トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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ティコの過去話、初代Falloutの話です。
活動報告に載せてる登場人物紹介に本話の人物を掲載。

重要話にサブタイつけました。


間話:『ゴミの街の馬鹿な旅人の話』

 

 

 乾燥した風が吹きすさび、砂を巻き上げて大気に散る。

 かと言って風が停滞したと思えばそこには汚らしい、ゴミを焼いた煙が漂い始めて空気を汚す。

 

 砂漠のど真ん中、地図上ならかつてはリッジクレストと呼ばれていたらしい場所の、戦前から残る小さな街を囲うように粗末なバラックが立ち並び、重い以外は鼻につくオイルの臭いをさせるだけになったスクラップ車を積み上げて出来た簡単で粗末な外壁だけで外界と区切られたこの汚らしい街―――

 

「誰が言ったか”ジャンクタウン(ゴミの街)”は傑作だ、これ以上に相応しい名前はない」

 

 トタン張りで補修された貧相な家屋の壁に背を預けながら、独り言をこぼす。

 ふと街の唯一の入り口、コンテナの扉を取っ払って作られた手狭なゲートを見れば、街を訪れる旅人や旅商人のバラモンがコンテナの床をカンカンと踏み鳴らしながら街に入っては出て行くのが見える。だが彼らも決して長居はしないだろう、ここは寛ぐには悪くない街だが、深く入り込めば入り込むほど愛想をつかすようになる、そんな場所でもある。

 

 2161年、大戦争、とか最終戦争、とか言われる核戦争から84年が経った現在でも旧アメリカ、今はウェイストランドと呼ばれているこの国は復興しちゃいない・・・まあ、国なんて概念がとっくに滅びちまったわけだが、

 

 

 ―――さて、いい加減に酒場に戻るか。

 

 長旅の疲れを癒やしに宿に行くのも悪くはないが、ここの宿はどうも割高なきらいがあるし何よりすきま風と砂に打ち鳴らされるトタンが眠りを邪魔するせいでロクにくつろげない、と通りの旅人が愚痴るとおり、休むにはあまり向かない。

 しかもおまけに夜になると街のチンピラ共が一番の大部屋で騒ぎ出すものだから、何日か泊まるうちに野宿しだす奴らや住民の家をただでさえ割高な宿以上の高値で間借りする奴らまで出て来る始末で手に負えない。そしてそれをクリアすると今度は当然暇が襲ってくる。時間つぶしに行き着く先は街一番に大きな施設のカジノか、その近くでひっそりと経営されてる酒場、あるいは昼ごろだけ使われる小さな野外リングだろうか。

 

 だがカジノにはどうしても行く気が起きなかった。

 街には保安官やガード達がいて治安の維持に尽力しているが、それでも悪党がいなくならないわけじゃない。特に街一番の稼ぎ頭のカジノに大悪党が陣取ってるなんて洒落にならん、とっちめてやりたいとも思うが相手が相手、あいにく死ぬ気もない・・・歯がゆい、と思う。

 

 

 そんなやりきれない気持ちを抱えながら、舗装されてない土の道を踏みしめ酒場へと向かおうとする。すっかり顔なじみになった道行くガードに挨拶をし、また今度飲みに行く約束をしながら歩く、そんな矢先だった、面倒事に首を突っ込みがちな自分の性格が、また余計な茶々を入れに行ったのは。

 

「だからここは俺らのシマだってんだろ?通行料を払えってんだ、このガキ!」

 

 多くはトタン張りで修復された跡が残るが戦前からの建物が並ぶ旧市街に入った頃、この街でも数少ない、コンクリート壁のちゃんとした建築のされた住宅の並ぶ路地から数人の怒鳴り声が耳を通る。ふと足を止め、その方向を見ればそこにあったのは二人の男が、彼らよりも多くのチンピラ達に因縁を付けられ壁際に追い詰められている場面だった。

 

「そ、そんなこと言われても無いんです!ほんとですって、Vaultを出てから日が浅くてっ」

「そうそう!俺ら新参者だからよ、あんた方のルールっての知らなかったもんでさ、一晩、一晩だけでいいんだ、休んだらすぐ出てくからよ!」

 

 両者とも必死の形相といえば相応しいだろうか、そりゃそうだろう、対するチンピラ共はタトゥーに頭に刈り入れまでして、おまけに対弾性のあるレザーアーマーで統一したガラの悪い奴らだ。”スカルズ”なんて名乗っていたが、こうやって弱そうな奴らから金を巻き上げるあたりやっぱりただのチンピラだ、噂じゃ武装した酒場の爺さんに仲間を殺されても尻尾巻いて逃げた腰抜け共らしい。

 

 とはいえこの二人の男も、狙って下さいとばかりのカモだ。

 一人はポンパドールヘアーの革ジャンの男、腰にはピストルを下げちゃいるがいかんせん威厳や威圧感が足りんが、まあ及第点だろう、街を一人で歩いててもまあ見過ごされるタイプだ。

