トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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構成がうまくいかんで書き直してたら遅れたんや・・・。


第三章:奮戦、白銀闘士 3話

 朝が来て日が昇り、全体的に木肌色な街並みを明るくおおらかに照らしてからしばし、高く登り始めた日差しの魔力が活力を与え、街路を人が行き交い商店街はこの上なく騒ぐおよそ午前10時ごろ。

 

 

 トレヴはこの街の新参者であり、日雇いの仕事で食いつなぐしがない男である。

 

 別段強面でもなく、しかし弱々しいわけでもない彼でも幸い剣の腕に覚えがあり、故郷の農村を離れ一山当てようとしたが彼であったがうまくいかず、それでも幸い今日は街の端、森と街の境界線を守る仕事にありつけたことを彼は感謝していた。

 

 いわゆる立哨、と呼ばれるものである。この街は他の平和な街々とは違い、マナを大量に取り込んだ獣である魔獣、および異世界から現れる異界の魔獣による被害が大きい。特に、この街が街として成り立って以降、散発的に襲撃を仕掛けてくる魔獣”ゴブリン”による略奪、損壊の被害は無視できなかった。

 

 城壁に囲まれた主要な街や、そも危険と離れた立地にあることの多い村々とは違い、危険の多い癖に街が発展を続け広がり続けているこの場所は端に行けば行くほど、つまり住処が端に追いやられがちな新参者なら新参者なほど危険と隣り合わせで生きることになるため、街の端では労働者や住民保護などの観点からこのように日雇いの警備姿勢がよくとられている。

 

 今日も、彼はこの場所で共に新参者であるらしい別の労働者一名と共に、二人一組をもって剣を携え立哨にあたっていた。

 

 警備はどこも常に二人一組かそれ以上だ、これは城壁の衛兵や商隊護衛のようなものとは違い警備をする者の本来の役割によるものが大きい。つまりは新参者で経験の浅い彼らがまともに戦ってくれることはあまり期待されておらず、事が起こった際彼らは数を生かして戦うか、あるいは片方が犠牲になり敵を食い止めている間にもう片方が伝令の役目を果たせば役目は果たされる。

 信頼の低い新参者が起用してもらえるものこのためだが、危険の代償に賃金は高めだ。

 

 今回シフトは八時間交代で二人一組、昼の休みもないがだいたいはただ立ちんぼになるだけだ、当然腹も減るからその時には足元に置いたバスケットからパンと水を取り流し込む、付け合せにバターを一欠片塗り間に薄切りのベーコンを挟んでもいい、ちょっとした贅沢も必要だと思う、とトレヴは言う。

 

 正直なところ何もしないで立っているのは退屈だ、それはここだけでなく、尚更危険とは遠いお城の衛兵などという名誉ある仕事を承る人間にも共通の悩みである。だが人の喧騒がある以上そう毎日と魔獣が寄ってくるわけでもなく、たまの危険にはち合わせどなおかつ立っているだけで賃金が発生するのは悪くなかった。

 

 安定した仕事が見つかるまでのつなぎで色々と転々としているが、これもまた経験になっていいと、トレヴは納得しまた気の抜けた目で、何もない森へと向けるはずだった―――

 

―――それなのに。

 

 

「よしきたっ!隠れても無駄だチビミュータントっ!」

 

 スパン、と乾いた音が響く。

 業務が始まり二時間と少し、トレヴももう慣れていた。この燻った豆が弾けたような音が響くたびに、自分の手の届かないような、どころか目を凝らしても見えないような距離にいる魔獣が一匹、命を落とすのである。

 

 手応えを感じたらしい”相方”が持ち場を離れ、草木をかき分けて森の奥へと入っていく。

 ほんのしばらくしたあと、向かった時と同じように手に持った長い魔道具で木々をかき分ける相方はズルズルとその手に魔獣を引きずりながら、森から出てくるとその死体を積み上げられた中のひとつに加えた。

 

 トレヴは積まれ、死体の小山の頂で仰向けにされている魔獣に歩いて近寄ると、その顔を覗き込む。緑の肌、長い耳、人より低い背だが体格はがっちりと野性味溢れており、申し訳程度に縫製された腰布と括りつけられた石斧にはわずかな知性を感じさせる。

 

 紛れも無い、”ゴブリン”と自分たちが読んでいる魔獣だ。

 

 哀れにも胸腔を花開かせ、流れる血ももう止まりそうなぐらいに流血を終えたこの怪生物は、彼が生まれるよりも遥かに以前からこの街を、かつて村だった頃から脅かしている存在である。

 森の奥、踏査された領域よりもずっと向こうからどこからともなく現れるゴブリンは、この街に対し散発的な、あるいは稀にではあるが統率のとれた群れによる攻撃を繰り返し幾度と無く退けられているのに対しまるでその数を減らす気配がしない。

 

