星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

53 / 56
スオウとスズネのファイトが神過ぎて勝手に1人盛り上がっていた作者です。

てなわけで,本編最終回です!

時間は進んで2月です!では


エピローグ 変わる音色

 年が明け,2月。

 プロ試験,そして香澄さん…じゃなくて,香澄とお付き合いを経て俺の日常は大きく変わり始めていた。

 まず朝だが…これまで姉ちゃんを毎朝起こしに来てくれてた香澄さんが,今度は姉ちゃんだけじゃなくて俺の部屋にまで突撃してくるようになった。

 

「どーくん起きて!朝だよ!」

「…おきてますよ」

 

 香澄は嬉しそうに俺の身体を揺り起こし,姉ちゃんと一緒にリビングへと連行されるようになった。

 普通にその程度なら助けが無くても大丈夫だと言っているのだが

 

「私がしたいからいーの!」

 

 と言って聞いてくれない。

 そうなったら止まらないのは分かっているからこそ,もう何も言うまいと諦めた。

 前からよくこの家で朝ごはんを共にしていた香澄だったが,最近はもう毎日な気がする。

 昼間や夜は基本的に忙しくなってしまったことで頻繁に会っている訳ではないけれど,朝に来るのはその埋め合わせなのだろうと思う。

 でも…ほぼ毎日彼女の声を聴けるのは,俺にとっても嬉しい事だった。

 

 そして朝飯を終えれば俺と姉ちゃん,香澄は別れてそれぞれの学校へ。

 

『香澄のマシンガントークに惚気が混じり始めたんだけど何とかしてくれ』

 

 って姉ちゃんに言われたのは最近の話,因みに無理って返答した。

 

「おはよう」

「おはよう導志君」

「導志おはよう」

 

 昼間,いつも通りに学校へ着くと俺の前の席の燈火さんが挨拶をしてくれたのを皮切りに,いつもの面子が集まって来る。

 だけど,その面子の中に最近増えた新しい転入生…なーぜか東京へ舞い戻り,東京で既にプロ資格が必要な大会へ殴り込みに行っている悠馬が混じるのが以前とは違う所だろう。

 

 あ,事後報告だが俺に最終戦で負けたはずの悠馬がなんでプロ資格を得ているのかというと,プロ試験を全勝すればプロ確実となるだけであって負けてしまってもその資格を奨励会が認めれば,負けてしまってもプロ資格を得ることは出来るんだ。

 悠馬は北海道に帰った後,プロへの資格を得た。

 そして元々彼の父親である国俊さんが北海道支社に行っていたのはお母さんの療養のためだった。

 そのお母さんの手術が成功し,健康に向かっている事で国俊さんは東京本社へ転属する事が決まったのだという

 悠馬もそれに乗じてこっちへ戻って,この学校を受験したのだと。

 

 そんな訳で新顔を含めて世間話をしていた所

 

「導志君,闘将杯優勝おめでとう!」

「ありがとう,神田さん。ただそれを言うと拗ねてしまう人がいるから」

「誰が拗ねるんじゃい!あー!思い出したらめっちゃ悔しくなって来た,ファイトするぞ導志!」

 

 闘将杯は一昨日にあったプロ資格を得ている強者だけが参加できる奨励会主催の大会,優勝賞金やらも用意されていて俺は悠馬に誘われて出場した。

 プロとしての経歴に箔を付けられるかもしれないと思ったし,純粋に強者たちと戦いたいと思ったから。

 結果から言うのなら俺が優勝,悠馬が3位に落ち着いた。

 これでも新人プロとしては俺も悠馬も異例な戦績ではあるが,悠馬が悔しがっているのは悠馬が負けてしまった相手を俺が倒しての優勝だったからだろう。

 けどまあ…

 

「あれは正直運が良かっただけだしな…それに,悠馬が先にあの人の必勝パターンや戦い方を見せてくれたから勝てた部分もあるし」

「やめてくれ!俺が惨めになる!さあファイトするぞ!」

 