 だがもう一人の坊主はこりゃいかん、あからさまに優男ですって顔つきだし何より若い。腰にも10mmのピストルを下げてナイフを持っちゃいるがそれを全てぶち壊すかのように、着ているVaultスーツが眩しすぎる。

 対して角ばってもなければ無駄に鍛えてますってわけでもない細めの体つきがぴっちりスーツで浮き彫りになって、いかにもボクは弱い男です、ってのを知らしめてやがる、チンピラが目をつけても仕方ない。

 

 話を聞く限りじゃ金も持っちゃいないんだろう、ならまあ一発殴られて世間の厳しさを知るのも悪くない――― ってとこだが、相手が相手だからな・・・この街は基本的に武器を抜くのは禁止、先に手を出したほうが負けってルールなんだが、それもガードの力が及ぶ範囲までだ。

 このスカルズって連中はカジノにいる大悪党の庇護下にいるのをいいことに好き放題やりやがることで街じゃ有名だ、この前路上でぶっ放した奴もいそいそとガードの手の届かないアジトに逃げこんでやられた奴は泣き寝入りなんてことがあった、腰抜けなりに知恵が回りやがる。

 

「テメェみたいな気取った奴らにゃお灸据えてやらないとなぁ!?なぁお前ら?」

「一発ぶん殴ってやれ!」

「ぶっ殺しちまおうぜ、一人一発ならバレねぇって」

 

 チンピラ共はやる気満々みたいで、もうこいつらだけじゃあ収拾はつかんだろう。

 ジャンクタウンじゃよくある喧嘩で、日常茶飯事さ。だが見てしまった以上次の日にここを通った時に死体があっちゃ寝覚めも悪い、そう思った俺は頭にかぶったヘルメットのこめかみを悩ましげに掻くと、真横に方向転換して足を踏み出し路地に足音を響かせた。

 

 ゆっくりと、地面を鳴らしてアピールするように、威圧する歩調で近寄っていく。

 

 とたん、チンピラ共も絡まれてた二人の兄ちゃんも一斉にこちらを見やがる、気分いいね。

 チンピラ共はそのまま警戒対象を変えたって言うように、あからさまに表情を曇らせてこっちに身体を向けたんだ。

 

 なら先に口を開くのは俺だ。

 

「よぉ、今日もカツアゲに精が出るじゃねぇかスカルズの坊主達。まともに金を稼ぐ方法なら俺が教えてもいいんだぜ?」

「ちっ、ティコ・・・」

 

 ネバダで戦うデザート・レンジャー伝統のガスマスク機能付きレンジャーヘルメットにレザーアーマー、それにトレンチコートの出で立ちだ、我ながら中々迫力には満ちてるとは思う。チンピラの連中、横の二人も忘れて一斉にこっちに目を向けて女は後ろに下がらせやがった。

 

「ここじゃあ銃を使うのは厳禁だ、まあ一本道でお前らには遮蔽はない、使えた方がこっちが有利でいいんだが・・・来いよ、拳一つでまとめて相手してやる」

「ッこのマスク野郎、五人相手にどうにかなると―――」

「やめとけ、ティコは強えぇぞ・・・おい、あんまり調子に乗るとボスが黙っちゃいないからなティコ・・・お前ら、行くぞ」

「ボスのヴィニーによろしくな」

 

 こっちは一人、あっちは五人だってのにすごすごとチンピラ達は逃げていく。睨みをきかせながらも尻尾巻いて去っていく奴らを見送りながら、有名になるのは悪いことじゃないな―――っと思い、チンピラの一人に胸を押されて尻もちをついたVaultスーツの坊主に俺は手を差し伸べた。

 

 Vaultスーツの坊主は目をまん丸くして手を取ると、横にいたポンパドールヘアーの兄ちゃんに背を持たれ俺と二人で起き上がらせてぱん、と土を払う。

 それからVaultの坊主は深々と一礼をし、礼をしっかりと述べた。

 

「ありがとうございます、僕Vaultから出て日が浅いものでどうしていいか分からなくて・・・」

「気にすんな坊主、ちょっとしたお節介だ。ま、そうだな」

 

 最近は礼のなっちゃいない奴らの多いこと多いこと、まあそんなだから俺はこいつが気に入って、だからもう一度手を差し伸べて誘ってみたんだ・・・仲良くなるには決まってるだろう?酒でも飲まんことにゃ信頼は生まれないさ。

 

「Vaultのスーツを着た奴なんかと会ったのは初めてな気がするよ坊主、それと革ジャンの兄ちゃん、ようこそジャンクタウンへ、とは言っても俺も旅の最中なんだがな。良かったら一杯どうだ?心配すんな、最初の一杯は奢るよ」

 

 

 

 ジャンクタウンの三つあるセクションのうちだいたい北東に位置する場所にはカジノと酒場、とれと住人の間で人気の小さな賭博場がある。賭博ってのは拾ってきたミュータントやら人間やらを戦わせて、勝ったほうがオッズ分儲けられるってシンプルなもんさ、リングだな。ここじゃ武器を抜くことは禁止だから素手なんだが大抵はチャンピオンのソールが勝つ、サソリに素手で勝つとか大概化け物だ。

