いつもの導志目線は最初だけです。
では!
黎明祭1日目が終了に近づいているからか,色々な人の声が疲労感と同時にどこか達成感に満ちているものになっているのを聴きながら校舎へと歩いていたんだが,その途中で俺をあそこに送り込んだ張本人が声をかけて来た。
「導志」
どことなく愉しそうにしているが,まんまとこいつの策にハマった事もあり正直少し鬱憤が溜まっていたので怒気を込めながら名前を呼んだ。
「おう園田。」
「なんか怒ってる?!」
「お前,俺が緊張とかで歌えなかったらどうするつもりだったんだこら」
園田がデュエット大会に俺を送り込んだ理由を,俺はこいつに大会の存在を教えられた時点で大体察していた。
俺達のチラシには,音楽と舞台の融合的な宣伝文句も記されているらしいがぶっちゃけ1クラスが作った舞台の注目なんて,演劇部のそれには遠く及ばない。
歌に関してもそう,バンドみたいに生の音を使う訳でもないから面白みも少なければ歌う人間が大した事なかったらわざわざ行こうとも思わない。
そして,その歌や演技のレベルが未知数の中で演劇部の公演が終わった2日目にやる俺達の舞台を見に来る人間は少ないのではないかという不安があった。
じゃあ,もし前日にその目玉の1つである歌の方のレベルを大勢の人達の前で示す事が出来ていたら?
少なくとも,これまでの宣伝よりも興味が惹かれる人間が増えて結果的に舞台を見に来てくれる人達は増えるだろうという考えだったのは想像に難くない。
ただし,それは観客の想像を超える歌を届けることが出来た場合の話だ。
俺が無様を晒したら逆効果だ。
「でもちゃんと歌えていたじゃねえか。いや想像以上でビックリしたよ。あと,ちゃんと分かっているから宣伝してくれたんだろ?」
茶目っ気たっぷりにウインクしているのがありありとイメージ出来る。
彼の言う通り,そんなのはこいつによってデュエット大会の存在を知らされた時点で分かっていた。
まあ,だからと言ってはなんだが…優勝者インタビューの時にちゃっかり明日の舞台については宣伝しておいた。
「はぁ…分かってなかったらどうするつもりだったんだよ」
「その時は俺達が宣伝してたさ」
「抜け目ねえな,ていうかサッカー部の方はもう良いのか?」
悪びれる様子も無いのを見て,何かを諦めた俺は彼のサッカー部での出し物について聞いた。
「ああ,あと片付けは先輩達がやってくれるって。今日ほぼ1日いてくれたからだと」
「朝から行ってたもんな」
そんな他愛のない話をしながら,俺達は教室に戻って行くのだった。
☆
彼の事が気になり始めたのは,いつの頃だったかな。
最初は,なんだかすごい人だなって思ってた。
盲目の事じゃなくて,彼の容姿が凄く印象的だったんだと思う。
左眼の縦一文字の切り傷,偶に服の隙間に垣間見る傷の数,そして綺麗な金色の髪。
私が見て来たどんな人よりもワイルドで,カッコいいなって思ったのが最初。
そんな彼が盲目だと気がついたのは,彼が園田君に手を引かれたり鞄を引っかける場所を教えられている時だった。
それを視た私は,彼の前の席だったのもあって”普通”ではない事情を抱えた彼が少し怖くもあった。
けれど,眼が視えないのに他の人達と同じような生活を送ることは凄く大変な筈なのに,彼は…導志君はその事に文句の1つも言わずに淡々と受け入れて学校生活を送ってた。
何度も机や壁,ドアにぶつかったりする度に痛々しかったけれど,園田君含めた人たちに支えられながら努力をし続ける。
そんな彼から眼が離せなくなって,いつしか私もお節介を焼くようになった。
助けられる事を導志君は余りよく思っていないようだったし,実際園田君が引き出してくれた本音は彼の優しさが故の拒絶だったのは知っている。
だから導志君のそんな考えは見ないふりをして,彼のヒロインになってまで彼と一緒にいたいって思った。
その気持ちがなんなのか,私はもう分かっていた。
思えば…きっと,再会した時から私は貴方に釘付けだったんだと思う。
