なんか、前に招待状の件で「リア充爆発しろ」と言われた時と同じ視線が刺さるように浴びせられているのだけは分かる。
あの時も後で教えられたけれど、俺の知り合いが女性ばかりだからハーレムみたいと言われたらしい。それでそんな事を言われたんだとか。
別に誰とも付き合っていないし、ただの友達――年上の友達が多いのは確かだが、それだけのことだ。
そう説明してなんとかあの時は納得してもらったのだが……なぜか今、同じような視線をまた浴びている。
黎明祭1日目。
普段よりも多くの人達が学校内を闊歩する中、俺はどうしようかと悩んでいた。
園田が一緒に文化祭を回ろうと提案してくれたが、彼は自分の部活の出し物も手伝うと言っていたし、忙しそうについて行くのも忍びなかったから辞退した。
俺は一人で文化祭を回っても視覚的なものが楽しめるわけでもないし、人の波に飲まれて迷子になるのがオチだろうと思ったので、教室に残ることにした。
ここでは演出班が軽く進捗を確認していたり、みんなでお菓子をつまんだりといった感じで、落ち着いていた。……いや、少なくとも、数分前までは。
「どーくん!!」
教室の扉が勢いよく開き、聞こえてきたのは香澄さんの興奮に満ちた元気な声だった。
突然の出来事に、演出班もクラスメイトたちもピタリと固まる。
俺も、まさか普通に教室に突撃してくるとは思わず、口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「香澄さん……おはようございます」
それでもなんとか理性を取り戻して挨拶を返したら、教室の中の空気が変わった。みんなの視線が俺と香澄さんに集中しているのが分かる。
「うん、おはようどーくん!文化祭凄く盛り上がってるね!」
香澄さんがそう言うのとほぼ同時に、廊下から様々な人達の足音や話し声が聞こえてきた。
確かに彼女の言う通り、黎明祭はすごい賑わいだ。
今日はまだ1日目。午後に入ったばかりで、土曜授業が終わった香澄さん達がちょうどやってくる頃だとは予想していたけれど、まさか真っ先に俺に会いに来るとは思っていなかった。
「あ、もう……! 香澄、勝手に走るんじゃねえ!」
「有咲、遅いよーっ!」
「お前が勝手に走り出したんだろ!」
馴染みのある足音の主がやってきて、予想通り、姉ちゃんも爆誕。
教室の中が「誰?」「導志君のことどーくんって呼んでる! キャー!」とざわめき始める。
姉ちゃんが来たことで、さらに面倒な空気になりそうな予感がした。
「姉ちゃん元気だなー」
現実逃避気味にそう呟いた俺に、姉ちゃんがすかさずツッコミを入れる。
「香澄のせいだろ?!……ごほん。皆様ごきげんよう。弟がお世話になってます、姉の有咲です」
…あれだ。いつもの外面用のお嬢様キャラだ。
だけど、この教室の連中の中でそのキャラが通じるのは無理じゃないか?だって 香澄さんがすぐに無邪気にその仮面を剥がしに行くから。
「どうしたの、いつもの有咲らしくない!」
案の定の一言。
姉ちゃんは「うるせえ!」と毒づいたあと、無理やり仮面を被り直そうとするが……
「あ、おほほ……これからも導志のことをよろしくお願いしますね」
もう遅い。いや、むしろ逆効果かもしれない。
俺が「姉ちゃん、そのキャラやめた方がいい。俺の方が恥ずかしくなるから」と言うと、周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
「市ヶ谷君のお姉さん、可愛い~」「美人だね」といった生暖かい反応が増えて、俺はどんどんいたたまれなくなってくる。
俺は周りのそんな反応から逃げるように無理やり話題を変えた。
「それより、他のポピパの人達はどうしたんですか?」
「あ、ほんとだ。有咲、みんなは?」
「香澄がなりふり構わずここに向かったから、3人は好きに回るってさ」
…まあ、初めての高校文化祭であれだけの人が集まる中、3人で好きに回るというのは理に適っていると思う。
他の知り合い達――ガールズバンドパーティーの人達も来る人はそろそろ到着する頃だろう。
大体が明日の方に来ると言っているけども
「そっか……あ、どーくんはもう文化祭回った?」
「いや、俺は……人の波に攫われて迷子になるのがオチなので回ってないですね」
