ラブコメの波動を感じる。
「―――はーい、ロイズくんお口開いてー、シャーベットだよー」
「あーん」
「はいよくできましたー」
―――何故だろう。
「じゃあゼノにもやってロイズくん!ロイズくんがやってくれるならゼノ嬉しくて涙ちょちょ切れだよ!」
「ちょちょ切れってきょう日聞かねぇなぁ・・・つーか、さすがにもうやめようぜ?なんかほら、回りの見る目が恋、恋び・・・」
「恋人みたいって!?やだなぁ恥ずかしい!ロイズくんほらお口開けて―!」
「ちょ、おい!だからオレら別に・・・あーん」
―――何でこうなっているのだろう。
「お代は大銅貨二枚と銅貨六枚になりまーす」
「ゼノが払うよ!誘っておいて悪いもん!」
「バッカそれでも男やってられ・・・あっ!財布まとめてあいつらに預けてきたんだ!あーっ!」
「大銅貨三枚でお願いしまーす!」
―――疲れて仕方なかった気がするんだけど―――。
「おい見ろよあの鎧の兄ちゃん、彼女に奢らせてるぜ・・・?男の風上にも置けねえ!」
「ヒモだ!ああいうのヒモっつーんだよ!どうせ鎧も見栄張ってんだろ?」
「・・・あいつ白銀闘士のロイズじゃないか?うっわ見損なった・・・ミスリルゴーレムを殴り倒した挙句、徒手空拳が武器って聞いてストイックな奴だと思ったのに」
「ああっ、目が痛い!このヒモ野郎!みたいな目がスッゲー痛い!耐えられないっ!あーなっさけねーっ!」
「じゃあ次、いこーロイズくん!この街思ったより大きいよ!」
―――ああもう!どうにでもなれ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わたしはゼノ、あなたの大ファンです!これからわたしとデート、してくれませんかっ!?」
可憐な少女の思い切った、しかし唐突なお願い。
だがなんとなく災厄がやってきそうだと直感したその頼みに、ロイズは断りを入れようと口を開けようとするが彼女を見た途端、その動作も凍りつかされてしまう。
ぐっとロイズの両手を握る彼女は興奮しているのかこれでもかとロイズに近寄っており、かつその背はこの年頃の女性――― 亞人の肉体年齢が人間と同じなのかはロイズも知らなかったが、その割に低め、テッサより少し低いくらいの彼女は必然的に彼を見上げる格好になるためいわゆる”上目遣い”の姿になる。
「うっ・・・」
小柄で庇護欲をそそる、見た目可憐な少女に両手を握られ、上目遣いで見つめられる。
実際その目をじっくり見てみるととても輝いていて、いわゆる”上目遣い”とは使い方が違う形になっていたのだが気恥ずかしさから目をつい逸らす彼にとってはそれは分からず、とうとうたじたじにされた彼は助けを求めるように後ろを振り返った。
「・・・助けを求められても困るんだがなぁ相棒」
ティコは腕を組み、こめかみを掻く癖が出ているあたり彼も中々考えがまとまらないらしい。
彼も心中では相棒を休ませたい、しかし彼がよしとするならそれもまたいい・・・と考えていたのだが、なにぶん唐突すぎる事態に、こと人付き合いに関してはここの誰よりも経験豊かであるはずの彼も状況をまとめられなかった。
「やあやあロイズさんにも春がやってきたんですか?カワイイじゃないですか猫じゃないですか、にゃんにゃん!いいと思いますよ?お疲れなら無理強いはしませんけど、付き合ってあげてもいいんじゃあ?出会いは唐突にですよほんと、お二人がくっつけばちょうど一人余りますね!」
「ねえアルベルト、一人ってボクだよね?君がティコにぞっこんなのはよく知ってるからボク一人だよね?というか君、いつもティコと自分がお似合いみたいに言うけど彼の君を見る目はどっちかというと父娘の・・・あいたぁーっ!?」
手を合わせてこれは興味の対象だと、目を輝かせて言うアルにかけたテッサの言葉が彼女の琴線を弾いてしまったようで、バリっと引っかかれたテッサがもんどりうって転がる。アルの爪は体質上常人より幾分鋭いのだ。
