俺が小学生の時と多少変わっているしそもそも内装なんて知るかという事で,自分が現在どこにいるのかすらも分からなくなった。
取り合えず,その場に留まれば姉ちゃんは見つけてくれるかもしれないという期待でジッとしておこう…そう思った時
「なんだろう」
それは俺の向かい側から聴こえた,子供や大人たちの楽しそうな声。
時折叫び声とかも聴こえる阿鼻叫喚,けれどその叫び声の根底にあるのは…どこか暖かい心だった。
俺は殆ど意識しないまま,導かれるようにその声の元へと向かった。
その境界線は,さっき姉ちゃんといた服屋よりも明白だった。
そこを超えた時,さっき聴こえていた声が明瞭になり馬鹿笑いしている人や,楽しそうに笑う声。
一口に笑うと言っても色んな笑みがあるけれど,ここには色んな笑みがあるように俺には思えた。
「ここ,どこだろう」
そんな当時の俺からしたら異世界で,一人ぼっちの俺はそう呟いた。
答えを期待したものじゃない。
ただただ見知らぬ場所で,そう呟かないといけない気がした。
なのだけど…
「どこって,カードショップだけど」
俺の独り言に律儀に応えてくれた彼…柴崎悠馬との出会いが,俺のヴァンガードとの出会いだった。
「変わった奴だな,そんなの見れば分かるのに」
「…分からないよ,視えないんだから」
そう,自分が一番意識している事を指摘されてぶっきらぼうに答える。
どうして悠馬がこの時,こんな事してくれたのかは分からない。
俺の言葉に沈黙して数秒,彼は楽しそうに声をかけて来たんだ。
「ふーん,あ,なんかカードゲームやってる?」
「は?」
普通に意味が分からなかった。
呆気からんと言ってきたこともそうだけど,眼が視えないつってんのに眼が視える事前提のカードゲームなんて触れる訳ないだろ。
…きっと苛立ったんだろう,俺は強めの言葉でそれを否定した。
人間として初対面の人にまあまあ酷い事をしたと今では自戒しているけれど,あの時は本当に訳も無くイラついた。
――だからこの後の言葉に絶句した
「そんなの誰が決めたんだよ,やった事ないならヴァンガードやろうぜ!丁度暇してたんだ!」
「はっ,ちょま」
そうして,俺は強引に奥の対戦スペースに連れ去られ…なぜかヴァンガードの手ほどきを受ける事になったんだ。
「俺やるなんて一言も…」
「1回だけだって!あ,でも絶対嵌っちゃうから1回じゃないかも?取り合えず…」
俺はノリと勢いだけの彼に押され押され,結局テーブルについた。
これから未知の事…ヴァンガードとか言う意味分からんカードゲームでサンドバックにされるのかとかいう現実逃避をしていた。
そもそも眼が視えないのに盤面の把握なんて出来る訳ないし,そもそもルール自体を覚えられる気がしなかった。
絶対眼が視えることを前提にした説明されるし。
「はい,選んで」
「は,なにを?」
いつの間にか,彼はゴソゴソと机に何かを並べていた事は分かっていたけれど”選んで”って何のことだよと言うしかなかった。
その言葉で俺の眼が視えない事を再確認したのか,小さく”あ”と呟いてから俺に聞いた。
「ちょっと腕貸して」
「返事の前に取ってるのはなんなんですかね?!」
俺の返事を待たずに彼は俺の腕をテーブルに触れさせ…そこに長方形の何かが…カードがあるのを確認した。
「ヴァンガードは,惑星クレイの先導者を進化させるカードゲームだ。先導者は君自身,少し手を動かして」
言われて俺は少し手をスライドさせると,別のカードに触れる。他の所にもさーっと触れてみた所20枚くらいあった。
「今君に触ってもらっているのは,惑星クレイの大地に立つもの達。どれか気になるカードはある?」
「ある?って,だから眼が視えないんだって」
「チッチッチ,甘い。アイスクリームのように甘いぜお兄さん。ヴァンガードはイメージが全てだ。どれか適当に触れてこう…頭がバチッと震えたらそれが君の分身だ」
頭がバチっと震えたらそれは脳震盪じゃなかろうか。
あとそれイメージ関係ある?
