トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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今までで一番長くなりました。


第二章:パラダイス・フォール 10話 『特別演習』

「だっしゃぁ!」

「うおっ!?なんて力だ!」

 

 大きく振りかぶられた拳が、紋章の刻まれた鋼鉄の盾を打つ。

 

 盾を構えていた鎧の騎士、王立騎士団サンストンブリッジ支部の騎士の一人は打ち込まれた拳が盾に止められず、拳を打ち付けたまま目の前の相手が体を押しこみそれに耐え切れなかった自身の足が地面を摺るのを鉄のブーツ越しに感じると、兜の下で目の前の白銀の騎士のヘルメット、そのせいで表情をうかがい知れないそれをじっと見た。

 

 白銀の騎士、超合金製強化外骨格T-51bパワーアーマーを頭まで着込んだロイズから一度距離を取ろうと鎧騎士が地面を踏み後方へ勢いをつけ跳ぶと、打ち込まれたパンチによって少しのへこみをつけたカイトシールドから拳が離れ、一度安堵する。

 

 だが次の瞬間白銀の騎士は、その全身鎧の重量を感じさせない軽快な踏み込みで自身へと突進、そして自身が地面に足をつけたタイミング、着地のわずかな衝撃で盾をしっかりと構えられなかったその小さな隙に盾よりも早く目の前に身体を割りこませると、既に構えられていた拳を胸甲に打ち据えた。

 

「うおぉっ!!」

 

 殴り抜けられる瞬間、鍛え上げた動体視力がそのまるで睨んでいるかのような、しかし視線をうかがい知ることの出来ない黒く染まった目元のガラスを捉える。

 そして先ほどまでも何人もの若造に見せつけたこの白銀の騎士の”馬鹿力”を身にしみるほど感じ、自身の身体がふわっと浮いたまま勢いをつけて後方へ、自身が跳んだ時とは比べ物にならないほどの衝撃を伴って飛ばされる感覚を覚えた。

 

 飛ばされた先は地面に引かれた線の外側、雑多に散っていた騎士団の若者たちの足元で、背中から地面に着いた彼は少し鎧を砂に擦るとすぐに止まる。

 するとすぐに彼を避けて飛び退いていた若者たちが数人寄ってきて、背と手を持つと大丈夫ですか、と声をかけながらゆっくりと起こした。

 

「一本!勝者はスクライブ・ロイズ!」

「おっしゃ!これで十二人抜きだ!次はどいつだっ!」

 

 地面が整地される前の砂っぽく歩きやすい地面のままとなっている騎士団支部庁舎の庭、またの名を修練場、そこにこれみよがしに引かれた円の中、鎧騎士が押し出されたそこにまるでステージに立つように、全身にパワーアーマーを纏ったロイズが拳をぐっと握ってガッツポーズを決めていた。

 

 

 ほんの数時間前ティコと別れた後上流区へと繰り出したロイズは、手に持った金色に輝くコインがどんな魅力的なアイテムに変貌してくれるのか、とささやかな期待を胸に貴族街に繰り出した。

 だがロイズを待っていたのは下層区の何倍もの値段をした、一食で銀貨、よくても大判銅貨が数枚要求される食堂や手持ちの金貨五枚(500,000)では足りないアクセサリーに衣服、果てはバレライト貨(5,000,000)が数枚要求される品物ばかりであった。

 

 ウェイストランドでも金は価値を持っていた。

 

 特に、先の戦争で自分達(B.O.S)がNCRの金山を爆破してからは顕著であり、NCRと敵対していた、古代ローマをモデルとした軍事組織シーザー・リージョンの発行する金貨はNCR領のみならず彼らを追い出した旧ラスベガス、ニューベガスや辺境の部族にすら価値を認識されていたほどだ。

 

 それなのに、この場においてはその金の塊ももはや当たり前のものであり、見回せば自分を奇妙な視線で見るドレスの麗しい女性方や、金の臭いを嗅ぎつけたのかパワーアーマーに視線を移す身なりの良い商人達にとっては潤沢に手に入る消耗品でしかないという事実が、ロイズを萎縮させた。

 

 

 そして結局、食事をしようとしてもアーマー姿ではドレスコードに引っかかりどこも入れなかったため騎士団支部庁舎に飯をたかりに来たのだが――― そこでまたトラブルに見舞われた。

 

