久々に10000文字以下。
3/18 設定に矛盾点があったためアルの台詞を少しだけ変更。
第三章:奮戦、白銀闘士 1話 『黒い剣士』
どなどな、どうどう、ハイヨーお牛さん。
本日快晴日も昇る朝10時ごろ、まだまだ短い稲穂を見せる小麦畑に挟まれた広めの道、しっかりと整地された街道を行き交う馬車や旅人に混じり、一両の牛車がゆったりのったりと動く。
牛車、もといこの世界の牛であるモート、名をブラフマンと名付けられた彼が引く荷車は荷車にしては大きく、そしてところどころが錆びてはいるものの白を基調とし丸みを帯びた形状をするその荷車、見るものが見ればキャンピングカーのキャンパー部分がまるまる使われているとはっきり分かるその”キャンパー荷車”に道行く人々の好奇の視線を受けながら、それに負けず劣らずある種個性的な面々が寄り添い共に街道を進んでいた。
「向こうは本当に街だったからこういう光景は見られなかったもんだが、これはこれでいいな、心が洗われる」
「ボクもこういった場所は初めてだよ、ほら、忙しそうなのに手を振れば返してくれるなんてなんて温かみを感じることか」
「お前が手ェ振って返さない奴はゲイか何かだろーよ、この罪づくりエルフめ」
キャンパーを引き、ゆったりと歩くブラフマン、銀髪を腰まで伸ばすテッサはその背に跨がり小麦畑で腰を曲げている農夫を青い瞳で見つめると、笑顔で見つめ返されるのに対し手を振って応える。
それを頭の後ろで手を組んだまま冷ややかに目線を送るのはパワーアーマー姿のロイズで、左を歩く。対して右を歩くのは、全身を異世界の装束、NCRレンジャーが誇るフルカーボン製ブラックアーマーに包んだティコで、目をあちらこちらに移しては手を振ったりもするが、その装備がこの世界基準で見てあまりに異様すぎるせいか農夫や旅人の方はとっさに目を逸らすか頭を下げるために不服そうであった。
魔法を使うテッサはもとより何も持たないとはいえ、両側を挟み歩くティコは背中に長距離用のハンティングライフルと腰のホルスターに近距離用のレンジャー・セコイアを、ロイズはパワーフィストを両手に嵌めいつでも戦闘可能な状態である。
長旅でいくつかの村や街を経由してであったが、野宿や旅宿を使うこともいくつかあり道中襲い来る獣、小型のものだけであったが魔獣、そして夜警と武器を持ち警戒することが重なった彼らは出来る限り、長時間戦闘に備える待機状態を楽にできる装備選択を物としていた。
「それでテッサ、パーミットってのはどんな街なんだよ?また切った張ったの大乱戦ってのも困るけどよー、暇なのもそれはそれで退屈だしこう、楽しそうな場所がいいよなー」
「それをボクに聞くのは適切な選択だよロイズ、行ったことはないが本でこの大陸の主要な街は網羅してある」
「じゃあ早く教えてくれよ」
「せかさないでロイズ、まあざっくばらんに言っちゃうと、”異界と闘技の街”ってとこかなぁ」
なんだそりゃ、とロイズが言い捨てると、テッサはムッとしながらも説明に入る。
そんな旅の風景を微笑ましく見ていたティコだったが、ふと後ろで引かれているキャンパー荷車の扉がバタリと開かれた音が聞こえると、振り返りそちらに目を向けた。
後ろからとてとてとアルが駆け寄り、ティコに並ぶ。
彼女がティコににこやかに笑いかけるとティコもヘルメットの下で笑い、サムズアップで応えた。
「もうパーミットが見えてきましたねダンナ、入ってすぐのあれは商店街ですかねー、耳を澄ませばやいのやいのと声が聞こえてきますよ、やかましい」
「おお嬢ちゃん、もう少し休んでてもいいんだぞ?しかし本当に耳がいいな、俺にゃ稲穂が風に吹かれる音しか聞こえんさ」
「正直先祖返りは煩わしいけど、こうやってたまに役に立つものもあるんですよダンナ。目を凝らせば遠くも見えるし動体視力ずば抜けてますし、特に近くのものなら飛ぶ虫だって見えますからね、あ、ダンナ今止まりました」
