星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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こんばんわ!
前回普通に4話とか言ってましたがこっちが本当の4話です。
導志の文化祭編です!導志のキャラをここから掘り下げられたらと思っています。
導志の学校の話なので,オリキャラクラスメイト達が登場します。
あとがきに設定として名前羅列しています。よくバンドリオリ主ものは何故か女子高に男子生徒入ってたりするのですが,別の学校だから出来る事もあるという事で普通に別の学校です。

では!


文化祭編 
過去への後悔


 9月も終わりが近づいて,もう少しで中間考査も見据えないといけない今日この頃。

 学校では生徒達がどこかソワソワしているような…なにか楽しみにしているような非日常の空気がありありと俺の肌から感じていた。

 俺にはクラスメイト達がどんな雰囲気になっているのかは見る事が出来ないが,どこか声が上ずっている人,緊張で少し声が小さくなってしまっている人…色んな人がいる。

 ただ,彼,彼女達がそうなっている原因は皆一緒だ。

 時間はホームルーム,ざわざわとした空気を担任の教師が沈めると前の教卓へ誰かが歩み寄った。

 多分,彼女は目の前の生徒達をぐるっと見渡して厳かに告げた。

 

「それでは,第1回黎明祭クラス企画会議を始めます!」

 

 彼女の…北村学級委員長の宣言によってクラスメイト達は”わー!”と声をあげる。

 知らない人間の為に説明しておくと,黎明祭はこの黎明学園の文化祭の名前で5月くらいに文化祭を行う姉ちゃん達花咲川女子学園と違って,黎明学園は秋になるこの時期に行われる。

 寧ろ俺的には花咲川の時期の方がビックリなのは言うまでもない。

 

 閑話休題

 

 学級委員長が先ずしたのは,文化祭実行委員とそのサブの決定だった。まあ当然だが,俺はそういうまとめ役には向かない。もしやったとしても俺はサブだろうしそもそも俺はその選ばれる事すらもないだろうとタカを括っていた。

 実際誰も俺にそんな役目を期待することなく,鮮やかに実行委員には先日俺と話をしてくれた園田と,サブには神田がつくことで決定した。

 俺は盛り上がるクラスメイト達を他所に,少し憂鬱を隠せなかった。

 

 少し想像してもらえると分かってもらえるが,基本的に人間ってのは眼が視える事を前提に物事を立てている。だから眼が視えない人についての想像力が欠如している事が多い。

 だから文化祭で出し物をする際の割り振りもまあ当たり前のように眼が視える人なら出来る事を平然と俺にも要求してくる。

 何が言いたいのかというと,俺が文化祭の準備に参加する際出来る事と出来ない事の差が激しく,基本的に誰かついてもらわないとまともな作業がまあ出来ないわけよ。

 

 中学ではもはや俺に誰も仕事を振らなかったという事もあって,文化祭というワードもはやトラウマになってる。

 中学の3年間,公立の中学校だったので屋台を出すような出し物ではなく全クラス演劇だったのだが…役者は基本的に立候補式で俺に回る事は無かった。というか立候補しなかった。

 で,役者以外の人間はというと道具係が殆どだ。一応脚本係とかもいたが大体そう言うのをやる人間ってのは自己顕示欲が強い人間が多いので直ぐに目立ちたがり屋(偏見)の男子生徒がやっていた。

 そんな訳で,当時俺は道具の制作係だったのだが…そもそも眼が視えないのだから完成したものをイメージ出来ないし,俺に道具の説明の仕方をされるとき眼が視えない言ってるのになぜか「ここをこうして~」とか教える気あんのかって教え方だった。

 努力はしたが,まともな道具を作れなかった俺は実質戦力外通告をされ当時のクラスの出し物に参加する事は許されなかった。

 

 ぶっちゃけ文化祭において俺は無能も良い所だというのが客観的な事実だった。

 俺は今年,どんな仕事を充てられるのか…寧ろ戦力外通告されてしまうのだろうかと内心ビクビクしながら場を見守るならぬ聴き守っていた。

 

「じゃあ今から出し物を決めます!なにか案がある人いますか!」

 

 園田が皆の衆に聴くと,テンション高いクラスメイト達がハイハイ!と手を挙げるのが分かった。

 眼が視えない反動で肌の感触や聴覚,その他視覚以外の感覚は敏感になっているからサバンナの人もビックリな感覚過敏でどの人が手を挙げているとかは何となく掴める。

 偶に感覚だけで言えばドラゴン〇-ルの世界に生きてるって言われる。んなあほな。

 