 繁殖力が強いのであろうか、だがならばその特性を活かし生息域を拡大するのが定石とも思うが、それにしては彼らはこの街以外の共同体では見受けられた試しがない。まるでこの街に執着しているかのように、この街を覆う森のどこかに居を構え数を増やしているのだ。

 

―――この街の闇は深い。

 

 

 そんなことをふっと考えていると、横合いからぬっと顔をのぞかせる影が見え彼は顔を戻す。

 影、相方はその奇抜な形の杖のような魔道具を肩に乗せると、片手で積み上がった魔獣の死体を指さし数えだした。

 

「ひい、ふう、みい・・・しめて七か、まだ二時間半経ってないってのに、いつもこんなにいるってのか?物騒な街だぜ」

「いや、普段はこんなにはいないさ。鉱山とか農家の手伝いとか色々やってたけど街全体で日に四、五回あるかってくらいだよ」

「じゃあ俺らは天に恵まれたんだな茶髪の兄ちゃん、これだけ仕留めりゃあボーナス三倍払いは固い、酒につまみがつくってもんだ、俺はジャーキーがいい」

「まあ、嬉しいけど・・・」

 

 言いすぼみながらトレヴは改めて、”相方”をよく見た。

 

 名前はティコ、と言ったか、背が高くがっしりとしていて頼もしい風格の男だ。

 

 胴回りを覆う薄手の鎧、軽装の脚、軽装備の戦士にはありがちな構成だ、見たことのない素材で作られているのもきっとどこか名のある名匠が作ったとか、知られざる文化圏で得たものなのだろう、世界が広いと思わせてくれるあたりがちょうどいい。

 長く使っているのだろうか、縫い跡の残る外套を羽織っているのも理由あってのことだろう、この季節この場所は別段寒くはないので暖目的ではないだろうから、戦闘に関するものか、あるいは内に何か仕込んでいるのか、トレヴは想像を膨らませる。

 

 だが一方で、見れば見るほど、彼の奇抜さも目立っていく。

 

 まず挙がるのはその顔だろう、黒色の兜を常に身につけ表情の一切を見せることはない。頭を守るのは戦士でなくとも当たり前で、自分たちのような人間なら尚更用心に越したことはないとトレヴも思うが、それにしたって派遣先で出会った時から先の自己紹介まで一切外さないのだ、この徹底さには彼もほんの少し不気味さを覚える。

 となると、理由があって兜を外さないといった線が濃厚だろう。内に何か見せたくないものを隠しているか、あるいは――― 顔を知られてはいけない理由があるのか。

 

 そこでふと気付く、じっくりと見た兜は思った以上に造りが丁寧であり、帽体に至っては細かなかすり傷こそ見えどつるりとした、歪み一つ無い見惚れるような均一な曲線を描いている。

 口元とこめかみの装置は想像もつかないような複雑さと、用途の不明から来る神秘性を兼ね備えており、目元に嵌めこまれた赤い結晶――― もしかすると、属性付与をしたマナ結晶バレライトであろうか、バレライトは純度が高くかつ大きいほど価値を増す、大きめの苺ほどの大きさを誇るものならば、その価値は果たして。

 

 ごくり、とつばを飲み込んで、そこではっと考えを振り払った。それは下衆じみた考えなのだと、自分はそこまで堕ちているでもないと心に投げかけ、一時その”名匠の魔道具”の兜を思考から外すと、次いでもう一つの気になる点に目を向けた。

 

 彼の手へと目を動かすと、その手に収まったもう一つの魔道具が見える。

 

 鉄の筒を覆うように、綺麗に整えられた木目の部品が取り付けられた”武器”。彼が構えると、呪文も唱えずして先端が弾け魔獣をいとも簡単に打ち倒したその魔道具は、トレヴに最も関心を抱かせた。

 

 杖にしては木質部分を肩に、鉄の先端を敵に向かい両手で構えるという奇怪な構え方をし、かつマナが集まる気配も見せない、魔法に関しては造詣のあまりないトレヴでも、一見にそれが杖とは違う存在であることを感じる。

 添うように取り付けられたもう一つの鉄筒はなんだろうか、魔道具が火を噴く直前彼がそれを覗きこんでいたようにも見える。そしてたった今彼がレバーを引き、鉄筒の中から弾き出した金色の小さな鉄筒もなんであろうか、彼は一度の攻撃のたびにこの動作をしていた、武器として使う魔道具がバレライトで定期的に魔力を補給するように、これも燃料の一種なのだろうか。

 

 彼という存在に惹きつけられるように、トレヴは送る視線を外せない。

 もっと知りたい、そう願っているとその機会は唐突に、彼から与えられた。

 

「一段落ついたところで、もっとお互いを知り合うのもいいんじゃないか兄ちゃん、こんなこともあろうかと俺の四次元バスケットにはグラス二つとワイン一本を用意しといた」

「っちょ、バレたら給金出なくなるんだぞ!?もし今雇い主の人が来たら・・・」

「そんときゃちょっと苦めのグレープジュースを飲んでましたとでも答えりゃいいさ、それにこの死体の山の上にふんぞり返って見せびらかしてもいい、さあ、一杯どうぞどうぞっと」

