トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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8246文字、定期的に長くなっていく・・・。


第二章:パラダイス・フォール 12話

 

 

 しとしとと、絶え間なく雨が降る。

 

 

 そうすると、かねてより水害に悩まされている水辺、川辺の街は土嚢を積んだりとやっきになるが、農村では恵みのそれとなる。

 ここサンストンブリッジも豪雨の際に用水路が氾濫することはあれど、そうでなければ得てして店頭の商品がしまわれ、通りを歩く人も減り、普段は景気良く声を上げている商店街の店主たちはカウンターで退屈そうに帳簿のページをめくり、市民も仕事が中止になると家族と過ごし、そうでなくても通りに人が少ないこの天気の日はそれを狙ったスリや強盗に遭うのを恐れ出歩かない。

 

 巡回の警備隊も水筒に入れたお茶を魔法で温めつつ、外套をかぶり雨風を防ぎながら交代で回っていて、誰も訪れない詰所では積み上げたチップをあちらこちらに動かしながらもう何回やったか分からないボードゲームを今日も繰り返していた。

 

 退屈で憂鬱、でもこの時間を大事に。

 それがここサンストンブリッジを生きる人の、雨の日の過ごし方だった。

 

 

 貧民街と市民街の境界に構える、外装レンガ、内装は木造りがちらほら、この地帯では一般的な建築様式を持つ孤児院。

 20の部屋はほとんど明かりがついており、雨に打たれる窓越しにでも、憂鬱な雨の日だというのに騒がしくしている子どもたちの姿が見える。院長のエリスも今日はもうやることがないと、子どもたちのために温めたコーアを配っていた。

 

 庭につながれた一匹の家畜、モートのブラフマンも今日は即席の天幕の下で退屈そうにしていて、箱に入れられた干し草には手を付けることなく膝を折り、二本の尻尾をゆらりと揺らしつつ夢の世界に入っていた。

 

 

「雨か、緑のある場所じゃあ珍しくもなかったが、カリフォルニアやモハビじゃあ滅多に振らなかったな」

 

 孤児院の食堂、今ではすっかりパーソナルスペースになっていた窓際のロッキングチェアに座り、ヘルメットを脇に置きコートを背もたれにかけたティコは、この大陸の子供向け教科書”はじめてのデレクタ式ひらがな”に目を通していた。

 

 言語を覚えるのは並大抵ではないにしろ、せめて文字の種類や数字くらいは覚えておきたいとエリスに言ったところ貸してもらえたものだ。もう彼の相棒はアルファベットに文字を対応させる程度のことはできているらしく、ああ見えて地の頭がいいあたりにスクライブとしての素養があるのだと思い、負けてられないな、とひとり呟く。

 

 少し前に貰った金貨五枚も、ベッドを貸してもらっている恩義だと奮発して孤児院の子どもたちに新しい服を買い与えたために半分も残っていない。いい加減に日雇いの仕事でも探さないと本当に穀潰しになってしまうが、この世界での仕事のためには、せめて数字程度は読めるようになっておかなければ難しく彼は四苦八苦していた。

 

「何に使うつもりだったのか知らんが、B.O.Sの連中が積んでおいてくれたガラクタを売りさばけば簡単に稼げるかもしれんが・・・流石にお縄になりたくはないからな」

「この間は口先で警備兵をごまかしましたけど、本来魔道具の販売は免許制ですからね。商人としての実績がある程度ないとそうそう貰えません・・・まあそのせいで、魔道具に関しては大きな闇市があるそうです、平和を守る騎士としては嘆かわしい限りですが」

 

 座るティコに、アルレットがお茶の入ったコップを渡す。

 エルヴェの差し金か毎日治癒師が訪れ治療している彼女は、なんとか両腕を動かせる程度には回復していた。

 

 コップを受け取ると、ずずー、と口にする。

 ほのかに甘い香りがするくせに、ほどよい苦味が舌先を満足させるお茶であった。茶菓子にマットフルーツでもあると最高なんだがな、と思いながら、たたんだ本を置いてティコはいつのまにか乾いていた喉を潤していく。

 

「しかしなんでまた、日雇いの仕事をするのにも読み書きの知識がいるんだか、あっち(ウェイストランド)じゃピストルかクワが使えりゃそれなりに生きていけたもんだってのによ」

 

 手元の本に目を落とし、目に飛び込んでくる不可思議な文字の数々を鬱屈そうに受け止めるティコが言う。

 

