トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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矛盾点とか見かけたら直すかも
Fallout4はいつになったら発表するんや・・・


第一章:荒れ地の流儀 1話

 彼の意識を戻したのは、首筋から黒色のヘルメットに流れこんできた暖かい風だった。

 

 うすぼんやりとした精神に比例するように目蓋は開ききらず、微かに見える青空は、マスクのツーピースレンズが光を遮ってくれるおかげで太陽の輪郭がわずかに見える。

だがすぐに、目が開ききったために陽光が目を直撃し、意識が一気に覚醒する。刹那、自分が仰向けに倒れ伏していることに気がついた彼、”レンジャー”のティコは、自分の頭に残る最も新しい記憶に身体を叩き起こされた。

 

「敵かッ!」

 

 今となっては記憶に遠い、自分の肌が滑らかだった頃に自分同様レンジャーだった父親に叩きこまれ、そして荒れ地を生きるうちに自然と身体に染み付いた感覚が倦怠感の抜けず感覚のズレる彼の脚を大地に踏み込ませ、トレンチコートをなびかせすぐさま手近な茂みに飛び込ませる。

 

 そしてすぐさま右腰のホルスターから、45口径を誇る、持ち手に熊が描かれ銃身にも豪華なエッチングがされたリボルバー、”レンジャー・セコイア”を引き抜くと、じっと茂みの中に留まり相手の出方を待った。

 

・・・だがすぐさま、彼は三つの異変に気付く。

第一は、周囲にただの一人の気配もしないこと。これはほんのわずかだがティコを安堵させる。

第二は、周囲を見てもすぐ前まで同行していたはずの護衛がパワーアーマーを着ていた青年――― ロイズと言ったか、彼を残し一人残らず消えていること。爆弾で吹き飛んだのならば、死体、最低でも血の跡や肉片が残っていなければおかしい。

そして第三は、周囲の景色が、目覚める以前の記憶が残していた砂と岩、たまに可愛らしく花を咲かせているタマサボテンが名物のウェイストランドのそれとはまるで違う―――

 

足下まで緑が生い茂り、まるまるとした果実を実らせる木々が視界を覆う、まさに”別世界”と錯覚する場所であったからだ。

 

「なんだぁ!?これが噂に聞くエイリアンの仕業ってやつか!?長生きして苦節150年を迎えた俺だが、こんな柔らかい葉っぱは生まれて初めてだぜ!」

 

 茂みに隠れながら、少し動くたびにマスクをやんわりと撫でる小枝の先についた葉っぱをつまみながらティコは一人言う。彼は戦闘用のグローブをはめていたが、グローブ越しにでもわかるほど、その優しい柔らかさは彼を驚かせた。

 

 新陳代謝を犠牲に長寿を得、醜くなりながらも長い時を生きたグールにとって、”未知”とはそれだけで精神的なスパイスとなる。既に興味の向いたものを知れるだけ知り尽くしたと思っていたティコは、この未知なる環境に、一寸先をも知れぬ状況なのにも関わらず少しだけ心を踊らせた。

 

 そして名残惜しそうに葉っぱを手放した頃、ティコはもうひとつの異変に気付いた、輸送キャラバンで唯一自分と共に倒れていたロイズが、自分が起き上がった時きっとしていたであろう表情で同じように飛び起きたのだ。

 

「なっ、なんだぁ!?こう、ドッカーンってなって、目の前が真っ白になって、それで・・・・ッ」

 

 ロイズは起き上がると、記憶に残っていたとおりヘルメットを首の後ろにぶらさげたまま、現状を受け入れられないといった素振りで辺りを見回しては慌てた表情をとる。

黒いツンツンした髪に少しだけかぶさった砂をはらうこともなく、頬に小さくついた傷跡を掻いたりパワーアーマーの装甲を意味もなく撫でたり、ただ混乱するロイズ。

 

 茂みに隠れていたティコは、彼がしばらくそうしていたにも関わらず何もない――― 狙撃するならば絶好のチャンスだったのに、誰もそうしなかったことから敵が存在しないことを悟ると、茂みからゆっくりと立ち上がりロイズの前に立った。

 

「うわっ!?」

「おーっと・・・ちゃんとマスクしてるのに驚かれるのはちょっと傷ついたな。・・・分かってる分かってる、俺も何が起こったか分からないんだ、お前が目覚めてくれて嬉しいよ、ハグしてやる」

「ちょっ、待っ・・・あぁ!キャラバンのグール!他の人達はどこに行きやがったんだよ!」

「それが分かれば苦労はせんさ・・・まあなんだ、少しリラックスするために一本どうだ?ちょっとぬるいのはカンベンな」

 

