ドーモ、とうとう50話、500,000字までたどり着きました。
思えば半年以上経ってるみたいで、一話平均もとうとう一万字超え、このままだといつ終わるのやら・・・。
毎度感想頂ける人はモチベの原動力になってます、かたじけない、感想って読んでもらえてる実感が一番沸くから、これが一番燃料になるって人はやっぱり多いんでしょうかね。
登録してお気に入り入れてる人もブラウザのブクマに入れてるだけの人も色々いると思うのですが、ご期待に添えられるよう今度も書いていきますので今後ともティコとロイズ、彼らの珍道中をヨロシクお願いします。
Fallout4の続報が耳に入るたびにモチベが右肩上がりやでぇ・・・。
最近筆が進むと二、三時間くらいで一話書けちゃうので連日投稿です。
”手榴弾”の歴史を紐解いていくとそれはとても古い、硫黄と石油、松脂を使っていた頃の焼却手榴弾まで遡り、以後もその有用性が示されてからは歩兵戦闘、城攻め、街攻め、あらゆる戦場において”手投げ弾”という概念が登場する。
以後も黒色火薬製の擲弾、ダイナマイトと手榴弾の歴史は人類の戦争の歴史と共に歩んでいき、やがて20世紀をまたぐころには本格的に”手榴弾”と呼ばれる存在が誕生した、いわゆる現代式の手榴弾そのものであった。
この契機を境に手榴弾、いや爆弾の歴史は多様な方面へ伸び、榴弾、焼夷弾、閃光弾、発煙弾と多種多様な兄弟を生み出すに至っている。
榴弾や焼夷榴弾は対人から対戦車まで幅広く、閃光弾も我らが治安を守る市警の面々が、犯人逮捕のホイッスルとして使うことは記憶と歴史に刻まれているだろう、そしてその兄弟たちは主に三つに大別される。
一つは”爆発手榴弾”、読んで字のごとく景気良く爆砕した破片と爆風が敵に甚大な被害を与える、兵士のポケットモンスターだ。古い時代の手榴弾はこれが多く、現に威力も最も殺傷に向く、故に彼は”長兄”といえるだろう。
二つは”ガス手榴弾”、強力な発煙筒とも言えるこの武器は、武器というよりも煙による目くらましや信号を送るために使われ、今日も不安に怯える兵士たちをサポートしてくれる、ただし使いすぎは良くないものを呼ぶから注意だ。
そして最後が”化学手榴弾”。
爆発手榴弾の火薬を全て化学物質に取っ替えたようなこの手榴弾は読んで字のごとく、化学物質を周囲に放出することが最大のウリである。
効果は内部の化学物質に左右されるものの、毒ガスから神経ガス、催涙ガスに至るまで多種多様な物質を多量に風下の広範囲に撒き散らせるこの手榴弾は、数を揃えればちょっとした絨毯爆撃を起こすことも可能な、様々な局面で頼りになる三男であった。
「クソッ!ヘルメット機能してるよなッ!?」
舞台の四隅に散らされ、一つは銃弾の直撃に破壊されてもなお 化学物質を勢い良くまき散らし続けるその化学手榴弾はやがて目に見えるほど濃い煙で舞台を包み、ロイズ、そしてフラティウ達を完全に手中に収めた。
ロイズはヘルメットのガスマスク機構によってフィルターごしに清浄な空気を取り入れ、催涙ガスの影響から逃れる。
だが逃れられたのは彼だけ――― この世界に催涙ガスの効果と、その対処法を知る人間がどれほどいただろうか、口を押さえてもどうしようもない、鼻、喉、そして目からすら侵入し神経に痛烈な刺激を与える化学物質は人間風情がどれほど足掻いても無駄であった。
「ッ、ごほっ・・・っぁ!なに、コレ・・・!涙が止まらなくって・・・ッ息もッ」
「う、うえぇ・・・っ!ダメだっ、まともに立ってられなんか・・・!」
涙と咳が止まらなくなったシェスカが、
嘔吐感に苛まれ、呼吸も満足に出来なくなったバラッドが、
次々に膝をつき、倒れていく。
ロイズはそんな彼らに必死に呼びかけながら、そしてはっと、残る一人――― この場で誰よりも強いと彼が思える大男、彼へ一抹の希望を向けて振り向いた。
「おっさん、あんたは・・・!」
「ッ、うあっ・・・!ロイズ、君は大丈夫・・・か、うごっほっ!おっ!」
振り向いた先、身の
目を回し、痛烈な痛みと嘔吐感、咳による呼吸不全で意識を飛ばしたシェスカとバラッドとは違い、フラティウはその中にあってもなお、気合と執念をもって意識を保ちロイズとの会話を成立させていた。
―――だが。
「よーっしお前ら!あの嬢ちゃんと茶髪は後だ!・・・色々持ってるとは思ってたが、まさかこの魔道具にも耐えられる装備をつけてたとはよ・・・ますますぶっ殺したくなってきたぜ、ロイズ」
「てめぇら、こいつが何だか分かってんのか!?すぐにでも・・・」
「すぐにでも?んな分かってる!けどよぉ!お前に刺された傷はまだクリーム臭いしフラティウの野郎にゃ支払っても払いきれないくらいの恨みつらみがあんのよぉ!お前らそいつの相手してろよ!俺は先にフラティウの野郎をいたぶって来るからよ!」
