星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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祭りのあと

 黎明祭1日目のアトラクションの1つ,カラオケ同好会によるデュエット大会。

 事前応募をして来たペアも,当日参加という枠もあり総勢23ペアの中で観客の投票システムにより順位が決まるというものだ。

 投票のシステムは,10段階投票で1~10の点数をステージ上やチラシにあるQRコードを読み込んだ先にあるページに打ち込んでその平均得点で決まるという仕組みである。

 純粋にカラオケの採点機能でも良かったはずだが,同好会の人が”点数が全てじゃない!観客を沸かせた方が点数より凄いに決まっている!”という,カラオケ採点システムを半否定しこのシステムが取られた。

 

 

  ——集計の結果,第1回デュエット大会優勝は…エントリーナンバー23番!市ヶ谷導志君と,戸山香澄さんです!拍手をお願いします!

 

 

 そして――導志と香澄の投票時間が終わり,こうしてさらりとデュエット大会の優勝者が…つまり導志たちに決まったのだった。

 

 

 ☆

 

 

 想定外に想定外を重ねたみたいなデュエット大会は無事に終わりを告げ,観客からの歓声と祝福を受けながら俺と香澄さんはステージを下りた。

 

「楽しかったねどーくん!」

 

 そして,香澄さんが開口一番に言ってきたのは優勝したことではなく歌うことそのものの感情だった。

 普通なら優勝の喜びを露にする所なのに,ここで”楽しかった”って出る辺り本当に歌う事が好きなんだなと思う。

 …まあ,そんな彼女だからこそ俺も笑みを浮かべてしまう訳だが。

 

「はい,そうですね。ちゃんと出来て良かった」

 

 確かに急なデュエットだったけれど,最初に思っていたよりは香澄さんの声に合わせられたし…明日の予行には丁度良かっただろう。

 否…思っていたよりもじゃなくて,香澄さんに引き寄せられたところはあったから合わせられるのは当然だったかもしれない。

 それに…

 

「俺も,香澄さんと歌うのは楽しかったです。いつも聴いている側だったので」

「——っ!」

 

 そう,普段は香澄さんの演奏や歌を聴いている側だったけれど今日は何の因果か共に歌を歌ったことは俺にとっても良い経験だった。

 他者と一緒に歌う事なんて合唱コンクール以外では初めてだったからな。

 重ね合わせユニゾンする瞬間,1人で歌う時とは違う高揚感が確かにあった。

 

 俺の言葉を聴いた香澄さんは,どことなく嬉しそうに空気を吸い込み――俺の手をまた握って来た。

 

「そうだよね!じゃあまた今度一緒に歌おうよ!あ,カラオケ行こうそうしよう!」

 

 これまで,香澄さんにカラオケに行こうと誘われたこと自体は何度かあった。

 だけど大体ポピパかガールズバンドパーティーの誰かと一緒で,女性に囲まれるのは何となく敷居が高くて俺が一緒に行く事は殆どない。

 

 香澄さんがどうして俺が歌う事がそれなりに得意なのか知っているのは,去年どっかのタイミングで自分の部屋で勉強の息抜きに歌った時に姉ちゃんの部屋に集まっていたポピパの人達に聴かれたからだ。

 あんときはめちゃ恥ずかしかったな。いきなり香澄さんが部屋に入って来たんだもの。

 

 そんな事があったけれど,俺は受験生なのでと言い訳して誘いを断り続けたのだ。

 

「え,いやカラオケは…」

「むー!今日は一緒に歌ってくれたじゃん!」

 

 香澄さんが”私怒ってる!”とでもいうかのように言ってくるが,正直余り怖くない。

 

「いや…今日はほらお祭りなので」

「お祭りなら一緒に歌ってくれるの?お祭りだけ?」

 

 思っていた以上に香澄さんが詰め詰めでタジタジしてしまう。

 いや…一緒に歌いたいと思ってくれるのは凄く嬉しいけれど,それで”はい”って言ってしまったら絶対にいつかどこかのタイミングで唐突に言ってきそう。

 …ん?

 別にそれならいいのか…?

 

「…まあ,機会があれば。」

 

 結局,彼女を落胆させたくなくて良いようにも悪いようにも聞こえる返し方をしてしまった。

 だけど香澄さんにはそれで十分だったようだ。

 

「うん!絶対だよ!」

 

 俺がいくら暗くなってしまっても,香澄さんはその天性の明るさで俺を照らしてくれる。

 抱え込んでしまった俺の罪悪感なんて吹き飛ばしてしまうかのような笑顔が,俺の暗闇の先にあるのだと思うと胸が暖かくなる。

 ほんと,凄いよあなたは。

 その時

 

 ——あと30分で黎明祭1日目が終了します。ご来場,まことにありがとうございます。明日の2日目も楽しんでください。

 

 学校中にあるスピーカーから文化祭実行委員の誰かの放送がかかり,もう1日目が終わるのだと思うと…楽しかったなと思うと同時に残念に思う気持ちもあった。

 文化祭…俺にとっては憂鬱な学校行事だった筈なのに,一緒にいる人達がおかげでこんなにも楽しむことが出来るのかとその差に驚くばかりだ。

 クラスメイト,香澄さん,ガールズバンドパーティーの人達に姉ちゃん。

 

 一昨年あたりの俺が今の俺を見たらどう思うんだろうか…羨ましがるのは何となく分かる。俺の事だからな。

 でも,なにより…香澄さんみたいな素敵な人と一緒に歌う事が出来たことの方が俺にとっては僥倖だったというのは分かる。

 その機会はいくらでもあったはずだけど,…今だって思っている,ここにいる香澄さんの優しさがいつか手からすり抜けてしまうんじゃないかって。

 そんな時が来てしまったら,きっと今日の思い出が俺を苦しめる事になる。

 

 …悠馬が,俺の前からいなくなってしまった時のような喪失感は――もう嫌だったんだ。

 

「どーくん?」

「…何でもないです,香澄さん俺は教室戻りますね」

「うん,分かった。」

 

 香澄さんは,何かを言いたそうにしていたけれどそれを飲み込んでくれた。

 手を握ってくれたか弱い彼女の手をもう一度握り,離した。

 

「じゃあ,また」

「うん」

 

 そう言って俺は踵を返し,教室に戻った。

 

 

 ☆

 

 

 彼が見せたどこか苦しそうな顔の真意を…私は聞くことが出来ずに教室に戻るどーくんの背中を見送る。

 また…私は,理由を聞かずに今の関係が壊れることが怖くて見逃して意味も無く胸がギュッと締め付けられる。

 本当は”どうしたの?”って聞きたいのに…いつもならそうしているのにどーくんが相手だとそうしたくない。

 ああ…でも――

 

「楽しかったな」

 

 私は手元にあるデュエット大会の優勝賞品の地蔵通り商店街のクーポン券を見て,次に遠ざかる彼の背中を見る。

 どーくんはまた一緒に歌ってくれるって約束をしてくれた。

 今の私は,それだけで十分だった。

 




という訳で,カラオケ大会のエピローグです。
このクーポン券でまた何かお話を作ろう。

では今日は2話投稿です!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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