星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

40 / 56
という訳で,新章というかどちらかというとプロ最終試験編の繋ぎのお話です。
香澄のヒロイン属性を発揮する時が来たという訳ですね。
レッツラゴー!

珍しく導志本人は出ません。


幕間
星の決意


 過去の宿命と1つの決着をつけ,導志は気持ちを新たに学校生活…そしてプロファイター最終試験へ臨んだ。

 試験ではまさに大躍進,全国から勝ち抜いた強豪3人を類まれぬ戦略と幸運で絶体絶命をもひっくり返し無事に決勝へと駒を進めた。

 

 「勝者--市ヶ谷導志!」

 

 スマホの中でジャッジが勝利者宣言をすると,配信のチャット欄が凄まじい勢いで変動を始める。

 大体が勝者である彼を褒めたたえるもので,それを自室のベッドで見ていた香澄は嬉しさに身体を弾ませながらも…以前,彼の文化祭で見た彼の舞台を思い出した。

 

『私は貴方に,恋をしています』

 

 ヒロイン役の生徒の演技は,本当に演技なのかって位真に迫っていて…

 

「演技なのに…きっと,あの子…」

 

 あのシーンを見た時,言葉に出来ない焦燥感が身体を駆け巡った。

 それは導志を取られると思った彼女の心の現れだが,香澄はその事に気がついていない。

 生まれてこの方,恋というものが分かっていない彼女は自分が抱えているそれがヒロイン役への嫉妬だと気がついていないのだ。

 だが,自分の事は棚に上げてヒロイン役…枳殻が導志の事を好いているのを感覚的に理解できていた。

 結局,あの文化祭のあとから香澄は導志と会う機会が少なくてあの生徒との関係を聴くことは出来なかったのである。

 

 暗暗とした心の中,香澄は何となくまだ配信が続いているスマホへと目を向ける。

 次のファイトは,導志の先導者たる柴咲悠馬のファイトだ。

 だが,香澄はやっぱり見る気が起きなくなってしまい,今日の導志のファイトはこれで終わりなのもあってスマホを消そうとした中

 

「あれ…どーくん?」

 

 画面の端っこで,奨励会の人間が導志のサポートで声をかけながらファイト場から離れようとしている場面なのだが,人の言葉から正確に状況把握できるはずの導志が…久しぶりに壁へ激突している様子が映ったのだ。

 配信のコメントでは”可愛い”とか”ドジかと思ったけど眼が視えないもんな”など,彼の出自の為にそれを嗤われるようなものはなかった。

 だが,彼の事を近くで見て来た香澄は知っている。

 彼が人のサポートがある時に壁に激突するなんてはずがない,導志は感覚器官が敏感で聴覚なんてその最たるもの。

 それに,今回の舞台で反響音だけで周囲の状況を把握するという神業が出来るようになったはずの導志が,今更壁に激突する訳ないと…言葉に出来ない不安を香澄は覚えた。

 

 そして,それは香澄にとって最悪な形で現れた。

 プロ最終試験決勝戦は,再来週に大きな会場で大々的に観客を入れてのものとなる。

 導志も少しの間だが,日常へと戻ったと風の噂で聞いた香澄はギターの練習という事でCiRCLEへと向かった。

 いつもと同じシフトであれば,導志はきっといるはずだと思ったからだで,バンド練習にかこつけて会いに行ったのだが…

 

(あれ…?)

 

 導志の姿は,CiRCLEの中にいなかったのだ。

 最初来た時は偶々どこかのスタジオで掃除でもしているのかと思ったが,CiRCLEは今日も大盛況。

 香澄達が来た頃には既に予約でいっぱいで,まりなが眼を回しながら接客をこなしていた。

 

 だから取り合えずと言っては何だが,香澄は練習に集中する事にした。

 新曲の仕上げもしたいし,この新曲こそ導志気に聴かせてあげたいと思う位素敵な曲だ。

 早く完成形を,そう思っての練習も…休憩の時にある事実を知ってしまった。

 

 それはおたえを残し,4人でラウンジの飲み物を買おうとやってきたときの事。

 ようやく波が収まったカウンターを見て,香澄は我慢できずにまりなへ声をかけた。

 

「あ,香澄ちゃん。どうしたの?」

「あの,今日はどーくん来てないですか?」

 

 因みに,普通に今日有咲も一緒にいるのにどうして彼女に聞かないのかと思ったかもしれないが,有咲は導志の行動の全てを知っている訳ではない。

 細かいシフトだって当然知らないし,昔は兎も角今は導志を信じて好きにさせているのだ。

 それを知っている香澄は,直接まりなに問いかけるという訳である。

 

