俺は1日の入院のあと,無事に退院出来た。
散らばっていたカードは姉ちゃんが拾ってくれていた。
だけど俺はカードに触りたくなかった。触ったら悠馬とのファイトを思い出して…またその記憶が俺を抉って来るんじゃないかって怖くなって姉ちゃんからカードを受け取らなかった。
学校も行く気力なんて湧かなくて,どの道もう直ぐ冬休みだからと俺は休み続けた。どうせ定期考査も終わっているから成績になんの影響もない。
内申にはなにかあるかもしれないが,別に推薦で高校に行こうとも思っていないからどうでもよかった。
何もしない無気力な毎日を,姉ちゃんやお祖母ちゃんは咎めることなく見逃してくれていた。
ただ,なんでそうなったのかって理由を教えてもいなかったから姉ちゃんはフラストレーションが溜まって…不登校を始めて2週間くらい経った時の休日。
「導志,出かけるぞ」
「はっ?え,ちょ」
それはいきなりだった。
何の前触れも無く部屋にズカズカ入って来た姉ちゃんは,抵抗しようとする俺を押さえつけながら強引に家を連れ出した。
強引に連れ出したように見えて歩幅は俺に合わせている時点で優しさを隠しきれていない訳だが,姉ちゃんは無言である場所に連れて行った。
都電に乗り込み,やって来た場所は多くの人達が闊歩している買い物天国。
…俺と悠馬が初めて会ったカードショップがあるショッピングモールだった。
そして――
「お,導志君いらっしゃい。なんか久しぶりだな。今日はお姉さんと一緒か」
顔見知りの…は何だか変だな,声見知りの男性店員の声で俺の鈍りに鈍りまくっていた聴覚感覚と肌感覚の機能が徐々に戻ってきて…そこがあのカードショップだという事に遅れて気がついた。
お姉ちゃんは戸惑いの余り無言になる俺を無視し,その店員さんに外行きの猫を被って言った。
「はい,今日の大会参加受付は始まっていますでしょうか?」
それは姉ちゃんが学校でお嬢様キャラを作るためのキャラ付けだ。
正直普段のツンデレ姉ちゃんを見ていると違和感しかない猫だが,この時の俺はそんな事をツッコめるほど元気じゃなかった。
ていうかコンディションなんて滅茶苦茶最悪で,あれ以降カードなんて触ってないのだから俺は当たり前のように姉ちゃんに抗議した。
「姉ちゃんいきなり連れだしてなん…」
だけど,姉ちゃんはそんな俺の抗議を俺の手に何かを押し付けて黙らせた。
それは…数週間ぶりに触る俺のデッキだった。
意味が分からなくて姉ちゃんの方に顔を向けると,姉ちゃんは…どこまでも優しく言ってくれた。
「私が見ててやっから…行ってきな」
拒絶する事だって出来たのに…どうしてか俺は震える手を押し付けて,デッキを握った。
今にして思えば俺の様子なんてまあまあ可笑しかったのに,当時の店員さんは何も聞かないで姉ちゃんに言われるまま俺のショップ大会受付を受理して――俺自身のやる気なんて殆どないのにショップ大会が始まってしまった。
ショップ大会はお店によってやり方が変わるが,このショップ大会はスイスドロー形式で予選を行い勝ち点が全勝者が2人になったら特設ファイトテーブルで決勝戦するっていうちょっと変わったやり方だった。
なぜなら決勝のカードが決まった時点で,参加者はリタイアしても良いし決勝の横でファイトしていても良いっていう少しフリーダムなやり方だからだ。
普通ならトーナメントか,そのままスイスドローで続行だからだが…まあ,そんな事は大して重要じゃない。
「あ,あの…よ,よろしくおねがいします」
重要なのは…数週間避けて来たヴァンガードを,俺はちゃんと出来るのだろうかってそんな事だった。
ルールを忘れたとか,スキルを忘れたとかそんなレベルの話じゃない。
