てなわけで,初めての悠馬視点から見た決別のお話と,その後のお話です。
このお話で悠馬の人となりが分かってもらえたらなと思います。
ではでは!
母さんの為にプロになりたい…そう願ったのはいつだったかな,気がつけばそんな夢を抱いてた気がする。
ヴァンガードを始めたころの俺はまだガキで,お金を稼ぐ方法なんて思いつかなくて,母さんの治療の為には途方もないほどのお金が必要になるとだけ分かってた。
だから俺はヴァンガードの実力をお金に変える事が出来ると知った時,プロを目指そうと思えたんだ。
母さんの為って理由は母さんには話せなかったけれど,母さんが
「あなたならきっとなれるわ」
病院のベッドでその事を報告した時の,夢を見つけたと聞いた時の顔がひどく嬉しそうで…悪い事をしている訳でもないのに心苦しかった。
だけどこれでプロを目指せる,先ずは奨励会に入会できる歳になるまで色々なショップで武者修行をしよう…そう思って色んなカードショップを巡っていた時…不思議な男の子と出会った。
長い棒を床にコツンコツンって響かせながら,迷い猫のようにカードショップに入って来た同い年くらいの男の子。
俺は最初,彼の眼が視えない事に気がつかなかったけれど,偶々近くで作業していた店員さんが長い棒は白杖と言って眼が視えない人が使う道具だと知って…何となく,興味本位で声をかけた。
「ここってどこだろう」
「どこだろうって,カードショップだけど。変な奴だな,そんなの見ればわかるのに」
言った後にしまったと思った。
見えないってさっき聞いたばかりだろあほか俺。
ほらこの子も困った顔をしてる。
「分からないよ,視えないんだから」
困った顔…というよりもムカついている顔?
うぅ,ごめんよ。
悪気はないんだ,本当にごめんよ。
…ただ,そう言うのが何となく怖くて俺は話題を強引に変えたんだ。
出来るだけ明るく,彼が気にしないように。
「あ,そうだ,なんかカードゲームやってる?」
また言った後にしまったっと思った。
だから視えないんだって俺のバカ!
案の定,彼は怒ったように
「眼が視えないのに出来る訳ないでしょ」
俺は自分の言葉を撤回したくなくて…中学生なんて無駄にプライドだけ高い時期だから赦してマジで。
自分でも滅茶苦茶に思うほどの切り抜け方をしてしまった。
「そんなの誰が決めたんだよ,やった事ないんだったらヴァンガードしようぜ!」
そう言って俺は強引に彼へヴァンガードを教えた。
彼が手に取ったカードは猩々童子…正直,環境的にはあまり強いとは言えないカードだった。
使い方は難しいし,テクニカルな戦略を必要とするし,もっとやる事が単純で強いデッキは他にもあったのに…俺は彼が,市ヶ谷導志が光の無い眼を精一杯輝かせ猩々童子を手に取った時の表情が…嬉しくなってそれでヴァンガードを教えた。
当然だけど滅茶苦茶に教えるのは難しかった。
何度もそこやあれって指示語で言ってしまって彼を困らせた。
今までこうして人に,それも眼が視えない人にティーチングするなんて経験が無くて…ノリと勢いだけで誤魔化していた事も正直ある。
だけど…導志は時間をかけながらもヴァンガードへどんどんとのめり込んでくれるのが嬉しくて,ついいらないお節介もした。
彼がお姉さんに連れていかれる時も,何となくまた会いたくて
「休日はここにいるぞ~」
嘘だ,本当は他のお店でファイトもしたかったし,あのお店だけに留まる気はなかったんだ。
だけど一度口から出た約束は守りたくて,休日はあのカードショップに行くようにして…彼が来なかったらどうしようと思った時,彼が来てくれた時は本当に嬉しかったんだ。
そうやって,俺と導志はヴァンガードを通じて繋がりあい…彼は眼が視えないながらもめきめきと上達していった。
時には俺ですら考えられなかったスキルの組み合わせを教えてくれたり,逆に俺が教えてあげたり…気がつけば,眼が視えない変わり種なファイターという事で導志の存在はあのショップでは有名になり始めた。
それが嬉しいと思うと同時に…