「や、やめとくよ・・・」

「おや、そりゃ残念、じゃあ俺一人だけで寂しくちびちびと」

 

 どうなっても知らないぞ、と横で言うトレヴをよそに、ティコはバスケットからグラスと赤ワインの瓶を引っ張り出すと躊躇いなく注ぎ、ヘルメットをずらし口元を晒すと一気に飲み干す。その一瞬の間であったが、トレヴの目にはティコの”黒兜”の内側がはっきりと見えてしまった。

 

 見えたのは生々しい”火傷”の痕。

 それもわずかな部分的だけではない、外気にさらされたのは首元から顔の下半分までの小さな範囲であったが、トレヴはその全ての部分の皮膚が焼け、削がれ、見るのも痛々しい傷痕となっているのを頭に焼き付けてしまう。

 

 その凄惨さに、頭が理解し”触れるべきではない”と命令を下す前に、衝動的にトレヴは口にしてしまった。

 

「あ、あんたその火傷」

「はは、よく言われるね。まあ気にしちゃいない、誰かのための傷ってのは男の勲章って言うだろ?襟元の勲章よりは目立つかも知れんが、二度と消えない傷も長く生きりゃいい思い出話にはなる」

「・・・その兜、外さないのってつまり」

「俺は空気の読める男だからな、少しばかり回りに配慮するのも忘れやせんさ。まあフリフリのウェイトレスや男娼をやらんのには理由があるってことだ、戦い一辺倒の人生だったってのは当然あるが」

 

 壮絶な傷痕とは裏腹に、冗談交じりに余裕のある言葉で返してくるティコを見て、トレヴは自分がとっさに言葉を抑えられなかったことを悔やむ。

 気を遣ってくれているのだろう、これだけの傷痕が、彼の人生でマイナスに働かなかったわけがあるまい、それであるはずなのに明らかに非のある自分に対し好意的に答えてくれたティコに対し、トレヴは一抹の尊敬も覚えてしまう。

 

 ティコはハンティングライフルをスリングベルトで背負い、空いた手でもう一杯ワインを注ぐと心底美味そうに呷り、グラスから口を離すと今度はトレヴに質問する。なんてことはない、少し込み入った自己紹介というだけだ、ティコの人柄の一端に触れ信頼を覚えたトレヴは質問を受けると包み隠さず自らの境遇を答えた。

 

「へえ、出稼ぎをな。まあ確かに田舎で燻ってると都会ってのに・・・世界ってのにどうしても憧れちまうもんさな、俺も故郷を飛び出してきたクチでな、まあ昔と言ってもまだ滑らか肌(スムーススキン)だった頃の話だが」

「ティコも農村部の出身なのかい?一山当てておっ母とお父に楽をさせてやろうって気持ちで来たのに自分はこのザマでさ。もっと自分の才能見極めて、大人しく畑仕事手伝ってれば良かったかなって」

「お前さん若いんだ、一度世間見てバカやってみるくらいの気概があって丁度いいってもんだぜ。俺の方は若い頃旅をしておいて本当に良かったと思ってる、してなきゃ出会えなかった奴もいるしな・・・っと、歳を取ると説教臭くなって困る」

 

 ティコは腕を組むと、しみじみと思い返すように空を見上げた。

 

「ああそれと俺の家は農家じゃなくてな、代々デザート・レンジャー・・・あー、なんというか兵隊やっててな、しかし爺さんから続いて親父からしこたま教わった技が俺の代で途絶えるってのも申し訳が立たんもんだなぁ・・・」

「家族、いないのか?」

「兄弟がいた記憶はない、親父があれから二人目を作れるほど息が持つとも思えんしな。まあ今は旅をしながら娘っ子二人と相棒を食わすのにてんで手一杯ってとこさ」

「娘二人と相方・・・」

 

 相棒とは嫁さんのことだろうか、なるほど確かに娘二人、男手がないなら兵に出せる面子はいまい、才能が物を言う騎士は女性でも結構な数がいるが、一般の女性兵士などよほどのワケアリか貧しさに耐えかねた人間がいいところ、数えるほどしかいない。

 トレヴはそう納得すると、どことなく寂しそうに見えるティコの黒兜の横顔に目を向ける。

 その刹那ぼそぼそと、ティコが何か言った気がしたが彼は聞き取れなかった。

 

 

 

 ティコはハンティングライフルを回して手に受けると、弾倉を引き抜き.308口径弾を押しこむように再装填を開始する。この間銃身の寿命を大きく削ったAK-112アサルトライフルに使うような5mm弾とは打って代わり、7.62×51mmの大きく尖った弾はリロードの際もなかなかに手応えを感じさせた。

 