ただ純粋に,あの時の無様に負けた俺が…友達を止められなかった俺が…
いや…そもそもこれから何をしたらいいのかすら,俺には分からない。
夢も目標も,そんな大それたものは俺にはなくてあったのは悠馬と一緒に合った楽しいファイター生活。
それが瓦解し,なくなってしまった今…俺には何があるんだろうかと。
「…対戦,よろしくお願いします」
なんとか,目の前に座った相手の対戦前の挨拶に口が勝手に動くように反応し挨拶の式句を交わす。
自分の事で精一杯だったが,相手の声はビックリするほどに幼かった。
数拍経ってその事に気がついたけれど,別にだからなんだという話だった。
いつものように俺はシャッフルしたデッキ置きながら我ながら平坦な声かけをした。
「眼が視えないのでスリーブにシールを付けて見分けてますのでご了承ください」
ほんとはやる気なんて殆どなかった。
さっさと終わりたい,家で一人になりたい――誰も救えない自分なんて消えてしまえばいい
そんな事すらも思ってた。
あの時は精神死んでいたから自殺願望も普通にあったし,そう思うのは酷い事だと分かっていたけれど当時はその思考を止められなかった。
だから,この時ファイト出来ていたのは奇跡に等しかった。
「は,はい!」
そうして俺の気分が急転直下の中始まったショップ大会初戦,それが…俺にとっての転機だったと思う。
あとから姉ちゃんに聞いたけれど,俺の対戦相手は小学生の男の子。
最近ヴァンガード始めたという子で,始めたばっかりでショップ大会に行こうと思うなんて凄いアグレッシブだなと他人事のように思った。
因みに,この時の少年は以前湊先輩とリサ先輩に招待状を渡す前に話していたガールズバンドの人の弟だ。
名前は翔君,新人ファイターだった。
「え,えっとドローして…えっとあれ,どうするんだっけ」
ただ,俺が言うのもなんだが滅茶苦茶緊張してフェイズ中にやることを忘れてしまう位には頭がいっぱいなようだった。
幸い,参加人数がそれほど多いわけじゃない大会なので時間制限はない。
別にいいか…その程度の軽い気持ちで俺は彼に言った。
「ドローして,次にする事は?」
「…あ,ライドだ。えっと,手札1枚捨てて…ライド!」
ライド――自分自身であるヴァンガードを進化させる行為。
ただそれをしただけ,ファイターなら当たり前のことをしただけなのに…翔君は随分と嬉しそうだった。
それがどうしてなのか,俺には分からなかった。
返されたターン,俺はいつものように…ではないな,事務的にライドし,リアガードを展開し相手ヴァンガードを攻撃する。
この時の俺の態度は…正直あまり褒められたものではない。
初心者に対する態度としてはぶっちゃけゴミだった。
それ位酷かったと思う。
はっきり言うと,当時は翔君の存在なんて気にも留めていなかった。自分の事だけを考え,早くファイトを終わらせたい一心だった。
実際,翔君のゲームスピードは速いとは言い難かった。
緊張のせいなのか口が回っていないし,パワー計算も間違えているし,スキルの使い方も間違えていたりしていて正直見ていられない位には酷かった。
ゲームの遅延プレイと言われても仕方がない位遅くて,先行の彼がグレード3にライドする頃には周りのプレイヤー達も対戦を終えてしまう位には遅かった。
…けれど,俺は急かす気にはなれなかった。
早くファイトが終わって欲しい,そう思ったことは本当だ。
でも…胸騒ぎがそんな事を封じて来た。
俺の態度がヤバいものだからか,翔君の緊張は頂点を振り切れて声も段々と小さくなっていく。
(ああ,そうか)
暗闇の先にいるのは…悠馬に初めてファイトを教えてもらった時の俺だった。
見えないから他人の顔色を窺い,相手の真意も知ろうともせず眼を背けていた俺。