——俺は,このままでいいんだろうか
心のどこかでそう思い始めていた。
俺はプロになる為にショップ巡りをして…どこか1つの場所に腰を下ろすつもりは無かったのに…いつの間にか,導志と一緒にいる事が当たり前になって,ゆっくりと確実に成長していく導志を見て,変わっていない自分に気がついた。
1つの所に留まり続けたら成長なんて出来ない…そう思っても,導志にその事を言う勇気が無かった。
でもこのままじゃプロになる事は永遠に出来ない,プロを目指すつもりがない導志といれば…本当にプロになれないんだと強迫観念のように思い始めていた。
そんな時開催されたカードフェスティバル,エキシビションマッチ…当時の世界ランク1位の月城さんとのファイト。
俺達は2つ分の戦略を取ることが出来るタッグファイトで彼に挑んだはずなのに,俺達は見事に戦略を潰され手も足も出ずに負けた。
ダメージ差云々の話じゃない,ファイト上の全ての事が絶対的に月城さんへ届かない事を表していた。
アタックしてもアタックしても,まるで底の無い砂浜を攫うように…手ごたえを感じることが出来なかった。
その時思い知った,プロになるにはこれくらいの事をしないといけない。
強くなるには,もっと研究して,もっとファイトをして…同じような環境の人とファイトし続ける必要があるんだと。
「楽しかったよな」
フェスティバルの帰り道で,導志にそう言われた時…ああ,お前は違う所を見ているんだな,プロじゃないどこかを。
なら俺達の道はここで別れるべきだと,静かに決めた冬の日。
丁度,と言ってはあれだが父さんの仕事と母さんの療養の為に北海道への引っ越しも決まっていたし…俺は導志と決別することを決めた。
そう決めたら,俺は引っ越しの準備や変わる為の準備で導志へ会わなくなった。
というよりも会わないようにした。
偶にいつものショップで見かけても,俺は声をかけることはせず踵を返した。
そうやって,いよいよ引っ越しの前日…俺は導志を呼び出して…決別のファイトをした。
1か月間,色んな人のファイトを見て研究し,胡散臭いヴァンガード教室にも通い,出来るだけ無駄を削ぎ落したファイト。
勝つために,導志と袂を分かつ為に,ロボットにでもなるのかって位自分を出さないファイト。
以前とは別物だと,自分でも思っている。
だけど,それでも俺はプロになりたかった。
プロになって母さんを助けてあげたかった。
——母さんが俺に与えてくれたヴァンガードで,俺が母さんを助けるんだと
その一心だけで導志と向き合ったファイト,彼は…本当に強かった。
怒っているように見える癖に冷静で,時には奇想天外な事をして…きっと,俺がプロにならないと決めている世界線なら笑い合って,バカやって,唯一無二の親友なんだと思えていた筈だ。
だけど俺はその考えを捨てる,導志を見放す,導志を切り捨てる…俺は,俺自身の身勝手な考えで俺が巻き込んだ導志を置いて行くんだ。
人間として最低だなんて分かってる,導志に怒る資格はあるし,俺に否定する資格なんて無い。
せめて,最後に彼と向き合ってファイトをして…これが導志との最後のファイトだと言い聞かせたら…涙が溢れてきた。
静かに流れる涙,分かっている。本当は導志ともまだ一緒にファイトをしていたい。
それでも…俺は――
「まって,悠馬」
ファイトが終わって,俺は勝つことが出来た。
俺はここにいると自分がもたないと悟り,彼に別れを言う資格なんてないと分かっているから静かに踵を返した。
途中,導志が雪で滑ってこけているのをみた。本当は駆け寄りたかった,だけど俺にそんな資格はないんだと言い聞かせ,心の中で彼に謝りながら雪の街を走って…導志と決別した。
導志との最後のファイト…自分を偽り続けたファイト…楽しくなかったな
俺は北の大地へ,導志との関係を断ち切り新たな環境でプロを目指す為に邁進し続けたんだ。
決別から2年,高校に入学すると同時,奨励会へ入会し本格的にプロを目指した。
