なんでこうなったのかと,それを経てどんな事を考えてしまっているのかを書きました。
今日は3話投稿です。
では!
——経過観察が必要ですが,何はともあれお知らせしましょう。突発性難聴です。
その言葉は,落雷のように俺を貫いて来た。
もとより眼が視えないのに,耳まで使えなくなる?
は?冗談じゃねえぞ。
文化祭が終わって,しばらくした時に兆候はあった。
なんとなくみんなの声が遠く感じたんだ。
モニカのPAをする時も,普段の学校生活も,そして決定的に感じたのはプロ試験の最中。
ファイト中,相手とサポートの人の言葉を一言一句聞く俺が,相手のコールしたカードの事が聴こえなくて危うく負けそうになってしまった。
本当にあの時は運が良かっただけ,ダメージで超トリガ―が来なければ普通に負けていた。
完全に俺のミスで…とてつもない不安が襲って来た。
俺の耳がまだ聴こえる内に,やらないといけない事があった。
当たり前だが病院の受診だ。
余り姉ちゃんに言って困らせたくはなかったけれど,どうせ一緒に住んでいたら気がつかれる。
姉ちゃんに言って病院で受診した診断の結果が最初の言葉だ。
「――」
自室で俺はカードを広げて,決勝戦に向けたデッキの調整をしながらもため息を1つつく。
そのため息さえも,殆ど聴こえない。自分の身体を循環する空気がため息した時のものと同じだからため息をついたと自覚するだけだ。
…今はもう,普通の声とかは聴こえなかった。
舞台の時の足音の反響云々の業は,たった2週間で使えなくなってしまった。
姉ちゃんやおばあちゃんとの日常の声も,2人に大きな声を出してもらわないといけなくなった。
そうしないと…聞こえないんだよ.
ただでさえ眼が視えなくて他人に迷惑をかけるしかないのに,その上音すらも聞こえなくなったらどうすればいいんだろうな。
視覚,聴覚が使えないとなると肌感覚で周りの状況を把握してみるか?
…いや,今すぐには無理だしそもそも出来ねえな。
声も聞こえないのなら,今まで出来ていたコミュニケーションも出来なくなるのだからその状況が正しいものなのかすらも分からない。
詰み過ぎだろ
もう生きている意味ないんじゃねと思ってしまう位にはボロボロなんだが。
…ただ,原因が原因だからな。
医者曰く,原因は頭部へのショックだろうとの事。
そう,文化祭で照明が落ちてきたときに枳殻さ…じゃなかった,燈火さんを庇った時にぶつけたあれだろう。
あれ以外で頭ぶつけた記憶がない。
だからあれが無ければ…なんて台詞を言ったら燈火さんが自分の事を責めまくってしまうからそんなセリフを言う事は出来ない。
姉ちゃんに関しては燈火さんに思う事があるのだろうけど,あれ自体に燈火さんに非は殆どないと分かっているから何も言わないでくれている。
まあ,結局診断を受けてから学校は少し休んでるんだが。
姉ちゃんからは俺のスマホに心配の連絡が沢山来てるって点字で教えられたが,眼も耳も聞こえないんじゃどんな返事を書けばいいのか分からなくて姉ちゃんに少し俺となり替わってもらった。
それがいつまで続けられるかは不明だが,長くはもたない。
それに,差し迫った問題はまだある。
言うまでも無く,CiRCLEの事だ。
これまでは耳が聴こえていて,PAも出来るという事で置かせてもらう事が出来ていたけれど…正直,この突発性難聴が治るのかが分からない。
分からない…だから最悪なパターンも考えて,俺はまりなさんとオーナーに事情を話して…退職した。
そうしないとまりなさん達だけじゃなくてお客さんにも迷惑がかかる。
今の俺は,ロボットよりも役立たずなのだから。
…いやロボットを軽蔑している訳じゃないからね?