一歩後ろへ引いて、部下にロイズの前を任せたのはリーダーであるカッスルだった。
彼は部下に遮られできた横道を通って、意識を残せど動けないフラティウへと悠々と歩いて行く。
ロイズはそれを食い止めようと回り込もうとするが瞬間、先に回り込んだ大盾に阻まれ道を塞がれる。彼は右拳を握り、サタナイトフィストの一撃を大盾に叩き込むがそれも一転、さすがは盾を使って長年戦い続けてきただけはあるか、一撃目で仰け反った鉄壁テストードの部下は二撃目を受け流す姿勢に変えたのだ。
「ッくそっ!テメェら受けてないで闘いやがれっ!」
「だーれが!フラティウの野郎にゃ俺らも恨みがあんだ!お頭がフラティウを痛めつけるぶん俺らがお前を痛めつけてやるッ!」
途端、槍先が伸ばされる。
ハルバード状の槍先は三方向から伸び、避けた一つを除いて全てが刺し込まれるがそこはパワーアーマー、切っ先が鎧を打ち破ること叶わずずれていき、切り傷一つ無い。この防御力には聞いていた以上のものがあり、元々ファランクス陣形で闘う彼らは槍使いに自信があったためか、各員驚きを浮かべていた。
「モロに当たって傷ひとつないだぁ?お前インチキじゃねえのか!鎧脱げ!」
「じゃあそっちも盾外そうぜ、そうしたら脱いでやる、ほら、どうしたよっ」
「ぬかせぇっ!」
迫る槍先を受け流し、大盾に鋼の拳を叩き込む。
道が開けるまでの、ロイズの闘いが始まった。
―――意識が飛びそうになる。
涙が止まらず、鼻水も、痛みも止まらない。
咳は常に飛び出し、強烈な嘔吐感に幾度吐き戻したかも覚えていない。
仰向けに倒れた”彼”――― そんな彼を見下ろすように、何者かが立ち尽くした。
「・・・ごほっ!・・・お前は・・・」
「よう、いいザマだなフラティウの野郎」
”鉄壁テストード”のリーダー、カッスルだ。
彼の顔を見て、フラティウは悔やむ、まさかこんな手を彼らが持っていたのかと。
相手の動きを一瞬にして奪う毒物、その手の物を持ち込む輩は時折見られたが、大抵が相手と共倒れになり引き分けるのがせいぜいで、たまの素人同士の闘いにある風物詩だと彼も、時折起こるその奇っ怪な闘いを笑ってみていた。
だがどうだ、それを有効活用できればこれほどまでに強力なのだ、吐き気と涙、咳、これだけで相手をここまで無力化することが叶う。一体どこからこれだけのものを持ってきたのか――― 疑問は浮かんだが、それ以上に闘志が反抗する。
見下ろす相手は、自分を殺しに来た。
ならば受けて立とうと――― 動かない、身体が動かず、意識すらも奪われそうなのだ。
フラティウは心の底から自分を悔やみ、この状況に対処する術を用意していなかった自分の驕りを呪う。剣は既に握れず、立ち上がることすら叶わず。
だがこの闘技場では命は奪われない。ならば敗北への道筋が見えたのなら素直に諦めるのが筋であって礼儀でもあるのだ。だから彼は戦士として潔く、ゆっくりと目を閉じようと―――
「ぶふぁぁっ!?」
「こんの野郎がッ!よくもいつもいつも!」
食らったのは、一撃、だが鈍い衝撃。
蹴り飛ばされたのだ。
仰向けで横っ腹を蹴り飛ばされ、死に直結しない痛みだけを味わう、この突然の事態にフラティウは涙濡れの目をカッスルに向け、なぜ、と疑問に満ちた視線を向けた。
「あの大男が泣いてるっつーのは・・・ああ、いい気分だなァ!フラティウ!お前が来なけりゃ俺らは闘技場のNo.1とNo.2、そのどっちかでいられたんだよッ!お前さえ来なけりゃ!」
「うぐあぁ!」
今度は踏みつけられ、もう内容物の無くなった胃から申し訳程度の胃液が搾り出される。
その様に愉悦の笑みを抱きながら、カッスルは更に踏みつけた。
「ハッハッハ・・・いいざまだっ!楽しかったかフラティウ!黒一色の寡黙な剣士なんぞ気取ってよぉ!舞台に立てば一騎当千、私生活では礼儀を重んじる紳士!茶髪の優男の奴なんて役立たずも連れて!ナメてんのか?」
「彼は・・・バラッドは決して役立たずなどでは・・・!」
「そういうところが嫌いなんだよぉ!楽しかったか!?俺らから離れてた連中に付き従われるのは!俺らから離れてった女どもにキャーキャー持て囃されるのは!紙吹雪は俺らより多い!声援はほとんどお前らに向いてる!なあ、なあ!」
「うぐあぁぁぁ!!」
カッスルは手に持った槍を一思いに、フラティウの手に突き立てる。
生物的な手甲はこう見えて、物理攻撃に弱いのだ、壊れこそしないもののフラティウの手はしっかりと槍が突き立っており、舞台上には血が流れる。
カッスルはその後ももう片手、足先、鎧の隙間をことごとく切り刻んでいく。
その様にはさしもの観客達も怯えや怒りの視線を隠せなくなり、それを見たロイズが救出に向かおうとするが、そのたびに止められ彼は大盾を殴り飛ばそうと躍起になった。