 CiRCLEに来た時から感じていた悪い予感,外れて欲しいなと思った香澄だったが…悪い予感というのは割とあたるものだ。

 まりなは一瞬眼を見開いた後,複雑そうな顔を見せて,次にラウンジの椅子からこちらを見ている有咲へと目を向ける。

 

「有咲ちゃん,まだ香澄ちゃん達に言ってなかったの?ガールズバンドパーティーの皆にも?」

「え…?」

「どういうこと,有咲ちゃん?」

 

 呆然とその言葉の意味が分からない香澄は有咲へ振り返り,有咲の隣に座っていた沙綾やりみも有咲へと目を向ける。

 有咲は大層複雑な顔を見せながらも,ぶっきらぼうに香澄達から眼を反らして答えた。

 

「言ってませんよ。私達から見たら,1店員の事なんですから言う必要はないでしょう」

「有咲!」

 

 どこか冷めたのにも似た,淡々とした声に香澄は自分でもビックリなくらいに声をあげた。

 糾弾するつもりなんて別にないのに,香澄は…今ここで有咲が隠したことを知らなければならないと思ったのだ。

 流石に有咲も,香澄のこんな必死な顔をすることが珍しく気まずげに明後日の方へ目を向ける。

 しかし,有咲は導志の事について聞くことをまりなに聞くことを止めはしなかった。

 なら知ること自体は問題ないと考えた沙綾は,今にも有咲へ詰め寄りそうな香澄をなだめつつまりなへ問いかけた。

 

「あの,まりなさん。良かったら話してくれませんか?導志君の友達として聞きたいんです」

「私も知りたいです!」

 

 有咲は話してくれないとりみも思ったのか,矛先をまりなへと変えた。

 まりなは有咲の方に目を向けるが,彼女はまだ眼を反らしたまま。

 だが遮る様子もない,口止めされている訳でもないし素直に答える事にした。

 

「導志君は…数日前に辞表を出しに来たよ」

「…え?」

 

 香澄の魂が抜けたかのような声が,痛々しくCiRCLEへ響いたのだった。

 

「有咲待って!」

 

 眼を大きく見開き,しばらく固まってしまった香澄は直ぐに有咲の方へ視線を向ける。

 彼の姉である有咲がこの事を知らなかった筈はない。

 彼女は知っていたうえで黙っていた事になる。

 導志がCiRCLEを…自分達のホームを辞めていた事を。

 

 香澄はたまらず足早にスタジオに戻ろうとした有咲を呼び止め,それだけじゃなくて逃がさないとその腕を掴んだ。

 

「ちょ,痛いんですけど」

「有咲どうして話してくれなかったの?!何で黙ってたの!?」

 

 有咲の抗議は耳に入らず,詰め寄る香澄。

 香澄にとって導志は大事な仲間だと,少なくとも香澄はそう思っている。

 好きである前に仲間なのだと,CiRCLEを通して繋がっている仲間がいきなりいなくなれば心配になるのは自明の理。

 だが,有咲は――

 

「いう必要なんてないだろ。赤の他人の香澄には」

「…っ,私は――」

 

 赤の他人…導志と香澄の関係で言えば友達の弟というもので実質的には他人だ。

 いや,自分以外の人間が他人という野暮なツッコミは無しで。

 しかし,2人の関係からは導志は別に香澄に自分に起きたことを伝える必要がないのは事実だと…それこそ,家族か家族と同等の関係でもない限り。

 

「でも…でも何か理由があるんでしょ?!」

 

 それでも納得なんて出来なくて,昼ドラの修羅場の如く香澄は有咲へ必死に問いかける。

 その必死さがどこからくるものなのか,有咲は当然分かっているがそれだけじゃ話す理由にならない。

 結局赤の他人というのもあるし,なにより…香澄の介入によって導志の気が更に病んでしまったら有咲は自分自身が許せない。

 だから噓をつくことにした。

 

「プロになる為にヴァンガードの集中したいからだよ」

 

 それは何も知らない人間にしてみれば,確かな理由なのだろう。

 彼は既にプロになる一歩前まで来たのだ。

 それに集中する為に,バイトから離れるという選択は納得できるようで…香澄には納得出来なかった。

 

「そんなの嘘!」

「は,はぁ?!」

「どーくんはバイトもヴァンガードもどっちも必死だった!自分の役割をいきなり離すようなことしない!」

 