 行き場をなくした感情をぶつける相手が見つかったせいか、やや強く当たるロイズをなだめるように、すぐそばにそのままの状態で放置されていたキャンパー荷車から二本のコーラを引っこ抜いて一本手渡すティコ。

だが彼が栓抜きでキャップを開けようとしたその瞬間、二人の耳に一筋の叫びが通った。

 

「あああああーーーーーーーっ!!」

 

 林の向こう、こことは別の、林と外界を隔てる境界が見える方向から、幼い・・・思春期を迎え、少女特有の声変わりが始まったばかりのような高い悲鳴が響く。二人はその方向にすぐに顔を向けると、再び向かいあった。

 

「おい兄ちゃん!実戦は初めてか!?」

「あ?・・・いや、2回だけならあるぞ!」

「最高だ!先に行くから得意な武器持って追っかけてこい!」

「お、おう!!」

 

 言葉を交わした後、素早い判断ですぐさまホルスターから一度しまったレンジャー・セコイアを引き抜くと、ティコは悲鳴の方向に走り去る。

そしてロイズは少しの時間を置いて荷車をまさぐると、”彼が一番得意な武器”を手に取り彼の後を追った。

 

 

 ティコが林を抜けた時、彼の目の前にいたのはまさに声の通りの容姿をした、セミロングの茶髪をおさげで結った、赤いロングスカートを履いた小さな女の子だった、歳にして10を過ぎて2,3年、といった頃だろう。

そして、そのとても力や暴力とは縁遠いであろう彼女と、なんと14匹もの狼――― ここでは森狼と呼ばれる、森を根城とし群れで獲物を狩る灰色の狼が対峙していた。

 

 いや、対峙というには語弊があるだろう。表情豊かなイヌ科の狼がしていたそれは、まさしく獲物を前にする舌なめずりであった。

 

 刹那、ウオウッと森狼が吠え、先頭の一匹が怯え竦む少女に飛びかかる。

そしてティコは「チイッ!」と舌打ちを飛ばしながら、右手に構えたピストルを構えると身体に染み付いた感覚だけで狙いをつけ、迷うことなく引き金を引いた。

 

 トリガーを引かれた45口径の大口径ピストルはその銃身に似合うほど大きな撃鉄を思い切り打ち鳴らし、弾倉にぴっちりとつめ込まれた弾薬を叩く。底を撃たれた弾薬はまるで女房にケツを叩かれたように勢い良く火薬を点火させると、その勢いのままライフリングを通り、銃口から飛び出した。

 

 まるでこの世の全ての物が止まったかのような刹那の時間を、撃ちだされた弾薬は空気を切り裂きただ直進し――― 森狼の右の頬に食い込むと、そのまま乱暴な回転によりえぐり取り、その勢いのままに森狼を吹き飛ばした。

 

「してやった!」

 

 続けざまに、弾倉に残った4発の弾丸を少女を取り囲む森狼に命中させる。

 威嚇によって狼が逃げるか止まることを狙った連続射撃だったが、逃げたのはたったの二匹で7匹は健在。すぐさま弾を込めようとするも、知っているかのように森狼の一匹が走りだし、ティコに飛びかかる。

 

 だがティコは、絶体絶命の状況下にあることを意にも介していないように、マスクの下の口元を笑顔のそれに変え、一言つぶやいた。

 

「―――来たか」

 

と。

 

 

 

 次の瞬間、ティコに飛びかかった森狼は、林から飛び出してきた白銀の存在によって弾き飛ばされる。

弾き飛ばされる、と言ってもその骨格は大きく歪み、喉からは血液をまき散らしながら、だが。

 

「オレに殴られてェ奴はどこだって!?」

「育ちのいいノライヌが7だ!頼むぜ兄ちゃん!」

 

 林から飛び出してきた白銀の鎧。

戦前の技術の結晶であり、鋼鉄ベースの複合素材を用いた装甲は実に50口径対物ライフルに匹敵する25000Jの衝撃を受け止める強化装甲服、パワーアーマー、T-51bを着た、”スクライブ”のロイズが拳を握り現れた。

 

 

 突然の乱入者に再び森狼は戦慄するが、野生と空腹が再び残った森狼をけしかけ鎧の戦士に飛びかからせる。

 それを目で追うと、ロイズは殴りやすいよう掌に隙間を開けた拳を握り直し、姿勢を低くすると飛びかかってきた森狼に向け右拳を叩きつけた。

 

パワーアーマーで強化された膂力はそれだけで脅威であるが、加えてそれもただの拳ではなかった。

 

“パワーフィスト”

 