後ろを振り向いてずっとその様子を目に入れていたロイズは、赤髪のちみっ子はむしろ肯定派、銀髪ポンコツエルフはいつもどおりポンコツぶりを発揮していて、頼みの綱の口がよく回るグールにも助けが求められないと感じるととうとう切羽詰まる。
しかし両手をぐっと掴んで離さないゼノは、ロイズが何も言わずに後ろを見ていることに次第に顔を悲しげにしていった。
「あ・・・やっぱりお疲れだよね、あの戦いずっと動き回ってたし、薬も・・・」
眉は垂れ、表情は寂しそうに、それでいてロイズの手をグローブ越しに握る両手は少しずつ弱まっていく。
背丈の差で見える頭頂部に目を向ければ、髪色と同じ白い、しかし内側は健康的に桃色なネコミミはぺたんとへたり彼女の感情を物語っていた。
膝丈のミニスカートの内側で太ももももじもじと擦り合わされており、その様は不思議と申し訳なくなってくる。
「ごめんねロイズくん、疲れてるなら家に帰って寝たいって思うよね?うん、ゼノ少し気遣いが足りなかったかな・・・本当に、ごめんね、じゃあゼノも帰るから・・・うん、舞台で戦うロイズくんが好きだから、ゼノは大丈夫、じゃあ―――」
色々な感情が綯い交ぜになったような言い方で一気に別れの言葉をまくし立てるゼノは、指先を緩めるとするり、と合わせた手を抜け離れていく。
ロイズは言葉を出せないままその姿を目に入れ続け、悲しげに、しかし自分の軽薄さを呪ってなお作った笑顔で去ろうとするゼノをただ見送ろうとする。
ただ―――
「あの・・・!な、なあ!」
ようやく出た言葉は、前に踏み出した一歩と同時に発された。
ロイズは元来義侠心、正義感に篤い男であり、スクライブとしての仕事の最中に勧善懲悪モノのテープの閲覧を趣味にするようになったり、
早い話が、誰かの助けや頼みというものがあると、断れない男なのだ。
自分に非がなくても、相手が悲しげな顔をするだけで心を揺さぶられ、涙を流されればそれがボロを纏った身分不相応な子供でもつい目線を合わせて話を合わせてしまう、そんなどうしようもなく面倒見がよく、ジレンマに悩まされがちな男が彼、スクライブ・ロイズであった。
そんな彼だからゼノが目尻の端に光るものを浮かべた瞬間、彼の”面倒見の良さ”がピークを迎え沸騰し、身体を凍りつかせていた彼に原動力を与えてしまった。
嫌な予感はビンビンしていたしなにより自分に付き合う理由はなく、それでいて激戦による疲労は確実に眠気や身体の痛みとなって訪れていた彼にとって、本当に”付き合う理由はなかった”、だが動き出した彼の手は、彼の呼びかけに反応して振り向いた彼女の手を半ば強引に取ると、あたかも彼女が自分にしたように両手を持って彼女の手をがっしりと握る。
そして彼は両の目でしっかりと目を彼女と合わせると、一思いに言うのだ。
「オレの大ファンのゼノ、だよな?オレはロイズ」
彼、ロイズの握る手がより強くなる。
顔は赤らんでいて、それはゼノも同じだった。
はたから見れば勘違いされるくらいに。
「“白銀闘士”です!これからオレと付き合ってくれっ!」
刹那、時を待たずしてぞぞぞ、とした感覚が背筋を昇る。
それは両者ともにだったが、その意味の違いは二人の表情が対照的に真っ二つに分かれたことが物語っていた。
少なくとも、ロイズがあとに思い返した感想は、”何でオレが誘ったみたいになってんだ?”の一言だけだった。
「ロイズくんこっちこっちー!」
誘われるがままにふらふらと、過労に疲れや嫌気を感じなくなった身体のままにロイズはゼノの手を振る方向に進む。さながらその姿は誘蛾灯で、誘われるロイズはぱたぱたと見えない羽をゆらりゆらりと震わせまっしぐら。
硬い外殻の生物は決まって美味しいと相場があるのだ、特殊樹脂と超合金のあわせ素材、パワーアーマーに筋肉のついた細身の身体を隠すロイズの味はさぞ美味しかろう、実際鍛えているので健全な婦女子でもそうでなくても、見るだけで青々しい、しかし猛々しい魅力を感じるものではあった。