それが仇となったのか、怒りの勢いに任せ一切の手加減抜きに大盾を殴り飛ばし続けるロイズの進軍が、嫌でもカッスルにも目につく。その様を見たカッスルは舌打ちをすると、フラティウの首筋に槍先を突きつけた。
「ッ、あの野郎思ったよりあいつら押してやがる・・・クソッ、もっと楽しもうと思ってたがよ、先にお前を仕留めなきゃならねえみてぇだ」
「カッ・・・スル!」
「泣こうが喚こうがお前が今負け犬なことに変わりゃしねぇ、待ってろよ・・・あの茶髪の優男もお嬢ちゃんも同じようにしてから殺してやる・・・ブザマに切り刻まれたお嬢ちゃんが、またここに立てるかな?ははっ」
「貴様・・・!」
鎧というものは実に不便な弱点があり、必ず”隙間”があるものだ。
その隙間だけを器用に切り刻まれ、突かれ、絶妙に痛みだけを加えられる彼は全身から血を流し、その勢いは池を作らんとしていた。
それでもフラティウは青くなっていく顔のままカッスルを睨み、その槍先が自分へと振り下ろされる直前、周囲を思い出したかのように見回すのだ。
右を見ればバラッドとシェスカが倒れている。
今は何もされていない彼らだが、カッスルが自分を殺せば次の矛先が向くだろう、彼らにこの拷問を耐えられるほどの忍耐力を期待することは酷だ、自分の力が及ばなかったことを呪いながら、彼は目をつむろうとして――― そしてもう一度、開いた。
まだはっと、思い出したように。
「この、煙・・・ああ、ああ・・・!」
視界を横切った催涙ガスの煙、その行く先に彼は一抹の希望を見出す。
少し顔を上げて、もはや無防備に首筋を晒す格好になったことにカッスルは彼がとうとう諦めたのだと察するが、それは違う。彼の目線は後ろ――― 観客席であった。
「ごっほ!っほっ!・・・うげぇっ」
「なんでこっちにまで・・・司会止めてくれっ!」
「逃げろ、逃げ・・・動けないっ・・・!」
見れば、観客席は阿鼻叫喚、あの”痛い煙”がそこまで届いたのだろうと理解する。
闘技場には、”乱入”に関する規定があった。
それはその場合無効試合にするといったものだが、例外として乱入者の身元確認の結果出場者と何らかの交友関係、親族関係があった場合、その方の敗北とするといったものであった。
この規定には更に項目があり、”出場者”の客席への乱入があった。
それは昔、怒り狂った出場者が自分を煽った客を斬り伏せたということに起因しており、それによると客席への乱入は最低でも謹慎、最悪の場合除名や処刑も辞さないといったもので―――。
―――その場合、その瞬間に”無効試合”となる。
既にこの試合は無効試合だった、そう心で理解したフラティウは叫ぶ。
”彼”はきっと、今地団駄を踏んでいる。
自らの相棒が窮地に立たされ、その仲間達が非道な扱いを受けていることにだ。
だが乱入してしまえばそれは無効試合であり――― 友人関係を否定しても、ああ見えて善人である彼の相棒がその関係を無きものとして扱うことを許しはしないだろう、たとえ血の滲むような苦労をふいにしてでも、彼とのつながりを大事にするだろう。
だから彼は”動けなかった”のだ。
だから彼に”動ける”と教えるために――― 頼めばいい。
フラティウはそれを脳裏に走らせ、自信の無力を呪いながらも”彼”に思いを託せることを、信じ愛した仲間たちを守ることを頼めることを安堵する。彼らと同じ”魔道具の兜”を被っている彼ならば、きっとこの煙の中動けると。
最後の力を振り絞って叫ぶのだ、彼の、”名”を。
「頼むっ・・・!」
血液が足りなく、力が入らない。
だが執念はそれに勝り、彼の”魂”からの声を絞り出す。
その名は―――
「―――ティコッ!」
刹那、槍先が首筋に食い込みはじけ飛ぶ、黒き剣士の首が転がった後――― 消えた。
マナの光になったフラティウ・ドムアウレアはしばらく中空を青白い粒子となってそして再び顕現すると、それを背に槍を携えたカッスルが一人闘う白銀闘士を仕留めんと、懐かしむような、恋焦がれるような笑い顔で歩む。
今の自分達に敵は居ない、警備兵や観戦中の参加者たちですらこの煙の中を動くことは叶わない、レフェリーはダウンしているから好き放題できる。実にいい気分で、今まさに自分が舞台に立つ主役にすら思えてくる。
ゆっくりと、どうやって”最後の反逆者”をいたぶるかを考えるのだ。
愉悦に濡れた笑みはかえって爽快さすら感じさせる、が。
だがその途端、背後に気配を感じた彼は振り返る。
威圧、憤怒、正義感――― あらゆる感情が混ざった空気だった。
「・・・なるほどなあ、そういうことなら俺はもっと早めに
「―――ッ、いつの間に・・・テメェは・・・?」
「お前に答える名は云々、っていうのがあるらしいが性には合わん、覚えとけ・・・そうだな、”英雄の同胞”、”グールのヒーロー”、はたまた”レンジャーの生き字引”・・・色々あって悩ましいのはいいことだ、小さいとどうしようもないが、大きけりゃ食べ放題だしな。まあ、全部だったか・・・俺は―――」
