星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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という訳で,2話連続です。
ファイトまでの導入と,ファイト本編です。
では!


宣戦布告

それが夢だと気がついたのは、俺の身体の事を思えば当然だったかもしれない。

 1つ眼を開けたら広がっていた和風の屋敷。時代劇に出てきそうな程に洗練された建物に俺は圧倒された。

 俺が住んでいる家を思い起こさせる屋敷でありながら、規模と感じる威圧感はまるで別物だった。

 

「ここ…は」

 

 俺の眼は既に光を失っている。

 だから、普通ならこの視界が広がっている状況に驚くはずだが、不思議と心は穏やかだった。まるでこれが当然であるかのように、俺はただ周囲を見渡す。

 

 屋敷の周りには桜が咲き誇っていて、その美しさに息を飲むしかなかった。花びらが風に乗って舞い落ち、ふわりと俺の手のひらに触れる。その瞬間、冷ややかな感覚が現実のものか夢のものか分からなくなる。

 そして…ふと顔を上げると――奇妙な男が立っていた。

 

 …いや、いきなり会った男性に「奇妙」だなんて失礼だと自覚しているが、俺じゃなくてもそう思うだろう。

 彼の姿は燃えるように赤い髪で彩られ、その髪の一部は額から白く垂れ下がっていた。彼を形作る色は、まさに「赤」としか表現できない。さらに、頭部には不思議な形の角が生えている。

 

 彼は俺を見下ろし、挑戦的で自信に溢れた表情を浮かべている。

 

 さらに目を引いたのは、彼の格好だ。

 赤を基調にした服装は、まるで着物と鎧が融合したかのようで、歴史のどの時代にも属さない異様な佇まいがあった。彼の右腰に帯刀されている長い刀の存在が、俺にこの場が「夢」だと知らせた。

 

「あなたは…」

 

 しかし、不思議と彼には既視感があった。どこか懐かしい、そして近しく感じる。お前とあったあの日から、まるで兄弟のように感じてるんだ。

 

 彼もまた、親しみを込めたような微笑を浮かべながら俺の手を取る。そして――

 

「     」

 

 彼は何かを告げるように口を開いた――その瞬間、全ての泡沫が消え去るように、俺は目を覚ました。

 

 

 ☆

 

 

 目を覚ました俺は,当たり前のように暗闇の世界にいた。

 と言っても,俺以外の殆どの人間にはカラフルな刺激的な世界が広がっているのだろうが…こうやって空しくなるのにもなれてしまったのは俺が諦めてしまったからかな。

 

 適当に動く両手を探り,目覚まし時計を止めておいて俺は身体を起こす。

 すると,ズキッとした頭の痛みが走り額に手を当てる。

 熱がある訳ではないが,昨日のホームルームの事を思い出して憂鬱が抑えられなかった。

 

 俺は…高校に入ってから,多分香澄さんの影響かそれなりにクラスメイトと交流を持っていた方だった。

 中学では殆ど誰とも関わりあわなかったから,そうやって赤の他人に助けられることに慣れていなくて…でも,毎日学校に行こうと思う位には気にいっていた場所だった。

 

 だけど,俺は高校に入ってから…初めてあれだけ他人と,入学初日から俺を手助けしてくれた園田と喧嘩をしてしまった。

 別に殴り合いって訳でもないけど,時に人間は拳よりも舌戦の方が精神的に参るのは多分誰でも同じだろう。

 俺も一日経って,色々冷静に考えた。

 

 結果としては,やっぱり俺が舞台に上がるべきではないだろうってものになるしかない。

 確かに俺のクラスには演劇部員も何人かいるが,彼らも眼が視えない人と舞台をやった事なんて無いだろうし俺は演技をそもそもした事がない。

 素人が,それも眼が視えない奴が出しゃばった所で台無しにしてしまうのが眼に視えている。

 高校生活初めての文化祭を,他の奴らが楽しめなくなるような事は許されない。

 

「…にしても,あいつはまた意味分からんことを」

 

