導志が香澄によって連行された頃,ポピパの4人は合流して文化祭を回っていた。
いつもならここに香澄がいて,おたえと一緒に連れまわしているのだがその香澄が導志とデート中であることで比較的ゆっくりと学校を回っていた。
「にしても,この学校広いね。花咲川も結構大きい方だけどそれ以上かも」
「学食も綺麗で広かったしな。導志は使った事ねえみてえだけど」
「それは仕方がない気もするよ。」
眼が視えない導志が人の多い学食を使うのは色んな意味で大変だ。
「ウサギ小屋はなかったよ,悲しいよ」
「っておたえはそっちかよ」
「でもウサギカフェはあったよ,楽しかった」
因みに,お化け屋敷に入った沙綾とりみと別れたたえは同じ階にある2年のクラスがやっていたウサギカフェなる場所に入っていた。
色んなウサギの写真やグッズに囲まれてお茶をするという場所で,家で20羽もウサギを飼っているたえらしいと言えばらしかったが1人でそこに座ってお茶をしていた有咲たちの気持ちは
”どんな反応すればいいんだこれ”だった。
あの時の有咲のツッコミをしたくてうずうずした顔は,それはそれで面白かったと沙綾達は思っている。
そんな4人は,導志と香澄の関係が進展しているのを祈りながらも楽しんでいた。
ダーツやストラックアウト,クイズ大会や果てはイントロ当てゲームとか実に様々な出し物があった。
さらには教室だけではなく,中庭や校庭でもやっていて午後から来た事もあって到底回りきれるものではなかった。
「そう言えば薫さんは来ているんだっけ?」
「え,薫さん来てるの?!」
沙綾が思い出したかのように先輩の名前を出すと,彼女のファンであるりみが直ぐに反応する。
その反応速度に苦笑しながらも,沙綾が前会った時に行くという話をしていたと教える。
「ここの演劇部,薫先輩も公演を見に行くくらいレベル高いらしいからね。そのせっかくの機会だから勉強の為に行かせてもらおうだってさ」
「私達,明日の方見るからって小さな出し物の方回ってたもんな」
そりゃ会わねえわと納得する有咲。
その時,イベントメーカーのたえがあるものを見つけた。
それは掲示板で,文化祭の出し物についてのチラシが色々張ってある。
それ自体は不思議じゃないのだが,たえが注目したのはその中の一枚。
「皆これ見て。」
「ん?…デュエット大会?」
「しかも…飛び込み参加OK?」
たえが注目したチラシはデュエット大会…カラオケ同好会という一体カラオケ以外に何をするのか分からない同好会が野外ステージで開催している大会だ。
優勝デュエットには地蔵通り商店街で使えるクーポン券1人2000円分が進呈されるそうだ。
ここでカラオケ店の割引券じゃない辺りしっかりと客層は考えたのかもしれない。
しかし,有咲はどことなく嫌な予感がした。
自分達はガールズバンド…言うまでも無く音楽をしているしコーラスとかツインボーカルとかで歌う事も当然ある。
それにカラオケもポピパのメンバーでよく行く。
つまり何が言いたいのかというと
「私達も参加する?」
「しねーよ?!」
たえの当然意識強めな参加表明にすぐさまツッコみつつも却下する有咲。
有咲にしてみれば,ただでさ人前に出ることが苦手でここは弟の通う学校だ。
それに自分自身はお世辞にも歌が上手いとは思っていない有咲は,変なことをして導志に迷惑をかけたくなかった。
「どうして?私達の出番だよ?」
「やらねえ!ていうか,これ時間的にもう参加できねえだろ」
そう言って有咲はチラシの下らへんにある最終受付時間を指さすと,確かに既に受付時間は過ぎてしまっていた。
ミステリアスクールビューティーなたえも,流石にルールである以上しゅんとした様子を見せながらも参加しない事には納得した。
しかし,そこでフォローできるのがこのバンドのお母さん的存在山吹沙綾。
スマホの時間を見て言ったのだ。
「でも時間的に締め始めている出し物もあるし,次が最後になると思うから見に行ってみる?」
「うん!それ良いかも,私達のヒントになることもあるかもしれないし」
「うん!行こう!」
沙綾の提案は,確かに次に行く場所が時間的に最後になる可能性があった。