 因みにだが,個人的な要望としては屋台の方が有難い。どうしてかって言うと,屋台であれば呼び込みがあるので基本的に同じ場所で声を出すだけで俺は役割を持てるからだ。

 元々,香澄さんの影響で歌うこと自体はもう一度始めたのもあって肺活量自体はあるし意外に思うかもしれないがヴァンガードファイトも体力が必要なので自宅で出来るトレーニングは続けている。

 だから体力にはそれなりに自信がある。

 

 ただし,演技になった瞬間もれなく俺はトラウマ再発して何が出来るのか絶望してしまう事になる。

 当時のクラスメイト達の冷たい空気といじめは,今でも俺の芯に残ってしまっている。

 今のクラスメイト達は,少しだけ大人に近づいたからか,或いは単純に人が良いのか知らないが俺に対する態度は優しいものだ。園田は典型例で,眼が視えない俺のサポートを入学した時から手伝ってくれて頭が上がらない。

 神田さんも,一時期席が隣だった時にヴァンガードの話をしてくれたり授業の黒板にしか書かれていないキーワードを教えてくれたり…他の人達も俺を珍しいとは思っているけど中学時代程俺を邪険にしている訳じゃない。

 

 それが…もし演劇になってしまったら――同じことを繰り返してしまうんじゃないかって

 

『あのさ,市ヶ谷もう何もしなくても良いよ』

 

 ふと,当時の事を思い出した。

 中学では3年間,同じクラスだった人で俺を準備を含めた演劇から隔離した生徒の言葉。

 言葉ってのは割と感情をダイレクトに伝えてくる。決まって彼自身はプライドが高いのか知らないが,自分が作るものには手を出させないって感じの人間だった。

 言い放つ言葉自体は棘が無いように見えるが,その実”余計なことをするな”って言うのが彼の本音なのだろう。

 だから,俺が戦力外通告されるのはある意味必然だったのかもしれない。

 

 そうして,その戦力外通告を理由に俺は中学3年間いじめられた。

 

 別に,俺が足手纏いなのは俺自身が一番分かっていた。

 裁縫をしようにも,針が自分に刺さるしゆっくりやろうにも時間がかかりまくる。

 何かを張り付ける作業をするにしても,俺はその貼り付ける場所を指示されてもどこに張り付けるのかが視えないのだから間違った場所に貼って呆れられて

 組み立てる作業も出来ない,色塗りなんて出来る訳も無く…きっと周りは俺の事を無能だと思ってたんだろうなって思ってた。

 

 

 実際無能なんだが…認めるのと言われるのは違うんだ。

 自分で慰めるために,自分を無能と自己評価するのはある意味楽になる為の”逃げ”だけど…認められるのは”トドメ”なんだ。

 

 

「はい!演劇がやりたいです!!」

 

 

 ああ,終わったわ

 

 ☆

 同日夜

 

「どーくん,どうしたの?」

 

 いつの間にか時間は過ぎ去っていて夜。

 俺は憂鬱とした気分を誤魔化せずに帰宅すると,丁度ポピパの練習が終わった所なのか姉ちゃん達が出てきた所だった。

 それでまあ,いつも通りを心掛けたのだがなぜか香澄さんにはあっさりと看破されてしまう始末。

 俺今自分がどんな表情をしているのかもう分からなくなったから,いつもは表情を変えないようにしてるんだけどどうしてか香澄さんには毎度バレる。

 なんで?

 

「いやなんでもないです…よ?」

 

 誤魔化せたかは自信全くないが,香澄さんには何も関係がない事も本当だったので俺はそう言った。

 けれど,次の瞬間にはなぜか呆れたような雰囲気が俺の肌を掠め取った。この雰囲気は…姉ちゃんの方か?

 で,残りの人は苦笑いみたいな感じ。

 

「どーくんがなんでもないって言う時,なにかあるよね?」

 

 そして,そんな鋭い事を言われるとは思わなかった俺は心臓が跳ね上がったのを感じた。

 香澄さんや姉ちゃん,ポピパの人達がどんな表情をしているのか分からないから俺にはただただ不安しか残らない。

 俺が余りに確信を突かれた事を言われて固まっていると,

 

「じゃあ私達帰るね。」

「また明日ね,香澄ちゃん,有咲ちゃん」

「ばいばーい」

「うん,皆また明日!」

「おう,気を付けて帰れよ」

 

 香澄さんに気を遣ったのか,俺に気を遣ったのか,真偽は不明だしもはやどちらでも良いのだが山吹先輩と牛込先輩,それに花園先輩がそのまま帰ったのだ。

 そして,本来ならそこに香澄さんも混ざるのだがなぜか当たり前のように帰らない。

 

「えっと…香澄さんは帰らないんですか?」

「うーん,私はもう少しいるよ」

「あ…そう,ですか」

 

