星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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雪空の下の決別

それはいきなりの電話,だけれど俺にとっては彼に会える事が嬉しくて嬉々として指定された神社へと向かった。

 スマホの音声案内にしたがって辿り着いた神社,残念ながら小さな頃に来ただけの神社だったから外観は殆ど覚えちゃいないが神聖な趣のある場所なのは覚えていた。

 

 久しぶりに会う悠馬とどんな話をしようか,あの新弾のカード強くない?とか,この1カ月の間話せなかった色んな事を俺は彼と話したかった。

 そうできると思っていた。

 

 姉ちゃんによって防寒対策をしっかりとした俺は,悠馬に言われた神社へとやって来た。

 流石に初詣でもないこのクソ寒い時期にお参りしてくる人はあまりいなかったが,それでも俺の耳が麻痺する程度には寒くて周囲の感覚が少し鈍っていた。

 

 でも,彼は普通に声をかけて来た。

 

「導志」

 

 その声色は何かが変だと教えてくれていた。

 前みたいな呆気からんと軽い感じで言うんじゃなく,何か重たい錨を背負いこんだそんな声。

 不審なものを感じてはいた。

 だけど,それよりも俺は久しぶりに会う悠馬に気を取られて意識の端から追いやった。

 

「悠馬,久しぶり!どうしたんだよショップにも来ないし連絡も無いしさ」

 

 そしてその異変に目を向けたくないから…そうやってらしくもなく明るく声をかけた。

 今も冬の風は靡き,なんのガードもしていない耳は今にも壊死してしまうんじゃないかって位感覚が鈍っている。

 そんな中でも,俺は彼が小さく息を吸ったのを聴いた。

 まるで,何か重大な事を言うかのような仕草。

 俺は直感的に彼に何かを言わせてはいけない,そう思って回らない口を回そうとして――

 

 

「導志,俺はもうお前には会わない」

 

 

 それは…絶交宣言だった

 

 

「は…?」

 

 

 頭が真っ白になったのは何時ぶりだっただろうか,今だからそんな呑気な事を言える。

 当時は,彼が何を言ったのか俺には分からなかった。分かりたくなかった。

 けれど…彼の言葉はそんな事すらも許さないとばかりに直接的でグロテスクだった。

 俺の中で築き上げたヴァンガードの自信と,彼に対する信頼が音も無く崩れていくのを感じた。

 だってそれは…1年前の文化祭と同じ,周りの人間が”敵”になっていく感覚と同じだったから。

 

「な…んで」

 

 ようやく,喘ぐように捻りだしたのはそんな主語が抜けた言葉。

 そうやって捻りだした言葉を,悠馬は数秒沈黙した後に応えた。

 

「お前と一緒にいたら俺は永遠にプロになれないからだ」

 

 俺は正直舐めていたんだと思う。

 当時の俺はプロになんてなるつもりはなく,ただ自分が楽しければいいと思っていた。

 いやそれ自体は今もあまり変わっていない。だから園田含めたクラスメイト達に狂戦士とか言われっちまうんだから。

 

 自分が楽しいのなら,それがプロである必要はない。

 ていうか,眼が視えないのにプロとかなれるわけねえだろと思ってもいた。

 でもプロになりたいという悠馬の事は応援しよう,手伝おうと思っていた。

 彼がその夢にかける覚悟と理由を知っていたから。

 

 でも――そんなのは知らなかった

 

 「…フェスティバルで,月城さんと戦った時痛感した。今のままじゃ…周りの環境に同じレベル,低いレベルがいる環境じゃ俺は強くなれない。プロになれない。だから俺は,これまでの関係を断ち切って新しい場所に行く事にした」

 

 悠馬はそんな聞きたくもない事を,俺と会わないという結論に至った理由を淡々と冷たく語った。

 俺達が常連と化しているショップは,別に有名なプレイヤーがいるわけでもなく大体身内でワイワイやるだけ。

 そこにプロになりたい人間はあまりいない。店長さんがコレクターでそう言う人柄の人が自然多くなるからだ。

 それが意識の差となって,彼は今のままではダメだと感じたんだろう。

 

 だけど…だけどそんなの,俺には許せなかった。

 俺をヴァンガードに引きずり込んでおいて,楽しさを教えておいて,それを教えたお前がそんな事を言うのかって。

 色んな繋がりが出来るからこそのカードゲームじゃないのか,ただ強さを求めるために周りの人達を疎遠にする事が許されて良いはずがない。

 それはこれまで悠馬と関わって来たファイター,そして俺に対する侮辱も同然。

 無性に腹が立った。

 文化祭で戦力が通告をされた時には感じなかった苛立ちが俺をの身体を支配した。

 

「…ざけんな,なにが関係断ち切るだよ。たかが1回負けただけだろ」

 

 そして,やっぱりそこはカードゲーマー的な思考になったのか俺は殆ど意識しないままポケットに入れていたデッキを取り出した。

 

「ファイトしろ悠馬,てめえの性根を叩きなおしてやる!」

 

 ファイトの結果で失った物であれば,ファイトで取り戻す。

 勝敗も,ファイトにかける自分の矜持も…俺達はそうやってファイトして来た。

 悠馬の言う狭い世界であっても,そこにかける思いは本物だった筈だ。

 勝っても負けても笑って,周囲の人達を巻き込んで笑ってやってきた俺達のヴァンガードを…よりにもよってそれを教えてくれた悠馬に否定させたんくなんて無かったんだ。

 

「…ああ,俺もそうしようと思っていた」

 