『姉ちゃん!』
ずっと前,私が小学3年生の時…たまたま懸賞で当たった当時の宇宙科学研究所の見学ツアーで出会った男の子。
きっと彼は覚えていないけど,お父さんが急な仕事で置いて行かれた私に一緒に行こうって誘ってくれたことが凄く嬉しかったのを覚えてる。
そして…何かの実験の時に失敗して私とお姉さんを巻き込むようにして庇ってくれた事も…その後の光の衝撃からも,彼が私を守ってくれた事も覚えてた。
名前なんて聞いていなかったけれど,私はあれ以来彼に会う事なく気がついたら救急車の中にいて
『市ヶ谷導志です』
そう…私が彼に釘付けになったのはきっと,その時の少年が彼だと無意識に思い出して――あの日…勇敢だった彼に恋焦がれたのを身体が思い出したからだった。
彼はお姉さんを守るためだったって言った。
だけど…忘れないで欲しい,あの時君のおかげで助かったのは――私もなんだって。
それを伝えることは…まだ出来てないけど。
「ふぅ…無事に終わってよかった」
演劇部の後片付けを手伝った
1年生なのに,有難く役に推薦された私だったけれど――どうしても導志君と一緒に舞台に立ちたくて…彼の在り方を近くで見たくてその推薦をお断りした。
きっと他の1年生の部員の子たちからはどうして?って思われるけれど,導志君が来年も演劇をするとは限らないし…なによりチャンスを逃したくなかった。
「先輩達凄くかっこよかったなぁ」
だけど,推薦された役を蹴った事に罪悪感はあったから舞台当日のお手伝いをする事で先輩達への感謝の意にした。
今年最後の舞台の先輩もいて,流石に長年のノウハウと技術を継承している人が多くて小道具や大道具の作りは私達のものとはレベルが違っていて勉強になる事が多かった。
だけど,同時に明日の私達のクラスの舞台も楽しみになった。
…けれど,観客動員数は正直不安かな。
演劇部の舞台では,ありがたいことにほぼ満員御礼だったけれど素人が多いクラス発表の領域な私達の舞台にどれだけお客さんが集まってくれるかは…凄く微妙。
園田君や神田さんもあれこれと宣伝はしているけれど,文化祭最後の演目って事は一番校内に人がいない時間でもある。
このままじゃ…園田君の言うグランプリは厳しいっていうのは皆の共通認識だった。
「…?なんだろう?」
そうして1日目の片づけを始めている生徒達の合間を縫いながら教室に向かってると,気になるワードが反対側から聴こえて来た。
そこにいたのは多分2年生の先輩が2人,どこか興奮したように会話していた。
「最後の2人,凄い良かったよね!」
「うん!2人の声が合わさった時のハーモニー,鳥肌が立ちっぱなしだった」
「私片方は学校で見たことあるよ」
「私だってあるよ?というか,あの子結構目立つもんね。白杖持ってるからさ」
「——っ?」
すれ違いざま,白杖を持っている学校で見かける可能性がある人なんて私の中で1人しかいない。
私は思わず振り返って,遠ざかる2人の会話に耳を澄ませて――
「あの子の舞台って明日の最後だっけ?シフト空いてるから行ってみようかな?」
「私も行ってみようかな,プロ並みに歌上手かったよね」
…なぜか明日の舞台について話題に上がっていて,私の知らない所で盛り上がっていた。
私ははやる気持ちを抑えながら,早歩きで教室に向かった。
一体なにが起きたんだろうって思いながら教室に来たら,反対の廊下から導志君と園田君が仲良さそうにやってきた所だった。
「導志君,園田君!」
「…枳殻さんか?」
導志君は私の声を聴いて一瞬考えたように沈黙し,ちゃんと私の名前を呼んでくれた。
それだけの事なのに,私の胸は高鳴りを覚えて喜色感じる。
だって,声だけで私だって分かるのは…それ位私の事を身近に感じてくれているって事だから。
「うん,導志君今日何かやった?」
「…園田,なにかってどれの事だと思う?」
「俺に聞くのかよ,十中八九デュエット大会の事だろ」
デュエット…大会?