だけど…俺は,悠馬に,ヴァンガードに奈落から引っ張り出されて他者とコミュニケーションを取れるようになっていた筈だ。
何もない所から会話をするのは俺には無理だったけれど,ファイトを通じてなら出来ていた筈だった。
なのに今の俺はなんだろうな,悠馬に言ったのにな…
違う,俺が本当にしたかったファイトは…その相手は――
「おお,良いぞ少年!その調子で鬼退治だ!」
俺は俺と少年以外の第三者の声で意識を現実に戻した。
不思議なことに,俺は少年の言葉を半ば聞いていないにもかかわらず彼の盤面を把握していた。
彼のリアガード,ダメージゾーンにあるカード,ドロップゾーンにあるカード…そして判明している手札。
殆ど意識していなかったのに…どうしてか俺は理解していたんだ。
その事を認識した瞬間,俺はようやく周囲に沢山の人達がこのファイトを取り囲んでいる事に気がついた。
「お,おに?」
外野のお兄さんの言葉に虚を突かれたように少年が声をあげる。
まあ,確かに始めたばかりでそんな事を言われたらそう思うよな。
だけど,そんな戸惑う様子は…あの日の俺と同じだった。
気がついた時には俺もらしくもなく軽くなった口を開いた。
「俺のデッキは惑星クレイの国家の1つ,ドラゴンエンパイアの忍を纏める鬼のリーダーのデッキだ。ほら,鬼退治だろ?」
俺はこんなにシニカルに笑えたっけ…今笑えているのかすら俺には分からないけれど,ここ最近では出せていなかった類の声を出せた気がする。
少年は多分,俺の変化に戸惑って――そんな事を口にした。
「え,えっと…じゃあ俺が桃太郎?」
「…っ,そうかもな」
俺はただその一言は凄く愉快に感じた。
まさかそんな返しをされると思っていなかったっていうのもあるけれど…感じたんだ。
少年の空気が,このショップに染まり始めたのを。
俺が悠馬に引きずり込まれ,染まらせられたあの空気に。
他者を受け入れて,一緒に笑い合って,楽しくなるあの感覚を。
「さあ,君のターンだ。どう攻める?」
ああ,楽しくなって来た。
目の前の少年が,1年前の俺だと思えたら酷く楽しくなって来た。
何も知らない,何も予想できない,故に可能性なんていくらでもあった俺がこの可能性に辿り着くだなんて誰が想像出来たんだろうか。
いや,誰も予想出来ない。
思えば違っていたんだ。
悠馬が俺の前からいなくなって,カードに触れなくなって…ヴァンガードも辞めようかと思った。
だけどカードを捨てる勇気がないから,ただやらない選択をしただけだと思っていた。
違う,俺は心の中でヴァンガードを――もう一度,悠馬と戦いたい――そう思ったから俺は捨てられなかった。
「ヴァンガードでア…アタック!」
「来い,ガードはしねえ!」
少年のアタック,いつのまにか声援を受けた少年の声に覇気が宿っていて,少年の声に呼応して周囲の人達が歓声を上げる。
それで興が乗った俺も…きっと楽しそうに笑ってノーガードを宣言する。
ヴァンガードの面白い所の1つ,ドライブチェック。
自らの未来を引き当てに行くチェックだ。
「ど,ドライブチェック!ファーストチェック…クリティカルトリガー!えっと…」
このファイトで少年が出した初めてのトリガー,少年はルールを思い出そうとした時
「パワーとクリティカルは別々に振り分けられるぞ少年!」
「は,はい!クリティカルはヴァンガード,パワーはリアガードに。」
外野のお兄さんその2がショップ大会で本来ならルール違反甚だしい他者へのアドバイスをしてきて,そんなマナーは知らない少年が背筋を正したような声を出してアドバイスに従ったトリガー効果の振り分けをした。
いや,別にマナー違反だろうと少年なら別に良いんだけどね?