ゼノはロイズを小さな丸テーブル、椅子が3つあるのが妙に生々しいそこにうつらうつらのロイズを座らせると、自分はお店のカウンターへと一人駆けて行った。
「うー・・・さっきアイス食べたけど全然足りねー・・・なんか腹いっぱい食べたい・・・甘いのとか旨いのとか」
上手く働かない頭は、脳機能の活性化を促す甘味と精神疲労を癒やす旨味を求め、脳裏に熱々と滾るバラモンステーキ肉や黒みの混じった角砂糖を想起させる。
そんなどうしようもない妄想がひとしきり続いたあと、ようやく戻ってきたゼノ。
ロイズは普段の目付きの悪さが祟ってじと目気味のその目にゼノの姿を写し、また閉じかける。しかし、その手に運ばれているプレートが目に入った瞬間、どうしても視線を釘付けにさせてしまった。
「お、おぉ・・・!眠気が消し飛ぶ!腹が鳴るっ!ゼノ、ナイスチョイス!」
「褒められちゃった?でも男の子なんだからこれくらいは食べるよねー?ほら切ったげる!」
当たり前にゼノが丸テーブルに置き、そしてナイフをもって食べやすい大きさに切りそろえている肉料理、ロイズには思えば懐かしく、地下バンカーにいたころ、食糧事情が改善したここ二年ほどは頻繁に食卓に並んでいたものだ。
切れば切っただけ肉汁があふれ、その臭いには200年前の食品にありがちな薬品的な臭いも、合成肉の怪しげな肉と肉の混合臭もしない。
薄っぺらの楕円形に伸ばしたミンチ肉を強火と弱火の合わせ技で蒸し焼きにし、余った肉汁に酒を混ぜた特製グレービーソースをかければもう完成、だが付け合せにはニンジンのグラッセと、色が黄色いがブロッコリーだろうか、見た目的にもロイズ的にはオールオッケーだ!
ソールズベリーステーキだ!アメリカの大英雄、ソールズベリー博士の産み愛した、アメリカの食卓をポテトやピザと並んで席巻する至高のロープライス肉料理、ご家庭にやさしいソールズベリーステーキはこの地においても開発されていた!
「はい、あーん」
「うへー」
フォークの先に肉汁滴る切れ端を刺し、ロイズへと向けるゼノ。
白髪ネコミミショートの少女が微笑みに紫の目を細め、美味を楽しませてくれる様は誰から見ても羨むべきものであったが、他の要素が先行するロイズはそれすら目にはいらないまま、餌付けされるひな鳥のようにソールズベリーステーキを口に含む、実にだらしない。
ウェイストランドの経年劣化箱入りレトルト食品とは違う、
されど頬に小さなキズを堪えたつんつん頭、全身鎧を身にまとった青年が、猫耳少女に微笑みを向けられながらソールズベリーステーキを食すという光景は実に傍から見て目立つものに違いはなかったようで、ようやく気付いたロイズははっと周りを見渡し縮こまった。
当のゼノ本人は全く意に介していなかったのだが、ロイズはこの黄色い視線郡にはどうしてもぼっと顔が赤くなってしまいゼノのプレートからソールズベリーステーキの皿を取ると、自分の前に置いて自らフォークを手にした。
「あれーどうしたのロイズくん、わたしが食べさせちゃ、イヤ?」
「イヤっていうか、何か恥ずかしいっていうか・・・ほら、こう言うのはもっと深い関係ってのになってからがいいんじゃねーかってオレは思うわけでその」
「うーん、ロイズくんが言うならじゃあわたしはガマンしようかな・・・ごめんね、ゼノ、悪い子?」
「い、いや!全然!全然悪い子じゃねーって!むしろオレのが・・・あー視線が痛いー!」
小柄な女の子を鎧騎士が涙目にさせる姿はただひたすらに、いけすかなさばかりを感じさせて仕方がなくロイズは困惑する。
ムードが悪くなってきたのを素人なりに感じたロイズは、ならせめて空気だけでも刷新しなければと、今なお回りづらい頭を使って必死に話題を作り上げ、ひとまずはそれに従いなるようになれと彼女に話しかけた。
「あ、そ、そーだそうだ!それよりも!オレらお互いの名前しか知らないだろ?ゼノはオレのこと知ってんのかも知れないけど・・・ほら!ゼノのこと教えてくれよ!」
