星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

44 / 56
プロ最終試験
きらきら星


 病院近くのファミリーレストランで,俺と香澄さんは悠馬のお父さんである国俊さんが去った席を前にしながら冷たくなっていたドリアを食べ終えた。

 香澄さんはそんな俺に気遣うように優しく声をかけてきてくれた。

 

「どーくん,さっきの…」

「はい,そうなる可能性があった事は,正直びっくりしてます。」

 

 国俊さんが悠馬の事で話をしたいと言われ,このファミレスにやって来てお昼を注文したあと…本題が始まった。

 それは想像以上に重いもので,やるせないものだった。

 悠馬のプロを目指すアイデンティティが,図らずとも崩壊してしまったこと。

 本当は喜ぶべき事なのに,ただそれだけの為に邁進し続けて来た理由が無くなってしまったが故の自失。

 

「だけど,やることはそれほど変わらないですよ。」

「うん,きっと…どーくんにしか柴咲君は助けられないと思う」

「まあ,助けるなんて高尚な考えは出来ませんが…俺は,俺のヴァンガードであいつと向き合うだけですから」

 

 そう言いながらも,俺はさっきの事を思い出す。

 国俊さんは俺に話しておきたい事があると言い,このファミレスへとやって来た。

 彼は普段会社員をしながら投資家さんとしても過ごしているらしく,調べてみたら経済学でそれなりの功績を持っている人だった。

 そんな彼は奥さん,つまり悠馬のお母さんの療養の為に自然あふれる国俊さんの実家がある北海道へと転勤してた訳だが…

 

「悠馬からお話は聞いてました。悠馬がプロファイターになりたい理由で,お母さんの治療費の為だと言ってましたから」

 

 当時の中学生だった悠馬が,自身の好きなヴァンガードでプロを目指すという考えは分かるつもりだった。

 もう少し歳をとって入れてば国俊さんみたいに投資を始めていたかもしれないが,悠馬にとっての当時の投資はヴァンガードだったのだろう。

 国俊さんの様子は俺には分からないが,香澄さん曰くどこかやっぱりという顔をしていたそうだ。

 

「その事ですが,決勝が決まった時,私は悠馬に奥さんの心配が無くなった事を伝えたのです。」

「心配が…?もしかして…」

「ええ,投資が成功いたしまして妻の治療費や入院費を工面する事が出来るようになったのです」

「わぁ!おめでとうございます!」

 

 国俊さんのご厚意でなぜかパフェをご馳走になっている香澄さんが,彼の奥さんが回復する目途が立ったことを素直に喜んでいた。

 きっと香澄さんの屈託ない笑顔に,国俊さんも表情を柔らかくして”ありがとうございます”と言う。

 だけど…俺は何となく,彼が何に対して憂いを感じているのか分かってしまった。

 

 俺は悠馬がどれだけプロになりたいと渇望していたのかを知っている。

 彼のプロへの存在証明として,お母さんを助けたいという動機が確固たる意志となっていた筈なんだ。

 だから…

 

「もしかして…悠馬は燃え尽きたんですか?」

 

 自分がこれまで目指していたもの,その理由がこんな直前でなくなってしまったら…喜びはするだろうけど,同時に”なんで自分はプロを目指すのか”という根幹部分が消えてしまう事になる。

 動機がなくなってしまうんだ。

 この2年間,プロになる為にやってきた事の意義を…見出せなくなっても不思議じゃない。

 

「驚いた,君は本当に聡明だね。悠馬が言っていた通りだ。」

「悠馬が俺の事を何て言っていたのかは気になる所ですが…それで,国俊さんはどうしてその話を俺に?」

 

 俺からすれば,唯一残っていた俺がプロ試験を勝った時の悠馬の目的を閉ざしてしまうのが懸念点だったけれど,その懸念点が取れた今遠慮なくぶつかることが出来るって考えがあった。