 一応、余分に弾は持ってきていたつもりであったが、このペースで来られてはさすがに今回持ち出した弾が切れてしまうだろう、倒した分の魔獣の報奨金が出るだろうが、ガンパウダーもなければまともな鋳造設備もない以上弾薬には限りがあるのだ、ガンショップに行けばよりどりみどりであった故郷とは勝手が違う。

 

 彼は再装填の終わった弾倉を押し込むと、レバーを引き弾を薬室に流し込む。

 再び静けさが戻り、遠くから聞こえてくる街の喧騒だけがオーディオとなったこの退屈な待ち時間にかつて故郷、旧ラスベガス近辺、モハビ・ウェイストランドと呼ばれていた場所で戦時、敵を待つ日々だった頃の感覚を思い出し懐かしくなりながら、彼は空を見上げてつぶやいた。

 

 

「・・・相棒、今どうしてるかねぇ」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 この世界で娯楽と言えば、食うか、寝るか、本を読んでもいいが経費がかさむ、喧嘩は華だが毎日のようにやっていればそれこそ体が持たなければ街の警備隊にもしょっぴかれかねない。ボードゲームやトランプゲームもあるにはあるが、毎日では飽きが来てしまう。

 

 だからこそ必然的に賭博やサーカスが発展する。

 地球の中世ヨーロッパにおいて、当時の民衆の生活が”パンとサーカスだった”と称される通りこの二つ、有り体に言えば食と楽が満たされていれば自然と民衆の不満は減り、鼓腹撃壌(こふくげきじょう ※1)して満足、(まつりごと)は善き方向に向くとは先人の教えである。

 

 このサーカスというものは、現在におけるサーカスのような演劇的側面をもったものもあるが、中世ヨーロッパ、ことそれに魔法という決定的差分を持てど文化的に近いこの世界においては円形闘技場での剣闘士、猛獣、魔獣との死闘のような競技が多分に含まれるものであった。

 

 特に円形闘技場における競技は賭博との相性も非常に良いため、言わずもがな人々が寄ってたかって訪れては熱狂する。

 娯楽施設、浴場のような施設の建設は管理、予算上どうしても国家が持つことになるため、それらの建設を王や領主からの”贈り物”として受け取るこの時代の人々の求心力を高める結果にもなり、それは各主要な都市ではある種、式典、闘技、処刑、様々な目的に用いられる多目的ホールとしての要素も兼ねる闘技場を大小あれど必ずと言っていいほど建設する結果をも産んだ。

 

 究極的には政治とは、必需品と娯楽、できれば安全と衛生を享受できる社会を形成するものだとも先人は言う。

 領地持ちの貴族はこぞって闘技場や公衆浴場に力を入れ、ここ近年では特に文化的な生活を人々が送れるようになった大陸デレクタであるが、それでも魔獣や暗躍する地下組織のように日々怯えなければならない存在も多い。

 

 そうなると、戦時のように明確な憎むべき敵がなく曖昧になりがちな人々の意思の矛先は、それらを振り払ってくれるヒーロー、確かに存在する”英雄”へと向けられることになる。

 敵ははっきりとしていないが、曖昧に”悪”と断じれる存在を振り払ってくれる絶対的強者の存在は民衆の支えとなり、会話の種という娯楽となり、精神衛生上の支柱ともなってくれるのだ。闘技場の勝利者、特に不敗を重ねた人間は自然と人々の間で語られ時とともに明確な英雄像を与えられるに至る。

 

 

 闘技場へ訪れ、剣を振るう者達にもそんな”憧れの存在”になりたい者は少なくない。敵を斬り、放たれる魔獣を打ち倒し、勝利を積み重ねて円形の舞台の中心で人々の喝采と、賞賛と、羨望の目を360度余すところなく受ける快感に酔いしれる感覚は誰にも忘れがたい。

 

 街の端では小さな戦いが起きて、すぐに終わったそんな日柄、今日の闘技場でもそんな感覚に酔いしれに来た者達がリングに立つ。

 

 レディース・アンド・ジェントルメン。

 今日も血沸き肉踊る戦いが始まる。

 

 

「最高にッ!燃える!戦いが!見たいかぁ――――っ!?」

 

 太陽がそろそろ直上へと上りそうになり、中心にでんと構えた大きな舞台をさんさんと照らし始めたパーミット円形闘技場、日に当てられるのも厭わず最前列を取り合う興奮した観客たちを更に煽るように、会場に大きな声が響く。

 

 司会者の男の叫びに呼応し人々も大きく沸くと、司会者は彼らを一旦手で制す。

 するとあっとういうまに観客は静まり返る。

 

 ここにいる人間など上は杖をついた老人から下は剣を握ることもおぼつかない子供まで際限がない、しかしそのどれもに共通することとして、血を見ることが好きで、男達の感情のぶつけあいの余波に簡単にうたれてしまって、興奮するとどうしようにも止まらなくなる、そんなどうしようもない者達なのだ。

 