 余り香澄さんに心配をかけたくないから何でもないと言ったのに,これでは全く意味がないのだが。

 

「取り合えず中行かねえか?」

 

 何だか微妙な雰囲気になってしまった時,姉ちゃんが気を遣ったように提案してきて俺達は家の中に入った。

 俺は荷物を置きに香澄さんと姉ちゃんの視線から逃げるようにそそくさと部屋行って荷物を下ろして――

 

「って,なんで入ってるんですか香澄さん?」

 

 俺は微かな足音と,息遣いからどうしてか香澄さんが部屋にまでついて来ていることを悟って思わず咎めるような声を出してしまう。

 けれど香澄さんは特に気にもせず,ていうか反省せず”えへへ”とはにかんだ。

 

「どーくんになにがあったのかなーって気になっちゃって」

「なにがって…なんでもないですよ。」

「じー」

「…」

「じーー」

 

 わざわざ自分で効果音を付けて,俺の事を見つめているのがありありとイメージ出来た。

 猫みたいな事をしていると思うと普通なら面白い筈なんだが,今は鬱屈とした気持ちの方が勝っていた。

 彼女が何も言ってこないのを良い事に,俺は無言を貫く。

 そして,やがて香澄さんはどこか”仕方がないなあ”みたいな雰囲気を醸し出しながら言った。

 

「なにがあったのか,私分からないけれど…私はどーくんの味方だからね!」

 

 香澄さんの言葉に、俺の胸が一瞬だけ締め付けられる感覚があった。

 そんな風に言われたら、本当は安心するべきなのに、今の俺にはそれが逆に重たく感じてしまう。

 

「…ありがとう。でも、本当に何でもないから」

 

 無理に微笑もうとしても、きっと顔は引きつっているんだろう。それを察したのか、香澄さんが小さくため息をつく音が聞こえた。

 

「そっか…無理に聞いたりしないよ。でも、話したくなったらいつでも言ってね」

 

 彼女の声は少し寂しそうだったけれど、それ以上詮索することはなく、静かに部屋を出ていった。

 その背中を見送った後、俺は部屋の中にひとり取り残されたような気がして、胸の奥に溜まった感情がぐっと押し寄せてくるのを感じた。

 

 結局、俺は何も言えなかった。

 彼女が俺を気遣ってくれるのは分かっているし、何か話せば少しは楽になるかもしれない。

 それでも、俺はその一歩を踏み出す勇気が持てなかった。

 

「…なんで、こうなるんだろう」

 

 自分自身への苛立ちと焦燥が混ざり合って、どこにもぶつけられない感情が胸の中で渦巻いている。

 そのまま、俺はベッドに倒れ込んで天井を見つめたまま、何も考えられなくなっていた。

 

 ——結論から言ってしまうのであれば,俺は戦力外通告の方がまだマシだったと言わざる負えない結果になってしまった。

 

 翌日のホームルーム,昨日に引き続き出し物が演劇に決まってしまい各役割を決める時間の時にそれは起きた。

 昨日の時点では,何をするのかはこの時間に決めるので各自何をしたいか考えとくようにという課題だったのだが…まあ,俺は沈んだ気分のまま考えられるはずも無く園田達に当てられないように祈るしかなかった。

 

 なんか昨日,帰る前に園田達に話しかけられたような気もするが俺はトラウマからそれ所じゃなくて何を返したのかも分かっていないが,とにかく俺はどんな事をすれば良いのか必死に考えていた。

 …筈なのに,俺は園田からこんな宣告をされた

 

 

「主人公の鬼役は,導志が一番ハマると思う!」

 

 

 正直逃げたいとしか内心で呟いていなくて,いつの間にか決まっていた演劇の内容らしき”鬼役”へ抜擢する園田の無情な声を俺はまるで他人事のように聞いていた。

 俺は数秒後弾かれるように立ち上がり,園田へと抗議した。もうそれは椅子をけ飛ばす勢いだ。

 

「ちょ…は?園田正気か?!」

 

 俺の中学時代,演劇でやっていなかった事は1つ。

 

 ――役者だ。

 

 中学時代は役者をするのは立候補者であり,俺は立候補する事も出来たのだろうが眼の事もあって立候補しなかった。

 少し考えれば当たり前で,役者は舞台上で動き回る必要がある。

 それには当然視界に入るものを大体把握する空間把握能力が必要になる。記憶力に関しては問題ないが,そもそも舞台上のものを認識できないのに役者なんて出来る訳ないと過去に自分で結論を出していたからだ。

 