 …まあ,燃え尽きてしまってやる気が無くなってしまった悠馬と戦いたくは余りないが。

 だが,そんな事だけを話に来たわけではない筈だ。

 

「…悠馬は,君とどう向き合ってファイトしたらいいのか分からなくなったみたいだ」

 

 考えてみれば当然か,彼は元々優しい性格だ。

 俺に黙って北海道へ行く事も出来たのに,わざわざ決別のファイトをするくらいには律儀な性格もしている。

 そんなあいつが,あんな極寒の中俺を置いて行って罪悪感を感じないわけない。

 これまでならきっと,プロを目指す大義名分として気にしないことは出来ていたかもしれないけれど…そのプロになる理由が消失してしまった今,遅れて罪悪感が出てきたとしても不思議ではないんだ。

 

「君に酷い事を言った,自分は恨まれてる,君に会う資格が俺にはない…部屋の中で,毎晩そう言っているよ」

「…」

 

 俺がこの2年で変わったように,悠馬も変わったのだろう。

 俺と出会った頃の明るさは,プロにならなければならない義務感で消え失せ,元々優しい性格は被害妄想を繰り広げてしまう臆病風に。

 正直に言おう,あまり聞きたくなかった言葉だった。

 俺にとっての悠馬は先導者だったから…そんな姿は余り想像したくなかった。

 

「プロ試験を棄権するとも言い出しかねない,そんな状態だった。」

「あなたは,悠馬のプロへの道をどう思っているんですか?」

「もちろん応援するとも。悠馬がプロを目指した理由が私の不甲斐なさでもある訳だ。その理由がなくなった今,悠馬には伸び伸びと自分が本当にやりたい事をやって欲しいと思っているよ」

 

 そうだ,国俊さんが悠馬のやろうとした事を解決してしまった今,あいつは自分の意志でプロにならなければならない。

 そして,国俊さんはそれを応援したいと言った。

 なら彼が俺に期待しているのは…

 

「差し出がましいお願いなのは重々承知ですが,どうか…どうか,悠馬を助けてあげてくれませんか?」

 

 彼も,悠馬の父親だ。

 息子のそんな姿を見てしまったら,そして自分にはそんな資格がないと…まあ,なんでそう思っているのかは知らないがあると思っているのなら予想の範疇だった。

 それに…

 

「悠馬に言っておいてください,”俺は逃げずにここまで来た。悠馬と戦う為にここまで勝ち上がって来た。だからお前も逃げるな”って」

 

 元から俺は悠馬とまた戦いたくてプロを目指したんだ。

 その悠馬が俺への負い目から試合を棄権?ふざけんなってしか思わない。

 助ける助けないの話じゃない,俺がここまでやって来た信念を,一番ぶつけたかった相手が敵前逃亡など許せるわけなかった。

 ある意味それは,2年前の決別のファイトよりも不誠実だからだ。

 

「ああ,確かに聞いた。ありがとう,市ヶ谷君」

 

 香澄さん曰く,国俊さんは安堵した表情でこの場を去ったという。

 …あ,因みにお昼代と香澄さんのパフェ代は既に支払われていました。スマートだぜ。

 

 そんな訳で,俺と香澄さんはご厚意で頂いたお昼を食べた後ファミレスを出て…彼女の家へと行く事になった。

 いや変な意味とかではなくて,香澄さんが俺に渡したいものがあるというのと…個人的に昨日香澄さんを帰らせてあげられなかったことを香澄さんのお母さんに謝らないとって思ったからだ。

 香澄さんは家に帰るまで滅茶苦茶ご機嫌だ。

 

「♪♪♪」

 

 そんな彼女を見ていると,さっきの話の緊張感もすっかり無くなってしまい他愛のない話をしながら歩いて行く。

 香澄さんに俺へ渡したいものの詳細を聴いても”内緒♪”と教えてくれずに,結局俺は何も事情を知らないまま彼女の家へと到着した。

 香澄さんの家は久しぶりで,やっぱり緊張するなと思っていても,香澄さんがどこ吹く風と玄関の扉を開ける。

 