 でもそんな彼らも、この場を支配している者――― 司会者の進言は素直に聞き入れる。

 従えば次が見られると、戦う英雄たちの勇姿を目に焼き付けられるのだと素直になれる、利口なのだ。

 

 場が静まり返ると、司会者は円形闘技場の両端に備えられた門へと腕を向ける。

 それを合図として青と赤、二色に彩られた門のうち縁を真紅に塗りたくられた側の扉が勢い良く開かれ、その内、影からぬっと光指す領域へ侵入するかのように四人の戦人が歩み出す。

 

 そして一人目――― 身の丈6尺半を超える大男、全身を黒一色の装備に覆い、なにより目を引きつけるのはその背に負った身の丈に匹敵する巨剣。

 ”黒の剣士”、フラティウ・ドムアウレアが光の下に全身を晒した瞬間に、早くも会場のボルテージは一気に最高潮に跳ね上がった。

 

「振るい叩き斬るは呪われた巨剣ベルセルク!研ぎ澄まされた眼光はひと睨みで魔獣すら尻尾を巻かせ、その豪腕はトロルすらも投げ飛ばす!通算72勝、栄誉への頂に最も近いチーム”紅炎の黒刃”リーダー!黒の剣士、フラティウ・ドムアウレアが来てくれたッッ!」

 

 惜しみないべた褒めをする司会者の言葉に、観衆もフラティウの名前を高々にコールする。

 フラティウは一方、そんな大げさなと苦笑していたが、それでも人々のコールを一身に受けると背中から巨剣ベルセルクを引き抜き、一振り空を切る素振りを見せ期待に応えた。

 

「次はっ!藍色のミニローブに金の杖!燃えるような赤い髪は間違いない、シェスカ、君が来てくれたのか!かの国家最高戦力”炎神”ガイウスの孫娘にしてチーム最高戦力!使うのは真っ赤な豪炎、なぜなら敵が焼け焦げ溶け落ちる様を見るのが好きだから!一切の躊躇も容赦もない、残酷にして最凶、バーニング・シェスカだッ!」

「ちょっと!?前よりひどくなってない!?」

 

 可憐な見た目と裏腹に潜む暴虐があるのだと、容赦の無い評定を下されたことに対しシェスカが抗議の声を上げるが、その少女らしい甲高い声もこの場に集う荒くれ達のパワフル極みない怒涛の叫びの前にかき消されてしまう。

 シェスカはその理不尽な無力感にうーっと唸り杖の石突で地面をガンガンと打ち鳴らす。

 しかし悲しいかな、その乱暴な素振りが小さめの体躯とのギャップで更にシェスカの乱暴なイメージを増長する結果になり、司会者は盛り上げ、観衆はわざとらしく震え上がる演出がここに誕生してしまった。

 

 そんな唸るシェスカをなだめるように、後ろから一人の青年が腰を低くしてシェスカに声をかける。

 青年ローグ、バラッドの登場にも会場は沸き、バラッドはそれを察するなり腰を折り曲げ会場に一礼をした。

 

「礼儀正しい挨拶ありがとうバラッド君!投げるナイフは曲芸の粋、しなる鞭は獲物を屠る蛇のごとく!このパーミット出身の若きローグ!バラッド君を応援してくれ!」

 

 言葉を受けた会場が拍手喝采となる。

 どんな場所であれ、地元の人間が観衆の多くを占める闘技場では地元の闘士というものは人気を博すものである。誰しも一度は英雄と自分とを重ねあわせた想像をしたことはあるだろう、同じ場所に住んでいる人間がその闘士ならば、そこには奇妙な同調意識、共通点が生まれ、まるで自分のことのように錯覚できるのだ、地元のスポーツチームを応援するのと似たようなものだろう。

 

 フラティウに及ぶほどの喝采とコールを受け、バラッドもステージに並ぶ。

 

 そして彼らが見る先はひとつ、赤の入場門から来るはずの、もう一人の”闘士”だ。

 今日この場に訪れ、そして喝采の中闘いを経験することになる彼を、三人は後ろを向いて待った。

 

「そして残る一人はッ!先日チームを去った”黄金盾のティリウス”に代わって出場することになった期待のルーキー!受け取った資料によれば武装は・・・パンチ!?あっ!見えたッ!輝くは白銀の鎧、潔きは丸腰の装備!スクライブ・ロイズだッ!」

「うおおおォォォーーーッ!!」

 

 入場門から勢い良く飛び出してきたロイズは、頭までをヘルメットですっぽりと覆い身体はT-51bパワーアーマー、両腕にはフィストを嵌めた完全武装の姿をしたまま両腕を高々と上げ、ガシャガシャと金具の擦れる音を鳴らしながらステージへと走って行く。

 

 これをやる気に満ちたルーキーの登場とみなした観衆は一斉に声を上げ、新人の健闘を祈るべく拍手を送る。

 

