トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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第二章:インタッチャブルス 19話

 

 

 

 

 

「では短い間ですがお世話になりました、これより公務に戻らせてもらいます」

「おう、さみしくなるな。うちの相棒なんか特にアルレットの姉ちゃんと一緒に授業手伝うの楽しみにしてたからきっと今夜あたりわんわんと・・・」

「おいコラハゲ勝手に人のイメージ捏造すんのやめろ、お前こそ一緒に酒飲める奴がいなくなっちまうって昨日の夜寂しがってたじゃねーか」

 

 孤児院の正門、とはいっても少し大きめの玄関扉であるだけだが、今日の今、そこには孤児院に住まう者全てが集まっていた。

 先頭に立ち腕を組んでいるのはいつもの出で立ちのティコと、隣にはT-51bパワーアーマー姿でヘルメットをうなじにぶら下げているロイズが並び、彼らに向かっている一人の女性、紫のショートヘアをカチューシャで留めているアルレットが礼儀正しく、背筋をすらっとさせ立っていた。

 

「そんな改められてなんて恐れ多いです、私達みたいな平民・・・一介の孤児院が騎士団副長さまのご教授を得られるなんて、一生にあるかどうかも分からないのに。それにお部屋も汚いのしかご用意できなくて・・・」

「衣食住を保証してくれただけでも感謝したりませんよエリス院長、こちらこそ、急でご迷惑をお掛けしてますし」

「それでも」

「いやいや」

 

 片やおっとり、片やきりっとしていても、根本の礼儀正しさが似通っているのかお互いに謙遜し合うエリス院長とアルレット。その横ではティコとロイズが腕を組みながら睨み合っていて、この珍奇に混沌とした空間は道行く人々の目を引いていた。

 それを横目にアルレットに懐いた孤児院の子どもたちが前で出て来ると、彼らは子供らしくか感謝の気持ちとして手製の折り紙や小物が入ったバスケットをアルレットに渡す。それにアルレットも優しく微笑むと、少し腰を落として目線を合わせてから受け取った。

 

 

「いや、本当に残念だよ。実務を行う立場の者からしか聞けない知識というのはすべからくあるものだと思っていたから聞こうと思っていたんだけど、これならロイズと夜を通して熱くなるよりも先に聞いておけば良かったかな」

「私は緊急出動以外でしたら大抵庁舎にいるので聞きたいことがあるならいつでも構いませんが・・・え?夜通し?え?」

 

 後ろからふらっと、艶やかさを保持する銀糸のごとく髪を揺らしながら前へ出てきたテッサが口元をへの字にしながら言う。だがそのとても多義的な言い回しに思い違いをしてしまったのか、彼女はテッサと、今なおティコとの睨み合いを続けているロイズを交互に見て疑問符を頭に浮かべるのみだった。

 

 だがその視線に気付いたのか、ロイズがティコを押しのけながら前に出て来る。

 ティコは少しばかり強引な幕引きにバツの悪そうな顔をヘルメットの下でしたが、ロイズがアルレットの正面に立ったのを見るとそれに追従し、彼の隣に立った。

 

「アルレットの姉ちゃん」

 

 話す言葉でも考えていたのだろうか、視線を明後日の方向に向け顎に手を当てていたロイズをよそに、ティコがアルレットに呼びかける。そして呼びかけにアルレットが反応し、「はい」と一言答え彼に目を向けるのを見た後、彼はいつもの癖かヘルメットのこめかみをポリポリと掻き、腕を組んでからヘルメットの下で口を開いた。

 

「もうとっくに身体の方が良くなってることは感じてるだろうが、だからって無茶はせんでくれよ、血清のおかげでそう簡単にスコルピオンベノムにゃへこたれない身体にはなってるだろうが、かといって無敵ってワケじゃない。スコルピオンならハサミで挟まれりゃ手足なんざ簡単に千切られちまうだろうし、毒針自体が武器になるんだからな」

「はい、騎士アルレットたる者、驕りはしない所存です。あれからあなたに多くの”異界の魔獣”のことを聞き、騎士団の力不足を感じました・・・まだまだ未知の種が多くいるなんて・・・教えてもらった通りに対処が可能なよう、帰ったら騎士団で正式な手引書を発行する予定です」

「おお、そりゃあいい。実際に字にして絵にして残しておけば、未来に誰かの役に立つからな。こっちとしてもカサドレスあたりに増えられちゃたまらん」

「王都に連絡して色々と手は打ってみるつもりです、異界の魔獣と戦う人々はここだけでなく世界に多くいますから、大きな躍進になるでしょう」

 