このチラシに興味を持ったのは本当だし,別に参加する訳ではないのだから良いかと有咲は納得した。
それに,どうせ明日も来るのだ。今日回れなかった分は明日回ればいいというポジティブシンキングで
「しゃあねえな,行くか」
そんな有咲を,沙綾はニコニコと見ていたという。
——因みにだが,有咲は直ぐにはあ?!という羽目になった。なぜなら
「それでは,今日最後のデュエットです!わが校の1年A組の市ヶ谷導志君と,花咲川女子高校2年生の戸山香澄さんです!拍手~!!」
「なんでお前らがそっちにいんだよ?!」
現在進行形の催しだからか,純粋に盛り上がりやすい部類だったからかデュエット大会は好評なようで立見席の方が多い位には盛況だった。
それは別に良い,それ位有咲も覚悟はしていた。
…のだが,来たときには既に最後のデュエットだったらしく”誰だろうね”とかメンバーで話したのが30秒くらい前。
30秒後,野外ステージに立ったのはなんとお昼ごろに別れた導志と香澄だった。
香澄は満面の笑みで観客に手を振って,もう片方の手で導志を導くかのように引っ張っていた。
因みに導志は耳まで真っ赤にしていて,顔に”なぜこうなった”と書いていた。
「なにしてんだ香澄ィ――っ!!」
有咲の絶叫が,観客の波に飲まれていてくのだった。
☆
ああ,姉ちゃんが叫んでいるのが聴こえた。
流石に色んな人の声があるから分かりにくいのが普通なんだろうが,姉の声は生きている内に何億回も聴いているから流石に分かってしまう。
香澄さんや,デュエット大会の司会さんに聴こえたのかは分からないがどうやら姉ちゃんは見ているらしい。
香澄さんは控えの場所で俺とずっと打ち合わせをしていたから,多分偶然だろう。
姉ちゃんがいるって事は山吹先輩や牛込先輩,もしかしたら花園先輩も一緒かもしれないなと現実逃避した。
「お2人とも,飛び入り参加ありがとうございます!戸山香澄さんはPoppin'Partyっていうガールズバンドのギターボーカルとして日本武道館にも立った事があるんです!私見に行きましたよ!」
「わあ!本当ですか?!ありがとうございます!」
それはつい先日あったガールズバンドチャレンジっていう大会の決勝の話だが,まあそれは割愛しておこう。
俺は殆ど関わらなかったしな。
それにしても,流石カラオケ同好会。ガールズバンド時代って言われているおかげもあると思うがあの地域のライブハウスの大会のことも知っているとはな。
「そして,我が校の1年生市ヶ谷導志君は実は結構学校では有名なんですよ!」
「…え,そうなんですか?」
香澄さんのプロフィールの事について話していたのに,いつの間にか俺の話になっただけではなくこの学校で有名だと言われてしまえば流石に反応せざる負えない。
俺学校では何かをやった覚えなんてない。
寧ろ明日やる奴で注目浴びるかどうか位だと思っていたのだ。
「だってそうですよ!悪い意味じゃなくてですね,盲目でありながらプロ試験を邁進し続けているヴァンガードファイターって最近では結構持ちきりですよ。」
うん,さらっと人の抱えているハンディキャップを何人の観客がいるのかも分からない場所で暴露された。
そして,何かに気がついたのか彼女は香澄さんに問いかけた。
「あれ,そう言えば市ヶ谷って…もしかしてPoppin'Partyのキーボードの市ヶ谷有咲さんと同じ…?」
「うん!どーくんは有咲の弟だよ!」
そして香澄さんも俺の個人情報をさらっとばらしていくスタイル。
姉ちゃん程ツッコミの才能がない俺はもう諦めた。
早く音楽かからねえかなー!
だけど,そうは問屋が卸さない。
「だったらお2人はもしかしてお付き合いしているとか?」
きっと好奇心が抑えられなかったのだろう,彼女も女子高生だ。
そう言う年ごろなのは分かる。
分かるけれどズカズカとそんな事を言ってくることに腹を立てたのは悪いのだろうか。
俺の背筋がサーッと冷気を帯びていくのが分かる。
観客にしてもそうだ,黄色い声がいくらか上がったが俺なんかと一緒くたにされた香澄さんに対する不敬だろ。
青春とかなんとか,盛り上がれば何でもいいのか?