 因みに3位まで賞金が出るから悠馬もちゃんと賞金は貰っている。

 彼が本来欲しかった賞金ではなく,純粋にファイトの結果に色々思っているのはきっと彼が変われたところなんだろう。

 当初のプロの目的,お母さんの治療費の為ではなく自分の為にファイトを続けている。

 俺にはそれが嬉しかった。

 

「もう直ぐ授業だから昼休みな」

「忠道~」

「あ,ごめん。昼は部室に顔出さないと」

「うおおおお」

 

 ただ…,色んな枷が無くなったからかキャラがめちゃ変わっているのはビックリした所だろうか。

 因みに,園田…忠道と悠馬が仲良くなるのも時間はかからなかった。

 最終戦で俺のサポートをしてくれていて顔見知りというのもあったし,なによりファイターならばと転入初日にファイトをした事で仲が深まっていた。

 その際に園田の下呼び,なぜか俺も巻き込まれ名前で呼ぶようになった。

 寧ろ周りには”なんでそんなに仲いいのに名字呼びなのかってむずむずしてたから良かった”って不本意ながら言われてしまった。

 

「今年は惜しかったみたいだな」

「ああ,来年こそは絶対に勝つ」

 

 キャラ崩壊している悠馬を横目に,忠道のサッカー部としての活動について話だす。

 忠道は1年生ながらレギュラー入りを果たし,全国高校サッカーへ出場した。

 結果から言うのなら予選で落ちてしまい,彼らにとっては苦々しい思い出になった。

 だけど…諦めていないのなら良い事だ。

 

「残り少なくなって来た授業を始めるぞ~」

 

 そこでチャイムが丁度なり,現代文の津島先生がやって来たのを皮切りに俺達は自分達の席へ戻った。…まあ,俺は自分の席から動いていないのだが。

 これが昼間に変わった日常だ。

 ここまでは悠馬が来た事や,名字から名前呼びに変わった人が増えた程度のものだ。

 それでも俺にとっては大きな変化だけど,ここからが俺にとってもっとも大きな変化だとも言えよう。

 

 放課後,去年までであればCiRCLEでバイトだったのだが今では別の用事が出来る事が多くなった。

 先輩達との待ち合わせの最寄り駅まで向かい,端っこの方で約束の人達を待つ。

 俺が今から行く先へ行く際に色々聞いた時に,時間が合えばこうやって一緒に行ってくれるという厚意に甘えさせていただいている。

 去年までも今の時間なら奨励会かバイトの2択だったのだけど,今では3択に増えてしまった。…いや,実質結局2択か?

 

 ともかく,プロ資格を得た俺に待っていたのは今後どのように生計を立てるのかというものだ。

 闘将杯では優勝し,賞金…高校生が3カ月本気でバイトした2倍位のものを得る事が出来たがあれは本当に運が良かっただけの場面もあった。

 対戦したのは選りすぐりのプロの先輩達,全員が格上でプロ試験以上に気が抜けないファイトの連続で楽しかった。

 でもこれからずっと大会で優勝できるとは限らない。実際問題闘将杯の前,新年が明けてからの今年のランキング戦の狼煙を飾るエキシビションマッチに呼ばれたが…まあ普通に負けてしまったからな。

 負ける気はないが結果は結果,プロの世界を痛感したファイトだった。

 

 何度も言っている気がするが,プロだからこそ未来の保証がされている訳ではない。

 だからこそ俺に必要だったのは安定の収入を得ることのできる,ウィンウィンな関係を目指せるスポンサーの獲得だった。

 でもその場合,ヴァンガード以外で俺の価値を示さないとどの企業もスポンサーになってくれるとは思えなかった。

 スポンサーを受ける代わりに,企業の宣伝広告などを請け負うものが殆どだけど…御覧の通り眼が視えないハンディキャップ故にスポンサーが直ぐにつくとは思っていなかった。

 

 だからプロになったばかりの頃は,取り合えず大会に出て結果を示しつつ,企業に向けてなにか自己アピール出来るものを作らないと…そう思っていた。

 うん…いや,まじでそう思ってたんだけどね?

