例の如く,1話を3話に分けたともいう。
では!
クリスマス…イエスキリストの降誕祭として,キリストが生まれたこと自体を祝う日。
よく勘違いされているが,間違ってもキリストの誕生日とかではない。そもそも新約聖書においてキリストの誕生日はまだ分かっていないと言及されている為,分からない日を祝うなんて出来る訳ないだろう。
だからそもそもキリストを生まれたことを祝う日,香澄さん辺りなら毎日生まれたことを祝う日になってそうだが世間一般のクリスマスはそんな意味を持つ。
けど,クリスマスの始まりも分かっていないから何とも言えないが昨今のクリスマスのようにお祭り騒ぎをするような行事じゃなかったことは確かだろうなと,津島先生の冬休みの注意事項を聴きながら漠然と思った。
「じゃあまた来年,風邪とか引くなよ~」
「「はーい!」」
先生の言葉に殆どの生徒が答えるとか,どんだけ人望集めてんだよ津島先生と思いながら俺は内心で背を伸ばした。
分かりきっている事を省略し,言いたい事だけを言った津島先生の終礼は基本的にめちゃ早く終わる。
今日も例に漏れず,クラスメイト達は浮足立ちながら各々挨拶をして教室を出ていく。
「やっと2学期終わったな~。明日から冬休みだぜひゃっほう!」
「あはは,園田君テンション高いね~」
だけど,教室に残っておしゃべりに花を咲かす人もいる。
園田や神田さん,元から目の前の席の燈火さんが集まり始めているのを肌で感じながら彼らの会話に耳を澄ませる。
ていうか園田,お前ひゃっほう!とか言う性格だっけか…?いや,そう言う奴だったな。
「深川君とかはどうした?」
集まった面子の中でも,深川君の気配がないのを察知して世間話程度に聞いてみる。
「深川なら今日春賀達大道具組でボーリングに行くって言ってたぞ」
あの文化祭が終わって,役者班だとか小道具班だとかデザイン班だとかで別れていたグループは,意外にも文化祭が終わった後にも新興が出来ていた。
デザイン班の立役者として深川君も他の班の人達とコミュニケーションを取り続けたおかげか,この学校に入学していた頃の…燃え尽きていた時の彼に比べれば口数が結構増えていた。
「良いなぁ,楽しそう」
「枳殻さんも行けばよかったじゃないか,誘われてたんだろ?」
実を言うと俺も誘われていた。
ボーリングというかスポッチャだからカラオケもあるぞ!とか,眼が視えなくてもボーリングは出来るぞ,スイカ割の要領で!って誘われていた。
ただ,今日は香澄さん達のライブでPAが先約で入ってしまっているという事で丁重にお断りをした。
そして,ヒロイン役を務めていた燈火さんにも誘い自体はあったようだけど彼女の言葉の通りなら彼女は行かないようだ。
神田さんがどうして?と聞くと,めっちゃ忘れがちだった彼女の家柄を思い出した。
「今日はお父さんの会社のパーティーに行かないといけないんだ」
彼女のお父さんは某有名企業の重役,だからだろう。
クリスマスであってもそう言ったパーティーに家族ぐるみで呼ばれるという事だろう。
俺も質屋の息子ではあるが,別にそんな富豪という訳でもないからそういう貴族的な催しは縁がない。
あっても絶対に行かないが。
「お,おうそうか…導志は今日ライブのPAだったよな」
あ,こいつ今どんな反応をすればいいのか分からなくて俺に話しを変えやがったな。
燈火さんも別にボーリングに行けない事を残念に思っているだけであって,お嬢様としての自分に憂いを帯びている訳じゃないから多少この話を続けても問題ないだろうに。
単純に今回パーティーの方を優先したのは先にパーティーの約束をしていたからであって,子供心的にはあれかもしれないが,社会的には寧ろ信用出来る行動しかしていないぞ燈火さんは。
なんなら前確か家族で旅行した時の話を楽しそうに聞かせてくれたぞ。
ただ,1回変わってしまった話題に戻すほど俺も愚かではないから素直に乗っておいた。
「おう,同時に俺の復帰戦だけどな。まあ勝手知ってる姉ちゃん達のバンドだからまだマシなんだけどな」
「お姉さんのバンド…ポピパだよね。」
神田さんは文化祭で俺の姉ちゃんを見ている。
彼女の頭にはその姉ちゃんが浮かんでいるのだろう。
…ポピパの名前を聞いた瞬間か,燈火さん一瞬息を止めてしまったのが聴こえたがなんでだろうか。
「そう,それがあるから俺もスポッチャは悪いけど断った。園田はこの後行くんだろ?」
「おう,少し部室に顔出してから行くから先に行ってくれって頼んだんだ」
「そうか,皆クリスマス意外に予定詰まってんだな」
「高校生ならそんなものだろ。」
そんなものだろうか…そうかもしれない。
俺の高校生のイメージが姉ちゃん達だから逆にハードル高いかもしれないと思ったが,等身大の彼らを見ていたらそういうものかと思った。
因みに皆でクリスマスの予定を聞いている今も神田さんの予定は出ていないが,大体察しているから気にしていない。
「んじゃ,そろそろ行くか。」
「そうだな」
そのまま俺達は数十分おしゃべりをしていた訳だが,時間が迫っているので解散する事にした。
途中で部室へ顔を出すという園田とは別れ,俺と燈火さん,そして神田さんという面子で校門へ行く。
なぜか俺は2人の間に挟まれる形で歩く羽目になり,めっちゃくちゃ気まずい事この上ないのだが2人は特に気にもしていないみたいで,事情通の神田さんがどことなく引っかかる話題を出してきた。
「そう言えば職員室で聞いたんだけど,この前この学校に転入試験受けに来た人がいるんだって」
「へぇ,この時期に?」
燈火さんもその話題に食いつく。
にしても転入試験か,もう少しで今年も終わろうかというこの時期に?