 

 悪徳オーナーのギズモが経営するカジノは街一番の稼ぎ頭だが、何よりオーナーのギズモがクソ野郎なのは周知の事実だ。

 奴は金に物を言わせて地元のギャングを取り込み違法な仕事・・・まあ、言わなくてもわかるだろう?そんなことをするもんだから街の治安は悪化する一方だ、保安官のキリアンとガード達が今はどうにかしてるが、早く叩き潰さないとこの街は奴の物になるだろう。

 

 俺が街を離れられない理由もそれだ。幸いにもギズモやギャングを除けばここの人間に悪い奴はあまりいない、貧しさも困窮してるというほどでもないし、キリアンが言うとおり南のでかい街のハブとの中継地点にあるこの場所は寛ぐにはもってこいなのさ。

 だからここが奴の手に落ちた時のことを考えて、旅路を急げないでいる。金にがめつい奴のことだ、通りがかる旅人に何をしでかすか分かったもんじゃない、だから出来ればあの肥満体にショットシェルを叩き込んでもやりたいんだが・・・相手が相手だからな、戦力もありゃ賢くもハッキリボロを出さないから法のもとで動く保安官も動けない、八方ふさがりさ。

 

 そんなやるせない思いを脳裏に走らせながら、外までスロットの音が響いてくるギズモのカジノの横を通って酒場へと訪れる。

 カジノでスッた客がやけ酒に来ることもあるこの酒場はしょっちゅう騒がしいし、血が流れることも少なくはない、後ろに二人の男を引き連れながら古ぼけた木製の扉をくぐった今日も、店の中にはくたびれた旅人とオーナーの爺さんに混じって、数人のギャングが給仕の娘に睨みを効かせてやがった。

 

 給仕の娘がビクビクしながらギャング連中に酒を出して連中は給仕のケツを触る、ここじゃ日常の光景だ。だが俺がそんな危なっかしい奴らを横目にしながら席へと歩いていこうとした、その時だった。

 

「このクソアマッ!」

 

 急に張り上げられた声に続いて最初に鈍い音が、響き、続けてガラスの破砕する音が通る。

 店にいたスカルズのギャング野郎が給仕の娘を一発殴った音、続けて聞こえたのは彼女が倒れた拍子にトレーからグラスが地面に落ちて割れた音だった。

 

 ギャング連中の一人の胸に酒がかかっている、こぼしたんだな。

 だがそれから給仕の娘が涙ながらに奥へ引っ込んでいこうとするの腕をつかみ、もう一発殴る姿勢をギャングが見せる。だがそうもなると回りも黙っちゃいない、オーナーの爺さんが14mmピストルを引っこ抜き、流石に頭にきた俺も一発ぶん殴ってやろうと踏み出した―――

 

その時だったさ、誰よりも早く踏み込んだ奴がいたんだ。

 

 

 その背丈の低い若造はギャング野郎の振り上げた手を引っ掴むと、振り返った奴の目をはっきりと直視して声を張り上げる。

 

「ねえ!何も殴ることないでしょ!?謝ってもらって、拭いてもらえば済む話じゃない、ねえ!」

「な、何だこのガキ・・・!」

 

 青いぴっちりスーツに申し訳程度のプロテクター、背中には”13”の黄色い文字を輝かせる坊主だ。俺がさっき助けて連れてきた青臭い若造は連れてきた俺よりも早く店の中に足を踏み込むと、また危なっかしい事態に向かって首を突っ込んだのさ。

 

「顔腫れてるじゃない!そこまでする必要あったの!?ねえ!」

 

 俺が手を出すよりも、爺さんが狙いをつけるよりも早く男の手を引っ掴んだVaultスーツの坊主はなおも食い下がっていかにも『危ないです』って面構えをしたギャングに理由を求める、だが坊っちゃんよ、連中に理由なんて無いのさ、あるのはただ頭の悪さから来る欲求と原始的な本能ってヤツだ。

 

だがだからこそ、

 

「この気取り屋のガキがっ!俺達を誰だと思ってやがる!」

 

 武器を取るのに躊躇いがない、場は一瞬にして総毛立ち、銃を手に取った連中から距離を取り始める。オーナーの爺ちゃんもピストルの撃鉄を上げ、俺も背中のショットガンに手を伸ばした。

 一触即発だったさ、誰かが一回引き金を引けば火蓋が切られたも同然、銃撃戦は避けられない。回りで見てた連中の中にも銃を手に取る奴らが出てきてその色は濃厚になり始める、この場所の勢力は完全にどちらにつくかで二分されていた。

 

 火蓋が切られるのは早かった、なにせ連中気が短いからな。

 だがその瞬間俺らの目に飛び込んできたのは―――

 

 

 ―――神業だった。

 

「やらせない!」

 