舞台にいつの間にかに、誰の目にも留まること無く出現した黒衣の男。
黒い兜、赤い目、胸甲の外側に外套、トレンチコートを纏った”レンジャー”。
彼は腰から一丁のリボルバーピストルを引き抜くと、その銃口を大盾の男に向ける。
「ティコ、レンジャー・ティコだよ。さあ小さな革命のキックスタートだ、俺と相棒が組みゃ千人力だぜ、覚悟くらいはしときな」
銃は剣よりも強い、なぜなら距離を問題としないから。
撃鉄を上げ、ピストルの引き金を引いた瞬間銃口から炎が弾けると共にその針路上、カッスルの持っていた槍の手元に火花が散ってはじけ飛ぶ。そのあまりの衝撃にカッスルは、じーんと震えて仕方のない手をぶんぶんと振って元の感覚を取り戻すと、ティコへ警戒の目を向けた。
警戒の半分はこの男から感じる風格を、半分はたった今感じた未知の衝撃に対してを、即ち、
「こいつ俺の知らない魔道具を・・・!?」
実際当たっていると言って差支えはないだろう、例え知ったとしていても、ピストルの機構を理解することなど彼には出来なかったかもしれない。途端大盾を構えたカッスルを前にして、ティコは撃鉄を起こすともう一度、引き金を引いて目の前の大盾に発砲する。
発射された弾丸は刹那の時間に着弾し、大盾の表面の鋼を砕くと次の鉄の層に割って入り、先端をその奥の木質の層に食い込ませてようやく止まる。
ティコとしては貫通しなかったことは驚くほかなく、その盾の思った以上の硬度にほおっと感心するほかなかったが、当のカッスル本人はというと途端に訪れた衝撃に手元が狂う。そしてティコの”遠距離攻撃”の性質の一端を理解した彼は全身を盾に隠していた自分の判断に感謝すると共に、その威力に冷や汗を流した。
「一体何が何だってんだ!?俺の大盾をここまで捲る奴なんざ!」
「確かに硬いっちゃ硬いなそいつぁ・・・このままじゃラチが明かなさそうだ、ときたらっ」
軽快に、しかしその裏に凄みを滲ませる声色のティコはピストルをホルスターにしまうと腰の後ろの鞘からククリナイフを引き抜くと構え、駆ける。
黒衣の男、自分の切り札の魔道具が効かず、それ以上に謎の多い魔道具を持ち得る男が突然に斬り込んできたことに一瞬反応が遅れたがそこは流石に闘技場No.3の栄誉を得るだけのことはある男、カッスル。
大盾を使ってククリナイフの一撃が差し込めないように身を守ると、自身もダガーを引き抜き応戦するのだ。得意の武器ではないサイドアームではあったが、この際贅沢は言ってられなかった。
「やるなぁ若ハゲ!」
「もう40超えてらぁ!今更ハゲが気になるかよっ!」
「40ゥ?若い若い!」
いつもの冗談交じりに刃を交わし、差し込んでは受け流し差し込んでは受け流しの応酬。
だが少しずつ差が生まれてくる。
それはひとえにヘルメット、ガスマスクの性能差であろうか、吸気口の小さいらしいカッスル達のガスマスクでは息が上がるのが早いようで、ひとえに酸素不足からカッスルの集中力も少しづつ散漫になっていく。
「これでトドメにするかぁ!?」
「できるかッ!」
その変化を察したティコが、とたんに攻勢を強め、やがて大ぶりの一撃を加えようと上段に位置、カッスルもそれを受けようと盾をやや上向きに構え―――
「・・・は?」
―――飛んできた”ククリナイフだけ”を弾いて落とした。
「―――ッ!」
「どうも、ハロー!」
刹那、カッスルの目線は、目線だけは下に落ちる。
そこにはティコがしゃがみこみ、盾の下端を持ち身体をねじ込ませるように割り込んでいた。
ロイズがVRシュミレーターでひたすらに訓練を積み続けた”仮想世界のプロフェッショナル”ならば、彼は”現実のベテラン”だ。実戦に裏打ちされたひょうきんで突拍子もない、相手の意表を突く手段に関してはこと、彼の右に出る者はそうそういなかった。
「こいつッ!」
「死んじまえ!死なんだろうがよ!」
カッスルが反応し、すかさずダガーを差し込もうとするその僅かな時間。
既にレンジャー・セコイアを構えていたティコはその照準をカッスルの左胸へと振り、一思いに引き金を引く。
45口径、ライフル弾を使用する拳銃から放たれる衝撃は絶大で、着弾と同時に巨体が大きく仰け反って倒れていき自らの大盾に押し倒されたその瞬間、ティコは会釈とウィンクを倒れた彼に向け、五発の弾丸を手早く銃に込めその身体を後にした。
―――近寄られては殴り飛ばし、斬り込まれては槍先を殴り抜き。
ロイズの戦いは互いの決定打が欠けることも手伝って、傍から見ればせわしなく互いが動き続けているのにも関わらずなんとも、トドメの一撃というものに欠け両者疲労を溜めていくだけであった。