「ゼノのこと?」
テーマを振ったことによって思考のスイッチが切り替わったのだろうか、先ほどの表情が打って変わって明るく、きょとんとなったゼノは顎に小さくひとさし指の先を当て考えるそぶりを見せる。
ひとしきり視線をあっちこっちに向けて悩んだ後、ゼノは「いいよ」と答えると、フォークを置き今なおロイズには抵抗のある炭酸飲料、ガラバサワーを軽く喉に通し声帯を潤わせ、それからロイズへ向くと話し始めた。
「どこから聞きたい?ゼノ自分のこと話すの結構好きだよ、ふるさと?ゼノの好きなもの?嫌いなもの?今までの旅?お父さんとお母さんの話は・・・したくないなあ」
「え?何かあったのか?」
「もういないから」
「あっ・・・」
唐突な告白。
思わず踏み込んでいけないところに踏み込んだような気がしてロイズは更に別の話題を振ってごまかそうと考えたが、それが思いつかないうちにゼノは自分に、自分の境遇について語り始める。ロイズも相手のほうから踏み込んできたことにはどうにもならず、ただじっとその話を聞いた。
「わたしのふるさとはずっと・・・北西なのかな?たぶん南東の港から行ったほうが近いかも。”魔女の大陸”のおとなりさん、ずーっと戦争が続いてるフレイター大陸の海沿いの田舎村、産まれてしばらくは畑を耕して、お父さんがツノジカを狩ってきたりして、楽しかったんだけどね」
「・・・戦争、か」
「そ、お父さんは駆り出されて、お母さんと二人になったけどそれから村にまで戦火が伸びてきて、お父さんの訃報を聞いてからは大陸を脱出してここ大陸デレクタに移ったの、街の片隅を借りて細々と生きて、でもね」
続く言葉を話そうとするゼノの顔は少しロイズからは逸れていて、横顔と言える角度を呈する。
彼女は小さくため息を吐くと、下唇に指先をすっと当てたのち、手をテーブルの上で重ねてから言った。
「亞人って、昔々は人類種と戦争してたからあんまり仲が良くなくてね・・・今はすっごく生きやすいけど、昔はそうでもなかったんだよ」
「亞人・・・動物と人間の合いの子みたいなのをそう言うって」
「それで、こっちに来てからしばらくは小川でお魚を捕ったり、木の実を探して集めたり、しばらくはやっぱり平和だったんだけど・・・頭に耳の生えた子を探して殺す、そんな人達がいてさ、お母さんが」
憂いの表情で過去を吐露する彼女の話を、ロイズはじっと聞く。
彼の心に巣食う正義感は、彼女の話を聞き流す程度のものだとは決して思わず、しかと聞き入っていた。
「それからは逃げて、逃げて、そのあとわたし達みたいな人達の集まりに受け入れてもらってさー、そこでしばらく暮らして、王様が法律を作って生きやすくなってからはずーっと旅をしてるの、ここに来てロイズに会ったのもその途中だよ」
にへへ、とまた笑顔を作り、ロイズに向けるゼノ。
ロイズも話を聞いたあとで感慨深いものがあり、感情入り混じった苦笑を作ると彼女に返した。
するとゼノは、ぱんっ、と手を叩いてロイズの気を引く。
それからやはり、にーっと可憐な笑顔を彼に見せつけると、今度はずいと彼に近寄ってみせた。
「はい、これで重たーい話はおしまいっ!ゼノは16才で猫の亞人の女の子!好きなものはリンガクリームパッフェとロイズくんみたいな強い人!嫌いなものはピーマルにイヤーなこという人!ゼノの自己紹介もこれでおしまいっ!」
「お、おう、でもよ?強い人って言うならオレよりフラティウのおっさんとか、話しに聞くウグストって奴とかいるんじゃねーの?何でわざわざその――― 若輩者のオレなんか気に入ったんだよ?好まれるタイプの顔つきじゃねーと思うんだけど」
話の重さはロイズにのしかかっていたが、それでも余計に悲しい話を盛り返すまいと、首をかしげながらそれとは違う話題に向けロイズが聞くと、ずいと近寄っていたままのゼノは一度離れる。
しかしそれからさも考えはぶれていません、とばかりにすぐさま、また彼の手を取り手に握るとやや興奮気味に答えを述べていった。