 食堂に何食わぬ顔で入り、午前の訓練が終わったのか並んでいた騎士たちに混じってちゃっかりと食事を購入し席についた彼に、無数の視線が突き刺さる。

 それにゾクッとしたロイズがスプーンを置き周りを見回すと、待っていたかのように何人もの騎士達が彼に詰め寄ってきたのだ。

 

 両隣、向かいの席、その両隣、背後も取られた。まさに逃げ場を失い四面楚歌になったロイズが口をぱくぱくとさせていると、ロイズを取り囲んだ彼ら、年は20に届く程度の新人なりたて若手の騎士達がいっせいに口を開いた。

 

「なあ、アルレット副長が殺されかけた魔獣を仕留めたのってアンタか!?」

「バッカこいつはベビ・ベア仕留めたんだよ、でもそれにしたって一体どうやったんだ?たった二人だって・・・」

「なんだっていいわ!それだけ強いなら戦い方を手本にしてもらいたい、一度お手合わせ願ってもいいかしら?」

「俺もだ!俺も一太刀交えさせてもらっていいか!」

 

 やいのやいのと集まっては本人そっちのけで勝手に話を進める彼らに、ロイズはあっちへ目を向けこっちへ目を向け頭のなかをぐるぐる回す。

 そしてとうとう、頭の処理が追いつかなくなった彼は勢い良く立ち上がり、余波で背中にひっついていた騎士を転がすと両手を挙げ、手合わせを受け入れる旨を叫んでしまったのだ。

 

 

 半ばヤケであったが、声を聞くなり若手の騎士達は彼を修練場に連れて行き、彼を円の描かれたステージ、外に出たら負けというルールでの決闘用に使われるそれに押し入れると試合の順番を決め、幸運にも最初の一人に選ばれた若い騎士――― ロイズに最初に手合わせを願った女性騎士が円の中に入る。

 

 主に魔法による攻撃に対し作用する、魔法処理の施された鎧を着用し訓練用に刃を潰した剣を構える彼女は、先ほどまでの若々しい好奇心に溢れたものとは一転騎士であることを納得させる”本気の目”となっていた。

 

 ロイズは目を合わせるなり気圧されたが、気がつけば周囲に散っていた騎士達、それも他に修練をしていた者や非番で暇を持て余していた人間までもが集まり、逃げ道ひとつ残さず円を覆っていたのを見て、そして言った手前相手をするのが礼儀だと考えを改める。

 

 腰に掛けたパワーフィストを手に取ろうとするが、これが戦前のハイテク機器であり自分のさじ加減でダメージを調整できない代物であることに気づくと、彼はパワーフィストを外し円の外にいた騎士に渡し、無骨なデザインの武器を見て少年心を震わせる騎士を後にすると、腰に掛けたミニバッグの中から金色に光る、ひとつの武器を取り出した。

 

 “ブラスナックル”、メリケンサックやナックルダスターとも呼ばれる、四つの指通しが凹の字になり、突き出た金属部分を掌で支えることによって拳を保護し殴打した対象に大きなダメージを与える武器である。

 源流は不明だが、古くはリージョンが信奉している古代ローマの拳闘士が拳の保護のために厚い革紐を巻いたセスタスや中国の圏に類似性が見られ、使われる幅としてもアメリカのギャングの喧嘩から、日本の岡っ引きが犯人逮捕に使うまで広い。

 

 銃器の取り扱いが致命的なまでに苦手であったために白兵戦闘の自主訓練に傾倒していったロイズは、フィスト系武器を主に使うがその多くは機械制御でクセがあったため、慣れるまで、またとっさの状況でフィストが手元に無かったときのため携行性の高いブラスナックルを持ち歩き、それを使って訓練をしていた過去がある。

 

 今では出番が減ったがある種”旧友”とも言えるブラスナックルを、今日もいつものように側に置いておいたロイズはまたこんな形で出番が来ると思っていなかったため少し、金色に光るそれの四つ並んだ穴を見通して懐かしい気持ちになりつつ嵌める。

 

 騎士達は彼が剣や斧といった、戦闘において勝敗を分かつ条件にもなるリーチの長い武器ではなくただ拳を構えただけだったことに対し奇異の視線を向けたが、それからすぐに、ロイズに逆の目を向けることになった。

 

「はじめっ!」

「やあっ!」

「だっしゃぁ!」

 

 円のすぐ側に立っていた別の騎士、審判代わりを務めていた彼が合図をすると同時に、飛び出したロイズに女性騎士がまっすぐな太刀筋で返す。

 