だがその蓄積に差は存在する。ロイズのパワーアーマー、T-51b型のヘルメットは並みのガスマスクと比べるべくでもないほどの高性能を誇り、放射性物質ですら余裕で遮断するそのフィルターは通常の吸気も何ら問題ないほどに滑らか、ロイズに必要な酸素をきちんと取り込んでくれていた。
「もらったあぁっ!」
「こいつぅっ!?」
隙を見て大盾をずらす一撃を叩き込み、空いた横合いから必殺の一撃を叩き込もうと前進する。パワーアーマーの膂力は人間のそれを遥かに上回るものだから、押し合いになれば負けるのは鉄壁の方だ。
だがいつも、そのタイミングで彼らの実に見事な連携が披露されそのたびに、横合いから飛び出した別の大盾が一撃を防ぐのだ。
サタナイトフィストは通常のフィストと比べ高速だが、それでもこうも見事な連携を取られては付け入る隙を伺う。おまけにロイズは自分の身体に疲労が溜まって、というよりはぶり返してきたことを肌で感じる。
一週間も前の疲労が今になってなお、彼の身体から抜けきっていないのだ。この筋肉の微妙な”ずれ”は、当時の戦いがいかに凄まじいものであったか彼に再確認させた。
「カーライル、すまねえっ!」
「いいってことよアポン!」
共に感謝を忘れず、再びファランクス陣形を取るとじわじわと、確実に槍を差し込めるタイミングを待つかのように大盾の後ろからにじり寄ってくる彼らは”鉄壁”と言う名に違わず堅牢であったが、これはその攻撃がまるで通らないロイズからすればたまったものではない。
槍などパワーアーマーに通らないのだからとっとと盾を捨て、総攻撃の姿勢にでもなれと、とっとこっちに一発殴らせろとイライラは募るばかりであった。
「なまじ堅いからフィストは通らねーし、あっちの槍なんざかすり傷にもならねーし・・・ああっ!」
また刺し込まれた槍先を受け止め、大盾を思いっきり殴りつける。
サタナイトフィストのフィスト機構が大盾をへこませるが、大盾の材質の問題なのか決定的なダメージは盾にも与えられずにいて、その硬さにぷっつんと、ロイズはとうとう吹っ切れると防御も回避も忘れてひたすらに大盾を殴り続けた。
「こっ、こいつヤケになりやがった!?」
「斬れ!刺せ!追い返せっ!」
ひたすらに大盾を殴りつけ、右から左から何が何でも隙を突いて殴りつけてやろうとするロイズ。だが彼らの見事な連携を切り崩すには力及ばず大盾の体当たりでバランスを崩されると押し返される。
T-45d型などとは違いT-51b型は主に特殊樹脂の素材が使われているために軽く、慣性に従って、力を込めていない方向に押されたりすると案外バランスを崩しやすいのだ、反面動きやすいのは悩ましいとは言えるだろう。
一人の大盾は見るも無残に穴だらけになっていたが、それでも壊れず主人を守り続けているその防御力は、それが確かに闘技場No.3に相応しい業物であることをロイズに感じさせる。だがそれがどうしたと、ロイズは息を吐く。
「くっそぉ・・・キリがねぇ・・・!」
額に流れる汗を拭おうとした腕がヘルメットに弾かれたのにバツを悪くしながら、ロイズは現状が一進一退、それよりも悪い進退窮まる状況であることに歯を食いしばりながら相対する三人と再び睨み合う。
互いに一歩も譲らず、かつ一歩も踏み込めない。
疲労だけが溜まっていく、その時だった。
「相棒!横に跳べ!」
「あ?はぁっ!?」
唐突に投げかけられた声、だが状況の変遷に恵まれずそれが天啓にも聞こえたロイズはとっさに投げられた言葉通りに横っ飛びをし、重量による慣性が地面をしばらく擦った後止まる。
―――その瞬間、ロイズと入れ違いになるように無数の弾丸が横切る。
「おわわわっ!なんだぁ!?」
「たっ、盾がイカれるッ!しっかり握ってろ!」
鉄壁テストードの面々は突然に、しかし凄まじい勢いで殺到した衝撃の嵐に大盾を地面に突き立て必死に耐える。
衝撃の嵐が一発、二発、二十発、横薙ぎに投射され腕をしびれさせながらも、なんとか衝撃を受け止めきった彼らのうち一人がひょっこりと、大盾から顔を出して前を見る。途端、その頭にまた、無数の弾丸が殺到した。
「へばっ」
「カーライル!?何だありゃあ!?また知らない魔道具か!」
また大盾に隠れた面々、一人が頭頂部を弾けさせ光の粒子へと変わり、また意識を失った状態で舞台端に顕現したそのタイミング、ロイズは飛びのいた自分の背後から急襲した弾丸の嵐――― その出所へと目を向け、ヘルメットの中で笑んだ。
「遅せぇよ、グールッ!」
「悪い悪い、年を食うと判断力が鈍ってな・・・一人減らしたのはツケの払いにしといてくれや」
見据えた先、黒衣の”レンジャー”。
彼はその手に5mmの旧式アサルトライフル、以前の戦闘でもその威力を発揮したAK-112を胸に構え、目線を送ったロイズに向かって手をひらひらと振りまた、冗談交じりの答えを送った後引き金をタタン、と数発分引く。
発射された弾丸は大盾の下部に食い込み、その衝撃で構えをわずかにずらした後先に撃ち込まれた他の弾丸と同じように止まり、熱による小さな煙を立ち上らせるのみとなった。