「いやなんてーかね!すごいキミを見た瞬間その・・・ビビッて来たんだよ!拳一つ!全身鎧で騎士団からのお墨付き!若くってかっこいいのにあのバーニング・シェスカをかばってミスリルゴーレムの腕を受け止めた時なんか!はぁーん!」
目を閉じ、思い返すように顔を赤らめるゼノ。
その様にはさしものロイズも後ずさりせずにはいられなかった。
「教えて!おしえてよロイズくん!だーれも知らないキミのこと!ゼノ知りたい!」
「わ、わ、わかった!ゼノも色々教えてくれたんだしオレも教えるから!だから手は離そうって!なあ!?」
「わわ、ごめんね!」
手を握り、ぶんぶんと振り回すゼノにがくんがくんと身体を揺らされ、ロイズは空いた片手でゼノの肩を握って静止する。前が見えなくなっているでもないようで、ゼノは肩を握られたことに一瞬びくりとすると唐突に縮こまり、ロイズの言葉を待つ身となった。
ロイズは軽く咳をして声の調子を整えてから、ひとまず落ち着こうといい感じに温度の下がってきたソールズベリーステーキを切っては口に入れる。
つられてゼノも自分のもので同じことをしているうちに、彼はとりあえず言った手前断るまいと、自分が持つパーソナルデータをまとめていった。
もしかするとこの世界に住まう住人、ゼノには理解できない単語があったかもしれなかったが、空腹から立ち直れなず疲労とのダブルパンチを受けていた頭はそんな判断を余計と認識し、脳内からスパンッ、と弾き飛ばす。
ひとしきり腹が満たされたことに満足したロイズは、深く呼吸し頭がこころなしクリアになっていく感覚に言いようのない快感を覚えると、立場や居住のせいで長らく誰にもしていなかった自らの情報の開示――― 自己紹介を始めたのだった。
「―――ってなわけで、オレらは故郷に帰るために旅の真っ最中ってワケだよ!グールのヤツは頼りになるけど前衛のオレがいなきゃ安心して射撃なんざできねーし、ポンコツエルフなんてハナから・・・」
「すごいすごーい!ロイズ、あの”死の鉤爪”とも戦って、しかも勝ったんだ!?騎士団よりも強いじゃない!くぅーっ、ゼノの目は狂ってなかったってことだね?他にも聞かせてよ!ロイズくんの故郷の”ろすとひるず”のこととか、他に戦った異界の魔獣のこととか!」
「まっかせろよ!じゃあ手始めに・・・ナイトストーカー?いや、カサドレスでもいいよな!あ!ヤオ・グアイに正面から殴り合い挑んで勝った時のことも!ま、どれもオレのパンチで圧勝だったけどな!」
口を開けば武勇伝、喜び勇んで話す舌は疲れ頭のテンションと合わさってより饒舌になり、あることあること大胆な脚色をつけては目を光らせる小柄な猫娘に、見知らぬ地における旅物語を話しては次の話につなげていく。
実際のところ先にデスクローを相手にした時のことは間違っていなかったが、他に関しては懐かしきウェイストランドの地、ティコを含む輸送部隊の面々の一斉射によって蹴散らされ、なおも進軍を止めないミュータントを殴り飛ばす役割がせいぜいだったので語弊があった、だが圧勝には違いないので彼は嘘つきにはならないのだ。
ぱちぱちと囃し立てるゼノに乗せられロイズは、ゼノから質問を受けるまでは止まらなかった。
「ねーロイズくん、ひとついい?」
「ロイズでいいよゼノ、何だよ?割りと何でも応えるぜー?」
「じゃあロイズー、キミの所属してるっていう”ぶらざーふっど おぶ すてぃーる”ってなあに?わたしも色々回ってるけど、聞いたことないよー?」
「あー」
そりゃあ知らないよな、とポリポリと頭を掻く。
確かに彼が話す通りの大組織なら、それなり知られててもいいだろう、だがそうでないと当然疑問符を浮かべられる。とりあえずはB.O.Sという存在だけでも認知させようと、ロイズは答えにかかる。
それでも思い返してみると、B.O.Sの存在意義、活動の意味というのは結構曖昧であったり、創設者”ロジャー・マクソン”の残した憲章、通称”コーデックス”に従って動いている割にそれを曲解していたり、あるいは頑なに従いすぎて融通が効かなくなっていることが多い。