 胸をぽん、と叩くアルレット。

 ティコはそれを見ると、腕を前に出し小さくサムズアップした。

 

「ロイズさんにも色々と教えて頂きました、今度騎士団庁舎に遊びに来る機会があったら歓迎しますよ。この間団長が来たときに、あなたにこっぴどく負かされたのを皮切りに新任の子やプライドの高い老練達がますます修練に励むようになったと聞きました」

「そ、そんな、オレの実力ってよりかアーマーの・・・でも褒められると素直に嬉しいッス!アハハ!」

「あの子達もまた手合わせする機会を望んでるみたいですよ、今度こそあのワンツーパンチを避けてやるって」

 

 抑えきれない笑顔を浮かべながら恥ずかしげに頭を掻くロイズ。

 そのあまりにだだ漏れな感情に横にいたティコが頭を小突いてやると、ロイズはようやく気付いたのかはっとし、顔をパンパンと叩くとやや大げさに姿勢を正した。

 

 そのさまを見てアルレットはくすっと笑うと、自身も姿勢を正し彼らの正面で一礼する。

 そして一言だけ礼を最後に述べるとアルレットは後ろを向き振り返り、道にそって歩き出す。それから二度だけ、彼女との距離が離れても孤児院の正面にいたティコ達や子どもたちの声に振り返り手を振った後、彼女は角を曲がって見えなくなった。

 

 アルレットの姿が完全に見えなくなると院長エリスがぱん、と手をたたき皆の注目を引きつけ、子供達に建物の中に入るよう促すと子供達はわらわらと正面玄関から孤児院の中に入っていき、教育のたまものか、綺麗に下駄箱に靴を並べていくと蜘蛛の子を散らしたように各々の持つ部屋へと散ってゆく。

 

 エリスもティコ達に一言告げるが、彼が自分は外に予定があると言ったのを聞き届けると小さく微笑み、建物の中に入っていく。

 やがて彼女が扉をばたんと締めると、孤児院の玄関前、後に残されたのは四人。

 ヘルメットを深く被り腕を組んでいるティコと、その後ろで頭の後ろで腕を組み「行っちゃったなぁ」と感慨深そうにしているアル。そしてパワーアーマー姿のロイズと、最後にその長い耳に沿うように髪をふぁさっとかき上げ、道行く人の視線をまたもや集めているテッサだった。

 

 ティコに引っ付いているアルは元よりウェイストランド組二人に同行することを決めたテッサもここのところ二人の近くにいることが多いため、”レギュラーメンバー”だの”いつもの”だのと子供たちに囁かれている四人である。

 もっともそう囁かれているのは四人ともに知っており、ロイズは釈然としないようだがアルは当然喜び、テッサとティコの方もまんざらではない、むしろこれだけしょっちゅういればそうなっても仕方ないといった様子だった。

 

 

「さて、じゃあ今日の予定の確認と行くか!」

 

 ティコが手を叩き鳴らし言う。

 

 孤児院の人間とは違い部屋を間借りしているだけな彼らだが、一応旅の路銀は既に確保してあるのもあって今から定職を探す気にはなれず、かといって今すぐここを出て行くのも後ろ髪が引ける、特に、先に取り逃した奴隷商の問題が孤児院や、商品として途方も無い値段を付けられていたテッサにまた降りかからないとも思えないので、関わった手前それが一息つくまではここにいようと考えていた。

 

 そうなると必然的に空いている時間が似たり寄ったりになるわけで自然と一箇所に集まり出し、ここのところはこのような感じで各々の予定を報告しあっていた。 

 

「俺と嬢ちゃんはこれから狩りにでも行こうと思ってる。いい加減動く的を撃たんと感覚が鈍ってしょうがないし、何よりたまには穀潰し以外の役割をせんと男の沽券に関わるからな」

「アタシ目はいいんですよー、そこらほっつき歩いてるツノジカの走りなんか毛の一本まで見えちゃうってもんです。アタシとダンナのコンビなら今夜のご飯は豪華にできそうですねー、ね、ダンナぁ」

 

 パチリ、とウインクをアルが飛ばすとティコは「あ、ああ」と少しだけ、少女のアルをどう扱えばいいか分からないのだろう、目線をあちらこちらに飛ばしながら相槌だけは打つ。

 

「じゃあボクも同行しようかな。こないだの試射で”ジュウ”の威力はよく分かったけど、実際の動的目標に対する効果のほどはまだ知らないから実際にこの目で見ないと気がすまなくてね・・・まあ、ボクも何ら封印を施されていない今なら魔法が使えるし、足手まといにはならないつもりだよ」

