GOGO!
いつもみたいに有咲の家の蔵で,ポピパの皆と練習をしていた時
――ありがとう,でも本当になんでもないから
私は不意に一昨日の彼の,どこか苦しそうな顔を思い出して胸がキュッとしまって苦しくなったのを感じてた。
前の‥PAする事に不安を持ってた時とは違う類の儚げな表情…きっとまた何かで悩んでいて,それを私に教えまいとしていた彼のことを考えた。
あの時,私はいつもならきっと無理にでもどーくんが何を抱えているのかを聴いていたと思うのに…私はどうしてか,彼にそれを聞くことが怖くて結局お話を聴くことが出来なかった。
相談してね,話してねって言って…私はどーくんに寄り添う事が出来なかった。
寄り添おうとして…拒絶されたらどうしようって思っちゃって…どーくんの部屋にいる事が出来なくなって家に帰った。
昨日も,その事を思い出して有咲に寝坊したってうそついて有咲のお家に行かなかった。
けど,今その時の事を思い出して私は――
「ストップ」
おたえが演奏中でもよく耳に響く声を震わせて,演奏中だった私達はピタリと楽器を動かしていた手を止めておたえの方に向いたら…おたえも私の方を見ていた。
「香澄,音が変。それに歌もいつもと違ってなんだかしょんぼりしてる」
そう指摘されて私はドキって心臓が震えたのが分かった。
おたえが言ったことは,私も気がつかなかった事だけれど…気がついてしまった事でもあるから余計に動揺しちゃった。
「え…えっと…」
「香澄どうしたの?」
「なにか悩んでる事があるなら聞くよ?」
さーやとりみりんも気がついてたのかな,凄く心配気な表情で見てきて有咲もキーボードに置いてた手を止めていた。
「うぅ…皆聞いてくれる?」
私は自分が今抱えているものを皆に話す事にした。
☆
ポピパは一旦楽器の練習を止め,テーブルを囲んでリーダーの香澄の話を聞く体勢をとる。
香澄は彼女には珍しい暗い表情で,そのテンションの低さが如実に演奏に現れていてはメンバーも気になる所なのは当たり前だった。
普段から香澄の明るさと行動力に救われているメンバーから見たら,彼女に頼られて嬉しいと思うのも必然だったのだ。
「それで,どうしたの?」
山吹沙綾が水を飲み,改めて問いかけると香澄はぽつぽつと考え事を話して――もれなく花園たえ以外の3人は惚気にしか聴こえなかった。
香澄の悩み事,それは導志の元気がない事であり…いつもなら話を聞こうと思うのに怖くなって出来なかった事——導志の事を考えるたびに胸がキュッと締め付けられて熱くなってしまうことを話した。
((完全に恋じゃん))
話している途中も香澄の頬は紅潮し,耳も赤くなって声が上擦っているのを見れば誰だってそう思うだろう。
いや,メンバーの中では香澄が導志の事を好いているのは見ていたら分かるのだがここまで顕著に香澄が惚気ているのは初めて見た。
「一昨日も…どーくんに嫌われたらどうしようって声かけられなかった」
苦しそうに胸を抑える香澄の様相は,普段とは全く違うものだった。
そんな今まで見たことがない香澄の様子をメンバー達はお互いの顔を見合わせて眼でどうしようかと相談する。
しかし,そもそも香澄がどうしたいのかが見えてこなくて何も言えなかった。
導志の姉である有咲は場を繋ぐために話題を広げた。
「まあ,実際一昨日から導志の様子は変だったしな」
「うん,なんか元気なかったよね」
実の所導志は自分の感情の機微を隠すのが下手だ。
それには純粋にどんな顔をすれば良いのかを見たことがないから知らず,表情筋の動かし方をイメージ出来ないからだ。
逆に言えば,イメージさえ出来れば導志は割となんでも出来る。イメージ出来るものが少ないから大人しいだけで。
だから一昨日のあれは香澄じゃなくても気がついていた。
メンバーが何も言わなかったのは,香澄と導志の時間をあげる為だった。普段の香澄なら導志が遠慮しようとも何があったのかを聴きに行くと思っていたからだ。
しかし,結果は導志に嫌われたくないと思った事により引いてしまった珍しい香澄。
「有咲はどーくんが何に悩んでるか知ってる?」
香澄は有咲に少し食い気味に導志の悩み事について問いかける。
しかし,有咲は頭を振った。
「いや,知らねえけど…ああなった導志は口を簡単に割らないからな」
中学時代の導志を有咲は当然知っている。
一時期凄まじく落ち込んでいたのも見ていて,今回はその中学時代の時に似た落ち込み方だ。
当時も有咲は導志に何があったのかを聞いたが,導志はあれこれとはぶらかしついには吐かせる事が出来なかった。