 ヴァンガード以外での俺の強みは何だろうと,真面目に考えていた時にやって来た人がいた。

 

「あ,いたいた。やっほー,導志」

 

 過去への回想を仕掛けていた俺の意識へかかった声は,なんとも温かみの感じる女性の声…それと一緒に凄まじい数の足音が闊歩する中で聴こえて来た聞き覚えのある足音…そして声がかかった。

 彼女達こそ俺が待っていた先輩達…まあ,1人同い年が混じっているけど。

 

「こんにちは,先輩達と宇田川さん」

「ええ,こんにちは」

「少しお待たせしてしまいましたか?」

「こ,こんにちは」

「導志君こんにちは!」

 

 俺の所へやって来たのは5人の女性,ガールズバンドパーティーの一バンドにして今年からアマチュアからプロへと羽ばたいた実力派バンド…Roseliaの人達だった。

 一番最初にやって来たのはリサ先輩,そして俺が挨拶をして返してくれた順に湊先輩,氷川姉先輩,白金先輩,そして宇田川(妹)さん。

 なんで彼女達が俺の元へ来たのかというと…いや,逆だな。俺が彼女達について行く側なのだから。

 

「大丈夫ですよ氷川先輩,3分くらいしか待ってませんし」

「それなら良かったです。」

「じゃあ行こうか」

「うん!今日の打ち合わせ,楽しみだなぁ!」

 

 Roseliaは現在全国ツアーの真っ最中,今日はその打ち合わせをしにある所へ向かう。

 なんで俺がついて行っているのかというと,彼女達が向かうある場所というのと俺が行きたい場所が同じところだからだ。

 ただ,俺は御覧の通りなので地図の音声案内を使えば目的地まで行けない事も無いのだが姉ちゃんが案の定不安に思った。

 だから姉ちゃんからの提案で,リサ先輩を通じてRoseliaの皆さんに駅で俺を拾って一緒に行ってもらえないかって頼んだ。

 彼女達は快く引き受けてくれて,こうやって一緒に行く事へなったんだ。

 

 じゃあ,プロになったRoseliaの皆さんと俺がなーんで一緒に同じ場所…もうめんどいから言ってしまうが某有名音楽事務所へと歩いているのかというと…

 

 

「それにしても,導志が私達と同じ事務所に来てくれるなんてね!」

 

 

 俺の隣を歩き,俺が変な方向に行かないように腕を掴んでくれているリサ先輩が嬉しそうに声を弾ませて言って来た。

 

「ええ,私も知らされた時は驚きました。」

 

 俺の前を歩いている氷川姉先輩も,平坦な声でありながらもどこか喜色も感じる声色で,本当に驚いているのか声がほーんのすこし上擦っていた。

 彼女達の驚きも分かる,ていうか俺が一番驚いている。

 なーんで俺が湊先輩達と同じ事務所に所属する事になったのか,話は去年の12月,プロ資格を得たばかりの頃にま遡る。

 

 当時の俺はCiRCLEでのバイトの休憩中,香澄さんから貰ったギターの練習をしていた時にその人はやって来た。

 その男性は,Roseliaが所属している事務所の重鎮の1人と言い俺へ歌ってみてくれないかと言って来た。

 理由はまあ,見極める為だったのだろうけど断る理由も無かったから月島さんへライブ会場を借り,たった1人のお客さんへと俺の歌を,音楽を披露した。

 

 文化祭の時よりも声はよく出て,耳もまだ完全に治っているとは言えない状況での歌だったけれど…その時出来る最大値を俺は出せたと思う。

 そしてそれは彼も分かってくれたのか,心底感動したように大きな拍手をして――

 

『素晴らしい…神楽君の言う通りの逸材だ,君さえよければ契約をしたい』

 