「正直その髪は目立つから向いちゃいないと思うんだが・・・まあ、第一偵察隊ほどじゃないが俺も狙撃にゃ自身があるからな、カバーは出来るか」

「隠蔽術が使えればよかったんだけど、ボクの適正は陽魔法にあるから生憎無いんだよね。ああそうだ、レーザーライフルを使ってもいいかな?あのきらめく光線の軌跡をもう一度味わってみたくてね。弾の代金は故郷に戻ってから払うからさ」

「灰の山が食えるならな」

「ボクもそこまで悪食じゃあないさ」

 

 テッサは残念そうに苦笑する。

 そして空を見上げ、真上に昇るにはまだ早い太陽を眩しそうに手で遮ると、ふと遮った手の端から見えた昼間の月を見て「今日は狩りには最高の時間だね」と一言だけ呟き、出かけの準備をするためぱたぱたと孤児院の玄関をくぐっていった。

 

 すると視線は自然とまだ一言も予定を告げていない、ティコと、彼に引っ付いているアルとは体面上に位置するロイズに注がれる。

 ロイズは刺さる視線をまるでそこにあるかのようにいやいやと振り払うと頭の後ろで手を組もうとするが、パワーアーマーの関節がうまく曲がらずまるで頭を押さえ付けているような形になり、それにティコが大笑いしたあとバツの悪そうな顔をして片手を腰にやった。

 

「ってーこった、オレだけかよ何も予定ないの」

「ヘイ、ゴクツブシ!」

「うるせぇハゲ!もうメンテしねーぞ!」

 

 両手を口元に置き煽るティコに噛み付くように言うと、ティコも「お前は最高だ」とわざとらしい賞賛を述べ引き下がりまた腕を組んだ姿勢を取る。

 

 彼はたびたび武器や備品のメンテナンスを人質、いや物質(ものじち)に取るのだが、これは結構ティコに効くのだ。

 

 NCRもB.O.Sも基本的に統一された規格の武器を使っているため、本来の銃器輸送ならば5.56mmの軍用ライフルやAER9レーザーライフル、その予備パーツとMODを多く輸送することになるはずだが、今回キャンピングカーのキャンパーを切り離して造られた即席キャンパー荷車に放り込まれていたものは、その何とも違っていた。

 

 弾薬、医療品は数多く積まれていたものの、メインの荷物、つまり武器に関してはとかく種類が多い――― 即ち1つあたりの数が最小限に抑えられ、とにかく多くの種類の武器が積まれていたのだ。

 

 B.O.Sの制式採用しているAER9レーザーライフルはもとより、4.7mmビンジケーターミニガンなどの新型モデルには見劣りするもののジャンク・パワーアーマーを纏うNCR重火器兵の主兵装として使われる、240発装填が可能なCZ53型5mmミニガン、士官階級でパワーアーマーを着用するB.O.Sパラディンの使う、エナジーウェポンにおいては最高峰の火力を誇るガトリングレーザーのような実用的なものも多く積まれていたが、反対に非常に癖の強い武器や旧式のものも多く、頭を悩ませることとなる。

 

 例を挙げれば、ロイズが使うフィスト系の武器や、先日ティコが持ちだしたAK-112アサルトライフルあたりだろうか。

 

 二人はこの多さを『在庫処分』や『テスト』と断じていたが、旧式の武器というのは構造が単純でメンテナンスが容易なものもあれば、かえって複雑なものもある。しかしただでさえその種類が多いためメンテナンスの際にいちいち思考を切り替える必要があり、二人はつい先日行ったメンテナンスでも、その量の多さに頭の中が煩雑になっていくのを感じ辟易していた。

 

 もっとも、ティコは経験則の人間なため経験のあるものしかできず、結果としてはロイズがほとんどを担当していたのだが。

 つまり銃器を維持するためにはスクライブとして知識を持つロイズが必要不可欠であり、撃つティコと直すロイズはちょっとした共依存の関係になっていた。仮に決別したとしても自分のものくらいはどうにかできるだろうが、この理不尽なまでに未知の広がる世界において、テクノロジーに頼らずいきなり生きていくのは中々に骨が折れるだろう。

 

「まあ、それならそれでここにいてくれや相棒、最近物騒だからな、何が起こるとも分からん」

「最近って、まだ一ヶ月も経ってねー気がするけど」

「グールにゃ一ヶ月も一年も変わらんのさ、代わりに今日の晩飯を豪勢にしてやるから」

「ソレなんか違う気が・・・まーいいや、帰りに飴屋のベッコー飴買ってきてくれよ」

 