 まるで銃弾が見えているかのようだった、Vaultの坊主は一瞬にして射線から外れると同時にピストルを抜きその引き金を二回、連中が抜いた銃の数と同じだけ引いたのさ。

 10mm特有の乾いた音が響き、放たれた銃弾は綺麗に連中の銃を弾いてダメにしてやった、悪あがきでナイフを抜いたやつもいたがVaultの坊主が引き金を引くとそれも宙を待って酒場のギシギシきしむ木貼りの床に刺さる、連中だけじゃない、誰もが唖然としたさ、見るからに貧弱そうなガキが屈強なギャングをあっというまに無力化したんだから。

 

 それからしばらく無言の状況が続いたが、ふとVaultの坊主が銃をホルスターに仕舞い込んだのを皮切りにギャングの奴ら、一目散に逃げてやんの。

 大笑いだったさ、ここにいる奴らはあの連中に煮え湯飲まされてる奴が多かったからな、給仕の娘は坊主の両手を持って泣きながらぶんぶんと振るし周りの連中は金やキャップを坊主の足元に放り投げる。それを奴さんとその相方のポンパドールの兄ちゃんがあわてて拾い上げるもんだからまた大笑いになって、また金を放る、気がつきゃこの坊主達はここで一財産築きあげてたってわけさ。

 

 そうなりゃ奢る必要もないな、と思ったが俺もこの”勇敢な”坊主達に何もしないってのは男が廃る。それに旅人の掟みたいなもんだしな、俺は金とキャップを拾い上げる坊主達をよそに給仕の娘にビールを三つほど頼むとヘルメットを脱ぎ手近なテーブルに座り、やがて坊主達がテーブルにつくと話し始めたのさ。

 

「まあまずは自己紹介だな、俺はティコ、昔はネバダと呼ばれていた場所から来たデザート・レンジャーだ」

「デザート・レンジャーってーと聞いたことがあるぜ、アリゾナあたりでミュータント狩りしてるって話だろ?」

「へーかっこいいですねティコさん!色々聞かせてもらっていいですか?」

「いくらでも聞かせてやるさ、でもとりあえずは乾杯だな・・・ほら」

 

 俺は給仕が持ってきたビールを三つグラスに注いでやる。

 

「あれだけやったからだろうな、流石に濃いビールを出してくれたみたいで何よりだ。いつもはここの酒は水で薄められてるもんでな、余裕が無いのは分かるがこの街の連中ときたらビールを鉢植えの植物か何かと勘違いしてやがる」

「くぅーっ、ビール飲めるのも久しぶりな気がするぜ!あ、でも確かVaultの、お前って」

「う、うーん・・・すいませんティコさん、僕お酒は苦手で・・・」

「お?そりゃ少し先走りすぎたな、ヘイ給仕の姉ちゃん!ヌカ・コーラ一本追加で頼む!・・・じゃあ余ったやつはそっちの革ジャンの兄ちゃんが」

「イアンだ、元々ハブでキャラバンガードをしてたが撃たれて療養のためにこいつに北のシェイディ・サンズにいてな。回復してちまちま街の間で取引してたとこをこいつにまた雇われた。まあこうやってのんびり旅をするのも悪くはない」

 

 ポンパドールの髪を揉みながら、革ジャンの男、イアンがグラスを持ちながら言う。

 お互い乾杯が待ちきれない気分なのは分かってる、この世界じゃあこれくらいしか楽しみなんてないからな。それからしばらく待って、水色のボトルに入れられたヌカ・コーラが来てから俺らは卓を囲んで笑顔になり、一斉に乾杯をすると喉を通る感覚に身体をうち震わせたのさ。

 

「ぷっはぁーっ!やっぱたまんねー!シェイディ・サンズじゃあ飲む物なんざ水くらいしか無かったからなぁ!」

「僕もヌカ・コーラは久しぶりだよ、Vaultにいたころはたまに飲んでたけどもっと美味しく思える!」

「はは、嬉しいね」

 

 三人共またぐいっと飲み物を喉に流し込み、それから金をテーブルに出して給仕の姉ちゃんにもう一本を催促する。すぐにビール二本とヌカ・コーラ一本が運ばれてくると蓋を開け互いにグラスに流し喉に流すが・・・げえっ、もう薄めた奴持ってきやがった。

 

 互いに微妙な顔をするも、酔いが回ってきた俺とイアンは上機嫌だ、それからグラスの半分ほどビールを残した頃に、Vaultの坊主が最初に口を開いた。

 

「ティコさんはどうしてここに?」

「その質問は俺がしても良かったんだが、まあこの出会いを祝して先に答えてやるか・・・とはいっても何でだろうな、自分でもあんまり分かってない、広い世界を見たかったのか自分の実力を試したかったのか・・・まあ、今の生活も悪い気はしないがね、そっちは?」

「ええ、僕は、僕の名前は―――」

 

 坊主の話は少し長かった。

 だが十分に伝わったよ、こいつらが世に珍しいいい人間ってことは。

 

「―――なるほど、Vaultの浄水装置が壊れてそれを直すために旅を、か。すまんがそういった古いテクノロジーの遺物ってのは長らく目にしちゃいないな、個人的な意見だが、修理できない機械なんかに頼らず自力で生きるほうがいいもんだぜ」