そう言えば掲示板にそんな催しがあった気がする。
午前中は出し物を回って,午後は演劇部のお手伝いをしていたから直接は見ていないけれど…もしかして
「え,導志君が出たの?園田君と?」
意外な気持ちが抑えられずに隣にいる園田君を見る。
園田君の歌は…カラオケ大会の時に聴いたけれどお世辞にもうまいわけではなかった。
だけど場を盛り上げるって意味ではよかったけれど,導志君とのデュエットでハーモニーでって言われてもイマイチピンとこない。
導志君なら低音も高音もお手の物だったけれど,地声の園田君じゃ…あんな反応にならない気がする。
だけど,導志君はくすりと柔らかく微笑んで園田君はどことなく拗ねたように明後日の方に顔を背けた。
「違うよ,俺は違う人と歌った。まあ,園田の策略ありきなのは否定しないけど」
「俺が何か企んでるみたいな言い方辞めてくれね?!」
「無理,香澄さんを巻き込んだ時点でギルティ」
そう言った瞬間…私は頭を鈍器で殴られたかのように立ちすくんでしまった。
余りの衝撃に…なんて言葉を零すのが正解なのか分からなかった。
…分かってた事だった,導志君と初めて舞台練習した時に導志君には好きな人がいるんだって事は。
その日は,頭が上手く働かなくなってしまって導志君に怪しまれていないかが不安だったけど,うまく解散出来た。
だけど…つい
『好きだったよ,導志君』
色んな人がいる駅内で,聞こえないと分かっていたからかな…そう言って私はこの恋心をしまおうって決めた。
導志君の友達として,演劇を手伝おうって。
そう思っていたのに――
『枳殻さんここだけど――』
『枳殻さんあの台詞って――』
『枳殻さん上手く出来てた?』
二人っきりで練習するたび,力を付けていく導志君に…ダメだって分かっているのに彼を想う気持ちが留められなかった。
寧ろ,届かないって分かってしまったからこそ彼の事を愛おしく感じて…どんどん好きになるのが止められなかった。
彼を支える為にって言い訳をして腕を掴んで見たり,手を握ったりしても…彼の反応は余り変わらなかった。
私は恥ずかしくて焼け死んでしまいそうなのに,彼は”ありがとう”と口にして何事も無かったかのように歩き始める。
だけど――
(どうして…そんな優しい眼するの?私には…そんな眼を見せてくれたことなんて無かったのに)
香澄さん――多分,導志君のお姉さんのバンドのリーダーの名前,その名前を言う時の導志君は…今まで見たことも無い位優しくて想っている眼をしてた。
そして…きっとその香澄さんとデュエットしたんだって否が応でも知らしめて来たんだ。
「でも戸山さんはバチクソ喜んでたじゃねえかよ?!」
「香澄さんを焚きつければ俺も行くと読んだからだろそりゃ」
「…まあ,結果オーライって事で!」
「あはは,2人とも仲いーね」
ようやく絞り出した言葉は,そんなものだった。
感情なんて最低限しか込めてない。
私は…分かっていた筈の失恋から立ち直れないでいた。
そうして,私達は教室の中に入ると殆どのクラスメイト達も帰って来ていて…導志君のデュエット大会の事がもう知れ渡っていて――というよりも,見てスマホで撮っていた人もいた。
私は…本当はみたくないけれど,優姫ちゃんに見せられて…私が見たことも無い表情で戸山さんと仲睦まじく歌声を重ねる彼を見てしまった。
心臓が鷲掴みされてしまったんじゃないかってくらい息苦しくなって,たまらず逃げ出したくなってしまった。
それでも何とか耐える事が出来たのは,導志君の前だったから。
彼は舞台の先生として,私を慕ってくれた。
そんな私が恋慕の情で接していたなんて分かると,きっと困らせるって分かってたから。
「じゃあ今日は各自ゆっくり休んで,明日最高の舞台にしようぜ!」
「「イエエエエエエイ!!」」
気がついたら,もうホームルームが終わっていて園田君が明日の事で盛り上げると,男の子たちがビックリするくらいのハイテンションで拳を掲げてた。
深川君でさえ小さく拳を挙げてるんだから,この短時間で色々なことがクラスで変わった気がする。
だけど,きっと一番変わったのは――
「枳殻さん」
後ろから,この準備期間中に何度も呼ばれた名前。
後ろの席の導志君に私は顔を向ける。
きっと私の表情はあまり褒められたものじゃない。期待と不安が織り交ざった表情じゃなくて…自分でもきっとよく分からない表情になっているのは分かってたから。
それでも顔を向けられたのは,皮肉にも彼の眼が視えないって知っているからだった。
「なーに導志君?」
「…明日,良い舞台にしようね」
彼が自分からそう言ってくれることは珍しかった。
彼が鼓舞する言葉を言う時,大概が自分に向けての言葉で私や他の人達に向けて言う事は殆どなかった。
どうしてなのかなって思う事はあるけれど,それはそれで構わなかった。
自分の事で一所懸命な彼らしいと思ってたから。
導志君の表情は良くも悪くもわかりやすくて,きっと表情を取り繕う事があの運命の日から少なくなったからだと思う。
だから…彼の表情は大体その時の気持ちを如実に表している。
今の表情は柔らかく微笑み,明日の事で不安でありながらも…同時にワクワクしている感じの表情だった。
演劇の練習を始めた時は,不安と恐怖しかなかった表情なのに…今はそんな顔もするようになってくれた事にそこはかとなく嬉しさを感じる。
でも…戸山さんに見せてくれたような唯一無二じゃない。
「うん,頑張ろうね。」
なんとか絞り出した言葉,導志君に怪しまれないですんだかな?
お疲れさまでした!
という訳で,後半は初めての枳殻視点のお話です!
枳殻→導志…知ってたって人多そう。絶秒な伏線の張り方誰か教えてください。
それに伴って,過去に導志が庇ったもう1人の女の子の存在が枳殻という事を明らかにしました。
香澄じゃないんかい!って思われそうですが,香澄にしたら香澄の性格がたぶん原作改変レベルで変わってしまうので(奥手な時点でとか言わない)違います。
ではまた明日!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話