 思考がネガティブに行きそうだったのを,無理やり思考を変える事にした。

 その矛先はさっきの夢,もう既に男の姿は夢うつつになって殆ど記憶がぼやけ始めているけども胸に残る暖かさは残ったままだった。

 あの男の夢を見るのは初めての事じゃない,何度も見る夢だ。

 見るたびに彼が俺に何かを言ってくれているのは分かっているのだが,彼の言葉が分かるようになるのは決まって俺の何かが変わった時だ。

 

 俺は悶々と色々考えながらも,いつも通り準備を始めた。

 正直学校に行きたくない気持ちが8割位占めていたが,今日はCiRCLEのバイト…それも先日からPAとしても任せられるようになったから行きたくない気持ちを引きずって出来る訳ない。

 自分の心を鬼にして,自分に鞭を売って学校へ行くことにする。

 

「今日も行くか」

 

 俺は慣れたように着替えをして,軽く髪を梳かしてから机の上を物色する。

 次第に箱のような形の物…デッキケースを手に取って鞄に入れた。

 毎日持ち歩いているお守りみたいなものだ。ヴァンガードを始めてから,今まで忘れた事は殆どない。

 

「よし,行くか」

 

 大切な物を鞄に入れて姉ちゃんやお祖母ちゃんに一言言って俺は家を出た。

 

 因みに,珍しく香澄さんは来てなかった

 

 学校に向かう途中,園田達とどういう面を合わせれば良いのだろうかとか色々考えたが…結局気まずいという考えしか浮かばなくて出来るなら今日は余り喋りたくないのが本音だった。

 園田がまだ俺に鬼役をやらせたいのかは分からないけど,クラスメイト達の解散前の空気からすれば俺が推されるのはない筈だろう。

 

 ——そう思っていた俺の姿はお笑いだった

 

 教室に着いた俺は,そのこれまでになかった温かみを感じる空気に戸惑いが少し隠せなかった。

 これが入学初日とかなら,少し奇妙な眼を見てくる若干冷たい眼の方が多かった位なのだが何故か雰囲気としては真逆だ。

 

 いや既に入学してもう少しで半年も経とうとする頃なので分からないものでもないのだが,少なくとも昨日までは冷たくも暖かくもないただの平和な空間位にしか感じられなかった筈だ。

 

「あ,おはよう市ヶ谷君」

 

 俺がその変化に戸惑いながら席に着くと,目の前で既に座っていたであろう枳殻さんが少し弾むような声で挨拶をしてきてくれた。

 まあ,挨拶位はいつも通りだったから戸惑いもそのままに挨拶をし返す。

 そして,俺は園田がいるのか口を開こうとして…閉じた。

 

 あいつの考えが分からない以上,俺はまだあいつが俺に”鬼”役とやらをやらせたいと考えるべきだからだ。

 俺は役者なんてやりたくない,迷惑かける事を既に決定しているようなそんなものに俺がやる意味がない。見出せない。

 だから――

 

「導志」

 

 そんな事を思っていたら,タイミング悪く声をかけられた。

 同じクラスなのだから当たり前だが,こうも早く声をかけられると思っていなかったから少し心で身構える。

 園田は,普段よりも数倍低い声で,決意を漲らせていた。

 

「昼休み,俺に時間をくれないか」

「…昨日の事なら断る」

 

 答えながら周囲の気配を探る。またドラゴ〇ボールの世界の住人かとか言われそうだが,雰囲気の黴を感じることは本来誰もが持っている能力だ。

 俗に言う嫌な予感もその一種だろう。まあ,あれは第六感にも似た感じだが俺がやっているのはその拡張版でしかない。

 眼が視えない俺は,相手の顔が視えない欠点がある。それを補うために昔からしていた事…周囲の状態をイメージすることで彼らの持つ雰囲気を何となく言葉に出来るだけだ。

 

 その俺自身の第六感によると…否,これ第六感というかただの現実として園田が俺に声をかけた瞬間にそれまでおしゃべりをしていたクラスメイト達が一斉に静まり返った。

 まるで固唾をのんでこの状況を見るかのように,ひとりひとりが俺達の行動に注目している様だった。

 その雰囲気に,俺は内心で絶句した。

 