「5mmじゃあこれがイイトコか、5.56mm・・・いや、出し惜しみせんでもっとデカいの持ってくりゃあ良かったか?」
「足りない分はオレがカバーしてやるッ!巻き込んでいいから援護しろよグール!」
「血気盛んだねえ!コンビネーションって奴なら得意だぜ相棒!」
形成は2on2、状況は傾いた。
ガンガンと、拳を打ち鳴らして一転攻勢の時は訪れたとばかりに口角を釣り上げ笑むロイズの表情はとてもいい、最高の後ろ盾を得た彼は、口ではどうといえど”相棒”のことをここまででよく知った彼は姿勢を低くしダッシュする。
そしてその身体をティコのAK-112の射線上から垂直――― いわばL字を描く方向に移動させると、混乱した”鉄壁”の面子の片方はロイズへ向けて大盾を構えるのだ、だがその隙を見逃すほどレンジャーは甘くない、向けられた銃口は再び砲火を噴く。
「あ”っ、ああ”っああ!!」
「遮蔽物は射撃戦の基本だっ、自分から外してくれるとはありがたいなっ!」
5mm弾の応酬は横合いから無数の孔をその身体に穿ち、ついには頭部にまで弾丸が食い込んだ瞬間、魔導の舞台は人間の”死”を認識しまた光の粒子に変える。
そしてとうとう一人になった大盾の男、名前はアポンと言ったが名乗らず、知らせずな彼の名など二人は知らない。彼は一瞬のうちに仲間が血塗れにされたことに恐怖すると、その大盾をティコに向けやけになったかと、一直線にティコへ殺到するのだ。
―――だが。
「死にくされっ!」
「―――そっちがだよっ!」
「・・・お前・・・!」
その突進よりも、駆け出したロイズは疾い。
V.A.T.Sを起動し高速化した彼の足は彼がティコに斬りかかるよりもずっと速く、防御もままならない彼の横っ腹に必殺の拳をねじ込ませた。
「ぶっふぁ・・・!」
「まだまだぁッ!」
”高速化”の効果は足だけにあるまい、さんざんに仲間たちを嬲り、あまつさえ歓声を送り慕ってくれる観客の皆々にすら彼らは手を出した、その事実がロイズの拳に怒りと、力を与える。彼はぐっと両腕を握ると一気に叩き込んだ。
新旧パワーフィスト、左手の強化型パワーフィストと右手のサタナイトフィストによる連打は互いに間髪入れずに殺到し、全身の痛覚という痛覚、骨という骨を砕きにかかる。
まさしく無限の時間だ、”鉄壁”が無数の攻城槌に打ち鳴らされ歪んでいき、やがて決壊する。その様を身体で感じるにはあまりにも、危機を感じた精神が加速しすぎ時間を引き延ばしているかのような感覚に陥るのだ。
見えないはずなのに、その睨む目がアイスリットの内側に見えた気がして―――
”鉄壁テストード”の最後の一人は力尽きた。
全てが終わり、辺りを包むのは再び喧騒だ。
催涙ガスは風下の観客席を覆い、その結果多くの人々が咳と涙に襲われ、その対処に職員たちも追われていた。だが、その原因たる催涙ガスがすっかり晴れていることに安堵したロイズはとりあえず、倒れた仲間たちに駆け寄ろうとした。
ティコもそれを後ろから見送りながらAK-112のマガジン残量を確認し、その消費が思った以上に多かったことに悪態をついた後、これはもう必要ないかと背中にしまおうとして。
そして瞬間、戻そうとした手がまた構えに戻る。
だが構えが間に合わないと悟ったティコは叫ぶのだ、音なら手を出すより速いと、目の前の相棒の背中に。
「相棒ォ!受け止めろォ!」
「―――!!」
言葉は返ってこないが、それでも十分だった。
背中から投げかけられた声に反応し、ロイズは後ろを振り向くと腕を交差させる。
刹那、彼の腕に衝撃が感じられ、それは状況が今なお、終わるには遅いと察するに十分だった。
感じた衝撃を装甲が殺していくのをまた感じながら、ロイズは目の前、衝撃の主を睨む。彼の狙いは恐らくロイズというよりは、彼の足元で倒れていたシェスカだったのだろう、目線をそちらに向けていた”敵”は、ロイズがハルバードを受け止めたことを残念そうにし唇を噛む。
「まった・・・邪魔しやがる!」
「いい加減寝てろよお前ッ!」
ロイズはハルバードの穂先を横合いに殴りつけずらすと空いた土手っ腹に――― 確かにティコに胸を撃たれ倒れたはずのカッスルのど真ん中に、掌底を叩き込み距離を離した。
「効かねぇなぁ!」
「だったら寝てりゃもっと痛めつけられないで済んだのになっ!」
「へぇっ!自信満々なのは褒めてやるよ白銀闘士!だがこうなったらそいつらだけでも道連れにしてやら――― 舞台外に出てから死にゃ、蘇りゃしないんだぜ・・・?」
「てっめぇっ!!」
まるでその一撃が効いていない、実際に効いていないのだろう。
紋様の描かれた魔道具の全身鎧はティコの銃弾による衝撃でわずかなへこみをせど、致命的な損傷は何一つ無かった。ティコもその様に驚き、いつものクセでこめかみを掻く。ロイズはカッスルの言葉に怒りを隠せず、足元のシェスカをかばうように立ちはだかる。