「何代か前からの国王の方針で、貧民であっても最低限の教育は受けられるようになっているんです。元は、国民が知識を得れば生産や戦場での行動が効率的になるとの国策で始まったことらしいですが、結果今では逆に数字やひらがな程度が読めるのが仕事を得る上での最低基準になってしまったんですよ」

「一度上等なビールの味を知った後は、なかなか薄めたビールに馴染めないもんだ、分かる。資本主義の音が迫ってきてるぜ、平和なぶんこっちのがマシだがな」

「この孤児院で勉学を教えているのもその一環ですね、働ける年齢になるまで教育をして、それで商家などへの奉公に出すと」

 

 窓の外を見ながら、アルレットもお茶をすする。

 ティコも降りしきる雨に目を向けると、軽くため息を吐いてまた本に目を落とした。

 

「そういえば、ロイズさんはどちらへ?」

「あいつなら部屋に籠もってアーマーと武器のメンテさ、何が目的だったのか知らんが、B.O.Sが積んだ武器の種類が多くてな、結構時間がかかるそうだ」

「あの強力な武器が、まだほかにも・・・ちょっと見に行ってもいいでしょうか?」

「相棒なら別に構わないって言うだろうが、あいつああ見えて興味ある分野には結構説明好きみたいだから逃してもらえなくなるかもな」

 

 なんでわざわざ鈍器や刃物じゃなくフィストを使うのかと聞いた時に、孤児院の講義室のブラックボードを使ってまで白兵戦のうんぬんを説明されたことは記憶に新しい、と笑う。それを聞いたアルレットは、自分は知らないことを聞かされるのは逆に楽しいですよ、と答えるとお茶をもう一杯淹れ、まだ完治していない左腕をかばうようにゆっくりと扉を開けロイズのいる荷物置き場へと去っていった。

 

「騎士団の表彰ですら上がる奴なんだ、年上の姉ちゃんと二人きりだと、照れて説明どころじゃなくなるかもな・・・」

 

 遠ざかっていくアルレットの足跡を耳に入れながら、またお茶をすすりひとり呟く。

 そして窓の外に目を向けると、降りしきる雨を視界に入れながらまた本を開こうとし、そこではっと思い出したかのようにぱたんと閉じる。

 

「そういや、食材が足りないとかでアルの嬢ちゃんが商店街まで買い物に行ってるんだったか・・・朝は降ってなかったから傘は当然持って行ってないわけか」

 

 椅子から立ち、窓辺に本を置くと背もたれからトレンチコートを取って羽織る。

 

「思えば結構帰りが遅い、今頃買い物カゴ片手に立ち往生ってところか」

 

 床においたヘルメットをよっこらと取ると、頭に被り首もとと後頭部に手を当て位置を調整し、ちょうどよくなったところで歩き出し食堂の扉をくぐる。

 そして玄関まで行き、置いてある傘をひとつとると扉を開け、降りしきる雨と雨雲を見上げてばさっと傘を差した。

 

「あんな子供を雨風の中放っとくのはポリシーに反するな、一肌脱ぐか!」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁ、なんでまたこんなタイミングなのかなぁ」

 

 

 降りしきる雨の中、一人呟く。

 

 雨空に晒されほとんどの店が商品を内に引っ込め、表の扉から小さく明かりを漏らすのみとなっている商店街、その寂しい空間の一角の八百屋の軒先で、アルは濡れた上着をぎゅっと絞っていた。

 

「にわか雨だねえ、ほら、これで体拭きなアルちゃん」

「助かります八百屋のおっちゃん、あー・・・せっかくダンナに買ってもらったおろしたての服がぁ~」

 

 奥からひょっと出てきた八百屋の店主からタオルを渡されたアルは、雫を垂らす赤髪を拭うと上着を手頃な棚に置き、体も拭いていく。

 彼女が着ているのは先日ティコが買い与えた、新品のものだ。

 黒インナー黒スパッツの上にシャツを着てホットパンツを履き、その上から髪と同じ赤の半袖ジャケットを着こなしている。頭にはヘアピンが留められ、生い立ちが生い立ちなだけに”おしゃれ”といったものには元来興味のないアルとしては、このラフで動きやすい服装で十分に満足していた。

 

 もっとも、選んでいた時には全く見てくれを気にせず動きやすさだけで選んでいたために、ティコがこれはいかんと、サバイバル生活のせいで足りないはずのセンスをフル稼働してコーディネートしていたためそこそこ宜しく、子供らしい快活さが押し出された着こなしとなっている。

 

 それでもややどこか、ウェイストランドのレイダーチックなパンクらしさが見えるのは仕方ないか。

 