 だが彼と親しい者が彼の声を聞けば、それがどこか――― やけっぱちなものであったと気付いたであろう。

 本来あがり症の彼が勇気を振り絞り、顔を隠して飛び込んだ人々の波の中心でまともでいられるわけもなく、ステージへと駆け込んだ彼は―――

 

「へぶっ!」

 

 ステージのへりに足を引っ掛け、盛大にすっ転ぶ。

 重たいパワーアーマーの胸甲部分から一気に地面に振り下ろされたかのように大きな音を鳴らし、そのままぴくりとも動かなくなる彼の身を案じた観衆は徐々に静まっていき、そして、

 

「うおおおォォォーーーッ!!」

「ウオオオーーー!!」

 

 何事もなかったかのように起き上がり、また両手を天高く掲げ雄叫びを上げるロイズ、この一連の珍奇な流れにはフラティウとバラッドも目を丸くし、シェスカは大笑いする。

 そのままシェスカを見ないようにステージに上がったロイズは意気揚々と肩を回し調子を整えると、フラティウ達に並び戦闘準備ができました、とばかりに拳を握りシャドーボクシングに入った。

 

「ロイズ・・・君はあがり症でこの手の場が苦手とティコに聞いていたが」

「ウッス!大丈夫ッス!テコでも杓子でも何でも来いってッスよ!みんなカボチャにでも見えるって思えやぁ!」

「アッハッハ!バカみたい!あのガラ悪い童顔君があがり症でずっこけて・・・アッハッハッ!」

「うるっせー!いつでもいい!どっからでも来いや!」

 

 心底余裕の無くなっているのを伺わせる喋りに、フラティウは司会者に合図するともう片方、青い側の扉からの入場者を招き入れる。入場門からは彼らと同様、前衛の剣士二人と後衛の魔術師二人という趣の違いはあれど四人の出場者が現れ、ロイズ達と向かい合うようにステージに並んだ。

 

 こころなしかであったが、彼らの顔は非常にやる気に満ちているようにも見える、通算72連勝を遂げたチーム、それらに勝つことはこの上ない逆転劇であり至上の栄誉と注目を得る容易い手段だろう、この場所にいる人間ならばそれがわかっていた。

 

 およそ50m四方、周囲にはなにやらと魔術装置であろう何かが組み込まれていることを理解させる特殊なデザインと構造を持つステージをロイズは見回し、足元のタイルをどんどんと足裏で踏みつけ全くブレのないことを確認すると、好奇心が強いロイズは改めて機械技術のないこの世界における職人の建造技術の高さに感心する。

 

 それから彼は目の前に集った四人の”対戦相手”を見やり、そこでひとつ、気になっていたことを隣に仁王立ちしていたフラティウに問いかけた。

 

「そういやフラティウのおっさん、別に殺すってワケじゃないんだよな?ダウンさせるだけで」

「おっさん・・・ああ、殺せはせんよ、そう言うルールであるからな」

「そっか、じゃあ安心した」

 

 ―――安心した。

 

 幾ら闘技場、その対戦相手とはいえど、無実に等しい人間を無意味に殺害するということだけは納得がいかず、ロイズはそのことが気がかりとなっていた。うっかり聞きそびれたまま昨日を終えた彼だったから、最悪の場合敵前逃亡することも考えていたが今、ここでその疑念が晴れたことに心も晴れやかにすると、右手に嵌め込んだ金色のグローブ、光り輝くボクシンググローブ、ゴールデン・グローブの紐をぎゅっと締め拳を構える。

 

 それからやがて、いい加減に闘いが見たい、とばかりの空気が会場に蔓延し始めた頃合いにようやく、司会者は試合の開始の音頭を取った。

 

「ではッ!これよりチーム”紅炎の黒刃”対”ファック&スラッシュ”の試合を始めますッ!」

「ひっでー名前・・・」

「それでは、試合、開始っ!」

 

 故郷の言語向けにマイルドに翻訳されているのだろうが、それでも口汚い言葉が平然と使われているであろうことだけは察したロイズが司会者の合図と同時に飛び出す。

 彼がフィストをぐっと握りしめるのと同様に、巨剣を握ったフラティウもだ。一拍遅れてシェスカの放った炎弾が駆ける彼らの頭上を通過、敵方の放ったものと相殺し消滅するのを皮切りとして、ロイズは最初の敵と交戦に入った。

 

 

 鉄の鎧を身につけ同じく鉄の長剣を構えたごく一般的、ひと目に剣士と分かる人間だ、だが一見丸腰で拳だけを握って突っ込んでくるロイズを甘く見る感情が潜んでいるのか、彼は口元に密かな笑みを浮かべるとただの一直線に突撃するロイズの頭頂部へ向けて一閃に剣を振り下ろす。

 

 鉄製の全身鎧と言えども、まともに長剣による重い一撃を振り下ろされてしまっては貫通は免れない。極端に防御を重視し防弾板のごとく分厚くした鎧ならば不可能ではないが、それではこのように姿勢を低くダッシュなど出来ないだろう。