受かってたとしても来年だよな来るのは。
まあ,そもそも学年も知らないし仮に同じだとしても俺と関わることは殆どないだろうとは思うけれど。
「そうみたい。先生達が話題にするくらいには試験の点数良かったんだよ。」
私は点数知らないけど,という神田さんの言葉に燈火さんと一緒に相槌を打つ。
そりゃ1生徒が転入試験受けた人の点数なんて知っている訳ないよなと思う。
だけどこの相槌には別の意味もあって,その試験を受けた奴に対する賞賛だ。
「凄いな,転入試験って事は入試の奴よりも難易度は高いのに噂になる位なのか」
黎明自体は羽丘以上月の森未満の進学校だ。
だから転入試験も難しい筈だが,その謎の転入希望者は難なく突破しているらしい。
ちょっと1度あってみたいなと思う位には凄い事だ。
そうこう話している内に,俺達は正門へ辿り着いたらしく燈火さんが”あ”と声を上げた。
何事かと思っていると,どうやらお父さんが車で迎えに来ていたらしく彼女はここで別れることに。
「じゃあ2人ともまた来年の初詣で会おうね」
「うん!またね燈火ちゃん」
「ああ,また来年。よいお年を」
燈火さんの足音が遠ざかるのを聞いて,俺と神田さんは駅へ歩き出した。
彼女と2人きりになる事は珍しいのだが,園田効果なのか余り気まずいとは思わない。
少なくとも俺はそう。
ただ,彼女の方はそうでもなかったのか,それとも純粋に聞きたかったことなのか聞いて来た。
「その…導志君さ,頼成とはもう大丈夫?」
それは俺の予想の範疇だった。
文化祭では園田が俺にかかることが多かったから忘れがちだが,神田さんも俺と同じクラスだった。
そして,俺を舞台に引きずり上げるために動いていたのは園田だけではない。
彼女も高田と園田と同じように罪悪感を抱え込み,園田と一緒に動いてくれた。
園田と高田とはあの文化祭の夜,色々語りあえたからまあ良いんだが,彼女に関しては中学の話を余りした事ない。
そして,彼女にとって高田は恐らく大事な――
「ああ,ちゃんとわかってるよ。あの言葉の誤解も,あいつの信念もな。別に元からあいつを恨んでいる訳ではないし…大丈夫さ。」
「え…私,てっきり凄く恨んでいると…」
滅茶苦茶意外そうに神田さんは言うが,俺にとっては恨む事の方がお門違いだろうと思う。
「まあ,確かにあの不器用さがもう少しマシだったら良かったのにとは話を聞いた時に思ったよ。」
あいつの,”市ヶ谷は何もしなくても良い”発言の真意が,見て楽しんでほしいだけだったなんて当時の俺には伝わらないし,そもそも伝わる人間の方が少数派だろう。
当時から高田とは距離があった訳だし,余計にな。
あの一言で俺の中学生活半分は決定づけられたようなものだ。
「けど,あいつ自身はあの余計な一言以外に俺を傷つけることは言っていないし,そもそも不登校を選んだのは俺の意志だ。要因としてはいじめやらもろもろあったけど,やっぱり最後にその道を選んだのは俺だ。なら,恨むのはお門違いだろう。」
どちらかというと恨んでいるのはいじめをして来たあのクラスメイトどもだが,別に今となっては割とどうでもいいと思っている。
あの時よりも今の方がずっと幸福なのだから,不幸だったあの日々にいつまでもぐちぐち言った所で仕方がないというのが本音。
それに,俺は許していないが謝罪は貰っているからな。
「…前から思ってたんだけど,導志君って結構神経図太いよね?」
「え,普通に繊細よ俺。」
「そうだけどそうじゃないというか…私が導志君ならきっと,頼成の事恨んじゃう」
「俺の場合,基本誰かに迷惑かけてるって前提があるからな。高田のああいう言葉って3割増しにぶっ刺さるし反論できないんだよな」
自分に出来る事が少ないっていうのは事実だから,高田に傷つける意図がないとしてもあの言葉は俺にとって”あ,はい”って肯定するしかない。
だって実際に俺は小道具とか作れなかったんだもの。
だから傷ついてはいる。それで恨もうとする精神がないだけであって。