「ははは・・・でも、僕がやらないとVaultの人達がみんな水を飲めなくなっちゃいますから」

「お前は本当にいい奴だな坊主・・・ああそうだ、一つ聞いていいか」

「え?ええ」

 

 きょとんとするVaultの坊主に目を合わせ、俺はグラスに残ったビールを飲み干すと話を始める。

 どうしても聞いておきたかったんだ、ギャング共を一瞬で蹴散らすような凄腕が、どんな理由であの曲芸を披露したのかをな。

 

「さっきのことだが、なんでまたわざわざ姉ちゃんが殴られるのを止めに行った?新参者のお前がやらなくても俺やオーナーがどうにかしたし、なにより体格にあれだけ差がありゃ殴られるのはお前・・・まあ避けてたかもしれないが、わざわざ流れ者のお前が動く理由はないはずだぜ」

「ああ、それは」

 

 微笑みを堪え、手で頭の後ろをVaultの坊主は掻いた。

 

「だってあんなのひどいじゃないですか、失敗はだれにでもあるけどそのたびにあんなことしてたら顔がパンパンになっちゃいますよ、失敗したことを自責する気持ちがあるなら謝って、謝ってもらえばいいんです、だから自然と身体が動いちゃって」

「お前・・・本気で言ってるのか?」

「そうですよ?お互い思いやる気持ちがあれば争いだって起きないんですし、間違いは正していけばいいんです・・・どうしようもないこともありますけど、僕はそう思います」

「ああ、ああ・・・なるほど」

 

 なるほど。

 Vault育ちの奴はみんなこうなんだろうか、確かに底なしの善人で平和主義者だがあまりに世間知らずで甘っちょろい。さっきもあんな目に遭ったばかりだってのにもうこれだ・・・いつか痛い目見るぞこの坊っちゃん。

 

 だが、まあ、確かに―――

 

 

 ―――こいつみたいな奴がもっと増えれば、この街も良くなるのかもな。

 

「まあ頑張れや坊主、正直スカッとした気分にはなったんだ」

「そうなんですか?」

「そりゃそうさ、丁度いいからこの街のことを教えてやろう、この街のクズにも二つのランクがある。さっきお前さんが追い返したのは”スカルズ”、宿屋の裏でたむろってる連中でBランクのゴミでしかない、だがそいつらに仕事をさせてる奴がいる、これがギズモってカジノオーナーさ、ここに来る時見たよな」

「ああ、あの赤い回転灯の大きな建物・・・」

「そうだ、おっとコーラが切れてるな、姉ちゃんコーラ一本!」

 

 話はまだまだ長くなるさ、有無を言わさず頼んでやると給仕の姉ちゃんはまた薄めたコーラを持ってくる。そんでもって、一度栓を抜いたせいかやけにすっぽり抜けるキャップを栓抜きなしに抜いてやり、Vaultの坊主のグラスに注いでやった。

 

「こいつらは組織として出来上がってて危険だ。こう言えば分かるか、この街は悲惨という言葉では表現できないほど酷い状況で争いが絶えることもない。その原因になってるのがこのギズモってクソデブなのさ、地上げにイカサマ、間違いなく殺しもやらせてる」

「そんな悪い人が、いるんだ・・・」

「まあな、俺もどうにかしたいが相手が相手だ、機会があったら保安官のキリアンが片付けてくれればいいが首尾よくやりやがるもんで中々動けなくてな、最近じゃ増長した部下のスカルズも好き放題やらかすもんで・・・だからあんたは歓迎されたのさ、新顔がガツンと決めてくれるなんてそうそうない、最高にスカッとしたぜ」

「あれは身体が勝手に動いたというか・・・」

「それでもいいさ、ほら飲め坊主、夜は長いぞ」

 

 財布から金を抜き出してテーブルの上に出し、まだ薄いビールを頼む、なまじ薄いぶん多く腹に入るのだ。

 それからの話はまた長い、お互いの身の上話とか、お互いの旅の出来事だとか、自慢のサバイバル術を披露してやったりとか・・・そんなんだから、気がついたら夜も真っ暗になっていたよ。それからVaultの坊主達はいい加減に宿を取らないとと去ることになった、ここの宿は割高だが素泊まりできるところなんだが、取っておくに越したこと無いか。

 

「じゃあティコさん、ありがとうございます」

「ビールありがとなティコ!久しぶりに飲みまくっちまったよ!」

「気にすんな、こっちもいい話し相手が出来て何よりだ――― ああ、そうだ坊主」

 

「あんまり長くこの街には居ないほうがいいぞ、恥をかいたギャング連中が何をしでかすかわからん・・・それでもいるならもし何かあれば頼ってくれ、この時間はだいたいここにいる」

「分かりましたティコさん、じゃあお元気で」

「おう、がんばれよ」

 

 最後にそれだけ忠告して、俺はテーブルに、あいつらはドアを開けてとうとう別れたのさ。

 その姿を見送りながら、俺は残ったビールを注ぐと物思いにふけった。

 