 真っすぐと有咲を見つめ,それは嘘だと言い切る香澄の言い分はとんでもなく感情論でしかない。

 だが,香澄はいつもそうである。大体感情が先で理屈はあとでついて来ると信じるタイプだ。

 有咲はもう少し理詰めの嘘をつくべきだったのである。

 

 まあ,香澄は兎も角沙綾も有咲のそれが嘘だと思っていた。

 声には出さないが,香澄の言うように無責任にいきなりやめるような人間じゃないというのもあるし,そんな人間ならプロ試験が始まった時には既にバイトを辞めているだろう。

 相談できない事というのは誰にでもあるし,寧ろ導志の場合はきちんと有咲に説明はしている様だからまだマシな方だとも思っていた。

 

 しかし,同時にこれは導志と友達というだけの自分達が足を踏み入れて良い領域ではなさそうだとも思い見守る事にした。

 ただ,これでは今日の練習は無理そうだとも思っていた。

 この状態で音を合わせた所できっと香澄と有咲の波長が合わない。

 

「香澄,有咲も困ってるから手を離してあげなよ」

「さーや…でも」

 

 沙綾の冷静な言葉を聞いた香澄の力が弱まったのを感じた有咲は強引に振りほどき,一度沙綾の方へ目を向けると直ぐにスタジオへと戻って行った。

 

 …結局,香澄と有咲はその後の練習でも波長が合わず練習はお開きとなってしまった。

 香澄が有咲に声をかけようとしても,練習の事についてなら有咲は答えるが導志の事になると無視する。

 

『今練習中だろ,それ以外の話は禁止だ』

 

 そう言われてしまえば香澄とて引くしかない。

 だが演奏の息が合わなくなるのは必然だった。

 練習がお開きになってしまえば,有咲は家に帰るようだったので香澄はついて行こうとしたが,これも有咲が強い言葉で拒絶。

 香澄はスタジオでしゅんとギターを力なく鳴らす。

 

「香澄,全然力が入ってない」

 

 そんなリーダーの珍しい姿にはおたえもギターを弾く手を止めて,スタジオに残った沙綾とりみと会話していた。

 

「仕方ないよ,導志君がいきなりCiRCLEを辞めるだなんて考えられなかった事だもん。」

「でもどうして有咲ちゃん,理由を教えてくれないんだろう」

 

 沙綾やりみにとっても導志はバンドメンバーの弟という立ち位置だ。

 しかし,彼が影から支えてくれた事によってポピパが何度か壁を越えられたことを知っている。

 香澄が去年歌えていなかった時はその典型だろう,香澄は自覚していないかもしれないが,あの出来事から導志を見る眼が変わっているのは見ていたら分かったのだから。

 

「それは…有咲が言ってたように赤の他人だからじゃないかな」

「まりなさんも知ってるみたいだったけど…」

『ごめんね,結構デリケートだから私の口からは言えないかな。あ,でも私だって悲しいよ?出来るなら,私も辞めてほしくない』

 

 さっき休憩を終える時に聞いといた言葉がそれだ,流石にバイトを辞めるとなると無言という訳にはいかないのは予想通りだった。

 だが,まりなも事情を伝える訳にいかない…でも,事情を知っているが故に悲しそうな表情でもあった。

 少し香澄を見ていたおたえは,やがて立ち上がり香澄へと近寄った。

 

「香澄,今日はもうやめておいた方が良いよ。無理に演奏してもギターは喜んでくれない」

「おたえ…」

 

 彼女の言葉に香澄も少し眼を大きくし,次にランダムスターを優しく触る。

 そして,自分の中で何かを納得したのか力ない笑みで頷いた。

 

「うん,分かった」

 

 そうして香澄もCiRCLEを出て行った,流石にメンバーの2人があの様子では次の練習がどれだけ満足に出来るか分からなかったが,沙綾達は残りの時間を練習する事にした。

 それぞれが自分に出来る事をし始めたのである。

 

 ☆

 

 有咲のあんな顔…凄く久しぶりに見た気がする。

 どーくんを守るために必死な顔…1年前の有咲に出会った日,どーくんと初めて出会った時に見せた顔があんな感じだった。

 

「有咲…どーくん」

 

 知らなかった…どーくんがCiRCLEを辞めてた事。

 私は知らないで…明日がどーくんの大事な日だって分かっているから会いたかったのに,そう出来なかった。

 いつもなら有咲の家に行っている頃なのに,私は足が有咲の家に向けられなかった。

 さっきの有咲が頭に浮かんで…見えていないどーくんの事が浮かんで,どうしたらいいのか分からなくて道で立ち止まる。

 

「私…どうしたんだろう」

 