「臭うからって止まるなよこのハエっ」
ヘルメットの後ろに止まったハエをばんっと手で叩こうとするが、すんでのところで逃げられる。
そのまま手のひらをバツの悪そうに眺めたあと、ティコはヘルメットを脱ぎテッサに渡すと首にかけていた双眼鏡を手にとった。
テッサが手にとったヘルメットを手の上でくるくると回し、付属機器やアイピース、縫製の精密さに興奮していることや、道行く人の視線がぎょっと化け物でも見る目に変わったことをよそにティコは双眼鏡をのぞきこむともう
この世界には二つとないほどに精密に作られたレンズを通し、何倍にも拡大された街の風景をティコは目に映す。
小麦畑が広がる道の向こう、中央に通り抜ける街道を中心とし小ぶりな木造の家屋、貧相なバラックまでが広がるように立ち並び、端を見ればまだまだ建設中の建物が見えることがこの街がまだまだ拡大を続けていることを察させた。
「へえ、街って言うからにゃもっとでっかいところを想像してたんだが・・・」
ついこないだまで住まい、記憶に新しいサンストンブリッジや道中立ち寄った街と比較し建物が小さめなことを見るやティコがこぼす、すると想像と比べ肩透かしを感じた彼にフォローするかのように、テッサが横から言った。
「たった今ロイズに言ったところだけど、パーミットは魔獣騒ぎや闘技場目的の人が多くてね、あの家屋郡の向こうにある外壁に囲まれた街が本来のパーミットであって、その下に広がってるバラックとかはみんな魔獣や闘技場関係で仕事を探しに来た人たちが勝手に作って広がっていったものらしいよ」
「へぇちょっとした難民キャンプみたいなもんか――― おぉ?」
会話の途中で、ティコがすっとんきょうに声を上げる。
それから彼は反応して首を傾げるロイズに双眼鏡を手渡すと、町の方を指さす。それを不思議がりながらもロイズは双眼鏡に目を通し、倍率を調整して町の方――― 少しだけ騒がしくなっている場所へと目を向けた。
「あぁ・・・あぁ!」
「分かったろ相棒、出番だぜ!」
ティコもロイズが気付くや背中のハンティングライフルを手に持つ。
ロイズはそんな彼をよそに双眼鏡を拡大させ見えたもの――― レンズを通しあたかも間近にあるように見える活気立つ昼の町から逸れた小麦畑、その中空に不自然にも浮かぶ空間の裂け目、”時空の裂け目”を目にし手に持った双眼鏡から目を離した。
「何だアレ!?」
「ああ相棒はそういや初めてだったな、簡単に言うとあそこがウェイストランドに繋がっててラッドスコルピオンやら何やらが出てくるってこった。迷惑な話だぜ」
「ってーことは、オレらがあれをくぐれば帰れるって・・・!?」
「何かが通ったら閉じる、試すなら早いとこした方がいいだろ相棒?」
「よしきた!テッサ頼む!」
「え?ああ分かったよ・・・おおっ、すごいねこれ!」
ロイズから双眼鏡を渡され、ティコにヘルメットを渡したテッサが双眼鏡を覗きこんでまた興奮するのをロイズは”また始まったか”と呟き無視すると、ティコに目配せする。ヘルメットはかぶらないままだ、これは日照りを歩くうちに熱さにうだって荷車に放り込んでいたことと、彼自身、あまりヘルメットは好きではないことが挙げられる、パワーヘルメットは頑強だが視界が悪くなるためだ。
ティコもヘルメットがしっかりと頭に嵌ったことを確認すると、ロイズの視線にサムズアップで答えハンティングライフルを両手に持った。
「先に行って一発やってくる!急がんでゆっくり来ていいぞ!」
「分かったよティコ、蹴散らしておいで」
「かましちゃってくださいダンナぁ!」
後ろから掛けられる声援を最後に二人は一目散に”裂け目”へ向かって走りだす。
前を歩いていた荷馬車の脇を抜け、マントを羽織った旅人を追い抜くと殺到した。