「…はぁ」
どうせ姉ちゃんが来るまで時間はある。
そう言い訳して,俺は彼に言われるがまま目の前のカードに触れた。
と言っても,同じ材料,同じ質で出来ていないと商品として話にならない訳だからやっぱり手触りによる違いなんて殆どない。
別に,そんな運命なんて特に感じないしそもそも信じていない。
…そう思った時,一番奥のカードに触れた時——俺は違う世界にいた
「ここ,どこだ」
ハッと眼を見開いた先,視える筈がない外の世界があった。
舞い散り螺旋状に吹き荒れる桜の花,見上げる城。
そこは…きっと夢だった。夢じゃないなら俺の想像だ。
じゃないと,この景色が見える理由が付かない。
そして,そのお城の頂上から俺を見下ろして来る影があった。
男だ。赤い着物と鎧を組み合わせたかのような姿。
さらにビックリしたのは,彼の頭から生えている一本の角。
左の腰には離れたここからでも分かる豪物だと分かる刀。
「あんたは――」
男は猛々しく俺を見下ろし名乗った。
鬼にして惑星クレイ,ドラゴンエンパイアの忍を統べる長。
その名は――
「それに決めるのか?」
その声で,俺の視界は再び黒く染まる。
一寸先の光も視えない,それなのに…俺の手からは優しい光が包んでくれているように感じた。
「これ…は」
「それはドラゴンエンパイアって国の中にいる忍を纏める長,名前は…”粋の極致 忍鬼 猩々童子”だ!」
それが俺の,猩々童子に出会った日の事だった。
俺にとっての運命の日,世界がほんの少し変わった日。
だけど今の俺を形作る大切な1日だった。
悠馬のティーチングファイト…流石に悠馬も目の見えない人間に教えるってのは初めてだったから戸惑い戸惑いだったが…文化祭の時のクラスメイトと違って俺の手を取ってカードの置く場所や,ルールの流れを事細やかに教えてくれた。
もちろん,カードゲームなんて今まで触れた事が無かった俺は全てが新鮮で,ドキドキして…楽しかった。
その幕を上げる文言を,彼と一緒に唱えた時…俺は変われることが出来るかもしれないって期待したんだ。
――スタンドアップ!
――THE
――ヴァンガード!
ゲーム開始の合言葉,何かが始まる予感を唱える合言葉,俺にとっての…何かが変わる合言葉だ。
…まあ,と言っても初戦は普通にボコボコにされたんだが。
それも,大体25分程度で終わるファイトを1時間近くかけてだ。何度もカードを置く場所を間違え,ルールを間違え,わっしょいされまくって負けました。
はい。
けれど…
「すっごく,楽しかった」
「良かった良かった!!じゃあもう一回やろうぜ」
「え?」
呆気からんと,滅茶苦茶ルール説明で迷惑をかけたのにそんな事を言った彼に俺は開いた口が塞がらなかった。
いや,確かにある程度カードを置く場所とかは感覚でそれなりに分かるよ?
だけど,さっきまでスロー進行させて普通の人なら”あ,こいつダメだわ”と見捨てる所だぞ。
なのに,もう一度だと?
「え,って楽しかったんだろ?」
「いや,そう言ったけれど…」
それは…言った。
初めてのカードゲーム,今まで視覚情報があって普通にして重要なものだったから…そもそも興味なくてやっていなかったもの。
けれど,彼の熱心なルール説明と…ヴァンガードの醍醐味であるトリガーによる勝敗逆転システムは楽しいと思えた。
きっとこのカードゲームは,今教えてもらったことの他にも沢山の戦略や駆け引きがあるんだろうと思うと…柄にもなく楽しかったんだ。
「ならもう1回したっていいだろ?」
「…迷惑かけてんのに?」
「…?そんな事言ったか俺?」
俺は今度こそ絶句して…これが柴咲悠馬という人間なんだと思ったんだ。
「じゃあ…もう一回だけ」
そう言おうとしたら,俺の耳に焦ったような,切羽詰まった声が聴こえて来た。
「いた!導志!」
そう言う訳で,俺はもれなく姉に連れられてカードショップを出る事になってしまった。
その時姉ちゃんにめっちゃ力強く腕を掴まれた事で,”あ,めちゃ時間経ってるわ”と再確認してのほほんとしたら怒られた。
けれど…悠馬はそんな俺にこう言ってくれた。
「休日はここにいる事多いぞ~」
そうして俺は彼と友達になった…のかもしれない。
そんな不思議で,けれど人生の転換期となった俺の始まりの日。俺の
そこからほぼ1年間,俺は悠馬と,彼を中心にして色々なカードショップや大会を回っていた。
彼のサポートありきでもあったけれど,俺の実力はめきめきと上がっていき10回に1回くらいはショップ大会を優勝できるくらいになっていた。
そうして俺と彼が出会ってから10カ月位経った時,街のカードショップが複数集まって大きな会場で合同開催したカードフェスティバルって言うのがあった。
その中にヴァンガードの催しもあった。
今でも…あれに行かなければ俺達の関係ももう少しマシだったのかもしれないと意味のないIFを描く。
そのフェスティバル,ヴァンガード部門では大会は勿論あったが3人一組って条件があり,俺達の知り合いのファイター皆チームを組んで俺達2人があぶれてしまったので大会は不参加。
けど,それが気にならない位凄い行事がサプライズがあった。
なんと,ヴァンガードのアジアリーグを席巻して今尚世界トップランカーでもあるプロファイターとタッグファイトが出来るイベントがあったんだ。