総本家であるロスト・ヒルズ・バンカーを頂点とせどB.O.Sという組織が各支部ごとに分割された統治機構を持ち、それぞれの指導者”エルダー”の意思で動いているために起こる齟齬なのだろうということはロイズもたびたび考えていたが、それでもどうにもならなかった。
だが読書趣味でありスクライブのロイズは、ロスト・ヒルズのターミナル上に存在するコーデックスや過去の資料にもひと通り目を通しているくらいの利口さがある。彼は彼なりにB.O.Sであることに誇りを持ち、その未来に目を向けているからだ。
「科学技術を無法者から保護して、合衆国の復興のために役立てる。それがB.O.Sさ」
「カガク技術?魔道具の製造技術とかバレライトの加工技術とか?おもしろいことしてるねー」
「ちょっと違うけどまあそんな、ほら、このアーマーとか・・・コーデックス要項第三、”基地兵員の生存に必要とされる装備は、これを直ちに店舗から徴収する”それとロジャーの部下の残した言葉”気高き同胞には何の危険も無かった、パワーアーマーを装備していたからだ。彼らは救済者こそ臆病なりとその名を貶めた後、自らの神聖な鎧に身を包み自分達の『聖杯』を探しに出ていった”」
ロイズはぐっと胸に手を当てると、胸に刻みつけたその思いを再確認するように、ぎゅっと手を握りながら続ける。
「オレたちの持つ智慧と手が輝きを失うことなんて無い、だからその輝きを守るために、使い方の知らない、不幸と災厄だけをバラ撒く
「うーん、難しいけど大変なお仕事してるんだねえロイズ。そのお仕事が好きだから、遠くまでわざわざ帰るの?」
「・・・まーな、正直B.O.Sが変わらなきゃならないってこた思ってたけど・・・二年前に同盟結んだハイエルダーはいい仕事したよな、っと、悪い、話が逸れた」
話が自分のみに理解できる領域に進んだことを詫び、ロイズはソールズベリーステーキに手を付ける。
すっかりぬるくなってしまったが、それでも贅沢に産地直送の肉を使った料理は、彼の舌を最後まで満足させるに至り結局、150g程度あったちょっと贅沢に大きい肉ミンチの塊は、十分しないうちに平らげられたのである。
これにはロイズも少し膨れた、しかしちょっと物足りない腹を撫でながら、ふうっと一息つく。
それを目にしたゼノが、ぴょこんとネコミミを立たせて席を立とうとする。
「ん?どうしたよ?」
「デザートでも取ってこようかなーって思ってさー?ほら、ロイズくん甘いもの食べたそ~な顔してるし!」
「あ!大丈夫だよ大丈夫!オレに行かせてくれって!な!」
「でも・・・」
疲れてるんでしょ?と言いたげな彼女の顔を見て、ロイズは彼女の手をとって席に座らせると親指をぴんと立て、自分に向けると言った。
「最近字が読めるようになったからよ!ちょっと自分でも注文してみたいんだよ!ここはオレの挑戦心に譲ると思ってさ」
「へー・・・えー?最近まで字が読めなかったの?意外ぃ~」
「オレの相棒のグールなんてまだ数字しか読めねーんだから上々だろ?待ってろよ、取ってくるから!」
そう言い席を離れ、カウンターへと赴くと彼はカウンターに腕をかけ寄りかかり、やってみたかったとばかりにいかにもな雰囲気を出すと寄ってきた給仕の女性に呼びかけ、注文を取るべくメニュー表をのぞきこんだ。
結果として、文字は確かに分かった彼であったが肝心の料理がどんなものなのか、という重要な部分が分からないではどうしようもないということを失念しており、結局後ろに人を並ばせながら給仕のお姉さんを質問攻めにした彼はブーイングを受けながらも、以前の世界における”パフェ”に最も近い料理を注文し受け取ったのである。
「ッなんだよ”パッフェ”って!ナマってるワケじゃねーって・・・にしてもこれウマそう・・・ちょっとくらい、そら」