「ただいまー!」

 

 香澄さんは家でも香澄さんのようで,元気に挨拶をする姿が似合ってた。

 そんな香澄さんの声に答えるように,多分リビングの方から顔を出してきたのは…まあ顔出しているかは知らんが,香澄さんの妹の明日香さんだった。

 

「あ,お帰りお姉ちゃん。それから…いらっしゃい導志君」 

「ただいまあっちゃん!」

「お邪魔します,戸山さん」

 

 因みに俺は明日香さんの事は普通に名字呼びにしてる。

 基本的に俺が名字呼びスタートっていうのもあるけれど,今は香澄さんを下の名前で呼んでいるから明日香さんを名字呼びしていても余り不便に感じないからな。

 あと,戸山さんとは一応同年代だしな。

 

「あっちゃん,お母さんは?」

「お母さんなら買い物に行ったよ。お姉ちゃんは…あ,そっか。導志君,お誕生日おめでとう」

「ありがとう戸山さん…まあ,俺も今日香澄さんに祝われるまで忘れてたんだけど」

 

 うん,真面目に忘れていた。

 香澄さんが日付を超えるカウントダウンを始めた時にようやく思い出した位だ。

 まあ,仕方がないよな。色々あったし。

 

「お姉ちゃんうるさくなかった?」

 

 そんな香澄さんの姿をありありとイメージ出来るのか,戸山さんが微妙な声色で聞いて来る。

 それに答えるのは俺ではなく香澄さん,脳内図では頬をぷくっと膨らませて戸山さんへ抗議する。

 

「むーっ!うるさくなんてしてないよ!多分」

「多分なんだ…」

「そ,それよりもどーくんと部屋に行くね!」

「はいはい,行ってらっしゃい。導志君もゆっくりしていって」

「ありがとう,ゆっくりします」

 

 そう言う訳で,俺は香澄さんに手を引かれながら彼女の部屋へと行く。

 滅茶苦茶普通に行っているが,香澄さんの家に行く事なんて殆どないから割と緊張してしまっている。

 最後に来たのなんだっけ,確かポピパの主催ライブの事で香澄さんの家でお泊りするっていきなり決まった時に姉ちゃんのお泊りセットを持って来たのが最後だった気がする。

 つまり,何が言いたいのかというと…滅茶苦茶緊張しています。

 え,さっき聞いた?緊張してるからしゃあないね。

 

「少し段差あるから気を付けて」

 

 言われて少し大股に歩くと,無事に部屋の境目にある段差を超えられたようで…ああ,ここ香澄さんの部屋だって言うのが一発で分かった。

 なんというか,あまり変態じみた事を言いたくないけれど香澄さんの香りが充満している。

 余り語彙力がないからあれだが,とにかく香澄さんの部屋だという事は分かった。

 

 俺は香澄さんにここ座っててと言われ,多分ベッドに座らされて手を離される。

 香澄さんはゴソゴソと,何かを置いて何かを開く音を出しながら何かをしてる。

 何かを置いた音は多分,ギターバックを置いた時の物だろう。

 けれど…この開閉音はなんだ…?

 聞いたことあるような,ないような。

 

 俺が考えている間に準備が終わったのか,香澄さんがゆっくりと俺の隣に座って…

 

「どーくん,はい!」

「はいってなにを…え,これマジでなんですか?」

 

 香澄さんの勢いのままに俺は腕に何かを持たされた。

 どことなく丸みを帯びたもの,手触りはすべすべしてなんか触り心地は良い。

 それに,なんか突き出てる箇所と…決定的だったのは糸…いや,弦がある事だった。

 慌ててその弦の数を数えると,6本…え,まさか

 

「これ,ギターですか?」

「大正解!流石どーくん!」

 

 本当に嬉しそうにするのを聞きながら,え,マジかと思っていた。

 