でもマナー違反は違反だから悠馬を通して知り合ったそのお兄さんに苦言だけは言っておいた。
「なんかどっからか熱血男が教えてきやがった」
「誰が熱血じゃ…俺は熱血なのか…?」
「いやしらんが?」
「…ふふっ」
吹き出す周りに,少年も釣られたように笑ったのが分かった。
俺が少年へのアドバイスを止めないのを見て,そして初心者という事は周りも分かっているからだろうか少年自身が選択できるように選択肢を提示した。
周囲のお兄さんその3が優しく少年に伝えた。
「それだけじゃないよ少年,ヴァンガードのスキルを使うと良い」
すげー,俺この人声とデッキくらいしか知らないけれど何故か眼鏡をくいッとするする仕草が浮かんだ。
あれ,エリート社員的なあれ。
え,偏見?知るかバーカ。
「あ,そうだ。ヴァンガードのスキルで,出たトリガーのパワー1万上昇させます!」
「うん,さあ次は?」
「セカンドチェック!」
「「おおおおおおお!!」」
少年がカードを捲った瞬間,観客が湧いた。
俺も一瞬ビクッとして鳥肌が立つくらいには息がぴったりで,少年がなんのトリガーを引いたのか分かってしまって――あれ,これ俺ピンチじゃね。
「クリティカルトリガー!!」
はい知ってました。
ある意味超トリよりも嫌な引きをされてそれなりに余裕だった俺はあっと言う間にピンチにです。
「さっきと同じでクリティカルはヴァンガード,パワーはリアガードに。ヴァンガードのスキルでトリガーのパワー上昇は更に1万されます!」
気がついたら,少年の声は最初よりも随分元気になっていた。
「3点です!」
「ダメトリないと普通に死ぬんだが,チェック・ザ・ダメージ。ダメージ1,ダメージ2,ノートリガー。…ダメージ3,あ,良かった。ドロートリガー!」
「「えーーー」」
「えーーーってなんだよお前ら?!大分ピンチだが?!」
「ここは初心者に花を持たせるところだぜ,導志のあんちゃん」
周囲のお兄さんその4が滅茶苦茶馴れ馴れしく言ってくるが,この人とはほぼ話したことないです。
…え,それでこの軽さ?
陽キャ怖い。
「断る,勝つのは俺だ!」
「ぼ,僕です!僕が勝ちます!」
まさかの少年が吠え返してきて,俺は子犬の遠吠えをイメージしてしまったが…無性に楽しくて口の端を歪ませた。
「残り一点,取れるもんならやってみろ!」
…今だから思えるが,俺も大概餓鬼だったと思う。
「リアガードでアタック!!」
「ガード!」
「もう一枚のリアガードでアタック!」
「完全…ガード!!」
トリガーのパワー上昇をさせる少年のデッキ,先行3ターン目にしては高パワーだったけれど俺はダメージトリガーを出す事で凌ぎきり…長かった6ターン目のターンを貰った。
悔しそうな声,周りの大人が少年を称賛する声…色んな音が溢れていて――これだと思った。
フェスティバルでの月城プロとの対戦,悠馬はきっと気がついていなかったんだろう。
俺達のファイトが,見ていた人達を沸かせていたこと,俺が楽しいと感じた感情を見知らぬ誰かにも沸かせていた事を。
確かに,あの人のファイトは圧倒的だった。
他所から見れば楽しくないように見えたのかもしれない,だけれど…俺は楽しかった。
滅多にない機会に恵まれて,負けはしたけれど得るものは沢山あった。
それは”負けても楽しいものは楽しい”っていう,ごく自然で故に難しい感情だった。
だからこそ…俺にその感情を教えてくれた悠馬に,悠馬に教えられた初戦で負かされても楽しかったあの日の俺を思い出してほしかった。
だって,俺のヴァンガードだって敗北から始まった。
負けたなら次勝てるようにすればいい。
だけど…その為にファイトをする理由を”勝つため”にするのは絶対に間違っているんだ。