 あの濃い甘さがいいんだよな、と口元を指でなぞりながら言うロイズ。

 ティコは分かったよ、と答えると懐のポケットを開き、中に入っている硬貨の数を数えだした。荷物のキャップ入れに放り込んである金貨を除けば、入っているのは金貨が一枚と銀貨が数枚、銅貨が数枚、ひい、ふう、みい、人数分の飴を買うにはいささか少ないし、バラで買うにも少し単位が多い、後で両替しなけりゃいけないな、と呟き彼はポケットのボタンを閉じた。

 

 それからテッサが戻ってくる、手には用意周到にもロープや鞘に入ったナイフが握られていたがどうやらティコ達の荷物から勝手に拝借したもののようで、ロープはくたびれたバラモン由来のもの、ナイフはティコがククリナイフを愛用しているためにすっかり忘れられているコンバットナイフであった。

 

 確かにあると便利であることに違いはないが、勝手に持ち出してきたことに対して悪い子だな、とティコはテッサの頭を軽く小突き、罰としてそれを持っていく役割をテッサに押し付ける。

 だが彼女は元よりそのつもりであったようで、彼は少しばかり肩透かしを食らった気分になり、逆に45フィートのロープを肩に乗せる彼女の華奢な身体を見て大丈夫か、と自分から気遣う発言をするに至っていた。

 

「大仰にコンバットナイフなんざ持ち出してきて、狩りの経験でもあるのか?」

「ないよ、でもこういったものが必要だって」

 

 本で見たからね、と薄めの胸を張るテッサ。それを見てティコは呆気にとられたようになり、こめかみを掻く、先人の知識は偉大だが、それでも経験則の彼からすると実戦に勝るものはないのだと言いそうになったが、あまりに堂々たる様を見せるテッサに対してティコは口を噤んでおいた。

 

 それからまもなく、マガジンポーチの中の.308口径弾の数が十分にあることを確認したティコと女性陣二人は、見送るロイズに手を振り孤児院を後にする。

 

 余談だが、意図せずに両手に花、特に見た目麗しく陽のもと眩く銀糸の髪を輝かせるテッサを連れていたティコは人々の注目を嫌でも集めてしまい、おまけに彼女に長く重たいロープを持たせていたということで、赤い目の兜を被った男にあらぬ噂が余計に立ってしまうことになったのを知ったのはそれからまもない事だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 薄暗く、テーブルの中央に備えられた小さな照明器具に埋め込まれた結晶から放たれる光だけが照らす、また小さな部屋。木組みのブラインドを少しだけずらしてみると、外の世界から差し込まれる昼間の太陽光が部屋の光量を少しだけかさ増しした。

 

 うなじに垂らされたフードの上からは、長く、手入れの行き届いていることを感じさせる白い髪がその紺色の外套につたって垂れ、すらりと伸びる褐色の艷足を組み座る彼女の椅子にまで及んでいる。

 その長い白髪の中からは、ブラインドの向こう、レンガと木造を組み合わせた中規模の建物、役割を指し『孤児院』と呼ばれる建造物の正面につい先程まで立っていた銀の髪を持つムーンエルフと同じ、だがやや短めの人間よりも長い耳が伸びており、彼女、ダークエルフであるトビシロはそれに沿い長い髪をそっと撫でた。

 

 彼女はそっと、ブラインドに掛けていた指を離す、薄明かりに照らされて見えるその指先から手にかけては傷が多く、そして手入れを欠かさない貴婦人型は愚か一般的な女性のそれよりもごつごつと、言ってみれば多くの力仕事に従事した名残が見えていた。

 

「いいわよ、入りなさい」

 

 振り返らずトビシロが言うと、彼女のいる窓とは反対、小さな部屋の小さな壁を大きく占める扉がぎぃ、と開き一人の男が入室する。

 教養の無さを伺わせる、礼儀に欠けた一礼をした男の身なりは革の鎧に腰に下げた剣とこの世界における貧相な戦士、あるいは賊のそれと一致しているが、仕草に比例するがごとく、彼はその中間に位置する”傭兵”であった。

 

 平時は隊商の雇われ護衛や商人屋敷の警護、戦時では頭数を増やすための駒として、敵を切り伏せ代償に進路上の村々への略奪を許される傭兵は、金さえ詰めば基本的になんであれど引き受けることで知られ”善良な市民”からは忌諱されがちである。

 だがそれを良しとしない有志によって組合が結成され、信頼置ける戦士が派遣されるようになりポストを奪われてからも、得てしてその『なんでもする』といった性質を必要とする者は多々おり、ならず者やワケアリの人間を集め細々と生きながらえてきたのだ。

 