有咲が一昨日,香澄が導志の部屋に行っても何も言わなかったのは,香澄なら聞き出してくれるかもしれないと思ったからだ。
…その答えは,このように空振りに終わった訳だが。
香澄が何について悩んでいるのか,大体メンバーは察しているのだが香澄自身はバレていないと思っているらしい。
見るからに落ち込みを見せる。
そんな香澄を見てメンバー達はアイコンタクトで会話する。
(香澄,凄い落ち込んでるね)
(きっと香澄ちゃん導志君の事が好きなんだよね)
(香澄がこんなに落ち込んでるの久しぶりに見るよ)
(香澄は全然自覚してなさそうだけどな)
順に沙綾,りみ,たえ,有咲の言葉である。
見るからに香澄は導志の事を友愛ではなく恋愛の好きを見せているにもかかわらず,進展らしい進展は全くない。
導志も同じで,どう見ても香澄の事が好きに見えるのに一歩を踏み出せない感じ。
そう言う甘酸っぱい光景を沙綾達は見ていたいのはあったが,あのバンドに一直線だった香澄がその事で練習に身が入らなくなるなどもう既にただ事ではない。
しかし,ここで仮定の話を積み重ねた所で意味がないのも確か。
時間も既に夕刻に差し迫っているのを見て,沙綾が立ち上がった。
「ごめん,私そろそろ帰るよ」
「げっ,もうこんな時間か。今日は解散しよーぜ」
「…うん,皆ごめんね」
有咲は柄にもなく勤めて明るく言ったのだが,それで香澄の陰りが取れる訳ではなくメンバー達は顔を見合わせて苦笑いした。
帰宅の準備を整えた5人は蔵を出る為に階段を上る。
その途中で沙綾は香澄のフォローに回った
「香澄,そんなに心配しなくても導志君が香澄を嫌う事なんてありえないよ」
「ほんと?!どうしてどうして?」
沙綾の言葉を,顔をパーッと明るくしながら聞いて香澄がその理由を聞く。
香澄にとっては不安を消すために縋る思いだったのだが,沙綾はどういったものかと考える。
理由を言うのであれば,導志も香澄の事が好きだからになるのだろうが…それを自分が言うのは違う気がする。
「うーん,それはね――」
導志がそう言う人間じゃないからという当たり障りない返しをしようとしながら蔵を出た時——
「あれ,みなさん?」
「ど,どーくん!」
一瞬ためらうように言葉を飲み込んだ香澄が,さっき沙綾に見せていたパッと明るい顔ではなくどこか色っぽさにも似た笑みを浮かべた。
多分,そこらの男であれば何人も恋に堕とす事が出来るであろう笑みで,一瞬それを視た有咲は「マジかこいつ」と思う位にはメンバーと導志で反応が違っていた。
真っ先に導志に駆け寄る香澄を,さっきまで不安そうにしていたのが嘘みたいになった彼女を見ながら有咲たちも導志に近づき…
(…今朝とは何か違うな)
有咲がいの一番に導志の変化に気がついた。
今朝の時は,学校に行くのすらダルそうだったのに…今はどこか吹っ切れたような気持のいい表情をしていたからだ。
そしてそれ自体は当然香澄も気がつき,はにかんだ。
「良かった」
「え…?…ああ,ご心配おかけしました」
香澄の心から思ってでた言葉に,一瞬呆けた表情を見せた導志だが直ぐになぜなのかを察し,一昨日の事について詫びる。
感極まったかのように首を横に振り嬉しそうに笑う。
「ううん…今日遅かったんだね」
「ああ,今日はバイトだったから。あと…少し学校でも残っていたから」
そう言って,導志は今度の黎明祭の事について話して香澄はキラキラした眼でそれを聞いて――なぜかポピパや他のバンドの人も誘っていく事になる始末だった。
しかし,その事を話している香澄の表情は…導志の元気が元に戻った事に心底安堵している様だった
お疲れさまでした!次も直ぐに投稿されます。
本家本元だと違うような気もしますが,香澄は色んな要因で導志の事になると奥手となってしまいます。普通に考えて,バンドメンバーの弟が好きって色んな障害がありそうですから(フラれた時とか特に)。
幼馴染とかなら寧ろ原作の性格通りに押せ押せに書いたと思います。
では,またすぐです!
香澄と導志,付き合った後のお話でどれがみたい?
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交際後,初デート
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2人がそれぞれリサに恋愛を相談する話
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2人の期間限定バンドのお話
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2人で海と夏祭りに行く話