「今日はカードの方を先に渡しちゃったけど…私の本当の誕生日プレゼントはこっち。」

 

 言われて思い出した,確かにカードは香澄さんが路地裏でいつの間にか持っていたものだったが,それが誕生日プレゼントではない事は考えてみれば当然だ。

 突発的に貰ったものを俺に渡しただけなのだから,最初から香澄さんが用意してくれる誕生日プレゼントがある事は考えられるはずだった。

 …いやでも,このギター…手触り的に割といい値段する気がする。

 滅茶苦茶野暮で不毛な考えはばっさりと切り捨てた。

 

「でも…なんでギターなんですか?」

「えっと…去年からお金を貯めてたんだけど,何にしようかなーって思った時にどーくんが文化祭でアコースティック弾いたでしょ?」

「そんな前から…ああいや,確かに弾きましたけど」

 

 人前じゃなく,自分で楽しむように買ったアコースティックギターが文化祭で役に立つとは思っていなかったが…それが香澄さんのこの誕生日プレゼントの選択なのはビックリする。

 友達とかならもっとこう…物理的に軽いものを想像していたから余計に。

 でも,俺がアコースティックギターを弾いた事とこのエレキギターにどう関係あるのだろうか

 

「あれ見た時に思ったんだ,いつかどーくんとライブしたいなって!この前おたえとレイヤさんが2人だけのバンドを組んだ時みたいにさ!」

 

 言われてそう言う事かと納得した。

 割と前に,ポピパの花園先輩とRASの和奏さんが期間限定,2人のバンドを組んでライブをした事がある。

 ミュージックスクールからの繋がりで,姉ちゃんも準備を手伝い,俺も同じミュージックスクールに行っていたからという理由で当日のPAで参加した。

 ああ,確かバンド名「ピンクのうさうさ帝国」って名前で正気かと思ったの懐かしい。

 

「ていうかどーくん,なんでアコースティック弾けるの黙ってたのさ!」

「え,これ怒られる流れだった?」

「だってだって言ってくれたら私だってどーくんと一緒に弾くのに!」

 

 どうやら香澄さんには,俺がアコースティック弾けることを黙っていた事がお気に召さなかったらしい。

 まあ,確かに言われてみれば俺がアコースティック弾けるのを知っている人間って文化祭の時点で少ないよな。

 姉ちゃんはアコギを買う時に手伝ってくれたから当然知ってたけど,他に知っている人は…クラスメイト以外なら練習場所として偶に使わせてもらっていたCiRCLEのスタッフの一部と,公園で偶々練習していた時に鉢合わせしたRoseliaの湊先輩位か。

 湊先輩は色々教えてくれたから彼女に見つかった時の事は割と覚えている。

 

 そして,香澄先輩もアコギを弾けるんだが,なんで俺が共通するアコギがあるのに黙っていたのかというと…これ特別な理由は殆どないんだよな。

 別にアコギ弾けることを隠しておきたいという訳ではないし,聞かれたら普通に答えるくらいな事柄ではある。

 …ああ,でもあったわ。俺が自分から言いふらさない理由。

 自分も,周りも信用するのが難しくなっていた頃の時期に始めたからきっと…

 

「多分…一緒にやろうって言われるのが,怖かったんだと思います」

「…どうして?」

「エレキギターじゃなくて,アコギの方にしたのは1人で伸び伸び出来ると思ったからだと思います。アコギを買った時の俺は,音楽へもう1度手を伸ばそうと思っていたから…何となく,エレキの方だとバンドをイメージしてしまいますし。それに…」

「それに?」

 

 俺が言葉を区切ってしまっても,香澄さんは辛抱強く待ってくれた。

 俺もこの理由を話すのは,また暗い雰囲気にしてしまうから勇気が必要だったからだ。

 別に,香澄さんはちゃんと聞いてくれると分かっているのだけれど…俺は,彼女がくれたギターを少し抱きしめて口を開いた。

 