「行くぞ,少年!俺のターン!」
ライドデッキに伸ばす最後の1枚,猩々童子を手に取った俺は――イメージの世界に拉致された。
再びあの場所に,桜吹雪が舞う時代を感じるお城が眼前に広がる。
俺がお前を手に取った時にも視た景色,1年前と違うのは――俺の目の前に,以前お城の上から名乗りを上げた貴方がいることだろうか。
赤い着物と鎧を組み合わせたかのような容姿,金色の瞳に顔に浮かぶ自信の塊を表す獰猛な口元。
頭に突き出る角は鬼の証,豪物だと分かる綺麗な日本刀を肩に掲げて俺の前に立っていた。
1年ぶりに視る彼は,最初に視た彼よりも幾分か穏やかで――きっと1年,一緒に戦ってきたからだろうと思った。
だってこの鬼は――俺の分身だから
「志すは頂の導,天下無双の刃で我が行く道を切り拓け!ライド!”粋の極致 忍鬼 猩々童子”」
あの日,悠馬に貰った猩々童子のカード…訳も無くシンパシーを抱いて,俺のヴァンガードとして選んだ。
「…行くよ」
イメージの中で,鬼が笑った。
まるで――もう大丈夫だ,と言っている様に俺には感じた。
——
ショッピングモールからの帰り道,姉ちゃんはそれほど多くの事を聞いて来たわけじゃなかった。
俺は悠馬との間に起こった事を,まだ誰にも話していなかった。
けれど…姉ちゃんは何となく気がついているのだろうと思った。
『すっごく楽しかったです!』
無言で帰る俺達姉弟,何となく気まずくて俺は現実逃避気味にさっきのショップ大会を思い浮かべていた。
初戦でぶつかって,俺が負かした少年は笑っていた。
いや見えていないから実際の所は分からないけれど,声は笑っていた。
そして――
『あ,あの…またファイトしてくれますか?迷惑じゃなければ…』
そんな事を言われ,俺は虚を突かれた表情をしていたと思う。
だけど同時に微笑ましくなって,手を差し出した。
きっとそれだけじゃ意味が分からなかった少年は戸惑ったと思う。
だからこういった。
『ヴァンガードファイターは挑むものだ。休日はここにいる事多いよ』
ジェラシーを感じる言葉を言った。
あの時の悠馬もこんな気持ちだったのかもしれない。
自分の楽しいを他者と共有した時に起きる高揚感,それが好きだったのかもしれない。
だからこそ――悠馬もあの時こう言ってくれたんだと,俺は思った。
そして――
「姉ちゃん」
手を繋いで,再び健常に戻った耳からの情報でもう直ぐ家なのを感じて今言わないといけない気がした事を言う事にした。
姉ちゃんは俺を急かすことなく,止まってこちらに向いた…はず。
「どうした?」
ただ静かに問いかける声。
きっと,俺が何かを話してくれるのをずっと待っていてくれたんだと思う。
俺には勿体ない位優しい姉で,だから俺も言う気になったんだ。
夢や目標なんて,光を失ったあの日から無くなったと思っていたけれど…望みは俺の中にもうあったんだ。
その望みを叶えるために,遠くても険しい道を歩くことに決めたんだ。
「俺はプロファイターになる。」
俺に言わせれば一世一代の告白ぐらいの気持ちで言った。
俺が,俺自身の意志で決めた未来への航路。
滅茶苦茶厳しい道だなんて分かっているけれど…その道の先にあいつがいる。
もう一度面と向かって,俺の感じるヴァンガードを,楽しいヴァンガードを…今度は俺が彼に伝えたかった。
それは彼の事情をさっきのカードショップの店長さんから聞いたからでもある。
『え,聞いてないのかい?悠馬君なら北海道に引っ越したらしいよ』
ショップ大会を優勝して,お店のSNSに乗せる用の写真を撮る時に俺=悠馬みたいな所があったのか自然悠馬の話になって俺は初めてその事実を知った。
既に彼はこの東京にはいない。
北の大地にある奨励会支部で恐らくプロになる為の活動をする筈だと思った。