それに俺と悠馬は申し込んで,最後の当選枠で滅多にないプロと戦う機会を得たことはあの時は僥倖だと思った。
いや,ファイターなら強い人と戦いたいと思うのは当たり前だった。
けれど…俺と悠馬は,手も足も出ずに普通に負けた。
いや…多分,俺が凡ミスをしていたことが小さな傷となり,相手のプロはその傷をどんどんと抉ってきて気がつけば俺達は負けていたんだ。
ガードのタイミング,攻撃の見定め,相手の戦力を潰す為の緩急の付け方。
どれをとっても今の俺達では届かない…そう思えるほどのファイト展開だった。
それも全ての参加者との連続ファイトをして疲労している筈なのにだ。
とんでもない体力と精神力,色んな意味で敵わないと思わされたファイトだった。
「良いファイトだった。けど…ここまでだよ」
冷静さの中にある激情の炎,あのプロは強かった。
あれはトリガーの運だけではどうしようもないほど高い壁だった。
それでも,2VS1っていう圧倒的優位があったのに。
「ははっ,流石世界チャンプ。強かったな」
フェスティバルの帰り道,蔵前橋を渡っていた時だと思う。
悠馬は気にしていないようにそう言った。
だけど,流石にほぼ1年一緒にいたら彼が気にしている事は手に取るように分かった。
「いやー,あれがプロか。道遠すぎだろ!」
乾いた笑みに浮かんだ言葉,いつか悠馬は言っていた。
高校生になる頃にはプロになりたい,色んな大会に出て賞金を取って家族に楽をさせたいって。
彼の母親は病気がちで入院生活,父親は殆ど家に帰らない程に多忙だという。
けど,中学生とは言えプロになって賞金で稼げるようになれば2人とも楽になれるだろうっていう,優しい考えだった。
中学生でプロファイターはいない訳だが,それでも高校生のプロはいる。結果を出さなければ普通にプロ剥奪な訳だが,彼の目的を想えば結果を出すしかないのだから余りそれが止まる理由にはならなかった訳だ。
でも…その日,悠馬は現実を見た。
あの時,俺がもっとましな言葉を言えば良かったのかもしれない。
もっと悠馬の考えている事を分かろうと思えば良かったのかもしれない。
だけど,俺がその時書けた言葉は…きっと彼を傷つけたんだと思う。
——でも,楽しかったよな
俺は…あの時のファイト,凄い楽しかった。
負けは負けだった。
あの時どれだけ理想的な動きをしても,きっと勝てなかっただろう。
あの人と戦うには俺も悠馬も戦略眼がまるで足りなかった。
それでも――格上相手でも,俺は楽しかった。
勉強になる事だってあった。
新しい可能性も視えた。
だからこの負けは,きっと次に繋がるんだって信じていた。
「ああ,そうだな」
だけど,それが俺だけの想いだったのは俺には分からなかったんだ。
☆
現代,俺は羽沢珈琲店の残り少ない営業時間でそこまで語り終えて冷たくなったコーヒーをソーサーに置く。
質問を挟むことなく,無言になる姉ちゃんに香澄さん,そして質問者の美竹先輩。
因みに雰囲気は既にお通夜。
自分で言うのもあれだが,まあまあシリアスな過去だからな。
姉ちゃんと香澄さんはもうこの話自体は知っているけれど…ていうか香澄さんには言わされたけれど,彼女がこの話を聞いて泣きそうな声になるのは…いつまでも慣れることができない。
「どーくん」
オレンジジュースのコップを握る微かな音が聴こえる。
流石にお客さんも俺達以外いなくて,誰も無言だったら割とこんな小さな音でも聴こえるんだよな。ていうか聴こえないと舞台に上がれねえ。
「…」
俺の右斜めに座っているであろう姉はずっと無言だ。けど,感情自体は多分怒だと思う。
姉ちゃんに関しては…正直俺のプロになる動機自体には納得してもらっていない。
姉ちゃんは悠馬の事,これからの話もあまり好意的には思っていないから。
それでも俺が自分自身で見つけ出した未来への航路だと知っているから,プロになりたいと言った時に反対しないで俺の味方をしてくれた。
「そんなことがあったんだ。その後はどうなったの?」
けど,幸いなことに今回は美竹先輩がそのまま続きを促してくれた。
いつもの美竹先輩なら余りこういう面倒なことに首はツッコまないイメージがあるが…自分で言うのもなんだけど気になる終わり方をしたからな。
あと多分ポピパの2人の異様な雰囲気に気がついて,この状況を抜けるに抜けられなくなっただけだろうが。
ただ,続きを促されたら俺も答えないわけにはいかない。
香澄さんにとってはトラウマポイントかもしれないけれど,俺はこれからの試験に向けて自分の意志を確認する為に続けた。
「…フェスティバルが終わって,しばらく悠馬とは会えせんでした。電話も出ないし,ショップにもいない。どうしたんだろうって思って1カ月位経った時電話が来て神社で会いました。」
そうして,俺の意識はまた過去の思い出に向かった
お疲れさまでした!
導志の初めての友達にして先導者,柴咲悠馬。
櫂ポジションですね。
柴咲悠馬:導志をヴァンガードに導いた先導者。導志のライドラインの猩々童子は彼から貰った物。目標はプロになる事,得た賞金で治療費が莫大なお母さんを助けたい。中学生が直ぐに多大なお金を手に入れようと思ったら選択肢は少ないので,悠馬にとっての手段がプロになる事でした。
では次!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話