「普通ならひっ捕らえられて牢入りするかもなところを見逃してもらって、長いこと食べたかったまんぷく堂の料理も食べられて、服まで・・・ほんと、ティコのダンナには頭が上がらないなぁ」

「最近、一緒に来てるあのマスクの旦那かい?赤い目の・・・孤児院で雇ってる人か誰かかい?」

「ううん、ただの居候ですよ。凄く強くて、魔獣を二匹も仕留めたって」

「魔獣を二匹も!?騎士でも数人がかりで相手するのに、すごい人だったんだねぇ。今度来たら聞かせてもらおうかな?」

 

 店長はひとしきり感心すると、身体を吹き終えたアルが差し出したタオルを手に取り店の裏に戻っていく。アルは降りしきる雨をまた見上げると、止まないそれにため息をつき手元のカゴに入った野菜に目を落とした。

 

「今晩はエリス院長のシチューかぁ」

 

 少しの肉と小麦粉、いただき物のミルクと適当な野菜で煮込んだ、よく言ってもシチューもどきでしかない貧相なものだ。だがいつだって、飢えるほどではないが貧しい孤児院にとっては、大きな贅沢であるのだ。

 

 帰ったら、食堂でまたダンナの話でも聞こう。

 外の世界をまだ知らないアタシには想像もつかないような冒険が口から出るたびに、アタシも、集まって話を聞きに来る他の子たちも、その場から離れられなくなるほど楽しいんだ。 

 

 シチューができるまでの時間はいつももどかしいけど、ここのところはにぎやかになってなんでか待っている時間も結構楽しくなってきてるし、それにああ見えて料理得意なロイズさんがいるからそう時間もかからないかもしれない。

 そしたらみんなで集まって、昼のご飯を食べて身体を温めて、エリス院長の授業とか、最近加わったアルレットさんの講義とかで午後を潰して、お風呂で身体を温めて、寝てまた明日を迎えて―――

 

 何年か経ったら、アタシもきっとどこかで仕事をするようになるんだろうけど、そのときはダンナとロイズさんと同じ運び屋でもいいかもなぁ、ダンナが言う”世界”ってのを見てみたいんだ。

 

・・・あぁ、なんだろう、ただ昼のご飯を食べに帰るだけなのに待ちきれなくなってきた―――

 

「八百屋のおっちゃん!タオルありがと!アタシもう帰る!」

 

 濡れた上着に袖を通して、野菜の入った買い物カゴを抱えると軒先から雨の中へと一気に躍り出る。

 服や髪が濡れるのなどおかまいなしに、大通りを駆け、角を曲がり、路地を駆け抜けていく。体は間違いなく冷えていっているはずなのに、躍る心は暖かく、ちっとも寒さを感じさせなかった。

 

 

 

 走り続けて十分も経ち、見慣れた用水路沿いに歩くようになればもう帰り道は半ばに達する。

 そこで濡れた髪かぺたっと張り付き、塞がれた視界を確保するために片手で髪を脇へと押しやった。

 

 その時だ。

 

 再び戻った彼女の視界を覆う何かが、目の前にぬっと現れた。

 

「うわっ!」

 

 突如現れた相手に、足を止める。

 その間も雨はふりしきり、彼女の体を冷やし続けていた。

 

 見れば、目の前に現れたのは一人の男。筋肉質な身体を覆うようにローブをまとっており、フードによって雨から匿われた顔は表情をうかがい知ることはできない。

 

―――さては盗っ人か。

 

 雨の日によく現れる、悪天候の日に誰もが出歩かない原因になっているそれを睨みつけると、アルは瞳を細める。

 彼女が持つ”猫の目”がその能力を発揮している合図だ。この時だけ、彼女には他の存在が何分の一ものスローに見え、身体のなめらかさは人間のそれを格段に凌駕する。

 

 ローブの男が動く。

 だが彼が右手を伸ばそうとした瞬間に、アルはその驚異的な瞬発力と、なめらかな身体運びによって彼の右手をすり抜け、懐に入り込むと股下を器用にすり抜けていく。

 

 その様は彼女の、この年代の少女にしても小さな体躯と合わせまさに猫のようであり、買い物カゴを胸の内に抱えたまま彼女は悠々と男を背にし、距離を離すことに成功した。

 

「アタシを捉えたのはダンナだけさ!」

 

 脳裏に顔中に大やけどを負った、世界を旅した人を浮かべながら彼女は降りしきる雨の中、ぐんぐんと男から距離を話す感覚を背で感じる。

 

