星の鼓動に闇は閃く   作:レオ2

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変わる時

決着は静かだった。

 さっきまで吠え合っていたのが嘘みたいに,誰もが口を噤みこの結果を見守っていた。

 やがて,なぜか泣きそうな声が聴こえた

 

「俺の…負け,だな」

「そうだな」

 

 俺には彼が今どんな表情をしているのか分からん。

 眼が視えないのだからそれも当たり前で,だけど想像するのは容易かった。

 滅茶苦茶悔しさを滲ませて,俺に何かを言いたいが敗北者になった今それが卑怯だと思っていて何も言えなくなっている。

 自分から条件を出して,挙句その条件下で負けたのだからさぞかし悔しいのは当たり前だ。

 

 園田にとって,今日は1年に1回あるかないかの真剣だっただろうからな。

 

「やっぱ…導志は,強いな。プロに王手をかけてるだけあるぜ」

 

 言葉を紡ぐ度,園田は徐々に泣きそうな声になっていた。

 自分の感情を必死に押しとどめて,無理やりにでも笑おうとしている。

 そんな不器用さに俺は若干呆れがあるが…それが園田という男なのだろうと思った。

 香澄さんとは違う意味で真っすぐな人間だった。

 

「はぁ…そう言えば,俺が勝った時の条件言ってなかったな」

「…っ」

 

 何かを覚悟したかのように息を飲むのが分かるが,俺は構わず続けた。

 

 

「お前のエゴに乗ってやる」

「…え?」

 

 

 何を言われたのが分からない,みたいに呆然と呟く園田。

 そして周囲のクラスメイト達もざわめき始めるが,俺は自分の声が彼らにかき消されないように…間違える由も無いように言葉を強めて言い放った。

 

「てめえにむざむざ泣かれるのも面倒だから…主人公をやってやると言ったんだ」

 

 彼の顔は全く見えないが,驚きに染まって眼を大きく見開き言葉を失っているのが手に取るように分かる。

 あんなにやりたがらなかった奴が,勝負が決したのにわざわざ彼の言い分を飲んだのだから驚くなという方が無理だろう。

 …いや外野から見たら俺がただのツンデレ野郎にしか見えないのだから本当は言いたくないのが8割位本音が占めているがここで言わなければ意味がないだろう。

 

「良いのか…あんなに嫌がってたのに…?」

「嫌なのは今も同じだ。けど,ファイトにはその人間の全てが現れる。…見せてもらったよ,お前の本気を」

 

 ヴァンガードファイトを通じて,園田という人間を見て…信じてみる事にした。

 それが今の俺が出した答えだ,園田を…ここにいるクラスを”仲間”として…この先に進んでみようって思えたファイトだったから。

 

「…勝負吹っかけておいて負けたんだぞ?」

「ああ。結構おもろいよな。」

「っておい結構はっきり言うな。」

 

 ふっと笑い,彼はツッコむかのようなテンションで言ってくるが本気で怒っているようには感じない。

 

「でも,目的は達成しただろ」

「…本当に良いのか?」

「そりゃこっちの台詞だ」

 

 言いながら俺は園田だけじゃなく,周りにいるクラスメイト達にも目を向ける。

 もちろん俺の眼は見えないのだから彼らの姿を視られている訳じゃない。けど,俺の視線の先で…誰もが暖かい空気を出してくれているのが…嬉しかった。

 中学の時とは違う状況で,俺を引き上げようとしてくれた奴ら,そして…

 

「先に言っておくが,お前らの想像以上に迷惑はかける。本来の演劇には必要ない事もさせてしまうかもしれない。ていうかきっとさせる。」

「なんか開き直り始めたね,市ヶ谷君」

 

 北村さんが何か言っているが,実際一度やると決めたら開き直るしかないだろ。

 道具作りですらままならないのに,演技なんて俺にとっては未知の領域過ぎて何が起きるのかが分からない。

 だから予め脅しみたいになるが,そう言っておいて未知なことに挑もうとしている事をここにいる連中に伝える為には多少ふざけていても開き直るのが一番だ。

 

「それでも…俺は導志にやって欲しい。それで俺に手伝わせてくれ」

「うん,なんか言い方がメンヘラに聞こえるが…勝負はお前の勝ちだな」

「え?」

 

 それを聞いた園田が眼を丸くしたのが分かる。

 ヴァンガードでは負けたのだからそんな事をするのは分かるが,少し考えればわかる事だ。

 

「お前の目的は俺を主役の座に引きずり込む事だろ。ファイトはその手段であって目的じゃないだろ。」

 

 俺に言う事を聞かせるため,或いは俺の説得のためのヴァンガードファイトで,例えファイトに負けたとしてもその目的が達成したのなら勝負は園田の勝ちだ。

 腹立たしい事にな。

 

「そうか…そう,だよな」

 

 自分が成し得た事を,今更のように噛みしめて隠し切れない喜色を感じて俺はむず痒さに早速教室を出たいと思ったが生憎周囲にクラスメイト達の視線もまだ感じる為そんな事出来る訳なく,その恥ずかしさを誤魔化すように咳払いした。

 そして――

 

「じゃあ,取り合えず園田は次の休日一緒にカラオケ行くか」

「「…?」」

「え?!導志が誘ってくれた?!」

「誘ってねえ!そもそも何を歌うのか決まってねえだろ?!あと,台本は――」

 

 やばい,思っていた以上に”仲間”と認めたことが恥ずかしくて口が早くなる。

 あれこれ言い訳をしながら俺は捲し立てる事しか出来なくて…

 

「あ,じゃあ私もカラオケ行くー!」

「俺も行くー!」

 

 早口で捲し立てていたら,神田さんを筆頭に俺の言葉から現実に戻った他のクラスメイト達がなぜか次々に俺と園田のカラオケという予定に次々と乱入し始めた。

 総勢15人超えの人のカラオケ参加宣言に俺は思わず

 

「は?ちょまま!なんでクラス集合みたいになってんの?!」

「だって市ヶ谷君達だけずるい!それに私達は市ヶ谷君が歌ってるところ見たことないし,主役に任せる以上それに相応しいレベルがあるのかを見る権利があると思いまーす!」

「「思いまーす!!」」

 

 なぜかそんな合唱が息ピッタリに行われ,結局俺達は今週の土曜日,午前授業が終わればカラオケに行く事になってしまった。

 ここ最近,ていうか俺がしようと思わなかったからこそ背けていたこのクラスの温かさに…ようやく気がつくことが出来たのだと彼,彼女らと漫才のような掛け合いをしながら俺は思えた。

 

 

 

 ——約束の日,俺は無事クラスメイト達の度肝を抜く絶唱を披露した

 




お疲れさまでした!

というわけで,ファイト回を3話に分けました。本当はこの3話で1話でしたが,長すぎるなという事で分けたのです。
どうだったでしょうか,極力ノリとテンションで突き抜けようとしました!
作中でも書いたように,導志は有咲と同じミュージックスクールのボーカルクラスにいました。つまりレイとも同期ですね。
でも眼が視えない精神的なショックで歌えなくなって,香澄に会うまでは音楽は聴くだけになってました。香澄に出会って,また歌を歌い始めて過去の頃よりも伸びているのが今の導志です。そこら辺はまた回収できればと思ってます。

では!

香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?

  • 交際後,初デート
  • 2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
  • 2人の期間限定バンドのお話
  • 2人で海と夏祭りに行く話
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