「っあぁ・・・メタルアーマーもぶち抜く銃でどうにかならんとは思わんだ、穴空いたくらいの確認だけはしときゃ良かったか」
レンジャー・セコイアに弾を込めながら、ならばもう一度撃ちこんでやるとばかりに銃口を向けるティコ。だがカッスルはそれにはもう臆さないと、もはや暴走していると言っていい眼の色で、彼らに指さし言った。
「てめぇらもだ・・・!この鎧をんなチャチなモンで抜けると思うんじゃねぇ・・・!特に”黒兜”!さっきはよくもやってくれな・・・っ!その倒れてる嬢ちゃん達を殺したらお前も引きずり落として首を落としてやる!」
興奮も極限にまで達すると、実際に目が血走るのか、とティコは思う。
それほどまでにカッスルの吐息も、震えも、眼光も荒く、ロイズはそれに闘志を、ティコは正義感を燃やされた。
―――この男を仕留めなければ、今はなんだってやるだろう。
例え縛り首になろうが首を落とされようが、牢の中で障害を終えようがこの男はもう周りが見えない、追い詰められ、興奮した指名手配犯はなんだってやるのだと二人は共通認識し、相対する。カッスルはもう得意の大盾すら握ってはいない、ハルバードを両手で握り、一目散に駆けるのだ。
最初に動くのはロイズ。
「死に――― っはぁっ!?」
「うらっ!」
槍先を殴り飛ばし、手元を蹴りつけてハルバードを落としたロイズ、洗練された技を捨て力押しになった相手などもはや、彼の前には敵ではないのだ。だがカッスルも諦めはしない、残った素手ですら、ロイズにつかみかかろうとして―――
「スクライブなめんなよぉっ!?」
その手を右手で彼は受け止めると、身体を滑り込ませ左手でボディブロー。
パワーフィストのプレスが土手っ腹を強く打ち、カッスルの身体に確かなダメージを与える。
『スクライブ・カウンター』と呼ばれる、彼が”パンチの師匠”から教わった一連の技の流れだ、流れるようなカウンターパンチを叩きこまれ姿勢の崩れたカッスルの鎧に向けて、ロイズは更に連続でジャブを叩き込む。
「うらららら!!」
細かなジャブとは言ってもそこはパワーフィストとサタナイトフィストによる打撃であり、通常のパンチなどとは比べ物になるまい、連続の機械拳をまともに受け右へ左へと揺らされたカッスルの身体は右ストレートの二重の衝撃を打ち込まれると大きく飛び、舞台端にまで到達するのだ。
それでも彼はまだ起き上がろうとする、ゆっくりと、傷んだ身体を執念で動かすように。
ロイズはそれを見届けると、ティコの左隣に回る。
そして右手を彼に向かって突き出すと、ぼそりと一言、二言だけ、彼に頼み事をした。
「なあグール、今だけ”相棒”って呼んでいいかよ?・・・後で忘れろ」
「構わんさ、だが死ぬまで忘れやしないぜ」
「ちぇっ・・・まあいいや、相棒っ、あいつよ」
互いに目線はカッスルへ向け、その血走った視線と交わす。
ロイズはそれに何とも言えない嫌悪感を感じるとまたティコと話を続けた。
「ここで殺らなきゃ絶対後で殺しに来るぜ・・・あいつの後ろには何かロクでもねーのがいるよ」
「同感だ、相棒。そこでここで虎の子、”俺らの流儀”ってやつだろ?覚えてるか相棒?」
指先でピストルを作り、しかしまだ撃たない。
だがロイズは同じようにピストルを作ると、それをカッスルに向けた。
「わーってら・・・俺らの流儀―――」
にっと笑い、ぐぐっと指先に力を込める。
そして指先の銃口を向けると、ぴんっ、と反動で上に逸れるのだ。
「―――悪い奴はぶん殴れだろっ!」
「ご名答だ相棒!判断は任せる!」
「じゃあ火ィ貸せ相棒!その間頼むっ!」
任された、と懐からライターを取り出すと、彼はロイズの差し出したサタナイトフィストを火で炙るのだ。
小さくても火は火、熱を蓄え放出しない性質を持つサタナイトフィストを赤熱化させるのにはそれでも、時間はかかれど十分、その時間を稼ぐためにティコは再び背中からAK-112を抜くと安全装置を外し直し、また走り寄って来るカッスルに向けた。
「そう焦んな若ハゲ、ターキーが焼きあがるまでにゃ時間がもうちっといるんだ・・・おすわり」
刹那、無数の銃弾はカッスルへ向けて襲来する。
5mmの小さい弾丸はしかし、鎧を貫くことはない。
ただ無慈悲に無数に、鎧の表面を打ち据え続けるのだ。
やがてカッスルの膝が笑うようになったのを見届けると、タタン、タタン、と散発的な襲撃をかけ少しづつ距離を稼ぐ。そうしていると弾も切れてしまい、AK-112は手ぶらのロイズに渡される。
そしてティコはレンジャー・セコイアをホルスターから抜くと、また顔を上げ近寄るカッスルに向け照門と照星と、そこから除く射線が彼の胸元を指すようにして、撃鉄を上げた。