奨励会支部の中で対戦成績が良い人は基本的にプロ試験への挑戦が認められる。
俺は支部の中では新進気鋭の新人として,常勝し続け無事にプロ試験へ出る事が決まった。
ようやく,ここまでこれたんだと…色んなものを捨てて辿り着いたプロ試験。
最終試験への出場を決め,上京までにもっと腕を磨こうと支部の人達とファイトをしていた時…それを知った。
奨励会の支部のモニターにはプロ試験の状況が出る事があるんだけれど,決まった最終試験のトーナメント表を見て…
「…は?」
俺はCブロックだった,それは別に良い。
どこにいようとも勝つのは俺だと言い聞かせていたから,誰が相手でも関係ない。
そう思っていたのに,Aブロック1回戦で
「なんで…お前の名前があるんだよ,導志」
久方ぶりに呟く彼の名前,鉛のように腹の底で重く感じた。
それが罪悪感だと分かっていたけれど,呟かざるおえなかった。
だって,お前はプロにならないんじゃなかったのか…楽しさを追い求めてたんじゃないのかよ。
もちろん,もし導志と当たるとしても決勝しかないと分かっていたけれど…俺は,途端に目の前が真っ暗になった気がしていた。
それが何なのか分かったのは,導志との決勝が決まった時だった。
きっと俺は面向かって彼に責められる,袂を分かつことをした事を,彼は俺に詰め寄りたくてここまで来たんだと…被害妄想甚だしい事を思ってしまっていた。
そして…自分の事で精一杯ですっかり忘れていた事がもう1つあった。
なにも,母さんを助けたいと思って動いていたのは俺だけじゃないという事。
決勝進出が決まり,胸がモヤモヤしながら日々を過ごしていた時,父さんから電話があって応援に北海道から来てくれること,そして――
「黙っていて悪かった悠馬,実は…母さんが手術を受けられる事になったんだ」
「…え?」
なんて言われたのか,最初分からなかった。
莫大な費用がかかる手術を,父さんは受けられると言って来たんだ。
なんでもその分野では特に秀でている名医が東京にいて,続けて来た投資が成功したとかなんとかで詳しい話は殆ど分からなかった。
けど,分かったのは…俺がプロになる理由が無くなってしまった事だった。
正直,頭が真っ白になって…急に何もかもが色褪せてしまった。
導志を裏切ったあの日から,母さんの為って大義名分でプロを目指し続けていた俺のヴァンガード。
それだけが俺に色を付けてくれていたのに…母さんが助かると聞いて,なにもかもが分からなくなってしまった。
父さんを責めることなんて出来なくて,俺は嬉しさと無気力さで表情をごちゃ混ぜにしてしまっていた。
当然,父さんには眠り続ける母さんと上京してきたときに気がつかれて…導志以外には話したことが無かったプロを目指す理由を話した。
父さんはビックリした後,複雑そうな顔をしながら俺の肩に手を置いて
「————————」
何かを言ってくれたのは覚えてるけど,それが俺に届く事は無かった。
その日から,母さんが助かる事への喜びと…決勝への不安から眩暈がするほど疲れてしまい気がついたら俺は夢の中で,導志から過去の事を糾弾する夢を見た。
『お前が勝手に巻き込んだのに,いざとなったら見捨てるのか,は?』
「違う…違うんだ導志,俺は…」
母さんの為に…そう,夢の中で言おうとしても口は勝手に閉じる。
母さんの為にプロを目指したのに,その理由が無くなってしまってそんな事を言えるわけなかったんだ。
すべては言い訳に過ぎなくて,俺は決勝が近づく度に…導志と向き合うのが怖くなった。
決別のファイトをして,もう会わないと決めていたのに…導志はまた俺に会ってしまう。
…そうだ,試合を棄権すれば導志と会わなくて済む。そうだ,そうしよう。導志はプロになれて喜ぶし,俺は導志と向き合わなくてもよくなる
そんな最低な考えまで出てきたとき…父さんが言って来た。
母さんの見舞いへ病院へ行き,その帰り道で導志と謎の女の子が一緒にいた事。
声をかけた事,そして…
「導志君からの伝言だ,”俺は逃げずにここまで来た。悠馬と戦う為にここまで勝ち上がって来た。だからお前も逃げるな”…だそうだ」