 お人好しで曲がったことが許せない若造、あいつがこの世界で少しでも生きてられるようにと祈りながら。その日はそうして夜を過ごし、宿のベッドで寝っ転がりながら朝を迎えた、その日の宿屋はなぜか砂の音もせず静かで、自然とよく眠れたんだ。

 

 

 

 あれから二日ほど過ぎた頃だ。

 俺は旅支度をまとめて、最後の晩餐とばかりに酒場に繰り出し酒を流し込んでいた。

 

 結局俺は何も出来ずに、この街の悪と戦うことを諦めてまた旅に出ることを決めたんだ・・・この街は日に日に悪くなっていくが、それでも俺じゃあ力が及ばないしなにより俺が出る幕じゃない、保安官がきっとどうにかするさ。そう心に声をかけて今はただ、心の奥に燻った厄介な正義の火を消そうと酒を流し込むことに執心していた。

 

 いつもの薄められたビールを一本、グラスに入れてちびちび呷りあとは時間の流れるままにする。

 そんな時だった。

 

「そういえば」

 

 はっと思い出し、ふと自分の座っているテーブルに目をやる。

 

 見れば”あの時”座っていたテーブルじゃあないか、あの坊主達は元気にやっているだろうか、そんなことが酔いの回ってきた俺の頭にぼんやりと浮かんできたんだ。

 あれから宿屋でもう一度ばったり会ったっきり姿を見ていないが。まあ悪い予想はやめよう、ああいう手合いは厄介事に巻き込まれる体質なんだろうが、あの見てくれに似合わない凄腕の坊主がいるんだ、安々とくたばるほどじゃないだろう。

 

 しかし、それにしても―――

 

「良い奴だったな、この世界にゃ不釣り合いなくらい」

 

 一人こぼす。

 

 お互いを思いやって、話し合って、それで問題の解決に導く。一体どれだけの奴がこのどうしようもない世界でそんな夢物語を見ようとするのか、少なくともここじゃ”交渉”ってのはナイフの切っ先と鉛弾の弾頭のどっちを相手より先に突き付けるかが日常茶飯事だ。

 もちろん立場を持つ商人や街の重役、親しい友人同士ならそうもならんだろう、だがゴミの街のゴロツキどもが顔を合わせれば大抵は拳を握って相手に叩きつけるのが交渉になる、原始的で分かりやすくなにより。

 

 だからあの坊主の言葉はとても当たり前であるべきことのはずなのにとても新鮮で、耳に残った。このどうしようもない世界に一筋見えた光のようで、眩しくて・・・本当に、誰もがあいつのようになれればこの街も、世界も、救われるんじゃないかってつい下らない考えを頭に過ぎらせちまった。

 

 ビールを喉に流しながら、ふと対面の席でコーラを飲んでいたあいつの姿が見えたような気がして、それでふとコーラを一本頼んでみたんだ。思えば長いことコーラなんて洒落たもんを飲んでいなかったことを思い出し、たまには一杯悪くないってな。

 あの坊主のことだ、この街の影を踏んで闇の先に首を突っ込むくらいやらかしかねん。だがそれもいいかもしれないな、あの坊主なら相当の戦力にはなるだろう、イアンも44口径のマグナムなんてぶら下げてんだ、素人じゃない。

 それであの坊主が保安官のキリアンと手を組んでくれでもしたら・・・万々歳だ、街を救ってくれるかもしれない、そう思えば旅に出た後一段落したらここへ戻ってくるのも悪くなさそうだ、今度こそ本当に手放しに寛げる街になってりゃいい。

 

 心の奥に何か引っかかるものと、燻る正義感の火が消えかかっていることを感じながら俺はもう一杯のグラスにコーラを流し込み、寂しく一人で最後の乾杯でもしようかと自分のグラスを近づけた、

 

 

―――その時だったさ。

 

 

 カランカランと、酒場の扉が開かれベルが鳴る。

 間が悪く聞こえたそれに俺は動く手を止めるとその方向に振り返った、そこにいたのは。

 

「ティコさん、いる?」

 

 ―――本当に、間が悪いよな。

 どこか意気を削がれた俺はグラスをコトリ、とテーブルに置くと座ったままその闖入者、Vaultの坊主へと目を向ける。軽く手を振り答えてやると坊主は口元を笑ませ、すたすたとこっちに近寄ってきたんだ・・・その後ろに何人も連れてな、どこで拾ってきたのか犬までいやがる。

 

「何の用か、と言いたいところだが・・・随分大所帯だな坊主、キリアンとガード長のラースまで連れて一体何をおっ始めるってんだ?」

「うん、ギズモって人と話をしに行こうと思うんだ」

「うん、それでッ・・・げっほげっほ!正気かお前!?」

 

 傾けたグラスの最中に、衝撃的発言を聞き入れた俺はつい酒を喉に詰まらせちまう。 

 驚いて聞き返すが、この坊主はさも当たり前なんとばかりに首を傾げ、そうだよ?と可愛らしく答えやがったんだ。

 