「相棒、穴が広がった!来るぞ!」
「先に行く!後ろから頼むグール!」
彼らが辿り着く頃の”裂け目”には変化が訪れ、その大きさを急激に増していくとあっというまに人一人が通れる大きさになりやがて獣一匹が容易に通れるほどにまで拡大すると、裂け目が道を塞ぐでもなかったためにビクビクしながらも街道を無理矢理通り、後ろをつっかえさせていた商魂たくましい荷馬車の持ち主たちもさすがに一目散に逃げ出す。
そんな彼らと入れ違いになるように駆け抜けたロイズは、ぎゅっと拳を握り締めると裂け目から”異界の魔獣”がはい出てくるのを迎え撃つように、その目の前に陣取った。
だが、
「ゲッコー・・・ゴールデンか!火を吐かないだけマシだな」
「よしきた!・・・って多すぎっ!」
裂け目をこじ開けるように飛び出してきたこの世界にあらざるもの、異界の魔獣、しかしティコはよく知るものだ。
かつてのバナナヤモリの愛らしい瞳は真っ赤になり、まさに爬虫類と言わんばかりに細められた瞳孔は獲物を射抜く、ヒレは頭の横に付きチャームポイントとなっているがそれをぶち壊すかのように顔つきは凶悪である。
加え進化の過程において二足歩行となった彼らは後ろ足をより強靭にし、そして余った前足には鋭い爪と膂力を堪え、当然のごとく攻撃のために使われるようになる。
”ゲッコー”、元々の生物の名前のままで呼ばれる生物の亜種、小さなヤモリと打って代わるバナナヤモリの特徴を反映するがごとく、体色を黄金色とし身体はさらに大型化したミュータント、”ゴールデンゲッコー”が裂け目をこじ開け、その向こう側に見える殺風景な瓦礫の山から狩場を移すとばかりに飛び出してきた。
彼らのうちの一匹が後ろ足の瞬発力をもって先行したロイズに飛びかかり、彼はとっさにそれを受け止め投げ飛ばす。しかしげに恐ろしきはその繁殖力、裂け目が縮み後ろにつかえたゴールデンゲッコーが通れなくなるまでの間に、裂け目に殺到していた実に六匹もの数がこの世界へと顕現した。
「こいつっ!?」
「参ったなこりゃ!」
裂け目を通った瞬間こそ急激な環境の変化に戸惑いを見せたゴールデンゲッコーであったが、視線を移せば優先すべきは明日を生きる食糧だとばかりに徒党を組むといっせいにロイズに食って掛かる。
ロイズは押しかけるそれをパワーフィストで殴りつけるがそこは爬虫類、分厚い表皮と引き締められた野生動物特有の筋肉が強固な盾となって二重の打撃を阻み、ロイズに確かな手応えを感じさせながらも致命的になるダメージを受けさせなかった。
しかしながら衝撃は確かなもので、姿勢を崩したゴールデンゲッコーは一瞬だけその場に留まることになる。
そこへ間髪入れずにティコが.308口径、狩猟用ハンティングライフルの一撃を手足に加えてやると、さしものゴールデンゲッコーといえど跳ね飛ばされたパーツの痛みとバランスのズレに襲われ戦列から離れることとなった。
「よっしゃグール!オレが止めたら頼むっ!」
「そうしたいとこなんだがな!あいにくこっちも愛されてるもんでな!」
「あーくそっ!」
片手を奪われたゴールデンゲッコーががむしゃらな動きになり、足を奪われた個体が身動きできなくなったのを見たロイズが作戦をシフトさせようと後ろを振り返る。
しかし見た先では、ハンティングライフルの発砲音に反応して狙いをシフトさせた二匹の個体がティコに殺到し、ティコがククリナイフをもって応戦していた。これにはロイズも舌打ちし、再び大口を開けて噛み付こうとするゴールデンゲッコーにカウンターパンチを加えて跳ね飛ばすとバックステップし距離を取り睨み合う。
数は劣勢、装備と練度では上回るが決めてなし、まるで自分たちの組織が衰退していった原因だと脳裏に走らせ笑いながら、ロイズは自分を取り囲むように動くゴールデンゲッコーの全てに対し殺気を放ち続けけん制する。