―――だが、見えた曲がり角を曲がろうとしたその瞬間、急激に意識が遠のくのを感じた。

 

「いったい・・・」

 

 足がもつれ転び、手にした買い物カゴが転がる。

 

 痛みはなく、ただ襲い来る睡魔だけが彼女の感覚を奪う。

 目蓋は今にも閉じようとしており、身の危険のためだけに絶え間なく鳴りしきる第六感の警鐘だけが、彼女の意識をつなぎとめていた。

 

 そして視界の端に目蓋の端が映り、脳が意識をぶつ切りに送ってくる程になったころ、同時に背後から近づく、ローブを筋肉質な男へと振り向く。

・・・その手には、”黒”の石を埋め込んだ小さな杖が握られていた。

 

「“陰”の魔法使い・・・?」

 

 なんで・・・と口から漏れると同時に、ぷつりと意識が途絶えアルはぬかるんだ土に頬をつける。

 あとに残ったのは共に転がり土に汚れた野菜の数々と、倒れた少女を肩に乗せ、杖を一振りし姿を消す”魔法使い”の姿のみだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 この世界で広く使われる、水を避ける素材の傘が雨を受け、ぱたぱたと絶え間なく音を鳴らす。

 ここのところよく使う、孤児院から商店街への最短ルートの用水路沿いの道をティコは、厚いブーツのゴム底でぬかるんだ土に跡を付けながら歩いていた。

 

 ふと目を向けた用水路は、普段の穏やかなそれとは真逆の急な流れを呈しており、一歩でも踏み込めばそのまま足ごと身体をすくわれ街の外まで流されてしまいそうだ。

 

「安全な水がこうも贅沢に天から降り注いで、あまつさえ汚水処理に使われているなんぞ向こうにいるときは信じられなかったがな」

 

 用水路に目を向けたままため息を吐き、ふと思い出す。

 

 乾いた風が吹き、照りつける太陽が自分の焼けた皮膚を更にじりじりと焦がしていたウェイストランドでは、雨が降ることはそうそうなかった。

 ザイオン国立自然公園のような、戦前からの自然環境がそのままに残っている場所では清浄な、今自分が浴びているようなものが降り注ぐと聞いたが、カリフォルニアに降る雨は少なく、時折降るそれには大手を振って宿を飛び出したものだ、とティコはつい懐かしくなった。

 

 そういえば、ここでは雨だけでなく海も無事だと聞いた。

 向こうでは海は既に、先の大戦の影響で放射能や有害物質のプールとなっていたために人が入ることは愚か、海産物など水銀と放射能の塊で手を付けられたものではなかった。

 グールである自分達ならば多少の影響は免除されたが、それでもわざわざ胃の底に重たい水銀を蓄積してまで食べるほどいいものでもない。一応川沿いには漁師が存在しているが、水中から衝撃波で獲物を引き裂くレイクルークや銃弾がまるで効かない蟹ベースのミュータントであるミレルーク、そんなものを相手にしてまで続けるのは正直割にあわない。

 

 いつしか魚や海藻を食べるという文化が人々から忘れ去られていき、既にキャラバンや兵士ですら”魚”という単語に聞き覚えがないというのが現状だ。

 そういえば冷凍されていたり干物にされているものばかりだが、商店街にも魚が出回っているのを見た。一段落ついたら買ってきて、捌いて食べてみるのもいいだろう、川魚ならずっと昔に捌いたことがある、要領は同じだろう。

 

 そんな脳天気な思考を降り注ぐ雨の中走らせていると、遠く、用水路沿いの十字路に何かが落ちているのをめざとく見つけた。

 

「なんだ?随分無造作に色々転がってるみたいだが・・・」

 

 気になり、ティコは歩幅をそのままに距離をつめようとする。

 だがその距離が近づき、はっきりと目視できるほど近づくに従って足が早まっていき、最終的にはトレンチコートの裾に飛びかかる土を気にしないほどの足の速さとなっていた。

 

「こいつはまさか・・・いや、転がってる野菜も間違いない、嬢ちゃんの・・・!」

 

 転がり、土に汚れたそれ、買い物カゴと野菜の数々をぬかるみから取り出し、手にとってじっくりと見る。

 買い物カゴはよく使われる何の変哲もない藁編みのものであったが、端々についたキズの数々やくたびれ具合が、自分が目指していた少女アルが持っていったものと同等であったことを指していた。

 