「あーあー・・・正直奴が話を聞くタマとは思えん、やるだけ無駄だとは思うが。それで?どうして俺にその相談をするって?」

「うん、ティコさんギズモのことどうにかしたいって言ってたから、協力してくれないかって思って。・・・戦闘にならないとは限らないから」

「・・・なるほどな、しかし何でまた保安官とガード長が動いたんだ?奴にゃ証拠がないだろうよ」

「直接話して盗聴したんだ、キリアンさんの暗殺未遂の実行犯って裏付けを取った」

「お前はほんと命知らずというか・・・鉄砲玉だな本当」

 

 頭を抱えてため息をつく俺に対し坊主は頭の後ろを掻いて照れ、イアンも両手を上げて”全く同意”といった素振りをする。

 しかし俺を勧誘しに来たことはお目が高いが、とはいえこの有能な坊主がいればそれで十分だろう。俺は既に旅支度を終えてあとダッフルバッグを抱えて街の外に歩いて行くだけ、それで終わりだ。

だが―――

 

「俺の―――」

 

 出る幕じゃない。

 その言葉が出そうになった瞬間、なぜだか急に声が出なくなった。心に引っかかる何かが今にも取れそうな、消えたはずの何かがまたくすぶり始めたような、そんな感覚に襲われ、俺は二の句を継げず黙る。

 

 だが目の前に立つ青いスーツの坊主と目を合わせた瞬間、出てこなかった言葉が塗りつぶされ、新たな言葉となって投げかけられたんだ。

 

「・・・坊主、聞きたい、なんでそこまで出来るんだ?」

 

 見ず知らずの連中のために、昨日今日出会った連中のために命を張るその理由が聞きたかったのだと。坊主はその言葉を受けると、少し目を中空に彷徨わせたあと悩んだ素振りを見せそれからにっこりと笑うとこっちに向き直り答えた。

 

「正直、深く考えてません」

「は?」

「なんていうか、自然に身体が動いたんです、月並みですけど。ギズモって悪党に苦しめられてる人がいて何もしないでいるってのはあんまりだと思って、それにこれだけ戦いたいって人がいるんです、少しくらい手を貸したってバチは当たりませんよ」

「お前・・・」

 

 笑いながら言う坊主はとても輝いて見えた。

 でもその顔を急に真面目なものに変えて、更に言葉を続ける。

 

「大丈夫です、言葉だけでどうにかできるわけじゃないって分かってますから・・・もしそうなったら自分も撃つ覚悟は出来てます。だから恥を承知でティコさん、お願いします!」

 

 深く頭を下げる坊主の顔は、テーブルに座っている俺からでももう見えないほど深い。

 だがその瞬間ようやく、俺の心に突っかかっていた何かが取れたような気がしたんだ、燻っていた正義感が燃え身体が熱くなる感覚を覚えて、頭を押さえるとガラにもなく俺は大笑いしちまった。

 

「っ、くく・・・はっはっはっ!」

「えっ、ティ、ティコさん!?」

「いや、大丈夫だ坊主・・・その提案引き受けるぜ」

 

 嬉しかった。

 楽しかった。

 

 しばらく生きて善人ってのにはよく会ったが、ここまで突き抜けてお人好しな奴は今まで見たことがなかった。

 

 俺はオーナーを呼んで床に置いたダッフルバッグを預けると、背中に背負った12ゲージの燃える正義の剣を引っこ抜きくるりと回す。それからテーブルからコーラの入ったグラスを取ると押し付けるようにしてVaultの坊主に渡し、それから自分のグラスにビールを注いて坊主のグラスと打ち鳴らし、一気に呷った。

 

「飲めよ坊主、ようやく運が巡ってきて最高の気分って感じだよ。そろそろ頃合いだって思ってたんだ・・・小さな革命のキックスタートだな、先導してくれ、道路掃除と洒落込もうや」

「あっ、ありがとうございますティコさん!」

「ティコで構わん、さあ行こうか坊主、でっぷり太った奴の土手っ腹に一発撃ちこんでやろうぜ」

 

 そう言うと坊主もグラスの中のコーラを呷り、薄められたそれに微妙な顔をした坊主を笑ってやる。それからこの小さな”テンプル騎士団”は酒場のドアをくぐると、近場で今日もスロットの音を外まで響かせてる悪徳カジノへ向けて歩みだしたのさ。

 

 人生何が起こるか分からん、自然と身体が動くままに任せてもいい。

 ―――だから、このお人好しにしばらくついていくのも悪くないかもしれないと、そう思った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 吹きすさぶ風は乾いていて、足の裏を通じて感じられるのはごつごつとしたアスファルトの硬さだけ。歩く道は遠く地平線の先が見えそうなくらい開けていて、周囲は砂漠と、動物の骨と、瓦礫となったまばらに建つ家屋だけが飾っている。

 

 ジャンクタウンからは離れしばらく、南の”ハブ”へと向かう旅路には三人の男が歩いていた。

 