あんたらは――自分達さえ楽しめれば良いのか?
仮に付き合っていたとしても,この場はそんな事を聞く場ではない筈だ。
音楽についてではなく,俺達の関係なんて姉の知り合いだけで充分だろうに。
「いい加減に――」
俺だけなら別に好きに勝手に言えばいい。
だけど香澄さんを巻き込んでまである事ない事で場を盛り上げようとするやり方は,許せなかった。
苦言を言いかけた時,俺の手を握っていた香澄さんの力が強まって――
「まだ…違いますよ」
…香澄さんの表情が読めない位,彼女の言葉は凛とした艶やかさを伴って会場に攪拌していった。
その声はやがて会場を静かにさせ,不可思議な空間と時間を作り出した。
さっきまで俺達の関係に興味津々だった司会の人も…固まってしまったかのように言葉を発しなかった。
そして,香澄さんの言葉に俺も毒気を抜かれたように押し黙った。
「ふふっ,じゃあそろそろ歌いたいな」
そしてそんな空気にした香澄さんは,愉しそうに笑い司会の人に促す事で俺も意識を戻した。
観客もそうだったようで,次第に歓声が戻って行く。
一瞬だけ,この場が違う異空間にでもなってしまったのかと思ったがそうではなかったらしい。
「あ,はい!OK…?うん,準備が出来たみたいなので本日最後の参加者,市ヶ谷導志君と戸山香澄さんのデュエットです!意気込みのあとどうぞ!」
そう言われて,香澄さんは俺の手を強く握った後にそっと離した。
だけど,手だけじゃない何かに繋がれたパスを…俺は確かに感じていた。
正直言って香澄さんと歌った事は無いし,練習すらもやっていないからどのくらいやれるか不安だったけれど――今なら何でもできる気がした。
先端を切るのは香澄さんだ。
「黎明祭1日目,盛り上がってますか!」
待て,それ普通にバンドのMCの始め方だそれ。
「「わぁああああ!!」」
そしてそれに乗る観客達,さっきの冷えた空気が嘘みたいに変貌して改めて香澄さんのカリスマ性を目の当たりにした。
まあ,冷えた空気にしたのも香澄さんだからどちらかというと場の掌握が上手いと褒めるべきなのか?
「私も今日はすっごく楽しかったです!皆,まだノレますかーっ!!」
香澄さん得意の煽り,ここライブハウスじゃない筈だけど観客たちの跳ねたりする地面の衝撃がここにまで来るかのようだった。
彼女の言葉に歓声で返され,期待が高まるのを感じる。
俺は普段ステージを見守る側の人間だ。
だからこうしていろんな人間の視線を受ける事は殆どない。
だけど…なるほど,確かに…これは良いものなのかもな。
多くの人達が,ステージにいる俺達だけを見る。
ただ一つの歌を聴くために,俺達はそれを聴かせるために。
楽しい時間を共有する為に。
「どーくんも何か言ってよ~!」
再び温める場を見て,黙っていた俺に香澄さんがパスしてくる。
普段はPAしている場所から聴いている香澄さんのMCだが,俺には彼女のようなMCは出来ない。
だから,ただ言うべき事だけを言う事にした。
そのイメージは,やっぱり香澄さんのMCが胸の中にあった。
「…俺にとっては,訳あって実質初めての文化祭でした。俺は眼が視えませんから…正直文化祭自体乗り気じゃなかった。ぶっちゃけて言うなら一度休んでサボりたいと思う位には。」
それは紛れもない当時の…演劇に決まってしまった時の俺の本心だ。
「けど,沢山の人に支えられて俺はこの文化祭を楽しむことが出来ました。眼が視えなくても,楽しいものは楽しんだと教えてくれた人達がいた。俺を教室から引っ張り出してくれた人がいた。」
これも俺の本心だ。
だいぶ面倒臭い性格をしていたであろう俺を,過去の後悔や罪悪感があったとは言えカードファイトで殴り合った園田。
そんな彼に引っ張られるように,俺の周りにいてくれたクラスメイト達。