 その言葉が意味するところを,俺は知らない。

 決別の儀にするつもりだったのかもしれない。

 だけどそんなのはどうでもよかった。俺達のこれまでを否定するこいつの性根を叩きなおしたかった。

 今にも消えてしまいそうな友人を繋ぎとめるために,俺は命すらも賭けても良いと思う運命のファイトに挑んだ。

 

 神社から少し外れた竹藪の中,ポツンとあった平らな石の上で俺達は向かい合った。

 

「「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!」」

 

 ——先に結果から言おう,俺は負けた。

 

 

 ☆

 

 

 俺はコーヒーを飲もうとして,既にそれが空であることに気がついて結構心に来ていたんだなと他人事のように客観視した。

 カードゲームとは言え,余り自分が負けたことは口に出したくない。

 俺だって男だ,好きな人の前くらいでは常勝無敗でいたいものだ。

 

「…俺も色んな意味で冷静じゃなかったんでしょうね,もう会わない,絶交すると言われてらしくもなく頭に血が上って…あのファイトはいつも俺達がしていたファイトとは決定的に何かが違った。…楽しくなかった」

 

 雪でも降りそうな天気から始まったヴァンガードファイト,最初は…俺が優勢だったと思う。

 自分のデッキの最大値を引き出せていた。

 それが俺の冷静さを歪める要因になったんだ。

 

 目の前の悠馬を倒す事だけを考えて,いつものような楽しいファイトじゃなくなって…かと言ってそれで悠馬を追い詰めたのかと言われたら…そうでもなかった。

 寧ろ,俺の戦略なんて悠馬は死ぬほど見てきているんだからその流れだって掌握されてると考えるべきだったんだ。

 

 そして,あいつはただ純粋にフェスティバルの頃よりも上手くなっていた。

 以前の燃えるようなファイトスタイルじゃなく,冷静に相手を追い詰めていく…フェスティバルで戦った月城プロと似たファイトスタイルだった。

 

 ——そのファイトは,本当に楽しいと思っているのか?

 

 余りの変わりように,そう聞いた俺の問は黙殺された。

 以前とは何もかも違うファイト展開で,追い詰めていたと思った俺はいつの間にか追い詰められていて為すすべも無く敗北した。

 

『…まって,ゆうま』

 

 ファイトが終わって,踵を返し雪を踏みしめる音が聴こえて俺は彼に手を伸ばした。

 震える唇で彼の名前を呼んだけれど,彼は一瞬足を止めただけで何も話す事なく俺の前から去っていった。

 俺はただ暗闇の世界で,無我夢中で彼を追いかけようとしたけれど雪のせいであっけなく俺は転んで…気がつけば彼の気配はどこにもなかった。

 

「その後の記憶は殆ど覚えてないです,らしくもなく泣き散らかして神社で倒れたまま気絶してました」

 

 雪の冷たさは俺の骨の髄まで戦う気力を無くさせて,手足の感覚を失わせ,感じる熱は頬に感じる涙だけ。

 悲しくて情けなくて,滅茶苦茶な精神的ストレスが一気にかかった俺は身体の防衛機構でも働いたのか知らないが意識を無くしていた。

 普段から暗闇の世界にいる俺にとって,自分が気絶しているのか自覚する事は割と難しくて…自分の心のダムの決壊に気がつかなかったんだ。

 

「え,その時雪降ってたんでしょ?大丈夫だったの?」

 

 美竹先輩が今無事な俺がいるにもかかわらずそんな事を聞いてきて少し可笑しくて小さく笑った。

 けど,その言葉を聴いて何かを言う前に俺の左前から今度こそ誤魔化せない怒気が伝わって来た。

 言うまでもなく我が姉上,彼女にとってはここら辺が怒髪天ポイントなのだから当たり前か。

 

「大丈夫じゃねえ,あんとき私がどんだけ心配したか」

「姉ちゃんステイ!分かってる,分かってるから!」

 

 雪が降っていた時に神社に来ようという人間は普通あまりいない。

 神主さん達もいなくて,俺は普通に凍死コースまっしぐらだった。

 そんな俺を助けてくれたのは,俺が帰るのが遅い事に気がついたお姉ちゃんだった。

 

『ばっか,なんでこんなとこにいんだよ!!生きてる?生きてるよな…冷たっ?!導志,おい導志!!』

 

 怒気と涙声を一緒に出した姉ちゃんが,ただの敗北と違う,大事なものを失って空っぽになった俺を抱き上げて救急車が来るまで必死に俺を温めてくれていたのは覚えている。

 その時俺は気絶していた筈だけれど,どうしてか姉ちゃんの切羽詰まったそんな声は聴こえてきて俺の意識を現世に繋ぎとめていてくれた。

 

「あの時は…ごめん」

 

 だから姉を心配させたことはこうやって俺は何度も謝った。

 小3の時以降で初めて死にかけた時の事だ。姉ちゃんの俺が死にかけるトラウマも再浮上で最悪な光景だったのは自覚している。

 

「…分かってんなら良い」

 

 そうやってぶっきらぼうに俺を許してくれるのもいつも通りの流れだった。

 

「俺が立ち直れたのも姉ちゃんのおかげだった。」

「有咲が?」

「お,おう」

 

 美竹先輩が疑問符全開の表情で姉ちゃんを見たんだろうなって思いながら俺は続きを語った。

 




お疲れさまでした!
悠馬の心境に関してはまた語る話がありますが,導志目線での決別です。

以前有咲が導志の鞄にGPSを仕込んでいたのは,この時に死にかけたので過保護の有咲はなりふり構わなくなった感じです。
それも姉の愛だと分かっているから導志はなにもツッコんでいないだけ()。

では過去編ラストです!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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