「どうしてもか?」

「そもそも,この体たらくの俺に主役を張らせようというお前の神経が信じられない」

 

 この感じ…殆ど全員園田に付いてるんだろうな…よくよく考えたら,昨日ホームルームが終わった後に教室を出たのは俺だけだったしあのチョークの音…先生は日直だとか言っていたがもしかすると違うかったのかもしれない。

 もう遅いけどな。

 

 …あーあ,こうやってまた俺の知らない所で派閥が出来て異端者の俺が迫害されるのかね

 

 だけどまあそれならそれでいい。今までが優しすぎただけだ。

 俺の周りなんて,元からそんな人間ばっかだったじゃないか。今更前に戻って何が困る。

 それなら,前と同じようにすれば良いだけなんだ。

 

 そうやって…ここにいる連中を敵にする覚悟が出来たら…不思議と楽になって,俺は過去のように殺気を放った。

 どっかのアニメのように感じ取れるものじゃない。自分から出すっていうのも変な話だが,そうやって人を避けていた時の俺と同じように”近づくな”を周りに思わせるかのようにした。

 

 …数秒,沈黙が続いた。

 やがて,前から声が続いた。

 

「…眼が視えない事を,一番に意識しているのは…お前だろ導志」

 

 …そう言われた瞬間,俺の頭を何かが駆け巡った。なにかが切れたと言った方が正しいのかもしれない。

 

「市ヶ谷君!」

 

 多分,神田さんの悲鳴じみた声が耳にこだまするのを感じながらも俺は叫ばずにはいられなかった

 

 

「俺の世界を知らない奴が,俺の事を語るな!」

 

 

 俺は…もともと世界が嫌いだった。神様とか言う奴も運命とか言う奴も全部大っ嫌いだった。

 姉ちゃんや●●を守った事は後悔していない。

 だけど,世界はいつだって”普通”を求めてくる。

 ”普通”じゃないだけで,平然と人に刃を向けてくる。

 ”普通”ではなくなった俺の事情なんてお構いなしだ。

 そうなるように世界を作ったその抽象的な第三者が大嫌いだ。

 

 それがどんなに苦しいのか,”普通”であるてめえに分かる訳がない。

 

 けども,意外に相手も覚悟が決まっていたらしい。

 

「ああそうだよ!導志が俺の考えを知らないのと同じようにな!」

「——っ!」

 

 当たり前だろそんなの,てめえの意味不明な考え方なんてしるか。

 それがまかり通ったら,この学祭をクラスの奴らは心から楽しめねえだろ。俺がただただ迷惑をかけただけの文化祭になんの価値がある。

 そうやって俺はまた,他人に迷惑をかけるというのなら俺なんて必要ない。

 

 だって

 

「てめえの考えなんざ知るか!!俺がいなければ誰にも迷惑をかけないだろうが!それのなにがダメなんだよ!」

 

 そうだ,もう…学祭が終わるまで学校休もうかな。

 そうしたら誰にも迷惑かけねえし,異物がいないのだからクラスの準備もスムーズになるだろ。

 どうせ全員敵に回ってんだから俺がいない方が良いに決まってる。

 あーあ最近は香澄さんのおかげでマシだと思ってたんだけどそうでもなかったな。

 あの時から成長した…なんて思っていた俺が馬鹿みたいだ。

 

 所詮,そう見えていたのは周りが見せてくれていた幻想に過ぎなかったのだと…そう思おうとした時

 

 「ダメに決まってるだろうが!」

 

 眼前から,力強く否定する声が響いた。

 俺は彼がそんな声を出すと思っていなかったのもあって,多分周りから見たらギョッとしたのを見られたと思う。

 けどそんな事を思うよりも早く,俺は宣言された

 

「市ヶ谷導志,俺は,お前にヴァンガードファイトを申し込む」

 

 違うな,宣言というか…宣戦布告だった

 

 ——そして,俺はこのファイトを受ける事にした。




次回,本作品初ファイトです!
では!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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