「それに,今はもう過去より未来だと分かってるから。高田とはちゃんと話せたんだし,わだかまりはもうないよ。」
「そっか…良かった」
「そうそう,だから高田の彼女だからと言って余計な重みを神田さんが背負う必要はないよ」
あと少しで駅に着く。
その前に通り抜けるこの公園で俺と高田は過去の決着をつけた。
もう少しで2カ月近く経つわけだが,高田とは連絡先は交換しているが頻繁に連絡をしている訳ではない。
せいぜいが耳のことをクラスに言った翌日くらいに園田を通じて知った彼が連絡してきた時位だろうか。
…あれ,なぜか神田さんの足音が止まってるな。
その疑問は直ぐに氷解した。
「え,なんで知ってるの?!」
なんの事だと一瞬思ったが,俺は自分の言葉を一瞬で思い出すと心当たりがあった。
「文化祭の日の夜に園田と高田の2人とこの公園で話したんだけど,その時に知ったよ。」
よく考えたら,神田さんの口から高田と付き合っているという話は聞いていなかった。
だからついついいつもの調子で事実だけをさらっと言えば,その事を知らない神田さんが驚くのは無理がなかった。
「あの時はなーんで園田と高田だけだったんだろうと思ったけど,高田の態度を見てたら神田さんがあの場にいない理由も分かったしな」
「え…ど,どうして?」
「駅の近くとは言え,夜分遅くなるまで話す事が分かっているのにいさせたくなかったんだろ。大事な彼女なら余計に」
「~~っ」
神楽さんの話を中心に,あの時の話は思いのほか盛り上がり21;00位まで話をしていた。
舞台の難しさや,もっとああしたらよかったかもしれない。
そんなPDSTみたいな会話の内容だったけれど,距離を感じていたと思う高田とも,話が終わる頃には少し距離が縮んでいたと思う。
その時に彼等に神田さんがいない事を言ってみたら
『朋美をこんな夜に来させるわけないだろ。さっさと家に追い返したよ』
あの言葉は逆説的に本来なら神田さんもここに来る予定だった事,それを高田が断った事。
そして決定的なのは
『そりゃ大事な彼女を夜にこんな公園に連れてくるわけないよな!』
『ちょ,余計な事を言うな園田!』
それで高田さんは神田さんを夜だからいさせたくないといって強引に家に帰らせたという。
あの時の彼の慌てようから,高田にとって神田さんが大事な存在なのは分かっていた。
ただそれを今まで神田さんに言う機会がなかっただけで。
神田さんは思わぬところで彼氏からの評価が来たからか,いつもの彼女らしくなく少し言葉を詰まらせながら呟く。
「そ…そっか」
「ああ,俺が言うのも変な話だけど…高田は不器用なだけで良い奴だ。」
本当に変だと思ったのか,神田さんは意外そうに数秒沈黙する。
まあ,本当に俺が言うのも変な話ではある。
俺のトラウマの原因ではあるあいつのことを,俺自身がそう評価するのは彼女にとっては意外なのだろう。
だけどこれは普通の評価だ。
苦手な奴でも,あまりいい思い出がない奴でも評価はちゃんとする。
「うん…頼成が凄く良い人なのは知ってるよ」
「神田さんを守るために帰らせるくらいだもんな」
「え?」
…ああ,もしかして気がついていなかったのか。
でもそれもそうか,彼女の立場なら高田と同じ思考を出来る訳ないか。
別に高田の株を上げたいとかそう言う訳ではないけれど,途中で黙るのは印象が悪いから言っておく。
あとで高田からなんか来るかもしれないが知らね。
「さっきの続きだけど,文化祭の日に神田さんを帰らせたのは夜遅くなるってのもあるけど,高田にとっての本音は神田さんを守るためだったと思うよ」
「どういうこと…?」
「俺と高田が初めて再会したのはあの文化祭の日だ。園田や神田さんにとって俺は今も昔もクラスメイトだけど高田は違う。」
ここが神田さんと高田にとっての前提条件が違う所。
神田さんは高校に上がってからの俺を見ているが,高田にとってはきっと自分の事を恨んでいるだろう俺だったと思う。