中学の時との差に俺自身がこれが夢なんかじゃないかと思う日々を過ごし…それが夢ではないと文化祭を過ごして思った。
そして…今日教室に引き籠るつもりでいた俺を引っ張り出してくれた香澄さん。
今日の楽しかった思い出は,俺だけじゃきっといつもよりも少し騒がしい日程度の事しか考えられなかった。
けど,今は違うんだ。
「誰が欠けても,俺は俺じゃいられなかった。だから今少しだけ,この瞬間を”楽しい”ものにして恩を返す。香澄さん。」
「どーくん?」
「準備は良いですか?」
「…!うん!」
そうして,香澄さんもマイクを持ったのを感じた。
俺は白杖を持つ手を離し,代わりにマイクを握る。
そして打ち合わせ通りに,俺達は同時に曲名を言った。
「聴いてください」
――キセキ
俺達が選んだ曲は,某有名ソングの1つ。
奇跡とも軌跡とも言い換えられる言葉で,これまでの出来事を表すにはこれ以上ない位ピッタリなカバーソングだった。
割と昔からあって,小学校でも大概習う曲というのもあって香澄さんと相談してパート分けをした。
だけど,不安な気持ちがないと言えば嘘になる。
なぜなら俺と香澄さんは,実は一緒に歌うのはこの瞬間が初めてだったからだ。
当日枠に参加したのだから当然練習なんてしていないし,ぶっつけ本番とか言う俺が一番嫌いなパターンだ。
けれど――杞憂だったな
歌う時の香澄さんの癖は知っているし,タイミングとかも大体分かる。
なら俺がするべきなのは香澄さんを中心としたコーラスにユニゾンだ。
というか,その方が下手に2人で合わせるよりも確実だと俺が香澄さんに言った。
『そう言う訳なので,香澄さんは俺のパートを侵害しない程度に自由に歌ってください。俺が合わせます』
『うん!分かった!』
香澄さんの無邪気な肯定,ほんとに分かってんのかなと思ったけれど普通に大丈夫だった。
香澄さんは”楽しい”の極致を感じる歌声で,偶に音程とかも外しているのが気にならない位の歌い方だ。
それが香澄さんらしく,いつも香澄さんを支えているのは姉ちゃん達だ。
だけど,今は違う。
カラオケの伴奏なのだから,今この瞬間俺達の歌を聴いてくれている人達にもっと聴いてもらう為には声が必要だ。
香澄さんの綺麗な歌声を邪魔せず,この瞬間にしか出せないハーモニーを出せるのは俺だけだ。
そして見せ場のサビ,歌いながら香澄さんの歌声のテンションを再確認して――一気に重ねた。
――
2人寄り添って歩いて 永久の愛の形にして
いつまでも君の横で 笑っていたいくて
——
ぶわっと,会場が湧いたのを感じた。
鳥肌と,俺と香澄さんだけが起こせるユニゾンを間違いなく刻み付けられたと確信した。
手ごたえと,香澄さんとのハモリが想像以上にハマったんだ。
そこには,俺と香澄さんが初めて一緒に歌った事なんてきっと感じさせないものがあったはずだと思う。
だけど,別にそんなのは不思議なことではない。
俺は確かにポピパの活動にそれほど関わる事はしてこなかったけれど,香澄さんの歌は何度も聴いているしPAするようになってから彼女の溜めの癖とかも分かる。
逆に,そこまで分かっているのに合わせられないなんて事あるはずがない。
俺と香澄さんは,1つ1つの歌声を大事に重ねるように歌い――無事,ラスサビを乗り越え…凄まじいまでの歓声と喝采を身に受けたのだった。
という訳で,黎明祭1の盛り上がりを生みましたとさ。
2人が歌ったのはGREEENさんのキセキです。歌詞使ったので歌詞コード載せてます。
今の時代の子供達知ってんのかなこの曲と思いながら歌わせてました。
そして香澄がメインボーカルとして立たせて,導志は際立たせるための歌い方をした訳です。音しか聴こえないので,音を合わせるのは元々の才能も合わさって天才です。
ではまた次回!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話