北海道行きを聞いた時は,落胆が正直あったけれど…却って彼が思い浮かぶプロへのルートが分かりやすくもあった。
そして何より,例えそのルートが外れていても俺自身がプロになればいつかまたきっと戦える。
悠馬はプロになると言った,なら必ずプロに上がって来ると確信した。
どうせあいつが東京に残っていたとしても,俺に声をかける事なんてもう無いんだろうからじゃあ同じプロの舞台に立って,対戦して言いたい事を言いまくる方がずっと簡単だ。
俺がプロになるのは悠馬ほいほいができるからだ。
「俺は,もう一度悠馬と戦いたい。その為にプロになる。俺は…俺達の信じたヴァンガードで今度こそ勝ちたいんだ」
プロファイターだからと言って,裕福な生活を送れる訳でもない。
賞金を取り続ければそれなりに良い生活は出来るだろう。悠馬のお母さんの治療費にだって充てられるだろう。
だけどそれが出来るのは勝者だけ,全てのプロファイターが生活で楽が出来る訳じゃない。
俺が行こうとしているのはそう言う世界だ。
保証も何もない,公務員の方がまだマシだと思う位には確実性がない未来だ。
それに,仮に俺がプロになったとしても他のプロファイターのようにスポンサーが付く可能性は殆どない。
俺に他に何か強みがあるのならばそれもあったのかもしれないけれど,俺にはそう言うのはない。
でも――今の俺はこの道しか眼中になかったんだ。
姉ちゃんは,静かに俺の言葉を聴いて――ビックリしたことに涙声で言ってきた
「私はあいつをぜってーに許さねえ。導志が許しても絶対に許さねえから」
姉ちゃんの言うあいつが,悠馬の事なのは分かっていた。
姉ちゃんに言わせれば,悠馬のせいで俺が肉体的にも精神的にも死にかけた原因なのだから。
その気持ちは嬉しかったし,分かるつもりだ。
「けど,導志がそうしたいんならそうすればいいんじゃね」
だけど,ぶっきらぼうにそう言って姉ちゃんは再び俺の手を握って歩き出した。
姉ちゃんの手が冬なのに熱くなっているのを感じて,きっと恥ずかしくて顔を赤くしているんだろうなと思うと…微笑ましいと同時に嬉しかった。
きっと悠馬に対して怒り心頭だけど,それとこれは別だと割り切ってくれる大人の対応してくれる姉ちゃんに
「姉ちゃん」
「ん?」
「いつもありがとう」
なんとなく,そう言いたくなった。
姉ちゃんがどうして今日,ある意味一番行きたくないであろうカードショップに連れて行ってくれたのかは定かじゃない。
予想だけなら分かるけれど,姉ちゃんはきっと恥ずかしがって言ってくれない。
だから俺も押し付ける事にした
「は,はぁ?なんのことだよ」
「ありがとうったらありがとう!」
「ちょ,やめろ!恥ずかしいだろ?!」
普段はあまり言わない感謝を伝えたくなった俺のお礼は家に帰るまで続いた
お疲れさまでした!
導志がプロを目指すと決めたお話でした!
香澄ヒロインのSSの話なのに,この話では有咲がヒロインだった。
園田との時はそう視えなかったかもしれませんが,本来導志はめちゃくちゃエンジョイ勢です。
そこが悠馬と考えが違う所でもありましたが,導志はそれを認めてそれでもまた悠馬と話したいが故にプロになると決めました。
眼が視えないからね,近くにいたとしても導志には追いかけられないんですよね。足音とかでも限界がありますから。
だから導志はプロという舞台に立って,彼と同じ大会に出て当たればファイト出来るよねって強引なやりかたしかなかったのです。まあ北海道に行ってしまってたんですが!
では,もう1週間以内には文化祭に行きます!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話