「一緒にいれば,いつか別れもやって来る。」

「どーくん…」

「それがあの時の俺には心から怖くてたまらなくて…アコギの事を話さなかったんだと思います」

 

 悠馬によって導かれ始めたヴァンガード,そのヴァンガードによって俺達は袂を断った。

 プロを目指すと決めた時でも,その傷が言えたわけではなかった。

 いじめられた時の傷痕もあったし,あの時の俺は香澄さんやポピパの人達をそれなりに信用しようと思った時点でかなり頑張っていた方だ。

 このアコギで,また誰かと繋がって…また俺の前からいなくなる…そうなる位なら,俺は1人でやっていたかったんだと思う。

 

 香澄さんにとってアコギも含めた音楽は,誰かと繋がるもの,誰かと楽しむものだ。

 だけど,俺にとってのアコギはそうじゃない。

 1人でやる為の理由で…この考えの違いが,少し彼女に言うのを躊躇った理由だ。

 

 少し,無言の時間が過ぎて…俺はゆっくりと香澄さんに抱きしめられた。

 彼女の顔が俺の横へやってきたとき,彼女の香りがふわりと俺を包み込んで…余りにいきなり過ぎて固まってしまった。

 

「香澄…さん?」

「だいじょうぶ,だいじょうぶ。どーくんは1人じゃないよ」

 

 そう言いながら,香澄さんは俺の背中へ回した手でさすり始める。

 くすぐったくて,すこしぎこちなくて,でも確かに伝わる彼女の優しさは俺を安堵させるには十分だった。

 ギター持ってるから抱きしめ返せないけど,彼女の優しさはちゃんと伝わっている。

 だから――

 

「分かってます,今は大丈夫だって」

 

 信じることはまだ怖い。

 だけど…それでも今をこうして一緒にいてくれる人がいる。

 背中を押してくれたクラスメイト達がいる。

 それに――

 

「一緒に…背負ってくれるんでしょ?」

 

 昨夜彼女が言った言葉を反芻し,確かめたら…彼女は嬉しそうに首肯した。

 

「うん!」

 

 そう言って香澄さんは照れくさそうに抱擁を解除し,少し沈黙が俺達を包み込む。

 かと言って気まずい訳でもない,何となく気恥ずかしいだけだ。

 

「そ,それでどーくん。ギター,貰ってくれる?」

 

 香澄さんも熱からそれなりに冷めたのか,滅茶苦茶声を震わせながら聞いて来るくらいには。

 

「はい,ありがたく使わせてもらいます。香澄さんとの期間限定バンドは…それなりに弾けるようになってからになりますけど」

「どーくんなら直ぐ出来るよ!アコギだってあんなに綺麗な音出せるんだもん!…あ,そうだ!今からセッションしよ!」

「今初めてギター触れたばかりなんですが?!」

 

 さらっとセッションしようと言って,ベッドから降りた彼女は自分のギターバッグを開けてランダムスターを取り出して俺の隣に並んだ。

 

「習うより慣れろだよ,どーくん!アコギみたいなものだよ!」

「うーん,微妙に違う気がする」

「じゃあ先ずはきらきら星からね!」

「そして始まってしまうミュージック」

 

 俺が何かを言う前に,香澄さんは弾き始めてしまい…俺は彼女を音を負うように我武者羅に音を出し始めた。

 我武者羅にやりながら俺はまだ微妙に聞こえ辛い耳をフル稼働させて,耳が悪くなる前の相対音感の感度を1割位引き出せるようにしようとしたけれど…そこまで回復していなかったから途中で諦めた。

 代わりに,俺は手を動かす事に必死になって…俺達は夕方になるまでセッションを繰り返していた。

 コード進行とかなーんにも考えない,ただ鳴らすだけのセッション。

 だけど…香澄さんと一緒だからか,凄く楽しかった。

 

 ☆

 

 翌日,俺がやって来た教室は何故か騒然となっていて,開口一番園田には…

 