両手に持った”リンガクリームパフェ”、自分用に買ったそれのうずまきソフト部分の先っぽをロイズは、役得にしてもいいだろう、との心意気でちょっとだけ舐めとる。
「う、うおー!あっめー!ガムとかキャンディとか霞む!オレの中の贅沢が更新されるッ!」
チョコレートらしきソースがかかったソフトクリームを舐めた瞬間、ロイズは舌先から宣戦布告なしの侵略活動を開始した甘みの電撃的攻撃につい唸ってしまい、先にゼノがしていたくらいの輝きで目を光らせる。
ウェイストランドには多種多様な味が戦前から残っているし、特に戦後自生したサボテン、ネバダ・アガウィから作るアガウィソースやバナナ・ユッカのような甘味には案外事欠かない。
だがそれを思い返してみても、今ロイズの舌を巡った甘さはそのどれとも違う、砂糖を大量に使ったそれが与える甘みに違いないのだ。この世界には砂糖を大量に生産する手段が既に確立されているのか、と思いを馳せながら、彼は両手にパッフェを持って歩く。
これほど美味いのなら、連れのゼノもさぞ喜ぶだろう。
半ば流れと自分の意志の弱さで連れ立つことになったこの付き合いだったが、それでもなんだかんだこれは新鮮で楽しく、相手の喜ぶ顔を見るのは飽きないものだと、”デートもどき”も悪くないなとロイズは思った。
そうして両手に持つパッフェを持ちながら、テーブルの合間をパワーアーマーで幅をとりがちな自分の身体がぶつからないように進むと、テラス席へ―――
―――そこで彼は、固まった。
戻ってきたテラス席、自分達が座っていた端の席は何があったか真横に寝かされて――― 倒されており、椅子も同じだった。
即ち、
「だーかぁーら!ここは俺ら”鉄壁テストード”のホームスペースだって言ってんだろ?何だお前新参かよ?だったら今度から覚えときな!亜人種”ごとき”が人間種様と同じスペースでご飯食べてちゃダメだってな!大人しくエサ籠にワラでも敷いて頬張ってなってな!あっはっはっはっ!」
「ダメだよ・・・ロイズが戻ってくるんだもん、あたしがここにいないと・・・」
「ロイズ?あの”白銀闘士”ロイズのことか?だーっはっはっ!闘技場No.1チームの男がなんでお前なんかとメシ食ってるってんだ!?ウソももっとマシにしとけっ!」
引き倒されている椅子、即ちゼノは地面へと尻もちをつかされ、テラスの端にある手すりへと追いやられている。男が足元の椅子を蹴り飛ばすと、それはゼノのすぐ横に転がった。
囲んでいるのは四人、彼らが”鉄壁テストード”の名乗っているに闘技場の――― 聞き覚えがあった、No.2のチームと互角に張り合っていた面子であろう、確か以前”ウグスト・ラゴン”という男一人に全員が敗北したとも聞いていた。
目の前の惨状が理解にしがたく、あまりに理不尽で、残酷だ。
それほどの実力の男達が、なぜ婦女子一人をいたぶっているのか、力があるのなら、武力があるのならそれに準じる誇りを抱くというものが戦士の常ではないのか――― 考えるほど連なる理不尽に、ふつふつと、ロイズの中に怒りが募る。
その怒りはやがて、転げ落ちた拍子にだろう、腕から小さく血を垂れ流しているゼノの姿を目に入れるのを契機に一気に膨らみ続け、やがて―――
「まあ俺らは紳士だ、何も命まで奪おうってんじゃなけりゃぁ~キズを付けようってんでもない、ちょっと怪我したけどそりゃ不可抗力だよな?・・・だから、ちょっと身体貸せや、ついてこいよ、少し頭冷やさせて―――」
「―――頭冷やすのはテメェーだろこのハゲ!」
刹那、真っ白いクリームが中に舞う。
完全に頭に血を上らせ、疲労に痛む身体も無視して闘いに挑んだロイズはその両手に持ったパッフェ、キンキンに冷え甘い匂いを醸すそれを、鉄壁テストードのリーダー格の男の両耳から思いっきり叩きつけていた。
「どっひぇ・・・うはぁーっ!?」
「そのまま耳ん中まで甘々になっちまえよこのデカハゲェ!」
パワーアーマーの力が許す限り、力いっぱい両側からパッフェの木皿を押し付ける。