 ならばアルはどこか。

 用水路を覗く。まさか流されてしまったのだろうかと思い見た急流だが、それにしては岸から離れているし、なにより道の真ん中に転がっている野菜に疑問が残った。

 

 ならば―――

 

 ぬかるんだ土に目を向ける。

 そこには自分がつけたブーツの足跡、そして今にも消え入りそうだが小さく残る、アルのものと思わしき足跡。

 そしてもう2つ、その場から離れるようにして、今まさに雨が削り取ろうとやっきになっている大きな足跡と、明らかに人為的に踏み消されたであろう子供の身体を引き倒したような跡が残っていた。

 

 ただの通行人のものならば、ただ等間隔で真っ直ぐに伸び、消えていくだけだろう。

 だがその足跡は明らかに一度消された跡の側で立ち止まっていた。

 

「昔の相棒ほどじゃないが、どうしてか俺も厄介事を引き寄せる体質らしいな!」

 

 ホルスターからレンジャー・セコイアを抜き、マガジンポーチから.45-70ガバメント弾を弾倉全部分、5発引っこ抜き装填すると、雨に濡れないよう傘でかばいながら消えさりそうな足跡が消えていった方向に目を向け、走りだした。

 

 

 

 降りしきる雨がコートを濡らし、防ぎきれなかった雨粒がつう、っとアイピースから垂れるのを意に介さないまま走り二十分ほど。

 いよいよもって土に溶けていきそうな足跡に導かれ、ティコは孤児院や商店街からも遠く離れた街の北北西、貧民街の奥へと訪れていた。

 

「あれか・・・!」

 

 隙間風がガタガタと揺らす板張りのバラックや木製のボロ屋が目立ち、あたりにゴミが散らばる貧民街の中において、ただひとつ変わった場所を見つける。

 木造りの家屋郡の中、ただひとつだけがっしりとしたレンガ造りをした、地下行きの階段であった。

 

 ティコは迷うこと無く足跡の続くその階段へと足を掛けようとするが、瞬間、道を塞ぐ者が現れたために足を止める。ティコの前に立ちふさがった大男、成人男性の平均のそれよりもずっと高いティコすら上回る体躯を持つ男――― 巨人族は、彼をその固く険しい手で制すると同時に口を開いた。

 

「ここから先はお前のような者が入る場所ではない、”お得意様限定”といったところだ」

「分かった分かった・・・要はこいつが欲しいんだろ?」

 

 見下ろし、睨みつける見張りの男を、表情の見えないマスク越しに睨みつけるとティコは懐に手を入れる。そして銀貨を一枚ゆっくりと取り出すと、ピン、と指で弾き見張りの男に飛ばす。

 見張りの男は、その巨躯からは想像できないような小器用な手先で飛んできた銀貨を受け止めると、ちらりとそれを見て眉をしかめた。

 

「とてもじゃないが、ここに入るには足りない、そうであろう?」

「分かった、こっちも急ぎの用事だ!五枚持ってけ!こいつもどうだ!」

 

 意地悪な笑みを浮かべ応える巨人の前で、今度は無造作に懐に手を突っ込むと四枚の銀貨を手のひらに乗せる。更に倍プッシュだと言わんばかりにキャップも置いてやると、意地悪な笑みを浮かべていた巨人も険しい顔つきをにっこりとしたものに変え階段の脇にどき、指で先へ行くよう合図した。

 

「銀貨五枚に”クラウン”、懐の温かい人間のようだ、ならば通しても問題あるまい」

「へっ、随分現金な野郎だ、俺だったら雇わんがね!」

 

 悪態をつき、傘を見張りの巨人に押し付けると松明が照らす階段をゆっくりと降りていくティコ。

 一度ホルスターに仕舞ったリボルバーを抜き、肘を曲げ片手に持ったまま一段、また一段と下っていく。

 

 そして最後の一段を下り終えると目の前に一枚の、札の掛かった木製の扉が現れる。

 ティコは緊張感を和らげるために息を深く吸うと、扉のノブを回し中へと入っていった。

 

 




ウェイストランドの海産物事情を書きましたが、実は魚は魚で実際ゲーム中に登場するわけじゃないんですが設定上だけ存在するジャイアントナマズさんとかミュータントワニさんとかがいたりします。

でもやっぱりNVのHonest Heartsでソローズやデッドホースが川魚食べてる程度で、本編だとINT6以下でキャスに運び屋が『魚って何?』って聞けたり、キャス本人もよく知ってなかったりするあたりやっぱり魚や海藻を食す文化ってウェイストランドでは絶滅危惧種なんでしょうね。
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