しばらく持たせればテッサの救援が来るだろうか、少なくとも後ろで二匹を相手取っている相方には期待できそうもない。
しかしここしばらくこの装備で十分な相手ばかりが続いたため、装備の選定を誤ったと、いかなる相手に対しても全力を、獲物を狩る獅子の気持ちを忘れていたと、自分たちの中に驕りがあったことを反省するとロイズは拳を握りしめいつものボクシングスタイルの構えをとった。
一秒、二秒、ほんのわずかな時間だというのに自身に対する包囲網は確実に形成されていき、ロイズも冷や汗を垂らす。パワーアーマーの剛性なら食らいつかれても問題ないだろうとは思うが、それでも頭を露出したのは失敗だったか、と彼は唇を噛んだ。
目だけをこちらへ向けたゴールデンゲッコーが包囲網を形成し、今にも食らいつかんとばかりに身体をかがませる、飛びかかるためだ。ロイズは拳をぐっと握りしめ、迫り来る攻撃の瞬間に備えようと―――
その時だった。
「どけどけっ!我らに任せろッ!!」
野太く、地を駆けるような声がロイズの耳を打つ。
驚いてロイズが目を向けるとそこ、街の方には三つの影が見えており、その全てが一直線にロイズの方へと駆けていたのだ。
「よく持たせた!苦戦しているようだな我に任せろ!」
真っ先に目につく一人目、他の二人を差し置き怒涛の勢いで土を踏み鳴らし、前のめりになるほどの踏み込みでロイズに向け疾走するのは身の丈2mに届きそうだろうか、全身を黒を基調とした装飾付きの鎧で覆う偉丈夫で、地を蹴り駆け寄ってこようとするのはそれだけで圧倒される。
顔つきもがっしりしており、頬に傷痕を堪え黒髪のオールバックをしたその男は背中の剣に手を掛けると一思いに引き抜いた。
剣、蛇の這うような不気味な彫刻の目立つ、まさに男の身の丈ほどに届きそうな大きな片刃剣――― まさに”魔剣”と称するに相応しい巨剣は引き抜かれるだけで空気を裂き、振り上げられるだけで旋風を巻き起こすとその刀身を陽の光に輝かせる。
「チェストォッ!」
既にロイズの目と鼻の先にまで駆けつけていた大男は、唐突な賓客の訪れに圧倒され固まったままのロイズをよそにゴールデンゲッコーを向かう先正中線に収めると太く、低い威圧感のある声を張り上げ振り上げた巨剣を振り下ろし、ゴールデンゲッコーの一体を一刀のもとに斬り抜いた。
人間並みの大きさを誇るゴールデンゲッコーといえどこの一撃に、あまつさえ鱗と相性の悪い斬撃には耐え切れず大口をあんぐりと開けたまま真っ二つとなり斃れる。斬り抜いた巨剣はそのまま地面に振り下ろされると、爆発でもしたかのように土煙を巻き上げた。
ロイズは顔に振りかかる土粉をとっさに腕で払いのけ、後ろにやや下がり土煙が晴れるのをまとうとする。
だがその矢先、
「わひゃぁ!?」
とっさに自分が避けたその場所に、再び煌めく巨剣が襲来する。
伸びた剣先はついさっきまでロイズの後ろをとっていた、足を撃たれたゴールデンゲッコーの首筋に食い込むと、そのまま体と頭を切り離し真っ赤な鮮血を黄金の小麦畑に噴き上げさせた。
ロイズが目を丸くして見るうちにも大男の侵攻は止まらず、土煙を引き裂いて再び目の前の獲物に突進する。
しかしその手には巨剣は既に握られておらず、彼は徒手空拳のみを武器としゴールデンゲッコーに近寄り、飛びかかり噛み付くゴールデンゲッコーを軽くいなすとその懐に腕を入れ、そのまま持ち上げ投げ飛ばし―――
「バラッド!頼む!」
「はいっ!」
かける声と同時にやっとこさ起き上がったゴールデンゲッコーへ向け鞭が振るわれた。
鞭を振るったのは茶髪の優男といった風格の青年で、目だけを見れば戦いに出るタイプの男ではないといった感じを抱かせる。しかし緑を基調とした軽装を身にまとった青年は、その風格とは裏腹に振るった長い鞭でゴールデンゲッコーの首元を縛り上げると、力負けせんと振り解こうとするゴールデンゲッコーを縛らんと、力を込め引き合いに転じた。