 だがロイズは――― 剣撃を回避しなかった。

 打ち据えられる剣をパワーアーマーの腕部でまっすぐに受け止め、キンッ、と金属同士がぶつかった高い音が鳴るのを耳にしたままロイズは懐に飛び込み、鎧の上からとはいえ頭を打った以上、脳が震えるとたかをくくったのか手を止めていた女騎士が動くより速くその胸甲に拳を打ち込む。

 

 なすすべもなく拳を打ち込まれた女騎士は、身体を浮かせると勢い良く後方に飛んでいき円から飛び出し倒れると、一度立とうとして、それで腰を抜かし座り込んでしまう。

 女騎士は自身がついさっきまで立っていた場所と、今飛ばされてきた場所を交互に見る。

 実に半径5mはある円の外まで飛ばされたことに彼女は呆然としていた、周囲も同じ様子だった。

 

 

 ―――が数瞬後、場が一斉に沸き立つ。

 

 全身鎧を着ていたから負けるわけがない、や魔道具ならばそれくらい当然だ、とロイズのT-51bパワーアーマーの方に向けた声もちらほら見られたが、集まってきた中年や壮年の騎士も含め、多くは別の方向に向けられていた。

 

「若い衆じゃ一、二に腕の立つミーシャがこうもやられるとはのぅ」

「見たかよ!鎧着てんのに5メーターは飛ばされたぞ!いや7,8メーターは行ってたかも!」

「剣を鎧の腕で受け止めといて少しも引かなかったぞ!なんてパワーだ!」

「あの攻撃力・・・ナックルダスターを指にはめただけでそれか、魔獣を倒せたのも納得だ・・・」

 

 軽鎧とはいえ重量を増した女騎士を軽々と5m以上殴って飛ばしたそのパワーを賞賛する声は多く、すぐさま次の対戦相手がフィールドに上がる。

 それを打ち倒し、また賞賛の声を聞き届けると、次が上がり、剣を弾き、受け止め、時には下り、果ては魔法を使いたいと言う相手のためにヘルメットを被って応じ、もろともせずに叩き潰す。

 

 この世界での騎士というものは、貴族の趣味や子供の将来の箔をつけるためのものであったり、養成院を卒業した人間を就かせる、といったものが多く、領地内でのいざこざの解決のために派遣されていたり、中には王や有力貴族の護衛に付いている者もいる。

 

 ”騎士”の名の通り馬を駆り領地を守るため駆ける彼らの姿は道行く人々の目に畏敬の念を抱かせるに至るが、それでも警備隊や正規軍とは分離されているためそういった用事が無い者は得てして暇になり、日夜訓練に明け暮れるしかなくなるのだ。

 

 だからこそ、魔獣をほぼ単独で仕留めたと噂の人間が来たとなれば修練場にいるほとんどの人間が寄ってくる。

 上は60を越えた老人から下はまだ10代後半の新入りまで、老若男女問わず人が集まり、日頃の訓練の成果を試すためにロイズに挑んでは散っていく。

 そうしてロイズも息が上がるまで続け、最終的に彼一人で三十人もの騎士を抜きとうとう膝をついた。

 

「ぜー・・・ぜー・・・もういないか」

 

 ヘルメットを外し、外気に顔を晒すと共にもわっと湯気が立ち、顔を赤くしたロイズがようやく表情を見せる。

 

 汗に濡れた髪は艶やかに演出され、深く呼吸をする様はまだうら若い彼に妙な色気を持たせる。

 整っているが、特別端正というわけでもないロイズの顔つきは普段はあまり評価されないが、今ここにいて、彼に挑み散っていった騎士達には顔についた細かなキズと合わせ、彼を歴戦の強者であるかのように仕立てあげた。

 

 

「やたら修練場が騒がしいと思って来てみれば、まだここにいたのか」

 

 ロイズが息を整え、顔色もようやく元のままに戻ったころ、他の騎士達にもてはやされ今度は質問攻めに遭っていたロイズのいる円のステージに、ふらっと一人の男が現れる。

 騎士達ははじめロイズにかかりっきりであったが、一人がその来訪に気付いた瞬間他の騎士達の背を叩き振り向かせ、最初の一人が気付いてからものの十秒とかからないうちに全ての騎士達がロイズから離れた。

 

 そしてこの世界の敬礼――― 右の平手を左胸、心臓の前にそっと乗せる動作を来訪者に贈る。

 