 ならばこの一撃は確かに”白銀の騎士”の手応えになるはずだと、避けることも叶わない距離、速度、勢いで振り下ろされた剣を目に剣士も、観衆も、その瞬間はルーキーの敗北だと、ルーキーが期待できないような者だったと悟り諦めの表情を浮かばせる。

 

―――だからこそ、次の瞬間に観衆は目を見開いた。

 

「なあっ!?」

「だっしゃぁっ!」

 

 響いたのは、マヌケな音。

 

 カンッ、と甲高い響きを鳴らし、ロイズの頭頂部へ振り下ろされた剣は弾かれ脇に逸れる。

 剣先を振り下ろされた兜、鎧と同じ色で揃えられたそれに一切の傷が見受けられないことに剣士は驚き目を見開き、表情の一切を映し出さない黒いアイスリット――― ガラス越しにしてやったりと笑む白銀の騎士の顔が見えたようで、一瞬ぞっとした。

 

 だがその一瞬の震えが命取りとなる。

 

 はっと気が付き、手にした長剣を今度は守りに使う、その流れを剣士が頭のなかで考え組み立てる、しかしそれを実行に移すわずかなタイムラグの間に懐に潜り込んだロイズは、胸元に潜めた拳を軽く開きパンチの構えを取ると加速した身体の勢いのままに右腕を剣士の空いた土手っ腹へと叩きつけた。

 

 パワーアーマーの膂力は人間のそれではない。

 60000W、乗用車やモンスターマシンのバイクですら上回る定格出力はそのままに油圧装置へ送られ、規格外のパワーをその拳に与えてくれる。

 

 たかがボクシンググローブと侮る無かれ、ボクシンググローブは”武器”として付けられているのではない、”クッション”として付けられているに過ぎないのだ。もし彼がグローブなしに殴りつけていたのならば、抵抗をものともしない90kgの鉄骨が直撃したものと同様の衝撃が剣士の土手っ腹を貫いていたであろう。

 

 それを抜きにしても、ロイズの拳は脅威の力を剣士の腹にねじ込んだ。

 軽装の剣士とは得てして胸甲は纏うものの、それ以外は主要部以外を生身、あるいは革装備のような軽量なものとしがちだ。打ち込まれた拳は剣士の内臓をへこませ、衝撃と圧迫感による痛み、嘔吐感を彼の脳に命令させ、そして、

 

「ひとりめぇっ!」

 

 右腕を振りぬくと共に剣士の身体は大きく飛び、それから地面に打ち据えられるとゴロゴロと転がった後にステージの外まではじき出される。リングアウトにそう簡単には再起不能な衝撃、これで彼はこの闘いに敗北したも同然だろう。

 

 ロイズは仰向けになったままステージ外で悶える剣士に目を向けそう考えながら、少し早く倒しすぎたと、他の面子はどうしているかと気がかりになり目を横へ向ける。

 

そして彼は――― 

 

「ッおい・・・んだよ、コレ・・・」

 

絶句した。

 

 

「おおロイズ、終わったのか?中々早かったな、これでは観衆が楽しむ間もなかったか」

 

 目を向けた先、そう離れていない場所で巨剣ベルセルクを肩に乗せ佇んでいたのは、見まごうことのない黒の剣士、身の丈六尺半の大男フラティウ。

 

―――その足元には、

 

「殺すんじゃないって、言ったはずじゃ」

 

 フラティウの足元にまで届く、真っ赤な海。

 その元を辿って行くと、行き着く先にはだらり、と臓器を散らし絶命する、腹部から両断された剣士の死体が転がっていた。

 

 残る下半身もほんの僅か前には相方とつながっていたのだろう、よろよろとひとりでに歩いた後にぱたりと倒れ動かなくなる。誰の目にも見て明らかな、確実な死、黒い剣士が先に約束してくれた事実とは食い違った情景に、ロイズははっとまた視線を動かした。

 

「っあーっ!つまんないの!骨のある奴はいないのかしらっ?」

 

 炎のような真っ赤な髪をかきあげ、不服そうにする炎の魔法使い。

 その眼前にはそれがかつて、なんであったかもはや判別もつかないような、焦げ煤にまみれた人型の何かが二つ。風に吹かれると共に形が崩れ、内まで真っ黒く煤汚れた焼死体は地面に倒れると共にその四肢や焦げ肉を散らす。

 

 これほど凄惨な死を目撃したことは、ロイズにも無い。

 だからこそはっきりと、確信を持ってそれが死に至っていると言えるそれらを見て―――

 

 否、それらを足元にしながら平然としている彼らを見て、ロイズは自然と唇を噛むと動いていた。

 

 

「おいコラデカブツッ!」

「なっ!?」

 

 ロイズはフラティウの胸ぐらを掴む。

 身長差からそれは掴み下げる、という形になってしまったが、パワーアーマーの膂力になすすべもなく引き寄せられたフラティウはロイズと間近で目を合わせることとなり、彼の鋭く射抜くような、非難を込めた睨みに晒された。