1日目はクラス展示や舞台裏の最終確認もあるから、自由時間は限られている。
視覚的なことを感じられない俺が回っても仕方ないだろうと考えて教室に残っていた。
だが、この後、香澄さんが何を言うかなんて予想できる。
「そうなの? じゃあ、一緒に回ろうっ!」
…やっぱりそう来たか。
予想通りすぎて、どう返事をすればいいか一瞬悩む。
「良いじゃん、市ヶ谷君行って来なよ」
このタイミングで援護射撃をしたのは、屋台で買ってきたものを食べていた北村学級委員長だ。
…ただし、「面白そう」と思っているニュアンスが含まれているのは分かる。
「ほら、クラスの子もこう言ってくれてるし、行こうよ!」
香澄さんがグイッと押してくる。この流れで断るのは無理だな、と俺は観念して立ち上がった。
「じゃあ……行きましょうか」
「わーい!」
香澄さんが嬉しそうにはしゃいでいるのを聞いて、思わず口元が緩む。
文化祭自体、俺にとっては実質初めてみたいなものだ。
少しでも楽しめれば良い、そう思うことにした。
そんな訳で,クラスメイト達の生暖かい眼に見送られながら俺達は教室を出た。直ぐに俺が人の波に攫われそうになってしまい…ていうかこけかけた時,さっと香澄さんが俺の手を掴んで転倒を阻止してくれた。
「ありがとうございます。」
分かっていた事とは言え,想像以上に人の波が激しかった。
香澄さんに助けられないと教室出た瞬間に転倒する黎明生とかいう意味不明な光景を来校者たちに見せつける所だった。
だから自然と出たお礼だったのだけれど…
「…」
「香澄さん?どうしました?」
「え,ううん。何でもない!」
なぜか固まった香澄さんだったけれど,俺が問いかけると途端に嬉しそうにはにかみ俺の手をギュッと握った。
俺の不思議を香澄さんは置いて”行こうどーくん!”と,元気に引っ張っていかれてた。
果たして視覚的な事を一緒に楽しめない俺といて楽しいのかは甚だ疑問だが,そんなものはなんのその色んな教室を見て回った。
「お化け屋敷どうですかー?」
そうして教室を出て3分後位,多分2年生の階に辿り着いた俺達の耳にそんな呼び込みの声が聴こえあれこれ看板を愉しそうに見ていた香澄さんや姉ちゃんはピタリと止まった。
ただ,その理由はお化け屋敷に反応した訳ではなく――
「めーちゃ楽しかったね,沙綾ちゃん」
「う…うん。作り込み凄すぎて心臓が持たないかと思ったけど」
呼び込み中の男性の隣のドアが開き,そこから見知った2人が現れたからだ。
可愛らしい声の関西弁の人は牛込先輩,その話し相手は山吹先輩。
土曜授業が終わって駆け付けてくれたポピパの2人だ。
牛込さんは大のホラー好きだからか,純粋にお化け屋敷を楽しんでいる感が強かったけれど付き添いの山吹先輩は精神が多分摩耗してる。
「りみりんにさーや!ここにいたんだ」
「あ,香澄ちゃん。導志君もこんにちは」
「ちゃんと連れ出せたんだ」
「先輩達こんにちは…連れ出されました」
…なぜか山吹先輩が”ニマニマ”って効果音付きそうなくらい生暖かい声を出したことが気になったけれど,それよりも牛込先輩の言葉の方が香澄さんには地雷だった。
「香澄ちゃんここのお化け屋敷めーちゃ楽しかったからおすすめだよ!」
「えっ?!」
そう聞いた瞬間にガクブル震えだす香澄さん。
如何せん,今普通に手を繋いでいるから割とダイレクトに伝わって来る。
香澄さんは…ホラーとか結構苦手で,そう言う映画を見ると悲鳴をあげまくる。
だいぶ前だけど,お祖母ちゃんに頼まれて蔵でホラー鑑賞会をしていた姉ちゃん達におやつを持って行った時香澄さんの凄まじい悲鳴が鼓膜割れるわって位デカかったのは覚えてる。
そして,牛込先輩も香澄さんがホラー苦手なこと知っているけれど偶にこう,好きなものに対してリミッター外れたらそれも度外視してしまうことがある。
普段は気にかけながらおすすめをしてくれるんだが,それをしなかったって事は相当興奮していておすすめっていうのも本気なのだろう。
悪気なく辛口評価する事が多い牛込先輩にこう言わせるって,本当に高校の文化祭かここ。
「導志君はお化け屋敷とかって大丈夫?」
…なぜ俺に話題を振る,普通に姉ちゃんと香澄さんが行く状況だろこれって思ったんだが