 いつもみたいにどーくんの所へ行く気が起きない,行ってはダメだとどこからか言われているようで…私は気がつけば商店街までやって来てた。

 

「あ,香澄ちゃんこんにちは」

「あー!香澄お姉ちゃんだ!」

 

 商店街に着けばおばちゃん達や近所の子供達が元気に挨拶してくれて,私も嬉しくなって挨拶をし返す。

 いつもならそれで気持ちが晴れるのに,どうしてか今日は晴れなかった。

 それはきっと前どーくんと来た時の事を思い出してしまうから。

 

「あれ,こんな道あったかな?」

 

 ふと私は路地裏の道を見つけた。

 どーくんや有咲の事で頭がいっぱいになってたけど,それでもこんな場所あったっけと過去の記憶を思い出してみるけれど…やっぱり思い出せなかった。

 路地裏とは思えない位綺麗な道,けど人は全然いなくて…まるでそこだけが別世界みたいに感じた。

 だけど私は導かれるように足を進めた。

 

「ここ…商店街?でもこんな所なかった気が…」

 

 そう思った時,唐突に目の前に人影が見えた。

 建物を背に,どことなく妖しさを感じるパラソルの下で…この商店街では見たことがないおばあちゃんがいた。

 机の上には綺麗な水晶玉もあって私は気になって歩み寄った。

 

「おや…人とは珍しいのお」

 

 おばあちゃんは途中で私に気がついて優しく微笑んで手招きをしてくれた。

 殆ど意識しないまま,私はおばあちゃんの目の前に立った。

 見れば見る程その水晶玉は綺麗で――

 

「せっかく来たんじゃ,占いでもしていくか?」

「え,良いんですか?あ…でも私お小遣い今殆どなくて」

 

 どーくんに渡すものの為に使っちゃったから,私の持ち合わせている現金は少ない。

 

「なーに構わんよ,私も趣味みたいなものよ。可愛いお嬢さんの為ならお代はいらんよ」

「じゃ…じゃあ,お言葉に甘えて…」

 

 どんな事が占われるのかは分からないけど,どーくんと有咲の事で何か背中を押してくれるかもしれないって自分らしくも無い弱気を見せずに,私はおばあちゃんの前の椅子へと座る。

 すると,水晶玉が淡い光に包まれた。

 

「わぁ…眩し――え?」

 

 次の瞬間,私は確かに商店街の路地裏にいたはずなのに…眼を開けた時には正真正銘の別世界にいた。

 慌てて自分の身体を見ると,白い靄がかかったように白身を帯びていて何が何だか分からなくて周りを見渡してあのおばあちゃんを探す。

 

 だけど,確かに目の前にいたはずのおばあちゃんの姿は見えなくて代わりにいたのは――

 

「あれは…」

 

 見つけたのはお巫女さんみたいな服を着て…狐さんみたいな顔をした女の人と,私も見たことがある人がいた。

 

「うそ…猩々…童子?」

 

 女の人に気さくに声をかけて,嬉しそうにはにかむ鬼はどーくんの分身。

 だけど,どうしてそんな人が目の前にいるのか分からなくて私は戸惑いのままそれを見続ける。

 そうして,私はしばらく2人が会話したり,舞台を観劇したり,色々な事をしている場面を見続けた。

 2人の声は私には聴こえなくて,同時に私の声は2人に聴こえない。

 

 だけど,それで十分だと思うほどに私は猩々童子と女の子を応援していた。

 猩々童子の方が女の子にあれこれとするけれど,凄く奥手な猩々童子は普段のどーくんみたいで微笑ましかった。

 

 そして不思議な空間で私が最後に見たのは――

 

「きゃっ!」

 

 猩々童子が自分の部下たちと一緒に,巨大な蛇みたいな生き物と戦っている所だった。

 私の頭に,どうしてそうなったのかが勝手に入って来る。

 猩々童子は,あの女の子…タマユラの安寧の為に障害となるこの大蛇を退治しにきたらしい。

 それでも力の差は確かに存在して,猩々童子と大蛇,1対1では大蛇に負けてしまっていた。

 

 でも…

 

「——」

「——」

「——!」

 

 見たことのある,どーくんがいつも使っているカードのユニットたちが猩々童子の周りに集まって彼を庇うように布陣を組む。

 そうして,猩々童子は瞳を閉じて――私が瞬きした瞬間,全てが終わってた。

 さっきの大蛇もいなくなって,さっきまで戦いがあった森の中で私の目の前に立っていたのは――

 

「猩々…童子」

 