そうしているうちに木皿が割れその尖った部分がリーダー格の男の肌を侵食していき、流血を伴うようになった頃、必死に三人がかりで引き剥がそうとしていたメンバーの努力虚しく外れなかったロイズの腕は、痛みに耐えかね後ろに振りかぶったリーダーの拳がロイズの顔を打ったことによってようやく外れた。
「っぶっ!?」
「って、って、ってんめェっ!?俺様を”鉄壁テストード”のリーダー、カッスル様と知ってのー!?」
「やかましいっ!だったらオレは”紅炎の黒刃”の”白銀闘士”ッ!スクライブ・ロイズだッ!女一人虐め抜いてる男四人がよくも抜け抜けと名前なんて名乗れるよなァ!」
メンバーの一人をタックルで弾き飛ばすと、ゼノをかばうように立ちはだかるロイズ。
縮まったゼノはその後姿を怯え顔、だが半分赤ら顔で見ており、血のわずかに流れる腕を押さえていた。
「白銀闘士・・・?ついさっき強化されたミスリルゴーレムをぶち壊したとかいう・・・?」
怪訝な顔をする鉄壁テストードのメンバーは、彼が名乗った二つ名からその男と目の前の男が合致するかを確認すべく、ロイズをじろじろと見る。
頭から血を流し興奮状態のスキンヘッド、大柄なカッスルを筆頭にロイズを確認するその目は、少しづつ驚きの目に染まっていった。
人間の口伝で伝わる物や人に関する情報というものは、得てして”だいたいあってる”なら合ってることと同義になってしまうものだ。それが機械的な照合技術の未熟な時代であれば尚更で、それらは得てして”特徴、パーツ、年齢”などといった目立つ要素を持って判断される。
だからこそ”鑑定師”や”情報屋”といった立場が重要なポストとして扱われるのだ。
つんつん頭に右頬の小さなキズ、目つきは悪めで童顔に、年は若い。
そして白銀の鎧、背中の円形の装置、肩の紋章、そして剣を持たない姿までが加われば完璧だ、スクライブ・ロイズを表す記号がひとつひとつ合致していき、その瞬間彼らにとって目の前のいけすかない青年は”白銀闘士”という唯一無二の存在を確定させる。
「お前、本物の・・・!」
「言ったろ、帰れよ、疲れてんだ・・・相手してるのがダルくてたまらねー」
殴った拍子にだろう、額の生え際を切ったらしくキズの程度に似合わず、流血しながら言うロイズの凄みはなかなかに、歳を感じさせないほどに凄まじくその姿に鉄壁テストードの面々も一歩後ずさる――― はずだったが。
「ッ!だったらどうしたってんだ!お前一人でどうにかなるとでも!?先に手ェ出したのはお前だぞ!?俺らがお前らを”うっかり”殺しちまっても!それは正当なる防衛で!俺らが牢獄にぶち込まれる謂われはねえ!なあ!?」
「お、おう!」
「そのとおりだ!」
唯一、そして最も頭に血が昇っていたのはカッスル、リーダー格の男。
スキンヘッドをクリームに濡らし、流血を両耳から流す戦士は一歩も引かないとばかりに刃先の突いた槍、ハルバードを抜く。
メンバーもリーダーの判断には従うとばかりに統率された装飾のハルバードを抜くとロイズを取り囲むのだ。ロイズはなまじゼノが後ろにいるものだから動けず、そしてフィストとヘルメットもティコ達に預けたままにしてある。
先手は打ったし挑発もしてしまったが、戦うとなれば急所の頭を通常より動きの劣るパワーアーマーでかばいながら、威力に欠ける素手同然のパワーアーマーのグローブで相手を殴り倒すというハード極まりない状況だ。
おまけに彼らは名前が指す通りなのだろう、大型の盾を持っており、殴る程度で引き剥がすこと叶わない代物であることは容易に判断できた、言うなれば絶体絶命なのだ。
回りで見ている者達にも戦士は闘士らしき面々はいるが、”鉄壁テストード”というネームバリューが効いているのか正義感が足を踏み出す、その邪魔をしているようで動かない。
それもとうとう一人がひと睨みしてやると怖気づき、後ろに下がってしまいロイズは完全に孤立したのである。
二本立て
次とセットでどうぞ。