 そして,それ自体は特段俺の中学時代のトラウマも知らなくても想像できる範疇だ。

 やる前から結果が分かってしまっているのに,どうして鬼を…それも園田が言うには主人公をしなければならないのだ。

 実際,園田の言葉に反発するような訳じゃないが,それでも他のクラスメイト達は疑問符を命一杯浮かべた不信感のような空気へと変わった。

 

 けれど,彼は…どこか感情がよく読めない声色で…悪く言えば感情が希薄の言葉を紡いだ。

 それは俺を鬼役に抜擢したい理由の1つだった。

 

「この話では,主人公の鬼役が随所随所で場面に合った歌を歌う必要がある。演劇というか,ミュージカルに近いんだが…俺が知っている限りこのクラスで一番歌が上手い男子は導志だ」

 

 その言葉に,クラスメイト達のざわめきは大きくなった。囁き声も,好意的ではなく懐疑的なものが多く凄まじくカオスな空間へと教室が変貌した。

 俺と園田がそれなりに付き合いがある事を皆知っているだろうが,園田がそう言いきることが彼ら彼女らのざわめきを大きくするには十分な理由だろう。

 だけど,俺は不思議に思う事しか出来ない。

 

 俺は園田とカラオケに行ったことがない。

 一緒にどこかに出かけたこともない。

 俺達は,あくまでも学校での人づきあいだった筈だ。

 ならば,普通に考えて園田が俺のボーカリストとしての姿は見たことがない筈なんだ。

 

「でも園田君,市ヶ谷君はその…眼が…」

 

 俺と園田の一触触発とまではいかないが,雰囲気が変わった事に戸惑いながらも俺の前の席の女生徒が言いにくそうに言葉を出した。

 俺は知らず知らずの内に出ていた,得体のしれないものを見るかのような殺気を何とか露散させて短く息を吐いた。

 別に目の前の女生徒に苛立ったからの溜息ではなく,こんな事で乱した自分に失望する溜息だ。

 けど,目の前の女生徒…枳殻さんが身体を強張らせたのを感じた。…あとで謝っておこう。

 

「…枳殻さんの言うように,俺は眼が視えない。演劇で必要な空間把握能力が言葉通り皆無な俺に,一番出番がある主役にするとか馬鹿げてるとしか思えない」

「でもやった事は無いんだろ?」

 

 園田がそんな分かりきった事を言ってきて,俺は内心で怒気を抑えきれなかった。

 別に,俺の眼が視えていたら役者をやってみたいと思っていた訳じゃない。

 だけど,そうやって自分自身が一番理解している事を,理解もしていない奴に言われるのは腸が煮えくり返るほどムカつく。

 俺の真っ暗な世界を想像できない奴が,容易く”出来るだろ”って言ってくるのがムカつく。

 

 自分勝手で自己中の考えで,想像力もない奴に勝手なことを言われるのがムカつく

 

 ——ああ,やっぱり世界は変わらない

 

「ごめん皆」

 

 俺がどす黒い何かを必死に抑え込んでいた時,園田がなぜかクラスメイトに謝る始末。

 流石に,俺もいきなりそんな事をするとは思わなかったから毒気を抜かれてしまった。

 これすらも園田の人心掌握ならもう感嘆するしかないレベルなんだが,彼は多分無意識にやったのであろうそのままクラスメイト達に話した。

 

「勝手に役者を決めるのは良くないって分かってるんだけど…この台本を提供してくれた人は…導志が主役になる事を前提に書いたんだ」

「…は?」

 

 園田の余りに意味不明な言葉に,俺は呆けたような声が勝手に口から漏れ出た。

 いや,台本を提供とかも色々ツッコミたい所はあるが…そこでどうして俺が主役になる事を前提とした台本を書いていたって話だ。

 昨日の今日で,園田や神田にクラスにいる他の演劇部の人達に台本を…それもどうして俺が主役になる前提の台本を書けるはずがない。

 書いていたとしても,それは俺じゃなくても出来る台本の筈だ。

 

 今の園田の言葉は,主役に抜擢というよりも俺にやってもらわないといけない…そんな強引な感じを受ける。

 

 園田の言葉に他のクラスメイト達は一層ざわめき始める。

 それは例えば「市ヶ谷で大丈夫?」だったり「なんで市ヶ谷を前提にしてるんだよ」とか,至極当たり前の意見だが「俺が主役やりたい」だったりいろいろだ。

 当たり前だ。文化祭は私欲じゃなくて,クラスメイト達が団結する機会でもある。

 役者について決めるのも一喜一憂の機会で,それを…それも主役の座を勝手に決められて主役になりたがっている男子からしたら反感を買うのは当たり前だ。

 

 教室の空気が,俺の冷たい殺気で満たされようとした時

 