 パワーアーマー同様戦前の遺物であり、打ち付けると拳先に取り付けられたプレスが空気圧で押し込まれ、対象に”二重の衝撃”を加える白兵戦用装備だ。加え、バッテリーの発電能力60000ワット、そのエネルギーが液圧システムに流れ、モーター駆動の関節と液圧装置を組み込んだフレームが、人間の膂力を規格外なまでに引き上げパワーを加える。

 

 結果、拳を鼻先から打ち付けられた森狼の鼻先は、花が咲いたかのようにぐにゃり、と歪み身体を伴って吹き飛んでいった。

だが猛攻は止まらない、パワーアーマーの強化がもたらすのは膂力のみならず、足先の動き、身体の運び、そして疲労の減少にまで及ぶ。

 

 

続けて打ち込まれた乱舞が、残る全ての森狼を打ち砕いた。

 

 

「やるじゃんか、兄ちゃん。・・・ミニガンでもなくレーザーでもなく、パワーフィストが出てきた時はどうかと思ったが」

「これが一番得意なんだよ」

 

 辺りを静寂が包んだ頃、興奮からか立ち尽くしていたロイズに、弾を込め終わりシリンダーをくるくる回していたティコが声を掛ける。

ほんの少し前まではちょっかいを掛け、掛けられては憎まれ口を叩くだけの関係だった二人だが、今、ほんの一瞬の死線を越えた二人には奇妙な感情があった。

 

「ここがどこだかも分からんし、これからどうなるかも分からんが・・・

 頼りにしてるぜ――― ”相棒”」

「ああ、ちょっと気に入らねェが――― よろしく頼んだぜ、グール」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 この『世界』の中で最も大きく、最も気候が安定している大陸デレクタ南部。

ポスパの村は、人口300人程度の王国内でも特に特筆すべき点がないほどの小さな村で、近隣で取れる果実や街道を逸れた旅人が立ち寄れる程度の立地がなければ、ただの辺鄙な村に過ぎない。

 

そんな辺鄙な村でこれといった大きな転換期を迎えるでもなく、健やかにのびのびと生きてきた、茶色のおさげを一本後ろから垂らす女の子、エミはこの日、風邪をひいた親の代わりに果実の収穫をしようと、近隣の果樹園を訪れていた。

 

 普段から手伝いをしてはいたがそれは収穫された果実をカゴいっぱいに積んで運ぶ程度であり、本当に”お手伝い”。

そんな彼女だったが、ほんのちょっと両親に褒めてもらいたくて、帰ると約束した時間を少し過ぎてまでカゴいっぱいに果実を収穫していた。

 

そのせいで、異変が起こったことに気が付かなかった。

 

「・・・この臭い、なんだろう・・・?」

 

 風上から、果実が発する甘い匂いに混じって妙な臭み――― 特に獣臭い臭いが鼻をついた。

 

 もしかすると、果樹園に長い時間いたせいで鼻が麻痺していたのかもしれない。

だが、そのことに気づき彼女が身体を動かした時にはもう、遅かった。

 

グルル、と唸り声をあげ、林から一匹の狼・・・特に群れを作り、森を根城にする森狼がゆっくりと姿を表すと、続けて二匹、三匹と続けざまに森狼が現れる。

 

 もはや身体は震えを通り越し、腰が抜け身動きがとれなくなる。

幼いながらも目の前に、唐突に死がつきつけられ、彼女の脳裏には愛し、そして頼りになる両親の姿が思い浮かんだ。

 

「あああああーーーーーーーっ!!」

 

 もしかすると、助けを呼んだのかもしれない。

わけのわからないまま、身体が勝手に声を張り上げ叫ぶ。

しかしそれがトリガーとなり、森狼の一匹が後ろ足で大地を蹴り跳躍した。

 

 極限状態が視界をスローモーションにし、死に至る苦痛を少しでも先送りにしようとするが、迫り来る狼の瞳と目が合うと、先に起こる恐怖は倍々に増え続ける。

恐ろしい、怖い、死にたくない、スローの視界の中で感情が渦巻き、最後に彼女は・・・目を閉ざすことを選んだ。

 

―――なぜだろう、痛みがない。

 

―――なんだろうか、身体にかかった生ぬるい水は。

 

―――なんだろうか・・・

 

今の狼の悲鳴は。

 

 目を閉ざしている時間がとても長く感じ、しかし刹那の思考で実際に長く閉ざしていたのだと気付いたエミは、おそるおそる目を開く。するとそこにあったのは、食いちぎられた自分の肉ではなく、狼の屍体だった。

 

―――いったい何が?いったい”誰”が?