あいつ超能力者かよ…普段の俺ならそう思っていたのに,俺にはその言葉凄まじい重圧となって襲って来た。
吐き気を催すほどの自己嫌悪で,目の前が真っ暗になった。
それでも…あいつの言葉を俺には叶える義務がある。
そうしないと…いや,今でも十分にクズだが本当のクズになってしまう。
ただそれだけの義務感で,俺はここにやって来た。
たったの1戦,これからのヴァンガード界を盛り上げるための新星を見るために集まって来た人達のざわめき。
そして,俺の反対側の入場口にいる導志と…見たことも無い誰か。
会場は今か今かと最終試験を待っていて…遂に,その時が来てしまった。
「ご来場の皆様,大変長らくお待たせいたしました!これより,奨励会主催,ヴァンガードプロファイター試験最終戦を開始致します!!」
解説の人が会場を煽った瞬間,凄まじいまでの歓声がこの会場,有明アリーナに響き渡る。
俺は無意識に止めていた息を吸い込み,重たい足を差し出した。
「数々の激闘を潜り抜け,プロになれるか見定めるこの場に残ったのはこの2人!」
瞬間,俺の眼に照明の光が当てられ思わず眼を閉じて…またゆっくりと開いた。
そして会場中央に置かれているファイトテーブルへと歩みを進める。
「北の大地からやって来た凄腕ファイター,正確無比なカード捌きで数々のファイターを撃破してきた期待の新星…柴咲悠馬!」
俺の紹介で会場は一段と盛り上がりを見せて,反対の入場口にいる彼を見る。
「対するは,関東地区で突如として現れたダークホース!盲目でありながらも卓越した記憶力と戦略眼で勝利を重ねる新進気鋭のファイター…市ヶ谷導志!!」
導志は謎の男と一緒に歩みを進める。
白杖を持つ手は変わらず,だけど出会った時よりもずっと圧を感じる気迫は彼が変わった証なのだろう。
この2年間,導志は最初なるつもりなかったプロへ王手をかけて来た。
本当に…凄いと思う。
才能の差なのだろうか,俺よりもプロを目指したのは遅かったのに,今俺と同じ場所に立っているのだから。
そんな現実逃避じみたことを考えていると,更なるアナウンスが鳴り響く。
「尚,市谷選手には大会規定に則り,サポート人員として園田忠道さんが入ります」
…普通に忘れていた,導志にはサポートする人…俺の使ったカードを教えたりする人を連れて行けるというものがある。
今回はそれを使ったのだろう。
大会委員じゃなくて,どうやら知り合いに頼んだらしい。
園田と呼ばれた男はいきなり何千人という人の前に立ったからか酷く緊張している様だったが大丈夫だろうか。
――人の心配をしている場合じゃないんだが
俺と手を伸ばせば触れ合える距離までやって来た導志は,解説の人が何かを言っている中でもそれを無視して,あの決別の日のようにデッキを掲げた。
何を言われるのか,怖かった俺は身体を強張らせて
「悠馬,お前がなんで俺を置いて行ったのかもう言葉では問わない。だから…ファイトしよう,今日今からここで!」
「——っ」
彼の眼は,2年前と違ってどこまでも真っすぐだった。
「…ああ,それでお前の」
気が晴れるなら,そう言おうと思って辞めた。
どうせ導志は父さんから母さんの事を聞いている。
じゃないと,逃げるななんて言葉は伝言として託さない。
そもそも…許してもらおうと思っている時点で烏滸がましい。
「いや…何でもない。…やろう,ファイトを」
それが今の俺が導志に出来る精一杯の罪滅ぼしだと信じて
お疲れさまでした!
普通にうつ展開のつもりで書いてました。難聴のお話もそうですけど,なんかシリアス展開書いている方が筆が乗るのって何なんでしょうね。
悠馬はお母さんの為にプロになろうとしていましたが,その理由が無くなってしまって代わりに導志を裏切った事に対しての罪悪感が大爆発しています。
次々回,本編内ラストファイトです!
では!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話