閑話休題
それでも,まだ完全に聞こえなくなった訳じゃない。
情報戦で圧倒的不利だったとしても,せめてこの決勝だけは出る気だった。
補聴器はいるだろうし,実際もう選んで調整して取り寄せてはいる。決勝戦には間に合う筈だ。
溜めていたバイト代が一部なんか吹っ飛んでしまったが,必要経費だ。
それにカード以外で使う事は珍しいからそれほど痛手じゃないからな。
待ちに待った,悠馬との決勝なんだ。
この戦いで,俺が目指すものが正しいのかが分かる。
例えその果てで,悠馬の夢を潰す事になってしまうかもしれなくても…俺には伝えたかったことがある。
眼も,耳もダメになってしまった。
次はこの命かもしれないからこそ,俺は俺の考えを悠馬に言わないといけない。
でも…まあ,そんな清々しい決意を語った後に大変申し訳ないが…こんな情けない姿を,俺は香澄さんにだけは見せられないと思ってた。
だってそうだろ,この身を動かしてくれるのは悠馬との戦いの為…それが勝つにせよ負けるにせよ,俺のプロになる為の戦いは終わりだ。
まだ耳が確実に治るようだったら再挑戦もあっただろうけど,まだ耳がどうなるか分からない以上両親は認めてくれないだろう。
それに,完全に耳が聴こえなくなってしまったら…ヴァンガードはもう出来なくなる。
香澄さんが俺の両親を説得してくれたから,俺はこの1年を駆け抜けてこられた。
その結末をもう少しで完結させられるというのに,その直前でこのざまだ。
…信じてくれた姉ちゃんや香澄さんに申し訳ないと思うだろそりゃ。
そんな俺の想いを汲んでくれたのか,姉ちゃんは俺の事を香澄さん含めたバンドメンバーに言う事はしなかった。
別に俺はポピパの人や,ガールズバンドパーティーの皆さんとCiRCLE以外で頻繁に会う訳ではない。
だからしばらくは多分大丈夫だろう…そう思っていた俺の姿はお笑いだったぜ。
「…?!」
不意に,部屋のドアが開かれたような風が肌を打ち付けた。
打ち付けたと言っても,新しい風がひんやりと肌に触れた感じだ。
この家には今俺と…多分姉ちゃんが帰って来てる。
おばあちゃんは今流星堂にいるはずだ。
だから消去法で
「—ちゃん?」
姉ちゃん?…そう口は動かしたはずだけど,残念ながら一部の声しか自分でも聴こえない。
日によっては日常会話位でなら割と聞こえる時もあるが,今日に関しては絶賛不調であるから普通に聞こえない。
明日はこれよりも悪いかもしれないと思うと不安で仕方がないが,そんな姿を見せたら姉ちゃんが更に過保護になってしまうだけだから我慢してる。
姉ちゃんは多分,部屋の入口の所にいて…なんか変。
耳が聴こえなくなってからは割と直ぐに腕を掴んで俺を移動させるか何かしようとしてくるのに,それがない。
「——?」
どうしたの?と首を傾げて問いかけると…俺は違うと思った。
何が違うって匂いだ。
姉ちゃんも同じ家に住んでるから,姉ちゃんと俺の匂いは大雑把では殆ど同じでそれを家でに気にする事なんて殆どない。
だから一瞬見落としたけれど,よく感じたら違う。
なんかこう,ふわーとした優しい星みたいな香りだった。
そう思った時,俺は心臓がバクバク震えだして――
「——くん!!」
ほんの一声…それだけでそれが誰なのかが分かってしまった。
貴方には,今会いたくなかったなー。
そう思った時には,俺は既に彼女によって抱きしめられていた。
お疲れさまでした!
てなわけで,導志の独白でした。
診断を受けてから導志は不登校気味,バイトも退職して段々耳が聴こえなくなる恐怖と戦いながらカードと向き合っていました。
それが導志の最後の意地だったのです。
完全に聞こえない訳ではないけれど,って状態ですね今は。
では次,香澄!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話