しかし見ればロイズよりも背が低い青年とゴールデンゲッコーの体格差は歴然で、暴れれば暴れるほど揺さぶられるのは青年の方、少しずつだが鞭の拘束は解け始めており、再び暴れだすのは時間の問題と思われたその時、
「シェスカッ!」
「まっかせなさいフラティウ様!スリープ・クラウドっ!!」
再び上がった大男の声に呼応するかのように、少女の声が響く。
声の主へロイズは目を向けた。炎のごとく真っ赤なロングヘアー、先はカールしており可愛らしく、活気の良い思春期の少女特有の声質はこの修羅場において緊張感をどことなくほぐしにかかる。
しかしその身にまとった装備、藍色をベースとした装飾付き軽装服の上に短めのマントをまとい、赤い髪の上をすっぽりと覆う三角帽、肩と腋も露出ぎみで実にキャッチーな”魔女っ娘”といった印象をダイレクトに与えてくれる少女、歳をおおむね14,5程度と見える彼女は手に持った宝石つき金の長杖という豪奢なものを惜しげも無く振るい、魔法だろうか、中空に浮いたままポーズを取ると杖の先から桃色の霧を現出させゴールデンゲッコーに放った。
「あれがファンタジーのウィッチ・・・!?」
やや興奮気味になるロイズを置いてけぼりに、桃色の霧はゴールデンゲッコーの頭まで到達すると停滞、すっぽりと覆う。ゴールデンゲッコーはその急な視界の変化に反応し逃げの一手を取ろうとばかりに身体を動かすが鞭に縛られ動けない。
やがて時間が経つにつれゴールデンゲッコーの目蓋が少しずつ閉ざされていき、抵抗する素振りをみせるも動けないゴールデンゲッコーはぱたり、と倒れると共に完全に沈黙してしまう、死んだのか、と側に居たロイズが寄ってみるがその胸はゆっくりと動いていた、眠っているのだ。
眠ったゴールデンゲッコーからは鞭が解かれ、そして再び状況が始まる。
大男が投げ、青年が捕らえ、少女が眠らせる。
「す、スゲェ・・・!これがファンタジーのウィッチ!」
「おぅ終わったぞ相棒、随分にぎやかになったもんだな」
すっかり蚊帳の外にされていたロイズが興奮に手をぱちぱちと鳴らすころ、ククリナイフを血に濡らしたティコが後ろから合流し、この場を見て目をぱちくりさせる。
それから二人の前で鞭の青年がゴールデンゲッコーを縄で縛り上げたあと、大男を筆頭に三人の”乱入者”が揃い二人の前へ並ぶ。
しばらくは沈黙だ、お互いの出方を察しているような空気が漂う。
だがすぐにつかつかと、真っ先に赤髪の少女がロイズの前に近寄り、彼を指さした。
「ねえアンタ!戦えないんならブザマに突っ立ってないでとっとと逃げたら良かったじゃない!?」
「なっ!?何だよオイいきなり!だいたいオレだって装備選択が悪くなきゃお前が来る前に・・・」
「何、負け惜しみ?武器が悪いから~なんてアンタそれでも男?フラティウ様が来てよかったわねこのツンツン頭!じゃなきゃ今頃こいつらのお腹の中よ!」
「あ”ぁっ!?言ってくれるじゃんかこのチビッコ、見てみろよこの身体!傷ひとつついちゃいねーだろ!大丈夫に決まってら!」
「アタシ達が来たからそうなのよ!」
「ちょ、ちょっとシェスカさんっ」
向かい合うなりいきなり顔を突き合わせまくし立てる赤毛の少女、シェスカと呼ばれた少女とカチンと来ては手をぎゅっと握り反論をぶつけるロイズ、すると勝手にヒートアップする彼らの間に先ほどの茶髪の青年、鞭の青年が割り込んで気迫負けしながらも二人を引き離した。
「じゃましないでバラッドーっ!」
「いきなり突っかかるのは止めてくださいってシェスカさん!すいません鎧の方、僕はバラッド・ヤーノシーク、ここパーミット出身のローグです。こっちはフランシェスカさん、それでこっちは―――」
「・・・我はフラティウ、フラティウ・ドムアウレアだ」