「さあ、リベンジだ。全弾五発だから・・・三発耐えたらお前の勝ちかもな」
「ぬかせ・・・!」
答えは聞かぬとばかりに、ティコは引き金を引き続ける。
45-70ガバメント、ライフルカートリッジの衝撃はカッスルの胸を打ち据えて、二発、三発、四発――― カッスルの口元から血が滲むのと同時に、鎧にヒビが入り、そして。
「負けだ負けだ、四発耐えられちゃ俺の負けさ・・・だから」
シリンダーをくるくると回して最後の弾丸に合わせ、撃鉄を起こす。
彼はそのまま照準を胸の中央、大きく開けた鎧のヒビへと滑らせ―――
「だから後は、相棒に任せるか、相棒!」
「いつでも準備できてらっ!」
景気のいい返事を合図とし、五発目の弾丸が飛翔し胸を打つ。
とたん、大きく開いていた鎧のヒビに伝播した衝撃はついにその剛性を上回るのだ。
鎧の胸元が砕け散り、カッスルのアンダーが露わになる。
それでもなお立ち、もはや思考すら働いていないとばかりに血走った目で迫るカッスルを前にして、”右手を真っ赤にした”ロイズは燃える正義の拳をぐっと握りしめると、脳裏に切り札を走らせるのだ。
―――V.A.T.S。
あらゆるものがスローモーションに見える状況下、高速化し、Pip-boyの電算処理によって狙う場所へのルートが容易に見て取れる状況。既に動きの緩やかなカッスルには過剰だったかもしれない、だがそれでもこれを使用したロイズの目的は別だ。
加速した勢いのままに、まず彼が振りかぶったのは”左拳”。
パワーフィストを土手っ腹に叩きこむと、カッスルはプレスに押された勢いのまま”舞台外”へとはじけ飛ぶ。
だが、
「逃すかってぇっ!」
V.A.T.Sに導かれた勢いのまま、ロイズはマーカーが緑色に照準を光らせるその胸元へと一直線、遮るものは何もなく、抵抗すら無い表示される命中率――― 概算されたそれは”確実”を示す”95%”を指す。心のままに走り、跳んだロイズは飛ばされるカッスルへ追いつくと、その胸元―――
大きく開いた鎧の傷に向けて、”右拳”を叩き込んだ。
「燃えろよッ!」
「うおっ・・・ああああっ!!」
今まで絞りだすのを忘れていたとばかりの絶叫、右拳のサタナイトフィスト、熱されたことにより赤熱化し、サタナイトフィスト・スーパーヒートとなったフィストの一撃が鎧の隙間から内部に侵入し、爆炎がカッスルの肉体を焦がす。
舞台内とは違う、確かな死を与える領域での一撃。
肉が焼け焦げ、打ち込んだ拳が心臓を押しつぶす。
爆炎が立ち上り、そして消えるまでの少しの時間、熱波に耐えひたすらに拳を当て続けたロイズの目の前に残るのは黒焦げの”
確実な絶命と、勝利、舞台外に着地したロイズはふうっと息を吐く。
途端、歓声が響き、ロイズは周囲を見回した。
これだけされてもまだ、彼らは逃げ出さないのだろうか、少しばかり引き気味になるロイズとティコを差し置いて、闘技場の観客はなお盛り上がり歓声を、紙吹雪を散らすのだ。享楽としてはやや歪なんじゃないか、とささやかにティコは思ったが、感情の波に掻き払われた。
ティコと、そしてロイズに投げかけられる歓声は自分の仇討ちを成し遂げてくれたとばかりのもので、喜色が強い。だが耳をすませばその中にわずかに嘆きの声が含まれていることを感じると、あれでもなんだかんだ、今まで人を楽しませてきた男なのだと思いロイズは拳を見つめる。
それはなんとも言えない、ひとえに彼らがその裏に居た”何者か”に狂わされたと推測できるからこそ、心の底から喜べないロイズは舞台にまで戻ってティコと目を合わせる。
その目を見て、”わかってるさ”とばかりにまた手をひらひらとするティコに少しだけ安堵の心を覚えるとロイズは今は、いつもの調子に戻ろうと深くため息をついた。
「・・・勘違いされる前に言っとくと、相棒ってああいうの一度、やってみたかったんだよ」
「お前さんがいいならいつだっていいんだぜ?実を言うとちょっと嬉しかった」
「ばーっろ、もうやらねーっ」
ぷいと腕を組みそっぽを向くロイズに、肩を組もうと迫るティコ。
そうしていると蘇生した後倒れていたフラティウも起き上がり、周囲を見つめると倒れたまま無傷の仲間達を見つけ、状況を理解すると表情を感涙させロイズ達に目を向ける。
ロイズはぐっと拳を握り笑顔で、ティコもサムズアップを送った。
やがて治療術師、警備兵、死体処理――― 場を収めるための人々がわらわらと集まってきたことに今度こそ戦いの終わりとそして、また一つこの街の謎に迫ったような気がしながら、二人はそっと、舞台から去っていく。
今はとりあえず、任せようと。
この街の謎を暴くにはまだ足りないものが多いのだと感じながら、焦げ臭さと血の匂いがまだ残る闘技場の喧騒と、それでも去る彼らを見逃さない歓声に、手を振り答える彼らはたまに足を止めながら消えていく。
やがて足音は、無数の音にかき消されていった。