 まさか…眼が視えなくなって一度は捨てたはずの音楽が,ヴァンガード以外の俺の強みだったのは自分が一番驚いたかもしれない。

 音楽はヴァンガードと同じで楽しいのは大前提だったけれど,頭脳と運を絞りつくすヴァンガードと違って肉体的な限界を確かめるものでもあった。

 でも,一度捨てたからこそ音楽が自分の強みだとは思っていなかった。

 

 だけどそれを俺の強みだと言ってくれたのは,あの文化祭の時に助けてくれ,俺にとってのプロの先輩でもある神楽さんだった。

 彼は自分の芸能事務所と懇意にしている音楽事務所に,俺がプロファイターになった時に推薦してくれていたらしい。

 そこから俺の文化祭での歌唱,そして直接確かめに来たこの男性がスカウトをしに来たという経緯だ。

 だから俺はRoseliaの次に事務所に入ったという事で,湊先輩達にとっては正真正銘の後輩になった訳。

 まあ,事務所に所属するかでめちゃ悩んだんだが,香澄や姉ちゃん,湊先輩達が背中を押してくれてこうして契約したのだ。

 

 そうこうしている内に事務所へ到着したらしく,エントランスで俺達を待ってくれていたのはRoseliaのマネージャーさんである晴美さんだ。

 

「皆さんこんにちは!」

「こんにちは晴美さん」

「導志も連れて来たんだけど…」

「市ヶ谷さんはもう直ぐ…あ,来ました来ました」

 

 そう言われ駆け寄って来る足音と声に耳を澄ませてみると,前回ここに来た時に俺に付くことになったマネージャーさん…名前を四谷さんがやって来た。

 忠道に少し近いお調子者の声質,けど実際は腹の中で色々考えていそうなこの事務所の若きマネージャーだ。

 

「市ヶ谷君待たせてごめんよ!」

 

 因みに男性です。俺の周り女性が多いから,また女性かと誰かに言われた気がするが普通に男性です。

 うん,めちゃ気楽!

 

「いえ,そんなに待ってませんよ」

 

 ていうか今来たし。

 そんな訳で,ここでRoseliaの先輩達とは別れることに。

 彼女達は全国ツアーの打ち合わせの為に会議室へ,そして俺は…収録室に。

 

「じゃあ導志またね,時間が合えば一緒に駅まで行こう」

「ありがとうございます,でも行きだけでも結構思う所があるのですが」

「良いよ良いよ,導志が慣れるまでは一緒に行ける時は行かないと有咲が心配するしさ」

 

 リサ先輩はそう言って湊先輩達の元へ行く。

 いい人だなと思いながらも,俺は俺で四谷さんについて行く事に。

 これまで眼が視えない人と契約したことが無いらしく,事務所内では眼が視えない人用の点字や点字ブロックはなく四谷さんの声と足音をあてにして歩いて行く。

 

「市ヶ谷君,前回渡したデモはしっかりとお聞きくださいました?」

「はい,激しくて燃える良い曲で…本当に俺が歌うのかと何回か思いましたが歌えるようにはしてきました」

「市ヶ谷君の歌方面での初仕事,あの神楽さんからのお願いだからね」

 

 歌方面以外だと,アーティスト写真とかそういうのは前回やったのだが…まあ酷かった。

 そもそも写真を取られ慣れていないというのもあるけど,カメラマンさんの言うやって欲しい表情の変化が見たことのないものだから分からなさ過ぎてめちゃリテイクしてしまった。

 カメラマンさんの女の人にめちゃ謝ったら,『今度する時はもっと伝え方の勉強してきますね!』って言われてしまい逆にいたたまれなくなった。

 今この事務所の中でどれだけ言葉を伝えやすくするのかを考えることがマイブームらしい。…え,マジで?