「ど,どーくんはだ…大丈夫?」
そして香澄さんも何故か俺に聞いてくる始末。
ただ,聞かれた事は仕方がない。取り合えずお化け屋敷は大丈夫かどうかをシミュレートしてみよう。
あくまでもここは教室を使ったお化け屋敷,なら障害物も遊園地とかにあるやつと比べたら余りないだろう。
俺は呼び込みしていた男子生徒の先輩に,白杖を見せながら聞いた。
「すいません,床に障害物とかってありますか?」
普通ならネタバレ云々でこんな事を聞くのはご法度なんだろうが,俺の場合を知っているのと知っていないのとでは対応に差が出てくる。
向こうも俺の白杖を見て察してくれたのか,こそこそ話するかの調子で応えてくれた。
「床には設置してないから理不尽に転んだりはしないよ」
びっくりでコケるかもしれないけど,とは言われたがお化け屋敷は元からそんなものだろう。
…そう思っていたが,もう1つ情報が追加された。
「それから,二人一組じゃないと入れないよ」
「ああ,だからおたえがいなかったんか」
姉ちゃんと香澄さんと別れたポピパの3人の内2人はお化け屋敷にいた訳だが,残りの1人である花園先輩はどうやら近くにいないようで,2人一組というルールを聞いて俺も姉ちゃんと同じように納得する。
「うん,見に行きたい所があるからって私達でここに入ったんだ」
「セットとか衣装も凄い仕上がりでね,色んなホラー映画のオマージュがギュッと詰まっていてこれ作った人達きっとかなりのホラーファンだよ!」
牛込先輩,楽しそうだからツッコめないけどそれを聞いた香澄さんのガクブルが激しくなった。
だって牛込さんのその言葉って,リアリティが高いって事を逆説的に証明しているんだもの。
因みに,呼び込みをしていた先輩は”いやーそれほどでもあるよ”と嬉しそうにしていた。
多分文化祭じゃなかったら牛込先輩とそのままホラー談議に入ってた。
「…香澄さん,牛込先輩はこういってますけど無理に入る必要ありませんよ?姉ちゃんもこういうの怖いと思いますし」
「ん?いや,入るとしても香澄と導志だろ」
「なんで?!」
本当に何故だ,眼が視えない俺が行っても視覚的に楽しめないのだから,香澄さんと同じものを共有できる姉ちゃんが行った方が香澄さんだって楽しいだろう。
そう言う考えでの姉ちゃん香澄さんコンビの提案なのだけれど,バッサリとそれを切られて何故か俺が矢面に立った。
「大丈夫だよ導志君,雰囲気だけでもめーちゃ良いお化け屋敷だったから」
そして牛込さんは何故か援護射撃。
いやまあ,視覚的なものを楽しめないから俺が感じるのは大体場の雰囲気なのだが,それを健常者と同じ目線で楽しめるだろうかと思った所。
「ど,どーくんが行くなら…私も行く!」
隣で俺の手を強く握りしめ,もう既に泣き声になっている香澄さんが決心したかのようにそんな事を言ってきて呆気にとられた。
なぜか行くかどうかの選択を俺に委ねられたのだから。
…吊り橋効果みたいなもの狙いで意中の人とお化け屋敷に行く人はいるのだろうが,苦手だって分かりきっているものに付き合わせるのは忍びない。
気がつかないふりも俺には出来ないし,普通に断ろう。
俺は香澄さんの楽しそうな声を聴きたいのであって悲鳴を聞きたい訳じゃない。
「それに…私はどーくんとなら,行ける気がする。」
そう思ったら,香澄さんは小さく手を震わせながらそんな事を言ってきて…可愛いと思った。
一応香澄さんの方が年上だけど,偶に年下のようにも感じる。
つまりなんか保護欲も出てくる。
「無理しなくても良いですよ?」
「だ,大丈夫!どーくんと一緒なら…きっと大丈夫!」
もう既に声が震えているが,彼女なりの勇気を出した言葉なら笑う事は出来ない。
黎明祭最初の体験がお化け屋敷で良いのかとは思うが,彼女が良いなら…俺となら大丈夫と言ってくれた事は素直に嬉しかった。
「じゃあ,行きましょうか」
「うううううん!!」
人間じゃない返し方をされた気がしたが,ともあれ俺は香澄さんの手を引っ張って姉ちゃん達に別れを告げてスタート地点に向かった。
香澄さんが握る手は,入り口に近くなるたびに震えながらもしっかりと握って来る。
本当はというと,俺だって好きな人に手を繋がれていて平常心という訳じゃない。