「訓練結構だ、ウチの若造達をしごいてくれて感謝するよ、ロイズ」

「エルヴェさん?ああ、どうも、ちょっと成り行きでこうなりまして」

 

 周囲の騎士達が一気に空気を変え、敬礼を取ったのを見てロイズも元の世界(ウェイストランド)式の敬礼を返し、次いであわてて他の騎士達と同様の敬礼を取ろうと手を動かす。

 だがそのぎこちない動作を見て、エルヴェは微笑むと手で制した。

 

「手のひらを額に当てる・・・それが君の”故郷”での敬礼か?見たことがない、ますます興味深くなるな・・・どうだ?今からウチに・・・」

「え、遠慮しておきマス・・・」

「まあそう言うと思ったよ、騎士団への直接の勧誘を蹴るってことは相当大事なことなんだろう」

 

 昔は俺も冒険者やおとぎ話の勇者に憧れたもんだ、と笑って言う。

 

「ともあれロイズ、俺は俗にいう英雄譚や戦記という本が好きでね、値が張るにも関わらずついつい書店で見かけると財布の口を開いてしまうんだ」

「・・・?ああ、その気持ちわかりますわかります、知らないものがあるとつい手に取っちゃいますよねー」

「だろう?まあそんなだから、英雄達の剣技を昔はつい真似たりしたもんだ。この立場になってからはなりを潜めたが、熱いハートはまだ失ってないと自負していてつまり―――」

 

 エルヴェは手近な騎士に声をかけると訓練用の剣を一本受け取り、軽く振るとその剣先をロイズに向けた。

 

「もう一本だけ、付き合ってくれるかな?私も廊下の窓から見ていてその・・・燃えてしまったんだ、三十人もの俺のかわいい部下をいとも容易く倒した君を見てね」

 

 剣先を向けるエルヴェが向ける視線に返し、ロイズは目と目を合わせる。

 見えた瞳の奥、赤々と炎が燃え上がっていることを察したロイズは、諦めてヘルメットを置いた。

 

 

 

 

「ルールは同じだが、君にはその・・・”鉄拳の魔道具”を使ってもらいたい、是非一度どんなものか確認したかったんだ」

「え!?いや、いくらなんでもコレが当たったらタダじゃ済みませんって!」

「承知の上さ、私も仕事が残っているからあまり時間は掛けられん。一発だけ、打ち込んでもらいたい、私の”魔法”と君の”魔道具”どちらが勝つかを試してみたいんだ」

「・・・はあ、そういうことなら」

 

 ロイズは納得すると円の外に出て、渡してからというもの騎士達の間を転々と回されていたパワーフィストを回収するとブラスナックルを外し、パワーアーマーのグローブの上からパワーフィストを両手に嵌める。

 

 そして拳を構え――― 実戦でそうしている、姿勢を低く保ち、全身鎧の重量を微塵も感じさせないステップを踏むと、対面にいるエルヴェに目を向けた。

 エルヴェは視線を受けると心底楽しそうな、年に似つかわない笑顔で応え、剣を逆手に持つ。

 そして目を光らせ、真剣そのものの表情と化すと同時に彼の周囲を土色に色素を変えたマナが漂い始めた。

 

「さあロイズ、一発・・・いや、二発でも三発でもどんと来い!俺が使える最高の魔法、自慢の土壁だ、君に破れるか!?」

「言ったな!オッケー、一瞬で砕いてやりますよ!」

 

 土色のマナはベクトルをエルヴェの持つ剣に変えると、それを包み込むように集約していく。

 そして手に持つ剣が土色のマナに完全に包まれたころ、エルヴェはそれを一度高く上げると一気に修練場の地面に突き刺した。

 

「ゲラ・デ・テーラ!」

 

 下から三番目の”ゲラ”の位で”壁”を意味し、”土属性”を指す呪文。

 エルヴェが唱えると同時に剣先からマナが地面に吸収されていき、淡く輝くと共に土がせり出す。

 高さにして3mはあるだろうか、凝縮し強固に仕上がった土の防壁は修練場の地面と同じ色をしており、見れば壁の横の地面がまるで吸い取られたかのように陥没していた。

 

 ”デ”系統の魔法、魔術においてで”壁”を意味するその呪文は、マナを変換、凝縮させ強固な盾とする。

 ただし、大気中のマナで代替可能な他属性とは打ってかわり、大地の属性だけは確固とした”固体”であるがために、何もない場所で使用することができない。

 