 

 思考だけが動く。

だがその一瞬のち、耳を打つ爆音に身体が自然と動いた。

 

顔を音の方向に向けると、そこにいたのはとても奇妙な風貌をした長身の男。

男と言っても顔はマスクをかぶっているためわからなかったが、声からしてそう判断した。

 

 見たことのない文字が描かれたこげ茶色の胸甲をし、軽装のボトムとそれらを覆うように大きな外套を羽織った男。

手に持っている、恐らく鉄の魔道具と思われるものも気がかりになったが、なにより印象に残ったのはその顔を覆うマスクだった。

 黒色のマスクは頭までをすっぽりと多い、つるりとした頭頂部は陽光を反射して輝いている。口元にはこれまた見たことのない部品が嵌めこまれ、赤い目といい強烈な印象を彼女に与えた。

 

「・・・魔人?」

 

 おとぎ話の中でだけ聞いたことがある、人間を超越した魔界の存在、ついそれに目の前の奇天烈をつい重ねてしまう。

だが彼が追い詰められたと思った途端、新たに飛び込んできた乱入者には、真逆の印象を彼女は植えつけられた。

 

「白銀の、騎士さま」

 

 突如、林から飛び出してきた鎧の騎士。

白銀に輝くそれで頭までを多い、ほんのさっきまで自分に死の覚悟を強いた森狼を次々と打ち砕いていく様は、風聞でだけ聞いたことがある、王国を守る要たる存在の騎士を彷彿とさせた。

 

 そして全てが終わると、二人は一言交わした後、エミに視線を注ぐ。

 

 そこで、赤い目と細長い黒い目、二つの視線が注がれる様に、エミの背筋を先ほどとはまた違った恐怖が襲った。

これだけの力を持った人が、なぜこんな辺鄙な村を訪れたのか。

なぜ助けても一文の得に成らないような村女を、助けてくれたのか。

得体の知れない二人はお互いに顔を見せないまま、顔を向け合っては何かを話している。

 

 もしかすると、彼らは善意ではなく――― そうだ、助けても一文の得にならないなんてことは、ない。

王都やある程度大きな都市になると、秘密裏に女子供を売買し儲ける外道な組織がいると聞く、彼らもそんなところの刺客ではないか。

 

 先の戦いを見た後ならば言える、抵抗は愚か、腰が抜け手の震えが残る今では逃げることもままならないと。

もしかすると、口がはばかられるような、尊厳を失うような酷いことを要求されるかもしれない。

 

 そんな考えが過ぎり、エミの目尻にまた涙が溜まっていく。

すると目の前の”魔人”と”騎士”、二人のうち片割れの”魔人”がマスクの頬をポリポリと掻きながら、今なお腰を抜かすエミの前まで近寄るとゆっくりと片膝をつき、腰を落とし目線を合わせてきた。

 

そして”魔人”の手がエミに向かって伸びると、恐怖からエミはまた目を閉じてしまった。

 

――――んー・・・?弱ったな、どうも子供の相手は苦手なんだよなぁ・・・。

――――お前の顔が怖いんじゃねーの?デカいしよ。

――――おう相棒、言うじゃねえか。

 

 塞ぎ忘れた耳を、聞き慣れている村の男の声よりももっと、まるで喉を焼いたかのようながらがら声と若い声が通る。耳を通った声をようやく認識し、伸ばされた手が身体のどこにも触れてないことを理解すると、エミはゆっくりと、目蓋を開いた。

 

「あ、あー・・・、驚かせて、ゴメンな?俺さんはティコ、安心してもいいぜ、箔のついたNCRレンジャーだ。こっちの怖い兄ちゃんはロイズな」

「そういう第一印象植え付けるのやめろ」

 

 開けた視界の先にいたのは、片膝を付き手を差し伸べる”魔人”。

だがその手はとても、優しい差し伸べられ方をしていて、心なしかマスクに覆われた顔も柔和に見えた。

 

「俺ら、どうも道に迷ったみたいでな・・・、どうしても帰らないといかん場所があるのさ、ちょいと押し付けがましいかもしれねぇが、さっきのを借りだと思ってせめて人のいるところ、連れってくれないかな?そうしないと今日は野宿で夕飯はそこのノライヌになりそうなのさ」

 

 身振り手振りで事情を説明する”魔人”に、マスク越しに妙な人間臭さを感じたエミは苦笑し、そして安堵した。

そして、仮にも命を救ってもらった自分が、あらぬ疑いをかけていたのかと考えると、少し前の自分が気恥ずかしくなってしまった。

 

偶然か、それとも運命か、何が引きあわせたのか。

人間臭い”魔人”と剣を持たない”騎士”。

ここが彼らの、この地での出発点だった。




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