「どどどどどーくん,手離さないでね?!」
「分かってますよ,香澄さんこそ俺の眼なんですからどっか行かないでくださいね?」
慣れてしまったというのはあるけれど,それでも…優しい彼女の手を握って,心臓がドキドキしているのは…彼女の事が好きだからだと思いながら俺達はお化け屋敷の説明を受けて一歩踏み出した。
——因みに,お化け屋敷に入って5歩位歩いたら早速洗礼を受けて香澄さんの絶叫が俺の鼓膜を破壊した。
☆
香澄の凄まじい悲鳴を聞いて,2人を見送った有咲,沙綾,りみは苦笑いしながらも歩き出した。
3人の話題は当然のように香澄と導志の事,そして沙綾は楽しそうに有咲に言ったのだ。
それはもう,何の前触れも無く
「それにしても,有咲はそんなに香澄と導志君をくっ付けたいんだ」
「は,はぁああ?!そんなんじゃねえし!」
くっ付けるとはそう言うくっ付けるであり,行くところまで行ったら香澄はもしかすると有咲にとっても家族になる関係である。
さっきのやり取りを見ていた沙綾がそう思ってしまう位には,有咲の行動はあの2人を2人きりにする為の芝居にしか見えなかったのである。
「本当かな?だって導志君じゃなくて有咲が香澄と行っても,それか有咲が導志君と行ってもよかったのにわざわざ2人で行ってこいあたりそうとしか思えないけど?」
「うっ…た,偶々だろ。あいつが導志の彼女とかありえねー!」
「でも有咲ちゃん,よく香澄ちゃんと導志君が2人きりになれるようにしてるよね?」
りみの天然なトドメに,有咲はぐっと黙り,見る見るうちに頬を紅潮とさせた。
傍から見れば有咲は,香澄と導志が2人きりになれるように画策したと言っても良い。
その果ての目的は口に出すまいと黙るけれど,沙綾とりみは楽しそうに続けた。
「というより…私,あの2人がまだ付き合っていない事の方がビックリだよ。この前デートしたんでしょ?」
香澄が放課後導志をデートに誘った事は知らない2人だが,当日に香澄がそわそわしているのを見れば何がこれから起きるかなんて大体わかる。
だからてっきり2人はもう付き合い始めたのかと思ったけれど,本人曰く
『えっ?!ど,どーくんと?まだそう言うのじゃないよ。もーさーやってば』
恥ずかしさと乙女心を前面に出している時点で,香澄が導志の事を好いているのは確かなのだが本人がまだ交際していないという。
それを聞いた時沙綾とりみは”どう見ても両思いなのだから早く付き合えばいいのに”とリーダーに思っていた。
ただ,もし交際の障害になるとすればそれは導志の姉,有咲だと思うが…有咲は香澄が導志と一緒にいること自体は許しているし…寧ろ陰ながら手伝っているようにも見える。
その有咲は,デートしたんでしょという確認に少し気まずそうに明後日に顔を反らした。
「したらしいけど…いやその」
「…有咲,もしかして2人の邪魔した?」
気まずそうにした有咲を見て,女の第六感でそう沙綾が聞くと分かりやすくビクッと身体を震わせた。
そして次第に言い訳するかのように言ったのである。
「しょ,しょうがねえだろ?だって2人が羽沢珈琲店にいると思わなかったんだから」
あのデートの日,有咲は蘭と一緒に羽沢珈琲店にやって来て…良い雰囲気になっていた香澄と導志の空気をぶち壊してしまったことがある。
あの後導志の過去語りで忘れがちだったが,間違いなくあの時デートを邪魔してしまったのは自分だと有咲は密かに罪悪感を持っていた。
「そっか,だからさっきは2人で行くように言ったんだね有咲ちゃん」
りみがどことなく楽しそうに,さっきの有咲の行動がその罪滅ぼしだと告げると有咲は余計に恥ずかしそうに唸り声をあげる。
そんな可愛いキーボードリストをにこにこしながら見る2人だったのだった。
と,言う訳で文化祭定番の文化祭デートです!
その中でもなぜかお化け屋敷へと言ってしまう香澄…実はりみの策略だったりそうじゃなかったり…今日は3話連続です。
因みにこれを書いていた時が確かガルパのホラー映画撮影イベント中だったと思います。
では次,お化け屋敷イン導志&香澄です。
レッツラゴー!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話