そう考えたら高田が神田さんを帰らせた理由も自ずと分かる。
言葉の端々に,神田さんへの心配がにじみ出ていたのだから彼が気にする事は――
「高田が危惧したのは,あの言葉の真実を知った俺が罵詈雑言…最悪高田に殴りかかるかもしれないと思ったからだろ。もしもそうなった時,高田にとって怖かったのは俺が神田さんに危害を加えるかもしれないということ。」
「そんな…導志君はそんなこと」
「しないよ面倒臭い。殴りかかるのはヴァンガードだけって決めてる。だけど,園田と神田さんと違って彼は高校の俺を見続けた訳ではない。可能性があるのなら排除しておきたかったんだろ。犠牲になるとしても自分だけになるように。」
俺も人の事を言えないが,あいつも大概自己犠牲精神あるよな。
「…導志君はそれ考えた時に何も思わなかったの?」
「え,なにが?」
「なにがって,それって頼成が導志君の事を――」
「信用していない,か?」
俺の言葉を,神田さんは小さく”うん”と肯定する。
滅茶苦茶申し訳なさそうに謝って来られるけど,逆に俺の方が申し訳なくなってくるな。
だけどまあ,神田さんの言っている事も分かる。
もしも高田がその考えで神田さんを遠ざけたのなら,それは俺がそんな事をしないと信用していなかったと同義だからな。
でもなぁ…
「別に何とも思わんな。寧ろ好感すらも覚えたわ。俺も高田の立場ならそうしただろうし」
もしも俺をめっちゃ恨んでいるかもしれない人との話し合いがあったとして,そこに俺が香澄さんを連れて行くかと言われたら連れて行くわけない。
椅子に縛り付けてでも,香澄さんが物理的に傷つくかもしれない場所に連れて行くわけないだろ。
「ああでも,この事が本当であれ嘘であれ,余り高田にこの事言うなよ。あいつ,自分が影でやっていた事を知られるのを恥ずかしがるタイプだから。」
「うっ!すっごく聞きたい,恥ずかしさに悶える頼成がみたい」
あいつも大変だな。
変な癖がある彼女を持つと。
まあだからこそ2人は幸せそうなのかもしれないな。
そんな事を思ったせいか,なぜか俺はつい勝手に口をきいた。
「好きな人と付き合うってそんな幸せなものか?」
って俺は何を聞いてんだあほ。
気がついた時には遅く,神田さんは俺からそんな言葉が意外なのか数秒沈黙した後に生真面目に答えてくれた。
「少なくとも私は幸せかな,導志君には信じられないかもしれないけどさ…頼成と一緒にいると”ああ,幸せだな”って,理屈じゃなくて感情でそう思うんだ。」
いつかは冷めちゃうかもしれないけどねって笑って言う彼女の言葉は,基本理詰めで生きている俺には酷く眩しく映った。
そんな事を言いながらも,園田に言わせれば理想のカップルの形の1つと言わしめる程彼女達の在り方は確かに幸せの形の1つなのかもしれない。
具体的にどこがと言われても困るだけだが,神田さんは高田の事が,高田は神田さんの事が大切なのは2人の言動と行動を見ていたらよく分かるからな。
「導志君は?」
そうか…って言いかけた時,意外な言葉が彼女から飛び出してきて思わず立ち止まってしまう。
「え,なにが?」
「導志君は好きな人とかいないの?」
彼女はどこか楽しそうに聞いて来る。
恋バナをするというテンションでもないけれど,世間話でもするかのように聞いてきたことは今の俺にとってどう答えれば良いのか分からない話題でもあった。
だけど,彼女にそれを聴かれた時に思い浮かべたのは星のように瞬いているあの人だった。
「…いるよ」
そう言った時の神田さんの生暖かい沈黙が,やけにむず痒かった。
てなわけで,神田との文化祭決着編でした。
彼女だけ文化祭終了後の高田と園田と導志の場面にいなかった理由がここで明かされました。
そして導志の心に恋人の存在について疑問を抱かさせる相手でもありました!
では次!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話