「園田ストップだ。」

「…先生」

 

 俺のクラスの担任,これまで成り行きを見守って来た津島先生が園田に待ったをかけた。

 そのどこか威厳に満ちた一言だけで,緊張に張り詰めた教室の空気が通常状態に戻ったのを感じて俺は溜まっていた息を吐いた。

 

「今日はもうお終いにしよう。お互いヒートアップしてきて喧嘩をしてしまったら元も子もない。」

 

 俺は津島先生の顔を見た事は無いが,多分…今は仕方がないなって感じの…そんな困った顔をしている気がした。

 普通なら怒るはずなんだが,どんなに人が良いんだこの教師。

 それでいてしっかりと場を収める威厳のある声まで出せるのだからどんな巨体をしているんだろうとか,どうでも良い事を考えて…チャイムがなった。

 

「終わったな,今日は終わりだ。帰っていいぞ」

 

 そう言った先生だが,俺はその声とチャイムの後ろから聴こえるチョークの音に耳を澄ませて他の生徒の声がする前に聞いた。

 

「すいません,今何を書いたんですか?」

「「——ッ」」

 

 一瞬,クラスメイト達が息を飲むようにしたのが伝わった。

 まあ,チョークの音をチャイムする中で聴くなんて芸当普通はしないからな。ただ,俺にとっては相対音感の能力の1つ程度しか思っていないし特別凄いと思っていないから,何を書いたのかを聴くために先生の声に耳を澄ませた。

 ただ,先生は呆気からんと言った。

 

「ん?ああ,丁度いい場所にいたから日付と明日の日直を変えていたんだ。因みに明日は春賀と枳殻だからな」

「えーっ?!もうですか?!」

 

 春賀と呼ばれた男子生徒がそんな反応するのを,クラスメイト達はさっきの雰囲気のギャップから微笑んでいるのが声や音で分かったけれど,俺は到底笑う気にはなれなかった。

 俺は机の横に書けてある白杖を手に取って,もう少し横を探る。

 

「あ,市ヶ谷君これ」

「枳殻さん?ありがとう」

 

 枳殻さんの声がした方に手を差し出すと,ずっしりとした重みが手にのしかかる。俺の通学鞄は,学校の許可をもらって手提げではなくリュックにしている。

 その方がなにかと便利だからな。

 あと,俺の性質的に片手を白状,もう片方を手提げ鞄で塞いでしまったらいろいろ問題がある。

 

「あと…さっき怖がらせてごめん」

 

 受け取る傍ら,さっきの事を謝罪する。

 すると彼女はぶんぶんと顔を横に振ったのか微妙な風が来た

 

「ううん,私こそ…なんかごめん」

「枳殻さんが謝る必要はないよ。ただの正論だったんだから」

 

 そう言って,俺はまだざわめきが占める教室を出て行った

 

 ——この時の俺には,どうして俺だけが教室を出たのか考える余裕がなかった

 

 

 

 ☆

 

 

 

 導志が去った教室の扉を見て,教卓にいた男子生徒は…園田はため息をつき,スマホを片手に前を向く。

 そして目の前に残ってくれたクラスメイト達に目を向けて頭を下げた。

 

「ごめん,あまり時間はかけさせないから」

 

 生徒によっては部活動も始まる時間,手短にすると約束した園田は顔を上げた。

 園田の背後の黒板には,「理由を話したいから少し待ってて欲しい」と書かれていた。

 到底日付と日直の名前だけでは画数の問題で導志に嘘がバレるのだが,あの時はチャイムが鳴っていた事もあって導志は聞き逃していたのだ。

 もっとも,先程の導志にはそれを考える余裕がなかったとも言えるのだが。

 眼が視えない導志はまんまと先に帰ったという訳だ。

 

「それは良いんだけど,理由って市ヶ谷君に主役をやらせたいって話?」

 

 導志が割と受け入れられている事からも分かる通り,このクラスは基本的に寛容な人間が多い。

 入学当初は導志の事で戸惑った生徒達もいたが,今では全員彼の事を受け入れて必要があればサポートを進んでする位には恵まれていると言っても良いだろう。

 だが,理由がない強行には当然難色を示す。

 今の園田のように,演劇の出来の2割は担う主役を導志にやらせようとするのはいささか無理があると思っているのだ。

 

「そうだ。…実は,俺と神田さん,そして導志は同じ中学で同じクラスだったんだ」

 

 同じ東京にある中学で,同じ中学から同じ高校に行くこと自体はなんら珍しい事でもない。

 だが,この場合の同じ中学というのは稀有さとは違う意味があったのだ。

 園田は,そして隣にいる神田もまた辛そうに,或いは申し訳なさそうに語り始めたのだ。

 