 

「神楽さん…色んな意味で俺は後輩ですけど,贔屓って言われません?大丈夫です?」

 

 そして俺の歌方面での初仕事,今度神楽さんが出演する舞台のテーマソングのボーカル部分の担当だった。

 神楽さんは俳優業界でも顔がそれなりに大きく,彼が今年の夏に主役として出演する舞台がある。

 そのテーマソングをこの事務所へ発注し,更には指名で俺が歌う事になったのだ。

 あの人俺の仕事やスポンサーの斡旋をしまくっているが,マジで周りに贔屓とか言われていないかが心配なんだが。

 

「ははは!大丈夫大丈夫,君なら結果で黙らせることが出来ると思っているからの斡旋だよきっと」

 

 四谷さんは四谷さんで朗らかだな。

 まだ結果を出していないのに,俺の実力を信用してくれている。

 貰った某有名アーティストから提供された歌は,俺の好きな型にハマったものだった。

 これで出来ないなんて言ったら色んな意味での,色んな人への裏切りだ。

 そして何より,自分自身でこの歌を歌いたいと思った。

 収録室に入る前に,俺は深呼吸を1つして…

 

「よし,行きますか」

 

 この扉の向こうには,俺が歌う為に集まってくれていた人達がいる。

 これまで歌う時は1人の事が多かった俺だけど,ここにきて多くの人達と歌を作ることを感慨深いと思いながらドアノブに手をかける。

 背後の四谷さんの温かい視線を感じながらも,不思議と緊張は無くノックする。

 

「どうぞ」

 

 威厳の感じるぶっとい声が聴こえ

 

「失礼します」

 

 俺はまた1つ,新たな挑戦を始めたのだった。

 

 ☆

 

 初めての収録が終わり,今後の活動についての軽い打ち合わせが終わった後,打ち合わせと練習を終えエントランスで待ってくれていた湊先輩達と一緒に帰った。

 同じ事務所に所属しているからと言って,仕事の内容をおいそれと他人に話して良いわけじゃないらしく,俺の初仕事内容を彼女達は知らない。

 逆に彼女達の全国ツアーは知れ渡っているが,それ以外の事については俺も余り知らないしな。

 

 けど,音楽事務所なのだから当然だが歌う事は当たり前なので自然その話になる。

 特に俺は湊先輩にボイトレの話や,アレンジの話をした。

 本格的に音楽を取り戻したのは中3の時,そこから1年と少しでプロの世界へ突っ込む事になるとは思っていなかった。

 逆にプロを目指してきたアマチュアな人から見れば,俺なんてただ運が良い奴なだけだからな。

 だってプロになるつもりが最初ないのにプロになっているんだもの。

 そんな人から見たら,俺はムカつくだけの存在なのではないかと,事務所へ入所する時に悩んでいた時に湊先輩に言ったことがある。

 彼女は気高く,真っすぐな言葉でこう言ってくれた。

 

『確かにプロになるには運も必要かもしれない。けど,その運を実力で掴んだのは紛れもない市ヶ谷君の力よ。』

 

 湊先輩は決して人付き合いが得意という訳ではない。

 でも,だからこそ言葉は常に真っすぐで簡単に心に響いた。

 そう言う事があったから,俺と湊先輩の中は割と良かったりする。

 もちろん他の皆さんとも仲良くさせて貰っているけど!

 

「じゃあね導志」

「導志君バイバイ!」

 

 そうこうしている内に俺の最寄りへと到着し,先輩達の声を背に電車へ降りる。

 ここからはいつも通りの帰り道。

 いつも通りに姉ちゃん達が待っている家へと戻ってきて…

 

「どーくん!」

 

 多分だけど蔵の方から,彼女の声が聴こえてきて俺は身体を強張らせ,踏ん張る準備をした。

 準備後僅か3秒後,彼女が突撃してきて…抱きしめられた。

 

「お帰りー!」

「ただいま…香澄」

 

 そう言って俺は彼女の背中をぽんぽんと叩いた。

 俺と香澄さんが交際を始めて2カ月弱。

 どんなふうに関係が変わったのかと言われたら言葉にするのは難しい。

 なんでかって,前から香澄の距離感はバグっていたから今でも他の人の前でもハグはするし,気持ちは伝え合うし,やっていること自体は付き合う前からそれほど変わった訳ではない。