 傭兵の男は彼女が自分のほうを向いたのを見ると、体裁のためか作り笑いを浮かべ、懐から一枚の紙を抜き出すと口を開いた。

 

 

「あんたから教えられたこの名前・・・チコ?ですが・・・」

「ティコよ、字に書いても覚えられないなんてそれでよく傭兵が出来るわね」

「マダム、ティコは・・・」

「私は既婚じゃあないのよ、足りない礼儀を無理に使おうと思わなくていいから早くして」

「ッチ・・・」

 

 脚と同じで褐色の顔、そして目までが黒い彼女の冷たい視線が男を射抜くと、取引相手とて流石に気分を害したのか小さく舌を打つ。それから愛想笑いをやめた男は、見るからに不機嫌そうな態度を露わにしながら言葉を続けた。

 

「見張りの小僧が言うには、その狩人のティコは城門くぐって外に出たみてぇだ、真っ赤なバレライト鉱石はめ込んだ兜被った男が両手に女、しかも片方はどっから連れてきたか知らねぇべっぴんのムーンエルフとくりゃ、目立って目立ってしょうがなかったってよ、うらやましいね」

「へぇ・・・あの商品のコ、どこに行ったのかと思ったらあいつが持ち帰ってたの。それで、ティコがそれからどうしたかは?また城門名物になってる魔道具実演かもしれないわよ」

「その魔道具持って近場の森の中に潜ってったって話だ、縄とナイフも持ってたみてぇだから、狩りで当分帰らねぇんじゃねーか、春だし刈り入れ時なんだろ」

 

 狩人だけにな、と笑う男。

 だがトビシロはぴくりとも受けなかったのか、つまらないと一蹴し話を続けた。

 

「孤児院の様子はどう?」

「紫眼鏡のアルレットは出て行ったみてぇだ、ありゃ騎士団とこに帰ったな」

「なるほど、じゃあすぐに騎士団が出張ってくることはなさそうね・・・ああ、”白銀の騎士”は?」

「あのボロ孤児院の中にいるってよ、それにしてもあの男、いつ見ても鎧着てて気味が悪いぜ、蒸れねーのかって・・・ともあれ臨戦態勢なのは違いねぇだろよ、攻めんならあれが障害になんだろな」

「そう・・・」

 

 振り向き、ブラインドを少しだけめくるトビシロ。

 先の住民に”ご退去”願い、アジトとして間借りしていた2階建ての家の対面に見える孤児院では、子供たちが無邪気に栗色髪の院長の授業を受けている。

 彼らは職が決まったり、養子として受け入れられる時が訪れるまであのようにしてまとまった教育を受け、生産の安定化により末端まで行き渡るようになった食糧により栄養失調を経験することもなく、生涯を生きていくのだ。

 

 生まれてまもなくダークエルフとしての運命に呑まれていったトビシロは、それを少しだけ憎らしげに見ていた。

 

 ふと目を端に向けると、二階の窓から白銀の鎧を来た一人の男の姿も見える。

 うーん、とあくびをし、間抜けそうにつんつん頭をポリポリと掻く白銀鎧の騎士、いや、こんな時間にこんなところにいるのだから騎士ではないのだろうが、その脳天気さにも彼女は苛立ちを覚えた。

 

「すぐに全員を集めて、決行するわ」

「ん?ずいぶん急だぜ、無茶言うなよ全員なんてどこにいるか・・・」

「こっちは3倍の代金を払ってるのよ、出来ないなんて言わないで」

 

 うろたえる傭兵の男に対し、鋭い目つきでキッと睨みつけるトビシロ。

 その剣幕に気圧されたのか、男は黙って首を縦に振ると小走りで階下へと去っていく。

 

 後に残されたのは長い耳を指先で撫でるトビシロと、ゆらりと揺れる結晶の中の小さな光のみだった。

 

 

「ゴルフェの仇よ・・・狩人ティコ、目には目、お前の大事な物を・・・いや」

 

 結晶の中の明かりを消し、扉を開ける。

 暗いが、暗闇に慣れた黒い目は階段の一段一段を踏み外すことはない。

 

 彼女は左腕に嵌めた無数のミサンガを撫でると、目を瞑る。

 そして数瞬のあと、目を開いた。剣のように鋭い目つきだった。

 

「お前を、奪ってやる」

 

 

 

 

 

 




自分の家に二台PCがあるのですが、自分用PCだと解像度の関係で初代Falloutが横に伸びてしまうジレンマ。


旧式でマイクロフュージョン・セルバカ食いするH&K L30ガトリングレーザーも好きですけどガトリングレーザーに関しては3とNVのが好きです、未来的な外見がたまらない。
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