「もっとも,導志自身は俺達の事なんて覚えていなかった」

「多分導志君にとって,中学校は行きたくない場所だったから」

 

 園田の言葉を神田が引き継ぐ。

 他のクラスメイトに興味も持てなかったという訳だ。

 普通なら顔位覚えて良そうなものだが,導志は知っての通り眼が視えない視覚障害を持っている。人間が物事を覚える時によくするイメージとその名前を一致させるという方法を導志は使えない。

 ついでに言うなら,覚えようとも思っていなかった当時の導志が2人の事を覚えていないのは…ある意味必然だったのかもしれない。

 

「俺達の中学で文化祭は全クラス演劇をするのが慣例だった。」

「導志君は小道具係になったんだけど…」

「あ…もしかして」

 

 春賀という男子生徒が,そこまで暗い表情で話していたのを聞いて何が起こったのか悟ったように眼を大きく見開いた。

 すると,他のクラスメイト達もどんな事が起きたのかを薄々察知したのか少し囁き声が教室を満たした。

 

「多分皆が思ってる通り,当時は私達も眼が視えない人の接し方が分からなくてさ。導志君へ小道具の作り方を教えても,導志君はそれを視る事が出来ないのに私達は拙い説明しか出来なくて…その時,脚本をしてくれた子が導志君を演劇の作業から外したんだ」

 

 彼らには導志という身近な存在がいる為,誰しもが一度や二度眼が視えない世界というのを想像或いは体験したことがあった。

 想像だけでも簡単な話だが,視覚障碍者に視覚を頼りにした教えを方をしても出来ないのは当たり前だ。

 導志はクラスメイト達から見たら色々な評価があるのだが,思慮深く優しく,人の感情の機微を察するのが凄まじく敏感というのは共通認識だった。

 だからそんな彼が普通の人が出来る事を出来ないでいたら?

 …どうなるかなんてわかる人間の方が多かった。

 

「もちろんその子は導志君が,”何も出来ない事”に苛立ったとかじゃなくて…ただ導志君が辛そうな顔にさせたくなかったからだった。」

「だけど…本人も一所懸命で,導志から見たら酷い言い方をされたように感じたんだと思う」

 

 思っていた数倍は重い話に,クラスメイト達は沈黙する。

 クラスメイト達は,導志が普段眼が視えなくても余り他人に迷惑をかけないように動いているのは知っている。それでも枳殻や,園田に神田が手を貸さなければならない時は当然ある。

 手を貸される度に,自分の存在自体を苦虫を噛みしめるように俯く導志を…クラスメイト達はこれまで何度か見て来た。

 

 例えそれが,その脚本担当だとか言う人は導志に傷ついてほしくなくて演劇から外したんだとしても…それは導志にとって深い傷になっているのだとこの話を聴けば誰でも分かる。

 少なくとも,クラスメイト達は嫌でも察する事が出来てしまった。

 

 導志たちの担任である津島は――導志の予想に反して小柄で,ネズミを思わせる歯を持つスキンヘッド――は初めて聴いた導志の過去を吟味しながらも状況を見守っていた。

 なぜなら,園田達がどうしたいかという答えは既に明白だからだ。

 

 張り詰めた重い空気を,敢えて露散させるように園田は明るく問いかけた。

 

「皆導志がプロファイターを目指してるのは知ってるよな?」

「そりゃ当然だろ,1次試験通ったって騒いでたのはお前じゃないか」

 

 その露散させた空気を広げるかのように,釜木という男子生徒が笑いながら言い放つ。

 それによってクラスメイト達は当時の園田の様子を見て思い出し笑いをしたのか一瞬で冷たかった空気を温かいものへと変えた。

 園田のカリスマ性がなせるものなのか,単純に冷たい空気がクラスメイト達が嫌だったのかは定かではないが園田は明るく言った。

 

「いやだって中学のあいつを知っていると嬉しかったんだよ?!勝負に勝った時の嬉しそうな表情とかさ?!」

 

 導志の所属する奨励会では,プロ試験は配信している為園田もそれを視て…決勝で勝利した時の導志の知らず知らずの笑顔が園田には自分の事のように嬉しかったのだ。

 自分達の行動の1つ1つが,彼を傷つけ笑顔を奪っていた。

 けれど,彼はヴァンガードファイトでその傷を塗り替えて笑っていた事が…園田にとって,そしてその脚本担当…名を高田頼成には嬉しかったのだ。

 

「今回,この脚本を提供してくれたのは…実はさっき言った脚本担当の子なんだ」

「それで,この脚本の主人公としてその子がイメージしたのが」

「導志って事なのか」

 