「ああ無くなっちまった、イアン、水あるか?」

「あるにはあるけど節約しろよ、ここじゃ二時間歩きゃもうカラッカラになるくらい乾燥してるんだ、足りなくなったらお陀仏だぜ」

「肝に銘じてるさ、ただ酒が抜けなくてな」

 

 緑のアイピースをしたガスマスク状ヘルメットを頭に被り、レザーアーマーを着用した上に前を開けたトレンチコートを羽織った男、ネバダで戦う”デザート・レンジャー”であるティコは水の入ったボトルを受け取るとその蓋を開けた。

 右手で持ったダッフルバッグが落ちないよううまく持ちながら、一口すするとまた蓋を閉めポンパドールヘアーの男、イアンに渡す。黒の革製ジャンバーという軽装のイアンと重装備のティコ、背に12ゲージのショットガン、ウィンチェスター・ウィドウメイカーを背負ったティコと腰に44口径オートマグを携えたイアン、趣の違いはあったが共に旅をする者同士として意気投合した二人はその前、背に悲しげな雰囲気を乗せて歩く一人の青年に目をやった。

 

 ”お前行けよ”とでも言わんばかりのイアンの目に対し、”元より”と自分も視線に言葉を乗せて返すティコは少し早足に彼、青いスーツに黄色で背に”13”と書かれた青年に駆け寄ると、顔を覗き込むようにして声をかけた。

 

「なあ相棒、まだ気にしてるのか?いくら考えても仕方ねぇよ、奴が先に撃ってきたんだしな」

「でも・・・」

 

 先を歩く青年、”Vaultの住人”と多くに呼ばれる青年は表情にやるせなさを浮かべる。

 先にジャンクタウンで悪党ギズモを説得しようとし失敗、銃撃戦の末彼と彼についていた者を皆殺しにする結果に終わったことを彼は今後悔し、悲しんでいたのだ。

 

 平和という夢物語を追う青年に現実はあまりにも過酷で辛い、なまじ世間慣れしていない彼だからこそ他人の悪意には鈍感であった。ティコはそんな彼の肩に手を置くと、前を見ながら声だけをかける。

 

「相棒、何かを成し遂げるのにゼロってのはそうそう無いもんだ、得るにしても失うにしてもな」

「・・・覚悟はしていたつもりだったんだけど、実際にこうなると、ね」

「ああ、お前はあいつを殺したんじゃない、あいつに殺されるかもしれなかった誰かを助けたんだ」

 

 その言葉を聞き、ようやく顔を上げた青年にティコは目を一度合わせるとまた前を見て言葉を続ける。青年も、彼の言葉に耳を傾けながら彼を見続けていた。

 

「あいつはクソ野郎だ、あいつを生かしておけば10人、20人が死んだかも知れんだろ?俺達はあいつらを数人殺したかも知れねぇが、差し引きすりゃプラスだ、何もしなけりゃ見殺しになっていたそいつらを助けたんだ」

「ティコ・・・」

「胸張っていいぞ、相棒。お前は英雄だ、街を出る時あれだけ声をかけてもらえたのがその何よりの証拠だ。どうでもいいならこの世界、わざわざ他人の見送りに家を出て来るほど暇なやつはそうそういない、どうでもいいならテーブルでトランプタワー立ててるほうがマシさ」

 

 青年は思い出す、街の悪党が死にその知らせが街を駆け巡った時、多くの人間達に賞賛の言葉を掛けられ、そして街を出る時に名残惜しむ声と再来を歓迎する声が幾多に投げかけられたのを。そしてはっとして目を開くと、ティコはその頭に手を載せた。

 

「それでいいのかな」

「そんなもんでいいのさ相棒、俺達は神じゃないのさ、与えられた条件の中でどれだけいいカードを引けるかで健闘するのがせいぜいってところだ。なんでもやろうって方がおこがましいぜ」

「そうか、そうなんだ・・・ありがとうティコ、何だか僕自身が持てた気がする」

「そりゃ何よりだ、道は長い、これからもこの”ヒーロー活動”を続けていこう」

 

 青年がティコの手から離れ、歩調を早くする。

 その背筋は既に伸びており、ティコに手を伸ばすほどの憐憫を感じさせないほどに彼は真っ直ぐに前を見て歩いていた。

 

 だがふと、青年が立ち止まる。

 ティコが何かと首を傾げて彼を見ると、彼は身体をこちらへ向ける。

 

「ところでティコ、”相棒”ってなに?」

「そりゃ旅を共にする仲だってのに”坊主”はないだろ?俺らは背中預ける”相棒”ってことさ」

「そうなんだ、じゃあこれからもよろしくね、ティコ」

「おうとも、行けるトコまで行こうか相棒」

 

 彼らはまた歩き出す。

 道は砂が塞いでいたが、それでもなぜか行く先が見えるようで足はさっきよりも早くなっていた。

 

 2161年12月30日、かつては雪が振っていた、そんな季節。

 後にVaultの英雄と呼ばれるようになる男とその相棒が出会った日だった。

 

 

 

 

 

 

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