ぎゃいのぎゃいのと騒ぐフランシェスカを後ろに抑えるバラッドの横からぬっと前に出た大男、フラティウがロイズの前に立ちロイズを見下ろす。ロイズはそのあまりの大きさと威圧感に無意識にむっと身体に力を入れ胸を張るが、そんな彼の横からこれまたぬっと赤い目のレンジャー、レンジャー・ティコが前に出るとロイズを後ろに下がらせた。
「相棒をとやかく言われたのは気に食わんが、救援感謝するぜ大男。俺はティコ、NCRレンジャー・ティコだ、こっちは相棒のロイズ、パンチと修理が得意な可愛い相棒さ」
「か、可愛いってなんだよグール!もっと色々あるだろ!」
「やーい可愛いって言われてんの童顔クーン」
「うっせぇ胸ペタ!」
「なんですってぇ!?」
「二人ともやめてくださいっ!」
また盛り上がる二人、ついでに抑えるバラッド。
それを横目にちらりと見ながらティコと大男、フラティウは握手を交わした。
「俺よりでかい奴に出会ったのはこっちに来て二人目だ、しかし随分でかい剣を使うもんだな、昔モハビで東の怪物って呼ばれてた奴がでっかい剣を使ってたがそれよりも馬鹿でかい」
「聞かない地名だ・・・それに見たところ旅人か?ここに来るのは初めての様だ」
「ちょいと調べ物にね、だが来て早々ゴールデンゲッコーなんてものが見れたんだ・・・こっちじゃあまた別の名前があるのか知らんが。しかし捕まえてどうするって?肉は確かに美味いが野生の奴を飼い慣らすのは中々骨が折れるぜ」
「なるほど、この町について何も知らないと見えるな、ならばよし」
くくっ、とフラティウは笑う。
ティコは肩をすくめると、言葉を待った。
「ようこそ”異界と闘技の町”へ旅人よ、最初の一杯は奢るぞ」
「なるほど話をするにゃそれがいい、酒でも呑まないことに信頼は生まれんか――― よし行くぞ相棒!」
「この童顔頬キズ短気男が・・・ぐにゅにゅ・・・」
「胸ペタ悪趣味ウィッチがっ、うぐぐっ」
「置いていくぞシェスカ!」
「はぁいフラティウ様ぁ」
「わぶっ・・・おっ、おい!勝手すぎるだろ!?」
「よ、ようやく離れてくれた・・・!」
フラティウの言葉にシェスカはすっと頬を引っ張るロイズから抜け出すと、フラティウの腕に組み付き隣を歩く、残されたロイズは釈然としない顔をしながらも後を追いすがり、二人を抑えていたバラッド青年はため息をつきながらも二人からようやく解放されたことを喜んでいた。
眠ったままのゴールデンゲッコーをフラティウとティコとで担ぎあげると、やがてアルとテッサ、荷車を引いたブラフマンもが追いついてきて、この”小さなパーティーメンバー”は更に良かれ悪かれ活気を増す。
そんな最中、ふっと思い出したように後ろを振り返ったロイズはふと少し引き返すと、中空に空いていた裂け目、人間大の獣が通れた時とは打って代わり今にも消え入りそうになっているそれに手を伸ばした。
しかし、
「・・・あっ」
手が届く前に裂け目は閉じてしまい、そのひょうしにほんのわずかだけ、故郷の風を彼の顔に吹かせる。
空を切る手にロイズは残念そうな表情をし、手をおろしバツの悪そうに頭を掻くが、しかしその一瞬だけ確かに”故郷の香り”がしたことを思い出すと、振り返り先を歩く相棒たちの元へ駆け寄り表情をほんのすこしだけ微笑ませる。
「さすがにそう都合よくいかねーっか、ま」
手を頭の後ろで組むとロイズは、荷車とそれに跨る少女の横に並び歩き続ける。
そしてふと前を見ると、広がる木造りの小さな家々、それを明確に区別するかのように立ちはだかる遠くに見える城壁。抱え上げるは”異界の魔獣”で隣を歩くは”黒い剣士”、広く開けた道を歩きながら、ロイズは――― そしてティコも、今回の”クエスト”が一筋縄にはいかないであろうことをひしひしと肌で感じ始めていた。
この世界はDT制を採用しています。