 園田と神田の言葉を,釜木が引き継いだ。

 

「もっと正確に言うなら,導志と…彼が使っているヴァンガードのユニット,”猩々童子”をイメージしたらしい」

 

 ヴァンガードは,自分が先導者となって戦うカードゲーム。

 その為,その先導者とはヴァンガードにおいてプレイヤーの分身とも言える存在だ。

 無論ただのカードゲームであるのだから,そんな事を考えずプレイするファイターもいるだろう。

 だが,導志は違う。導志は猩々童子を手に取った瞬間から,彼を分身としこれまで戦って来た。

 環境ではなく,自分という分身を信じ戦い続けている。

 

 それ故に,園田や…高田の眼には”猩々童子”と導志は同一視しうる存在だ。

 だからクラスメイト達にはいまいちイメージ出来ないが,どうやらそういうものらしい。

 

 園田は顔を上げて,少し目を伏せ懇願した。

 

「これは,俺達のエゴだ。俺達が壊してしまった導志の過去を直す手伝いをしたい。今度は影じゃなくて,表に立つ役者として」

 

 彼の言葉は静かに,沁み込むように教室の中に浸透していく。先程とは違うのは,重たい空気ではなくただただ…穏やかな何かを受け入れるかのような沈黙だった。

 園田が言うように,これは過去に罪悪感を持った園田と神田…そして高田という脚本家のエゴであろう。

 それに何も関係がないクラスメイト達が手を貸す理由は何もない。なんなら,高校生活初めての文化祭でそんな重たいものを背をわせられるという意味ではとても理不尽である。

 だから――学級委員長,北村は問いかけた

 

「本当にエゴね,それでまた彼の傷が深くなることは考えないの?」

 

 ただでさえ導志の反応を見る限り,無意識に手が震えていた事や怒気を感じさせたこと…不安と苦しみに舌を噛みしめていたのを北村は見ていたのだ。

 あれを見れば,中学での出来事がどれだけ尾を引いているのかが分かる。

 例え役割が変わって役者なのだとしても,それに拒絶反応があるのは見ていたら分かる。

 最悪導志が中学と同じ場所なんだと認識して…学校に来なくなってしまうかもしれない。

 

 園田は,ゆっくりと,噛みしめるように口を開いた

 

「考えたさ。だけど,俺は…もうあいつを見捨てたくなんかないんだ」

 

 脳裏によみがえる過去の記憶,俯いて泣いている少年が園田や高田の元を離れていく。

 どれだけ声をかけても,振り向いてくれなかった…声でしか伝えられないと当時の自分は思っていた。

 だけど,彼は普通とは違う。声だけでは,何も伝わらなかった。それ所か苦しめてしまっていた。

 どんどん闇に歩いて行く彼を,園田は止める事が出来なかった。

 

 転機は高校入学の日,園田は眼を見開いた。

 同じクラスに,神田がいたこともそうだがなにより白杖を持って,初めての高校を動き回って奇異な目で見られていた導志がいたから。

 彼は鞄をかけるフックを探しているのを見て,園田は気がついたら声をかけていた

 

『あ,フックならここにあるぞ』

 

 次に,自己紹介の時

 

『市ヶ谷導志です。こんなものを持っている時点で察してもらえますが,眼が視えません。だから出来ない事も多いですが,その時は助けてくれなくても大丈夫です。目標は――』

 

 その言葉を聴いて,園田は,神田は胸が締め付けられた。

 もしかしたら,自分達がそんな考えを彼に与えてしまったのではないかと思ってしまったから。

 彼の生き方を,定義づけてしまったのではないかと思ってしまったから。

 

 だから,導志の自己紹介を裏切るように彼を助けて来た。そうする事で自分達が救われたような気がしていた。

 あの時,見捨ててしまった自分を慰めることが出来ていたような気がしたのだ。

 

 けれど,それはとんでもない思い込みだったのだと…昨日,演劇に決定した時の導志の表情で悟ってしまったのだ。

 血の気が引いたような蒼い顔で,小刻みに震える唇に身体は遠目からもくっきりと分かったほどだ。

 だからこそ,園田と神田は別の高校に進学した高田に相談した所…彼が授けて来たのが件の脚本だった。

 

「あいつは言っていた。役割を捨てさせた俺が言うのも間違っているけど,だからこそ”役者”をやって欲しいって。きっとこの経験を乗り越えることが,導志が過去と決別するためのチャンスだと。」

 

 高田は,導志のプロになる為の試験を全部見て来た影のファンでもある。

 元々,奨励会は外部向けに一部のファイターの配信をする事もあり導志もそれに選ばれた事があった。

 公には出来ないが,眼が視えなくてもヴァンガードをする彼の存在は同じ目に異常を抱えている人達にも勇気を与える事が出来る存在として奨励会も注目していたのだ。

 