「導志,()()()たんだよそれ!」

「うん,新手の高度なギャグか園田。」

「違うわ!…じゃなくてそれだよ!」

 

 それじゃ分からん,こちとら眼見えないんだぞ。

 …ただ,何に反応しているのかは分かっているつもりだ。

 そもそもこちとら実質2週間ぶりの学校だからな。

 先週と先々週は…難聴宣告されてへこんで精神的に死んでたからな。

 津島先生には報告していたけれど,この感じ俺の言葉を汲んで知らせてなかったみたいだな。

 

「それ…イヤホン?でも形が少し…」

 

 この感じ多分周りに人が集まってきているな,今の多分北村学級委員長。

 やばいな,やっぱり聞くだけで分かる領域に戻るにはまだ時間がかかるみたいだ。

 それはそれとして,別に隠す気も無かったから普通に教えた。

 

「イヤホン…じゃなくて,補聴器だよ」

「え?!なんで?」

「だってそりゃ…2週間前突発性難聴って診断されてたから」

 

 沈黙するクラスメイト,昨日少し寝るの遅くなった俺は欠伸,俺の胸で多分香澄さんからのメッセージで振るえるスマホ…先に口火を切ったのはクラスメイト達だった。

 

「は…は,え…」

「ど,導志君…突発性難聴って」

 

 燈火さんが俺の前の席から唖然とした様子で呟いている。

 まあ,津島先生には報告していたけれど,黙っていてほしいと言ったからそれを守ってくれた形なんだろう。

 だから燈火さんは自分が原因の一端を担っている事を知らない筈だ。

 俺も言う気なんて無いしな。

 

 …あ,でも学校側からは賠償金出るみたい。

 当たり前だよな,だって向こうの整備不良で燈火さん下手したら死んでいたんだし…その賠償金で補聴器代を補填出来たのは内緒。

 結局俺の懐は余り痛まなかった。

 

 閑話休題

 

 突発性難聴って事を黙っていた俺に降り注ぐは叱責という名の友達からのお怒りであろう。

 ほら,園田が俺に詰め寄って

 

「い,いや導志なんでそれ黙ってんだよ?!」

「ああ…いや,うん。あとで命一杯怒られるから…園田,今週の日曜,用事ある?」

 

 怒られ始めたら長くなるだけだと分かっているので,とりあえず今日聞いておこうと思った事を聞くことにした。

 園田は流石に俺へ詰め寄りたかったみたいだが,俺が人の予定を聞くことが珍しかったのか一瞬止まって首を傾げた。

 

「用事はないが…導志はプロ試験最終戦だろ。っていうか,お前突発性難聴って出られるのかよ?」

「そっちはまたやらかさない限り大丈夫な筈だ。医者からも回復に向かっているとお墨付きは貰っている。用事がないなら少し頼みたい事があるんだが」

 

 俺の頼み事を聞いた園田は多分目を丸くしながらも,せまく受け入れてくれた。

 さあ,これで準備はデッキ以外は万端だ。

 …あれ,デッキの準備こそ万端にするべきでは?

 

 

 

 

 




お疲れさまでした!

という訳で,悠馬の現状と誕プレのお話でした。
前回のカードは厳密には誕プレではなかったので。

悠馬はお母さんの為にこれまで頑張ってプロになろうとしていました。けれど,そのお母さんの治療費を父親が捻出してしまったことで逆にプロになる理由が消失してしまいました。
逆に燃え尽きない方が嘘だと思いますね。


そして香澄からの誕生日プレゼント,ギターです。導志がアコギに手を出したのは中3の秋位(の設定)ですが,文化祭までアコギ出来る事を香澄は知りませんでした。
導志自身は隠すつもりはなかったのですが,話の中の理由で無意識に黙っていました。
それを否定する訳でもなく,包み込む香澄というお話です。

では!
今更ですが感想あればあるほど主は喜びます( ´∀`)b

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。