 しいて言うなら,付き合う前は2人きりにする事が多かったハグが,こうして人前でもするようになってしまったことくらいだろうか。

 

「おぉ,香澄がまた惚気てる」

「山吹先輩…これは普通に素では」

 

 そう,現在俺は練習を終えたポピパの皆さんの前で香澄に抱きしめられていた。

 正直に言うとめちゃ恥ずかしい。

 香澄に悪気が無いのが分かっているから余計にだ。

 彼女は俺の存在を確かめるようにすりすりと顔を動かして――

 

「香澄,もう良いだろ」

「うわあん!有咲~!」

 

 姉ちゃんが香澄を引き離すのを聴きながら,俺は彼女達の次のライブのPAについて少し話した後,家に帰ることに。

 香澄は普通に”泊まりたい!”とか言ったが,明日も学校で授業の教材が家にあるという事で,姉ちゃんが普通に却下し香澄も泣く泣く帰ることに。

 

「じゃあ導志君,土曜日にね」

「またね」

「ばいばーい」

 

 土曜日にはポピパのライブがあり,俺もPAとして参加する事になっている。

 プロファイター,音楽事務所契約をしてもCiRCLEを辞める事は無かった。

 税金という観点からシフトは前よりも調節してもらって,殆どPA専門みたいになってはいるがまだバイトは続けている。

 2つのプロを掛け持ちするからこそ,日常だったCiRCLEを辞めるなんて選択は浮かばなかった。

 一度辞めた俺が言うのもあれだけど,あの場所は音楽で初めて俺が自信の欠片を取り戻した場所だったから。

 

「香澄も,また明日」

 

 まだ未練たらしく姉ちゃんと”泊まる!””無理!”と言い合っている香澄へ言うと,とうとう観念したのか猫が耳を畳むように落ち込みを見せた。

 

「うぅ…分かったよ」

「ちゃんと明日会えますし,華金ですから明日は泊れば良いですよ」

 

 今日が平日の明日も授業だから姉ちゃんも断っただけで会って,金曜日なら問題ないだろう。

 実際姉ちゃんから抗議は来ていない。

 香澄さんは嬉しそうに声を弾ませた。

 

「うん!じゃあまた明日ね,どーくん」

 

 そう言って彼女も家に帰る…筈だったのだが,”あ,そうだ!”と思い出したかのように踵を返してきて俺に近づいたと思えば…

 

 ——大好きだよ

 

 耳元で小さく囁いた後,優しく頬になにかが触れた。肌じゃない何か,でも確かに香澄のものだと分かる何か。

 柔らかい感触が,俺の頬を通じて伝わってきて…

 

「か,香澄ぃー!!」

「えへへ,また明日ね,どーくん!」

 

 姉ちゃんの羞恥が色々混ざった声で,俺が何をされたのか大体察した。

 まあ…うん,嬉しい。

 不安な事は色々まだあるけれど,それは生きている証でもある事をしみじみと思う。

 香澄へ声を上げていた姉ちゃんと一緒に家に帰りながら,俺はまた一歩,昨日とは違う今を歩いて行くんだった。

 

 




お疲れさまでした&ご拝読,ありがとうございました!
これにて,本編は終了です!ほぼ毎日投稿に付き合ってくれて,ありがとうございました!
一応プロット上ではワールドサーキット編→クレイ跳躍編とか考えていたのですが,カードプールとかの問題で全く書けていません。
変わりにと言っては何ですが,プロットは気が向いたら投稿しようと思います。ネタバレされても良いという人は見てみてください。

導志→プロファイター,プロミュージシャンの二足の草鞋です。何回か物語上で言っていたプロファイターだけでは生計を立てられないという課題を,神楽が解決してあげた感じです。その内導志の曲の詞位は書ければと思います。

そして,最後の香澄。何をしたとは言いませんが,アニメでも明日香相手とは言えしていたから良いだろって感じでやっちゃいましたね。

では,また会いましょう!
…因みに明日は,バレンタイン時期に書いたバレンタインのお話を投稿します(本編は今日で終わりです!)

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。