 

 フラティウもロイズの存外のパワーに目を丸くし、わずかながらに危機感を覚える。

 だがそれでもロイズの心情を理解するには至らなかったため、そのまま動けなくなった。

 

「どーいうこったよッ!オレが殺すのはド畜生のレイダー(無法者)だけだッ!ここじゃ競技なんてもののために人殺しすんのが当たり前だって!?じゃあ72勝してるお前らはもう300人近く殺してるってことかよ!?」

「ロイズ?何を言っているかよく分からんが・・・」

「もうやめだ!オレは抜ける、人手がどうだか知らねーけど勝手にしろ!」

 

 掴んでいたフラティウを押しやり、滾る怒りをそのままにせめて一発殴ってでもやろうかと、グローブをぎゅっと握って振りかぶるロイズ。巨剣がどうした、魔法がどうした、鋭く振り下ろされる切っ先が、燃え盛る豪炎が、科学の粋たるパワーアーマーの装甲はたかがその程度のファンタジーの前に敗れる可能性など無きに等しい。

 

 ロイズは元来激しい性格だが、戦前をモデルとしたB.O.Sにおける教育の賜物とは言うべきか、多少の道徳心は持ち合わせている。誤って人を殺めただけならば自らを責めればいいだけだが、よもや享楽に命を消費する場などに、自らを騙し連れて来られ、目の前で消費される命を救えなかったということに対する義憤が彼を動かす。

 

 そのままもう一度ロイズはフラティウの胸ぐらを掴み避けられないようにしてやると、右手を勢い良く振りかぶり―――

 

 

「―――は?」

 

 ロイズは拳を打ち付ける直前になって、すっとんきょうな声をあげると止まる。

 

 彼の視線が捉えたのは自らの足元、僅か先にある赤い赤い血を流し絶命していた剣士の死体だ。

 その死体が、血液が、一瞬にして青白い光の粒子となって消え去ったのである。

 

 ロイズもさすがにそれを見るなり理解が及ばなくなり、フラティウを掴んでいた手を放すと口をあんぐりと空けたまま光の行く先を目で追う。視界の端では黒焦げの人型二つも粒子となって消え去るのが見え、それらは地面のタイルの合間の隙間に吸い込まれると奔り、ステージの最も見晴らしのいい場所――― 対戦相手の”ファック&スラッシュ”が並んでいた場所へと集まると、眩い光を放って新たな形を作っていく。

 

 眩しい光であったが、パワーアーマーの遮光レンズ越しにはっきりと見ることが叶ったロイズはその光景をありありと目に焼き付けた。

 

 足元から構築され、やがて胴、手、頭、服飾に武器までもが形作られる。

 紛れも無い、それは―――

 

「っーあーっ、また負けちまったよ、フラティウ達にゃ敵わねーよなぁ」

「シェスカ、焼くよりももっとマシな方法にしてよ?死なないけど痛いんだから・・・」

 

「し、死体が蘇ったッ!?」

 

 驚きに上ずった声で目をかっと見開くロイズは、再び壇上に立ち上がった死体達、一人の剣士と二人の魔術師に駆け寄るとその姿を上から下までまじまじと見る。

 急に距離を詰められ、全身鎧の青年に手を握られぶんぶんと振られる方も大概混乱した様子であったが、ロイズの混乱ぶりはそれを遥かに上回る領域であった、故郷でも古今東西心肺蘇生法のように仮死に陥った人間を蘇らせる方法はありはしたが、人体を過剰に損壊させられた状態から損壊部位を全て修復するなどという芸当は存在しなかったからだ、それこそ架空のエイリアンでもなければ。

 

「っ、どーなって・・・魔法?魔法って何でも出来るのかよ・・・」

「ロイズ、今君が憤った理由が分かった・・・我々も説明し忘れていたことは謝るのだが・・・」

 

 後ろから肩に手をおいたフラティウが言う、ロイズは驚き顔を戻せないまま振り返る。

 

「“殺せない”のだ、ルール上な」

「そ、そりゃ・・・」

 

 ロイズは口元をひくつかせると、もう一度再構成された闘士達へと目を向ける。

 何も変わらず、敗者が勝者に水を差すまいと大人しく帰っていく彼ら、そして図らずも自分が殴り飛ばしてリングアウトさせたせいで唯一の被害者となってしまったらしい剣士から嫌味がちな視線を送られながら、ロイズは何か張っていたものが切れてしまったような感覚を覚えた。

 

「安心したけど何だか納得いかねー・・・」

 

 へなへなとその場にへたり込むロイズ。

 すべてが終わったあとには申し訳無さそうな顔をした男二人と、腹を抱えて大笑いする少女だけが残された。

 

 

 

 

 




※1
太平で安楽な生活を、人々が喜び楽しむさま。
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