 どーくんの分身たる鬼は,私を見て穏やかな笑みを浮かべて刀を肩に担いでいた。

 そして…さっきまで聴こえなかった筈の声が届いた。

 彼は自信漲るようにして,一言二言…

 

「儂のヴァンガードを頼むわ,あんたらしいやり方であいつを救ってやってくれ。」

 

 そう言われた瞬間,また世界が変わった。

 白き世界から私は現実に戻るんだと頭が知らせてきて,猩々童子が言っている意味も分からない。

 それでも…私がしないといけない事が分かったような気がした。

 

「あれ,ここ」

 

 気がつくと私は,またあの路地裏でおばあちゃんの目の前に立っていた。

 おばあちゃんは楽しいものでも見たのか,素敵な笑みを浮かべて私を見ていた。

 

「お前さんはお前さんらしいやり方でやるのが一番じゃ。自分の心に嘘をつかず,自分らしくやれば自ずと道は見えてくるじゃろう…その手にあるものが,お前さんの答えなのじゃから」

「え?」

 

 私はおばあちゃんが言っている事が意味分からなくて,いつの間にか自分の手に握られていたものの存在に気がついた。

 

「これ…いつのまに」

 

 それはカードだった,ヴァンガードのカード。

 私が持っているはずがないカードが,どうしてか手に持っていて慌ててその表面を向けると

 

「…あ」

 

 描かれていたのは,華麗に刀を振る赤い鬼の姿…だけど不思議と感じる運命みたいな力を感じて…慌てて私はおばあちゃんの方に意識を向けようとしたら

 

「あれ?ここ…商店…街?」

 

 そう認識した瞬間,私はいつの間にか山吹ベーカリーの外に立っていた。

 さっきまで知らない路地裏にいたはずなのに…どうして…

 

「あれ,香澄?」

「あ,さーや」

 

 気がついたらさーやが目の前にいて,私はようやく外が夕空に染まっているのに気がついた。

 私が路地裏にいた時はまだ青空だった筈なのに…いつの間に山吹ベーカリーに。

 取り合えず私はさっきの事を謝った

 

「さーや,練習の時はごめんね。」

 

 どーくんの事で練習に集中できなくて,沢山迷惑をかけちゃった。

 

「ううん,導志君がいきなり辞めたって言われた香澄の気持ちも分かるしそれに…」

「それに…?」

 

 さーやは安心したみたいな顔をして

 

「香澄,調子戻ったみたいだし」

「…っ」

 

 そう言われて自覚する。

 私は今,無性にどーくんに会いたくなっていた。

 どーくんが会う事を拒絶しているかもしれないって考えちゃうけど,私はやっぱりどーくんに何が起きたのかをちゃんと聞きたい。

 今までの関係が無くなってしまうかもしれないって不安になって…これまで何度もどーくんに本当の意味で寄り添えなかったけれど…でも,やっと気がついた。

 ううん,本当はずっと前に分かってた事。

 こんなにどーくんの事が心配になるのは…どーくんがいないと寂しいのはきっと――

 

「うん…これから有咲とどーくんの家行ってくる!」

 

 そう…私はあの不思議な世界で,猩々童子とタマユラを見ていて思った,考えさせられた。

 私は…不器用でもそっと寄り添ってくれるどーくんの事が好き。

 奥手だけど,周りの事を…私の事を大切にしてくれるどーくんが好き。

 きっと私はどーくんと…そう言う関係になりたいって,思ってた。

 だから有咲は関係ないって言ってたけど,そんな訳にはいかない。

 だって私は…

 

「うん,それでこそ香澄だよ。ちょっと待ってて」

 

 さーやはそう言ってお家の中に入ると,少ししたら出て来た。

 その手には山吹ベーカリーの紙袋があって

 

「はい,これ持っていって。」

「え,でも…」

「私も導志君の事は気になるし,きっと香澄家に帰る暇ないでしょ?」

「うん…ありがとう,さーや」

 

 私はそれを受け取って,一目散に走り出した。

 目指すのは有咲とどーくんの家,きっとどーくんはそこにいる。

 きっと,どーくんに会う前には有咲がいるけど私は私の気持ちをちゃんと伝えないといけない。

 だから私は走り続ける。

 

 




お疲れさまでした!

香澄,いつも通りに戻るの巻。

察してもらえたら幸いですが,この世界普通に惑星クレイあります。
つまり香澄と出会った占い師は…何でしょうね(おい)
カードゲームあるあるのカード生成イベントでした!

次回,VS有咲,VS導志です!
問題です,香澄が見た猩々童子と戦っていた大蛇は誰でしょー

ではでは

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。