 そして,だからこそと言っては何だが,導志と猩々童子を掛け合わせた世に出すつもりがない脚本を作ったのだ。

 それがこんな形で世に広まるかもしれないとは,高田も思いもしなかったのだろうが。

 

 園田はやがて穏やかな表情で告げた

 

「それにさ,同じ中学だったから知ってるんだけど導志が歌上手いのは本当だよ」

「あ,そうか。合唱コンクール」

 

 北村が呟くと,それに園田は頷く。

 中学であれば大概の学校が合唱コンクールを行っているだろうというのは推測される。

 逆に言えば,そこくらいしか導志の歌の上手さを知る機会がないのだ。

 そして,導志は他のクラスメイトと一線を画す技術で入賞に導いた事がある。

 もっとも,導志自体は自分のおかげとは微塵も思っていないし自尊心が低いのだからそれを誇りにする事も無かったのだが。

 

「だから歌う事も演劇に入れたのか,演じる時間を短くするために」

 

 舞台上で歌うとなれば,必然と演技をする必要は最低限となる。眼が視えない導志にとってそれはアドバンテージであり,更に演劇自体を目立たせることが出来る一石二鳥の案だったのだ。

 

「今回の事で,今は手直しをしている最中らしいけれどあいつは…高田は台本のあちこちに導志の為の台詞や行動を入れてくれた。」

「…本気なのね,2人とも…いや,3人ともかな」

 

 北村は吟味するように園田と神田,そしてここにはいない高田という男の影を想像で作り上げる。

 再び,沈黙するクラスメイト,見守る津島,待つ園田と神田。

 やがて1人の女生徒が手を挙げた。導志の眼の前の席の女生徒,枳殻だ。

 

「私は良いと思う。市ヶ谷君に鬼役をさせるの…賛成する」

 

 そう言ったのを皮切りに,クラスメイト達は何となく苦笑いをし不器用としか言えない園田の事を見て次々に言葉を出した。

 例えば春賀は

 

「ま,良いんじゃねえの。そもそも実行委員はお前なんだから,俺はお前の指示に従うさ」

「それは思考放棄ともいうんだがね春賀君。いや,しかしそう言う事であれば私も賛成しよう」

 

 春賀の隣の男子生徒も,どことなく賢者を思い浮かばせる面構えで園田の案を賛成した。

 すると次々に賛成者が集まり始めたのだ。1人が挙げれば3人挙げる,やがてそれは全体へと変わったのだ。

 

「そうね,貴方達の贖罪の為ではないけれど…文化祭はクラス全員が一丸にならなければ意味がない。そこに例外はあってはならない。けど,そこまで大言壮語したという事は彼の説得は任せても良いのよね?」

 

 最期に手を挙げなかった北村が,最終確認として問いかけた。

 もう殆ど賛成しているも同然の言葉だが,最後の言葉は当然の疑問でもあった。

 そもそも導志が鬼役に前向きではないのだ。いくらクラスメイト全員が賛成したとしても,導志がそれに乗らなければ何の意味もない。

 

 全員が尊重してくれた事に涙腺が緩むのを感じながら,園田は力強く頷いた。

 

「ああ,任せてくれ。俺は…あいつと本当の意味で”ともだち”になりたいから」

 

 その瞳の強さは,希望を見出したかのように燦爛と輝いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お疲れさまでした!

導志,文化祭にトラウマ持ってます。眼が視えないのに小道具なんて作れるわけないよね,教えるのも大変だよね,じゃあ戦力外通告しとこうみたいに導志には感じた訳です。
眼が視えない代わりに他の器官が発達しまくっている訳ですが,何でもできる訳ではないのです。

オリキャラ人物表
園田:クラスメイト,導志の友達枠。正体は導志の中学の同級生で凄惨な導志の中学時代を見て後悔した人間。

神田:クラスメイト,導志の友達枠。同じく導志の同級生。訳あって同じく導志の中学時代の事を悔いている

北村:クラスメイトで学級委員長。人柄がよく人望もある。よく周りの事を見ている良い人

枳殻:クラスメイト,導志の前の席。席の場所的によく導志の手伝いをしてくれるいい子。

高田:導志のトラウマの元凶。幼いころから俳優や舞台が好きで自分で始めて見た人。導志に似て不器用。同じく過去,自分の言葉のせいで導志の中学生活を壊してしまったことに罪悪感と後悔を感じて今回の文化祭に脚本という形で導志と関わる。


という訳で,次回導志の本音が駄々洩れになる回です!
明日の22時10分です!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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