 地面が岩やレンガ、鉄床なら相応の才能が必要になるうえ、発動時に立っている地面の質、土の材質や生えている植物、水分の保有量によって壁の強度が変わるために安定せず、白兵戦などにおいてはあまり魔法使いにも好まれない呪文だ。

 ただ一方で、使用した際周囲の地面を陥没させ、ある種(ほり)のような状態にするため横一列に並べて敵の進行を阻害、トーチカのように使われるなど、大規模戦闘においては縁の下の力持ちを担っている。

 

 今回エルヴェが魔法を発動した修練場の床は、まさにこの魔法にうってつけだった。

 植物の一切が生えておらず魔術を阻害する要素がなく、いの一度も耕作に使われたわけでもないため豊かなままで、しかし現時点での水分保有量が少ないために強度も高いのだ。

 

「さあ来い!」

「言われなくても行きますよっ!」

 

 そびえ立つ壁、元の世界ではスーパーミュータントが同じような大きさをしていたなあ、と脳裏に()ぎらせつつ、鋼鉄の靴底で地面を蹴りロイズは飛び出す。

 

 一歩目で地面を蹴り、二歩目でモーターが一気に回転し、三歩目でパワーアシストがフル稼働し、四歩目でトップスピードに入る。

 そして六歩目を踏み込んだ瞬間に、ロイズは胸の前に収めてあった拳を打ち込んだ。

 

 背筋が身体の回転を補助し、その後押しを受け大胸筋が右の拳を勢いのままに正面へと突き出す。

 瞬間、土壁にパワーフィストが打ち込まれ、拳自体の衝撃を与えると同時にプレスが展開、機械制御の第二撃が二重の衝撃を土壁に与えた。

 

 小さく土煙があがり、それを見た騎士達がおおっ、とざわめく。

 破壊こそされなかったものの、土壁の向こう側にいたエルヴェにも相応の衝撃が伝導したようで、衝撃で削れた砂が顔にかかり、くしゅんと小さくくしゃみを飛ばした。

 

「ははっ、流石にここまでになると壊せないかロイズ、とはいえこの威力は―――」

 

 言い終える前に、再び衝撃が伝道し自身の鼓膜をびびっと痺れさせる。

 続けて衝撃がまたも伝道し、すぐにもう一発が、またもう一発が打ち込まれ続ける。

 

 騎士達が再びざわめく。

 反対側では、ロイズがまさに人智を超えた、全身鎧の重量を感じさせないどころか生身よりも高速の拳を打ち込んでいたのだ。

 

 ロイズの目が充血し、ナチュラルハイになった頭が自然と笑みをこぼさせる。

 左腕に取り付けられた戦闘補助デバイス、Pip-boy3000のグリーンディスプレイには『V.A.T.S』の文字が輝いており――― 今まさに、彼は常人の時間感覚とは切り離された世界でパンチを打ち込んでいた。

 

 ポートチャンバーをウェイストランドの銃器製造メーカー、ガンランナー製の最近モデルに換装し、空気圧を加えるためのチューブをクローム製、バルブも大容量のものに変更してあるスーパー・パワーフィスト。

 

 グリーズド・ライトニングほどではないにせよV.A.T.Sによる高速打撃に追従するパワーフィストは、土壁にプレス型の穴を開けるとその周囲を無数のヒビで汚し、次々に打ち込まれる殴打がそれを更に加速させていく。

 

 ほんの数秒だけだったとはいえ、もはや騎士達も目では追い切れない打撃の嵐が土壁にヒビを与え、外殻をボロボロと落とす。

 そしてロイズの動きが通常のそれに戻ると同時に――― 土壁は、向かいでいつからか盾を構えていたエルヴェに無数の土の塊を降らすとともに大きな音を立て砕け散った。

 

「まさか・・・!」

「だっしゃぁ!」

 

 驚きの表情を浮かべるエルヴェと、崩れた壁の向こう、拳をぐっと握る白銀鎧の騎士。

 砂埃をぱんぱんと払ったエルヴェは、ロイズを一度見やる。

 

 同じように砂だらけであり、見てくれはまさにみすぼらしいそれであったが、仮にも自身が持つ最大の魔法を打ち砕いたその”騎士”に、エルヴェは内心であっぱれと賛辞の言葉とともに、彼を騎士団に誘えなかったことをちょっぴりだけ残念に感じた。




忙しくなってきたので、定期更新から出来次第の投稿にします、すいません。
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